金融庁は2023年1月31日、昨年11月7日に公表しパブリックコメントに付していた「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などを盛り込んだ改正開示府令案を確定し、公布・施行した(確定版やパブリックコメントへの回答はこちら)。改正案に対しては延べ351件もの厖大なコメントが寄せられ(改正案の内容は【2022年12月の課題】「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の内容 参照)、これが今回の確定版およびパブリックコメントへの回答の公表が遅れた原因となった。企業にとってまず気になるのは、寄せられたコメントを受け、確定版において改正案からの変更点(特に重要な変更)があったかどうかということだろう。
最も大きな変更点と言えるのが、適用時期だ。「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用するということに変更はないものの、施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等からの早期適用が可能とされた。これにより、3月決算企業に次いで社数の多い(2022年)12月決算企業は早期適用ができることになる。ただし、注意しなければならないのは、早期適用する開示項目は選べないということだ。例えば、サステナビリティ関連の取り組みに力を入れている企業が今回の改正で追加された【サステナビリティに関する考え方及び取組】について開示を行うのであれば、他の改正項目である【従業員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】も開示しなければならない。
このほか、改正案から変更あるいは明確化された主な点は以下のとおりとなっている。
(1)【従業員の状況】
女性活躍推進法や育児・介護休業法(以下、女性活躍推進法等)に基づき、「管理職に占める女性労働者の割合」「男性労働者の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」(以下、3指標)を公表している提出会社及び連結子会社は、3指標を【従業員の状況】において開示することが求められるが、有価証券報告書提出時点で当年度に係る3指標を開示しておらず、前年度の3指標しか開示していない場合は、前年度の3指標(直近で公表されている3指標)を開示すればよいのか、疑問が生じていた。
この点について金融庁はパブリックコメントへの回答として、「提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、当該公表が行われる前であっても、有価証券報告書等において開示が求められる」ことが明確化された(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.7~10)。
また、3指標を女性活躍推進法等に基づき公表をしていない企業は開示不要とされていたが、昨今の多様性の議論の重要性に鑑み、任意開示を促す趣旨から、下記のとおり文言の変更が行われた(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.33)。
第二号様式(29)従業員の状況d
(注)提出会社やその連結子会社のそれぞれにおける男性労働者の育児休業取得率、労働者の男女の賃金の差異についても同様の修正が行われている。
| 改正案 |
提出会社及びその連結子会社それぞれにおける管理職に占める女性労働者の割合(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号。e及びfにおいて「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」という。)第19条第1項第1号ホに掲げる事項をいう。以下dにおいて同じ。)を記載すること。ただし、提出会社及びその連結子会社が、管理職に占める女性労働者の割合について、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。e及びfにおいて「女性活躍推進法」という。)の規定による公表をしていない場合は、この限りでない。 |
| 確定版 |
最近事業年度の提出会社及びその連結子会社それぞれにおける管理職に占める女性労働者の割合(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号。e及びfにおいて「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」という。)第19条第1項第1号ホに掲げる事項をいう。以下dにおいて同じ。)を記載すること。ただし、提出会社及びその連結子会社が、最近事業年度における管理職に占める女性労働者の割合について、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。e及びfにおいて「女性活躍推進法」という。)の規定による公表をしない場合は、記載を省略することができる。 |
このほか、3指標を有価証券報告書に記載するのではなく、各社が公表しているウェブサイトを参照することができるのかという疑問が生じていたが、この点についても金融庁により「女性活躍推進法等により個社の数値が求められていることから個社としてのデータも有用であるとの意見があることや、投資家に対して情報の一覧性を確保する観点を踏まえ、企業のウェブサイト等を参照するのではなく、有価証券報告書等に記載する」ことが明確化されている(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.51~53)。
(2)他の公表資料への参照
①URLの変更と訂正報告書
現状、【サステナビリティに関する考え方及び取組】【コーポレート・ガバナンスの概要】の記載事項を補完する詳細な情報については、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができるとされており(開示ガイドライン5-16-4)、参照の方式として、例えばURLを記載することが考えられる。
開示ガイドライン 5-16-4
開示府令第二号様式記載上の注意(30-2)に規定する「サステナビリティに関する考え方及び取組」又は同様式記載上の注意(54)iに規定する「コーポレート・ガバナンスの概要」を記載するに当たっては、同様式記載上の注意(30-2)aからcまで又は同様式記載上の注意(54)iに規定する事項を有価証券届出書に記載した上で、当該記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる。
また、参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券届出書の虚偽記載等になり得る場合を除き、直ちに有価証券届出書に係る虚偽記載等の責任を負うものではないことに留意する。 |
ただ、仮にURLが変更された場合、有価証券報告書から当該他の書類を参照できなくなる。そこで、URLが変更された都度訂正報告書の提出が必要になるかという疑問が生じていた。
この点について金融庁は、「有価証券報告書等の訂正を行うかどうかは、個別事案ごとに実態に即して判断されるべきものですが、必ずしも訂正報告書等の提出を求めるものではない」としつつ、「例えば、参照先の情報が修正され、これに伴い有価証券報告書等の必要的記載事項に変更がある場合には、訂正報告書を提出する必要がある」「参照先のURLが次年度の有価証券報告書が提出されるまでの間に変更された場合には、訂正報告書等を提出することが望ましい」との考えを明らかにしている(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.209~210)。
また、「参照先の書類内の情報は、参照方式の有価証券届出書における参照書類とは異なり、基本的には有価証券報告書の一部を構成しない」として、参照される書類の位置付けも明確化されている。
②将来公表する予定の統合報告書等を参照できるか
2022年3月にISSBから公表されたサステナビリティ開示基準の公開草案では、サステナビリティ情報について、財務情報との結合性や、財務諸表と同じ報告期間を対象とすることが求められているが、GHG(温室効果ガス)排出量の算定・開示時期は、決算期末5~6か月後の公表(3月末決算の場合、8月~9月に公表)が一般的であることを踏まえ、1年度前の数値の記載や、追って任意の開示物において公表する旨の記述が許容されるかという疑問が生じていた。
この点についての金融庁の考え方は以下のとおりとなっている(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.238~241)。
| 有価証券報告書の記載内容を補完する詳細な情報については、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照することも考えられます。もっとも、将来公表予定の書類を参照する際は、投資者に理解しやすいよう公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれます。一方、各企業において、投資者の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書に記載する必要があります。そして、有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載する必要がありますが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられます。この場合には、概算値であることや前年度のデータであることを記載して、投資者に誤解を生じさせないようにする必要があります。また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられる。 |
(3)【サステナビリティに関する考え方及び取組】に何を書くか
改正開示府令における企業の最大の関心事は、やはり【サステナビリティに関する考え方及び取組】において具体的に何を、どの程度書けばよいのかということだろう。この点については多数のパブリックコメントが寄せられていたが、金融庁からの具体的な考え方は示されなかった。金融庁の回答は以下のとおりとなっている(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.80)。
サステナビリティ情報の開示については、改正開示府令に規定のあるとおり、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の4つの構成要素に従った開示をすることが求められていますが、現時点においては我が国における開示基準は定められていないところ、各企業の取組状況に応じて記載していくことが考えられます。
なお、当年度の有価証券報告書について、開示府令が求める開示事項を開示している場合には、翌年度以降、企業においてその開示内容を拡充したとしても、当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられます。 |
上記金融庁の回答や、我が国にはサステナビリティ開示基準が存在しないこと、国際的な開示基準も過渡期にあることを踏まえると、企業はとしては自社の現状の考え方や取り組みの状況を記載しておけばよいだろう。「【2022年12月の課題】「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の内容」でお伝えしたとおり、ISSBが開発中のIFRSS1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(S1基準案)には、「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」の4つの柱において記載すべき事項が網羅されている。何を書けばよいか分からないという企業は、S1基準案を参照することをお勧めしたい。