今や上場会社において社外取締役は当然に選任されており、二人目、三人目の社外取締役を選任し、社外取締役が取締役総数の3分の1に達する事例も一般的になってきた。10年前の2013年には、東証市場第一部(当時)で社外取締役を(一人でも)選任している会社が6割台にすぎなかったことを考えると、隔世の感がある。
それから10年が経過する中で、会社法改正や取引所規則の改正を経て、社外取締役の数が急増することとなったが、当時就任した社外取締役が今でも現役のままという上場会社も少なくないであろう。なぜなら、会社法では取締役の任期は原則2年(1年に短縮可能(会社法332条1項)。また、指名委員会等設置会社の場合は1年)、監査等委員である取締役は2年、社外監査役4年と法定されてはいるものの、「改選回数」の上限は法定されていないため、多くの上場会社では改選を重ねるのが常態となっているからだ。そのような上場会社では、「社外取締役にいつ辞めてもらうのか」という在任期間の問題が年々重みを増しつつある。
在任期間が長くなればなるほど、社外役員が会社に馴染んで社内役員化してしまい、本来の職責を果たせなくなるとの指摘がある。そうなることを回避するため社内ルールで在任期間の上限を定めている会社もあるが、このようなルールがない会社では、どこかのタイミングで「辞めてもらう」必要がある。しかし、招聘した社外役員が“大物”であればあるほど、会社側としても任期の終了を打診しにくくなる。また、報酬が高額であればあるほど時間単価(*)も高くなることから、健康上の理由などが生じない限り社外役員がその地位を自ら手放すことは考えにくい。本業を別に持たない高齢の社外役員であれば、社外役員の退任イコール引退を意味するため、「まだまだ頑張れる」として地位に執着する者もいるだろう。
本来であれば、指名・報酬委員会がそのような社外役員に引導を渡す役割を担うべきだが、在任期間が長期化した社外役員ほど指名・報酬委員会の委員長になっているケースも多く、その場合、委員が委員長を退任させる議題を提案しづらいという問題がある。実際、在任期間を制限する社内ルールがないある上場会社の社外取締役は、「指名委員会における議論はこれから指名する候補者に関することが中心であり、不祥事や職務怠慢などでもない限り、在任期間だけで特定の役員の退任について議論するのは現実には難しい」とこぼす。また、社外役員の任期が長期化するほど会社への理解が増し、結果として監督機能の強化が図られるとともに、社外役員間の役割分担も明確になるという一面もある。このように社外役員が上手く機能すればするほど、社外役員の在任期間の長さに対する問題意識も薄れがちだ。さらに、長期在任に伴い生まれた社外役員間の“絆”や“連帯”がこれに拍車をかけることになる。
一方、社外役員から監督を受ける執行側としても、時間をかけて社外役員と人間関係を構築し、社外役員への対処方法のツボが分かってくると、現社外役員の退任により新たに“うるさ型”の社外役員が入ってくるくらいなら、むしろ現社外役員に任期を継続して欲しいというのが本音だろう。このような社内力学が働いた結果、在任期間を制限する社内ルールがない上場会社では、社外役員と執行側の相互に甘えが生じ、ずるずると改選が繰り返されることになる。
一方、機関投資家の中には、議決権行使基準で社外役員の在任期間についての方針を明示するところが増えてきた(主要機関投資家における社外役員の在任期間についての議決権行使基準については【2023年3月の課題】各運用機関の2023年議決権行使方針を参照)。機関投資家が「上限」とする在任期間のボリュームゾーンは12年となっている。社外役員が急増したのがここ10年間であることを踏まえると、12年基準に抵触し始める社外役員は今後続出するだろう。
実際にその兆候は出始めており、同時に改選される社外役員の間でも、任期の長短が原因で再任議案の賛成率に開きが生じるようになってきた。もっとも、再任議案の賛成率の差が開くに留まっている分には、まだマシと言える。曲がりなりにも可決には至っているからだ。この“社外役員の在任期間12年問題”の直撃を受けたのが、A&Dホロン(東証プライム)である。
A&Dホロンは2023年6月27日に開催された定時株主総会において、監査役1名を再任する議案を会社提案していたが、蓋を開けてみれば賛成率は49.62%と、再任議案が否決されてしまった(同社のリリース「第46回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」はこちら)。定時株主総会での監査役再任議案の否決という結果を受け、同社は別の監査役候補者を選任するためだけに2023年9月22日に臨時株主総会を開催することを余儀なくされた。否決された候補者は2011年6月に同社の監査役に選任されており、今回の定時株主総会はまさに12年目が終わるタイミングに該当していた。2023年3月期の同社の有価証券報告書によると、同社の株主構成は金融機関が22.69%、外国法人等が20.31%となっており、機関投資家の比率が高い。この株主構成を考えれば、在任期間16年を前提とした当該監査役の再任議案の否決は十分に予想できたはずだ。それでもなお本議案を提出した同社では、否決リスクの評価が不十分であった可能性がある。同社の指名・報酬委員会が機能していなかったと言われてもやむを得ないだろう。また、否決された候補者も「引き際を誤った」といったレピュテーションリスクを抱えることになる。
ちなみに、A&Dホロンには監査役が3人しかいない。そのうち1名が再任されなかったことになると、監査役が2人になってしまい、3人以上の監査役を必要とする監査役会が成り立たなくなるのではないか、との疑問が生じる。この点、会社法には、監査役に欠員が生じる場合、後任の監査役が就任するまでの間は、再任されなかった監査役も監査役としての権利義務を有するとの定めがある(会社法346条1項)。したがって、欠員により実務上の弊害が生じることはない。
社外役員の再任議案の否決リスクの顕在化を防ぐため、社内ルールで在任期間の上限を定めていない上場会社は早急にルール化の是非について検討を開始し、社外役員の新陳代謝が行われる仕組みを構築すべきだ(在任期間の上限については【役員会 Good&Bad発言集】役員の任期 を参照)。また、在任期間の上限を12年超にしている上場会社は、再任議案の得票率が他の役員を大きく下回った場合、投資家との対話を通じてその理由を分析し、再任反対の理由が在任期間にあるのであれば、社内ルール上の在任期間の短縮も検討しなければならない。こういった他律的な仕組みに加えて、「内部化してしまった」「社外役員として貢献できていない」との自覚がある社外役員には、地位に執着するのではなく、社内ルールで定めた在任期間の上限に達する前であっても反対票が入りだす前に自ら(自律的に)退任を選択し、後進に道を譲る「引き際の良さ」を期待したいところだ。
いずれにせよ、在任期間が長期化した社外役員の退任にあたり、後任の社外役員候補者をどうするかという問題も避けて通ることはできない。東証は女性役員を増やすよう企業行動規範を改正することを予定しているが、女性役員がいない上場会社は後任の役員候補を女性にすることも検討しておきたい(2023年8月4日のニュース『企業行動規範に女性役員選任努力義務を明記 「執行役員に準じる役職者」の範囲は?』を参照)。




