2023/09/27 新四半期決算短信、1Q・3Qで増す“負担”の内容

第1四半期(以下、1Q)と第3四半期(以下、3Q)の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法(以下、金商法)改正法案が未成立のまま通常国会は6月に閉会したが、東証は同法案が今秋の臨時国会で可決されることを前提に「四半期開示の見直しに関する実務検討会」(以下、実務検討会)を設置し、四半期決算短信における開示内容の見直しを開始したことは既報のとおり(2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』、2023年 2023年7月7日のニュース「新たな四半期決算短信の信頼性は事実上3段階に」参照)。2023年8月31日に開催された第2回実務検討会では、1Qと3Qの四半期決算短信(以下、「新たな四半期決算短信」)による開示事項の整理などが行われている。

四半期開示の見直しを提言したディスクロージャーワーキング・グループ報告には、新たな四半期決算短信による開示事項について「投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報)」との記述があったため、「セグメント情報」と「キャッシュ・フローの情報」が追加されることは既定路線となっているが、「等」に何が入るのか、開示実務の負担増加を避けたい企業と情報開示の拡充を期待する投資家双方から注目を集めている。・・・

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2023/09/27 新四半期決算短信、1Q・3Qで増す“負担”の内容(会員限定)

第1四半期(以下、1Q)と第3四半期(以下、3Q)の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法(以下、金商法)改正法案が未成立のまま通常国会は6月に閉会したが、東証は同法案が今秋の臨時国会で可決されることを前提に「四半期開示の見直しに関する実務検討会」(以下、実務検討会)を設置し、四半期決算短信における開示内容の見直しを開始したことは既報のとおり(2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』、2023年 2023年7月7日のニュース「新たな四半期決算短信の信頼性は事実上3段階に」参照)。2023年8月31日に開催された第2回実務検討会では、1Qと3Qの四半期決算短信(以下、「新たな四半期決算短信」)による開示事項の整理などが行われている。

四半期開示の見直しを提言したディスクロージャーワーキング・グループ報告には、新たな四半期決算短信による開示事項について「投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報)」との記述があったため、「セグメント情報」と「キャッシュ・フローの情報」が追加されることは既定路線となっているが、「等」に何が入るのか、開示実務の負担増加を避けたい企業と情報開示の拡充を期待する投資家双方から注目を集めている。

第2回実務検討会では「等」の中身は特段示されていないものの、四半期決算短信の内容について実務検討会の第1回第2回それぞれで示された「方針(案)」を比較すると、下記のとおり言い回しに変化が見られる点、要注意だ。

第1回の実務検討会で示された方針(案) 第2回の実務検討会で示された方針(案)
現在の1Q・3Q四半期報告書において求められる財務諸表
→日本基準:連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書
→IFRS・米国基準:連結キャッシュ・フロー計算書を含む連結財務諸表(

四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書については、新制度における半期報告書において2Q会計期間に関する開示はなされないことが想定されること等を踏まえ、省略を認める
日本基準、IFRS、米国基準で取扱いに差は設けず、以下の事項は一律義務付け
→連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書(
(CF計算書は投資判断に有用な情報として積極的な開示を要請)

四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書については、新制度における半期報告書において2Q会計期間に関する開示はなされないことが想定されること等を踏まえ、省略を認める

第2回実務検討会で示された案では、上場会社が採用している会計基準(日本基準、IFRS、米国基準)によって取扱いに差は設けないことが示されるとともに、「CF計算書は投資判断に有用な情報として積極的な開示を要請」との一文(表中の赤字部分)が追加された。四半期開示におけるCF計算書を巡る過去の経緯を遡ると、2008年の四半期報告制度導入時には1Q・3QにおいてCF計算書を作成することが求められていたものの、2011年に四半期会計基準および四半期財務表等規則が改正され、日本基準適用会社は1Q・3QにおけるCF計算書の開示の省略が認められることになり()、多くの会社が1Q・3QにおけるCF計算書の開示の省略を選択した。こうした過去の経緯を踏まえると、再度1Q・3QでCF計算書の開示が求められるとなれば、会社の負担感が増すことは避けられない。

2Qでは必要。また、CF計算書を省略した会社は、四半期連結財務諸表の利用者がキャッシュ・フローの状況について概算額を知ることができるよう、四半期財務諸表から直接知ることが困難な減価償却費やのれんの償却の注記が必要となった。

第2回実務検討会で示された方針(案)では、過去の経緯や投資家がすべての業種についてCF計算書の開示を求めているわけではないという点にも配慮し、CF計算書を必須開示とはせず、「投資判断に有用な情報として積極的な開示を要請」という言い回しにとどめたと見てよい(第2回事務局説明資料の8ページ目の表中の「添付資料」の「財務諸表」を参照)。また、CF計算書の開示を省略する上場会社は「キャッシュ・フローに関する注記」を開示すればよいとされていることから(第2回事務局説明資料の8ページ目の表中の「添付資料」の「注記事項」を参照)、減価償却費やのれんの償却の注記だけで済みそうだ。上場会社の開示担当者は経営陣が「これを機に1Q・3QでもCF計算書を作成することにしよう」と言い出さないことを願っているのが実情であり、経営陣(特に開示担当役員)としても、過去の経緯や現状の経理部門のリソースを考えると、1Q・3QにおいてCF計算書を作成・開示する方針を打ち出しにくいところだろう。

第2回実務検討会では、三瓶メンバーが機関投資家の立場から「感想として一言申し上げると、キャッシュ・フロー計算書が義務ではなく要請になっており、ここは若干残念だと思っています。というのも、このように東証が決めたということは、メッセージとしてはキャッシュ・フロー軽視として映る危険性があると思っています。」としつつも、「ただ、利用者が自分たちで作ることができるので、こういう対応もあるかと考えており、仕方ないとも思っています。」と発言している(第2回の実務検討会の議事録の10ページ)。新たな四半期決算短信は「キャッシュ・フローに関する注記」だけで済ませる(CF計算書の作成・開示はしない)のが現実解と言えそうだ。

また、新たな四半期決算短信ではセグメント情報の注記が必須となることは既定路線だが(第2回事務局説明資料の8ページ目の表中の「添付資料」の「注記事項」参照)、セグメント情報の注記の作成スケジュールが前倒しとなる可能性も意識しておきたい。そもそも四半期報告書および四半期決算短信は四半期会計期間終了後45日以内()に提出すればよく、大半の上場会社では両書類とも四半期会計期間終了から41日後に提出している。しかし、投資家への情報開示を迅速に行うため、四半期決算短信だけ開示を早めている上場会社も少なくない。それを示すのが、下記の<四半期決算短信と四半期報告書の提出日の分布>の表だ(第2回事務局説明資料の12ページ目の表より引用)。

原則として四半期会計期間終了後45日以内だが、例外的に45日目が休日の場合は翌営業日が提出期限となる。
70333

セグメント情報の注記は、現行の四半期報告書では開示が必須だが、四半期決算短信では開示が求められていない。そのため、四半期決算短信と四半期報告書の提出日の開きが大きい会社ほど新たな四半期決算短信ではセグメント情報の注記の作成スケジュールを前倒しする必要が生じる。上表によると、「四半期報告書を提出するのは四半期会計期間終了から41日後だが、四半期決算短信は30日以内に提出している」という上場会社が125社ある。このような会社が、新たな四半期決算短信を現在と同じ時期に開示するには、セグメント情報等の注記の作成時期を早めなければならない。仮に新たな四半期決算短信について監査法人によるレビューも受けるのであれば、開示までの日程はますますタイトになる。今のうちから、どうすればセグメント情報等の注記の作成に要する時間を短縮できるか、知恵を絞る必要があろう。

2023/09/26 「マルチステークホルダー資本主義」と「配分の公平性」の違い

関西経済連合会やその他地域の経済連合会は2023年9月11日に「コーポレートガバナンスに関する提言 ~マルチステークホルダー経営に支えられた新しい資本主義の実現に向けて~」を各会連名で公表している。同提言は、「三方よし」の日本的な経営哲学を堅持し、多様なステークホルダーを等しく重視すべきということや、公平でバランスのとれた価値の分配を行うことが重要といった内容が骨子となっている。現行のコーポレートガバナンス・コードは株主利益偏重を促し、このままでは企業経営者および投資家の短期利益志向を助長しかねない、と警鐘を鳴らす。


三方よし : 近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」との考え方。三方すべてに利益を配分することが、事業を安定的で持続可能なものにするための必須条件であるとする。

この提言に対し、一部の投資家からは・・・

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2023/09/26 「マルチステークホルダー資本主義」と「配分の公平性」の違い(会員限定)

関西経済連合会やその他地域の経済連合会は2023年9月11日に「コーポレートガバナンスに関する提言 ~マルチステークホルダー経営に支えられた新しい資本主義の実現に向けて~」を各会連名で公表している。同提言は、「三方よし」の日本的な経営哲学を堅持し、多様なステークホルダーを等しく重視すべきということや、公平でバランスのとれた価値の分配を行うことが重要といった内容が骨子となっている。現行のコーポレートガバナンス・コードは株主利益偏重を促し、このままでは企業経営者および投資家の短期利益志向を助長しかねない、と警鐘を鳴らす。


三方よし : 近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」との考え方。三方すべてに利益を配分することが、事業を安定的で持続可能なものにするための必須条件であるとする。

この提言に対し、一部の投資家からは「違和感がある」との声が聞かれる。まず、「株主VS株主以外のステークホルダー」という対立構造は未だに論点なのかという点だ。「誰の利益か」ではなく、どうすれば中長期的な企業価値を創造していけるか、失われた30年から脱却できるのかこそが、日本経済が最優先して解決すべき課題であり、そのために日本企業の取締役会の実効性を高め、戦略の担い手である経営陣を適切に任命し、価値の創造へ向けて突き動かし、問題があれば果断に入れ替えていく。昨今の日本のガバナンス改革は一貫してこうした日本的経営の盲点に着目しており、その解決のため、企業のオーナーである株主の権利を明確化しようとしているに過ぎない。取締役や経営陣に対して唯一法的に“睨み”を効かせられる株主に、ステークホルダーの共同利益のために権利の活用を期待しているのであって、他のステークホルダーの利益を株主が奪い取るということではない。

こうした視点から本提言を見ると、取締役・経営陣の監督強化を推進していく方向の提言は一つも入っていない。それどころか、政策保有株式の縮減に対する牽制、独立社外取締役を取締役会の3分の1とする要件の柔軟化といった、むしろ監督の緩和につながるような提言が目に付く。マルチステークホルダー経営というキーワードの裏で、社内経営陣のエントレンチメント(経営陣の保身)を強化したい、との意図が透けて見える。


マルチステークホルダー : 株主や債権者、従業員、顧客、仕入先、消費者、地域住民、地域社会、自治体など、企業にとってのあらゆる利害関係者のこと。

ある投資家は、「提言に先立ち、欧米のマルチステークホルダー資本主義のムーブメントが生じた経緯を正しく認識すべきだった」と指摘する。欧米企業は従来から日本企業よりも高パフォーマンスであり、事実として価値を創造している。そのうえで、持続的に価値を創造・維持していくためには、社会課題の解決にも積極的に目を向けなければならない、すなわちマルチステークホルダーへの価値還元が結果として長期的には株主利益にもつながっていくという、発展的なパラダイムシフトを意図したものであった。本提言が主張するような“配分の公平性”にとどまる話では決してない。

日本企業の従業員給与が国際的に著しく競争力を欠き、社会全体が貧困化している現状は、日本企業が「三方よし」と言いながら、長らく株主以外のステークホルダーの価値を創造してこなかったことの証左と言える。今回の関経連等の提言を見て、このような“昭和マインド”が未だに主張されるのかと、従業員ポジションにいる比較的若い世代の投資家からはため息も聞こえてくる。某芸能事務所の話ではないが、次世代の投資家は、こうした経営陣に対し積極的に意見を発信していく必要があろう。

2023/09/25 支配株主のいる上場会社の社外取締役について「少数株主の賛否状況」の開示を求める声強まる

東証は今年1月に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」(第2期)をスタートし、支配株主を有する上場子会社における少数株主保護について検討を重ねている。もともと同研究会(第1期)は、上場子会社であるアスクルの取締役選任議案(代表取締役社長および社外取締役3名)が親会社のヤフー(現Zホールディングス)の反対によって否決されたことを契機に、2019年11月29日に設置されたもの。アスクルの一件では、支配株主が上場子会社のトップ人事に決定的な影響力を及ぼすことのガバナンス上の是非や、上場子会社における少数株主保護が問題となった(2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ」参照)。


少数株主 : ここでいう「少数株主」とは、支配株主(あるいは支配的な株主)以外の株主であって、会社の経営(意思決定機関)に対して直接又は間接の支配力を持たない株主が想定されている。

同研究会が2020年9月1日に中間整理を公表し、以下4つの検討課題を示して以来、東証における検討にとどまらず、様々な施策が講じられてきた。

(1)情報開示 ガバナンスに関する合意や、利益相反およびその監督・コントロールの考え方・方針等を含めた情報開示の充実
(2)手続 支配株主が上場子会社の非公開化を目的とした公開買付けを行う局面における、特別委員会に期待される役割も踏まえた少数株主保護の枠組み
(3)ガバナンス 独立社外取締役の選任等
(4)適用範囲 「支配株主」に適用される少数株主保護の枠組みの「支配的な株主」への拡大


ガバナンスに関する合意 : 自社の株主との間で“ガバナンスに影響を及ぼし得る”以下の合意等を指す。
(a)役員候補者指名権の合意
(b)議決権行使内容を拘束する合意
(c)事前承諾事項等に関する合意
利益相反 : 典型的には、支配株主を有する上場会社の取締役が、自らを実質的に選任する支配株主の意向を無視できず、当該上場会社にとって不利な条件の取引を承認することが挙げられる。
特別委員会 : 経済産業省が公表している「企業買収における行動指針」では、特に取締役会の過半数が社外取締役でない会社」が買収提案を受領した場合には、取締役会の独立性を補完するため、社外取締役を中心とした「特別委員会」を設置し、その判断を尊重することは有益であり、取引の公正性および株主利益の確保につながるとしている。特別委員会の設置が有用な場合として、以下のケースが例示されている。
● キャッシュ・アウトの提案のため、取引条件の適正さが特に重要である場合
● 買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)の導入・発動を検討する場合
● 複数の買収提案が行われている場合など、市場における説明責任が高い場合
支配的な株主 : 議決権の過半数を有していないものの、実質的な支配力を持つ株主のこと。

「(1)情報開示」に関する施策としては、・・・

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2023/09/25 支配株主のいる上場会社の社外取締役について「少数株主の賛否状況」の開示を求める声強まる(会員限定)

東証は今年1月に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」(第2期)をスタートし、支配株主を有する上場子会社における少数株主保護について検討を重ねている。もともと同研究会(第1期)は、上場子会社であるアスクルの取締役選任議案(代表取締役社長および社外取締役3名)が親会社のヤフー(現Zホールディングス)の反対によって否決されたことを契機に、2019年11月29日に設置されたもの。アスクルの一件では、支配株主が上場子会社のトップ人事に決定的な影響力を及ぼすことのガバナンス上の是非や、上場子会社における少数株主保護が問題となった(2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ」参照)。


少数株主 : ここでいう「少数株主」とは、支配株主(あるいは支配的な株主)以外の株主であって、会社の経営(意思決定機関)に対して直接又は間接の支配力を持たない株主が想定されている。

同研究会が2020年9月1日に中間整理を公表し、以下4つの検討課題を示して以来、東証における検討にとどまらず、様々な施策が講じられてきた。

(1)情報開示 ガバナンスに関する合意や、利益相反およびその監督・コントロールの考え方・方針等を含めた情報開示の充実
(2)手続 支配株主が上場子会社の非公開化を目的とした公開買付けを行う局面における、特別委員会に期待される役割も踏まえた少数株主保護の枠組み
(3)ガバナンス 独立社外取締役の選任等
(4)適用範囲 「支配株主」に適用される少数株主保護の枠組みの「支配的な株主」への拡大


ガバナンスに関する合意 : 自社の株主との間で“ガバナンスに影響を及ぼし得る”以下の合意等を指す。
(a)役員候補者指名権の合意
(b)議決権行使内容を拘束する合意
(c)事前承諾事項等に関する合意
利益相反 : 典型的には、支配株主を有する上場会社の取締役が、自らを実質的に選任する支配株主の意向を無視できず、当該上場会社にとって不利な条件の取引を承認することが挙げられる。
特別委員会 : 経済産業省が公表している「企業買収における行動指針」では、特に取締役会の過半数が社外取締役でない会社」が買収提案を受領した場合には、取締役会の独立性を補完するため、社外取締役を中心とした「特別委員会」を設置し、その判断を尊重することは有益であり、取引の公正性および株主利益の確保につながるとしている。特別委員会の設置が有用な場合として、以下のケースが例示されている。
● キャッシュ・アウトの提案のため、取引条件の適正さが特に重要である場合
● 買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)の導入・発動を検討する場合
● 複数の買収提案が行われている場合など、市場における説明責任が高い場合
支配的な株主 : 議決権の過半数を有していないものの、実質的な支配力を持つ株主のこと。

「(1)情報開示」に関する施策としては、有価証券報告書の記載事項に「企業・株主間のガバナンスに関する合意」などを追加することを求める開示府令の改正が行われ、2025年3月31日以降に終了する事業年度の有価証券報告書から適用される(2023年7月10日のニュース『ガバナンス上の「重要な契約」に係る改正開示府令案がパブコメに 企業に早急な対応が迫られる理由』参照)。また、「(2)手続」に関する施策として、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、上場する「子会社」に対し、取締役会の3分の1以上(プライム市場上場会社は過半数)を支配株主からの独立性を有する独立社外取締役とするか、または利益相反管理のための委員会の設置を求める補充原則4-8③が新設されている。

これらを踏まえて、第2期の「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」においては、(1)(2)を実効的なものとするための「(3)ガバナンス」および「(4)適用範囲」が重要な論点となっている。直近2023年8月21日に開催された同研究会の第4回会合では、「(3)ガバナンス」の議論の進め方として、まず「独⽴社外取締役の役割や支配株主からの独⽴性確保という論点」をテーマとすることを確認したうえで、特に「独⽴社外取締役における支配株主からの独⽴性の確保」について以下のとおり核心的な方向性が示された。

1 独⽴社外取締役の指名におけるMoM(Majority of Minority)
⇒少数株主の過半数の賛成を得られなかった場合、独⽴社外取締役として指名できない
2 独⽴社外取締役の選任に際し、少数株主の賛否割合を開示
⇒独⽴社外取締役に対する少数株主からの信認状況について透明化を図る

このうち①が実現すれば、仮に⽀配株主を含む全株主の過半数の賛成を得られた場合、会社法上は社外取締役として選任されることに変わりはないものの、東証の上場規則上の独立性要件を満たすことができず、独立役員としての届出が認められなくなる。同研究会の委員からは、「資本多数決の原則から著しく乖離する」「悪質な株主に重大な武器を与えることになる」といった慎重な声がある一方で、「独立社外取締役に従属上場会社の少数株主の利益を代弁してもらうという考え方からすると非常に論理的」「東証がいう独立社外取締役の要件を満たさないことになるというだけの話」といった肯定的な意見もあり、賛否が拮抗している。


独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

②は独立役員としての“資格”に影響を与えることはないものの、少数株主における信認状況を開示させることで、上場子会社のガバナンス体制の実効性を評価しやすくするとともに、少数株主保護に資する独立社外取締役の選任を促す狙いがある。この開示措置について東証は「実施に大きな支障はない」とし、委員からも「少数株主の反対投票に対して取締役会はどう考慮してどう対処するのかを説明する義務がある」「(相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、その理由や原因の分析等を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①の関連で)分析するだけではなく、その分析内容を開示するところまで持っていく必要がある」など、一層の対応が必要との指摘があった。

また、委員からは上記「(4)適用範囲」を踏まえ、「支配的株主との関係を対象に含めることが検討されるべき」「支配株主や支配的株主の定義にもリンクするように検討を進めていただきたい」との意見も聞かれた。上記①②の論点に適用範囲の議論を重ねると、少なくとも「支配株主のいる上場会社の社外取締役」について、少数株主の賛否状況を開示することは既定路線になりつつあると言えそうだ。当該開示を求める対象が支配的株主のいる上場会社まで拡大されるか、さらには、少数株主の過半数の賛成を得られなかった場合に独⽴社外取締役として指名できなくなるMoMの導入まであるのか、注目される。

2023/09/22 「個々の取締役の評価」の最新プラクティス

一般に、「取締役会の実効性評価」とは取締役会全体を評価することであり、個々の取締役を評価することではない。取締役会の実効性を高めるうえでは社外取締役の割合やダイバーシティも重要な要素となるが、実は取締役会を構成する個々の取締役が十分なパフォーマンスを発揮しているかどうかによって、取締役会全体の実効性も大きな影響を受けることになる。

取締役は1人で意思決定しない分、個々の取締役のパフォーマンスは取締役会全体としての意思決定の陰に隠れてしまいがちだ。例えば、・・・

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2023/09/22 「個々の取締役の評価」の最新プラクティス(会員限定)

一般に、「取締役会の実効性評価」とは取締役会全体を評価することであり、個々の取締役を評価することではない。取締役会の実効性を高めるうえでは社外取締役の割合やダイバーシティも重要な要素となるが、実は取締役会を構成する個々の取締役が十分なパフォーマンスを発揮しているかどうかによって、取締役会全体の実効性も大きな影響を受けることになる。

取締役は1人で意思決定しない分、個々の取締役のパフォーマンスは取締役会全体としての意思決定の陰に隠れてしまいがちだ。例えば、特定の分野に深い専門知識を持っている社外取締役が自分の専門分野についてしか発言しないというケースがしばしば見受けられる。しかし、スペシャリストが必要なら外部からコンサルタントを連れてくれば済む。もちろん専門知識を持っていることは取締役会のスキルマトリックスの観点からも重要だが、ボードメンバーである以上、専門分野のみならず自社の全てのトピックにおいて貢献することが求められる。そのためには、取締役会議長が、各取締役が自由に意見・質問できる、また、それがどのような内容であっても馬鹿にされることがないような取締役会の雰囲気を醸成するとともに、個々の取締役の評価を実施することが有効と言える。

実際、欧米企業や一部の東南アジア企業、そして最近は先進的な日本企業の中にも、取締役会全体の評価だけではなく、個々の取締役の評価を実施するところが現れ始めている。これは「Peer(同僚)評価」と呼ばれ、 匿名で自分の同僚である他の取締役が自社の付加価値を高めているかどうかを評価してもらうもの。Peer評価の目的は、評価の低い取締役を辞めさせることではなく、あくまで取締役に能力を最大限発揮してもらうにはどうすればよいのか、答えを探すことにある。通常、個々の取締役の評価は指名委員会委員長に集約したうえで、指名委員会委員長が取締役一人ひとりと面談し、評価の内容を伝えるという方法をとっている。なかには、この役割を取締役会議長が担うケースもあるが、取締役を選んだ指名委員会委員長に任せた方が、各取締役の“面子”を潰しにくいという利点がある。

ただし、先進的な企業では、年2回ほど取締役会議長が各取締役と一対一で面談する機会を設けているところもある。面談では、議長が各取締役に対し、重点的に取り組んで欲しいことを各取締役の「目標」として明確に伝える一方、各取締役は設定された目標に対し自分がどのようなことをしたのかを年度末に取締役会議長に報告しなければならない。

現状、日本企業の間では、「取締役間で相互評価をすると取締役会の空気が悪くなるのであまりやりたくない」といった声が少なくない。また、「ベースに気持ちの良い人間関係がないと実効的な議論もできない」という意見も聞かれるが、個々の取締役のパフォーマンスが取締役会の実効性に大きな影響を与えている以上、取締役会の実効性評価に個々の取締役の評価を含めざるを得ない、という論調は今後強まっていくことが予想される。お互いを評価するということには各取締役にもかなりの勇気が求められる。場合によっては外部の評価機関を入れ、マネジメントしてもらうことも選択肢となろう。

2023/09/21 【新任役員向けトレーニングプログラム】機関投資家との対話に向けて の更新

下記の【新任役員向けトレーニングプログラム】につき、法令等の改正や実務動向の変化に対応するため、講義内容(講師ならびに動画およびレジュメのすべて)を更新いたしました。本動画は新任役員向けトレーニングプログラムの受講の契約をされている方のみが閲覧可能です。

概略

昨今、内外の機関投資家から企業に対する対話・エンゲージメントが急増しています。しかし、企業と投資家とでは視点が違うことから、建設的な対話が行われているとは言えない状況です。そこで本講義では、その視点の違いがどこにあるのかについて解説します。また、機関投資家と言っても一様ではないため、機関投資家の種類と選別についても解説します。さらに、対話の具体例として、経営戦略、財務戦略、コーポレートガバナンス、環境・社会を取り上げ、最後に、協働エンゲージメントについて触れます。

【講師】
柏総合研究所 辻本 臣哉
一橋大学経済学部卒業。ランカスター大学大学院修了(金融学修士)。1989年東京海上火災保険入社。1991年東京海上MC投資顧問(株)で、アナリスト業務を開始、その後アナリストのヘッドを務める。2001年明治ドレスナー・アセットマネジメント(株)に入社。同社調査部長を経て、2007年RCMアジアパシフィック(在香港、現アリアンツ・グローバル・インベスターズ)に、アジア地域(日本を含む)の調査統括として入社。2011年ニッセイアセットマネジメント(株)に移り、2012年にシンガポールに赴任。2013年から、ニッポン・ライフ・グローバル・インベスターズ・シンガポールCEO。10年以上に渡り、アジアおよびグローバルエマージング株を運用する会社を経営する。2023年に帰国し、柏総合研究所を設立、代表取締役に就任。

委員歴
日本CFA協会理事(2012年‐2013年)
経済産業省「伊藤レポート」委員(2013年‐2014年)
「シンガポール・スチュワードシッププリンシパル」委員(2016年‐2023年)
Ambassador of Lancaster University (Japan President) (2022年‐)

資格
日商簿記1級(1989年)
日本証券アナリスト(CMA)(1992年)
中小企業診断士 (資格返上)(1993年)
CFA協会認定アナリスト(CFA)(1999年)
米国公認会計士(Certificate)(2003年)
税理士試験科目合格 簿記論、財務諸表論

所属学会
日本金融学会、証券経済学会、日本経営財務研究学会、日本ファイナンス学会、日本インベスター・リレーションズ学会

【講義時間】32分28秒
【目次】
1 企業と投資家との視点の違い
(1)エージェンシー理論
(2)資本コスト
2 機関投資家
(1)機関投資家の種類
(2)機関投資家の選別
(3)インベスターリレーションズ(IR)の役割
(4)機関投資家の行動
3 対話の具体例
(1)投資家と企業の対話ガイドライン
(2)経営戦略
(3)財務戦略
(4)コーポレートガバナンス
(5)環境(E)・社会(S)
(6)協働エンゲージメント

講義資料 機関投資家との対話に向けて.pdf
講義

機関投資家との対話に向けて
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2023/09/20 有報における「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」状況

既報のとおり、東証に設置された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の第11回会合(2023年8月29日開催)では、「既存の開⽰を参照するのみで、資本コストを踏まえた現状分析・評価に関して言及がない」事例が問題視されたところ(2023年9月8日のニュース「東証の新たな要請と好対応事例」の「(2)適切な開示媒体の参照」参照)。

「既存の開示を参照するのみ」の事例で多く見られたのが、“昨年度”に公表した中期経営計画の説明資料や統合報告書などの引用だ。作成されたのが昨年度となると、東証が2023年3月末に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」のエッセンスを含んでいない可能性が高い。逆に、今年3月から一定期間経過後に開示された資料であれば、「資本コストや株価を意識した」記述が期待される。

そこで当フォーラムでは、TOPIX100採用企業のうち3月期決算の82社の有価証券報告書を調査し、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】における「資本コストや株価を意識した」記述の状況を確認した(なお、当フォーラムの調査によると、82社のうち「コーポレートガバナンス報告書における【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】の記載事例は20社にとどまっている(2023年7月18日ニュース「CG報告書の改訂記載要領への対応状況と好事例」参照))。・・・

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