問題を抱えるアセットマネジメント会社のコーポレートガバナンス
結論から言えば、日系大手のアセットマネジメント会社のコーポレートガバナンスは、上場会社のコーポレートガバナンスと同様にこの10年間改善してきましたが、依然として大きな問題を抱えています。そして、この問題は上場会社よりも大きいと考えられます。
日系大手アセットマネジメント会社の最大の問題は、証券会社系、銀行系、生命保険会社系、損害保険会社系など金融機関グループの系列会社(子会社)であるということです。そして多くの場合、ビジネス上も親会社と密接な関係にあります。このような状況は、子会社であるアセットマネジメント会社よりも親会社の利益が優先されるという「利益相反」につながりかねません。
こうした利益相反を防ぐため、日系大手アセットマネジメント会社には強固なコーポレートガナンスが求められますが、現時点ではまだガバナンス改革の途上にあり、さらなる改革の進展が急務となっています。
社長選任は親会社の人事ローテーションの一環
アセットマネジメント会社の社長がどのように選任されてきたのかというと、多くの場合、親会社からの天下りです。基本的には、親会社の取締役の中から選任された人が親会社の取締役を退任して子会社であるアセットマネジメント会社の社長に就任しますが、一旦社長以外のポジションに就き、その後社長になるケースや、出向で子会社の社長なり、その後プロパー化するケースもあります。
社長には、親会社でアセットマネジメント事業に関わってきた人が選任されることもありますが、そうでないこともあります。いずれにせよ、社長人事は親会社の都合で決まり、アセットマネジメント会社の都合は関係ないことが問題と言えます。例えば親会社の社長が若返ると、年上の取締役が退任することになりますが、これまでの“功労賞”として、子会社であるアセットマネジメント会社の社長のポジションに就きます。つまり、アセットマネジメント会社の社長選任は親会社の人事ローテーションの一環であり、そこにアセットマネジメント会社を発展させようという意思は見えません。
親会社で高いポジションにいた取締役が天下りできる子会社はそれほど多くないため、子会社の中でも相対的に規模が大きいアセットマネジメント会社の社長のポジションは人気の的です。公平性を確保するため、アセットマネジメント会社の社長は2~3年で交代となり、次々と新しい社長が就任します。アセットマネジメント会社で好業績をあげていた社長であっても、この短期の交代サイクルから逃れることはできません。すぐに交代となり、後任にアセットマネジメントビジネスを理解していない人が選ばれることもあります。社長の交代においても、アセットマネジメント会社の経営ではなく、親会社の人事が優先されるということです。
株式の保有のみならず、ビジネス上も親会社に依存
確かに、日系大手アセットマネジメント会社の株式の過半数は親会社により保有されており、その意味では、日系大手アセットマネジメント会社は通常の上場会社とは異なる存在と言えます。このため、過半数の株式を保有する株主である親会社が子会社の社長や取締役の人事をどうしようと親会社の勝手ではないか、との指摘もあるかもしれません。しかし、アセットマネジメント会社の顧客や従業員といったステークホルダーの視点で考えれば、このような人事は健全ではありません。アセットマネジメント会社は親会社から独立した経営を行う必要があります。
日系大手アセットマネジメント会社がこれほど親会社の影響を受けてしまうのは、何も株式を保有されているからだけではありません。子会社であるアセットマネジメント会社は、ビジネス上も親会社に依存しています。前述のとおり、日系大手アセットマネジメント会社は、証券会社、銀行、生命保険会社、損害保険会社といった金融機関の子会社となっていますが、証券系や銀行系のアセットマネジメント会社は、投資信託の販売を親会社に依存しています。投資信託は、現在のアセットマネジメント会社にとって最も重要なビジネスです。その販売は、主に証券会社や銀行の支店が担っています。ビジネス上の力関係でも、親会社優位の状態にあるわけです。さらに生保系の場合、親会社が最大の顧客になります。親会社から多額の資金を預かっているため、親会社の意向は“最大顧客の意向”でもあり、アセットマネジメント会社に対する親会社の影響力は極めて大きいものがあります。一方、損保系は親会社とのビジネス上のつながりが証券系、銀行系、生保系と比較して相対的に弱く、自力でビジネスを拡大しなければならないため、親会社からはある程度独立していると言えるでしょう。
親会社への依存が大きいと親会社の利益が最優先され、子会社であるアセットマネジメント会社に悪影響を及ぼすリスクが高いと考えられます。アセットマネジメント会社も常に親会社の意向ばかりに気を取られることになります。このような状況は顧客にとって健全なものではありません。
金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート」
これまで述べてきたとおり、親会社に依存した日系大手アセットマネジメント会社の経営体質は、利益相反を引き起こすリスクが高くなっています。利益相反を防ぐためには強固なコーポレートガバナンスが必要です。実際、この10年間は上場会社と同様、アセットマネジメント会社もコーポレートガバナンスの改善に努めてきました。例えば、独立社外取締役を選任し、経営の透明性を高めようとしています。また、ダイバーシティの観点では、女性取締役も増えてきています。さらに、社長もアセットマネジメント会社社内あるいは社外から選任するケースも見られるようになりました。
このように日系大手アセットマネジメント会社によるガバナンス改革に向けた自助努力はあったものの、まだ十分ではありません。こうした中、金融庁は昨年、『資産運用業高度化プログレスレポート 2023-「信頼」と「透明性」の向上に向けて -』(以下、プログレスレポート)を公表し、アセットマネジメント会社の経営課題を指摘するとともに、アセットマネジメント会社にさらなるコーポレートガバナンスの改善を求めています。プログレスレポートでは、日系大手11社と世界大手30社のガバナンスに関連するデータを比較しつつ、日系大手アセットマネジメント会社の経営課題を指摘しています(同レポートの5~9ページ参照)。それによると、まず社長の在任期間については、日系大手では在任期間「3年未満」が72.7%を占めているのに対し、海外大手は「5年以上10年未満」が最も多く、43.3%となっています。また、社長に就任する前のアセットマネジメント会社経験年数は日系大手では「3年未満」が最も多く、36.4%を占めています。一方、海外大手では「20年以上」が59.3%にのぼります。社長の出身会社は、日系大手では「グループ内他社」が73%ですが、海外大手では「内部昇進(勤続10年以上)」が47%となっています。このほか、女性社長の比率は日系大手が9%、世界大手が22%となっています。
プログレスレポートは、上述した日系大手の問題点を数値として示していると言えます。社長の出身会社の多くが「グループ内他社」となっているように、日系大手の中にはいまだ親会社からの天下りを受け入れているところが数多くあります。親会社の人事が優先されるため、アセットマネジメントビジネスを理解した人が選任されるとは限りません。その結果、アセットマネジメント会社経験年数3年未満が1/3以上を占めています。また、在任期間が3年未満と短い社長が大部分となっていることも、日系大手が親会社の退任取締役に社長というポジションを短いサイクルで提供し続けることを裏付けています。いずれも上場会社における社長の選任では考えられないことです。この10年、日系大手はコーポレートガバナンスの改善に努めてきましたが、依然このような状況です。10年前であれば、ガバナンス上、より問題のある調査結果となっていたでしょう。
アセットマネジメント会社も指名委員会を設置すべき
では、今後アセットマネジメント会社のコーポレートガバナンスはどのように改善されるべきか、考えてみましょう。
最も重要なポイントは、親会社ではなくアセットマネジメント会社により、自社を最優先する形で意思決定が行われることです。親会社の人事がアセットマネジメント会社の経営に影響を及ぼすことはあってはなりません。したがって、親会社の退任取締役の中から社長を選ぶのではなく、内部昇格か外部から招聘するかのいずれかによるべきです。これは、普通の上場会社であればどこでも行っていることです。
企業経営で最も重要なのは、優れた社長を選任することです。優れた社長を選任するためには、上場会社と同様、アセットマネジメント会社も独立社外取締役が過半数を占め、委員長も務める指名委員会を設置する必要があります。指名委員会は、社内または社外から、アセットマネジメント会社にとって最適な人物を社長に選任するとともに、社長就任後は、そのパフォーマンスをモニタリングし、経営状況が思わしくない場合には社長の交代も議論します。すなわち、社長の選任権を、親会社からアセットマネジメント会社に移すということです。アセットマネジメント会社の過半数の株式を保有する親会社の意見も一定程度反映されることは許容されますが、あくまで最終決定は指名委員会でなされるべきです。実際、ある日系大手アセットマネジメント会社では、こうした指名委員会のプロセスを経て社長が選任されています。他の日系大手もできない理由はないでしょう。適任者が社長に就任すれば業績が良くなる可能性が高まり、それは親会社の業績にもプラスになります。親会社の株主も最適な人物が子会社の社長になることを志向するはずであり、“功労賞”としてアセットマネジメント事業に精通していない人が社長のポジションに就くことは望みません。
指名委員会を設置すること以外に求められるコーポレートガバナンス改革は、やはり独立社外取締役の増加です。利益相反という問題を抱えるアセットマネジメント会社にとって、独立社外取締役の存在意義は大きいものがあります。既に日系大手では独立社外取締役が選任されており、なかには取締役会の過半数以上を独立社外取締役が占めているところもありますが、多くの日系大手では、独立社外取締役比率が低い状況です。また、ダイバーシティもあまり進んでいません。女性取締役もほぼ社外取締役に限られるのが現状です。上場会社も似たような状況ですが、ジェンダーダイバーシティが形だけのものに終わらないようにするためには、今後は女性の社内取締役がもっと多く選任されることが望まれます。さらに、アセットマネジメント会社は事業がグローバル化していますので、外国人取締役の選任も必要になってくるでしょう。
上場会社はアセットマネジメント会社のガバナンスの状況を把握しておく必要
日系大手アセットマネジメント会社とのエンゲージメントで、ガバナンス上の問題点を指摘される上場会社は少なくありません。しかし、これまで説明してきたように、上場会社以上に強固なコーポレートガバナンスが求められる日系大手アセットマネジメント会社のコーポレートガバナンスはまだ改革の途上にあります。
利益相反を起こす可能性のあるアセットマネジメント会社の投資対象となることは、上場会社にとってもリスクとなりかねません。したがって、上場会社としては、エンゲージメントを行ってくるアセットマネジメント会社のコーポレートガバナンスの状況や課題を把握しておく必要があります。最近は、アセットマネジメント会社から独立社外取締役の選任、指名委員会・報酬委員会の設置、ジェンダーを中心としたダイバーシティ、取締役のスキルといったコーポレートガバナンス上の課題を改善するよう求められることが多くなっていますが、アセットマネジメント会社のコーポレートガバナンスについて“逆質問”することで、より対等で建設的な対話が実現するものと考えられます。