上場会社で従業員による不正な経費精算が発覚しても、それが全て外部に公表されるとは限らない。不正金額が僅少であれば社内ルールに則って淡々と処分されるだけであり、利益にさほど影響がない事案まで逐一外部に公表することはないのが通常だ。しかし、経営トップによる不正経費精算となると話は変わってくる。株主目線からすれば、経営トップの不祥事は経営トップの資質を判断するためにすべて公表して欲しいと考えるのが当然だからだ。もっとも、経営トップによる経費の不適切利用だからといって、その内容や金額にかかわらずすべて公表しなければならないという開示ルールは存在しない。公表・非公表の線引きは悪質さの程度や金額的重要性などに応じて会社ごとの判断に委ねられているのが実状だが、不正に該当するかどうかの判断が難しかったり、金額が僅少であったり、あるいは返金されたことを理由に公表しないという苦渋の判断をした上場会社も少なくないものと思われる。
こうした中、自社の社長による不正の公表に踏み切ったのが、東証プライム市場に上場しているセプテーニ・ホールディングス(以下、セプテーニHD)だ(同社の2024年2月15日のリリースはこちら)。
同社のリリースによると、セプテーニHDの佐藤代表取締役は、私的利用したハイヤー代等の旅費交通費を会社経費に付け替えていた。2023年6月に同社社取締役の指摘に基づき同社監査役会が調査を行った結果、不適切利用された費用は約2,200万円に上ることが判明。セプテーニHDでは、2023年9月に同社監査役会による調査結果の報告を受け、佐藤氏を出席させずに取締役会を開催し、同氏に対する処分を協議した結果、佐藤氏に自主返納を勧告することになった。これを受け、佐藤氏は全額を返納している。
ここで疑問となるのが同社のリリースの遅れだ。同社は2024年2月15日のリリースで、「再発防止策の内容について検討を進め、2023年12月期中に運用を開始し、これらの施策が有効に機能していることを2023年12月期末にて確認できたことから、本日お知らせするに至りました。」としているが、本来であれば、不祥事発覚と再発防止策の実施は別々のリリースにすべきであり、不祥事発覚については、遅くとも取締役会が返納勧告をした時点(2023年9月)ではリリースされるのが常識的と言える。そもそも、再発防止策が機能していることを確認するまでは不祥事をリリースしてはならないなどというルールは存在しないうえ、仮に同社の説明どおり、再発防止策が機能していることを確認してからリリースするとしても、2023年12月末か1月上旬にはリリースがあってしかるべきだろう。
それにもかかわらず公表が2月25日まで遅れた点に不自然さは否めない。場合によっては、セプテーニHDは当初非公表で済ませようとしたが、非公表であることのデメリットが顕在化したため、開示を迫られたのではないかという疑念も生じる。一般的には「マスコミが嗅ぎつけ取材を受けたことから急遽開示することにした」といった理由が少なくないが、同社の場合、1月4日に公表した「主要株主の異動に関するお知らせ」との関係が気になるところだ。
これによると、オアシス マネジメント カンパニー リミテッド(以下、オアシス)が2023年末に同社の株式を10%取得している。オアシスは“物言う株主”として知られており、最近ではフジテック会長との苛烈な攻防戦を展開した(2023年6月21日のニュース「フジテック株主総会、怒声が飛び交う長丁場に 元会長側の株主提案はすべて否決」、2022年7月1日のニュース「創業家社長、アクティビストへの対応が後手に回り社長の座を失う」など参照)。それだけに、資本市場関係者の間では、「オアシスの登場により、セプテーニHDは社長の不祥事の非開示方針を転換したのではないか」との憶測も聞かれる。開示の遅れは、真偽はともかくとしてこのように様々な思惑を呼ぶ。セプテーニHDの一件は、迅速な開示の重要性を改めて認識させられる事例と言えるだろう。
セプテーニHDの佐藤代表取締役は来月(2024年3月)27日に開催予定の定時株主総会でセプテーニHDの代表取締役および取締役を退任する予定であり、退任理由について同社は既に2023年12月11日のリリースで「集団指導体制への移行が目的」と説明している。また、本件不祥事のリリースでは、佐藤代表取締役の退任と同氏の不祥事との間に関連性はないと明言している。これらのリリースからは、一見、不祥事発覚が退任予定公表後であるかのように見えるが、上記のとおり、そもそも経費の不適切利用を取締役が指摘したのは12月11日の退任のリリースの半年前(2023年6月)であり、そこから監査役会の調査により全貌が明らかになったのが2023年9月であることを踏まえると、退任に先駆けて開催された同社の指名・報酬諮問委員会において、不祥事の内容が一切議論されていないとは考えにくい。
フジテックの株主総会では、会長側から「寝返った」「手のひら返し」「社外取締役の職責を果たしていない」と批判を受け続けた神戸大学大学院経営学研究科教授の三品和広社外取締役が長時間の沈黙を破り詳細に反駁したほか(2023年6月21日のニュース「フジテック株主総会、怒声が飛び交う長丁場に 元会長側の株主提案はすべて否決」参照)、証券取引等監視委員会委員を務めた経歴を有する引頭麻美社外取締役がオアシス提案の解任決議前に急遽辞任する(2023年3月1日のニュース「フジテックで社外取解任、アクティビストとの闘争の行方の鍵を握る第三者委員会」参照)といった社外取締役による有言無言のアクションがあった。セプテーニHDの社外取締役には早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏や丸井グループやマネーフォワード等の社外取締役も務める岡島悦子氏などが就任している。セプテーニHDの社外取締役が今後のオアシスの動きにどう対応するのか、注目される。
