2024/06/17 【2024年5月の課題】日本企業の役員報酬の現状と今後の方向性 解答 (会員限定)

日本企業の役員報酬における2つの変化

これまで、日本企業における役員報酬は、以下の2つの点で大きく変化してきました。

1つは報酬水準の高額化です。かつて日本企業の役員報酬は欧米企業と比べて低い水準となっていましたが、コーポレート・ガバナンス向上への取り組みを前提とした投資家からの期待に応える形で、報酬水準の上昇が志向されるようになりした。その結果、グローバルに事業を展開する日本企業を中心に、既に欧米企業並みの水準まで役員報酬が引き上げられているところも出てきています。

もう1つは、報酬水準の上昇にも関連しますが、業績連動報酬の拡大です。かつての日本企業の役員報酬に占める業績連動報酬の割合は、欧米企業と比べるとかなり低くなっていました。具体的には、株式報酬等の中長期インセンティブはほぼなく、また短期インセンティブである年次賞与の割合や変動度合いも不十分という、インセンティブとしての実効性に疑念が持たれる状況にありました。こうした状況を踏まえ、株式報酬の導入や拡大等中長期インセンティブ強化に年次賞与の拡大も加えた業績連動報酬全体の拡大が志向されてきたところです。

こうした変革を経た日本企業の役員報酬の現状を欧米企業と比較してみましょう。世界的な人事コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンの調査「日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較」によると、未だ報酬水準自体は欧米企業に及ばないものの、業績連動報酬の割合は欧州企業に匹敵する水準となっていることが分かります。

このように、日本企業は欧米企業を手本としながら、投資家からの要請にある程度対応してきたと言えるでしょう。

日本企業の役員報酬について残された課題

昨今の日本企業では、上述のような報酬水準の引上げや報酬構成の見直しのみならず、業績連動報酬の仕組みや、役員報酬制度そのものへの考え方なども議論されるようになっています。具体的には以下のようなものが挙げられます。以下、それぞれについて解説します。

1.報酬水準のさらなる上昇

上述のとおり日本企業の役員報酬の水準は上昇トレンドにありますが、この傾向は未だ継続しています。その中には、これまでと同様に積極的に報酬水準の引上げを志向するケースもあれば、必ずしも報酬水準の引上げは目的としていないものの、結果的に報酬水準が上昇することとなるケースも多くあります。

役員報酬を改定する場合、既に固定的に支払われている報酬を削減することなく、業績連動報酬を拡大することにより報酬の獲得機会を増やすのが基本的な考え方となります。このため、結果として報酬水準の上昇トレンドが維持されることになります。

しかし、業績連動報酬のみを拡大するとなると、固定報酬部分の水準は上昇しないため、報酬構成割合は欧米州企業に近づいているものの、全体の報酬水準をみると欧米企業には及ばないというのが日本企業の現状となっています。固定報酬を増額することは投資家の目線を踏まえると難しい面もありますが、欧米企業を意識した報酬水準や報酬体系を確立していくにあたっては、役員報酬の基盤としての十分な固定報酬部分を確保することも必要と言えるでしょう。

2.サステナビリティ関連指標の採用拡大

新型コロナウイルスの影響を含む社会情勢や急激な円安をはじめとする金融環境の不確実性の観点から、このところ企業の中長期的な価値創造を重視する声が一段と高まっています。こうした中、投資家や社会の要請に応えるべく、サステナビリティ関連指標を役員報酬の評価指標として採用する企業が増えています。こうした動きは日本企業のみならず欧米企業でも進んでいます。しかし、サステナビリティ関連指標は、必ずしもグローバルで一定の傾向があるわけではありません。例えば米国企業では人的資本関連の指標が重視されている一方、欧州企業では気候変動関連の指標が重視されている状況にあります。

日本企業では、欧米企業の動向は意識しつつも、自社の業態やビジネス環境、今後の戦略等を踏まえて自社独自の課題や取り組みを定めたうえで指標を模索するケースが多く見受けられます。すなわち、特定のサステナビリティ関連指標にフォーカスするのではなく、自社の価値創造ストーリーに沿った形で指標が選定されています。

3.株価評価指標の採用拡大

株価評価指標は、欧米企業の中長期インセンティブの評価指標としては極めて一般的なものとなっています。特にTSR(Total Shareholders Return=株主総利回り)は配当も加味しており、株主の利益そのものを表す指標であるため、特に役員報酬の水準が高額な米国企業では、報酬額の正当性を説明するための手段として必要不可欠な指標となっています。またサステナビリティ関連活動などその評価が難しいものも最終的には株価に反映されると考え、あくまで「株価」で評価するという立場をとることも可能です。このようにTSRは投資家に説明するうえでも非常に使い勝手の良い指標であり、今後は日本企業の間でも益々普及することが見込まれます。

4.株式保有ガイドラインの拡大

日本企業は、「経営陣は株主との利害共有が十分ではない」という指摘を踏まえ株式報酬の拡大を図ってきたという経緯がありますが、近年は、株式を長期保有することを株式保有ガイドラインによって担保するよう投資家からの要請があります(株式保有ガイドラインの詳細については【2023年2月の課題】株式保有ガイドライン導入の動きと導入に向けた取り組み方参照)。

株式保有ガイドラインは、既に欧米企業では「基本報酬のX倍の株式数を保有することを義務付ける」といった形で一般的に導入されているものであり、基本的には日本企業にも同様の内容が求められています。ただし、日本企業では保有目標株式数を欧米企業に並ぶレベルで設定することが難しいことも多々あります。このような場合には、役員が個人で株式を追加購入する必要が出てくることも考えられます。しかし、現状の日本企業では、まずは株式保有ガイドラインを導入することが喫緊の課題となっているため、一足飛びに欧米企業並みとはいかず、まずは株式報酬のみで保有目標株式数の達成が可能な現実的な目標を設定する事例が多くなっています。しかし、今後、日本企業の間でも株式保有ガイドラインの導入が一般的になった際には、保有目標株式数もより高いレベルを求められることになるでしょう。

5.職務のサイズや役割に応じた報酬のあり方の検討

日本企業の役員報酬制度は、一般的に社長、専務、常務などの役位毎に報酬テーブルを設定したうえで運用されています。しかし近年、役位制度は実際の職務サイズと必ずしもリンクしていないのではないかという指摘があり、職務サイズや役割に応じた報酬体系を再検討する日本企業が増えています。

具体的には、職務内容を再定義するために、CXO制度を導入します。ただ、それだけでは、その職務のサイズが不明なため、それぞれのCXOの職務内容にグレーディング(格付け)を行うことで職務のサイズを数値化します。こうして決定された職務内容及びグレードを踏まえて他社の報酬をベンチマークし、それぞれのCXOの報酬水準等を決定していきます。


ベンチマーク : ■競合他社で同様の仕事をする労働者等に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者等に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。

ただし、これまで使用してきた役位を廃止することは企業にとっては大きな変化であるため、段階を踏んで対応を図る企業も見られます。具体的には、まずはCXO制度やグレードのみを導入し、一定程度時間を置いた後に報酬とリンクさせるという2ステップを踏むやり方です。

6.役員報酬と従業員の給与の一貫性をもった検討

これまで、日本企業においては、役員報酬は従業員の給与とは“別モノ”として扱われるのが一般的だったと言えます。実際、従業員の給与は人事部門が担当し、役員報酬は秘書室が担当するなど、そもそも管轄する部署が異なるケースは未だに少なくありません。

こうした中、近年はあえて両者を区別せず、一貫性をもって検討する企業が増えてきています。具体的には、従業員の最高位と役員の最下位の金額の差異が、自社の人事戦略と照らして適切であるかどうかや、従業員の給与の競争力と役員報酬の競争力に差異がありすぎないかどうか、といった点が検討のポイントとなることが多くなっています。

おわりに

これまで解説してきたように、昨今の日本企業における役員報酬に関する議論を見てみると、必ずしも欧米企業に後れをとっていた部分にキャッチアップするということのみならず、欧米企業でも現在議論されている論点について、日本企業の各社がどうあるべきかを検討するという流れが出てきています。日本企業における役員報酬の課題とは、欧米企業を見習って対応すれば正解が見つかるというような単純なものではなく、各社の状況を踏まえたうえで、答えのない課題に対する取り組みが既に始まっていると言えるでしょう。

2024/06/14 7&iの株主総会に見る 「人手不足」に関する質問への対応

野村総合研究所
上級研究員 三井千絵

上場会社役員ガバナンスフォーラム
株主総会取材班

人的資本への投資の重要性が指摘される中、そもそも投資対象とすべき「人的資本」の不足、すなわち人手不足に悩まされている企業は少なくない。業種・業態によっては採用活動で苦戦している企業も目に付く。

このように人手不足が日本企業の重要な経営課題となっていることを改めて認識させたのが、・・・

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2024/06/14 7&iの株主総会に見る 「人手不足」に関する質問への対応(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員 三井千絵

上場会社役員ガバナンスフォーラム
株主総会取材班

人的資本への投資の重要性が指摘される中、そもそも投資対象とすべき「人的資本」の不足、すなわち人手不足に悩まされている企業は少なくない。業種・業態によっては採用活動で苦戦している企業も目に付く。

このように人手不足が日本企業の重要な経営課題となっていることを改めて認識させたのが、セブン&アイ・ホールディングス社(以下、7&i)の株主総会だ。2024年6月総会が目前に迫る中、一足先の5月末に開催された7&iの株主総会でも、人手不足やそれに派生する質問が相次いだ。

四ツ谷駅前の本社ビルの大きな会議室で開催された7&iの株主総会には200人を超えると思われる株主が出席した。質問をする株主の多くはフランチャイジーと見受けられ、環境、顧客の嗜好といった質問とともに経営陣に投げかけられたのが「人手不足」への不安だ。

「今後フランチャイジーの担い手はどうなるのか」「このようなビジネスをやりたい人は減るのではないか」「店主の高齢化はどのような状況か」といった質問が株主から出されると、同社の永松社長は「フランチャイジーの再契約率も高く、あまり心配していない」と回答した。しかし、その後も複数の株主から同様の質問があり、なかには「人手不足に対しては危機感というより恐怖感を感じている」という切実な声も聞かれた。永松社長からは、「店舗の人手不足についてはセルフレジの導入や離職率を下げるために本部で研修を実施している」との回答があったが、それは人手不足解消の一手段とはなっても、根本的な解決策とはならないと感じた株主も少なくないものと思われた。

人手不足の問題は賃金の問題(低さ)とともに語られることが多い。この日も株主から、「事業報告の中で人権についての取り組みに触れていたが、本社だけでなく加盟店も従業員の賃上げができるように、例えば売上に対する本社へのロイヤリティのチャージ比率を見直すといった施策はないのか」という、事実上7&iに対するロイヤリティの引下げを求める質問も出された。これに対して7&i側は「持続的な成長が重要。そのためには常に投資をしていかなければならない。」と強調することでかわしている。

このほか「TVコマーシャルが商品重視。もっと従業員に光を当て、働きたくなるようなメッセージを」というリクエスト(これに対して7&i側は「前向きに考えたい」と回答)や、家族形態の変化への対応に関する質問も出された。セブンイレブンのフランチャイジーになるためには、店舗経営の安定性を確保する観点から“履行補助”というパートナーが必要だが、現状、履行補助の関連規定が「夫婦」を前提にしたものになっており、昨今の家族形態に合わずフランチャイジーになれないという問題意識だ。「例えば独身者がフランチャイジーになろうとする場合、履行補助者が両親や兄弟であってもよいのではないか」という株主からの提案に永松社長は深く頷きながら耳を傾け、「この問題は十分に認識しており、生涯独身であるケースやご兄弟がいないケースなど生活形態の変化を踏まえ、いかに今の時代に合った制度にしていくか、現在社内で検討している」と回答した。さらに株主総会の終盤では、24時間営業や賞味期限が近くなった商品の値引きを訴えてきた店主のうちの1人と思われる株主が、これまで7&iが取ってきた対応を振り返りつつ、「人権を大切にするというのであれば、賃金を含め、もっと具体的な表現で株主が納得できるような回答が欲しい」旨を求め、株主総会は終了した。

ここまで詳細な質問が相次ぐ株主総会は少ないが、「人的資本」「人材不足」といった近年多くのステークフォルダーが関心を持つ問題については、7&iのような他社事例も参考にしながら、株主総会での質問に対する回答を用意しておく必要があろう。

2024/06/13 自社の内部監査への信頼を獲得するための工夫

2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コード補充原則4-13③および2013年に改正された開示府令(コーポレートガバナンスに関する開示)を通じて、内部監査における「デュアルレポーティング」は相当程度一般化してきたものとみられる。東証が公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2022年7月14日時点)」によると、補充原則4-13③のプライム市場におけるコンプライ率は99.67%に達している。


デュアルレポーティング : 内部監査のレポート先が、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること。

コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-13③(抜粋)
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(抜粋)
⒞ 内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの有無を含む。)について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。

そもそもデュアルレポーティングがコーポレートガバナンス上の論点となったのは、・・・

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2024/06/13 自社の内部監査への信頼を獲得するための工夫(会員限定)

2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コード補充原則4-13③および2013年に改正された開示府令(コーポレートガバナンスに関する開示)を通じて、内部監査における「デュアルレポーティング」は相当程度一般化してきたものとみられる。東証が公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2022年7月14日時点)」によると、補充原則4-13③のプライム市場におけるコンプライ率は99.67%に達している。


デュアルレポーティング : 内部監査のレポート先が、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること。

コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-13③(抜粋)
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(抜粋)
⒞ 内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの有無を含む。)について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。

そもそもデュアルレポーティングがコーポレートガバナンス上の論点となったのは、金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が2019年に公表した「意見書(4)コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」において「守りのガバナンス」の重要性を提起したことによる。

フォローアップ会議「意見書(4)」監査に対する信頼性の確保(4ページより抜粋)
内部監査部門については、CEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていないとの指摘がある。
内部監査が一定の独立性をもって有効に機能するよう、独立社外取締役を含む取締役会・監査委員会や監査役会などに対しても直接報告が行われる仕組みの確立を促すことが重要である。
こうした内部監査の問題をはじめ、「守りのガバナンス」の実効性を担保する監査の信頼性確保に向けた取組みについて、企業の機関設計の特性も踏まえつつ検討を進める。

「CEO等」自身に不祥事や業績悪化の責任が帰属する場合、その指揮命令下にある内部監査部門が有効に機能せず自浄作用が期待できないため、「CEO等」をモニタリングする監督機関に対して内部監査部門が直接報告するルートが必要とされているわけだ。要するに、経営トップが自らに都合の悪い情報を“握り潰す”ことを防ぐ趣旨と言える。

この“握り潰す”リスクを掘り下げて考えると、CEO「等」、経営トップ以外の役員が内部監査部門を担当している場合、その担当役員が経営トップおよび監査機関の双方にレポートする役割を果たしているならば、その段階で情報の隠蔽が行われる恐れがある。内部監査部門が経営トップ直轄であれば、報告者は通常内部監査部門長であり、トップ向けと同様の報告が監査機関にも行われると推定できるが、間に「担当役員」というワンクッションが入るとなれば話は違ってくる可能性がある。

この点、2017年の少し古い調査になるが、日本監査役協会が取りまとめた「監査役等と内部監査部門との連携について」では、社長所管の内部監査部門は66.0%と多数派ではあるものの、「会社規模が大きくなるほど、社長専管ではなく、他部門と兼務して所管する役員を配置する割合が高くなる傾向にある」「規模が大きくなれば、社長が直接担当することが難しくなるものと思われる」ことが指摘されている(22ページ参照)。事業が多角化、グローバル化した大規模上場会社においては、担当役員を置きつつも適切に機能する仕組みを構築する必要があろう。

そこで当フォーラムでは各社の具体的な取組みを確認するため、TOPIX Core30採用銘柄の有価証券報告書の「役員の状況」に内部監査担当が明記されている事例を調査したところ、4社において記載が見られた。いずれも監査またはその周辺領域に特化した担当となっており、内部監査部門における組織上の独立性に配慮したものと考えられる。

エーザイ 専務執行役 チーフコンプライアンスオフィサー、内部統制・内部監査・知的財産担当
りそなホールディングス 執行役 チーフオーディットオフィサー、内部監査担当
住友商事 常務執行役員 内部統制・内部監査統括責任者
三井物産 執行役員 内部監査部長

さらに各社のウェブサイトを確認すると、住友商事は「社長直属」、三井物産は「社長の命」と、担当役員はいるものの内部監査は社長直轄であることが説明されている。社長以外に責任者を置くならば、エーザイやりそなホールディングスにおけるチーフオフィサーのように、CEOと同列の経営トップの一角であることを明確に示すことが、自社の内部監査に対する信頼性を獲得するためには望ましいと言えそうだ。

2024/06/12 自爆営業の根絶に向け、ノルマの廃止も選択肢に

営業マンが売れ残り商品をやむなく自腹で購入するといった従業員による不必要な商品・サービスの購入は「自爆営業」と称されており、それが使用者としての立場を利用して強要されたものであった場合は、労働基準法違反、パワーハラスメント、民法上の不法行為や公序良俗違反に該当する可能性がある。また、使用者が自爆営業を強要していないとしても、ノルマのプレッシャーやノルマ未達時の不利益(給与や賞与の減少等)や同調圧力が存在すれば、従業員がやむなく自爆営業に追い込まれるケースもあろう。


自爆営業 : 使用者が、労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して当該使用者の商品・ サービスを購入させること

内閣府に設置された・・・

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2024/06/12 自爆営業の根絶に向け、ノルマの廃止も選択肢に(会員限定)

営業マンが売れ残り商品をやむなく自腹で購入するといった従業員による不必要な商品・サービスの購入は「自爆営業」と称されており、それが使用者としての立場を利用して強要されたものであった場合は、労働基準法違反、パワーハラスメント、民法上の不法行為や公序良俗違反に該当する可能性がある。また、使用者が自爆営業を強要していないとしても、ノルマのプレッシャーやノルマ未達時の不利益(給与や賞与の減少等)や同調圧力が存在すれば、従業員がやむなく自爆営業に追い込まれるケースもあろう。


自爆営業 : 使用者が、労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して当該使用者の商品・ サービスを購入させること

内閣府に設置された規制改革推進会議では、このような自爆営業は「労働者に経済的損失や精神的苦痛を与える行為であり、多くの分野で長年発生している社会的問題でもあり、また、社会全体として、高生産性企業への労働移動の円滑化を促す観点からも、根絶する必要がある」として、5月31日に公表した「規制改革推進に関する答申」に、令和6年度中に実施する措置として下表の内容を盛り込んだ(2024年5月31日に規制改革推進会議より公表された「規制改革推進に関する答申」はこちら)。

措置 措置の具体的内容
パワーハラスメントに該当し得る自爆営業に関連する使用者等の言動の例示

厚生労働省は、自爆営業に係る関係法令上の論点を整理した上で、労働基準法、労働契約法及び民法上違法となり得る自爆営業の類型や、パワーハラスメントに該当し得る自爆営業に関連する使用者等の言動の例を明確に示す。また、上記の内容や、具体的な相談先を分かりやすく示したパンフレットを作成する等、企業及び労働者の双方に周知を行う。
労働施策総合推進法に基づく助言・指導

厚生労働省は、パワーハラスメントに該当し得る自爆営業に関連する使用者等の言動について労働者等から相談が寄せられた場合、パワハラ防止指針に定める事業主の雇用管理上講ずべき措置について、必要と認められるときは、当該事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、相談に応じ適切に対応するための体制整備、発生後の迅速かつ適切な対応といった必要な方策を講ずるよう、労働施策総合推進法に基づく助言・指導を行うこととする。

また、厚生労働省に寄せられた労働問題に関する相談を業界別に整理して当該業界所管府省に情報共有し、当該業界等の風習や慣習の是正その他の自爆営業を抑止するための取組みを府省横断的に推進するとしている。

さらに規制改革推進会議は、令和6年度中に下記のとおりパワハラ防止指針の改正の検討を開始するとしている。

検討する措置 検討する措置の具体的内容
パワハラ防止指針の改正 厚生労働省は、職場における自爆営業に関連する使用者等の言動がパワーハラスメントの3要素(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労推法」という。)第30条の2第1項に規定する、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの)を満たす場合は、パワーハラスメントに該当する可能性があることに鑑み、使用者及び労働者にその旨を周知する観点から、「パワハラ防止指針」(令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)の改正について労働政策審議会において検討を開始する。

パワハラ防止指針の改正は令和6年度中に「検討」が開始されるため、内容が確定するまでにはもうしばらく時間がかかることになるが、パワハラ防止指針の改正前であっても、使用者による自爆営業の強要がパワハラ認定の3要素をすべて満たせば、パワハラに該当することに変わりはない(パワハラ認定の3要素の詳細については厚生労働省の特設サイト参照)。仮に3要素を満たさないとしても、自爆営業を容認する企業風土は不健全であり、そのような企業風土は早期に改める必要がある。商品力の弱さを自爆営業で糊塗するのではなく、商品力自体の強化に社内リソースを注ぎ込むべきだ。また、自爆営業により100万円以上を負担する従業員がいることも報告されており(令和5年11月15日の第1回「働き方・人への投資ワーキング・グループ」で配布された資料2-5の5ページの事例87ページの事例13を参照)、自爆営業が行われていた企業では、自爆営業の根絶により従業員給与の手取り額は当然増えることになる。


パワハラ認定の3要素 : 職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えて、③労働者の就業環境が害される、という3つの要素のこと

自爆営業が存在してきた企業では、まずは近々に公表される予定の自爆営業についてのパンフレットなどをもとに、自爆営業は「労働者に経済的損失や精神的苦痛を与える行為」であることを社内の共通認識とするべく、経営トップが「自爆営業は許されない」とするメッセージを社内に発信するとともに、自爆営業の禁止を周知するための社内研修を継続的に実施する必要がある。また、これを機に、自爆営業につながるノルマ自体を廃止(あるいは、ノルマ未達により給与・賞与が自動的に下がる仕組みを廃止)することも検討したい。従業員の自社商品購入を原則禁止あるいは購入金額に上限を設けることも一案だが、純粋な福利厚生として自社商品を社員割引で購入したい従業員との兼ね合いも考慮する必要があろう。さらに、自爆営業に特化した内部通報窓口を設けることで、水面下で行われがちな“ステルス自爆営業”をあぶりだすことができる。それらに加えて、内部監査や監査役監査において、従業員向け売上の内容(必然性)をつぶさにレビューすることも考えられる。

上場企業の経営者としては、自爆営業がパワハラに該当しなければそれでよしとするのではなく、そもそも自爆営業を根絶させるために何が必要なのかという視点から、早期に内部統制の構築に着手するようにしたい。

2024/06/11 上場子会社のCMS利用への批判を封じるには?

親子上場に関する論点として、しばしばCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)が批判の対象となる。CMSはグループ内の資金を一元管理することで、資金運用の効率化やコストの圧縮を図ることができるという優れた仕組みだが、上場子会社の資金は少数株主のものでもあるため、上場子会社が親会社グループのCMSに参加するとなると、利益相反の問題が生じることが指摘されてきた。

日本たばこ産業の子会社の・・・

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2024/06/11 上場子会社のCMS利用への批判を封じるには? (会員限定)

親子上場に関する論点として、しばしばCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)が批判の対象となる。CMSはグループ内の資金を一元管理することで、資金運用の効率化やコストの圧縮を図ることができるという優れた仕組みだが、上場子会社の資金は少数株主のものでもあるため、上場子会社が親会社グループのCMSに参加するとなると、利益相反の問題が生じることが指摘されてきた。

日本たばこ産業の子会社の鳥居薬品は今年3月の株主総会で、香港のアクティビストであるリム・アドバイザーズから、CMSを通じた資金運用の必要性等を取締役会で検討して開示する旨の定款変更を求める下記の株主提案を提起された。同議案は反対多数で否決されたものの、12.8%の賛成率を獲得している。

第7章CMSを通じた資金運用の検討結果の開示
(CMSを通じた資金運用の検討結果の開示)
第39条 当会社は、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を通じた資金運用の必要性等について取締役会で検討を行い、当会社が東京証券取引所に提出するコーポレートガバナンスに関する報告書において、その検討結果を具体的に開示するものとする。

また、日本製鉄の子会社の大阪製鐵は来たる6月の株主総会で、日本のアクティビストであるストラテジックキャピタルより、CMSへの参加を禁止する旨の定款変更に関する株主提案を提起されている。シンガポールのアクティビストであるエフィッシモキャピタルマネージメントも同社株式の大量保有報告書を提出しており、どれだけの賛成票を集まるか注目される。


大量保有報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。

第7章 支配株主への預け金又は貸付金による資金提供の禁止
(支配株主への預け金又は貸付金による資金提供の禁止)
第43条 当会社は、日本製鉄株式会社又はその子会社若しくは関連会社に対し、預け金又は貸付金による資金提供を行ってはならない。

鳥居薬品は「キャッシュ・マネジメント・システム預託金」、大阪製鐵は「関係会社短期貸付金」をそれぞれの貸借対照表に計上しており、各アクティビストはこれを確認して株主提案を提起している。貸借対照表に同趣旨の勘定科目が表示されている上場子会社は、いつ同様の株主提案を受けてもおかしくない。株主提案を受けた場合に備え、少なくとも親会社のCMSが少数株主の利益を毀損するものではないこと、自社の企業価値にプラスになることなどを、親会社以外の株主に向けて説明を尽くしておくことが望ましいだろう。

その説明の際に活用すべきなのが、コーポレート・ガバナンス報告書「5.その他コーポレート・ガバナンスに重要な影響を与えうる特別な事情」の記載欄だ。同欄の記載要領は、「5.」の記載に際して参照すべき別添3において、「特に、以下の事項について記載することが考えられます」として、CMSを含むいくつかの項目を例示している。

✓上場関連会社とのグループ経営方針・経営戦略の共有の有無や内容
✓上場関連会社における意思決定プロセスへの関与の有無や内容(例えば、承諾・協議事項の有無や項目など)
✓資金管理体制における上場関連会社の取扱い(例えば、上場関連会社を対象にキャッシュ・マネジメント・システムを活用している場合は、その意義など)

上記記載要領を踏まえたと思われる以下のような開示事例が確認されている。電通の子会社である2社はそれぞれ「利率等を勘案」「市場金利を参考」にしていることを説明している。また中外製薬はCMSに「参加していない」ことを明言している。このような先手を打った開示を、上場子会社自身のみならず支配株主である親会社も、積極的に検討すべきだろう。

電通総研 親会社は資金効率向上のため資金プーリング制度を導入しており、当社グループは利率等を勘案のうえ、有効な資金管理手段として同制度を活用しております。
CARTA
HOLDINGS
親会社との取引に関しては、経営支援料は業務内容を勘案し当事者間の契約により決定しており、資金取引に係る利率については市場金利を参考に、それぞれ一般取引と同様に決定しております。
中外製薬 当社は、ロシュ・グループのキャッシュ・マネジメント・システムには参加しておりません。

2024/06/10 スキル・マトリックスから見えるガバナンス改革の本気度

今年の6月の株主総会シーズンにおいても“委員会型ガバナンス”に機関設計を変更する上場会社が相当数に上ることが分かった。当フォーラムが適時開示情報を調査したところ、「指名委員会等設置会社」「監査等委員会設置会社」への移行に関するリリースを行った会社数は下表のとおり・・・

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