株価低迷の原因は様々だが、その一つにコングロマリット・ディスカウントがある。これは、低調な事業が好調な事業の足を引っ張る形で会社全体としての株価がディスカウントされることをいう。コングロマリット・ディスカウントを解消する策として不振事業の売却が考えられるが、事業売却益には課税が伴うことがネックとされている。
東証プライム市場に上場している・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
株価低迷の原因は様々だが、その一つにコングロマリット・ディスカウントがある。これは、低調な事業が好調な事業の足を引っ張る形で会社全体としての株価がディスカウントされることをいう。コングロマリット・ディスカウントを解消する策として不振事業の売却が考えられるが、事業売却益には課税が伴うことがネックとされている。
東証プライム市場に上場している・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
株価低迷の原因は様々だが、その一つにコングロマリット・ディスカウントがある。これは、低調な事業が好調な事業の足を引っ張る形で会社全体としての株価がディスカウントされることをいう。コングロマリット・ディスカウントを解消する策として不振事業の売却が考えられるが、事業売却益には課税が伴うことがネックとされている。
東証プライム市場に上場しているHamee社は、2015年4月の上場以降、コマース事業(スマートフォンアクセサリーの EC・卸販売がメイン)とプラットフォーム事業(SaaS型ECプラットフォームのサービス提供がメイン)の2つの異なる事業を抱えているが、株価がコマース事業に足を引っ張られプラットフォーム事業の市場評価が適切に反映されておらず、まさにコングロマリット・ディスカウントが生じていた。また同社では、全体最適を優先するあまり社内の意思決定にも非効率化が生じ(例えば、労働環境、給与水準を各事業に応じて柔軟に変更しようとしても困難)、各事業の経営責任も不明確になっているとの課題もあった。
SaaS : 「Software as a Service」の略で、クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービスのことをいう。インストール不要で、ベンダーが提供するクラウドサーバーにアクセスするだけでソフトウェアを使用できる点に特長がある。「サース」または「サーズ」と呼ばれる
そこでまずHamee社が取り組んだのが、プラットフォーム事業の子会社化だ(同社の2023年7月14日のリリースを参照)。具体的には、2022年8月に子会社のNE社を承継会社としてHamee社のプラットフォーム事業を分社化し、NE社に吸収分割させている。この分社化により、Hamee社は、親会社はコマース事業、子会社(NE社)はプラットフォーム事業というように、事業を法人単位で区分することで、各社がそれぞれ単一事業に集中し、意思決定を最適化できるようになった。また、それぞれの事業に特化したノウハウを有する取締役を代表に任命することにより、経営責任の明確化も図られた。なお、本吸収分割は組織再編税制上の要件を満たし、売却益への課税も免れている。
組織再編税制 : 組織再編には資産の移転が伴う(例えばA社がB社を吸収合併した場合、B社の資産がA社に移転することになる)。資産の移転は基本的に課税対象(資産の取得価額よりも移転価額が高ければ、その差額が課税対象となる)とするのが税務の考え方だが、組織再編のたびに税金がかかるとなると、企業が必要な組織再編すら躊躇してしまう可能性があるため、法人税法では「組織再編税制」を制度を設け、100%グループ内の組織再編や、共同事業のための組織再編を行う場合には資産の移転に課税を行わないことにしている。
もっとも、これだけではコングロマリット・ディスカウントは解消されない。なぜなら、上場しているのは従来どおり親会社のHamee社だけであり、コマース事業とプラットフォーム事業の2つの異なる事業に対して1つの株価が付いたままであることには変わりがないからだ。そこで、次のステップとしてHamee社が打ち出した策が、NE社をスピンオフしてIPO(株式上場)させることである。2023年7月14日に公表されたHamee社のリリースによると、これは、NE社の全株式を現物配当により同社株主に分配(スピンオフ)し、NE社株式を上場させるというプランであり、2025年中には東証にNE社の上場申請を行い、東証からNE社の上場承認が得られることを条件にスピンオフを実施するとしている。スピンオフIPOは既にコシダカHDの事例があり、上場スキームとして確立されている(コシダカHDの事例については、2019年10月11日のニュース『本邦初の「現物配当による子会社上場」実現に向けた三つの障壁』を参照)。
スピンオフ : 企業や組織の一部を分離し、別個の独立した企業や組織とすること。
このスピンオフIPOが実現すれば、Hamee社の株主は「Hamee社の株式」と「NE社の株式」の両方を有することになり、当然ながら、スピンオフIPO後はどちらの株式も株式市場での売却が可能となる。また、Hamee社とNE社の資本関係も消滅する。スピンオフIPOの結果、コマース事業の株価(Hamee社の株価)とプラットフォーム事業の株価(NE社の株価)が明確に分かれることになり、コングロマリット・ディスカウントは解消される。2017年度税制改正により株式分配型のスピンオフにおいて、株式分配を実施する法人の譲渡損益課税の繰延べや分配を受ける株主への配当を非課税とする措置(スピンオフ税制)が創設されたが(最新のスピンオフ税制については2022年12月14日のニュース「持分を残した形での子会社や事業の切り離しへの税制優遇が実現」参照)、Hamee社もスピンオフ税制を利用するとしている。
ただ、Hamee社の場合、直近の一株当たり利益が前期の半分(2022年4月期109.72円→2023年4月期59.44円)となったことに伴い株価が低迷し、2023 年4月30日現在の同社の流通株式時価総額は66億円に過ぎない。これは、同社が上場するプライム市場が求める上場維持基準である「100億円」を大きく割り込んでいる。この状況でNE社がスピンオフすれば、理論上、Hamee社の株価はプラットフォーム事業の分だけさらに下がり、プライム市場上場維持のための流通株式時価総額基準の達成はますます困難となる。つまり、スピンオフIPOは少なくとも流通株式時価総額の向上という観点からはマイナスの影響を及ぼすことになる。そこでHamee社はプライム市場への上場維持を諦め、特例(*)を利用してスタンダード基準に上場申請を行うとしている(Hamee社のリリースはこちら)。すなわち、Hamee社は流通株式時価総額基準の達成を断念してでもコングロマリット・ディスカウントという経営課題を解決する道を選んだと言える。
事業多角化の結果、コングロマリット・ディスカウントを抱える上場会社は少なくない。とりわけPBR1倍割れの上場会社の経営陣が自社の株価低迷の主な理由がコングロマリット・ディスカウントであると判断すれば、株主利益を最大化させるために行うスピンオフIPOも「株価を意識した経営」(*)の選択肢の一つとして検討したいところだ。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
br>
br>
br>
br>
br>
br>
【WEBセミナー公開開始日】2023年7月19日
ChatGPTを業務に活用する方針を打ち出す上場企業が相次いでいますが、業務での活用に伴う法的リスク等については明確に認識されていないのが現状です。
そこで本セミナーでは、デジタル庁 技術検討会議 ガバメントソリューションサービス タスクフォースの専門委員を務めるなど、知的財産法、情報の保護に関する法分野、電子商取引に関する法分野を専門とし、IT、インターネットビジネスなどを得意とするTMI 総合法律事務所 パートナーの柴野相雄弁護士に、「Chat GPTを巡る法的論点」とのテーマでご講演いただきます。具体的には、AIのレベルの変遷や政府内の議論を整理していただいた上で、例えば著作権、営業秘密、個人情報保護、プライバシー、肖像権、安全保障といった分野の法的リスク、さらには、自社におけるデータの管理の問題など、ChatGPTの業務での活用に伴う課題を、柴野弁護士の私見も交えながら解説していただきます。
【講師】
TMI 総合法律事務所
パートナー 弁護士 柴野 相雄 様
| セミナー資料 | Chat GPTを巡る法的論点 〜近年のAIに関する政府の議論をおさらいしつつ〜.pdf |
新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2023年7月19日(水)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。
| テーマ | 講師 |
| Chat GPTを巡る法的論点 〜近年のAIに関する政府の議論をおさらいしつつ〜 | TMI 総合法律事務所 パートナー 弁護士 柴野 相雄 様 |
■WEBセミナーの詳細
| セミナー の内容 |
ChatGPTを業務に活用する方針を打ち出す上場企業が相次いでいますが、業務での活用に伴う法的リスク等については明確に認識されていないのが現状です。 そこで本セミナーでは、デジタル庁 技術検討会議 ガバメントソリューションサービス タスクフォースの専門委員を務めるなど、知的財産法、情報の保護に関する法分野、電子商取引に関する法分野を専門とし、IT、インターネットビジネスなどを得意とするTMI 総合法律事務所 パートナーの柴野相雄弁護士に、「Chat GPTを巡る法的論点」とのテーマでご講演いただきます。具体的には、AIのレベルの変遷や政府内の議論を整理していただいた上で、例えば著作権、営業秘密、個人情報保護、プライバシー、肖像権、安全保障といった分野の法的リスク、さらには、自社におけるデータの管理の問題など、ChatGPTの業務での活用に伴う課題を、柴野弁護士の私見も交えながら解説していただきます。 |
| 講師のご紹介 |
柴野 相雄(しばの ともお)様 TMI 総合法律事務所 弁護士 ・1998年 慶應義塾⼤学法学部法律学科卒業、2002年 TMI総合法律事務所 入所 ・2010年 ワシントン⼤学ロースクール(LL.M., Intellectual Property Law and Policy コース)卒業、2010年9⽉〜2011年5⽉ サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアスLLP勤務 ・2016年 慶應義塾⼤学法科⼤学院 非常勤教員就任(知的財産法務ワークショップ・プログラム)、2018年 一橋⼤学⼤学院 法学研究科 ビジネスロー専攻 非常勤講師(デジタル時代の著作権法)(隔年)、2019年 ISO/PC 317 (Consumer protection: Privacy by design for consumer goods and services) 国内審議委員会 委員就任、2022年2⽉ 東京⼤学 未来ビジョン研究センター 客員研究員就任、2022年6⽉ 一般社団法人 外国映画輸入配給協会 理事就任、デジタル庁 技術検討会議 ガバメントソリューションサービス タスクフォース 専門委員就任、2023年1⽉ 慶應義塾⼤学⼤学院政策・メディア研究科 特任教授 就任。 知的財産法、情報の保護に関する法分野、電子商取引に関する法分野を専門としており、IT、インターネットビジネス、エンタテインメント、広告、メディアに関する裁判、法律相談等を多く扱う。 近時の主な著書として、「IT・インターネットの法律相談[改訂版]」(2020年 ⻘林書院)、「AIDCプラットフォームにおけるデータ提供契約に関する報告書」(2022年 一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム)、 「ヘルスケアビジネスの法律相談」(2022年 ⻘林書院)、 「個人情報管理ハンドブック(第5版)」(2023年 商事法務)等がある。 <連絡先E-mail> tshibano@tmi.gr.jp |
会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/69275/
非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/G7hxiq55qpcWDjoS6
<収録月>
2023年7月
<収録時間>
66分
<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。
【WEBセミナー公開開始日】2023年7月19日
ChatGPTを業務に活用する方針を打ち出す上場企業が相次いでいますが、業務での活用に伴う法的リスク等については明確に認識されていないのが現状です。
そこで本セミナーでは、デジタル庁 技術検討会議 ガバメントソリューションサービス タスクフォースの専門委員を務めるなど、知的財産法、情報の保護に関する法分野、電子商取引に関する法分野を専門とし、IT、インターネットビジネスなどを得意とするTMI 総合法律事務所 パートナーの柴野相雄弁護士に、「Chat GPTを巡る法的論点」とのテーマでご講演いただきます。具体的には、AIのレベルの変遷や政府内の議論を整理していただいた上で、例えば著作権、営業秘密、個人情報保護、プライバシー、肖像権、安全保障といった分野の法的リスク、さらには、自社におけるデータの管理の問題など、ChatGPTの業務での活用に伴う課題を、柴野弁護士の私見も交えながら解説していただきます。
【講師】
TMI 総合法律事務所
パートナー 弁護士 柴野 相雄 様
| セミナー資料 | Chat GPTを巡る法的論点 〜近年のAIに関する政府の議論をおさらいしつつ〜.pdf |
既報のとおり、東証は2023年3月31日付で公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」および「株主との対話の推進と開示について」を踏まえ、2023年4月版のコーポレートガバナンス報告書の記載要領を改訂し、コーポレートガバナンス・コードのいわゆる開示14原則のコンプライ状況を記載する「コードの各原則に基づく開示」欄に、今回の要請事項である2つの項目についての記載を求めている(2023年6月13日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示に3つのパターン』参照)。
開示14原則 : 原則1-4( 政策保有株式)、 原則1-7( 関連当事者間の取引)、補充原則2-4①(中核人材の登用等における多様性の確保)、原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)、原則3-1(情報開示の充実)、補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み、補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲)、原則4-9(独立社外取締役の独立性判断基準及び資質)、補充原則4-10①(指名委員会・報酬委員会の権限・役割等)、補充原則4-11①( 取締役会の多様性に関する考え方等)、補充原則4-11② (取締役・監査役の兼任状況)、補充原則4-11③ (取締役会の実効性評価)、補充原則4-14② (取締役・監査役に対するトレーニングの方針)、原則5-1 (株主との建設的な対話に関する方針)
いずれの事項に対しても東証はできる限り速やかな対応を要請しており、2023年4月25日に開催された第10回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」では、「3月期決算会社の定時株主総会後に提出されるコーポレートガバナンス報告書の内容も踏まえ、今秋を目途に報告・議論を行う」方針が打ち出されている(同会合に提出された資料の1ページ下部参照)。すなわち東証は、3月決算会社が6月総会後に提出するコーポレートガバナンス報告書で、新たな記載要領に基づく開示をすることを期待しているということだ。
そこで当フォーラムでは、3月期決算のプライム市場上場会社すべてのコーポレートガバナンス報告書(2023年7月14日時点)をサンプルに、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
既報のとおり、東証は2023年3月31日付で公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」および「株主との対話の推進と開示について」を踏まえ、2023年4月版のコーポレートガバナンス報告書の記載要領を改訂し、コーポレートガバナンス・コードのいわゆる開示14原則のコンプライ状況を記載する「コードの各原則に基づく開示」欄に、今回の要請事項である2つの項目についての記載を求めている(2023年6月13日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示に3つのパターン』参照)。
開示14原則 : 原則1-4( 政策保有株式)、 原則1-7( 関連当事者間の取引)、補充原則2-4①(中核人材の登用等における多様性の確保)、原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)、原則3-1(情報開示の充実)、補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み、補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲)、原則4-9(独立社外取締役の独立性判断基準及び資質)、補充原則4-10①(指名委員会・報酬委員会の権限・役割等)、補充原則4-11①( 取締役会の多様性に関する考え方等)、補充原則4-11② (取締役・監査役の兼任状況)、補充原則4-11③ (取締役会の実効性評価)、補充原則4-14② (取締役・監査役に対するトレーニングの方針)、原則5-1 (株主との建設的な対話に関する方針)
いずれの事項に対しても東証はできる限り速やかな対応を要請しており、2023年4月25日に開催された第10回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」では、「3月期決算会社の定時株主総会後に提出されるコーポレートガバナンス報告書の内容も踏まえ、今秋を目途に報告・議論を行う」方針が打ち出されている(同会合に提出された資料の1ページ下部参照)。すなわち東証は、3月決算会社が6月総会後に提出するコーポレートガバナンス報告書で、新たな記載要領に基づく開示を期待しているということだ。
そこで当フォーラムでは、3月期決算のプライム市場上場会社すべてのコーポレートガバナンス報告書(2023年7月14日時点)をサンプルに、新たな記載要領のキーワード(「資本コストや株価を意識した経営」「株主との対話の実施状況」)が含まれているかどうかを調査した。調査結果は下表のとおり。
| 両方の記載あり | 17% |
| 「資本コストや株価を意識した経営」のみ | 8% |
| 「株主との対話の実施状況」のみ | 6% |
| いずれも記載なし | 69% |
上表のとおり、2つのキーワードの記載がともに認められた事例は2割にも達しておらず、いずれも抽出できなかった事例が実に約7割と大部分を占めた。この結果からは、ほとんどのプライム市場上場会社のコーポレートガバナンス報告書が改訂記載要領に準拠していないと判断せざるを得ないだろう。なお、時価総額が大きい会社のコーポレートガバナンス報告書ほどキーワードが含まれるケースが多かった(TOPIX Core30においては約3分の1で両キーワードを確認)。
TOPIX Core30 : TOPIX(東証株価指数)算出対象銘柄のうち、時価総額と売買代金(流動性)が特に大きい大型株30銘柄で構成される時価総額加重型株価指数。これらは日本を代表する銘柄群と言える。
会社側からは、「項目立てをしていないだけで、東証の要請内容自体については、コーポレートガバナンス報告書の別の箇所や他の開示媒体で説明しており、実質的に対応済みである」といった反論もあろう。しかし、投資家がコーポレートガバナンス報告書を閲覧した際に見つけることができず、結果として認識されない開示情報は存在しないに等しい。投資家との対話と同様、開示においても双方向性を意識した工夫が必要だ。
本件開示の好事例として、総合商社2社が挙げられる。いずれも2つのキーワードの両方について明確な開示を行っているとともに、伊藤忠商事はROE目標を超過達成することでPBRが1倍を上回っていること、三井物産は株主との対話の主な対応者に社外役員も含まれていることなど、資本市場の注目点を踏まえた説明となっている点は参考になろう。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
※以下、いずれも上段が【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】、下段が【株主との対話の実施状況等】となっている。
| 企業理念「三方よし」の下、当社は、経営資源の配分にあたり、資本コストを的確に把握し、経営環境等を踏まえ決定した経営戦略に沿う形で、重点配分を行っております。また、当社はROEを重要な指標の一つと捉えておりますが、資本コストを意識した経営を実践すべく、資本コストを上回る高ROEの維持・向上を図るとともに、財務健全性の維持と株主還元のバランスの最適化に努めております。それらを可能にする経営方針・戦略等は、短期・中期経営計画及び統合レポート等において明示するとともに、株主や投資家等からの理解が得られるように、株主総会や決算説明会、その他の各種説明会等において丁寧な説明を実施しております。 (方針・目標と現状評価) 当社は、中期経営計画「Brand-new Deal 2023(2021~2023年度)」において、当該期間中のROE目標を13~16%と設定しております。2021年度及び2022年度のROEは、それぞれ21.8%及び17.8%となっており、ROE目標を超過達成しております。また、2021年度末及び2022年度末のPBRは、それぞれ1.45倍及び1.30倍となっており、2021~2022年度における当社の株価は、上場来高値を22回更新しております。 上記、資本コストや株価を意識した経営等については、当社ホームページ及び統合レポートにて公表しております。以下のURLをご参照下さい。 |
| 当社は、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指し、国内外の株主及び投資家等との建設的な対話を促進するため、様々なIR活動を積極的に行っております。IRに関する活動状況の具体的な内容及び2022年度の実施状況等については、後記III(株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況)-2(IRに関する活動状況)をご参照下さい。 また、当社は、株主及び投資家等との対話を通じて認識した意見・課題を経営陣や取締役会にフィードバックし、当社の経営戦略や財務・資本戦略等に適宜反映することで、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に繋がるポジティブサイクルを実現しています。引続き、実効性の高い株主及び投資家等との対話を推進してまいります。当該ポジティブサイクルの具体的な内容・事例等については、当社の統合レポート(毎年度発行)にて公表しております。以下のURLをご参照下さい。 統合レポート:https://www.itochu.co.jp/ja/ir/doc/annual_report/index.html IR活動に加えて、当社は、当社株式を保有する国内機関投資家との対話促進及び安定的な関係性構築のため、SR活動を積極的に行っております。SR活動は人事・総務部を担当部署とし、主にESGに関するテーマを中心に、機関投資家の議決権行使担当者やESG担当者、アナリスト等との建設的な対話を実施しています。2022年度は、10数社の株主と個別に面談を実施するとともに、複数の株主が参加する合同面談を実施しました。対話を通して得た指摘事項はマネジメントとも共有し、企業価値のより一層の質の向上に資するべく努めています。 |
| 当社は、継続的な企業価値の向上を目的として、2026年3月期を最終年度とする中期経営計画を経営会議及び取締役会で議論・承認し、その収益性指標として基礎営業キャッシュ・フロー、当期利益、ROEを掲げております。資本効率指標としてのROEは、中期経営計画3年間平均12%超を目標とし、社内経営管理指標として活用しているROICに基づく経営やClose to own field(当社が取組むビジネス領域もしくはその周辺領域)での事業群形成等を通じた成功確度の高い成長投資による収益性向上と資本コストの低下、株主還元割合の引上げや累進配当導入による株主還元強化、適切な資本構成の継続的な見直しにより、株主資本コストを上回るROEの持続的な向上を目指します。 また、2023年3月期よりROE及びESGを業績連動条件とした業績連動型譲渡制限付株式報酬を役員報酬制度として導入し、資本効率の向上と社内取締役のインセンティブとの連携を図っております。 企業価値向上に向けた具体的取組みの詳細は当社ウェブサイトに掲載の「中期経営計画2026~Creating Sustainable Futures~」をご参照ください。 |
| 当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主・投資家からの面談要請に応じ、また、当社から株主に対して積極的な面談依頼や各種説明会の開催を通じて株主との積極的な対話を実施しております。
2023年3月期における株主との対話の実施状況等は以下の通りです。 (2)対話を行った株主の概要 |
誠に勝手ながら、2023年8月10日(木)~2023年8月16日(水)は事務局の夏季休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。
なお、会員登録は夏季休業期間中もオンラインにて可能です。
会員登録はこちら
企業が借入や社債による資金調達をする際、金融機関や社債投資家などの債権者から契約上のコベナンツ(財務制限条項)を課されることが少なくない。コベナンツの具体的な内容は、債権者が債務者である企業に対して「単体決算において期末の純資産が直前決算期の75%を下回らない」といったB/S(貸借対照表)に関する純資産の維持(一定水準を下回らないこと)や「単体決算において経常損失とならない」といったP/L(損益計算書)に関する損益の維持(一定水準の利益確保)を求めるものであることが多い(ケーススタディ『借入れにより資金調達したい』を参照)。コベナンツを遵守できない場合には、債務者(企業)は金銭消費貸借契約における期限の利益(返済期日が到来するまでは元本を返還しなくてもよいという債務者にとっての利益)を喪失する(すなわち債権者は「すぐに元本を返せ」と主張することが可能になる)ことが定められているのが一般的だ。
コベナンツ : 借入期間内における作為(実行することを要求される行為)・不作為(やってはならない行為)について借手が誓約する、借入契約(金銭消費貸借契約)における特約条項。借入れの際に締結するコベナンツの多くは「一定の自己資本比率の維持」「一定の純資産額の維持」等の財務的な遵守事項であることが多いので、財務制限条項とも呼ばれる。
借入や社債発行にあたり債権者からコベナンツを付された上場企業では、売上高が落ち込んだ場合や固定資産の減損などで多額の特別損失を計上した場合に、純資産や損益の維持を求めるコベナンツに抵触してしまうケースが後を絶たない。もっとも、実際には・・・
減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ損失を計上すること。
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
企業が借入や社債による資金調達をする際、金融機関や社債投資家などの債権者から契約上のコベナンツ(財務制限条項)を課されることが少なくない。コベナンツの具体的な内容は、債権者が債務者である企業に対して「単体決算において期末の純資産が直前決算期の75%を下回らない」といったB/S(貸借対照表)に関する純資産の維持(一定水準を下回らないこと)や「単体決算において経常損失とならない」といったP/L(損益計算書)に関する損益の維持(一定水準の利益確保)を求めるものであることが多い(ケーススタディ『借入れにより資金調達したい』を参照)。コベナンツを遵守できない場合には、債務者(企業)は金銭消費貸借契約における期限の利益(返済期日が到来するまでは元本を返還しなくてもよいという債務者にとっての利益)を喪失する(すなわち債権者は「すぐに元本を返せ」と主張することが可能になる)ことが定められているのが一般的だ。
コベナンツ : 借入期間内における作為(実行することを要求される行為)・不作為(やってはならない行為)について借手が誓約する、借入契約(金銭消費貸借契約)における特約条項。借入れの際に締結するコベナンツの多くは「一定の自己資本比率の維持」「一定の純資産額の維持」等の財務的な遵守事項であることが多いので、財務制限条項とも呼ばれる。
借入や社債発行にあたり債権者からコベナンツを付された上場企業では、売上高が落ち込んだ場合や固定資産の減損などで多額の特別損失を計上した場合に、純資産や損益の維持を求めるコベナンツに抵触してしまうケースが後を絶たない。もっとも、実際にはコベナンツに抵触した上場企業が期限の利益を喪失して債務の一括返済を迫られるケースは滅多になく、債権者との交渉を経て、債権者から「期限の利益喪失請求権の権利行使を行わない」旨の書面を受領できるケースが大半となっている(例えば2023年5月19日のスターフライヤー(東証スタンダード)のリリース「財務制限条項への抵触に対する対応結果のお知らせ」を参照)。ただし、債権者が期限の利益喪失請求権を行使しないと判断する理由は一律ではない。優良企業については「形式上は財務制限条項に抵触したものの実質的な与信状況に変化はないため一括返済は求めない」という理由が多いが、「機械的に一括返済を求めてしまうと会社の資金繰りが一気に悪化して倒産の引き金となりかねないので、現実的に期限の利益喪失請求権を行使することが難しい」と債権者側が判断せざるをえない企業もある。
減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ損失を計上すること。
とはいえ、期限の利益喪失請求権が行使されることはあり得るため、投資家としてはコベナンツ(財務制限条項)の存在やその内容は知っておきたいところだろう。ところが、現行の金融商品取引法(開示府令)には、コベナンツについて有価証券報告書の定性的情報(*1)での開示や臨時報告書の提出を直接(*2)求める明文の規定はない。すなわち、例えば有価証券報告書の「どこ」で「どの程度」の開示をするかは企業の判断次第であり、開示することを選択した企業であっても開示場所は有価証券報告書等の【事業等のリスク】、【経営上の重要な契約等】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】など様々となっているのが現状だ。
定性的情報 : 財務情報以外の開示情報。記述情報とも言われる。有価証券報告書においてはおおむね【経理の状況等】より前の【事業の内容】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】、【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】、【経営上の重要な契約等】などを指す。
継続企業の前提 : 企業が将来にわたって事業を継続していくという前提のこと。「ゴーイング・コンサーン」とも呼ばれる。
このようにコベナンツ(財務制限条項)を付けられただけでは直ちに開示が必要なわけではないが、金融庁に設置された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)で「『投資判断にとって重要(material)な契約』が開示対象であることが、十分実務に浸透していない」『明示的に開示が求められていなければ開示不要との受止めの下、企業が開示に消極的になっている面がある』といった指摘があったことから、2022年6月13日に公表されたDWG報告では有価証券報告書や臨時報告書における開示内容を充実させるべきとの提言が行われた(DWG報告の34ページを参照)。この提言を受け、2023年6月30日に公表された改正開示府令案には、借入や社債に付された財務制限条項のうち重要なもの(下記参照)については開示を求める規定が盛り込まれている(当該開示府令案のうち、ガバナンス上の「重要な契約」に関する改正案については2023年7月10日のニュース『ガバナンス上の「重要な契約」に係る改正開示府令案がパブコメに 企業に早急な対応が迫られる理由』を参照)。
| 【3】ローン契約と社債に付される財務上の特約 (1)臨時報告書の提出 有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債の発行をした場合(既に締結している契約や既に発行している社債に新たに財務上の特約が付される場合も含む。)であって、その元本又は発行額の総額が連結純資産額の3%以上の場合には、契約の概要(契約の相手方、元本総額及び担保の内容等)や財務上の特約の内容を記載した臨時報告書の提出を求めることとします。 そして、上記の財務上の特約に変更があった場合や財務上の特約に抵触した場合には、財務上の特約の変更内容や抵触事由等を記載した臨時報告書の提出を求めることとします。 (2)有価証券報告書等への記載 |
上記の改正案のうち「財務上の特約」がコベナンツ(財務制限条項)を指している。
本改正案のポイントは、「重要性」の判断基準が数値で示された点だ。まず、臨時報告書の提出を求めるかどうかの判断基準となる重要性は「有価証券報告書提出会社または連結子会社におけるローンの元本または社債の発行額の総額が連結純資産額(連結財務諸表を作成していない会社は単体の純資産額)の3%以上」とされた。逆に言えば、財務上の特約の付されたローン契約の締結または社債の発行をしても、元本または発行額の総額が最近連結会計年度末の連結純資産額の3%未満であれば臨時報告書の提出は不要となる。ただし、連結子会社のローンの元本または社債の発行額も重要性の判断に組み込まなければならない点、注意したい。なお、重要性の観点から臨時報告書の提出が不要とされたローンまたは社債が、たとえその後、財務上の特約に抵触することになっても、臨時報告書を提出する必要はない。
また、有価証券報告書の【経営上の重要な契約等】は【重要な契約等】に見出しが変更され、重要性を判断する数値基準は「連結グループとしてのローンの元本または社債の発行額の総額が連結純資産額(連結財務諸表を作成していない会社は単体の純資産額)の10%以上」(以下、10%基準)とされた。ポイントは、同種(財務上の特約が付されていること)の契約・社債がある場合には、その負債の額を合算して判断する必要があるということだ。つまり、財務上の特約が付されている契約・社債があればそれらの負債の額を合算しておき、期末に連結純資産と比較して開示の要否を検討するという開示統制が必要になる。減損などで多額の費用を計上する場合には純資産が大きく毀損するため、そもそもコベナンツに抵触する可能性があるだけでなく、今回導入された10%基準にも該当しやすくなるので注意したい。
なお、そもそも財務上の特約が付されていないローン契約や社債は本改正案の適用対象外となるが、借入や社債発行の契約締結が会社法362条4項に規定する取締役会の決議事項「多額の借財」に相当する場合には【経営上の重要な契約等】における「重要な契約」に該当するとして開示が必要になる。
また、今回の改正を機に「多額の借財」に該当するかどうかの自社における判断基準の見直しの要否も検討したい。多くの企業が、取締役会規程などで「多額の借財」の数的基準(例えば「1億円以上の借入」など)を設けている。この基準値が高い場合、財務上の特約が付されたローン契約を締結または社債を発行しても、自社で定めた「多額の借財」の基準には該当しない(したがって、取締役会決議も不要)が、臨時報告書の提出は必要となるケースが出てくる。このような場合、臨時報告書が必要なほど重要(つまり投資家にとって開示が必要なほど重要)な契約であるにもかかわらず、自社の基準では「多額な借財」には該当しないため取締役会での決議は不要という整理のままで本当によいのか、という疑問が生じる。取締役会規程を今回の改正と整合させるため、多額の借財の数的基準を引き下げることも十分検討の余地があろう。