2024/01/10 グラスルイスが2024年版議決権行使助言方針を公表、ジェンダー・ダイバーシティ基準を厳格化、気候関連問題の説明責任の対象企業も拡大(会員限定)

議決権行使助言会社グラスルイスは2023年12月26日、2024年版の日本市場向け議決権行使助言方針ガイドライン(英語版)を公表した。2024年2月1日以降に開催される株主総会から適用される。なお、日本語版も近く公表される見通し。

今回の改定でグラスルイスが挙げている変更点は5つあり、そのうち2025年2月から適用されるもの(1年間の猶予期間あり)は2つ(下記②③)となっている。以下それぞれの変更点について解説する。

1 ジェンダー・ダイバーシティ
現行ガイドラインでは、プライム市場上場会社の取締役会に「10%以上の多様な性別の取締役」がいない場合、取締役会議長(指名委員会等設置会社の場合は指名委員長)の選任議案に反対助言するとしつつ、その例外規定として、開示情報で「現状の不十分なダイバーシティに関する十分な説明、今後の改善計画や取組み」を確認できる場合には反対助言を行わないことを定めている。新たなガイドラインではこの例外規定が撤回されており(現行ガイドラインで予告済み)、2024年2月以降は女性取締役が10%未満であれば即反対推奨となる。さらに、2026年2月以降、プライム市場上場会社の閾値を20%に引き上げることも予告された。

なお、プライム市場以外の上場会社(閾値は「最低1名」)に対しては、引き続き例外規定が考慮される。

2 過剰な政策保有株式
現行ガイドラインは、政策保有株式(純投資目的以外の投資株式)の貸借対照表計上額が「連結純資産と比較して10%以上」の場合に取締役会議長の選任議案に反対助言するとしているが、この方針の例外規定(2つのうちいずれかを満たせば可)を2025年2月からともに厳格化する。

現行例外規定の1つは「明確な縮減目標値と期日を含む縮減計画が開示されている場合」だが、新ガイドラインでは縮減計画に数値目標、具体的には「20%以下に縮減するものであること」と「期間が5年以内であること」を求める。もう1つの現行例外規定である「政策保有株式の保有比率が、対連結純資産の 10%以上 20%未満の場合には、当該企業の過去 5 年間の自己資本利益率(ROE)の平均値が 5%以上」である場合については、ROEの閾値が「過去5年間または直近期で8%以上」に変更される。


ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

3 取締役の在任期間
2025年2月からの新基準として、社外取締役および社外監査役の在任期間が12年を超えている場合、取締役会議長(指名委員会等設置会社の場合は指名委員長)の選任議案に反対助言する。

4 サイバーリスクの監督
企業に対するサイバー攻撃のリスクが高まっていることを踏まえ、サイバー攻撃が株主に重大な損害を与えた場合、責任のある取締役の再任議案に反対助言する可能性がある。グラスルイスはその前提として、「サイバーセキュリティを監督する取締役会の役割」について開示することを奨励しているが、損害が発生していない通常時における開示の欠如や不足、その内容の不備をもって反対助言することはないとしている。

5 気候関連問題の説明責任
「重大な気候リスクに晒されている会社」においてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の勧告に沿った情報開示が欠如しているか不十分と判断した場合、「責任ある取締役」の再任議案に反対助言する。


TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

この「重大な気候リスクに晒されている会社」とは、現行ガイドラインではClimate Action 100+が特定した日本企業(10社)となっているが、新ガイドラインでは日経225を構成する企業のうち「サステナビリティ会計基準審議会(SASB)によって温室効果ガスの排出が財務上の重要なリスクになると判断された企業」に拡大される。また「取締役会における監督責任を明確に開示しているか」を併せて評価することも示された。


Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。
10社 : ダイキン工業、日立製作所、本田技研工業、ENEOSホールディングス、日本製鉄、日産自動車、パナソニック、スズキ、東レ、トヨタ自動車
日経225 : 東証上場銘柄のうち取引が活発で流動性の高い225銘柄を選定したうえで算出されることからこう呼ばれる。
SASB : SASB(サステナビリティ会計基準審議会=Sustainability Accounting Standards Boad)は2011年に設立された米国に拠点を置く団体であり、持続可能性が財務に与える影響を投資家に報告するフレームワークであるSASBスタンダードを策定した。SASBスタンダードは、11セクター・77 産業について、産業ごとに企業の財務パフォーマンスに影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定している点に特徴がある。SASBは、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク」を策定したことで有名なIIRC(国際統合報告評議会=International Integrated Reporting Council)と合併してVRF(=Value Reporting Foundation)となり、さらにVRFは2022年6月にISSBに統合された。

今回のグラスルイスによるガイドラインの改定は、既に予告済みのものや猶予期間を設定されたものもあるが、全体を通じてみると、資本市場の関心事を幅広く捉えたうえで、要求水準を適切な水準で設定、あるいは厳格化するものと言える。将来的にも、例えば①ジェンダー・ダイバーシティの閾値の引上げ、⑤気候関連問題の説明責任の対象企業の拡大など、さらなる改定は容易に想定できる。機関投資家の行使基準や議決権行使助言会社最大手のISSのポリシーへの影響も踏まえ、現状はグラスルイスのガイドラインに抵触しない企業も、先を見据えた取り組みを検討する必要があろう。












2024/01/09 英文開示への対応に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の表明求める方針、英文開示企業の一覧表公開の可能性も

東証が今から約1年前の2023年1月25日に開催した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で打ち出した「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」で示された各施策は、その後、同年3月31日に公表された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」などを通じて順次実施されてきた。その中で「英文開示の更なる拡充」については2023年秋が実施時期とされていたが、その具体的な方向性として「プライム市場における英文開示の拡充について」(資料6)と題する文書が12月18日に開催されたフォローアップ会議に提出されている。

東証は同資料中「ご議論いただきたい事項」(9ページ~)において、「決算情報」と「適時開⽰情報」を「マーケットに与える影響が⼤きいもの」と指摘、下表のとおりプライム市場の全上場会社を対象に英文開示を求めるとしている。実施時期は「2025年3月を目途」とし、相応の準備期間を設ける方向。

英文開示が求め
られる情報
想定される書類 英文開示タイミング
対象会社
決算情報 • 決算短信・四半期決算短信
• 決算説明会資料 など
※ 開⽰範囲は各企業で判断
日本語と同時開⽰に努める プライム市場全上場会社

※対応が難しい場合には、
具体的な開始時期を開⽰

適時開⽰情報
(決算情報を除く)
• 決定事実
• 発生事実
• 業績予想の修正 など
※ 概要のみなど⼀部抜粋も可

上表のポイントは、・・・

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2024/01/09 英文開示への対応に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の表明求める方針、英文開示企業の一覧表公開の可能性も(会員限定)

東証が今から約1年前の2023年1月25日に開催した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で打ち出した「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」で示された各施策は、その後、同年3月31日に公表された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」などを通じて順次実施されてきた。その中で「英文開示の更なる拡充」については2023年秋が実施時期とされていたが、その具体的な方向性として「プライム市場における英文開示の拡充について」(資料6)と題する文書が12月18日に開催されたフォローアップ会議に提出されている。

東証は同資料中「ご議論いただきたい事項」(9ページ~)において、「決算情報」と「適時開⽰情報」を「マーケットに与える影響が⼤きいもの」と指摘、下表のとおりプライム市場の全上場会社を対象に英文開示を求めるとしている。実施時期は「2025年3月を目途」とし、相応の準備期間を設ける方向。

英文開示が求め
られる情報
想定される書類 英文開示タイミング
対象会社
決算情報 • 決算短信・四半期決算短信
• 決算説明会資料 など
※ 開⽰範囲は各企業で判断
日本語と同時開⽰に努める プライム市場全上場会社

※対応が難しい場合には、
具体的な開始時期を開⽰

適時開⽰情報
(決算情報を除く)
• 決定事実
• 発生事実
• 業績予想の修正 など
※ 概要のみなど⼀部抜粋も可

上表のポイントは、英文開示の対象となる決算情報について「開⽰範囲は各企業で判断」することとしている点と、適時開示情報は「概要のみなど⼀部抜粋も可」であり、必ずしも和文と同様の内容(全文英訳)は求められていないという点だ。同資料「海外投資家へのヒアリング結果(総論)」(5ページ)では「和⽂と英⽂の開示のタイムラグは、情報の非対称性から海外機関投資家にとって大きなディスアドバンテージ」「英⽂開⽰については、情報の網羅性ももちろん重要だが、それよりも速報性をより重視している」といった意見が紹介されており、これらを踏まえ、全文英訳でなくてもよいので「日本語と同時開⽰に努める」ことを優先する形となっている。

一方で、同資料「上場会社へのヒアリング結果」(8ページ)では「英文開示内容の正確性への責任追及に懸念がある」「開示資料は開示直前まで修正が入るため、同時開⽰ができない」との声が紹介され、これが、たとえ「一部のみ」「概要のみ」であっても和英同時開示が難しい理由となっている。こうした企業側の声を踏まえ東証は、英文開示については「あくまで参考訳としての位置づけ」とし、「取引所規則におけるエンフォースメントの対象外とする」ことを提案している。「同時開示」に固執するあまり英文開示の進展が停滞するよりも、まずは「海外の機関投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」というプライム市場のコンセプトに相応しい“形”を整えることを優先した判断と言えよう。

そのうえで東証は、英文開示への対応について、上場会社に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の表明を求める方針だ。具体的には、英⽂開⽰に必要な体制整備に時間がかかるなど対応が難しい場合、具体的な開始時期の開⽰を要求する模様。上記のとおり英文開示の実施時期とされる2025年3月以降、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」と同様に、英文開示企業の一覧表を公開することも考えられよう(2023年11月7日のニュース「開示企業一覧表に掲載されるためのキーワードが確定、 CG報告書はいつ再提出する?」参照)。

なお、今回の議論では英文開示を求める対象に有価証券報告書は含まれていないが、「海外投資家へのヒアリング結果(各論)」(6ページ)において「海外機関投資家は銘柄を広く知る段階で有価証券報告書に目を通す。各社がある程度統一的なフォーマットで出している書類が英文になることに意味がある。」「⽶国の投資家は10-Kに慣れ親しんでいるため、それに相当するものとして有価証券報告書を読む。特にMD&Aなど経営者の視点による分析・検討内容の記載が重要。」といったコメントが紹介されている。自社独自の取り組みとして有用と考えられる場合は、東証の規制の有無にかかわらず対応を検討すべきだろう。


10-K : 日本の有価証券報告書にあたり、正式名称は「10-K(テンケー) 報告書」である。
MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。





2023/12/31 【2024年1月の課題】議決権行使助言会社の2024年版ガイドラインを踏まえた中長期の取り組み

2024年1月の課題

議決権行使助言会社のISSおよびグラスルイスの2024年版ガイドラインが公表されました。下記はいずれも資本市場が求める経営マターを反映したものであり、目先の株主総会対応にとどまらず、将来を見据えた対応を検討すべきテーマと言えます。そこで各テーマについて、2030年前後に求められる内容やレベル感を予測したうえで、自社に必要な中長期の取り組みを考察してみてください。

ISS新ガイドラインのポイント
① ROE基準
② 買収防衛策

グラスルイス新ガイドラインのポイント(本日現在、日本語版未公表)
① ジェンダー・ダイバーシティ
② 政策保有株式
③ 取締役の在任期間
④ サイバーリスク
⑤ 気候関連問題

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2023/12/31 【2023年11月の課題】資本収益性指標や株価指標の役員報酬への反映(会員限定)

著者の業務上の都合により、解答の掲載が通常より遅くなったことをお詫び申し上げます。

東証による要請における指標例

2023年3月、東証がプライム市場およびスタンダード市場上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したのは周知のとおりです。本要請では、企業が現状分析に用いる指標として下記のものが挙げられています(3ページ参照)。

資本コスト
資本収益性
市場評価
WACC(負債-株式の加重平均資本コスト)
株主資本コスト(投資者の期待リターン)
など
ROIC(投下資本利益率)
ROE(自己資本利益率)
など
株価・時価総額
PBR(株価純資産倍率)
PER(株価収益率)
など

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
資本収益性 : ROE(事業に投下された株主資本に対してどれだけの利益が創出されているかを示す指標)、RIOIC(事業に投下された有利子負債と株主資本に対してどれだけの「税引後営業利益」が創出されているかを示す指標)、ROA(総資産に対してどれだけの利益が創出されているかを示す指標)などが代表的な資本収益性の指標である。
WACC :「Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」の略であり、要するに「資本コスト」である。WACCは文字通り負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)

要請の背景」では、「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れ」と、上場企業のROEおよびPBRの低さに言及していることを踏まえると、この2つの指標については明確に改善が求められていると言えますが、どの指標を用いるかは企業に任されており、各社が「投資者ニーズ等を踏まえ検討」することになります(3ページ 各指標例の下の※参照)。

役員報酬への反映という観点からも、投資者のニーズを踏まえた各社の経営戦略や企業価値創造ストーリーに即した指標を選択することが重要であるため、上記の指標を候補としつつ、自社に合った指標を選択することも十分考えられます。

資本収益性指標、株価指標の役員報酬への反映状況

東証の要請の影響により、日本の上場企業においては、資本収益性指標および株価指標を役員報酬に反映する動きが進んでいます。世界的な人事コンサルティングファームWTWの調査によると、資本収益性に関する指標を役員報酬に反映している企業の割合はTOPIX100構成企業で43%(うち63%がROEのみ、26%がROICのみ、残りの11%がROEとROICの両方を採用)、株価に関する指標を適用している企業の割合は29%(うち79%はTSR、17%が株価・時価総額、4%(1社のみ)がPBRを採用)となっています。

資本収益性に関する指標を役員報酬に反映している企業が比較的多い理由としては、伊藤レポート(6ページ参照)などにより、早い段階で日本企業にROEの向上を目指す方向性が示されたことが挙げられます。一方、株価に関する指標が資本収益性に関する指標ほど普及が進んでいないのは、株価に関する指標を役員報酬に適用する前の段階で、役員に対して株価への意識付けや株主との利害共有を図る観点から、株式報酬の導入が先行して進んできたことによるものと考えられます。株式報酬の導入が一巡しつつある中、今後は株価を意識した経営を実現するための施策の一つとして、役員報酬に株価に関する指標を反映する企業が増加していくことも予想されます。

以下、資本収益性に関する指標(資本収益性指標)、株価に関する指標(株価指標)それぞれについて、役員報酬に反映する際の論点について解説します。

資本収益性指標
役員報酬に反映すべき資本収益性指標の種類

上記東証の指標例やWTWの調査結果が示すように、資本収益性指標としては、ROE、ROICの2つが一般的に活用されています。ただし、投資家の中には、ROEは財務レバレッジの調整により企業側がコントロールできる余地があるためROICを重視すべきという指摘がある点、留意が必要です(財務レバレッジの調整によるROEのコントロールについては2021年11月11日のニュース「ROICではなくROEやROAではダメなのか?」参照)。

財務レバレッジ: 株主資本(自己資本)を1とした場合、その何倍の総資本を有しているかを示す数値。「総資産/株主資本」によって計算される。財務レバレッジ(=テコ)が大きい会社とは、借入金の大きい会社である。財務レバレッジが高ければ、株主資本よりも大きな取引を行うことができる。ただし、その反面、有利子負債が増加して、金利負担、返済負担が増加し、会社の収益性が下がったり、財務リスクを抱えたりする可能性がある。

また、その他想定される指標としては、 ROAや金融機関におけるROTCEなどが考えられます。それぞれの指標の特性を踏まえたうえで、自社のパフォーマンスを適切に測ることができると考えられる指標を選択することが重要です。

ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。ROAは利益を総資産で除して求めるため、分母である総資産の増加はROAの低下をもたらす。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
ROTCE: return on tangible equity(有形自己資本利益率)。普通株式や利益剰余金等で構成される有形自己資本(TCE=tangible common equity)で生み出せる利益がどのくらいあるかを示す指標。普通株式や利益剰余金のような安定度の高い有形自己資本によって稼げる利益率を見ることで、金融危機が起きた場合における金融機関の健全性を推測する際に用いられる。

資本収益性指標を役員報酬に反映する場合、他社との比較結果を考慮すべき?

ROEやROICといった資本収益性指標は各社の業務内容や経営環境、経営戦略、企業の成長ステージなどに応じて目標値が異なるのが通常であるため、これらの指標を役員報酬に反映する場合に、他社との比較結果を考慮する必要性は基本的にありません。あくまで自社の結果のみを報酬に反映させるべきと言えます。

資本収益性指標の評価期間

自社のROEやROICなどの資本収益性指標については、単年度の評価結果を「年次賞与」に反映させるのか、あるいは複数年度の評価結果を「中長期インセンティブ」に反映させるのか、という論点があります。

単年度の評価結果を年次賞与に反映させる場合、複数年度の資本収益性の評価結果が考慮されないことから、「中長期的な資本収益性の向上」や「持続的な資本収益性の維持」という視点が、評価の枠組みから外れてしまうことになります。これは、役員報酬制度に中長期的な成長シナリオに関するメッセージが含まれていない状態とも言えます。

そこで、この点については、投資家等に向け追加的なメッセージを出すことが望ましいでしょう。例えば、各年度の役員報酬に係る目標設定において、中期経営計画等の中長期的な戦略とのリンクを説明する、あるいは単年度の業績を積み上げていくことによって中長期的な資本収益性の維持向上を実現するというポリシーを説明することにより、単年度の評価の枠組みを中長期的な企業価値向上に活用していることをアピールすることができます。

一方、複数年度の資本収益性指標の評価結果を「中長期インセンティブ」に反映させるのであれば、例えば中期経営計画などの中期目標と役員報酬をダイレクトに連動させることができます。ただし、その反面、単年度の評価結果のインパクトが相対的に弱くなることから、年次賞与のウエイトや評価指標など役員報酬全体の構成を再点検し、短期および中長期のインセンティブの実効性をともに確保するよう努める必要があるでしょう。

資本収益性指標の評価の考え方

単年度評価における評価については、特段大きな論点はありません。一般的には、期初に公表する業績予想に基づき算出される数値を目標値として設定します。上述のとおり、中期的な経営戦略にリンクさせることを目的に、中期経営計画などに示される業績に基づいて目標値を設定することも可能ですが、単年度評価には、その時点における経営環境や状況を反映できるというメリットがあるため、中長期的な経営目標から逆算するのではなく、毎期の足元の状況を踏まえつつ、単独で行うべきです。

複数年度における評価を行う場合には、大きく分けて2つの方法が考えられます。1つは、「評価期間終了年度」における結果のみをもって評価する方法です。すなわち、評価期間中の指標の動向にかかわらず、評価期間終了時点(例えば3年後)において目標をどの程度達成しているかを評価し、役員報酬に反映します。資本収益性は中期的な目標値を達成するにあたり、事業のフェーズに応じて一時的にやむを得ない低下が想定されものです。そこでこの手法を活用することにより、評価期間の途中経過にかかわらず、中期的な目標の達成に強いコミットを引き出すことが可能となります。

また、複数年度の平均値を目標として、その達成結果を報酬に反映させる手法もあります。この場合には、その評価期間において持続的に資本収益性を維持・向上させる点にフォーカスが置かれます。中期的な経営戦略において、資本収益性の維持や安定的な成長を目指している場合には、こうした評価方法がマッチしていると言えるでしょう。

株価指標
役員報酬に反映すべき株価指標の種類

上記WTWの調査では、役員報酬に反映する株価指標として、TSR、株価・時価総額、PBRの3つが挙げられていました。東証の要請では、さらにPERも指標の1つに挙げられていましたが、PERは当期純利益の状況に応じて大きく数値が変動することから、純粋にマーケットからの評価を図る指標としては活用しづらい側面があります。

TSRおよび株価・時価総額はいずれも基本的に株価に準じて算出される指標であり、その本質的な違いは配当が含まれるか否か、という点に限られます。株価の上昇によるキャピタルゲインのみならず、配当によるインカムゲインが含まれるTSRの方が投資家にとっての利益により連動するという点からは、TSRを採用する方が望ましいでしょう。

PBRは、株価のみならず、純資産の観点が含まれるため、上記2つの指標とはやや特性が異なります。東証や投資家などからPBRの向上が強く求められる中で、役員報酬の指標としてPBRを採用することも考えられますが、PBRの向上そのものが投資家の利益と直接的に連動しているわけではないという点や、一般的に、PBRの向上は株価の上昇を通じて実現することが期待されている、という点には留意が必要です。

株価指標を役員報酬に反映する場合、他社との比較結果を考慮すべき?

株価指標としてTSRや株価・時価総額を役員報酬に反映する場合には、他社または特定のインデックスとの比較結果を用いて評価を行うことが多くなっています。これは、投資対象として投資家に高い評価を得ているかという観点からは、自社の株価等のみならず、自社以外の投資対象と比較すべきという趣旨によるものです。

一方、自社の株価やTSRに目標を設定しその達成度を評価することもありますが、その場合には、一定の成長率を目標として、当該目標に対する達成度を評価するのが一般的です。この場合、他社の動向や他社との優劣ではなく、自社の企業価値を継続的かつ着実に成長させているかということが重視されます。

いずれも実在する事例として見られる類型であり、企業価値向上に向けた取組みに対するインセンティブとして機能することが想定されています。

株価指標の評価期間

日本企業では、役員報酬に株価指標を反映する際の評価期間に関する考え方は必ずしも統一されていません。多くの場合、役員報酬制度における中長期インセンティブの評価期間に合わせます。一方、一部の企業においては、年次賞与の評価指標として1年間の株価等を用いる事例も見られます。

両者の違いは、株価等のパフォーマンスをどの程度のタームで捉えているかという点にあります。例えば、3年間の株価等のパフォーマンスを中長期インセンティブに反映している場合には、自社が中期的なタームで株価等の上昇を目指しているというメッセージとなります。これに対し、単年の株価等のパフォーマンスを年次賞与に反映している場合には、株価等を単年ごとに確実に上昇させていくシナリオを描いている、というメッセージとなります。株価等を役員報酬に反映する際には、報酬制度のみならず、自社の成長シナリオや企業価値創造ストーリーに照らして評価タームを検討する必要があるでしょう。

まとめ

周知のとおり、東証は2023年10月26日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示している企業の一覧表を2024年1月15日から公表し、毎月更新するとの方針を打ち出しています(2023年10月18日付のニュース『東証、年明けから「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」開示企業一覧公表へ、10月中に要請の趣旨等を再周知』参照)。こうした後押しの中で、資本収益性指標や株価指標の役員報酬への反映もさらに普及が進むことが予想されます。

とはいえ、上述のとおり、例えば株価指標を役員報酬に反映する前の段階で既に株式報酬を導入している場合などには、必ずしも拙速に役員報酬制度を改革する必要はありません。自社の足元の経営状況等を踏まえつつ、東証の要請に対してどのように取り組んでいくことが可能か、またその取組みの一環として役員報酬制度をどのようなタイムラインでいかに変えていくべきか、自社の企業価値創造ストーリーに矛盾しない形で、検討していくことが求められます。

2023/12/27 2023年12月度チェックテスト

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【問題1】

野村アセットマネジメントは2023年11月に議決権行使基準を改定し、「社外取締役は過半数を原則」の基準を新設した。


正しい
間違い
【問題2】

野村アセットマネジメントは2023年11月に議決権行使基準を改定し、「取締役の任期が2年の監査役会設置会社においては会長・社長等の取締役再任に原則として反対する」旨の基準を新設した。


正しい
間違い
【問題3】

外国人社外取締役への報酬支払いにあたって、本人に為替リスクを負わせないようにすると、円安の進行により報酬枠が逼迫してくるという問題が生じる。

正しい
間違い
【問題4】

英国では、CGコードを強化する改訂案が過剰規制との批判を受け、改訂案の大部分が撤回されることとなった。


正しい
間違い
【問題5】

現行税制上、研究開発税制をはじめ、研究開発といった「インプット」の段階における税制優遇措置は設けられているが、研究開発の結果生まれた成果である知財という「アウトプット」に対する税制優遇措置はない。


正しい
間違い
【問題6】

「資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子法人等」のうち「当該事業年度末日の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計が2億円を超える」法人等について、新たに外形標準課税の対象になる可能性が出てきた。


正しい
間違い
【問題7】

東証における投資単位のボリュームゾーンは40万円から50万円となっている。


正しい
間違い
【問題8】

アジア・コーポレート・ガバナンス協会がとりまとめたコーポレートガバナンスに関する調査結果「CG Watch」の2023年版によると、アジア諸国の「コーポレートガバナンス・ランキング」で日本は7位に留まっている。


正しい
間違い
【問題9】

せっかく任意の報酬委員会を設置していても、依然として代表取締役が取締役の個人別報酬の内容を決定する仕組みのままであれば、報酬ガバナンスの観点からは改善の余地がある。


正しい
間違い
【問題10】

政府は2025年中に、①東証プライム市場上場企業の役員に占める女性の割合を「19%」にするとともに、②女性の役員が登用されていない東証プライム市場上場企業の割合を0%にする、との目標を設定した。


正しい
間違い

2023/12/27 2023年12月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
政府は、問題文のとおり、2025年中に①東証プライム市場上場企業の役員に占める女性の割合を「19%」にするとともに、②女性の役員が登用されていない東証プライム市場上場企業の割合を0%にする、との目標を設定しました。女性の役員を登用していない東証プライム市場上場企業は、女性役員の選任に向けてますます強いプレッシャーにさらされることになるのは間違いありません。

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2023年12月25日 政府、2025年中にプライム上場企業の役員に占める女性割合の目標を19%に設定(会員限定)

2023/12/27 2023年12月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
政府は、問題文のとおり、2025年中に①東証プライム市場上場企業の役員に占める女性の割合を「19%」にするとともに、②女性の役員が登用されていない東証プライム市場上場企業の割合を0%にする、との目標を設定しました。女性の役員を登用していない東証プライム市場上場企業は、女性役員の選任に向けてますます強いプレッシャーにさらされることになるのは間違いありません。

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2023年12月25日 政府、2025年中にプライム上場企業の役員に占める女性割合の目標を19%に設定(会員限定)

2023/12/27 2023年12月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
取締役会から一任された社長が取締役個別の報酬額を「決定」すると、社長の顔色を窺うイエスマンの取締役が増え、ガバナンスが低下する懸念があります。報酬ガバナンス向上のためには社長から決定権を奪うべきです。そして、任意の報酬委員会を設置する以上、取締役の個別報酬は任意の報酬委員会が「決定」まで行うか、あるいは任意の報酬委員会の答申を受けて取締役会が「決定」するのが、報酬ガバナンス向上の観点からは理想的な施策と言えます。

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2023年12月19日 取締役の個人別報酬決定における報酬ガバナンスの実態(会員限定)

2023/12/27 2023年12月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
取締役会から一任された社長が取締役個別の報酬額を「決定」すると、社長の顔色を窺うイエスマンの取締役が増え、ガバナンスが低下する懸念があります。報酬ガバナンス向上のためには社長から決定権を奪うべきです。そして、任意の報酬委員会を設置する以上、取締役の個別報酬は任意の報酬委員会が「決定」まで行うか、あるいは任意の報酬委員会の答申を受けて取締役会が「決定」するのが、報酬ガバナンス向上の観点からは理想的な施策と言えます。

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2023年12月19日 取締役の個人別報酬決定における報酬ガバナンスの実態(会員限定)