上場会社C社の取締役会において、社外取締役が「当社もクリーン調達について何か指針のようなものを出した方が良いのではないでしょうか。」と発言し、これに対して次の3人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?
取締役A:「環境経営は経営上の重要な課題であり、バリューチェーンマネジメントを推進するためには指針を早急に取りまとめ、社内外への浸透を図るべきです。」
取締役B:「会社として宣言をすることはしていないですね。公平かつ公正な取引を行うことを対外的・対内的に宣言することの意味は大きいと考えます。」
取締役C:「購買担当者のローテーションは行っていますし、宣言というと大げさです。決めるにしても社外秘の社内通達で十分ではないでしょうか。」
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2024/08/29 【役員会 Good&Bad発言集】クリーン調達(会員限定)
<解説>
様々な問題をはらむ「接待・贈答」
中元や歳暮など、取引先へ贈答品を送る慣習はだいぶ減ったとはいえ、地域や業界によってはまだまだ残っているようです。【役員会 Good&Bad発言集】贈答の禁止 では、虚礼廃止の観点から中元・歳暮の「送付」の取り止めについて解説しましたが、今回は企業倫理の観点から中元・歳暮の「受取」「送付」の是非および接待の是非について考えてみることにします。
取引先への中元・歳暮や昇進祝いなどの贈答品の「送付」の目的は取引の円滑化にあります。贈答品で取引先からの歓心を得て、関係性の維持や発展に努めることが目的となります。取引先が発注元であれば、自社が調達先として選定されるにあたり価格や品質以外の要素、たとえば人的関係性で有利なポジションを得たいという“下心”もあることでしょう。それが如実に表れるのが、贈答品を取引先の法人や部署ではなく購買担当者(以下、購買責任者や購買部門の担当役員も含む)個人に送付するケースです。贈答品の送付だけでなく、購買担当者や購買担当責任者、購買担当役員などとの会食、ゴルフ接待、なども目的は同じです。
これは購買側からすると由々しき問題と言えます。本来、調達先の選定は価格や品質、納期などから中立的かつ公正に決めるべきです。しかし、贈答品の受取や接待により購買担当者と特定の調達先との間で濃密な人間関係ができあがってしまうと、調達にあたりつい人間関係が優先され、適切な調達先選定ができず、価格交渉も甘くなり、ひいては企業価値を損ねることになりかねないからです。また、接待は裏リベートへと発展するリスクもはらんでいます。
儀礼的な範囲を超えた贈答品の送付や接待により問題が生じるのは購買側だけではありません。調達先側でも費用対効果が測定しにくい余計な販売コストが掛かり、利益を減らします。過剰な接待や贈答品で関係性を維持する行動は健全で良好なビジネス関係の構築とは言い難く、企業倫理の観点から問題があります。また、接待文化が根付くと、同行者を伴わない単独利用の飲食費を交際接待費として精算したり、私的な支出を会社の経費として精算したりするなど、接待を理由とした会社経費の不正使用なども起きやすくなります(例えば社長の営業スタイルが多額の交際接待費を湯水のように使いながら相手に取り入ろうとする「接待営業」に大きく偏っていたことが、社長の交際費不正につながった例としてラックランドの事例があります)。その他、先方の購買担当者が交代すると、人間関係の構築に一から取り組み直さなければなりませんし、接待の相手によっては接待や贈答が贈賄の問題に発展しかねないという問題もあります。
クリーン調達宣言の実例
そこで取引先との接待の禁止、贈答品の受取の禁止などを社内ルールで定めている会社も少なくありません。財・サービスの調達にあたり公平・公正性を優先させることを「クリーン調達」と言います(「クリーン調達」は「グリーン調達」と混同しやすいので注意が必要です)。さらに一歩進んだ企業は、当該社内ルールを企業行動憲章、行動基準、クリーン調達宣言などで社内外に示しています。
グリーン調達 : グリーン調達は、納入先企業が、環境負荷の少ない製商品・サービスや環境配慮等に積極的に取り組んでいるサプライヤーから優先的に調達するというもので、バリューチェーンマネジメント(VCM)の一環として実施される。
たとえばパナソニックでは「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」を定めたうえで、さらに下記の「クリーン調達宣言」を公表しています。
| 1. 公平かつ公正な取引関係 私たちは、「企業は社会の公器である」という考えを基軸とする経営理念に基づき、調達のプロセスに「私」を入れないという認識を持ち、定められた方針や手順に従って、グローバルな購入先様と公平かつ公正な取引を行います。 2. 購入先様の選定 要求を満たす品質や安全性の確保 3. 正しい調達活動の実践 会社が定める行事を除いては、購入先様から会食の接待を受けません。会費制もしくは費用の双方負担(会社負担)の会食も同様です。 4. グローバルホットラインの設置 ホットラインURL:http://panasonic.ethicspoint.com |
パナソニックはグローバル企業として様々な国の企業から調達を行っていることから、クリーン調達宣言のページに英語版へのリンクも設置しています。また、クリーン調達宣言のページにホットラインURLも掲載しており、宣言違反の行為を通報しやすくなっています。
「常識の範囲」をどう定める?
実際のところ、業界の慣習などもあり、パナソニックのように「接待を受けない」「贈答品を受け取らない」と言い切ることは難しいという企業も少なくありません。そのような企業が参考にしたいのが日本ハムの行動基準です。
| 4.お取引先からの過剰な贈答・接待の禁止 私たちは、直接の利害関係がなくても、お取引先からの常識の範囲を超える贈答や接待などは受けません。 ・お取引先からのお歳暮などの贈答やアルコールの入った食事などの接待は、公正な判断(価格交渉や複数仕入先などからの選定)に支障をきたすようであれば受けません。 ・個人宛で送られてきた場合は、誤解を受けることのないように上司に報告し適切に処理します。 ・第三者から見て明らかに不適切と判断される料亭、クラブ、スナックのはしごなど、節度を超えるような接待は受けません。 ・お取引先からの接待を受ける場合は、二次会は極力辞退します。 やむをえず参加する場合は、毎回連続して先方が負担することは避けます。 |
「常識の範囲」というフレーズがポイントと言えます。日本ハムでは「常識の範囲」の考え方について、「これを受けたとしても、仕事上の意思決定に何ら影響を及ぼさないという範囲」という考え方を示しています。また、東洋紡も、企業行動憲章で「国内外の公務員等、お客さま、お取引先さまなどに対する贈賄の禁止や不正な利益の受領の禁止を宣言」しつつ、さらに「お取引さま等からの贈答接待に関する考え方」を社外に示しており、その中で許容される範囲を「社会通念の範囲」というフレーズで示しています。
エレコムは「贈収賄の防止及び接待・贈答等に関するガイドライン」で「第1章 公務員との贈答・接待」「第2章 公務員等以外の人・組織との贈答・接待」にわけ、公務員と公務員等以外の人・組織ごとに贈答・接待についての考え方を外部に公表するとともに、詳細は内規(外部には非公表)の「会議費接待費マニュアル」「贈答・接待交際に関する基準」に従うとしています。基本方針を定めたうえで、「宣言」を公表し社外への浸透を図り、当該宣言を実務的に運用するための詳細なマニュアルを定めた「内規」(対外的には非公表)で社内浸透を図るという手法は、ある程度の接待は許容せざるをえないという企業では参考にしたいところです。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役B:「会社として宣言をすることはしていないですね。公平かつ公正な取引を行うことを対外的・対内的に宣言することの意味は大きいと考えます。」
(コメント:クリーン調達は取引先にも影響があることから、「宣言」という形式で対外的に公表することはとても重要となります。取締役Bの発言は、「宣言」の重要性について指摘できている点がGOODです。)
取締役A:「環境経営は経営上の重要な課題であり、バリューチェーンマネジメントを推進するためには指針を早急に取りまとめ、社内外への浸透を図るべきです。」
(コメント:取締役Aの発言中に「環境経営」「バリューチェーンマネジメント」といった「グリーン調達」関連のキーワードがあることから、取締役Aはどうやら「クリーン調達」を「グリーン調達」と勘違いしたようです。取締役Aの発言は「クリーン調達」についての認識がないことが露呈してしまったBAD発言です。)
取締役C:「購買担当者のローテーションは行っていますし、宣言というと大げさです。決めるにしても社外秘の社内通達で十分ではないでしょうか。」
(コメント:内部統制の観点から「購買担当者のローテーション」について触れており、「クリーン調達」への理解は一定程度あることが分かります。もっとも、「社外秘の社内通達で十分」はクリーン調達における(外部への)「宣言」の重要性を見落としたBAD発言です。「クリーン調達」は調達先の企業にも協力してもらう必要があることから、外部に宣言して初めて実効性を持たせることが可能になるからです。)
