2024年6月の株主総会で株主提案を受けた企業は91社と、過去最高を記録している。もっとも、2023年6月の株主総会でも株主提案を受けた企業は90社に達しており、トレンドとしては“頭打ち”と見ることもできる。当面は毎年の6月総会シーズンで100社に近い上場企業が株主提案を受ける流れが続くことも予想される。そして、そのうち約半数はアクティビストなど機関投資家によるものとなろう。
当フォーラムでは近年の株主提案における傾向を分析するため、過去3年間の「7月~6月」における適時開示情報で確認された「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」に類するプレスリリースをチェックし、主にコーポレートファイナンスの観点から投資家の関心事となったと考えられるキーワードの使用状況を調査した。その結果は下表のとおり。
| 年(7月~6月) |
ROE |
資本コスト |
PBR
|
DOE |
| 2022年 |
25社 |
17社 |
11社 |
4社 |
| 2023年 |
36社 |
27社 |
26社 |
11社 |
| 2024年 |
52社 |
47社 |
37社 |
29社 |
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
東証が2023年3月31日にプライム市場およびスタンダード市場上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことを受けて、2023年6月株主総会では、同要請のタイトルや内容を引用した株主提案が増加したことは、2023年5月9日のニュース『東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ』でお伝えしたとおりだ。2024年6月株主総会でも同様のトレンドに拍車がかかっており、「ROE」「資本コスト」「PBR」といったキーワードを株主提案に引用するケースが引き続き増加している。
さらに、2024年6月株主総会における特徴としては、「DOE(純資産配当率)」という用語を記載した株主提案が目に付く。絶対数こそ上述の3つのキーワード(ROE、資本コスト、PBR)よりは少ないものの、前年比で2.6倍と急激している。DOEは配当総額を分子、株主資本を分母とするため、当期純利益を分母とする配当性向と違って数値のブレが小さく、安定的な配当政策の基準とするのに適していることから、近年、上場企業における株主還元指標としての採用が相次いでいる。またDOEは「ROE×配当性向」に分解できることから(詳細は(新用語・難解用語)DOEの図参照)、自社のROE水準を踏まえた独自の配当政策を導出、説明するツールとしても優れている(ケーススタディ「【配当】会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい」参照)。
DOE(純資産配当率) : Dividend on Equityの略。「年間配当額÷純資産(期首時点と期末時点の『純資産の部』合計額の平均 )」によって算出される。
配当性向 : 当期純利益に占める「配当金」の割合
生命保険協会が2024年4月に公表した『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について』によると、株主還元の数値目標としてDOEを用いている上場企業の数は、2014年には35社に過ぎなかったが、2023年になると92社と3倍近くに増加している(5ページ右の表「株主還元に関する数値目標別公表会社数」参照)。配当性向(563社)や総還元性向(230社)と比較すれば未だ少ないが、株主還元の指標として着実に存在感を高めていると言えよう。
総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
上場企業の間でDOEが一般的な概念になってきたことを受けて、株主提案においても「説得力の伴った」「反対することが難しい」ロジックを構築するため、DOEが用いられるようになったものと推測される。下表の株主提案事例では、いずれも配当性向と組み合わせてDOEが用いられており、ROEの水準が低い場合はDOEが採用される仕組みとなっている。まさに「事業の成長性が低いならば株主に資金をより多く返すべき」との考え方に沿った要求と言える。なお、日本の上場企業の平均的なDOEは2~3%の水準にとどまっており、下表の株主提案者による要求レベルは、程度の差こそあれ、いずれも実態を上回っていることには留意したい。
*前提となる
定款変更議案の賛成率(同議案の否決により剰余金処分議案は審議されず)
| 企業名 |
提案者 |
議案 |
DOEなどの要求水準 |
賛成率 |
| 熊谷組 |
OASIS INVESTMENTS. |
剰余金処分 |
配当性向50%またはDOE4% 以上のいずれか高い方 |
22.9% |
| 淀川製鋼所 |
ストラテジック キャピタル |
剰余金処分 |
配当性向100%またはDOE7% に相当する額のどちらか高い 方の金額 |
28.8%* |
| 日邦産業 |
GLOBAL ESG STRATEGY |
定款一部変更 |
配当性向100%または純資産 DOE 10%のどちらか高い方 |
15.7% |
総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
また、「DOE」というキーワードは、株主提案に対する取締役会の反対意見においても多く用いられている。その中には「DOE3.0~4.0%を目安とする」(マブチモーター)や、「DOEは5.3%と向上している」(インテージホールディングス)など、相対的に高い水準の目標や実績を株主に訴えるものも見られる。上場企業各社にあっては、株主の信任を得るための手段として、DOEを軸とした財務戦略を策定し、株主に説明することも検討に値しよう。