個人株主の増加に取り組んでいる上場会社は少なくない。個人株主の増加は買収防衛策として有効であるほか、BtoC(一般消費者向けのビジネス)を展開する上場会社では、「個人株主=消費者」ととらえ、会社のファンを増やしたいというマーケティング的な狙いもある。具体的には、単元株のくくり直し(1,000株から100株へ)、株式分割による株価の引下げ(個人株主が手を出しやすい価格への誘導)、株主優待制度の導入、株主総会の土日開催による個人株主の出席率の向上のほか、食品関連の会社では試食会を開催するケースも見られる。
なかでも「株主優待制度」は個人株主からは“実質的な配当”として評価され、マネー雑誌でもしばしば特集されている。株主優待には、その会社が取り扱っている商品、サービスの利用券、食事券、入場券など様々なものがあるが、優待利回りの高い株主優待を実施している会社として有名なのが焼肉チェーンの株式会社安楽亭(東証二部)だ。
同社では毎年3月31日及び9月30日現在の株主名簿および実質株主名簿に記載された株主のうち、「1,000株以上」所有者には13,000円相当の株主優待券1冊(500円券×26枚)、「2,000株以上」所有者には26,000円相当の株主優待券(13,000円相当の株主優待券2冊)を付与している(それ以上の株数を有していても26,000円相当が上限。このほか割引券も付与される)。同社の株価は直近の株主の権利確定日である2014年3月31日現在390円であり、最低投資単位が1,000株であることを考えると、39万円の投資で半年に1回、13,000円相当の株主優待券をもらえることになる。
ただし、同社では2013年7月1日から株主優待券の利用方法を変更している。従来は「株主優待券のご利用につきましては、特に制限はなく、現金との併用も可能です。ただし、株主優待券のみのご利用の場合における釣り銭の支払い及び現金との引換えはできません。 」とされており、株主優待券だけで食事が可能だった。それが、2013年7月1日以降は、「割引等計算後 1,000円以上の会計につき、1,000円ごとに株主優待券500円分を1枚利用可(上限なし)」に変更されている。これは、株主優待券だけでの食事ができなくなり、半分以上の現金支出が必要となることを意味する。株主にとってみれば“改悪”と言われてもいたしかたない変更だろう。
高優遇の株主優待制度を採用している会社として個人株主の知名度が高い同社が、株主優待券の利用方法を変更した理由は、同社が一昨年(2012年)に税務当局から受けた更正処分にある。同社では株主優待券を「売上値引き」として処理していたが(直営店の場合。FC店等の場合はFC店等に対して株主優待券の使用金額相当額を支払ったうえで、同額を「支払手数料」として処理)、2012年8月、この処理について関東信越国税局より、株主優待券は「交際費」に該当する旨の更正処分を受けている。同社はこの処分を不服とし、処分の取り消しを求め2012年10月17日に関東信越国税不服審判所に審査請求を行っていたが、同社の主張は退けられている(同社が2013年10月11日に公表した「株主優待券に係る国税不服審判所長の裁決書受領について」参照)。
法人税法上、交際費(租税特別措置法61条4項3号)に該当するかどうかは、次の3要件に該当するかどうかで判断される(東京高裁平成15年9月9日)。
(1)支出の相手方が事業に関係ある者等であること
(2)支出の目的等が事業に関係ある者等との間の親睦の度を密にし、取引関係の円滑な進行を図るものであること
(3)行為の形態が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること
この3要件に照らして交際費に該当すると判断されれば、法人税法上、資本金が1億円を超える会社では当該費用の損金算入は認められない。関東信越国税不服審判所は、「株主優待券を配布する際に同封した書面には、株主に対して広告宣伝を依頼する旨の記載はなく、来店した株主による口コミという間接的な広告宣伝を支出の主たる目的としているとは認定できない」「株主優待券がその使用者の飲食代金の多寡にかかわらず一定額を値引くものであることを考えると、販売促進としての効果は決して大きいものではない」「株主優待券の使用者に対し、店舗において一般客と同様に飲食させるだけにすぎず、投資判断に必要な情報を提供するなど本件株主優待券の配付がIR活動であることをうかがわせるような行動は一切認められない」として税務当局側の主張を認め、交際費には該当しないとする同社の主張を退けている。
裁決書を見ると、同社の優待制度が交際費に該当するかどうかの判定においては、高い優待利回りや株主優待券だけでの食事が可能といった点が考慮され、株主への供応と評価されたものと思われる。単なる”タダ券”の配布で終わるのではなく、例えば優待券を利用した株主からIRとしての意見を収集するための仕掛けや利用促進のためのチラシ同封、非株主の同伴来店の促進等同社の広告宣伝になるような仕掛けがあれば、別の判断になった可能性もある。
株主優待券を広告費等で損金処理をしている会社では、もう一度交際費認定されるリスクの有無を検討するべきだろう。