今年の6月の株主総会シーズンにおいても“委員会型ガバナンス”に機関設計を変更する上場会社が相当数に上ることが分かった。当フォーラムが適時開示情報を調査したところ、「指名委員会等設置会社」「監査等委員会設置会社」への移行に関するリリースを行った会社数は下表のとおり昨年の6月株主総会シーズン前1年間とほぼ同数となっている(重複および機関設計の変更に関連しないものを除く)。特に監査等委員会設置会社に移行する定款変更議案が数多く上程されている。
| リリース日 | 2022/7/1~2023/6/30 | 2023/7/1~2024/6/4 |
| 指名委員会等設置会社 | 6社 | 4社 |
| 監査等委員会設置会社 | 122社 | 111社 |
ガバナンス体制の変更は取締役会のあり方に直結する。例えば監査役設置会社の取締役会は「重要な財産の処分や譲受」「多額の借財」など重要な業務執行について審議・決議しなければならないが、委員会型ガバナンスであれば「経営に関する基本的事項」を除いて執行役に委任できる(監査等委員会設置会社の場合は、①取締役会の過半数が社外取締役である場合、あるいは ②取締役会決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任することができる旨の定款の定めがある場合のいずれかの要件を満たす場合には、重要な財産の処分及び譲受け等の一定の事項を除き委任できる)。このため、委員会型ガバナンスの下では、取締役に求められる機能・役割は一層、監督中心になるはずだ。また、監査役は一般に実査権限を駆使して適法性監査を実施する一方、監査等委員である取締役は内部監査部門との連携を基本として妥当性監査も行う。このように両者には権限と役割に差異が存在する(監査役と監査等委員の違いは2016年5月25日のニュース「監査役と監査等委員の違い」参照)。
実査 : 監査を行う者が実際に現物にあたること。
適法性監査 : 取締役の職務執行が法令や定款に準拠して実施されているか否かを検討する監査。
妥当性監査 : 取締役の職務執行が経営方針等に準拠して合理的であるか否かを検討する監査。取締役の職務執行が法令や定款に準拠して実施されているか否かを検討する適法性監査とは区別される。
したがって、監査役型から委員会型のガバナンスに移行する場合、取締役に期待する機能・役割を定義するスキル・マトリックスも少なからず変更されて然るべきだと考えられる。例えば、「監査役型」では業務執行に関するマネジメント・スキルが含まれていたが、「委員会型」への移行に伴いモニタリング・スキルに絞られる、あるいは監査役に求めていた実査スキルが不要とされるなどによりスキル項目数が減少することが想定される。また、項目数のみならず、項目名自体も見直されることが考えられよう。
そこで当フォーラムが、上表の「2023/7/1~2024/6/4」におけるガバナンス体制変更企業のうち、時価総額上位10社(指名等委員会設置会社:2社、監査等委員会設置会社:8社)のスキル・マトリックスを前年と比較したところ、スキル項目名が変更された事例は2社にとどまっており、残りの8社は新たなガバナンス体制に移行後もスキル項目に変更はなかった。言い換えれば、取締役に期待する機能・役割を全く変更していない、ということになる。なお、変更があった2社のうち1社についても、前年は別項目だった「法務」「リスクマネジメント」を統合するなどマイナーな変更にとどまっており、実質的には10社のうち9社が、スキル・マトリックスの変更を伴わず委員会型ガバナンスに移行したことになる。
スキル・マトリックスを明確に改定したのが資生堂だ。同社は株主総会招集通知において、「当社は、指名委員会等設置会社へのガバナンス体制変更を第2号議案で提案しており、当該新体制下での「取締役に求める主な知識・知見」について、下記のとおり再構築しました」と説明したうえで、以下のようにスキル項目を変更している。
| 2023:監査等委員会設置会社 | 2024:指名委員会等設置会社 |
| 1 企業経営 | 1 上場企業トップ経験 |
| 2 営業・マーケティング | 2 企業経営経験 |
| 3 研究・商品開発 | 3 BtoC、隣接業界経験 |
| 4 サプライネットワーク | 4 ブランドマーケティング |
| 5 財務 | 5 法務・リスクマネジメント |
| 6 DX | 6 財務・会計・金融 |
| 7 人財・組織開発、D&I推進 | |
| 8 コーポレートガバナンス | |
| 9 グローバル理解 |
監査等委員会設置会社時代にあった「③研究開発・商品開発」「④サプライネットワーク」「⑥DX」「⑦人財・組織開発、D&I推進」「⑨グローバル理解」はマネジメント・マターとして、指名委員会等設置会社としてのスキル・マトリックスからは除外された。「⑧コーポレートガバナンス」が除外されたのは、指名委員会等設置会社の①上場企業トップ経験、②企業経営経験に含まれるとみることもできるが、指名委員会等設置会社の取締役全員が必ず備えるべき“最低限の選任条件”と捉え、あえて明示されなかったとも考えらる。
スキル・マトリックスが全く同じかほぼ変わらない場合、その理由として「既にモニタリング型の取締役会が確立しており変更の必要はない」「新しい中期経営計画の公表時に併せて変更する」「まずは機関設計を変更し、スキル・マトリックスについては改めて検討する」などが考えられるが、もしそのような理由があるのなら、スキル・マトリックスに説明を加えておきたい。逆に何も説明がないと、投資家に「形だけのガバナンス体制の変更ではないか」などと捉えられるリスクがある。投資家はガバナンス改革の本気度をスキル・マトリックスからも読み取ろうとしているという点、認識しておきたい。

