政府は2025年にCO2排出量を実質ゼロにする「2050 年カーボンニュートラル」を宣言しているが、その実現に向け、企業に対し産業構造の転換や、脱炭素化の新技術研究開発を促す投資資金を集めるための金融政策の一つとしての「「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債(10年債)」の入札を2024年2月14日に行った。
海外では既に「グリーンボンド」が普及しているが、グリーンボンドは地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど環境改善への取り組みに資金使途が限定された債券であるのに対し、GX経済移行債で集めた資金は、脱炭素への「移行(トランジシ ョン)」に向けたプロジェクト資金の調達を目的としている。したがって、GX経済移行債では、現時点ではCO2排出量排出量に問題のある産業や企業による脱炭素を目指すプロジェクトに対しても資金供給できることになる。すなわち、グリーンボンドでは救えない産業・企業を支援するという点に大きな特徴がある。
世界初となるGX経済移行債の入札額は8,000億円で、最終落札利回りは0.74%と、通常国債の利回りを0.005%下回った。債権の人気は金利に反映されるため、人気が高ければ低い金利でも購入してもらえる一方、人気が低ければ、より高い金利を付けて売る必要が出てくる。すなわち、今回のGX経済移行債は利回りが低かった分、通常国債と比べ、“高値”で買われたということになる。グリーンによるプレミアムは0.005%で、市場予測の0.06%に届かなった。投資家は、GX経済移行債に対してプレミアムを支払ったものの、それほど大きな数字にはならなかったということになる。
プレミアム : ある資産への投資によって予想される収益の変動が大きい(すなわち、リスクが高い)と考えられる場合、市場では相対的に高い収益率が期待される(高い収益率が期待できないのであれば、投資家はリスクの高い資産には投資しない)。プレミアムとは、リスクの高い資産の期待収益率から、それよりもリスクの低い資産の期待収益率を差し引いた超過収益率のことを指す。
現状では、一部の欧米の投資家はGX経済移行債の用途に懐疑的であり、グリーンボンドのように再生可能エネルギー等に用途を絞った債権を好む傾向がある。さらには、GX経済移行債に対しグリーンウォッシングではないかという疑念を持つ投資家もいる。このような海外投資家がGX経済移行債の購入に際して消極的であったことが、今回のGX経済移行債に高いプレミアムがつかなった原因の一つとなっている。
グリーンウォッシング : 商品・サービスなどが環境に配慮しているかのように見せかけ、消費者への訴求効果を高めようとする行為。
しかし、グローバルな視点で考えた場合、GX経済移行債の意義は極めて大きい。ネットゼロの達成は、環境先進国である欧州だけではなく、新興国を含めたグローバルな目標に他ならない。グリーンボンドは欧州等の環境先進国には適していても、CO2排出量が多い産業・企業を抱える国では、グリーンボンドだけでは不十分と言える。これらの国々では、既存の産業を脱炭素へと移行させない限りネットゼロの達成は不可能であるため、既存産業を変換する技術開発への投資が必須であり、そのためにGX経済移行債が果たす役割は大きい。GX経済移行債のようなGXへの取り組みが無ければ、日本だけでなく、グローバルベースでのネットゼロの達成は極めて難しいだろう。
2月27日には、今度は5年債のGX経済移行債が発行される。入札額は、10年債と同様8,000億円程度となっている。10年債同様、あまり高いプレミアムがつかないことも予想される。しかし、GX経済移行債は、日本が2050年にネットゼロを達成するために重要であるうえ、日本だけにとどまらず、新興国をはじめ、炭素排出量の多い産業・企業を抱える国々は、こうした日本のGXへの取り組みに注目している。
GX経済移行債で調達した資金は、補助金の形で企業に拠出される。これが呼び水となって、グリーンボンドではサポートされていない製造業(鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントなど)の産業構造の転換や、脱炭素化の新技術研究開発に対する民間からのさらなる投資が期待されるところだ(例:鉄鋼の場合、炭素排出量の多い高炉から、相対的に排出量の少ない電炉への転換。または、高炉に対して、水素還元製鉄の研究開発を支援(高炉自体の脱炭素化))。
なお、GX経済移行債の償還財源は、2028年に予定される炭素税(仮称)が担うことになる。炭素税は電力会社等の化石燃料を取り扱う事業者に負担を求めることになるが、その結果、電気料金等が値上げされ、間接的に企業や国民にとっても“増税”となる可能性がある点には留意したい。




