2023/08/04 企業行動規範に女性役員選任努力義務を明記 「執行役員に準じる役職者」の範囲は?(会員限定)

政府は2023年6月13日に公表した「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)」で下記の方針を掲げている。

「女性版骨太の方針2023」における取組方針
令和5年中に、取引所の規則に以下の内容の規定を設けるための取組を進める。
① 2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
② 2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
③ 左記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。

これを受け、東京証券取引所は2023年7月28日に「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)に係る上場制度の整備等について」を公表、上記「女性版骨太の方針2023」における取組方針を実現するため、プライム市場に上場する国内企業に対し、女性役員の選任について以下の事項を求めている。

① 2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
② 2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
③ 上記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。
※ 上記の女性役員には、取締役、監査役、執行役に加えて、執行役員又はそれに準じる役職者を含むことができるものとします。

これらの事項は企業行動規範の「望まれる事項(努力義務)」に追記される形となる。東証は2023年8月27日までパブリックコメントを募集し、2023年10月を目途に新たな企業行動規範の適用を開始する予定。今回の見直しは2023年5月25日のニュース「女性役員最低1名選任の努力義務、プライム上場企業は「2025年まで」、その後は対象市場の範囲拡大も」でお伝えした内容を踏襲するもので、既定路線と言える。

女性役員がゼロの東証プライム上場企業にとって関心が高いのが、「執行役員に準じる役職者」の範囲だ。東証は、上記パブリックコメントの募集にあたり、「役員の定義は(政府の)第5次男女共同参画基本計画の成果目標における定義を踏まえる」としている。しかし、第5次男女共同参画基本計画における女性の登用・採用に関する成果目標においても、「(女性)役員には、取締役、監査役、執行役に加えて、執行役員又はそれに準じる役職者も含む。」としか記載されておらず(6枚目の注2を参照)、「それに準じる役職者」の定義は明らかではない。

もっとも、内閣府の男女共同参画局推進課は2021年7月末時点の東証プライム市場上場企業1,837社を対象に「執行役員又はそれに準じる役職者における女性割合に関する調査」を実施しており、そこでは「執行役員又はそれに準じる役職者」の定義が下記のとおり示されている。今回の東証の企業行動規範の改正でもこの考え方を踏襲することとなる。

「執行役員又はそれに準じる役職者」の範囲
「執行役員又はそれに準じる役職者」の範囲は、会社法上の「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」として、取締役会の決議による選任・解任がされている役職者を基本としつつ、業務において重要な権限を委任されている役職者等、運用状況を踏まえて対象となる役職者を回答企業が判断

自社が執行役員制度を採用していなければ、上記の考え方に沿って「執行役員に準じる役職者」の範囲を確定すればよい。つまり、執行役員制度を採用していない企業でも、「執行役員に準じる役職者」の範囲をある程度の裁量をもって各社が独自に判断することが可能というわけだ。

上記の男女共同参画局推進課による調査で、回答のあった東証プライム市場上場企業の男性役員の60.6%が社内から登用されているのに対し、女性役員の85.9%が社外役員であることが判明している。女性役員の社内登用率の向上こそが女性活躍推進の鍵を握っており、今後は将来的に社内から登用される取締役・監査役の候補者である「執行役員又はそれに準じる役職者」に占める女性比率の向上が求められる。

なお、東証は、上記の女性活躍関連の制度改正とともに、現状「5万円以上」とされている望ましい投資単位の水準の下限の撤廃も予定している(東証のパブコメ募集の2ページ目を参照)。これは、NTTが2023年6月に株式を25倍に分割するなど、最低単位の100株を購入するのに必要な金額を引き下げる動きに対応したもの。来年(2024年)1月から新しいNISA(新型少額投資非課税制度)が始まり、若い世代の長期投資へのニーズが高まる可能性があり、今回の制度改正を機に最低投資金額が高めの上場企業を中心に“株式分割ブーム”が到来する可能性もあろう。


新しいNISA : 新型少額投資非課税制度(要件を満たす少額投資であれば所得税が課税されない制度)。年間120万円のつみたて投資枠と年間240万円の成長投資枠があり、生涯投資上限は1800万円(うち成長投資枠は1200万円)。新しいNISAでは、非課税保有期間が無期限とされている。



2023/08/03 改正開示府令に対応した有報における「取締役会等の活動状況」の開示の傾向と好事例

昨今、投資家と企業の対話において話題に上ることが多いテーマとして、取締役会の機能発揮の状況や実効性の向上に向けた取組状況がある。2023年3月決算企業の有価証券報告書から「取締役会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)」の開示が求められることとなったのも、こうした対話のトレンドを踏まえたものと言える(改正開示府令の内容については、【2023年5月の課題】提出前最終チェック! 有価証券報告書の改正点 参照)。2023年3月決算企業の有価証券報告書がおおむね出揃った中、これらについて各社がどのような開示を行ったのか、実際の開示事例を踏まえつつ、傾向を分析してみよう。

まず、取締役会等の開催頻度、個々の取締役又は委員の出席状況については、定量的な情報であり、実績をありのまま記載すれば済むことから、多くの企業で不足なくかつ同様の記載内容となった。

一方、取締役会等における具体的な検討内容については、各社における記載の質・量や方法に相応のギャップと多様性が見られた。具体的には、記載の質・量については、・・・

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2023/08/03 改正開示府令に対応した有報における「取締役会等の活動状況」の開示の傾向と好事例(会員限定)

昨今、投資家と企業の対話において話題に上ることが多いテーマとして、取締役会の機能発揮の状況や実効性の向上に向けた取組状況がある。2023年3月決算企業の有価証券報告書から「取締役会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)」の開示が求められることとなったのも、こうした対話のトレンドを踏まえたものと言える(改正開示府令の内容については、【2023年5月の課題】提出前最終チェック! 有価証券報告書の改正点 参照)。2023年3月決算企業の有価証券報告書がおおむね出揃った中、これらについて各社がどのような開示を行ったのか、実際の開示事例を踏まえつつ、傾向を分析してみよう。

まず、取締役会等の開催頻度、個々の取締役又は委員の出席状況については、定量的な情報であり、実績をありのまま記載すれば済むことから、多くの企業で不足なくかつ同様の記載内容となった。

一方、取締役会等における具体的な検討内容については、各社における記載の質・量や方法に相応のギャップと多様性が見られた。具体的には、記載の質・量については、投資家による評価・判断に資するレベルで丁寧に記載している事例もあれば、法定の決議事項(例えば、重要な財産の処分および譲受け、多額の借財など。会社法362条4項)や抽象的な審議項目名(例:重要な経営戦略の方針について)といった最低限の記載にとどまっている事例、はたまた“質より量”と言わんばかりに、開催日毎の審議事項をすべて列挙している事例もあった。記載方法としては、文章による記述的な説明だけでなく、図表・チャートを活用して視覚的に訴えるものや、付議件数や審議時間の割合を示すことで実際の審議のボリューム感・重要性を表現するよう工夫するものがあった。

このように、各社で開示内容にバラつきが見られる中で注目に値する開示を行っているのが、エーザイと東京エレクトロンだ。

エーザイでは、取締役会等の活動状況として、会議体の役割、取締役会議長・各委員会の委員長からのメッセージ、実際の活動内容・状況を記載している。各メッセージは、同社が社外取締役主導で取締役会の実効性の向上に真摯に取り組んでいることが読み取れる内容となっている(同社の有価証券報告書63ページ~参照)。

東京エレクトロンでは、取締役会の活動状況を、その取組みや審議の前提となる実効性評価の概要(対象、方法・項目、結果とそれを踏まえた取組みの内容)と関連付ける形で記載。取締役会等の機能発揮のPDCAサイクルを読み取ることができる内容となっている(同社の有価証券報告書53ページ~参照)。

世界的な人事コンサルティング会社、ウイリス・タワーズワトソンによると、取締役会の審議内容の開示において一定の具体性が認められる企業は、TOPIX100構成企業においても55%にとどまっているという(ウイリス・タワーズワトソンのリリースはこちら)。エーザイおよび東京エレクトロンの開示内容は今後「好事例」として他社に参照されることになりそうだ。

2023/08/02 【新任役員向けトレーニングプログラム】取締役・執行役の職務内容と選任・解任 の更新

下記の【新任役員向けトレーニングプログラム】につき、法令等の改正や実務動向の変化に対応するため、講義内容(動画およびレジュメの双方)を更新いたしました。本動画は新任役員向けトレーニングプログラムの受講の契約をされている方のみが閲覧可能です。

概略

本講義では、まず取締役、執行役それぞれの職務内容を整理し、監督機能の有無など両者の違い、使用人兼務取締役、執行役員制度など、両者を補完する概念について理解していただきます。その上で、取締役、執行役の民事上の責任(会社に対する責任、第三者に対する責任)、刑事上の責任(株主等の権利行使に関する利益供与の罪、開示懈怠など)、取締役・執行役の選任・解任のプロセスやルールなどについて解説します。

【講師】TMI総合法律事務所 水田 進 弁護士
【講義時間】16分50秒
【目次】
Ⅰ 取締役の職務内容
Ⅱ 取締役に関連する概念
Ⅲ 執行役の職務内容
Ⅳ 執行役に関連する概念
Ⅴ 取締役・執行役の責任
Ⅵ 取締役・執行役の選任・解任

講義資料 取締役・執行役の職務内容と選任・解任.pdf
講義

取締役・執行役の職務内容と選任・解任
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2023/08/01 雇用調整助成金の不正受給をした上場会社の誤算

コロナ禍で業績が低迷し資金繰りが悪化したものの、雇用調整助成金(コロナ特例)の受給で一息付くことができたという上場会社は少なくないだろう。ようやくコロナ禍が終息しつつある中、コロナ特例を用いた雇用調整助成金の支給は2023年3月末で終了し、現在ではコロナ特例がない雇用調整助成金のみが制度として存在しており、厚生労働省(労働局)は、コロナ特例終了に伴い、過去の雇用調整助成金の受給申請内容に不正がなかったかどうかの調査を強化するというステージに移行している(この点に関する厚生労働省のパンフレットはこちら)。実際、雇用調整助成金の不正受給は続々と発覚している。東京商工リサーチの調査によると、虚偽申請などで不正受給があったとして厚生労働省より社名等を公表された会社は全国で516社(そのうち2回公表されたのは3社)あり、不正受給金額は総額で163億2,020万円に達している。雇用調整助成金を返還した上場会社は7社で、そのうち3社は不正によるものであった(東京商工リサーチによる調査結果参照)。


雇用調整助成金(コロナ特例) : 新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合、従業員の雇用維持を図るために、労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するもの。コロナ特例では計画届を提出不要とするなど簡易な申請が認められていた。

不正受給が発覚した上場会社の一つが東証スタンダードに上場している・・・

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2023/08/01 雇用調整助成金の不正受給をした上場会社の誤算(会員限定)

コロナ禍で業績が低迷し資金繰りが悪化したものの、雇用調整助成金(コロナ特例)の受給で一息付くことができたという上場会社は少なくないだろう。ようやくコロナ禍が終息しつつある中、コロナ特例を用いた雇用調整助成金の支給は2023年3月末で終了し、現在ではコロナ特例がない雇用調整助成金のみが制度として存在しており、厚生労働省(労働局)は、コロナ特例終了に伴い、過去の雇用調整助成金の受給申請内容に不正がなかったかどうかの調査を強化するというステージに移行している(この点に関する厚生労働省のパンフレットはこちら)。実際、雇用調整助成金の不正受給は続々と発覚している。東京商工リサーチの調査によると、虚偽申請などで不正受給があったとして厚生労働省より社名等を公表された会社は全国で516社(そのうち2回公表されたのは3社)あり、不正受給金額は総額で163億2,020万円に達している。雇用調整助成金を返還した上場会社は7社で、そのうち3社は不正によるものであった(東京商工リサーチによる調査結果参照)。


雇用調整助成金(コロナ特例) : 新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合、従業員の雇用維持を図るために、労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するもの。コロナ特例では計画届を提出不要とするなど簡易な申請が認められていた。

不正受給が発覚した上場会社の一つが東証スタンダードに上場している衣料雑貨卸売のプロルート丸光だ。同社は2023年4月3日に大阪労働局による調査を受け、勤怠データを改ざんする手口で出勤した従業員を休業していたと偽り、助成金を申請するなどの不正を行っていたことが発覚した。その結果、2020年3月21日から2022年4月20日分までの期間において申請した雇用調整助成金のうち約2億6千万円の支給が取り消されるとともに返還を求められることとなった(同社のリリース「雇用調整助成金支給決定取消及び返還通知書の受領に関するお知らせ」より)。

雇用調整助成金の支給が取り消されると、助成金の返還だけでなく、違約金(不正受給した助成金の額の2割に相当する額)および延滞金(不正受給の日の翌日から納付の日まで年3%の利率により計算した金額)の支払いも求められる。プロルート丸光では、違約金および延滞金が66百万円にのぼったため、2023年7月21日に開示した2023年3月期の連結損益計算書において同額の「助成金返還損」を特別損失に計上している。

助成金の支給を取り消されたのが上場会社であれば、監査法人等の要請により第三者委員会を設置し、不正の原因究明と再発防止策の策定を委任するケースが少なくない(例えば、同様の不正が発覚した「きょくとう」のリリースはこちら)。プロルート丸光でも、2023年5月26日に第三者調査委員会を発足させ、7月14日に調査報告書を受領している。こうした第三者調査委員会による調査には多額のコストがかかるのが通常だ。

また、取り消された助成金の額の重要性次第では、過年度の決算の訂正も必要になる。2021年3月期の売上高58億円、当期純利益14百万円、2022年3月期の売上高42億円、当期純損失598百万円(いずれも訂正前)のプロルート丸光にとって、約2億6千万円の助成金支給取消しの影響は決して小さくない。そのため同社では、2021年3月期および 2022年3月期の決算の訂正が必要となった。通常、過年度の決算の訂正は外部の会計事務所などによるサポートを受けながら行われることが多く、そのコスト負担も重くのしかかる。

プロルート丸光にとっての誤算は多額の“後始末コスト”の負担にとどまらなかった。同社が第三者委員会の調査を経て行った決算訂正および2023年3月期の決算に対して監査法人(なぎさ監査法人)が監査意見を表明しないこととなったのだ(同社が2023 年7月20日に公表した「過年度及び 2023 年3月期の有価証券報告書等に係る監査報告書の意見不表明並びに内部統制監査報告書の意見不表明に関するお知らせ」を参照)。なぎさ監査法人は、プロルート丸光の2023年3月期の有価証券報告書に添付された監査報告書において、「会社の内部統制の再評価を行った結果、不祥事を回避するという意味での経営管理能力の欠如が重大な影響を及ぼし得る新規事業等について、重要な虚偽表示リスクをより高いものと再評価し、見直し後の監査計画に基づく追加監査手続の実施を試みたものの、手続きの実施に多くの制約があり、十分かつ適切な監査証拠の入手を行うことができなかった」とし、「その結果、当監査法人は、連結財務諸表に対して意見を表明する根拠となる十分かつ適切な監査証拠を入手することができず、連結財務諸表に重要な修正が必要かどうかについて判断することができなかった」ため、監査意見を表明しないこととしたと説明している。

東証のルールでは、監査報告書に「意見の表明をしない」旨が記載された場合であっても、東証が「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである」と認めない限りは上場廃止とはならない。実際、東証は今のところプロルート丸光に対してそのような判断はしていない。もっとも、東証が「内部管理体制等について改善の必要性が高い」と認める場合には、特設注意市場銘柄への指定や改善報告書の提出要求の対象になる可能性はある。そうなるかどうかは、今後の東証の判断次第と言える。プロルート丸光の担当者が雇用調整助成金の不正受給に手を染めた時は、まさか監査意見が表明されなかったり取引所の判断待ちの状況になったりするといった事態までは想像していなかったに違いない。


監査意見を表明しない : 監査報告書には、監査人の意見として以下の4つのパターンのいずれかが記載される。
(1)無限定適正意見・・・すべての重要な点において適正に表示している。
(2)限定付適正意見・・・一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。
(3)不適正意見・・・適正に表示していない。
(4)意見不表明・・・適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。
特設注意市場銘柄 : 監査報告書等の不適正意見のほか、有価証券報告書等の虚偽記載、上場契約違反等の上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの上場廃止にまでは至らなかった銘柄のうち、証券取引所が「内部管理体制等を改善する必要性が高い」と判断し、継続的に投資家に注意喚起するために指定する銘柄のこと。特設注意市場銘柄に指定された銘柄は通常の取引銘柄と区別され、特設注意市場において売買される。
改善報告書 : 上場会社が適時開示に係る規定に違反した場合または企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反した場合で改善の必要性が高いと認められるときに、証券取引所が上場会社に提出を求める書類で、違反の経過および改善措置が記載され、公表対象となる。

もっとも、上述した「きょくとう」(東証スタンダード)では、訂正後の過年度の財務諸表に対して適正意見の監査報告書を受領できている。同様の助成金不正受給事案であっても、監査意見については明暗が分かれることとなった。仮に助成金の不正受給が発覚したとしても、返還の事実を決算に適正に反映できてさえいれば、必ずしも意見不表明になるものではないということだ。監査意見の不表明という事態を招いたのは、監査法人に「この脆弱な内部統制では他にも(特に新規事業において)何か見えていないリスクが潜んでいるのではないか」と、監査意見の表明を躊躇させるレベルの内部統制しか構築できなかった経営陣の責任と言えよう。

2023/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】有償支給

P社(プライム市場上場)の取締役会では、子会社であるS社の取締役により子会社の期末決算についての説明が行われているところです。S社の取締役が「買戻し義務のある加工会社への有償支給」について説明した際に、次の3人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

有償支給 : 企業が、対価と交換に原材料等(以下、支給品)を外部(以下、支給先)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む)を購入する取引のこと。

取締役A:「有償支給だと外注先としては支払いが先行するため、加工のための期間次第で外注先の資金繰りが悪化する可能性もあります。それを考慮すると有償支給時の売上計上はあきらめて無償支給にするのも一案です。」

取締役B:「S社としては売上が多い方が銀行対策の観点から見栄えが良いので、有償支給の単価を高めに設定しておくのはどうでしょう。どうせ買い戻すのですから、外注先もそれほど負担に思わないのではないでしょうか。」

取締役C:「外注先に無償で支給すると支給品の管理がおろそかになるリスクがあるので、それを考慮すると有償支給でも良いと考えますが、そもそもS社に買戻し義務があるとのことなので、S社としては有償支給時に売上を計上できない取引になるのではないでしょうか。」

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2023/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】有償支給(会員限定)

<解説>
有償支給と無償支給の違い

製造業では、組み立てや加工といった工程の一部を社内で行わず、外注先に当該工程を委託するケースが少なくありません。その際に、外注先が原材料や部品を独自に仕入れるのではなく、発注元となるメーカーが一括して原材料や部品を仕入れて外注先に支給するケースが良く見受けられます。その理由として、発注元の方が外注先よりも安く調達できるケースが多いことが考えられます。支給にあたっては、発注元のメーカーが外注先に当該原材料や部品を支給する際に、いったん原材料や部品を販売した形にして(これを有償支給と言います)、外注先は加工後に加工代を上乗せした額で発注元に売却するケースと、発注元のメーカーは外注先に販売せずにただで支給して(これを無償支給と言います)、外注先は加工後に加工代のみを受け取るケースがあります。有償支給と無償支給には下記のとおり、それぞれメリットとデメリットがあると言われています(【役員会 Good&Bad発言集】外注先への原価低減の要請 の図を再掲)。

メリット・デメリット 有償支給 無償支給
発注元にとってのメリット ・原則として外注先が仕損品や棚卸減耗のコストを負担するため、外注先にコスト圧縮についてのインセンティブを持たせることができる。
・期末に外注先にある支給部材について、棚卸をする必要がない。
・有償支給時に比べて、会計処理が楽になる。
発注元にとってのデメリット ・無償支給時に比べて、有償支給分の売上計上(買戻し義務があれば売上計上は認められない)や債権管理、入金時の消し込み等の手間が増える。 ・原則として外注先は仕損品や棚卸減耗のコストを負担しないため、外注先にコスト圧縮についてのインセンティブを持たせることが難しい。
・有償支給時に比べて、在庫の確認の手間が増える。

棚卸減耗 : 棚卸で数えた在庫の実数が帳簿上の数量を下回っていること。検収ミス、出荷時のミス、盗難等が考えられる。

このように有償支給と無償支給は一概にどちらが望ましいかを決めることはできないことから、当事者がメリット・デメリットを勘案しどちらかの支給方法をに選択することとなります(下請法の観点からの注意点については【役員会 Good&Bad発言集】外注先への原価低減の要請を参照)。

買戻し義務がある有償支給の売上計上はNG

2021年4月1日開始事業年度から「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)が適用されています。収益認識会計基準では、買戻し義務のある有償支給取引は売上を計上しないことが明記されています(収益認識会計基準適用指針104項参照)。

有償支給取引について収益認識会計基準に反する会計処理をしていたことが発覚したのが、東証プライム市場に上場しているツガミです。ツガミでは、ツガミが調達した部材を中国子会社に売却し、中国子会社ではこれを用いて完成機を生産し大半を親会社に売却し、親会社は当該完成機を客先仕様に合わせる等の作業を行った後、日米欧等のユーザーに販売する取引を行っていました。

ツガミは、一連の取引に対して会計監査人から「結果として、同一部材で売上が二重計上されている」との指摘を受け、過年度の有価証券報告書の売上等を訂正するとともに、財務報告に係る内部統制に開示すべき重要な不備があり、当該事業年度末日時点において同社グループの財務報告に係る内部統制は有効でない旨記載した内部統制報告書を提出することになりました(ツガミが2023年4月21日に公表した「過年度の有価証券報告書の訂正報告書の提出および決算短信(個別業績の概要)の訂正に関するお知らせ」および2023年7月18日に公表した「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」を参照)。本来であれば収益認識会計基準導入時に点検した上であるべき会計処理に修正されていたはずですが、どうやらその際に点検漏れがあったものと思われます。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役C:「外注先に無償で支給すると支給品の管理がおろそかになるリスクがあるので、それを考慮すると有償支給でも良いと考えますが、そもそもS社に買戻し義務があるとのことなので、S社としては有償支給時に売上を計上できない取引になるのではないでしょうか。」
コメント:取締役Cの発言は無償支給のデメリットを踏まえたうえで、買戻し義務がある場合の会計処理についても正しく理解した上でのGOOD発言です。

BAD発言はこちら

取締役A:「有償支給だと外注先としては支払いが先行するため、加工のための期間次第で外注先の資金繰りが悪化する可能性もあります。それを考慮すると有償支給時の売上計上はあきらめて無償支給にするのも一案です。」
コメント:取締役Aの発言は有償支給時において加工のための期間次第では外注先の資金繰りが悪化する可能性について指摘している点はGOODですが、S社に買戻し義務があるにもかかわらず、「有償支給時の売上計上はあきらめて」と売上を計上することを前提にしている点がBAD発言と言わざるを得ません。

取締役B:「S社としては売上が多い方が銀行対策の観点から見栄えが良いので、有償支給の単価を高めに設定しておくのはどうでしょう。どうせ買い戻すのですから、外注先もそれほど負担に思わないのではないでしょうか。」
コメント:「どうせ買い戻すのですから、外注先もそれほど負担に思わない」との発言は外注先の資金繰り負担を軽視したBAD発言です。また「S社としては売上が多い方が銀行対策の観点から見栄えが良い」との発言は売上を計上することを前提にしている点で取締役Aと同様のBAD発言です。