2014/04/30 繰延税金資産の回収可能性、会社に求められるより高い立証レベル(会員限定)

 2014年3月21日のニュース「業績低迷時は要注意!繰延税金資産の回収可能性の判断基準見直しも」で既報のとおり、企業会計基準委員会(ASBJ)は現在、税効果会計の見直しを検討しているが、3月21日のニュースでお伝えした繰延税金資産を計上する際の「見積可能期間」を現在の「5年」から「9年」に変更すべきかどうかに加え、「繰延税金資産の回収可能性」の判断を左右する「5つの会社分類」そのものの見直しも検討されることになりそうだ(繰延税金資産の基本的な解説は同日のニュース参照)。

 繰延税金資産は、将来の回収可能性がなければ計上することはできない。現行の税効果会計実務では、将来の回収可能性を見積もることができる年数を、下表のとおり会社の業績の良し悪しによって5つの区分に分類している。

<繰延税金資産の回収可能性を巡る5つの会社分類>

(1)一時差異と相殺するだけの十分な課税所得がある会社 繰延税金資産は全額回収可能と判断する
(2)業績は安定しているが、十分な課税所得がない会社 一時差異等のスケジューリング(*)の結果に基づく限り、回収可能性があると判断できる
(3)業績が不安定な会社 おおむね5年内の課税所得の見積額を限度として、その期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づく限り、回収可能性があると判断できる
(4)重要な税務上の繰越欠損金がある会社 翌期(1年)に確実に見込まれる課税所得の見積額を限度として、その期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づく限り、繰延税金資産は回収可能性がある ※リストラなど特殊要因がなければ課税所得を毎期計上しているような会社は(3)と同様に取り扱う
(5)債務超過の会社、連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社 繰延税金資産の回収可能性なしと判断する

* スケジューリングとは、一時差異が解消するタイミングのスケジュールを作成することをいう。

 本来、この分類はあくまで例示に過ぎず、会社の実態に応じた判断が行われるべきである。しかし、一度このような分類を定めてしまうとそれが一人歩きしてしまうのも事実。実際に、各区分ごとに定められた所定の年数を上限に、回収可能性を半ば定型的に判断するというような実務を見かけることも少なくない。

 そして、業績不振に陥り下の区分に転落した場合、過去に計上していた繰延税金資産を取り崩すことを求められ、取り崩した額だけ税金費用(損益計算書の税引前利益の下に記載される法人税等)が増えることになる。それだけに、自社や連結子会社はどの会社区分に該当するのかという点に関心が集まりがちと言える。

 このような「5つの会社分類」を見直すかどうかについては、関係者の間でも「廃止すべき」というものから、「過去の業績だけではなく将来見通しも含めて柔軟に回収可能性を検討すべき」「基本的に存置すべき」と意見が分かれている。もっとも、産業界から強い改善要望が上がっていることを踏まえれば(ちなみに、監査人(監査法人)側は「基本的に存置すべき」とのスタンス)、何らかの見直しが行われる可能性が高そうだ。具体的には、「5つの会社分類」を柔軟化し、各社の置かれた環境による「実質的判断」が認められる余地が広がることになるだろう。そもそも国際会計基準(IFRS)や米国会計基準にはこのような分類はなく、完全な「実質的判断」となっており、日本の会計基準もこれに少し近づくことになる。

 もっとも、繰延税金資産の回収可能性を会社が判断する余地が広がるとは言っても、これまでの5分類から大きく逸脱した実務が行われる可能性は低いだろう。最終的に監査人による会計監査をパスしなければならないからだ。

 一方、監査人としては、“共通の物差し”がなくなる以上、より保守的な判断に傾かざるを得なくなることも考えられる。会社が自社の回収可能性をより甘く判定すれば、当然監査人にハネられることになろう。繰延税金資産の回収可能性の判断を巡り会社と監査法人が衝突する場面が、今以上に増える恐れもある。

 この5つの会社分類を定める監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」が公表されてから15年近くが経過する。5つの会社分類による繰延税金資産の回収可能性判断は、実務にすっかり定着したといってよい。もともと監査上の取扱いを定めた報告書に過ぎなかった66号が、会計基準のような役目を担ってきたことになる。会社側が分類の見直しを求める理由はそこにある。とはいえ、会社側としても、形式的・定型的なルールに安住していた面があることは否定できない。今後、ルールの見直しが実現すれば、会社は自社の繰延税金資産の回収可能性について、現在よりも高い立証レベルを求められることになるのは確実と言えそうだ。

2014/04/30 2014年4月度チェックテスト

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【問題1】

契約の内容は、お互いが合意すれば、自由に取り決めることができる。したがって、消費者との契約書に盛り込んだ「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する」という条項も有効である。


正しい
間違い
【問題2】

統合報告書とは、有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書を合体して1つの報告書にしたものである。


正しい
間違い
【問題3】

自社の製品やサービスの需要を抑制する活動が、必ずしも投資家の成長期待に反するとは言えない。


正しい
間違い
【問題4】

日本の会計基準とIFRS(国際会計基準)の主要な差異の一つに、のれん(正ののれん)の会計処理がある。正ののれんは、日本の会計基準では定期償却をするのみで減損は認めていない。一方、IFRSでは定期償却をせずに、価値が下がった際に減損を行うのみである。


正しい
間違い
【問題5】

平成26年4月8日に国会審議入りした会社法改正法案が成立・施行されても、親会社のOBや兄弟会社のOBは社外監査役に就任することができる。


正しい
間違い
【問題6】

3月決算の上場会社では、定時株主総会を特定の「集中日」に開催する傾向が年々強まっている。


正しい
間違い
【問題7】

自社がカルテルを結んだ張本人であっても、公正取引委員会に対しカルテルの存在を最初に告発すれば、課徴金の全額が免除される。これを「課徴金減免制度(リーニエンシー制度)」というが、「密告を奨励する」という点で、日本人の価値観からすると違和感のある制度と言え、適用事例はまだない。


正しい
間違い
【問題8】

12月決算の上場会社のうちTOPIX500採用銘柄である37社について、最新の定時株主総会の招集通知を分析した結果、招集通知の英訳版を作成、発送した会社は全体の約1割程度に過ぎなかった。


正しい
間違い
【問題9】

株主に株主優待券を配布した場合、税務上交際費として認定されるリスクがある。


正しい
間違い
【問題10】

米国では、早ければ今秋より、上場企業の最高責任者(CEO)の報酬と新入社員の給与格差の開示が義務付けられることになっている。


正しい
間違い

2014/04/28 増資の際の「待機期間」撤廃で株価下落を回避へ

 経営陣にとって株価の下落は頭の痛い話だが、その要因の1つとなり得るのが「増資」だ。これは、増資により株式数が増えることでEPS(1株当たり利益。Earnings Per Share)やBPS(1株当たり純資産。Book-value(簿価)Per Share)の希薄化が起こることを嫌う投資家の売りが多くなるため。なかには、大量の空売りを浴び、株価が大きく下落するケースもある。実際、日本証券業協会の調査でも、増資のための有価証券届出書の提出後に空売りが急増するとの結果が出ている。

BPS : Book-value Per Shareの略称で「自己資本 ÷ 発行済み株式数」により算出され、会社が解散した場合の1株当たりの価値を示す。「1株当たり純資産」という日本語訳からは、分子は「純資産」と思われがちだが、「自己資本」なので要注意。BPSが高いほど、その企業の安全性が安定性は高いことになる。

 金融商品取引法では、上場会社が増資を行う場合には、有価証券届出書の提出から効力発生まで、原則として「中15日間」の“待機期間”を置くこを義務付けている。ただし、有価証券報告書を提出している会社については、金融庁が出している「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン。以下、ガイドライン)によって、これが「中7日間」に短縮されている。

 待機期間が設けられている理由は、投資家が株式の取得・買付けの是非を検討するのに十分な時間を与えるためだが、その一方では、上述のとおり待機期間中に株価が下落し、当初想定していたほどの資金調達ができなくなるなどの弊害が指摘されてきた。

 こうしたなか金融庁は、・・・

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2014/04/28 増資の際の「待機期間」撤廃で株価下落を回避へ(会員限定)

 経営陣にとって株価の下落は頭の痛い話だが、その要因の1つとなり得るのが「増資」だ。これは、増資により株式数が増えることでEPS(1株当たり利益。Earnings Per Share)やBPS(1株当たり純資産。Book-value(簿価)Per Share)の希薄化が起こることを嫌う投資家の売りが多くなるため。なかには、大量の空売りを浴び、株価が大きく下落するケースもある。実際、日本証券業協会の調査でも、増資のための有価証券届出書の提出後に空売りが急増するとの結果が出ている。

BPS : Book-value Per Shareの略称で「自己資本 ÷ 発行済み株式数」により算出され、会社が解散した場合の1株当たりの価値を示す。「1株当たり純資産」という日本語訳からは、分子は「純資産」と思われがちだが、「自己資本」なので要注意。BPSが高いほど、その企業の安全性が安定性は高いことになる。

 金融商品取引法では、上場会社が増資を行う場合には、有価証券届出書の提出から効力発生まで、原則として「中15日間」の“待機期間”を置くこを義務付けている。ただし、有価証券報告書を提出している会社については、金融庁が出している「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン。以下、ガイドライン)によって、これが「中7日間」に短縮されている。

 待機期間が設けられている理由は、投資家が株式の取得・買付けの是非を検討するのに十分な時間を与えるためだが、その一方では、上述のとおり待機期間中に株価が下落し、当初想定していたほどの資金調達ができなくなるなどの弊害が指摘されてきた。

 こうしたなか金融庁は、証券アナリスト等が分析情報を提供する会社や、メディア等で頻繁に紹介されている“市場でよく知られた会社”については待機期間を設ける必要性が乏しいと判断。今年夏を目途にガイドラインを改正し、時価総額1,000億円以上の上場企業が行う増資については、「待機期間」を撤廃する方針を明らかにしている。対象となる上場企業は、有価証券届出書の提出と同時に増資手続が可能となり、空売りによる株価の下落を回避することができる。

 また、待機期間の撤廃に合わせて、金融商品取引法で禁止されている「(有価証券届出書の)届出前勧誘」に該当しない行為の類型を、ガイドラインで明確化する。金融商品取引法が届出前勧誘を禁止しているのは、それがインサイダー取引を誘発しかねないからだが、現状では何が「届出前勧誘」に該当するかはっきりしない。そこで日本証券業協会は自主ルールを定め、プレ・ヒアリング(有価証券届出書の届出前に、募集・売出しを行う有価証券に対する市場の需要見込みを調査すること)さえも禁止している。この結果、発行会社(増資する会社)が情報発信に対し委縮するなどの問題点が指摘されてきたところだ。

 こうした事態を踏まえ金融庁は、(1)届出の1ヵ月以上前の情報発信、(2)定期的な情報発信、新製品の発表など、(3)届出前に、投資者の関心をあらかじめ調査するプレ・ヒアリング等については、「届出前勧誘」に該当しない類型として示すとしている。これにより、上場会社はプレ・ヒアリング等を行うことができるようになり、より投資家のニーズを踏まえた増資が可能となりそうだ。

2014/04/25 シェアは低い方がマーケティングがやりやすくなる?

 日本では、高度成長期以来長年にわたり、メーカーが流通の流れをコントロールする“チャネルリーダー”としての地位にあり、販売店の整備から広告宣伝に至るまで主導的な力を発揮してきた。しかし、近年、巨大な販買力を背景に実質的な価格決定権を持つ大型小売店が登場し、チャネルリーダーとしての地位はメーカーから小売店側に移りつつある。

 もっとも、メーカーと小売店の関係を規制する独占禁止法は依然として「チャネルリーダー=メーカー」を前提としている。その最たる例が、取引の相手方(小売店)の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引をすることを「不公正な取引方法」として禁止している点だ(独占禁止法19条・公正取引委員会告示15号)。

 特にメーカーが小売店の価格を拘束する行為(再販売価格拘束行為)は原則として違法とされている(公正取引委員会「流通・取引慣行ガイドライン」)。「価格の決定」という小売店にとって重要な競争手段が奪われれば、小売店間の競争が減殺され、経済の発展を阻害しかねないからだ。

 また、直接的に価格を拘束しないまでも、例えば有力メーカーが小売店に他メーカーの競合争商品の取扱いを禁じたり、販売地域を制限するといった「非価格制限行為」も、それが価格競争を奪うことにつながる場合には、違法とされている。

 しかし、チャネルリーダーがメーカーから小売業者に移りつつある現在、これらの規制に対するメーカーの不満は大きい。特に最近は、注目を集める新製品ほど価格比較サイトに取り上げられ、消費者は瞬時に最安値の小売店を探すことができるため、価格が下がりやすいという事態も生じており、メーカー側からは、例えば新製品の販売から一定期間、小売店が消費者に販売する「再販売価格」を拘束できるように規制を緩和すべきとの声も上がっている。

 ただ、再販売価格の拘束に関する規制を緩和するべく独占禁止法が改正される可能性は低い。市場においてもっとも重要な価格競争の制限に直結しかねないからだ。

 現実的な落とし所として、・・・

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2014/04/25 シェアは低い方がマーケティングがやりやすくなる? (会員限定)

 日本では、高度成長期以来長年にわたり、メーカーが流通の流れをコントロールする“チャネルリーダー”としての地位にあり、販売店の整備から広告宣伝に至るまで主導的な力を発揮してきた。しかし、近年、巨大な販買力を背景に実質的な価格決定権を持つ大型小売店が登場し、チャネルリーダーとしての地位はメーカーから小売店側に移りつつある。

 もっとも、メーカーと小売店の関係を規制する独占禁止法は依然として「チャネルリーダー=メーカー」を前提としている。その最たる例が、取引の相手方(小売店)の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引をすることを「不公正な取引方法」として禁止している点だ(独占禁止法19条・公正取引委員会告示15号)。

 特にメーカーが小売店の価格を拘束する行為(再販売価格拘束行為)は原則として違法とされている(公正取引委員会「流通・取引慣行ガイドライン」)。「価格の決定」という小売店にとって重要な競争手段が奪われれば、小売店間の競争が減殺され、経済の発展を阻害しかねないからだ。

 また、直接的に価格を拘束しないまでも、例えば有力メーカーが小売店に他メーカーの競合争商品の取扱いを禁じたり、販売地域を制限するといった「非価格制限行為」も、それが価格競争を奪うことにつながる場合には、違法とされている。

 しかし、チャネルリーダーがメーカーから小売業者に移りつつある現在、これらの規制に対するメーカーの不満は大きい。特に最近は、注目を集める新製品ほど価格比較サイトに取り上げられ、消費者は瞬時に最安値の小売店を探すことができるため、価格が下がりやすいという事態も生じており、メーカー側からは、例えば新製品の販売から一定期間、小売店が消費者に販売する「再販売価格」を拘束できるように規制を緩和すべきとの声も上がっている。

 ただ、再販売価格の拘束に関する規制を緩和するべく独占禁止法が改正される可能性は低い。市場においてもっとも重要な価格競争の制限に直結しかねないからだ。

 現実的な落とし所として、再販売価格拘束に直接的に結びつかない範囲で、上述の「流通・取引慣行ガイドライン」を明確化することによって対応が図られる可能性が高い。ガイドラインの第2部には違法となる非価格制限行為が示されているが、より具体的に「適法・違法の境界」が明らかにされる見込みだ。例えば、ガイドラインでは、非価格制限行為が違法になるかどうかは「メーカーの市場における地位」をもとに判断されるとしているが、具体的にどのようなシェアであれば適法なものとして許容されるのか示されることが考えられる。

 シェアを重視するメーカーは少なくないが、ガイドラインが改正されれば、シェアが低い方がマーケティングがやりやいといった状況が生じるかもしれない。

2014/04/24 (新用語・難解用語)不正のトライアングル理論

粉飾や横領といった不正事件は会社のイメージが傷つけ、株主などのステークホルダーからも「コーポレート・ガバナンスが欠如しているのでは?」といった疑念を持たれることになりかねない。このため、不正の防止は会社にとって重要な経営課題の1つになっているが、不正がまったく起きない会社を作り上げるのは不可能に近い。特に大企業では、様々な立場の人間がそれぞれの思惑を抱えて会社に関わることから、程度の差こそあれ、何がしかの不正事件の発生は避け難いからだ。

もちろん、だからと言って何も対策をとらないことが許されるわけではない。不正事件の発生可能性を、費用対効果も勘案しつつ、できる限り低く抑えるのが、上場会社の役員に課せられた義務と言える。

そこで上場会社の役員が押さえておきたいのが、「不正のトライアングル理論」だ。これは、・・・

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2014/04/24 (新用語・難解用語)不正のトライアングル理論(会員限定)

粉飾や横領といった不正事件は会社のイメージが傷つけ、株主などのステークホルダーからも「コーポレート・ガバナンスが欠如しているのでは?」といった疑念を持たれることになりかねない。このため、不正の防止は会社にとって重要な経営課題の1つになっているが、不正がまったく起きない会社を作り上げるのは不可能に近い。特に大企業では、様々な立場の人間がそれぞれの思惑を抱えて会社に関わることから、程度の差こそあれ、何がしかの不正事件の発生は避け難いからだ。

もちろん、だからと言って何も対策をとらないことが許されるわけではない。不正事件の発生可能性を、費用対効果も勘案しつつ、できる限り低く抑えるのが、上場会社の役員に課せられた義務と言える。

そこで上場会社の役員が押さえておきたいのが、「不正のトライアングル理論」だ。これは、アメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーが提唱した理論であり、不正行為は、
・動機・プレッシャー
・機会
・姿勢・正当化
という3つの要素(不正リスク)がそろった時に起こるというもの。

この不正のトライアングル理論を踏まえると、不正を防止するため、役員は(1)「不正に走る動機やプレッシャーの存在」を認識し、軽減する、(2)従業員や役員に「不正を実行する機会」を与えないようにする、(3)適切な経営理念や企業倫理を効果的に従業員や役員に伝えることにより、「不正を正当化するマインド」の芽を摘む―――という3点を意識した全社的な内部統制の構築に努める必要がある。

不正のトライアングル理論は、横領対策にも転用できる。横領の場合、「動機・プレッシャー」が主観的事情によるのが通常であることから、カウンセリング等を充実させ、プライベートで問題を抱えていないかどうか探る機会を増やすことを検討したい。また、横領の「機会」を減らすため、定期的な第三者のチェックや棚卸、カメラの設置、保管場所の施錠等を実施すべきだろう。さらに、社内における極端な報酬の格差や劣悪な労働環境が「少しぐらい横領したってバチは当たらないだろう」といった正当化の原因になり得る。“ブラック企業”体質を脱することで愛社精神が涵養(かんよう=ゆっくり養い育てること)されれば、横領の減少につながるはずだ。

不正対策というと「機会」の減少にしか頭が回らない役員も少なくない。「動機・プレッシャー」や「姿勢・正当化」といった側面からの施策も是非検討すべきと言える。

また、生きた「不正のトライアングル理論」の教材とも言えるのが、金融庁が出している「監査における不正リスク対応基準」の「付録1 不正リスク要因の例示」だ。これは粉飾という不正に限定したものであり、かつ、監査法人向けに作成されたものであるが、不正リスクを具体的事例に落とし込んでいることから、監査を受ける側の会社にとっても非常に参考になる。

「監査における不正リスク対応基準」は平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から適用されていることから、監査法人も不正リスクを意識した視点で監査に臨んでくることになる。監査を受ける側としても、経営者インタビュー等に備えて、監査人と同じ視点を持てるよう「監査における不正リスク対応基準」を一読しておくことをお勧めしたい。

2014/04/23 招集通知における他社の“株主フレンドリー度”は?

 個人株主の増加を狙う会社は多いが、その実現のために求められるのが「株主フレンドリー度」だ。これは、定時株主総会の招集通知においても問われる。

 招集通知を発送する際には、株主総会参考書類(議案の詳細)、事業報告および計算書類(連結・単体)を添付する必要があるが、これらの書類は、株主が議決権を行使する際の参考とされる。それだけに、株主に理解を促すような親切かつ印象的な記載をしているかどうかが、その会社の「株主フレンドリー度」を左右することになる。

 他社の状況はどうなっているのか、先行事例として、今年3月に株主総会を実施したTOPIX500採用銘柄の37社の招集通知を分析してみよう。

 まず、全体を1つの冊子にまとめた事例は全体の約9割で、「招集通知(および株主総会参考書類)」と「事業報告(および計算書類)」を分冊にしたところは少数派だった。株主の手元で冊子が複数に分散する煩わしさに配慮したのだろう。

 議案の中でも特に重要な意味を持つのが、・・・

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2014/04/23 招集通知における他社の“株主フレンドリー度”は?(会員限定)

 個人株主の増加を狙う会社は多いが、その実現のために求められるのが「株主フレンドリー度」だ。これは、定時株主総会の招集通知においても問われる。

 招集通知を発送する際には、株主総会参考書類(議案の詳細)、事業報告および計算書類(連結・単体)を添付する必要があるが、これらの書類は、株主が議決権を行使する際の参考とされる。それだけに、株主に理解を促すような親切かつ印象的な記載をしているかどうかが、その会社の「株主フレンドリー度」を左右することになる。

 他社の状況はどうなっているのか、先行事例として、今年3月に株主総会を実施したTOPIX500採用銘柄の37社の招集通知を分析してみよう。

 まず、全体を1つの冊子にまとめた事例は全体の約9割で、「招集通知(および株主総会参考書類)」と「事業報告(および計算書類)」を分冊にしたところは少数派だった。株主の手元で冊子が複数に分散する煩わしさに配慮したのだろう。

 議案の中でも特に重要な意味を持つのが、株主に代わって経営を担う取締役の選任議案だが、各候補者の顔写真を掲載した会社は3分の1強と決して多くはなく、「株主に顔を向ける」という意識はそれほど高まっていないと言える。社外取締役については、多くの会社が「注記」で選任理由や在任年数などを記載しているが、ブリヂストンのように候補者ごとに顔写真入りで経歴や選任理由を記載するなど、“株主フレンドリー”な開示例は少ない。

 株主の利益に直結する議案として、剰余金処分案の記載も注目されるが、ここでは単に配当金額(総額および1株当たり金額)を記載するのみならず、その結果として配当性向は何%になるのか、元々の目標値に対してどの程度の水準なのか、についても言及することが望ましい。しかし、これら両方を記載した事例は、アサヒグループHDと中外製薬の2社のみだった。

 事業報告においては、ビジュアルで株主に訴えかけるよう工夫を凝らしている会社も見られる。冊子自体を多色刷りにした例が3分の1程度ある一方、おそらくはコスト増を勘案してカラー化を見送った会社も目に付く。業績推移や売上構成をグラフで示した例は4割弱、製品や施設の写真を掲載した例は3割弱に止まった。やはり費用対効果を意識してのことだろう。

 このほか、コーポレートガバナンス体制の模式図を記載したのはサッポロHDや協和発酵キリンなど6社、CSR(企業の社会的責任)活動について別ページやコーナーを設けたのはヤマハ発動機、ライオン、キリンHDなど10社あった。いずれも法定の記載事項ではない任意の開示だが、株主に訴えかけようという姿勢が見られる。こうした“株主フレンドリー”な取組みが6月総会でどれだけ見られるのか、注目される。