2023/03/24 コーポレートガバナンス改革の行方

スチュワードシップ・コードが再改訂されて3年、コーポレートガバナンス・コードが再改訂されてから間もなく2年となる。これまでの改訂が3年に1度のサイクルで行われてきたことから、そろそろスチュワードシップ・コードの改訂(前回の改訂は2020年3月24日)されるはず、との見方が強まっている。また、コーポレートガバナンス・コードについては、前回の再改訂の内容が細かすぎるとの批判があるほか、もう一段の改訂を求める声も上がっている。しかし、当フォーラムの取材によると、・・・

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2023/03/24 コーポレートガバナンス改革の行方(会員限定)

スチュワードシップ・コードが再改訂されて3年、コーポレートガバナンス・コードが再改訂されてから間もなく2年となる。これまでの改訂が3年に1度のサイクルで行われてきたことから、そろそろスチュワードシップ・コードの改訂(前回の改訂は2020年3月24日)されるはず、との見方が強まっている。また、コーポレートガバナンス・コードについては、前回の再改訂の内容が細かすぎるとの批判があるほか、もう一段の改訂を求める声も上がっている。しかし、当フォーラムの取材によると、現時点では政府内に今春においていずれかのコードを改訂しようという動きはない。

それにもかかわらず、政府外での議論が先行している原因は、岸田総理の言動にある。周知のとおり、岸田総理は自民党総裁選に出馬する際、「新しい資本主義」を掲げ、これまでのアベノミクスの成長重視の考え方の修正を図り、「分配なくして次の成長なし」として、成長と分配の好循環を目指している。要するに、経済全体のパイが拡大すれば国民1人ひとりの取り分が増えるとの考え方への偏重を是正し、格差是正など“パイの切り分け方”(分配政策)も重視するということである。

新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。

この考え方を主張するする急先鋒が、岸田政権の「新しい資本主義」の政策作りにも関与したとされる「公益資本主義」を唱える原丈人 アライアンス・フォーラム代表理事や、「適正分配政策」を唱えるスズキ トモ早稲田大学教授らだ。例えばスズキ教授は、「過去20年間、利益と株主還元が増加しているが、従業員給与やR&Dがその犠牲になっている」と指摘している。また、経済界では、関西経済連合会が、松本正義会長を先頭に「四半期開示制度は短視眼的な経営を助長する」とし、四半期開示制度の義務付け廃止を主張、四半期開示制度の見直しにつなげた(四半期開示の見直しについては2022年11月25日のニュース『四半期開示に関する議論が事実上決着、「四半期決算短信を任意に」は誤解』参照)。これら論者は、現在のコーポレートガバナンス・コードが形式主義に陥り、ガバナンスの形や開示による負担を企業に押しつけるだけだと批判している。

公益資本主義 : 会社は従業員、顧客、株主、仕入先、地域社会、さらには地球といった、いわゆるステークホルダーに支えられて成り立っており、経営陣はこれらステークホルダー全体に持続的に利益還元するために収益を上げるべく、中長期的視点にたって経営すべきとの考え方。公益資本主義の下で行う事業においては、利益分配は株主だけに重きを置くのではなく、すべてのステークホルダーに対する「分配の公正性」を達成することが重視される。公益資本主義は、一握りの富裕層に富が集中して中間層が没落する格差の拡大を防ぎ、中間層を基盤とする民主主義を守ることを目指しており、米国型の株主資本主義でも中国型の国家資本主義でもない新しい社会経済システムとして提唱されている。
適正分配政策 : 「利益」とは損益計算書を通じて確定する「株主に帰属する付加価値」に過ぎず、成熟経済社会において「利益」を最大化しようとすれば、株主以外のステークホールダーの付加価値が犠牲となるとの前提の下、全てのステークホルダーに帰属する付加価値の合計と、その適正な分配を通じた持続的な発展を政策目標とすべきとの考え方。
R&D : 「Research and Development」の略称で、「研究開発」と訳されるのが一般的。自社の競争力を高めるための技術調査や技術開発、事業領域に関する研究といった活動を指す。

一方、岳野万里夫 日本証券業協会副会長・専務理事や齋藤芳充 野村資本市場研究所研究員は分配政策のあり方について、「労働分配率はほぼ横ばいであり、人件費のウェイトが低下したのであれば、問題の本質は、パイの切り分け方ではなく、パイそのものが縮小しまっている点にある」と、スズキ教授らの主張に反論している(証券レビュー 第62巻第5号「ステークホルダー資本主義」参照)。

当の岸田総理は、昨年(2022年)5月にロンドンのシティで、9月にはニューヨーク証券取引所で「インベストイン・キシダ(Invest in Kishida)」を掲げて演説。ニューヨーク証券取引所では、「とても大切な政策の1つは、コーポレートガバナンス改革だ。…日本企業の行動は大きく変わった。企業のROEは顕著に上昇し、ほぼ全ての会社に独立社外取締役が入った。女性や、外国人のボードメンバーへの登用も増えていくだろう。ノンコア事業の切り出し、新分野へのピボットといった大胆な企業変革を行う企業も出てきている。近々、世界中の投資家から意見を聞く場を設けるなど、日本のコーポレートガバナンス改革を加速化し、更に強化する」と述べている。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
ピボット : 企業経営の方向転換や路線変更

この総理の演説を受けて、金融庁では「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」を設置し、海外投資家から意見を聞いた。海外投資家らからは、日本のコーポレートガバナンス改革の遅れや資本効率の悪さなどについて指摘があったという。こうした声を受け、東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は本年(2023年)2月、コーポレートガバナンス・コード原則5-2の「自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき」との記述を根拠に、「PBRが1倍を割れているなど、十分な市場評価を得られていない場合には、その要因」などを分析して、改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取組みについて開示するよう要請し、関係者に衝撃を与えた(同フォローアップ会議の議論については2023年1月26日のニュース『東証・市場区分の見直しに関するフォローアップ会議が「対応案」の修正案を公表』参照)。

資本効率 : 資本効率とは、投資家から見れば「出資額に対するリターン(配当、キャピタルゲイン)の割合」を意味し、会社側から見れば「投下した資本に対して生み出された利益の割合」を意味する。たとえ利益が出ていても、資本効率が悪ければ、投資家から評価を得ることはできない。
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

資本コスト、PBRを重視すれば、増配や自社株買いといった考え方に傾きがちになるが、それは分配政策を重視する岸田総理が主張する「日本のコーポレートガバナンス改革の加速化」ではないだろう。株主以外のステークホルダーへの分配を増やしながら、これをどう成長へとつなげ、パイ全体の拡大による分配の拡大につなげるのか。この考え方がしっかりと説明され、浸透するまで、スチュワードシップおよびコーポレートガバナンスの両コードの改訂は小休止ということになりそうだ。

2023/03/23 アクティビストの提訴請求に対して監査委員会が出した結論

業績連動報酬を採用している会社では、損益計算書の段階利益の誤りが役員報酬の金額の誤りに直結するリスクがあることについては、・・・

段階利益 : 売上総利益、営業利益、経常利益のこと。

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2023/03/23 アクティビストの提訴請求に対して監査委員会が出した結論(会員限定)

業績連動報酬を採用している会社では、損益計算書の段階利益の誤りが役員報酬の金額の誤りに直結するリスクがあることについては、2023年2月8日のニュース「アクティビストが会計処理の誤りを指摘、業績連動報酬に影響も」でお伝えしたところだが、そのリスクが顕在化した日本証券金融(東証プライム市場上場。以下、日証金)で新たな動きが生じている。

段階利益 : 売上総利益、営業利益、経常利益のこと。

国内系アクティビストのストラテジックキャピタルは2023年1月20日付で、「有価証券売却益について誤った会計処理がなされ、これに基づき算定された業績連動報酬等が過大であり、法律上の原因なく過剰な業績連動報酬等を受領した各執行役に対し、監査委員が不当利得の返還を求める訴えを提起する」よう日証金の監査委員会()に対し請求していた(当該請求に関する日証金のリリースはこちら)。会社法上、6か月(これを下回る期間を定款で定めた場合には当該期間)前から引き続き株式を保有する株主は、株式会社に対し、取締役や執行役の責任を追及する訴えの提起を請求できる(会社法847条1項)。ストラテジックキャピタルはこの規定を利用した。

 株式会社が取締役・執行役を訴える際には監査役(監査等委員会設置会社では監査等委員、日証金のような指名委員会等設置会社では監査委員)が会社を代表する(会社法386条1項1号など)ため、株主は監査役(監査等委員、監査委員)に訴え提起を請求することになる(会社法386条2項1号など)。

日証金の監査委員会は本請求を受け、ストラテジックキャピタルの請求の適否を検討し、請求から2か月経った3月20日に下記のとおり「不提訴」との結論を出している(不提訴理由に関する日証金のリリースはこちら)。

当社監査委員会としては、監査委員全員一致の意見として、当社の有価証券の売買取引は、有価証券運用業務の一環として経常的に行われており、その売却益は特別利益に計上すべきものではなく、したがって経常利益が過大に計上されている事実も、経常利益に連動する業績連動報酬等が過大に算定され支払われた事実も認められないため、執行役に対する訴えを提起しない。

日証金がこのタイミングで「不提訴」のリリースを出したのは、会社法上、「株主の請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる」(会社法847条)とされている()からである。損益計算書の段階利益の妥当性を検討するのに2か月も要するとは考えにくく、この「60日」を目いっぱい費やして対応を検討したうえで、「責任追及の訴えは提起しない」と判断したものとみられる。

 60日の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合、株主は「まずは株式会社に対して訴え提起を請求して60日待つ」という段取りを省いて、直ちに株主代表訴訟に踏み切ることができる。

監査委員会は、同社における有価証券の売買取引が「有価証券運用業務の一環として経常的に行われていた」という点を重視し、株式会社日本取引所グループ(以下、JPX)の株式の売却益は臨時的な項目を計上する特別利益ではないとの結論を導き出している。同社の業績連動報酬は経常利益に連動する仕組みを採用しているため、JPX株式の売却益が(経常利益より下に表示される)「特別利益に計上するものではない」とさえ言うことができれば、「営業収益(通常の事業会社における売上高に相当)なのか営業外収益なのか」という「経常利益には影響しない表示上の論点」に踏み込む必要はないと考えたのだろう。しかし、『主たる営業活動であるか否かにかかわらず、「その他有価証券」の売却損益を営業損益として計上することは認められない』というストラテジックキャピタルの主張に対して正面からの反論を回避している点、不明瞭さが残る。

日証金は、同社監査委員会が不提訴を決めたことにより株主の不満が高まることを懸念したのか、不提訴のリリースを公表した3月20日に、発行済株式総数の8.3%にのぼる自己株式の消却(これにより株主の有する一株当たりの価値は上昇する)を実施する旨のリリースと執行役の業績連動報酬の見直しのリリースを同時に公表している。いささか露骨にも見える株主の“ガス抜き策”と言えるが、祝日(3月21日)明けの22日のマーケットではこれが好感されて、日証金の株価は3月20日の終値より4.87%上昇する結果となった。

日証金の出した結論を受けたストラテジックキャピタルの対応(株主代表訴訟に踏み切るかどうか)は現時点では明らかになっていない。ストラテジックキャピタルは投資先ごとに個別特設サイトを設けているが、日証金特設サイトのトップページには「当HPの更新は2023年1月27日をもって停止しました」と表示されていることもあり、今後対応方針が明らかにされるかどうかは不明だ。アクティビストにとって株主代表訴訟は「手段」であり「目的」ではない以上、会社に対するプレッシャーにより結果的に企業価値向上に向けた施策が次々と打ち出されていくのであれば、株主代表訴訟にまでは踏み切らない可能性も十分あろう。

2023/03/22 自社の経営理念とマルチステークホルダー方針のギャップ

インフレ、政府の要請、他企業の動向を踏まえ、賃上げを決める企業が相次いでいる。また、企業が賃上げに踏み切るうえで、・・・

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2023/03/22 自社の経営理念とマルチステークホルダー方針のギャップ(会員限定)

インフレ、政府の要請、他企業の動向を踏まえ、賃上げを決める企業が相次いでいる。また、企業が賃上げに踏み切るうえで、インセンティブの一つとなっているのが、法人税法上の「賃上げ税制」だ。賃上げ税制には大企業版中小企業版があるが、ここでは多くの上場企業による利用が見込まれる大企業版について簡潔に説明すると、「資本金10億円以上かつ常時使用する従業員数1,000人以上の企業」は、継続雇用者の給与が前年度比3%以上増加した場合に、雇用者全体の賃上げ額の15%を法人税額から控除(以下、税額控除)する制度となっている。また、前年度比4%以上増加した場合には25%の税額控除が認められ、さらに、教育訓練費の額が前事業年度より20%以上増えている場合には税額控除率が5%上乗せとなり、最大30%の税額控除が可能となる。

ただし、この大企業向け賃上げ税制の適用を受けるにあたってネックになりかねないのが、適用要件の一つとなっている「マルチステークホルダー方針」の公表だ。マルチステークホルダー方針とは、「法人が事業を行う上での、従業員や取引先等の様々なステークホルダーとの関係の構築の方針として、賃金引上げ、教育訓練等の実施、取引先との適切な関係の構築、等の方針を記載したもの」とされている。要するに、マルチステークホルダー方針とは、従業員や取引先などへの配慮を示した方針と言える。

このマルチステークホルダー方針には様々な制約があり、例えば「持続的な成長」「生産性向上」「付加価値の最大化」「賃金の引上げ」「人材投資」「従業員への持続的な還元」という用語を必ず盛り込まなければならない(経済産業省が公表している各様式の記載要領(様式第一)の③参照)。しかし、ある企業では、社内文書当等で「人材」ではなくあえて「人財」という用語を使用しており、仮にマルチステークホルダー方針に「人財」という用語を使えば、賃上げ税制の適用要件を満たせないことになる。こうした企業は、自社の経営理念を捻じ曲げてまで「人材」という用語を使うことに躊躇している。また、「従業員への持続的な還元」という用語に違和感を覚えるという企業もある。近年は、全社や所属部門、個人の業績等に連動して賃金を変動させている企業も多く、こうした企業は、業績と関係なく「継続的な還元(賃上げ)」を行うことには抵抗感を持っている。極端な話、パフォーマンスの低い従業員も継続的に賃上げの恩恵を受けられることになれば、フリーライダーの増殖につながりかねない。こうした中、人事担当部門が経営陣を説得できず、マルチステークホルダー方針の公表を断念(すなわち賃上げ税制の適用も断念)するということになる可能性もある。

フリーライダー : 会社に貢献せずに給料をもらい続ける社員のこと

賃上げ促進税制の適用を受けるためには、事業年度終了の日の翌日から45日以内にマルチステークホルダー方針を公表する必要があり、企業に残された時間は多くない。パートナーシップ構築宣言については、同宣言を行っている企業名が内閣府・中小企業庁などが運営するポータルサイトで公表されているため他社事例を見つけやすいが、マルチステークホルダー方針にはこのようなポータルサイトがないため、インターネット検索により公表企業を探すか、同業他社間等で情報交換するしかない。

パートナーシップ構築宣言 : 親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行の遵守を宣言するものであり、社会的要請としてより多くの親事業者による宣言が求められる。これに対し、賃上げ税制の適用要件となっているマルチステークホルダー方針は、そもそも「賃上げ」するかどうかは各社の経営判断によるものであり、また、労使交渉を経ることなく経営側が一方的に宣言するものでもないため、あくまでも賃上げ税制の適用を希望する企業のみが、その適用要件を満たすために公表することが求められる(=賃上げ税制の適用を受けない企業は公表する必要がない)という点で、パートナーシップ構築宣言とは異なる。

<マルチステークホルダー方針を公表している企業の例>
島津製作所
日本郵船
ミロク情報サービス
西松建設
カプコン
古河電池

一方、賃上げ税制の適用を念頭にマルチステークホルダー方針の公表に積極的な企業も少なくなく、年度末から同方針を公表する企業が相次ぐものとみられる。こうした中、上記のとおりマルチステークホルダー方針の内容(必須用語等)が「自社の経営理念等に合わない」という企業は同方針を公表するのかどうか、経営陣は早急に決断する必要があろう。

2023/03/20 インパクト投資を担う人材の育成、海外と日本の現状

SDGsESG投資、そしてインパクト投資と、欧米から輸入される新しいテーマにつきものの課題は、それを担う人材の育成だ。金融庁に設置された「インパクト投資等に関する検討会」(同検討会の最近の議論については2023年3月3日のニュース「金融庁がインパクト投資の「指針」策定に着手、新しい資本主義実行計画に反映へ」参照)でも、インパクト投資に関わる人材育成の重要性が叫ばれている。しかし、今のところインパクト投資を担うアセットマネージャーアセットオーナーは不足しており、「担い手の増加と案件の実績は鶏と卵の関係」との指摘がなされている。アセットオーナーの指図がないことには、アセットマネージャーもインパクト投資に舵を切れず、経験を積むこともできない。仮にアセットオーナーにインパクト投資を強化する意向があったとしても、インパクト投資を理解してるアセットマネージャーが少なければ、やはりインパクト投資は進まない。ましてや、両方とも人材不足のとなれば、どこから手を付ければよいのかすら分からないというのが実情だ。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。
アセットマネージャー : 運用会社
アセットオーナー : 年金基金や保険会社

そこで・・・

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2023/03/20 インパクト投資を担う人材の育成、海外と日本の現状(会員限定)

SDGsESG投資、そしてインパクト投資と、欧米から輸入される新しいテーマにつきものの課題は、それを担う人材の育成だ。金融庁に設置された「インパクト投資等に関する検討会」(同検討会の最近の議論については2023年3月3日のニュース「金融庁がインパクト投資の「指針」策定に着手、新しい資本主義実行計画に反映へ」参照)でも、インパクト投資に関わる人材育成の重要性が叫ばれている。しかし、今のところインパクト投資を担うアセットマネージャーアセットオーナーは不足しており、「担い手の増加と案件の実績は鶏と卵の関係」との指摘がなされている。アセットオーナーの指図がないことには、アセットマネージャーもインパクト投資に舵を切れず、経験を積むこともできない。仮にアセットオーナーにインパクト投資を強化する意向があったとしても、インパクト投資を理解してるアセットマネージャーが少なければ、やはりインパクト投資は進まない。ましてや、両方とも人材不足のとなれば、どこから手を付ければよいのかすら分からないというのが実情だ。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。
アセットマネージャー : 運用会社
アセットオーナー : 年金基金や保険会社

そこで同検討会では、官民連携のマッチングファンド等のサポート、インパクト投資の担い手が市場に参画しやすい市場・商品設計が解決策として提案されているが、これらに加え、現状の人材不足を踏まえると、たとえ時間はかかっても、人材の裾野を広げる取り組みも同時に進めることが不可欠となる。すなわち、高等教育や学び直しの機会の提供だ。

インパクト投資の発祥地である海外に目を転じると、今やインパクト投資はビジネススクールの人気授業の一つとなっている。ハーバード・ビジネススクールでは、実在の企業に対して、インパクト投資の観点に立ったデューデリジェンス計画の作成から投資判断までを行うフィールドコースや、インパクト投資やESG投資を学ぶサステナブル投資授業が提供されている。オックスフォード大学のビジネススクールでは、インパクト投資の授業を提供するほか、社会人向けに5日間の短期講座も開講している(ただし、5日間で7,500ポンド(約120万円)とかなりの高額)。世界中のビジネススクール等48校の学生を対象に、インパクト投資を体験するコンペも毎年開催されている(残念ながら、日本の大学からの参加はまだない)。ビジネススクールの学生は30代前後の油の乗った世代が中心であり、卒業後に企業やスタートアップ、NPO等の中心を担う人材が多い。このような人材がインパクト投資分野を学ぶ意義は大きい。また、特にアメリカでは、セクター間の人材流動性が高いため、スタートアップや金融機関等の民間企業と政府の間でもインパクト投資を理解している人材の交流があることも、人材の厚みを生むことに大きく寄与している。

サステナブル投資 : エネルギー資源の利用、温室効果ガス排出、生物多様性、循環型経済など、「環境」に貢献する経済活動への投資、および、不平等解消や社会の結束を促進するなど「社会」目的に貢献する経済活動への投資の総称。また、投資先企業が優れたガバナンスを実践していることもサステナブル投資の条件とされている。

日本でも社会人のリスキリングが叫ばれはじめたが、日本の大学やビジネススクールでは、残念ながらまだファイナンスや投資の授業の中の1トピックとして「インパクト投資」が小さく扱われているケースがある程度に過ぎない。そもそも最先端のビジネスのその実践を学ぶビジネススクールの数が少ないこともその理由の1つだが、大学教員の流動性の低さ、産学連携の不足、学部再編の難しさ、不十分な国際化などが根本的な原因と考えられる。毎年の研究費が減少傾向にある中、基礎研究の水準を少なくとも「維持」するためには、国際化を進め、産学連携を推進し、新しい分野の学問を提供する魅力的な大学になることで、外部から研究費を集める必要がある。こうした中、例えば早稲田大学のビジネススクールのファイナンス専攻では、ESG投資をテーマにゼミが開講されており、インパクト投資を学ぶ機会もありそうだが、海外のビジネススクール等のように、インパクト投資を体感するといった実践的な教育までは難しいだろう。

日本ではまだ認知され始めたばかりのインパクト投資だが、将来的には、現在とは形を変えつつも、社会的・環境的インパクトを考慮・重視することがファイナンスのメインストリーム(本流)になっていく可能性は十分にある。日本企業としても、未来への投資として、人材交流や海外大学を含むMBA等への社員の派遣に取り組むことを検討したいところだ。

2023/03/17 【失敗学第105回】クボタの事例(会員限定)

概要

クボタの子会社のフモト産業(2022年3月末で事業終了し、清算予定)で、経理担当者が小切手を使用して現金を引き出したうえ、会計システムを不正操作して出金の証拠を隠蔽するなどの手口で総額約8億円を私的に流用していた。

経緯

クボタが2023年3月17日に公表した「子会社元従業員による会社資金の私的流用について」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2016年~2022年
クボタの子会社のフモト産業の経理担当者が小切手を使用して現金を引き出したうえ、会計システムを不正操作して出金の証拠を隠蔽するなどの手口で総額約8億円を私的に流用していた。

2022年
3月末:クボタの子会社のフモト産業が事業を終了し、清算準備に入る。フモト産業の経理担当者はフモト産業の事業終了に伴いグループ内の別の会社に転籍する。
4月以降:清算準備の過程で過去の小切手の入出金内容に疑義が生じたため、クボタは社内調査チームを立ち上げ、捜査当局へ相談するとともに、弁護士および会計事務所の支援を得て調査を開始する。

2023年
1月31日:社内調査の結果、私的流用の事実が確認され、経理担当者もその事実を認めたため、弁護士と相談し、社内手続きを経て、当該経理担当者を懲戒解雇にする。
3月17日12時17分:NHKで「大阪のクボタ子会社で約8億円着服か社員を懲戒解雇 刑事告訴」の第一報が流れる(時刻はネットニュースのアップ時刻)。
3月17日13時45分:クボタがTDnetにおいて「本日の一部報道について」をアップし、「当社の元子会社従業員による不正行為に関する本日の一部報道(NHK)につきまして、お客様や株主・投資家の皆様、お取引先様をはじめとする関係者の皆様に、ご心配をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。当社は既に捜査当局に刑事告訴し捜査に協力しております。詳細につきましては捜査への影響を鑑み、現時点での公表は控えさせていただきます。捜査当局とも相談のうえ、適切な時期になりましたら改めて詳細について公表いたします。」とリリースを行う。
3月17日:クボタが自社サイトに「子会社元従業員による会社資金の私的流用について」をリリースする(TDnetにはアップされず)。

内容・原因・改善策

クボタが2023年3月17日に公表した「子会社元従業員による会社資金の私的流用について」によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

預金の私的流用
内容 クボタの子会社のフモト産業(2022年3月末で事業終了し、清算予定)で、経理担当者が小切手を使用して現金を引き出したうえ、会計システムを不正操作して出金の証拠を隠蔽するなどの手口で総額約8億円を私的に流用していた。
原因 フモト産業では、小切手の発行や会計処理を経理担当者が長期間にわたってすべて単独で行える状況にあり、組織としての牽制機能が働いていなかった。報道によると、当該経理担当者は流用した預金を遊興費に用いていた。
対応策 (再発防止策)監査等を通じて内部統制の有効性を継続して確認するとともに、小切手の発行を含む出金処理と振替仕訳処理は必ず複数人で実行するなどグループ全体で管理体制の強化を徹底する。
(社内処分)本件不正行為に関する監督責任を明確にするために、クボタの取締役会長および代表取締役社長が月額報酬の30%を3か月間返上する等の社内処分を行う。
<この事例から学ぶべきこと>

一人の担当者が財務と経理の双方に携われて、かつ、社内で他の牽制も行われていないのであれば資金を容易に流用できることは、誰もが知っている“常識”です。また、過去に様々な会社で幾度となく繰り返されてきた不正であり、上場会社の経営陣であれば過去に何度も他社における不正として見聞きしてきたはずです。しかも、フモト産業では、総資産(2021年08月20日の官報に公告された2020年12月決算公告によると総資産が40億8801万円であった)の2割に相当する資金を流用しても発覚しませんでした(たまたま会社が清算準備に入り発覚しました)。一人の担当者が財務と経理の双方に携わることの危険性を改めて認識させられる事例であったと言えます。

クボタは1月31日に当該経理担当者を懲戒解雇にしたにもかかわらず、その事実をリリースしていませんでした。クボタは今までリリースしていなかった理由として「警察の捜査への影響」と説明していますが、3月17日12時17分のNHKの報道で世の中に知れ渡ったため、やむなくリリースせざるをえない状況になりました。3月17日のリリースではクボタの取締役会長および代表取締役社長が月額報酬の30%を3か月間返上する等の社内処分も公表しています。連結子会社で構築した内部統制が不十分であったということに対する社内処分である以上、事件の対外的公表や報道の有無にかかわらず経理担当者を懲戒解雇したタイミングで実施するのが筋と言えるため、当該社内処分がいつ決定されたのかが気になるところです。クボタのリリースを読むと「以下の処分を行います」とあり、これから実施するようにも読めます。このように報道後に「これから処分を行う」旨のリリースを行うと、あたかも報道と処分に因果関係があるように受け止められる(報道がなければ社内処分も行われなかったのではないかと邪推されてしまう)可能性があることには留意が必要です。