2024/02/21 政府が「GX経済移行債」を発行、企業の産業構造の転換や脱炭素化の新技術研究開発を支援(会員限定)

政府は2025年にCO2排出量を実質ゼロにする「2050 年カーボンニュートラル」を宣言しているが、その実現に向け、企業に対し産業構造の転換や、脱炭素化の新技術研究開発を促す投資資金を集めるための金融政策の一つとしての「「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債(10年債)」の入札を2024年2月14日に行った。

海外では既に「グリーンボンド」が普及しているが、グリーンボンドは地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど環境改善への取り組みに資金使途が限定された債券であるのに対し、GX経済移行債で集めた資金は、脱炭素への「移行(トランジシ ョン)」に向けたプロジェクト資金の調達を目的としている。したがって、GX経済移行債では、現時点ではCO2排出量排出量に問題のある産業や企業による脱炭素を目指すプロジェクトに対しても資金供給できることになる。すなわち、グリーンボンドでは救えない産業・企業を支援するという点に大きな特徴がある。

世界初となるGX経済移行債の入札額は8,000億円で、最終落札利回りは0.74%と、通常国債の利回りを0.005%下回った。債権の人気は金利に反映されるため、人気が高ければ低い金利でも購入してもらえる一方、人気が低ければ、より高い金利を付けて売る必要が出てくる。すなわち、今回のGX経済移行債は利回りが低かった分、通常国債と比べ、“高値”で買われたということになる。グリーンによるプレミアムは0.005%で、市場予測の0.06%に届かなった。投資家は、GX経済移行債に対してプレミアムを支払ったものの、それほど大きな数字にはならなかったということになる。


プレミアム : ある資産への投資によって予想される収益の変動が大きい(すなわち、リスクが高い)と考えられる場合、市場では相対的に高い収益率が期待される(高い収益率が期待できないのであれば、投資家はリスクの高い資産には投資しない)。プレミアムとは、リスクの高い資産の期待収益率から、それよりもリスクの低い資産の期待収益率を差し引いた超過収益率のことを指す。

現状では、一部の欧米の投資家はGX経済移行債の用途に懐疑的であり、グリーンボンドのように再生可能エネルギー等に用途を絞った債権を好む傾向がある。さらには、GX経済移行債に対しグリーンウォッシングではないかという疑念を持つ投資家もいる。このような海外投資家がGX経済移行債の購入に際して消極的であったことが、今回のGX経済移行債に高いプレミアムがつかなった原因の一つとなっている。


グリーンウォッシング : 商品・サービスなどが環境に配慮しているかのように見せかけ、消費者への訴求効果を高めようとする行為。

しかし、グローバルな視点で考えた場合、GX経済移行債の意義は極めて大きい。ネットゼロの達成は、環境先進国である欧州だけではなく、新興国を含めたグローバルな目標に他ならない。グリーンボンドは欧州等の環境先進国には適していても、CO2排出量が多い産業・企業を抱える国では、グリーンボンドだけでは不十分と言える。これらの国々では、既存の産業を脱炭素へと移行させない限りネットゼロの達成は不可能であるため、既存産業を変換する技術開発への投資が必須であり、そのためにGX経済移行債が果たす役割は大きい。GX経済移行債のようなGXへの取り組みが無ければ、日本だけでなく、グローバルベースでのネットゼロの達成は極めて難しいだろう。

2月27日には、今度は5年債のGX経済移行債が発行される。入札額は、10年債と同様8,000億円程度となっている。10年債同様、あまり高いプレミアムがつかないことも予想される。しかし、GX経済移行債は、日本が2050年にネットゼロを達成するために重要であるうえ、日本だけにとどまらず、新興国をはじめ、炭素排出量の多い産業・企業を抱える国々は、こうした日本のGXへの取り組みに注目している。

GX経済移行債で調達した資金は、補助金の形で企業に拠出される。これが呼び水となって、グリーンボンドではサポートされていない製造業(鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントなど)の産業構造の転換や、脱炭素化の新技術研究開発に対する民間からのさらなる投資が期待されるところだ(例:鉄鋼の場合、炭素排出量の多い高炉から、相対的に排出量の少ない電炉への転換。または、高炉に対して、水素還元製鉄の研究開発を支援(高炉自体の脱炭素化))。

なお、GX経済移行債の償還財源は、2028年に予定される炭素税(仮称)が担うことになる。炭素税は電力会社等の化石燃料を取り扱う事業者に負担を求めることになるが、その結果、電気料金等が値上げされ、間接的に企業や国民にとっても“増税”となる可能性がある点には留意したい。

2024/02/20 (新用語・難解用語)プロポーショナリティの原則

プロポーショナリティとは「比例」という意味であり、プロポーショナリティの原則は、・・・

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2024/02/20 (新用語・難解用語)プロポーショナリティの原則(会員限定)

プロポーショナリティとは「比例」という意味であり、プロポーショナリティの原則は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が2023年6月に公表したIFRSサステナビリティ開示基準のS1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(以下、S1基準)およびS2号「気候関連開示」(以下、S2基準)の一部を「企業の成熟度(レベル)に比例した規定」とするべく、適用されている。


ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。
S1基準 : 全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項を定めたもの。
S2基準 : 気候関連開示の要求事項を定めたもの。

IFRSサステナビリティ財務報告基準はサステナビリティ開示のグローバル・ベースラインとなるものであり、新興国やリソースの限られた中小企業で利用されることが想定されている。このため、S1基準の公開草案に対しては、「世界中の企業の能力および準備状況が様々であるという事情に配慮する必要がある」との意見が数多く寄せられた。これを受けISSBは、全ての企業に一律に求めることが困難と思われる開示について、プロポーショナリティの原則に則り、企業のレベルに応じた「報告日時点で過大なコストや労力をかけずに利用可能な、合理的で裏付け可能な情報」という概念を導入した。


グローバル・ベースライン : グローバル・ベースラインに乗っていれば、詳細な基準は自国等の実態に合わせて作成することが許容される。

「報告日時点で過大なコストや労力をかけずに利用可能な、合理的で裏付け可能な情報」とは具体的には以下の情報を指す。
(1)合理的に利用可能な情報(企業が既に有している情報を含む)を考慮することが要求される。また、既知の情報を無視することはできない。
(2)情報を利用するための合理的な根拠を有していなければならない。
(3)過去の事象、現在の状況及び将来の状況の予測に関する情報のうち、報告日時点で利用可能な情報のみを考慮する。
(4)情報を求めて「網羅的な探索」を実施する必要はない(過大なコストや労力をかけずに利用可能であるべき)。

S1基準およびS2基準では、具体的には下表の項目にプロポーショナリティの原則を適用し、「報告日時点で過大なコストや労力をかけずに利用可能な、合理的で裏付け可能な情報」としている。プロポーショナリティの原則は、測定の不確実性の程度が高い場合の取扱いを明確にするものであるため、全般的な原則とはせず、下表の特定の項目にのみ用いることとされている。また、あくまで開示に際して用いる情報を明確に提供することを目的としており、開示を免除しようとするものでもなければ、追加の開示を要求するものでもない。

項目 関連する規定
企業の見通しに影響を与えると合理的に予想されるリスクおよび機会の識別 IFRS S1号B6項(a)
IFRS S2号第11項
リスクと機会に関連したバリュー・チェーンの範囲の決定 IFRS S1号B6項(b)
サステナビリティ関連のリスクと機会の予想される財務的影響(注) IFRS S1号第37項(a)
IFRS S2号第18項(a)
気候関連のシナリオ分析 IFRS S2号B1項
スコープ3の温室効果ガス(GHG)排出の測定 IFRS S2号B39項
特定の産業横断的指標、カテゴリーの指標の計算 IFRS S2号第30項
(注)定量的な財務的影響を提供するためのスキル、能力、リソースがない場合には、定性情報のみで足りるとされている(当該スキル、能力を獲得または開発するための利用可能なリソースを有している場合を除く)。


バリュー・チェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値が生み出されるという一連の流れのこと。
シナリオ分析 : 地球温暖化や気候変動そのものの影響や、気候変動に関する長期的な政策動向による事業環境の変化等にはどのようなものがあるかを予想し、それらの変化が自社の事業や 経営にどのような影響を及ぼしうるかを検討すること。
スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のことで、15のカテゴリに区分される。

注意したいのは、プロポーショナリティの原則が、特定の不確実性の程度が高い場合の取扱いを明確にしたからといって、他の開示項目が“完璧な開示”を求められるわけではないということだ。「報告日時点で過大なコストや労力をかけずに利用可能な、合理的で裏付け可能な情報」を用いて開示するということは会計の世界でも同じであり、ある意味当然のことと言える。

この「報告日時点で過大なコストや労力をかけずに利用可能な、合理的で裏付け可能な情報」という概念は、SSBJが開発している日本版S1基準、S2基準でも、企業の負担を軽減する観点から取り入れられる。ただし、2024年2月9日のニュース「SSBJ基準の適用対象企業が大幅に減少」でお伝えしたとおり、日本版S1基準、S2基準はグローバルな投資家との建設的な対話を行うプライム市場上場会社またはその一部を前提とした基準となる予定であるため、プロポーショナリティの原則を使えるかどうかは慎重に見極める必要があろう。


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。
プライム市場上場会社 : 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場










2024/02/19 役員報酬のKPIとしてのESG指標の妥当性を検証する際のポイント

世界的な人事系コンサルティング会社であるWTWの最新の調査によると、役員報酬の KPI として ESG 指標を採用する企業は、欧州、北米、アジア・太平洋地域の各市場における主要インデックス構成企業 1,152 社のうち81%に達しており、その中でも「気候指標」が2022 年 75%から 6 ポイント増加した(グローバル版アジアパシフィック版)。ここ数年、日本企業においても、役員報酬のKPIにESG指標を採用する企業が着実に増えきた。

ただし、ESG指標は一度導入すればそれで終わり、という類のものではない。ESG指標を役員報酬のKPIに組み込むということは、すなわち、企業として、その指標の達成にコミットすることを意味する。このようなESG評価は、できれば毎年、報酬委員会等において「妥当性」を検証する機会を設けることが望ましい。その際に留意すべきポイントとして以下の2点が挙げられる。・・・

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2024/02/19 役員報酬のKPIとしてのESG指標の妥当性を検証する際のポイント(会員限定)

世界的な人事系コンサルティング会社であるWTWの最新の調査によると、役員報酬の KPI として ESG 指標を採用する企業は、欧州、北米、アジア・太平洋地域の各市場における主要インデックス構成企業 1,152 社のうち81%に達しており、その中でも「気候指標」が2022 年 75%から 6 ポイント増加した(グローバル版アジアパシフィック版)。ここ数年、日本企業においても、役員報酬のKPIにESG指標を採用する企業が着実に増えきた。

ただし、ESG指標は一度導入すればそれで終わり、という類のものではない。ESG指標を役員報酬のKPIに組み込むということは、すなわち、企業として、その指標の達成にコミットすることを意味する。このようなESG評価は、できれば毎年、報酬委員会等において「妥当性」を検証する機会を設けることが望ましい。その際に留意すべきポイントとして以下の2点が挙げられる。

(1) ESGに関する最新のトレンドを把握できているか
役員報酬のKPIにESG指標を採用するというのは、欧米においても、ここ数年の比較的新しい傾向である。したがって、5年後・10年後にも現在と同じ状況が続いているとは限らない。

例えば2023年には、米国において、反ESG(ESG backlash)の動きが顕在化した(2023年10月20日のニュース『米国の反ESG州法が金融機関に強いプレッシャー、危うさ増す「2050年ネットゼロ」の実現』参照)。反ESG派の主張は、ESGを偏重することが株主や消費者の利益を損なうのではないかというものだが、反ESG派の主張の背景には、米国における政治的な対立がある。単純化すれば、民主党のバイデン政権はESG推進派、トランプ元大統領が所属する共和党は反ESG派、という構図になるが、2024年には大統領選も控えていることから、米国におけるESGを巡る議論の動向は今後も不透明となっている。

もちろん、気候変動をはじめ、E・S・Gにそれぞれ属する課題の重要性には疑いの余地はなく、グローバルで見れば、むしろその重要性はますます高まっている。しかしながら、米国で起きているような動向を踏まえると、少なくともESG 評価をどの程度役員報酬に反映すべきかという点は、今後、多少ニュアンスが変わってくる可能性があるため、企業としても、海外を含むESGを巡る動向は頭に置いておく必要がある。特に、自社の企業価値向上のストーリーとは無関係なESG指標を形式的に役員報酬と結び付けている企業は、いずれその理由を投資家に説明しづらくなる可能性があり、注意が必要だ。

逆に、ESGを“一過性の流行”として片付けてしまうことも危険である。特に日本企業においては、(欧米から見れば)遅れていると言わざるを得ないESGの分野もある中で、それらを軽視し続ければ、いずれ欧米の株主・投資家からの非難に晒される可能性がある。日本企業各社においては、ESGを巡る移り変わりの激しいトレンドを敏感に察知したうえで、適切に企業経営や役員報酬に取り込んでいく柔軟性が求められる。

その際に重要なのは、自社の企業価値向上のストーリーの中にESGを位置付けることだ。それを実現するためには、まず自社(あるいは自社の属する業界)にとってどのようなESG指標が馴染むのかを議論するところから始めなければならない。報酬委員会等においては、自社の役員報酬におけるESG評価の妥当性を説明することができるか、改めて検証してみる必要がある。

(2) 目標が古くなっていないか
ESG評価においては、目標が古くなってしまっていないかどうかを毎年点検することも重要になる。

例えば、ESG指標として女性管理職比率を設定しているものの、既に目標としていた比率を達成してしまった(もしくは、近々に達成することが確実となっている)場合、今年はもう一段上の目標を掲げるのか、それともESG評価のフォーカスを別のところに移すのか、議論する必要が生じる。また、ESG評価機関のレーティングを参照している企業では、既に目標となるレーティングを達成してしまったという場合に、そのレーティングを維持するだけで昨年と同様の評価を付けてよいのか、ということも論点になり得る。

この点、財務評価であれば、期初に目標値を設定することが慣例となっているため、それを基にして、ある程度機械的に(役員報酬に関する)目標設定を行うことが可能になる。しかし、ESG評価についてはそうとも限らない。場合によっては、報酬委員会における議論の中で初めて目標設定の必要性が認知され、関連部署と連携して目標設定を進めていく、という事例も存在する。自社におけるESGの体制が未熟であり、ESGに関する目標設定・評価のプロセスが確立していないケースにおいては、特に注意が必要になる。

2024年は、各社の報酬委員会等において、ESG評価の妥当性について改めて議論する年と言えそうだ。

2024/02/16 「資本コストや株価を意識した経営」で参考にしたい「投資者目線とのギャップ実例」

既報のとおり、2023年3月に東京証券取引所がプライム市場上場会社およびスタンダード市場上場会社に対して行った要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」への各社の対応状況の“第一弾”が2024年1月15日に公表されたところだ(2024年1月16日のニュース『「株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示、プライムでも半数に届かず』参照)。公表結果のとおり、東証の要請に対応するための取組みをこれから検討しようという会社も少なくない。また、既に取り組みを始めている会社でも、自社の取組みが果たして投資家に訴求できているのか、気になるところだろう。こうした中、・・・

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2024/02/16 「資本コストや株価を意識した経営」で参考にしたい「投資者目線とのギャップ実例」(会員限定)

既報のとおり、2023年3月に東京証券取引所がプライム市場上場会社およびスタンダード市場上場会社に対して行った要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」への各社の対応状況の“第一弾”が2024年1月15日に公表されたところだ(2024年1月16日のニュース『「株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示、プライムでも半数に届かず』参照)。公表結果のとおり、東証の要請に対応するための取組みをこれから検討しようという会社も少なくない。また、既に取り組みを始めている会社でも、自社の取組みが果たして投資家に訴求できているのか、気になるところだろう。こうした中、東証は2024年2月1日に「資本コストや株価を意識した経営」の「ポイントと事例」と「(別紙)事例集」(以下、事例集)を公表している。「ポイントと事例」には、国内外の90を超える機関投資家(中長期の企業価値向上を重視するアクティブファンドが中心で、その7割が海外投資家)との面談から得られた生の意見が反映されており、「事例集」には投資家目線で高い評価を受けている“模範解答例”がぎっしりと詰まっている。

もっとも、「ポイントと事例」だけで25ページあり、「事例集」は60ページを超えているため、その全てに目を通すのはかなりの時間を要する。そこでお勧めしたいのが、まずは東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向け、一連の対応として「継続的な実施」を求めている下図の「現状分析」→「計画策定・開示」→「取組みの実⾏」という3ステップのうち、自社が課題を抱えているステップを特定したうえで、当該ステップに限定して「ポイントと事例」に自社の取組みを照らし、自社に欠けているところがあれば、その部分を深掘りするために「事例集」を参照するという使い方だ。下図には、各ステップに対応した目次が赤字で示されている(「ポイントと事例」の5ページより引用)。

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まず、「ポイントと事例」では下記の10のポイントが指摘されている。そして、「事例集」の冒頭には、どの事例がどのポイントに対応したものなのかが、「業種」「市場」「規模」とともに記されており、目当ての事例にすぐにアクセスできるよう工夫されている。

20240216_2

「ポイントと事例」の中で上場会社にとって最も参考になるのが、「投資者目線とのギャップ実例」だろう。資本コストや株価を意識した経営の要請への対応にあたり、上場会社はつい“自社の視点”に偏った取組みや開示に陥りがちであり、開示情報の受け手である投資者が不満を抱くケースが後を絶たないからだ。下表にポイントごとの「投資者目線とのギャップ実例」(赤字)と当該ギャップの解消に向けた取組みをまとめた(なお「株主・投資者との対話」の②と③には「投資者目線とのギャップ実例」の記載なし)ので、上場会社は自社が赤字に記載されたような状況に陥っていないか、点検したい。

「ポイントと事例」で紹介されている「ポイント」ごとの「投資者目線とのギャップ実例」(赤字部分)
「現状分析・評価」のポイント① 投資者の視点から資本コストを捉える
× 資本コストには唯一の正解があると考え、画一的な算出式に拘る
× 自社の資本コスト算出結果について、株主・投資者からの「ズレている」という指摘を恐れ、対外的な開示を控える
⇒ 資本コストの水準について、精緻な値を算出することが目的ではなく、株主・投資者との認識を揃えることが重要であり、「資本コストや株価を意識した経営」を実現するための出発点として、認識のズレを解消するための取組みが期待されています。
「現状分析・評価」のポイント② 投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する
× そもそもPBRが1倍を超えているので、特に対応は必要ないと考え、それ以上の検討は行わない
× 市場評価はマーケットが決めるものと考え、ROEが目標値を超えていればよしとする
⇒  「PBR1倍」はあくまで1つの目安であり、PBRが1倍を超えていればよいというものではなく、投資者の視点を踏まえた多面的な分析・評価、積極的な取組みが期待されます。また、資本収益性が十分な水準だと考える場合でも、それに見合った市場評価が得られているか、分析・評価を行うことが期待されています。

「現状分析・評価」のポイント③ バランスシートが効率的な状態となっているか点検する
× 中計や決算説明において、従来型の売上や利益水準など損益計算書上の指標の説明に終始し、バランスシートをベースとする資本収益性の観点での分析・目標設定が行われていない
⇒  中長期視点の株主・投資者が重視する資本収益性や成長性などの指標を用いた分析・目標設定を取り入れることで、株主・投資者の目線を踏まえた対応が推進されることが期待されています。

「取組みの検討・開示」のポイント① 経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組みを行う
× 現状の資本収益性や市場評価が低いものの、自社株買いのみの一過性の対応(リキャップCBなど)や、既存事業の漸次的な改善のみの対応に終始する
⇒ 株主・投資者からは、継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすため、成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど、抜本的な取組みが期待されています。

「取組みの検討・開示」のポイント② 資本コストを低減させるという意識を持つ
× 株主資本コストは所与のもの(投資者側が決めるもの)と考え、企業側では全くコントロールできないと誤解している
⇒ たとえば、資本コストの上昇原因に対処することで一定の低減が可能だと考えられます。企業価値向上の実現に向けた手段として、資本コストを低減させるという意識を持ち、取り組むことが期待されています。

「取組みの検討・開示」のポイント③ 中長期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計を行う
× 役員報酬の設計上、中長期的な企業価値向上が経営陣のインセンティブとはなっておらず、株主・投資者と目線がズレている
⇒ たとえば、中長期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度とすることで、将来の企業価値に対する経営陣の意識を高め、株主・投資者目線での長期的な成長を見据えた経営を推進することが期待されています。

「取組みの検討・開示」のポイント④ 中長期的に目指す姿と紐づけて取組みを説明する
× 取組みを羅列するだけで、それらがどのように企業価値向上、目標達成に繋がるのか、明確な記載が無くわかりづらい
⇒ 掲げられている目標と取組みの関連性が不明瞭な場合、株主・投資者は、取組みの効果に確信を持つことが難しくなります。株主・投資者からは、各取組みが目標達成に向けてどのような効果を持つのか、できる限りわかりやすく示すことが期待されています。

「株主・投資者との対話」のポイント① 経営陣・取締役会が主体的かつ積極的に関与する
× 投資者は怖いもの・煩いものというイメージが先⾏し、特段の理由なく、経営陣が投資者との対話に消極的
⇒ 企業と投資者は、時に意⾒の相違や対⽴が⽣じることもありますが、本来、企業価値向上という目標を共有するものです。上場会社の経営者においては、投資者と「対峙」するという姿勢ではなく、企業価値向上の実現に向けて、投資者と中⻑期的な信頼関係を構築し、積極的に協⼒を得ていく姿勢が期待されています。


資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本
資本収益性 : ROE(事業に投下された株主資本に対してどれだけの利益が創出されているかを示す指標)、RIOIC(事業に投下された有利子負債と株主資本に対してどれだけの「税引後営業利益」が創出されているかを示す指標)、ROA(総資産に対してどれだけの利益が創出されているかを示す指標)などが代表的な資本収益性の指標である。

また、現時点では企業価値が小規模にとどまっている上場会社の経営陣が参考にしたいのが、「事例とポイント」の22ページに記載されているSHIFT(東証プライム)の開示例だ。これは「株主・投資者との対話」のポイント②の「株主・投資者の属性に応じたアプローチを⾏う」に関する好事例として取り上げられたもの。企業価値の向上に伴い変遷していく投資者の属性に対応したアプローチが記載されている。

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なお、「事例集」を紐解くにあたっては、各ページに記載されている「投資者の評価ポイント」(緑色の角丸の枠)に目を通したうえで、自社の開示資料や取組みを当該評価ポイントに照らし、分析するように心がけたい。他社の“模範解答例”から経営への気付きを得ることは、東証が要請で示した一連の対応である「現状分析」→「計画策定・開示」→「取組みの実⾏」の各ステップのブラッシュアップに必ず役に立つはずだ。

2024/02/15 WEBセミナー『ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針』配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2024年2月15日(木)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針 日本シェアホルダーサービス
研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント
藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
本セミナーでは、日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部でチーフコンサルタントを務める藤島裕三 様をお招きし、機関投資家の議決権行使に大きな影響を与えるISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針について解説していただきます。
具体的には、まずISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針、2025年以降の適用開始が予定されているグラスルイスの方針改定の内容についてご説明いただいたうえで、議案別(剰余金処分、業績基準、取締役選任議案(取締役会構成、独立性基準、英文開示、クーリングオフ、ジェンダーバイバーシティ、政策保有株式、出席率・兼任数、不祥事)、役員報酬、買収防衛策、株主提案)に、両社の議決権助言方針を詳細に比較していただきます。
また、ISSまたはグラスルイスの両方又は一方に反対推奨を受けながらも、企業側がプレスリリースや決算説明会により反論し議案の成立に持ち込んだ事案、逆に、反論してものの否決となってしまった事案を、企業側の反論内容に触れながらご紹介いただきます。
最後に、議決権助言会社が企業に対して求めることや、エンゲージメントに対する議決権助言会社のスタンスなどについて、議決権助言会社への取材も踏まえ、情報提供いただきます。
講師のご紹介 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様
日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント。上場会社役員ガバナンスフォーラム客員研究員。
慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。コーポレートガバナンス改善計画の策定支援、敵対的買収対応に関わる体制整備の支援、IRや株主対応に関する改善支援・アドバイザリーなどに従事。2017年9月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2005年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005ー2006年)、経済産業省コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013年-)。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版 2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著など著書・論文多数

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/72125/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/sEM8cEYHmSaXQMBe7

<収録月>
2024年2月

<収録時間>
1 時間 11 分

<視聴環境>
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2024/02/15 【WEBセミナー】『ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年2月15日

本セミナーでは、日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部でチーフコンサルタントを務める藤島裕三 様をお招きし、機関投資家の議決権行使に大きな影響を与えるISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針について解説していただきます。
具体的には、まずISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針、2025年以降の適用開始が予定されているグラスルイスの方針改定の内容についてご説明いただいたうえで、議案別(剰余金処分、業績基準、取締役選任議案(取締役会構成、独立性基準、英文開示、クーリングオフ、ジェンダーバイバーシティ、政策保有株式、出席率・兼任数、不祥事)、役員報酬、買収防衛策、株主提案)に、両社の議決権助言方針を詳細に比較していただきます。
また、ISSまたはグラスルイスの両方又は一方に反対推奨を受けながらも、企業側がプレスリリースや決算説明会により反論し議案の成立に持ち込んだ事案、逆に、反論してものの否決となってしまった事案を、企業側の反論内容に触れながらご紹介いただきます。
最後に、議決権助言会社が企業に対して求めることや、エンゲージメントに対する議決権助言会社のスタンスなどについて、議決権助言会社への取材も踏まえ、情報提供いただきます。

【講師】
日本シェアホルダーサービス
研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント
藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様

セミナー資料 ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針.pdf
セミナー動画

ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針)

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2024/02/15 WEBセミナー「ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針」(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年2月15日

本セミナーでは、日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部でチーフコンサルタントを務める藤島裕三 様をお招きし、機関投資家の議決権行使に大きな影響を与えるISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針について解説していただきます。
具体的には、まずISSおよびグラスルイスの2024年版議決権助⾔方針、2025年以降の適用開始が予定されているグラスルイスの方針改定の内容についてご説明いただいたうえで、議案別(剰余金処分、業績基準、取締役選任議案(取締役会構成、独立性基準、英文開示、クーリングオフ、ジェンダーバイバーシティ、政策保有株式、出席率・兼任数、不祥事)、役員報酬、買収防衛策、株主提案)に、両社の議決権助言方針を詳細に比較していただきます。
また、ISSまたはグラスルイスの両方又は一方に反対推奨を受けながらも、企業側がプレスリリースや決算説明会により反論し議案の成立に持ち込んだ事案、逆に、反論してものの否決となってしまった事案を、企業側の反論内容に触れながらご紹介いただきます。
最後に、議決権助言会社が企業に対して求めることや、エンゲージメントに対する議決権助言会社のスタンスなどについて、議決権助言会社への取材も踏まえ、情報提供いただきます。

【講師】
日本シェアホルダーサービス
研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント
藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様

セミナー資料 ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針.pdf
セミナー動画

ISS・グラスルイスの2024年版議決権助言方針

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