2023/03/31 【2023年4月の課題】同業他社とのサステナビリティ関係の取組みをした場合における独禁法への抵触

2023年4月の課題

日本政府はサステナブルな社会の実現を目指し、脱炭素化に向け、2030年度における温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目標に掲げています。こうした中、温室効果ガス削減に向けた事業者間の共同での取組みが活発に議論されています。例えば、業界団体による自主基準の設定、共同研究開発等の共同の取組みは、今後より一層活発化・具体化することが予想されます。このような事業者間の共同での取組みに関し、独占禁止法上留意すべき点について考えてみてください。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2023/03/30 総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景

香港のアクティビストファンドであるオアシスマネジメント(以下、オアシス)が、東証プライム市場に上場しているフジテックに対して社外取締役の選解任を求めたところ、2023年2月24日に開催された同社の臨時株主総会において4名の社外取締役を送り込むに至ったことは、2023年3月1日のニュース「フジテックで社外取解任、アクティビストとの闘争の行方の鍵を握る第三者委員会」でお伝えしたとおり。フジテック取締役会では、取締役会議長や指名・報酬諮問委員会のメンバーをオアシスが提案した新社外取締役を中心とするなど、さっそくガバナンス改革が進行中だ。具体的な施策を時系列で整理したのが下表である。

日付等 事項 内容
3月24日開催の
取締役会
取締役会議長の交代 フジテック取締役会において海野薫社外取締役を当社取締役会議長に選定し、同日の取締役会から議長を務める。
指名・報酬諮問委員会の入れ替え 指名・報酬諮問委員会の委員及び委員長を次のとおり選定する。
委員長:三品和広社外取締役
委員:トーステン・ゲスナー社外取締役
委員:嶋田亜子社外取締役
3月28日開催の
取締役会
内山会長の解職 本日をもって内山氏を会長から解職するとともに、フジテックと同氏との間の一切の契約を解除する。
第三者委員会の設置 2月24日開催の臨時株主総会に際し、株主提案に係る取締役候補者らに対して、その適格性、社会的信用、名誉等を毀損又は低下させるような行為がされ、また、同候補者らに対して当社の取締役候補者を辞退するように威迫その他の働きかけが行われたとの情報が寄せられたことについて調査するため、独立した第三者委員会を設置する。

フジテック(旧経営陣)側にとっては極めて厳しい内容となっているが、そもそもの疑問は、何故このような取締役会決議が可決されたのか、ということだ。2023年2月24日に開催された臨時株主総会後におけるフジテックの取締役の総数は9名で、そのうちオアシスの提案により選任された社外取締役は4名と、半数未満となっている。それにもかかわらず、取締役会議長の交代や指名・報酬諮問委員会の入れ替えのみならず、内山会長の解職にまで踏み込めたのはなぜだろうか。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2023/03/30 総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景(会員限定)

香港のアクティビストファンドであるオアシスマネジメント(以下、オアシス)が、東証プライム市場に上場しているフジテックに対して社外取締役の選解任を求めたところ、2023年2月24日に開催された同社の臨時株主総会において4名の社外取締役を送り込むに至ったことは、2023年3月1日のニュース「フジテックで社外取解任、アクティビストとの闘争の行方の鍵を握る第三者委員会」でお伝えしたとおり。フジテック取締役会では、取締役会議長や指名・報酬諮問委員会のメンバーをオアシスが提案した新社外取締役を中心とするなど、さっそくガバナンス改革が進行中だ。具体的な施策を時系列で整理したのが下表である。

日付等 事項 内容
3月24日開催の
取締役会
取締役会議長の交代 フジテック取締役会において海野薫社外取締役を当社取締役会議長に選定し、同日の取締役会から議長を務める。
指名・報酬諮問委員会の入れ替え 指名・報酬諮問委員会の委員及び委員長を次のとおり選定する。
委員長:三品和広社外取締役
委員:トーステン・ゲスナー社外取締役
委員:嶋田亜子社外取締役
3月28日開催の
取締役会
内山会長の解職 本日をもって内山氏を会長から解職するとともに、フジテックと同氏との間の一切の契約を解除する。
第三者委員会の設置 2月24日開催の臨時株主総会に際し、株主提案に係る取締役候補者らに対して、その適格性、社会的信用、名誉等を毀損又は低下させるような行為がされ、また、同候補者らに対して当社の取締役候補者を辞退するように威迫その他の働きかけが行われたとの情報が寄せられたことについて調査するため、独立した第三者委員会を設置する。

フジテック(旧経営陣)側にとっては極めて厳しい内容となっているが、そもそもの疑問は、何故このような取締役会決議が可決されたのか、ということだ。2023年2月24日に開催された臨時株主総会後におけるフジテックの取締役の総数は9名で、そのうちオアシスの提案により選任された社外取締役は4名と、半数未満となっている。それにもかかわらず、取締役会議長の交代や指名・報酬諮問委員会の入れ替えのみならず、内山会長の解職にまで踏み込めたのはなぜだろうか。

取締役会決議にあたり、どの取締役が議案に賛成したのかはフジテックが開示していないため明らかではない。しかし、フジテックが3月28日に公表した「当社の2023年3月24日及び同月28日付取締役会決議に関する当社独立社外取締役5名からの声明」(以下、本声明)にそのヒントが隠されている。下表は2023年3月28日現在のフジテック取締役会メンバー構成であるが、本声明は下表中、赤字で記載した5名の社外取締役の連名によるものとなっている。

フジテック取締役会メンバー(2023年3月28日現在)
役職 氏名
代表取締役社長 岡田 隆夫氏
代表取締役専務 浅野 隆史氏
取締役 土畑 雅志氏
社外取締役(従来) 遠藤 邦夫氏
社外取締役(従来) 三品 和広氏
社外取締役(オアシス提案により選任) 海野 薫氏
トーステン・ゲスナー氏
クラーク・グラニンジャー氏
嶋田 亜子氏

つまり、上記の3月24日および同28日に開催されたフジテックの取締役会では、少なくとも赤字で記した5名が各議案に賛成票を投じたことが分かる。総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制することができたのは、オアシスが臨時株主総会で解任を目論んだものの否決された三品 和広氏が恩讐を越えてオアシス派に同調したからだ。なお、もう1人の社外取締役である遠藤 邦夫氏は本声明に加わっていないため、各議案に賛成票を投じていない可能性が高い。いずれにせよ、9名中少なくとも5名が賛成した段階で決議の行方は確定したことになる。

なお、上記第三者委員会の設置理由ともなっているが、本声明には「株主提案に係る取締役候補者らに対して、その適格性、社会的信用、名誉等を毀損又は低下させるような行為がされ、また、同候補者らに対して当社の取締役候補者を辞退するように威迫その他の働きかけが行われた」との記述がある。実際、2023年2月24日に開催されたフジテックの臨時株主総会に先立ちオアシスが臨時株主総会を請求した際にオアシス側の社外取締役の候補者として名前が挙がっていた深田しおり氏と金子裕子氏は候補者を辞退している(候補者辞退についてのフジテックのリリースはこちら)。本声明が指摘するような行為が本当にあったかどうかは、今後の第三者委員会の調査に委ねられることになる。

本声明で5名の社外取締役は「これらは当社がわが国の上場会社に求められる最高水準のコーポレートガバナンスを忠実かつ確実に遵守するための第一歩であり、我々が株主の皆様により独立社外取締役に選任された際に託された使命といえます。我々独立社外取締役5名は、当社のコーポレートガバナンスに関して、株主、従業員、お客様、取引先、地域社会その他のステークホルダーの皆様が抱くご懸念に対応するため、さらなる対策と改革を実行する所存です。」としており、さらなるガバナンス改革を進めていくことを宣言している。その一方で、既に新聞報道等もされているように、内山元会長はオアシスおよびオアシスの代表者(セス・フィッシャー氏)に対して名誉棄損による損害賠償請求訴訟を提起するとともに、上記の取締役会決議の無効確認訴訟、オアシス派の取締役の違法行為について株主代表訴訟を提起するとしている。

3月28日のリリースを受け、翌日のマーケットではフジテックの株価が急騰した(前日比7.32%増)。投資家の多くは、5名の社外取締役が企業価値向上に向けて同社のガバナンス改革に取り組む姿勢を高く評価していることの証左と言えそうだ。

2023/03/29 企業に求められる「感染リスクの低減」と「株主の権利保護」の両方を実現させる株主総会

2023年5月8日以降、新型コロナウイルスが感染症法(正式名称:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上、季節性インフルエンザと同等の区分である「5類」に分類されることを受け、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2023/03/29 企業に求められる「感染リスクの低減」と「株主の権利保護」の両方を実現させる株主総会(会員限定)

2023年5月8日以降、新型コロナウイルスが感染症法(正式名称:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上、季節性インフルエンザと同等の区分である「5類」に分類されることを受け、経済産業省・法務省が共同で作成した「株主総会運営に係るQ&A」に新たなQ&Aが追加される方向であることは2023年3月16日のニュース「“ポストコロナ”における株主総会」でお伝えしたとおりだが、明日30日(木)14時にこの新Q&Aが公表されることが当フォーラムの取材で分かった。

現在の株主総会運営に係るQ&AはQ1~Q5で構成されているが、今回は「Q6」が新設される。Q6の内容は、まずQが「5類移行に伴い、これまでのQ1~Q5で示された考え方はなおも妥当するか?」という趣旨のものになっている。これに対するA(回答)は、「Q1~Q5で掲げられた各措置をとることが直ちに否定されるものではない」としつつも、各措置をとることが許容されるか否かは、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが変更される予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化していることを踏まえながら、関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意しつつ、事案ごとに個別的に判断されることになる、との考えが示される。

要するに、株主総会の運営は各社の判断に任せるということだが、Q&Aの更新と併せて公表されるリリース文には、「今後はQ1~Q5 で示した『やむを得ない』との判断により措置をとることが許容される度合も、過去 3 年間と比較して変化することが想定される」との一文が入り、現在は、コロナ禍の過去3年間のように株主総会の出席者人数を大幅に制限するといった極端な対応をとるほどの状況でもないことが示唆される。

ただ、Q&Aやリリースでは、「コロナ前の株主総会に戻すべき」とまで言っているわけではないと考えられる。足下では再びコロナ感染者の数が増加傾向に転じており、また、今後、コロナ以外にも新たな感染症が出て来ることも否定はできない。それが「関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意しつつ、事案ごとに個別的に判断」という微妙な表現につながっている。

企業にとって気になるのは、「株主の権利」という文言だろう。感染防止という点にのみフォーカスすれば、過去3年間のような厳格な対応をとることも考えられるが、感染状況が落ち着いている中でそのような対応をとれば、株主側から「株主の権利の侵害」という問題が提起されるリスクは否定できない。リリース文には、「今後の株主総会の運営の在り方は、コロナ禍で進んだ IT の活用などを行いつつ、一層の工夫が求められる」との一文が入る予定だが(Q&Aには入らず)、「関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意」するという意味では、まさにITを活用した株主総会はうってつけと言える。今年の6月総会は、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会等の開催が増加する可能性は十分にあろう。また、5類移行前とはいえ、12月決算企業の3月総会の運営()にも参考になる点が多そうだ。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会 : リアル株主総会を開催したうえで、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、文字通り株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会のこと。

*当フォーラムでは、近日中に「12月決算企業の3月総会」を分析するWEBセミナーを配信する予定です。

2023/03/29 【2023年2月の課題】株式保有ガイドライン導入の動きと導入に向けた取り組み方(会員限定)

株式保有ガイドラインとは?

株式保有ガイドラインとは、経営幹部に一定水準の自社株式の継続保有を求める社内規程です。一般的には、「当該役位に就任してからX年以内に、基本報酬のY倍の価値に相当する株式等を保有する(かつ継続的に保有し続ける)」といった内容が盛り込まれることになります。

経営幹部が常に一定水準以上の自社株式を保有することにより、株主との価値共有および企業価値向上への意識付けを促進することを目的としています。

欧米企業と日本企業における導入状況と内容の違い

欧米企業の場合、ほとんどが株式保有ガイドラインを導入し、その内容を開示しています。特に、一般的に株式報酬が高額な米国企業では、株式保有ガイドラインにより求められる保有水準も高くなっています。人事コンサルティング会社 WTW(ウイリス・タワーズワトソン)の最新の調査によると、S&P100構成銘柄の実に96%が株式保有ガイドラインを導入しており、そのうち90%の企業では、CEOの保有水準を基本報酬の6倍(またはそれ以上)に設定しています。

S&P100 : S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスLLCは、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場等している銘柄の中から、市場規模、流動性、業種等を勘案して選定した優良銘柄約500銘柄を時価総額で加重平均して指数化した株価指数「S&P500」を公表しているが、S&P100とは、S&P500のうち時価総額上位100銘柄を時価総額で加重平均した株価指数のこと。

一方、日本企業においては、株式保有ガイドラインを導入・開示している企業は一部にとどまっている状況です。また、株式保有ガイドラインを導入・開示している企業でも、求められる自社株式の保有水準は、社長でさえ基本報酬の2倍~3倍程度というケースがほとんどとなっています。これは、株式報酬の水準が欧米企業より低いにもかかわらず同レベルの株式保有ガイドラインを設定すれば、事実上、経営幹部に対して「株式の追加的な購入」を強いることになってしまうからです。

日本企業特有の株式報酬の仕組みや慣行がガイドラインの普及を阻害

株式報酬の導入が一巡し、その水準も高まりつつある中で、株式保有ガイドラインの導入を検討する日本企業は徐々に増えています。一方で、日本企業特有の株式報酬の仕組みや慣行が、その普及を阻害しているという状況もあります。

日本企業において活用されている株式報酬の類型の一つに、あらかじめ定められた一定期間中の譲渡や売却が制限される、いわゆる譲渡制限付株式報酬があります。日本企業の譲渡制限付株式報酬は、長期的な株式の保有や、退職所得として所得税上の優遇措置を受けることを目的に、「退職時」までを譲渡制限期間として設計されたものが目に付きます。また、在任中に譲渡制限が解除される譲渡制限付株式報酬や、普通株式を付与する株式報酬でも、インサイダー規制への抵触を避ける観点から実質的には売却が難しい、または売却しないという慣行となっている企業も多くあります。

所得税上の優遇措置 : 「退職金額-退職所得控除額)×1/2×税率」により税金を計算することになっている。ただし、平成24年度税制改正により平成25年1月1日以降支給分から、「勤続年数5年以下の役員」への退職金については算式中「×1/2」が廃止された。

結局、日本企業では、株式報酬として付与された株式を退任時まで継続して保有することになるため、株式保有ガイドラインが求める一定水準の株式の継続保有が事実上担保されていると言えます。

投資家が株式保有ガイドラインの導入を求める理由

では、株式報酬を付与されても株式を売却しにくい日本企業に対し、なぜ一部の投資家は株式保有ガイドラインを導入するよう求めているのでしょうか。

企業価値の向上を期待し、日本企業に対して株式保有ガイドラインの導入を明示的に求める投資家も出現しています。米国の老舗アクティビストであるDalton Investments(ダルトン・インベストメンツ)は、2022年に投資先に送付したレターの中で、取締役の株式保有ガイドラインを策定し、開示することを求めています。その目的は、日本企業の経営幹部に十分な株式を保有させることによる、株主との利害共有と株主目線での経営の促進であることが、レターから読み取れます。

株式報酬とした付与された株式が事実上売却できない日本企業の場合、形式的に株式保有ガイドラインを策定するだけでは投資家の期待に応えることはできないでしょう。投資家の期待が、経営幹部の株式保有促進により株主をはじめとするステークホルダー目線の経営を実現し、企業価値を向上させることであるとすれば、既存の株式報酬で担保されている株式価値を上回る高い基準のガイドラインを策定しない限り、株式報酬の実効的な意味はほとんどありません。すなわち、投資家の真の目的は、さらなる株式報酬の拡大やそれに伴う経営幹部の株式保有株式水準の引き上げにあり、株式保有ガイドラインの策定や見直しは、その目的を達成するための手段に過ぎないということです。

投資家の要望への対応は、各社の報酬水準や経営戦略に応じて変わってくるものと思われますが、将来的には投資家からの期待がさらに高まっていくであろうことは念頭に置いておく必要があります。

株式保有ガイドラインを導入する際の検討ポイント

では、実際に株式保有ガイドラインを導入することとなった場合、どのような点について検討する必要があるのでしょうか。

まずは、自社の株式報酬の目的や仕組み、水準を改めて確認してみる必要があります。株式報酬が株主などとの利害共有といった目的を達成するうえで十分な額となっているか、在任中の売却が可能かどうかなどを確認し、投資家の要望を満たすために整備すべき部分があれば、その部分を起点に報酬制度全体を見直すことも考えられます。

そのうえで、株式保有ガイドラインを導入する際の検討ポイントは以下のとおりです。

【株式保有ガイドラインの適用範囲】
株式保有ガイドラインの適用範囲は、最初に検討すべきポイントです。CEOを中心に業務執行を行う取締役には、特段の事情がない限り、株式保有ガイドラインを適用することが考えられます。

議論となりやすいのが、取締役でない執行役員に対しても適用するか否か、という点です。海外の状況を見ると、多くの欧米企業では、「Executive Officer」全体を適用範囲に含めています。これを参考にすれば、取締役でない執行役員も「業務執行を担う経営幹部」と捉えて、株式保有ガイドラインを適用することが考えられます。一方、取締役と取締役でない執行役員の報酬を異なるコンセプトで設計している企業の場合、そのコンセプトに応じて適用の要否を検討する(例えば、取締役でない執行役員は株式保有ガイドラインの適用対象外とする)ことも考えられます。

【株式保有ガイドラインにおいて対象とする株式】
どのような株式を株式保有ガイドラインの対象とするか、という点についても検討が必要です。

一口に株式報酬と言っても、普通株式を付与するもののほか、譲渡制限付株式報酬譲渡制限付株式ユニットやストックオプション、株式交付信託など様々な類型があります。これらはいずれも、「最終的に株式が交付されること」を前提として、株式保有ガイドラインの対象とすることが考えられます。

譲渡制限付株式報酬 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているもの。
譲渡制限付株式ユニット : 業績/株価条件のない株式(現金)交付信託のこと。
株式交付信託 : 企業が自社株式の取得資金を信託銀行に拠出し、この資金を原資に取得した自社株式を、業績目標の達成度などを反映したポイントに応じ、取締役等の在任時や退任時に付与するもの。

一方で、株価に連動する報酬であっても、最終的に金銭で支給されるもの(例えば、パフォーマンス・キャッシュファントム・ストックSARなど)については、株式保有ガイドラインの対象とすることはできないでしょう。加えて、業績達成条件などが定められており、付与される株式数が変動する可能性がある(場合によっては0となってしまう可能性がある)もの(例えば、パフォーマンス・シェア・ユニットなど)については、その時点で保有数が確定していないことから、株式保有ガイドラインの対象に含めるべきではありません。

パフォーマンス・キャッシュ : 株価等の中長期の評価に基づいて現金賞与を支給する中期キャッシュプラン
ファントム・ストック : 架空の株式(ファントム(架空の)ストック= Phantom Stock)を用いたインセンティブ報酬。架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する。フルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されることが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい。
SAR : ストックオプションと同様に株価に連動するものの、株式は介在しない現金によるインセンティブ報酬。付与時点からの株価の上昇分を会社が現金支給する。海外現地法人の幹部に対し、現地の証券税制の影響や事務負担を回避する観点から、通常型ストックオプションの代替措置として支給されるケースが多い。
パフォーマンス・シェア・ユニット : 「パフォーマンス・シェア」とは文字通り一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のこと。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を交付するのが「パフォーマンス・シェア・ユニット(通称:PSU)」である。業績や株価条件のある株式交付信託は、パフォーマンス・シェア・ユニットに区分される。

要するに、①最終的に株式で付与されること、②付与株式数が確定していること、の二つの条件を満たしている場合には、株式報酬の類型を問わず、株式保有ガイドラインの対象としてよいと言えるでしょう。

【具体的な保有基準】
株式の具体的な保有基準については、各社の株式報酬の水準に照らして検討する必要があります。一般的には、標準的な業績を想定した場合の株式報酬を拠り所としつつ、経営幹部による追加的な株式購入が前提とならないよう、“厳しすぎない保有基準”を設定します。ただし、それが基本報酬の0.5倍~1.5倍程度となる場合には、投資家が求める水準との乖離が大きいため、株式報酬の額や保有基準が不十分であると投資家に判断される可能性が高い点、注意が必要です。

【株式保有ガイドラインの開示】
株式保有ガイドラインを策定した場合には、その内容を事業報告および有価証券報告書で開示することが考えられます。保有基準が明らかに低いといったものでなければ、株主等のステークホルダーとの利害共有の促進を進めていることをアピールできるでしょう。

また、単に株式保有ガイドラインの内容を開示するだけでなく、同ガイドラインの各適用対象者が実際に基準を満たしているかどうかを個人別に開示することも重要です。取締役選任議案等において各取締役等の保有株式数を開示したうえで、個人別に株式保有ガイドラインの達成状況を示すことにより、取締役等による株式保有の実効性を確実にアピールすることができ、株主等のステークホルダーとの信頼関係強化にもつながるでしょう。

おわりに

新型コロナウイルスやウクライナ情勢などにより事業環境が大きく変化する中で、目先の利益だけでなく、サステナビリティの観点を含む中長期的な企業価値の向上への期待が高まっています。こうした潮流の中で、報酬制度の見直しや株式保有ガイドライン導入を積極的に検討していくことは、ステークホルダー目線での経営や中長期的な企業価値向上を意識した経営を促す効果的な手段の一つと言えるでしょう。

2023/03/28 従業員が逮捕された場合の対応

従業員が私生活において何か不祥事を起こしたとしてもそれは基本的に会社の責任ではないが、上場会社のように従業員の勤務先が著名であるほど、「●●会社の社員が・・・」といった形で報道されることが多く、会社のレピュテーションに与えるダメージは小さくない。「社員 逮捕」といったキーワードでインターネット検索をすると、著名な会社の従業員が逮捕される事件はかなり頻繁に起きていることが分かる。

従業員が私生活における犯罪行為の疑いで逮捕された場合、会社としてはどのように対処すべきか戸惑うところだろう。しかし、このような場面でこそ、冷静な判断が求められる。

まず、逮捕されると・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2023/03/28 従業員が逮捕された場合の対応(会員限定)

従業員が私生活において何か不祥事を起こしたとしてもそれは基本的に会社の責任ではないが、上場会社のように従業員の勤務先が著名であるほど、「●●会社の社員が・・・」といった形で報道されることが多く、会社のレピュテーションに与えるダメージは小さくない。「社員 逮捕」といったキーワードでインターネット検索をすると、著名な会社の従業員が逮捕される事件はかなり頻繁に起きていることが分かる。

従業員が私生活における犯罪行為の疑いで逮捕された場合、会社としてはどのように対処すべきか戸惑うところだろう。しかし、このような場面でこそ、冷静な判断が求められる。

まず、逮捕されると本人は外部に連絡できなくなり、自ずと「無断欠勤」になる。しかし、誤認逮捕等、本人に非の無いケースもあるため、無断欠勤したことだけをもって拙速に懲戒処分その他不利益な取り扱いをするのは避けるべきだ。もっとも、逮捕・勾留期間中は労務の提供がなされなかったのは事実であるため、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、不就労時間に対応する賃金を不支給とすることは差し支えない。ただし、年次有給休暇の「事後申請」を認める制度や慣習のある職場では、本人が申請すれば有給扱いとしなければならないことになる。会社にとっては不条理にも思えるかもしれないが、本人に非のある逮捕だったとしてもこれは変わらない。

「ノーワーク・ノーペイ」の原則 : 労務者が「労務」を提供していない場合(働いていない場合)、使用者はその部分についての賃金を支払う義務はないという給与計算の基本原則のこと。労働基準法24条を根拠とする。

そして、釈放後または接見時に本人から事情を聞き、状況次第で懲戒処分を検討することになる。とはいえ、会社が懲戒権を行使できるのは職場規律を維持するためであるため、私生活における犯罪行為(それが事実であったとしても)を理由として会社が懲戒処分を科すことは基本的には認められない。会社が懲戒処分を科すことができるのは、その行為によって会社が有形または無形の損害を被った場合に限られる。さらに、それは社会通念上相当なものでなければならない(労働契約法15条)。特に懲戒解雇・諭旨解雇等、取り返しのつかない処分を科す場合には慎重を期したい。また、就業規則等に、懲戒委員会での議論を経たり本人の弁明を聞いたりすべき旨が定められているのであれば、それらの手順を省いた懲戒処分は無効とされる(東京地裁・平成23年1月21日判決、東京地裁令和2年11月12日判決など)点も要注意だ。

会社によっては「起訴休職」制度が設けられていることもある。これは、勾留が解かれても確定判決が出るまでは出社させないという制度で、有給とするものと無給とするものがある。いずれにせよ、同制度の適用についても、本人に非があるかどうかは関係がなく、会社は就業規則等に従うしかない。

以上を整理すると、①「逮捕=犯罪行為」と短絡的に捉えてはならず、②犯罪行為が事実だとしても懲戒処分を科すには合理性・相当性を要し、③処分内容の決定も勤怠の取り扱いも社内ルールに則るべき、ということになる。

従業員の逮捕という特殊案件に際しても、冷静さを失った対応が原因で従業員との訴訟に発展するといった形で会社をさらなるレピュテーションリスク(および経済的損失のリスク)に晒すことのないよう、落ち着いて対処したい。

2023/03/27 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示第1号企業は?

周知のとおり、2023年3月期の有価証券報告書等から【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設され、「ガバナンス」および「リスク管理」については必須記載事項、「戦略」および「指標及び目標」については重要性に応じて記載が求められることとなった。改正開示府令は「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用されるが、施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等からの早期適用が可能とされている。すなわち、3月決算会社に次いで社数の多い(2022年)12月決算会社は早期適用することができる(以上、2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)。現在、12月決算会社の有価証券報告書の開示が進んでいるが、3月24日、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2023/03/27 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示第1号企業は?(会員限定)

周知のとおり、2023年3月期の有価証券報告書等から【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設され、「ガバナンス」および「リスク管理」については必須記載事項、「戦略」および「指標及び目標」については重要性に応じて記載が求められることとなった。改正開示府令は「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用されるが、施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等からの早期適用が可能とされている。すなわち、3月決算会社に次いで社数の多い(2022年)12月決算会社は早期適用することができる(以上、2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)。現在、12月決算会社の有価証券報告書の開示が進んでいるが、3月24日、花王が提出した有価証券報告書で【サステナビリティに関する考え方及び取組】が開示されていることが確認された。同社は【サステナビリティに関する考え方及び取組】を開示した上場会社の第1号となる。

花王の開示内容のポイントは以下のとおり。

(1)サステナビリティ全般の開示
サステナビリティ全般の開示については、必須の記載事項とされている「ガバナンス」「リスク管理」のみならず、「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」のすべてが記載されていた(下記の記載形式は、当フォーラムが記載事例より抜粋のうえ編集)。

記載項目 開示内容(抜粋)
ガバナンス(必須) 花王は、グローバルの大きな変化に対する迅速な対応を強化するとともに、事業機会の拡大と社会課題の解決を目指し、柔軟で強靭なESGガバナンスを構築しています。社外委員が参加する組織が経営層に監督・助言する機能や、経営判断がイノベーションや取り組みに変換され、的確かつ迅速に実行に移される機能が備わっていることが特徴です。取締役会がリスクや機会を含むESGに関する監督の責任を持ち、そのもとで社長執行役員及び配下の各組織体が業務執行を担っています。

ESG全体の業務執行については、ESGコミッティを最高機関とした体制が担っています。ESGコミッティは、ESG戦略に関する活動の方向性を議論、決定し、取締役会に活動状況を報告します。社外の視点を反映させるため外部有識者で構成されるESG外部アドバイザリーボード、ESG戦略を遂行するためのESG推進会議、4つの重点課題について確実かつ迅速に遂行するESGステアリングコミッティがあり、各部門の活動を推進しています。

中でもESG外部アドバイザリーボードは、ガバナンスにおいて重要な役割を果たしています。世界の動向、花王の取り組み状況に関する助言は、各分野、世界の各地域で活躍されている委員ならではの活きた知見・観点から生み出されるものであり、経営の意思決定に効果的に反映されています。環境分野の2名、社会分野の2名、ガバナンス分野の1名で構成されています。

ESGに関するリスク管理は内部統制委員会(年2回開催、委員長は代表取締役 社長執行役員)で、機会管理はESGコミッティ(年6回開催、議長は代表取締役 社長執行役員)で実施しています。

戦略 花王は、中期経営計画「K25」において「未来のいのちを守る」「Sustainability as the only path」をビジョンに掲げ、ESG経営への強い意志を表明しています。事業活動をとりまく国際情勢は一層大きく変動することが予測されますが、そこで想定されるリスクの低減や、事業機会の創出を図り、レジリエンスを強化するため、ESG戦略の重要性が一層高まっています。

レジリエンス : 気候変動等の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。

花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」は、生活者を主役としたESGの具体的な活動の方向性と将来への意欲的な意気込みを表したものです。「花王のESGビジョン」と、それを実現するための戦略、3つのコミットメントと19のアクションから構成されています。この戦略に基づき、生活者のこころ豊かな暮らしや社会のサステナビリティの実現を目指して展開した花王のESG活動が、リスクの低減や事業機会の創出につながり、ひいては事業成長を実現し、生まれた利益がステークホルダー、生活者や社会に還元されていくサイクルを形成していくと考えています。

現代の深刻な社会問題に対応し、サステナブルな社会を実現するためには技術革新が必須だと言われていますが、花王はイノベーション提案に基づく、“よきモノづくり”に注力しており、本質研究に立脚した革新的技術を組み込んだESG視点でのよきモノづくりは、花王の持続的な成長を支え、人、社会、地球に大きなインパクトを与えることができると考えています。

リスク管理(必須) 花王は、強靭なESGガバナンスのもと、リスク低減と事業機会創出を確実にするため、リスク管理及び機会管理を強化しています。

リスク管理においては、リスクの重要性をリスク・危機管理委員会で定期的にモニタリングしています。その中でも経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクは「コーポレートリスク」として、経営会議でリスクテーマとリスクオーナーを選定し、リスク・危機管理委員会で進捗管理をしています。各部門やグループ会社で管理可能なリスクは、各組織が中心となって対応しています。機会管理においては、花王グループ全体で重点テーマを管理し、優先順位の設定とESG投資を促進する仕組みを構築し、戦略的な事業展開につなげています。

指標と目標 花王は、野心的な指標と目標を設定することで、ESG戦略の方向性を明確にし、的確な進捗管理を可能とすることで、ESG戦略を着実に実行しています。花王のESG戦略、「Kirei Lifestyle Plan」の19のアクションごとに指標と目標を設定しています。上記ESGガバナンスにおいて各指標の進捗状況がモニタリングされ、結果に基づき取り組みに反映しています。

(2)個別テーマ
今後各社は「ガバナンス」と「リスク管理」の 枠組みの中で重要と判断したサステナビリティ項目を開示することになるが、花王は「気候変動」「人的資本」の2つのテーマをサステナビリティ項目として選択している。開示量は膨大なものとなっているが、ポイントは以下のとおり(当フォーラムが抜粋・要約)。

①気候変動
TCFDのフレームワークに基づいている旨の記載はないものの、TCFDに沿った「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」の4つのカテゴリー(この点については2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」の図表参照)で開示されている。また、このうち「ガバナンス」と「リスク管理」については、(1)の全般的な開示の「ガバナンス」と「リスク管理」を参照しており、共通する内容を繰り返し記載しないよう工夫が見られる。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

記載項目 開示内容(抜粋・要約)
ガバナンス (1)の全般的な開示のガバナンスを参照
戦略 シナリオ分析について詳細に記載
リスク管理 (1)の全般的な開示のリスク管理を参照
指標と目標 2021年、当社グループは「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブを目指す」という方針のもと、2030年目標を設定・更新しました。

スコープ1+2 CO2排出量(絶対量)削減率 -55%(対2017年)*1
・使用電力における再生可能電力の比率 100%*2
・ライフサイクルCO2排出量(絶対量)削減率 -22%(対2017年)
・削減貢献量*3*4 10,000千トン-CO2

スコープ1+2 : スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと、スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと、スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社の排出」のこと。

*1 1.5℃水準に沿った目標として、SBTイニシアティブ(企業が気候変動分野において野心的な活動を促進するために設立されたイニシアティブ)の認定を取得
*2 RE100(企業が自らの事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%化することを目指す国際的イニシアティブ)に加盟
*3 気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)及び京都議定書第7回締約国会合(CMP7)で合意された7種の温室効果ガス
*4 当社グループの製品によって社会全体で削減された排出量

当社グループのCO2排出量推移は以下のとおりです。2022年は生産拠点のあるタイ、マレーシア、フィリピンでグリーン電力証書の活用等により2017年比削減率26%を達成しました。引き続き、アジアにおける再生エネルギーの利用によるスコープ2 CO2排出量の削減を進めるとともに、スコープ1 CO2排出量の削減にも取り組んでまいります。

また、記載内容を補完する詳細情報については、以下の通り、将来発行する予定のサステナビリティレポートを参照している。

2023年5月に発行予定の「花王サステナビリティレポート 2023」を参照ください。
www.kao.com/jp/corporate/sustainability/

②人的資本
人的資本については、重要性にかかわらず、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針、社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等を“必須記載事項”として、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の「戦略」と「指標及び目標」において記載しなければならない。この点、花王の事例では、①「戦略」において「人材育成の方針」や「社内環境整備の方針」といった項目建てがされていないこと、②「指標と目標」及びその実績の一部が、「戦略」の区分においても開示されているのが特徴的と言える。また、上表のとおり気候変動に関する「ガバナンス」「リスク管理」については(1)の全般的な開示を参照していたが、人的資本に関する「ガバナンス」「リスク管理」については個別の内容が記載されている。

記載項目 開示内容(抜粋・要約)
ガバナンス 人財戦略に関しては、取締役会における経営視点での方針の議論を経て、経営トップを委員とする「人財企画委員会」にて具体的な課題や施策(重要な組織の新設・改編、主要ポジションの任免、人員・人件費に関する計画や重要な人事施策の新設・改廃等)に関する検討と決裁、進捗状況の共有を行っています。
また活動をグループ全体で推進するために、グローバル共通の仕組みを導入し、活用しています。たとえば、グローバル人財情報システムによる人財情報の活用、グローバル共通のOKR・等級制度・評価制度・教育体系・報酬ポリシーによる人財マネジメント・育成の強化等です。
これらの活動は、人財戦略部門統括を責任者とし、国内外グループ各社の人財開発部門と連携をとりながら進めています。
また、日本においては主要部門に人事機能を設置するとともに、現場の社員一人ひとりの育成とキャリア開発を担当するキャリア・コーディネーターを配置しています。
主要部門及びグループ各社の人財開発責任者による会議を定期的に開催し、花王全体の人財開発の方針、グループ各社の活動状況等について共有・議論しています。

OKR : 「Objectives and Key Results」の略称で、「達成目標(Objectives)」と、目標の達成度を測る「主要な成果(Key Results)」を設定しすることにより、企業全体、チーム、各従業員等が、同じ課題に取り組めるようにするための目標管理手法のこと。

戦略 「平等から公平へ」、「相対から絶対へ」、「画一・形式から多様・自律へ」という3つの基本方針を掲げ、人財開発活動を進めています。
人財戦略は中期経営計画「K25」の基本構想に基づき、「社員活力の最大化」と「多様な人財の最大活用による組織力の最大化」を二つの柱と定めました。これらを実現する為に、特に以下の3点を重点施策として取り組んでいます。
・挑戦を推奨する組織風土の醸成
・専門性の高い多様な人財の能力発揮
・効率的で柔軟な働き方の実現
それぞれの施策は都度効果を確認していますが、定期的に社員エンゲージメントサーベイを実施することでも社員意識の確認を行っています。2022年は、国内花王グループにおいて社員エンゲージメントサーベイを実施しました。社員活力最大化に向けて内容を大きく見直すとともに、日本の労働安全衛生法に基づき実施しているストレスチェック制度も含んだ形で実施しました。調査結果については外部専門家による検証を共有する部門報告会を実施するとともに、職場ごとに強みや課題を共有し、より良い職場の実現に向けた改善活動につなげる取り組みを行いました。また、国内の社員代表と経営陣による意見交換の場である花王フォーラムや、社員懇談会を実施し、エンゲージメントの強化に努めました。これらの議論や対話の内容は社内のサイトや事業場の厚生委員会を通じて社員に広く周知・共有を行っています。
K25実現に向けた人財開発活動の位置づけ
K25実現に向けた具体的な活動としては、3つの基盤的アクションと7つの戦略的アクションに落とし込んで進めています。それぞれのアクションが相互に連携しながら、前述の3つの重点施策につながっています。
a.戦略的アクション:チャレンジを認める評価・処遇・表彰
b.戦略的アクション:キャリア自律と自ら学ぶ能力開発
c.戦略的アクション:挑戦と成長を前提とした適正配置、多様な活躍の場の創出
d.戦略的アクション:戦略的タレントマネジメント
e.戦略的アクション:フレキシブルワークの実現
f.戦略的アクション:先端技術活用による業務の能率化
g.基盤的アクション:OKRの活用
h.基盤的アクション:DE&I推進
i.基盤的アクション:健康開発推進

社員エンゲージメント : 「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」を指し、組織の目指すゴールに対する「自発的貢献意欲」とも言い換えることができる。従業員(社員)エンゲージメントは「従業員満足度」と混同されがちだが、実は両者は大きく異なっている。所属する組織、職場の状況、上司、自身の仕事などについて、「従業員が自身の物差し」で評価をするのが従業員満足度であるのに対して、「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについての自分自身の理解度、共感度、行動意欲を評価するのが従業員エンゲージメントとされる。
DE&I : 多様性を示す「ダイバーシティ」と、多様な人材が互いを認め、受け入れ、一体となって働くことを指す「インクルージョン(受容性)」を合わせたダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考え方に、「Equity(公平性)」を加えたもので、D&Iから一歩進んだ概念と言える。 すなわち、DE&Iは、一人ひとりの違いや状況に配慮した公平な機会の下、多様な人材が互いに尊重し合い、能力を発揮できる環境を実現するための概念である。DE&Iにおける「Equity(公平性)」は「Equality(平等)」とは異なる点、注意が必要。Equality(平等)は誰に対しても同じように機会が与えられることを指すのに対し、Equity(公平性)を実現するためには、例えば出産等でキャリアを中断していた女性に対しキャリア復帰に必要な研修プログラムを提供するなど、一人ひとりの状況に合わせてツールやリソースを調整して用意する必要がある。

リスク管理 会社の事業活動において、多様な人財が集い、一人ひとりが持てる能力と個性を最大限発揮できることが重要です。人財の流動性が高まる中、採用競争力が低下して計画通りの人財獲得が進まなくなること、社員の離職により組織の総合力が低下することが最大のリスクと考えています。社員に成長の機会を提供し、活躍しやすい環境を整えることで、リスク低減に努めています。
指標と目標 18の指標と目標、実績を開示

(3)将来情報と虚偽記載
サステナビリィ情報とは企業の中長期的な持続可能性に関する事項であり、投資判断に有用な情報を提供するためには、多くの「前提」や「仮定」を置いたうえで、将来に関する事項を説明することが必要となる。金融庁は開示ガイドラインにおいて、有価証券報告書に記載した重要な将来情報と実際に生じた結果が異なることとなった場合であっても、「一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合」には、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことを明確化している。「具体的な説明」としては以下のものが例示されている(開示ガイドライン5-16-2)。

①将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨
②検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要(①とともに記載)

社内 : 例えば取締役会等の社内の会議体
仮定 : 例えば「●●頃までに●●のような事象が起こる」等
推論過程 : 将来情報を導いた論理的な過程

この点、花王の有価証券報告書には以下のような記載(抜粋)が見られた。個々の将来情報についてその根拠等を具体的に説明するのではなく、冒頭でまとめて、将来情報が「合理的であると判断する一定の前提」に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性がある旨を明記している。

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

(4)まとめ
花王の有価証券報告書は、3月決算会社が【サステナビリティに関する考え方及び取組】を開示するのあたり参考となる唯一の事例となっている(3月24日時点)。

金融庁によると、【サステナビリティに関する考え方及び取組】は令和5年度の「重点テーマ審査」事項となっている。「ガバナンス」「リスク管理」について記載するほか、人的資本については、重要性にかかわらず、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等が必須記載事項となる。また、各社が重要と判断した個別テーマ(例えば気候変動)についても、現在行っている取り組み等を記載することが求められる点、十分留意したい。