2024/07/24 有報の総会前開示、会計士サイドからはネガティブな意見(会員限定)

政府が2024年6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太方針2024)には、「有価証券報告書の株主総会前の開示に向けた環境整備等のコーポレートガバナンス改革の実質化等を推進する」との一文が盛り込まれ(19ページの下から5行目参照)、また、同じく有価証券報告書の株主総会前開示を後押しする文書が金融庁や経済産業省に設置された会議体から出されているが(2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」、2024年7月23日のニュース「伊藤レポートから10年、今後のコーポレートガバナンスの論点は?」参照)、これに対し、有価証券報告書の監査を担う公認会計士サイドはネガティブだ。

日本公認会計士協会の茂木哲也会長は7月18日、定期総会後の記者会見で、現状のスケジュールで有価証券報告書を株主総会前に開示することは現実的ではないとの見解を明らかにした。むしろ、今後、有価証券報告書においてサステナビリティ関連財務情報を開示することになれば、「決算日から3か月以内」という現行の期限での開示も難しくなるとし、現行の開示期限の後ろ倒しを訴えている。

有価証券報告書の開示を前倒しすることが難しいとなれば、株主総会の開催を“後ろ倒し”するしかない。会社法では、株式会社の定時株主総会は「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と規定されているのみであり(会社法296条1項)、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することが求められているわけではない。かつて、株主総会の後ろ倒しには、法人税の確定申告期限の問題(2017年1月31日のニュース「株主総会の7月開催を検討する会社が増加傾向も、残されたボトルネック」参照)や、会社法上、「決算日」と「基準日」において2回株主を確定しなければならない問題(2017年12月20日のニュース「会社法施行規則改正案が公表、株主総会の後ろ倒しに向けた条件すべて整う」参照)などがあったが、これらの問題は既に解消されている。ただ、コロナ禍においても株主総会の後ろ倒しは広がらなかったことから、茂木会長は「制度的な工夫が必要」との考えを示した。


基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

ICGN(International Corporate Governance Network=国際コーポレートガバナンスネットワーク)は「株主総会の30日前」に有価証券報告書を開示することをかねてから求めているが、茂木会長はこの要望を「相当な無理があり不可能に近い」「開示のタイミングを早めることで開示の質が下がっては本末転倒」と一蹴している。もっとも、有価証券報告書の総会前開示は今や政府の方針とされただけに、今後“落としどころ”を探る動きが本格化する可能性もありそうだ。


ICGN : グローバル機関投資家や年金基金などが参加する団体であり、ICGNの意見はグローバル投資家の意見を最も色濃く反映していると考えられている。

2024/07/23 伊藤レポートから10年、今後のコーポレートガバナンスの論点は?

2024年7月12日付ニュース「CEOの任期制とPBRの関係」では、経済産業省に設置された「持続的な企業価値向上に関する懇談会」(以下、懇談会)が2024年6月26日に公表した「座長としての中間報告」に盛り込まれたCEOの任期制/非任期性の是非などについてお伝えしたところだが、本中間報告はそれ以外にも幅広いコーポレートガバナンスの論点に言及している。本稿ではより網羅的に本中間報告の内容について解説しよう。

まず・・・

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2024/07/23 伊藤レポートから10年、今後のコーポレートガバナンスの論点は?(会員限定)

2024年7月12日付ニュース「CEOの任期制とPBRの関係」では、経済産業省に設置された「持続的な企業価値向上に関する懇談会」(以下、懇談会)が2024年6月26日に公表した「座長としての中間報告」に盛り込まれたCEOの任期制/非任期性の是非などについてお伝えしたところだが、本中間報告はそれ以外にも幅広いコーポレートガバナンスの論点に言及している。本稿ではより網羅的に本中間報告の内容について解説しよう。

まず懇談会が設置された目的だが、伊藤レポートで提言・推奨した各課題等の進捗状況を確認し、取り組みが不十分だった課題について要因を分析したうえで、今後の対応の方向性を検討することとされている。5月7日に開催された第1回目の会合では、座長である伊藤邦雄一橋大学CFO教育研究センター長から「伊藤レポート以降の10年間の振り返り」として、8つの課題が示された。この課題を踏まえてトータル4回の会合が開催され、8つの課題を下表の5つの課題に再整理し、それぞれの課題について論点を挙げたのが、今回の中間報告となっている。

課題の再整理 懇談会で出てきた論点
①企業価値に対する企業と投資家との間の認識のずれ 企業価値を高めることの意義の再確認
②長期視点の経営の重要性 企業が置かれているポジションによる優先課題や処方箋の違い
社会のサステナビリティも踏まえた、長期視点の経営による将来の成長期待(PER)の向上(企業情報開示のあり方も含む)
中期経営計画のあり方の再考
③経営チーム体制の強化の必要性 CFO・FP&ACHROHRBP機能の強化
経営者人材の育成に向けた取組みの加速
④取締役会の実効性の強化 取締役会の役割の明確化
経営者の選解任等の機能の強化
社外取締役の実効性の強化(選任方法の検証、投資家との対話・エンゲージメントの充実、社外取締役の質の向上等)
⑤資本市場の活性化 次世代を担うアセットマネージャーの人材確保・育成
アセットオーナーの投資運用力を含む専門能力の強化
政策保有株式の更なる低減や資本市場への説明のあり方
企業情報開示の質の向上
企業間の競争を促すための株価指数の運用改善


PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)
FP&A :「Financial Planning & Analysis」の略称で、業務管理および財務計画の立案、財務データの分析を行う職種(またはその業務)を指す。職種としてのFP&AはCFOの配下に直属していることが多く、財務予測、すなわち現在および過去の財務データに基づき将来の収入、支出、利益、キャッシュフローを予測することが最も重要な任務となる。CFOは、FP&Aが作成した財務予測に基づき、事業の将来について長期的な意思決定を行う。 FP&Aには、管理会計に関する深い知識が求められる。
CHRO : 「Chief Human Resource Officer」の略称で、日本語では「最高人事責任者」と訳される。経営陣の一角として、すべての人事関連業務に責任を持つ役職である。人事部長とは、経営に参画しているかどうかという点で異なる。人事部長は、経営陣が策定した経営戦略に基づき、人材採用や教育、人事管理などを統括するが、CHROは経営戦略の策定にも積極的に関与しながら、企業価値の向上に向けた人的資本の調達・配分という経営戦略の重要な一翼を担う。
HRBP : 「Human Resource Business Partner」の略称で、米国ミシガン大学ビジネススクール教授のデーブ・ウルリッチ氏によって提唱された概念。同教授によれば、HRBPは営業部門などの「現場」に近い場所におり、部門からリクエストされる人や組織の課題に対して人事の視点から問題解決を図る機能だと定義される。単に採用活動や人事異動をサポートするのではなく、従業員と組織のパフォーマンスの向上を業績向上につなげるために、人材の採用手段や育成方法などを見直していくという点、従来の人事担当者とは大きく異なる。

以下、それぞれの課題について解説する。

①「企業価値に対する企業と投資家との間の認識のずれ」について中間報告は、「将来にわたるキャッシュフローの現在割引価値として、株主価値を重要視すべき」「将来キャッシュフローが資本コストを下回れば株主価値は低下」など、繰り返し「株主価値」というキーワードを引用していることが目を引く。特にプライム市場上場会社は今後、投資家目線の「財務価値」としての企業価値をより一層意識することが求められよう。


資本コスト: 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

②「長期視点の経営の重要性」においては、「投資家視点での企業分類」と題するコラムが掲載されている。要約すれば、低PBR企業には事業撤退や資産売却など構造改革、中PBR企業には株主還元、高PBE企業にはさらなる成長戦略を期待するものとなっている。これを受けて中間報告は、低PBR企業はもちろん中PBR企業に対しても、投資家から成長性について信認を得るためには、事業ポートフォリオの定期的な見直し・組換えが重要であると指摘している。東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示要請などにより、PBRに対する上場企業の意識は高まっているが、今後はPBRを向上させるための具体的な事業ポートフォリオ戦略への注目がますます高まることになろう。


PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

③「経営チーム体制の強化の必要性」では、「執行サイドの会議体において、同調やコンセンサスを重視し過ぎて、戦略を差別化する議論が不十分」であることが指摘された。これは、取締役会がモニタリングボードとして監督に徹するべきということの裏返しであり、そのようなガバナンスシステムが機能するためには執行側の機能向上が必要ということだろう。まず執行側で事業ポートフォリオ戦略などを精緻に議論し、その戦略的な適切性を取締役会がモニタリングするという株主価値最大化のプロセスが期待されている。


モニタリングボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。

④「取締役会の実効性の強化」では、取締役会はKPIに基づくモニタリングに軸足を置くべきことが示された。上述した執行サイドの機能向上とワンセットで、「監督機能」に特化した取締役会が望ましいとされており、モニタリングボードに適しているとされる指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社に移行する流れを促すものと言える。また、投資家と社外取締役の対話を積極化するための「筆頭独立社外取締役」の選定が改めて取り上げられている点も、筆頭独立社外取締役未設置の上場企業は留意すべきだろう。

⑤「資本市場の活性化」における上場企業が留意すべきは「政策保有株式」「企業情報開示」に関するものであろう。前者について中間報告では、「政策保有株式を保有する企業は、保有していない企業に比べてPBRが低い」との分析結果が紹介されており、株主価値向上の観点から一層の縮減および保有理由の説明の充実が求められることになる。後者については「有価証券報告書が定時株主総会開催の相当程度前に公表されることが重要」と指摘しており、金融庁「アクション・プログラム2024」などが示している流れが不可逆なものであることをうかがわせる(2024年6月19日付ニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)。有価証券報告書の早期開示は既定路線として、上場企業は対応策の検討を進めるべきだろう。

2024/07/22 個人投資家のアクティビスト化

コーポレートガバナンス・コードや昨年3月末に東証が要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現」などに対応できていない企業がアクティビストのターゲットになるケースが目に見えて増加している。上場企業にとっては、アクティビストに隙を見せない経営が益々重要となろう。ところで、アクティビストと言えば、従来は株主として企業に事業再編や株主還元などを提案し、株価を高めて利益を得ようとする「機関投資家」を指していたが、近年、個人でアクティビストのような行動を取る投資家が出てきた。実際、下表のとおり、2024年6月開催の株主総会でも、株主提案を行った個人投資家が確認されている。予想以上に多くの企業が個人投資家から株主提案を受けていることが分かる。・・・

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2024/07/22 個人投資家のアクティビスト化(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードや昨年3月末に東証が要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現」などに対応できていない企業がアクティビストのターゲットになるケースが目に見えて増加している。上場企業にとっては、アクティビストに隙を見せない経営が益々重要となろう。ところで、アクティビストと言えば、従来は株主として企業に事業再編や株主還元などを提案し、株価を高めて利益を得ようとする「機関投資家」を指していたが、近年、個人でアクティビストのような行動を取る投資家が出てきた。実際、下表のとおり、2024年6月開催の株主総会でも、株主提案を行った個人投資家が確認されている。予想以上に多くの企業が個人投資家から株主提案を受けていることが分かる。

2024年6月開催の株主総会における個人投資家による株主提案
提案者 提案を受けた企業 主な提案内容
個人 KPPグループHD ・増配
個人 いよぎんHD ・配当の決定機関の変更
・代表取締役及び会長の兼任制限
・政策保有株式の縮減
・配当政策の変更
・取締役の解任…etc
個人 遠藤照明 ・増配
・自己株式の取得
個人 東京ラジエーター製造 ・増配
・自己株式の取得
・決算説明会資料での詳細開示
個人 東和銀行 ・増配
・自己株式の取得
・決算説明会資料での詳細開示
個人 日産東京販売HD ・増配
個人 名港海運 ・社外取締役の独立性基準
・政策保有株式の保有・被保有の禁止
個人 リンクモンスター ・取締役の解任
・譲渡制限付き株式報酬制度の報酬額の改定
個人 ワイエイシーHD ・増配
・取締役会内の多様性の強化
個人1名 池田泉州HD ・定款に『株主とのパートナー宣言』を加える
個人2名 鶴弥 ・増配
・取締役の報酬決定機関の変更
個人2名 日本製鉄 ・気候変動関連…etc
個人47名/1名 九州電力 ・玄海原発、川内原発の廃止
・役員報酬の個別開示…etc
個人49名 テレビ朝日 ・報道の自由を求める定款変更
・社外取締役選任…etc
個人等 リズム ・増配
個人等 三菱UFJFG ・気候変動関連…etc
個人等 三井住友FG ・気候変動関連…etc
個人等 みずほFG ・気候変動関連…etc
個人等 中部電力 ・気候変動関連…etc
個人等(296名) クレディセゾン ・取締役の解任
・個別報酬の開示…etc

具体的な提案内容としては、増配や自社株買いなど株主還元を求めるものが大半を占めている。このほか、政策保有株式の縮減(いよぎんHD、名港海運)や取締役の個別報酬の開示(クレディセゾン)などのコーポレート・ガバナンスの改善に関する提案や、気候変動関連の提案(三菱UFJFG、三井住友FG、みずほFG、中部電力、日本製鉄)も複数確認された。また、池田泉州HDに提出された定款に下記の「株主パートナー宣言」を加えるよう求める株主提案は、機関投資家にはない個人投資家ならではのものと言えよう。

個人投資家による池田泉州HDへの株主提案(原文)
1.提案の内容
株式会社池田泉州ホールディングスの定款に以下のように、『株主とのパートナー宣言』を加える。
◎株式会社池田泉州ホールディングスと同株主は平等かつ運命共同体のパートナーであり、互いを尊重し協力しあい企業価値向上を目指すものとする。また意見交換の場の一つを株主総会と定め、総会の形骸化を防ぎ活性化を計る。会社・株主の提案を融合させ、常に最良の道を選択し、22世紀へ永続する企業にならんことをここに宣言する。
2.提案の理由
全国の株主の皆さん!もっと株主総会に興味を持ち真剣に賛否を決めて下さい!
前回の株主提案を覚えてますか?大阪を離れると池田や泉州という地名を知らない人が大半、しかも単なるホールディングスでは何の会社か分からない。大阪中央フィナンシャルホールディングスにすることで、日本全国誰もが馴染みある商号へが提案理由でした。これに対し取役会は当社商号は池田泉州銀行の商号とともに、広く周知されていると言い切りました。大阪圏外に居住する自身の親族・友人達に、私は全国に名の知れた池田泉州ホールディングスに勤務していると、胸を張って言えるのでしょうか?これはどんなに不誠実な対応をしても、会社の意見が総会で承認されるとの驕りがあるからです。しかも驕りの日常化は経営の暴走に繋がりかねません。今後は個人株主にも寄り添い、誠意を持って経営にあたって欲しいとの思いから、本提案をさせて頂きました。

株主提案以外にも、アクティビズムさながらの行動をとる個人投資家もいる。主な行動として、以下のようなものが挙げられる。

・X(旧Twitter)やYoutube等を活用し、企業に対する改善提案を解説した動画を公表する。提案内容は、株主還元、事業撤退、マーケティングの改善など多岐に渡る。
・Xにその企業のCEOや社外取締役のアカウントがあった場合、それらに直接連絡し、改善提案に対する意見を求める。
・キャンペーンサイトを作成し、公表する。
・改善提案をまとめたレターを社外取締役や株主宛に送付し、その旨をXに公表する。

内容等はともかく、行動自体は正に従来からアクティビストが行っていたことと同様と言える。こうした個人株主の行動は最近メディアでもしばしば取り上げられており、注目されつつある。

今後、機関投資家、個人投資家にかかわらず、企業に対して提言を行う投資家は増えていくことが予想される。昨今はSNS等の普及により、個人が大きな発信力・影響力を持つことも十分にあり得る。上場企業としては、「個人投資家」だからといって軽んじることなく、自社の企業価値向上に資する意見には耳を傾ける姿勢が求められよう。

2024/07/19 有償オプションの価額がテーマに オアシスがアオキHDの社長に73億円の株主代表訴訟を提起

昨年(2023年)の株主総会シーズンにフジテックの株主総会での主導権争いに“勝利”した香港の投資ファンドのオアシスが、クスリのアオキホールディングス(東証プライム市場に上場。以下、アオキHD)の株主総会では一転苦戦を強いられたことは2023年8月28日のニュース『「アクティビスト時代の到来」というにはまだ早い現状』でお伝えしたとおり(フジテックの株主総会への潜入取材については2023年6月21日のニュース「フジテック株主総会、怒声が飛び交う長丁場に 元会長側の株主提案はすべて否決」参照)。そのオアシスが今年8月の定時株主総会に向け、再びアオキHDに攻勢をかけている。今回、オアシスが設定したテーマは、・・・

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2024/07/19 有償オプションの価額がテーマに オアシスがアオキHDの社長に73億円の株主代表訴訟を提起(会員限定)

昨年(2023年)の株主総会シーズンにフジテックの株主総会での主導権争いに“勝利”した香港の投資ファンドのオアシスが、クスリのアオキホールディングス(東証プライム市場に上場。以下、アオキHD)の株主総会では一転苦戦を強いられたことは2023年8月28日のニュース『「アクティビスト時代の到来」というにはまだ早い現状』でお伝えしたとおり(フジテックの株主総会への潜入取材については2023年6月21日のニュース「フジテック株主総会、怒声が飛び交う長丁場に 元会長側の株主提案はすべて否決」参照)。そのオアシスが今年8月の定時株主総会に向け、再びアオキHDに攻勢をかけている。今回、オアシスが設定したテーマは、「青木家に発行した有償ストックオプションは適切であったのかどうか」「青木代表取締役社長等取締役3名が取締役として適任かどうか」の2つ。


有償ストックオプション : 役職員が金銭を払い込むことで付与されるストックオプションのこと。金銭の代わりに、役職員が会社に対して持つ報酬債権が用いられることもある。

「青木家に発行した有償ストックオプション」とは、アオキHDが2020年1月に青木宏憲氏(アオキHDの現代表取締役社長)と弟の青木孝憲氏(アオキHDの現取締役副社長)に対して発行した有償ストックオプションを指す。本有償ストックオプションがすべて行使されるとアオキHDの発行済株式の11%に相当する株式を新たに青木家が保有することになる。オアシスは「発行価額が安すぎる()」「行使条件が容易過ぎる」「報酬ではないか」「東証の規則上、業績予測の下方修正を求められる水準に達していないにもかかわらずあえて業績予測の下方修正を行い、マーケットが反応して株価が下がったところを見計らって本有償ストックオプションを発行した」と主張。一方、アオキHDは「発行価額は客観的な分析に基づくものである」「行使条件達成は容易ではない」「本有償ストックオプションは報酬ではない」「東証の規則上公表が求められていない水準であっても、業績予想の修正を行っても問題はない」と反論、両者の主張は対立している。

 アオキHDが依頼したプルータスコンサルティングのオプション価値算定によると、本有償ストックオプションのプレーンバリューは1株当たり2,640円であるものの、権利行使条件の達成可能性等を加味すると発行価額は15円が妥当として、実に99%以上のディスカウントが行われている。


プレーンバリュー : 権利行使条件の達成可能性等を考慮しない場合のオプション価値

アオキHDが青木宏憲氏および青木孝憲氏に発行した有償ストックオプションの行使条件は以下のとおり。

2024年5月期から2029年5月期までの6事業年度のいずれかの期において、当社の経常利益が220億円を超過した場合、本新株予約権を当該経常利益の水準を最初に充たした期の有価証券報告書の提出日の翌日から行使することができる。
ただし、2020年5月期以降、経常利益が上記の目標を達成する前に、経常利益が110億円を下回った場合、本新株予約権を行使することができない。
なお、経常利益の判定においては、当社の有価証券報告書に記載される連結損益計算書(連結損益計算書を作成していない場合、損益計算書)における経常利益を参照するものとし、当該連結損益計算書に、のれん償却費用及び本新株予約権に係る株式報酬費用が計上されている場合には、これによる影響を排除したのれん償却費用及び株式報酬費用控除前経常利益をもって判定するものとする。

アオキHDの2024年5月期の経常利益は201億円であり、一見「経常利益220億円」という有償ストックオプションの行使条件を達成できていないように見える。その謎を解く鍵が、上記の行使条件にある「のれん償却費用及び本新株予約権に係る株式報酬費用を含めずに経常利益を判定」する旨の一文だ(上表赤字部分参照)。実はアオキHDは2024年5月期において、販売費及び一般管理費に「本新株予約権に係る株式報酬費用」68.1億円を計上している。仮にのれんの償却2.7億円を加算した70.8億円の「のれん償却費用及び本新株予約権に係る株式報酬費用」を含めなければ、経常利益は271.8億円に上る(金額は千万円未満を四捨五入)。

アオキHD2019年5月期からの経常利益等の推移
項目 2019年5月期 2020年5月期 2021年5月期 2022年5月期 2023年5月期 2024年5月期
経常利益(A) 146.2億円 168.2億円 173.4億円 157.9億円 191億円 201.0億円
のれんの償却(B) なし なし 1.9億円 2.2億円 2.5億円 2.7億円
本新株予約権に係る株式報酬費用(C) なし なし なし なし なし 68.1億円
のれん償却費用及び株式報酬費用控除前経常利益(D=A+B+C) 168.2億円 168.2億円 175.3億円 160.1億円 193.5億円 271.8億円

行使条件をクリアしたかどうかの判定期間は2024年5月期から2029年5月期までの6事業年度あるが、判定期間の初年度である2024年5月期に早くも行使条件を達成したことになる。これにより、青木宏憲氏および青木孝憲氏は2024年8月から有償ストックオプションの行使が可能となった。仮に両氏が有償ストックオプションを行使すると希薄化が生じるため、オアシスは2024年7月9日、両氏に対し、ストックオプションに関する損害約73億円()の賠償を求める株主代表訴訟を提起するとともに、司法による判断が下されるまでストックオプションの行使を行わないよう要求している(オアシスのリリースはこちら)。


希薄化 : 1株当たりの価値が下がること。「希釈化」と同義。希薄化率は「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存か部主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。

 オアシスは、オアシスが依頼した第三者が試算したところ、権利行使条件の達成可能性等を加味してもディスカウント率はせいぜい20%程度であり、発行価額は2,101円が妥当とした。そのうえで、プルータスコンサルティングが算定した15円との差額(2,086円=2,101円-15円)に3,500,000株(本新株予約権を行使することで青木宏憲氏および青木孝憲氏が手にするアオキHD株式の数)を乗じた約73億円の損害が会社に生じると主張している。この会社の損害は目に見えにくいが、オアシスの主張によると、青木宏憲氏および青木孝憲氏以外の株主(一般株主。少数株主とも言える)が1株当たり2,086円に上るアオキHD株式の過剰なディスカウントに起因する純資産の低下という形で負担していることになる。

青木宏憲氏および青木孝憲氏に対する株主代表訴訟の提起という事態に対し、アオキHDは2024年7月19日現在、何ら適時開示を行っていない。もっとも、東証の適時開示ルールでは、上場会社の役員が訴訟の提起を受けた場合、「訴訟の提起又は判決等」の開示はたとえ株主代表訴訟であっても不要であり、「その他重要な発生事実」(発生事実に関するいわゆるバスケット条項)として開示の要否を会社が判断することとされている(東証の開示ルールはこちらを参照)。創業家、イオンに次ぐアオキHDの大株主であるオアシスによる代表取締役等への代表訴訟提起であり、かつ、有償ストックオプションの行使により希薄化が生じることから、株主の関心事であると思われるため、アオキHDは訴訟告知書の受領をもって開示するものと予想される()。


バスケット条項 : 規制の対象となる事実を細かく列挙して定める際に、広く網をかけるために最後に設置される「その他●●なもの」といった規定のこと。状況の変化や当初想定していなかった事態が生じた際にも弾力的に対応できるメリットがある。

 本ニュース掲載後の2024年7月25日にアオキHDは本代表訴訟についてのリリースを行っている。このリリースには訴訟告知書の受領日は2024年7月24日であったことが記載されている。

なお、株式報酬費用()は本ストックオプションの権利行使条件の達成可能性次第で計上することになる。220億円という水準の経常利益は過去に達成したことがなく、さらに「ただし、2020年5月期以降、経常利益が上記の目標を達成する前に、経常利益が110億円を下回った場合、本新株予約権を行使することができない。」「本新株予約権の割当日から 2024年5月20日までの間に、東京証券取引所における当社株式の普通取引の終値の平均値(当日を含む連続した過去 42 取引日の平均値)が、一度でも行使価額(当初は6,830円だったが、2023年11月20日を基準日として実施した「1株→3株」とする株式分割により2,276円)の70%を下回った場合、それ以降、新株予約権者は未行使の本新株予約権を行使することができない。」といった条件が付されており、権利行使条件が満たされないことによる失効の可能性があった。しかし、アオキHDは2024年5月期の第2四半期において、本ストックオプションの「権利行使条件を達成する可能性が高まったことにより、権利行使条件が満たされないことによる失効の見積数に重要な変動が生じた」ため、当第2四半期連結累計期間の四半期連結損益計算書の販売費及び一般管理費に、「株式報酬費用」として6,015百万円を計上した。第3四半期以降、さらに権利行使条件を達成する可能性が高まったことから、最終的に2024年5月決算において68.1億円の株式報酬費用を計上している。

 企業会計基準委員会の企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」第7項や実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」によると、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額(公正な評価単価(アオキHDのリリースによると、本有償ストックオプションについては、1株あたり2,073円)に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定)から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を算定する。具体的には、権利不確定により失効する数を見積もり、その分を控除して算定することになる。

また、オアシスが設定したテーマの2つ目「青木代表取締役社長等取締役3名が取締役として適任かどうか」について、オアシスは青木宏憲氏、青木孝憲氏および八幡亮一氏を解任することを求める株主提案議案を提案し、当該提案に賛成するよう、株主に呼び掛けている(オアシスのリリースはこちら)。これに対して、アオキHDは2024年7月18日にリリースを公表し、同社取締役会はオアシスの株主提案に対して反対するとの考えを表明している。

ちなみに、同社では取締役の任期は定款で1年間とされており、2024年8月16日の定時株主総会で任期が満期になる(いったん退任になる)。それにもかかわらず、オアシスはあえて「解任」議案を提出している点、注目される。アオキHDの取締役会は、再任に係る議案について反対する旨の議決権を行使すれば、青木代表取締役社長等取締役3名を取締役として再任させないとの意思表明が可能であるにもかかわらず、別途解任することに実質的な意義は認められないとしている。それでもなおオアシスが「解任」を求めているのは、「実質的な意義」というよりは、「解任」という言葉が持つインパクト(「解任」の方が機関投資家や一般株主の注目を集め、浮動票が流れ込みやすく、単なる「再任の反対」よりも票を集める可能性がある)や「解任」という意思表示の場を設けること自体に意味を見出しているからだと思われる。

昨年(2023年)のアオキHDの定時株主総会では、「取締役会決議による経営者に対するストックオプション発行が少数株主利益を毀損するもの」「少数株主利益を保護するための適切なガバナンス体制を構築していない」といった機関投資家の不満や議決権行使助言会社(ISS・グラスルイス)がオアシス側に立つ動きも見られただけに、今年は一般株主がどう判断するのかが決議の行方を左右することなろう。アオキHD定時株主総会における議決権行使結果については判明し次第続報する。

2024/07/18 【新任役員向けトレーニングプログラム】人的資本開示および人事戦略の動向 の更新

下記の【新任役員向けトレーニングプログラム】につき、法令等の改正や実務動向の変化に対応するため、あらたに講義を追加いたしました。本動画は新任役員向けトレーニングプログラムの受講の契約をされている方のみが閲覧可能です。

概略

2023年3月期の有価証券報告書から求められることことなった人的資本開示に対応するため、統合報告書などの任意開示を併せた開示の全体像をどう構築すべきか、近時の人事戦略の動向も踏まえて解説していただきます。

【講師】
株式会社大和総研 
主席コンサルタント 元秋 京子
【講義時間】35分11秒
【目次】
Ⅰ. 人的資本を取り巻く動き
Ⅱ. 参考資料
Ⅲ. 人的資本経営の開示例

講義資料 人的資本開示および人事戦略の動向.pdf
講義

人的資本開示および人事戦略の動向
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2024/07/18 人的資本開示および人事戦略の動向

概略

2023年3月期の有価証券報告書から求められることことなった人的資本開示に対応するため、統合報告書などの任意開示を併せた開示の全体像をどう構築すべきか、近時の人事戦略の動向も踏まえて解説していただきます。

【講師】
株式会社大和総研 
主席コンサルタント 元秋 京子
【講義時間】35分11秒
【目次】
Ⅰ. 人的資本を取り巻く動き
Ⅱ. 参考資料
Ⅲ. 人的資本経営の開示例

講義資料 人的資本開示および人事戦略の動向.pdf

※本プログラムの講義資料は、講師のご要望によりダウンロードおよび印刷不可となっております。WEB上で開いて閲覧いただきますよう、お願い申し上げます。

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人的資本開示および人事戦略の動向

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2024/07/17 ROEやPBRが高い企業が東証の要請に基づく開示を行わない理由

東証は2024年7月12日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関するキーワードをコーポレートガバナンス報告書に開示している企業(「検討中」とした企業を含む。以下同)の一覧表を更新した。一覧表は2024年1月15日に2023年12⽉末時点の開示状況を公表して以来毎月更新されており、今回が7回目の更新となる。

今回の更新で、2023年10月26日に東証が「開示企業一覧」の公表をリリースして以来(2023年11月7日のニュース「開示企業一覧表に掲載されるためのキーワードが確定、 CG報告書はいつ再提出する?」参照)、4~7月期決算企業を除くプライム市場上場企業の約95%が株主総会を開催し、コーポレートガバナンス報告書の更新時期を迎えたことになる。特に今回の一覧表の更新は6月総会の直後ということもあり、・・・

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