2023/01/25 EUのサステナビリティ開示、日本の親会社が対象となるケースも(会員限定)

周知のとおり、金融庁は2022年11月7日、「サステナビリティ」や「コーポレート・ガバナンス」に関する開示府令の改正案を公表し、同12月7日までパブリックコメントに付していたところ。企業側は、開示内容を検討するにあたり参考となる「パブリックコメントに対する金融庁からの回答」待ちの状況にある。当フォーラムの取材によると、コメントの数の多さもさることながら、外国人投資家等による英語でのコメントも相当数あり、回答作成に時間を要している模様だ。本改正開示府令への関心の高さがうかがえる。そして、本改正開示府令への対応に加え、今後、EUに子会社や支店を持つ日本の親会社がEUの求める独自の開示ルールへの対応を迫られる可能性が高まっている。

非財務開示基準の分野でデファクトスタンダードを握ると目されているISSB(International Sustainability Standards Board=国際サステナビリティ基準審議会)に加え、EU(欧州委員会)や米国SEC(米国証券取引委員会)も独自の非財務開示ルールの策定にとりかかっていることは既報のとおりだが(2022年10月7日のニュース「非財務開示ルールが3種類に?」参照)、このうちEUは「企業サステナビリティ報告指令(CSRD=Corporate Sustainability Reporting Directive)」と呼ばれるルールを2021年4月に提案しており、2024年から段階的に適用することを予定している(金融庁のディスクロージャーワーキング・グループが昨年12月に公表した資料の一番下を参照)。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関

CSRDについて注意しなければならないのは、EU域内市場の上場企業のみならず、EU域内の「大企業(①事業年度末の総資産が2000万ユーロ超、②事業年度における純売上高が4000万ユーロ超、③事業年度における平均従業員数が250人超、という3つの基準のうち2つに該当する企業)」も適用対象になるという点に加え、EU市場で売上高が大きい企業グループがEU域内に子会社や支店を持つ場合、連結ベースで「日本の親会社」もCSRDに基づく開示の対象になりうるということだ。具体的には、①EU域外企業の子会社が「上場企業」または「大企業」(定義は上記①参照)に該当し、EU域外企業グループによるEU域内市場での年間純売上高の合計が「直近2年間で連続して1億5000万ユーロ超」である場合、②EU域内の「支店」によるEU域内市場での「直近事業年度の純売上高が4000万ユーロ超」に該当し、EU域外企業グループによるEU域内市場での年間純売上高の合計が「直近2年間で連続して1億5000万ユーロ超」である場合、日本の親会社が開示対象となる。

実際に開示を行うのはEU域内の子会社または支店だが、日本の親会社も開示対象になるとすれば、当然ながら日本の親会社にも開示のための情報・データの収集・整理などの負担が生じる。もちろん、日本の金融商品取引法等に基づく開示内容を活かせる部分は相当程度あるものと考えられるが、日本(SSBJが手本とするISSBの非財務開示基準は“投資家目線”のシングル・マテリアリティを志向しているが(2021年1月20日のニュース『高まる「ダブル・マテリアリティ」の開示圧力』の3段落目参照)、EUのCSRDは“(市民社会等を含む)マルチステークホルダー目線”のダブル・マテリアリティを志向しているため、求められる開示内容も異なる。

SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
シングル・マテリアリティ : マテリアリティとは「重要性」を意味するCSR用語であり、マテリアリティを開示する目的は要するに「自社にとって重要な課題は何か?」を明らかにすることにある。シングル・マテリアリティとは企業が環境や社会から「受ける」影響を示す“投資家目線”のマテリアリティであるのに対し、ダブル・マテリアリティとは、これに企業が環境や社会に「与える」影響を示す“(市民社会等を含む)マルチステークホルダー”目線のマテリアリティを統合したものを指す。

上記ディスクロージャーワーキング・グループの資料にあるとおり、日本の親会社が開示対象となるのは「2028年から」が予定されている。まだ時間は残されているとはいえ、EU域内に子会社、支店を有する日本企業は、まず自社が開示対象になるか否かを早目に確認しておく必要があろう。

2023/01/24 11個のTCFD開示推奨項目、任意開示における優先順位

既報のとおり、TCFDは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」による4つの柱に基づく開示を推奨している(2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」を参照)。そしてTCFDが推奨する開示では、下表のとおり4つの柱ごとに複数の項目が設定されており、計11の推奨項目から構成されている。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

4つの柱 TCFD開示推奨項目
ガバナンス ① 取締役会による監視体制
② 経営者の役割
戦略 ③ リスクと機会
④ ビジネス・戦略・財務計画への影響
⑤ シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明
リスク管理 ⑥ リスクを評価・識別するプロセス
⑦ リスクを管理するプロセス
⑧ ⑥⑦が総合的リスク管理に統合されているか
指標と目標 ⑨ リスクと機会の評価に用いる指標
⑩ スコープ1スコープ2、当てはまる場合はスコープ3の排出量
⑪ リスクと機会の管理に用いる目標と実績

レジリエンス : 気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。
スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと。
スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社の排出」のこと。

法定開示においては2023年3月期に係る有価証券報告書からサステナビリティ情報(気候変動に限定されない)の開示が義務化される見通しとなっているが(有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示義務化については2022年11月7日のニュース「気候変動情報、一律の開示は見送り」を参照)、その対応策は【2022年12月の課題】「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の内容 に詳説しているので、本稿では統合報告書やアニュアル/ESG/CSR/環境/サステナビリティ/TCFDレポートなどの各種レポートといった任意開示の観点から、上記11項目の優先順位について検討してみよう。・・・

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2023/01/24 11個のTCFD開示推奨項目、任意開示における優先順位(会員限定)

既報のとおり、TCFDは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」による4つの柱に基づく開示を推奨している(2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」を参照)。そしてTCFDが推奨する開示では、下表のとおり4つの柱ごとに複数の項目が設定されており、計11の推奨項目から構成されている。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

4つの柱 TCFD開示推奨項目
ガバナンス ① 取締役会による監視体制
② 経営者の役割
戦略 ③ リスクと機会
④ ビジネス・戦略・財務計画への影響
⑤ シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明
リスク管理 ⑥ リスクを評価・識別するプロセス
⑦ リスクを管理するプロセス
⑧ ⑥⑦が総合的リスク管理に統合されているか
指標と目標 ⑨ リスクと機会の評価に用いる指標
⑩ スコープ1スコープ2、当てはまる場合はスコープ3の排出量
⑪ リスクと機会の管理に用いる目標と実績

レジリエンス : 気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。
スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと。
スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社の排出」のこと。

法定開示においては2023年3月期に係る有価証券報告書からサステナビリティ情報(気候変動に限定されない)の開示が義務化される見通しとなっているが(有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示義務化については2022年11月7日のニュース「気候変動情報、一律の開示は見送り」を参照)、その対応策は【2022年12月の課題】「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の内容 に詳説しているので、本稿では統合報告書やアニュアル/ESG/CSR/環境/サステナビリティ/TCFDレポートなどの各種レポートといった任意開示の観点から、上記11項目の優先順位について検討してみよう。

もちろん、任意開示である以上、どの項目を開示するのかは会社が自由に選ぶことができる。また、そもそもTCFDに賛同の意を表明していなければ(TCFDへの賛同企業・機関はこちら)、TCFDの枠組みに合わせる必要もなく、仮に合わせるとしても、会社が重要と考える順に開示すればよい。とはいえ、JPX日経インデックス400構成銘柄ですら5社に1社(21%:86社)が「統合報告書/アニュアルレポート」を発行しておらず、「ESG/CSR/環境/サステナビリティレポート」は65%(259社)が、TCFDレポートに至っては89%(358社)が未発行の状況(各数値については後述の「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査(2022年度)」の4ページ目を参照)にある。こうした中、JPX日経インデックス400構成銘柄に含まれていない上場会社の多くは、TCFDの枠組みに沿った任意開示を始めようにも、まず何から手を付ければよいのかが分からないというのが実態であろう。

そのような上場会社にとって、日本取引所グループが2023年1月20日に公表した「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査(2022年度)」(以下、2022年度版TCFD開示実態調査)は参考になる。日本取引所グループは、既に2021年11月にはTCFD賛同上場会社259社(2021年3月末時点)を対象に実施した「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査」を公表済みだが、今回公表された2022年度版では対象会社がJPX日経インデックス400構成銘柄に拡大され、調査時点が2022年10月末時点に更新されている。

同調査によると、JPX日経インデックス400構成銘柄であっても11項目すべてを開示している上場会社は400社中102社にとどまっている(2022年度版TCFD開示実態調査の9ページを参照)。しかも、400社中82社は、いずれの項目についても、有価証券報告書を含むすべての開示媒体で言及がない。これは、JPX日経インデックス400構成銘柄であっても会社によって気候変動に対する取り組みの温度感に違いがあることや、現時点でTCFDが完全にはサステナビリティの開示のスタンダードになり得ていないことの表れと言える。

もっとも、TCFD提言に沿った形で法定開示(有価証券報告書での開示)が変わろうとしている現在、任意開示においてもTCFD提言に沿った形で開示項目を選定する方がコストパフォーマンスは良いはずだ。また、プライム市場上場会社であれば、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂で新設された補充原則3-1③において「特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」とされたことへの対応も考慮する必要がある。

2022年度版TCFD開示実態調査によると、TCFD開示推奨項目11項目のいずれか1~3項目だけを開示している企業群(41社)では、「⑩ スコープ1、2の排出量」に該当する情報の開示が最も多く(51%)、次いで「③ リスクと機会」(39%)、「⑩ スコープ3の排出量」(22%)となっている。一方、「⑤ シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明」 と「⑧ ⑥⑦が総合的リスク管理に統合されているか」について開示する企業はなかった。TCFD開示推奨項目のうち7~9項目を開示している企業群(89社)では、「①取締役会による監視体制」が85%、「③ リスクと機会」が82%、「⑨ リスクと機会の評価に用いる指標」が79%、「⑥リスクを評価・識別するプロセス」が75%、「② 経営者の役割」が74%の順となっており、ガバナンス面やプロセス面の充実とともに開示の充実も進むことが分かる。

以上を踏まえると、TCFD開示推奨項目の任意開示に着手するにあたっては、初年度は「⑩ スコープ1、スコープ2、当てはまる場合はスコープ3の排出量」「③ リスクと機会」を最優先の開示項目としたうえで、ガバナンス面やプロセス面の充実とともに年々開示項目を増やす一方し、「⑤ シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明」 と「⑧ ⑥⑦が総合的リスク管理に統合されているか」は後回しにするのがセオリーと言えよう。

2022年度版TCFD開示実態調査では、TCFD開示推奨項目の開示状況について、時価総額別、東証33業種別の分析結果も公表されている。時価総額が上がれば開示項目も増え、セクターごとに気候変動へのインパクトも異なるためメインの開示項目も異なる(例えば、「⑤ シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明」を開示している上場会社(JPX日経インデックス400構成銘柄)は輸送用機器のセクターでは85%であるのに対し、サービス業のセクターでは7%に過ぎない)。開示項目を増やせば、開示のためのコストも増加する。TCFD開示推奨項目の任意開示を検討し始めたばかりの上場会社は、自社の株式の時価総額と自社の属するセクターごとの開示状況を念頭に、開示項目を選定したい(実際の開示にあたっては2022年3月9日のニュース「TCFD開示のレベル」も参考にされたい)。

2023/01/23 「取締役会長」の報酬ガバナンス

従来、役員退任後の処遇として一般的であった相談役・顧問制度は、その役割や報酬等の処遇が不透明であること、会社経営に対し責任を負わない形で(本人の意思を問わず)不当な影響力が生じる懸念などが指摘され、各社において制度の廃止、報酬の縮減や無報酬化といった見直しが進められ、一定の成果があったものとみられる。その一方で、相談役・顧問とは異なり「会社法上の役員」ではあるものの、同質の懸念が生じやすい存在として挙げられるのが、「取締役会長」だ。

経済産業省が公表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」(2022年7月改訂版)も、「経営陣のリーダーシップ強化の在り方」の観点から「取締役会長の在り方」に言及しており、会長として居座ることで現・社長にとって業務執行を行い難い状況をもたらす可能性等が指摘されている(52ページ~の「5.7. 取締役会長の在り方」参照)。

実際、各社の状況を見てみると、役員の“上がり”のポジションという様相となっており、役割や報酬が不透明であることが多い。通常、取締役会長は「元・社長」であるため、社内の人間や報酬委員の社外取締役でさえも、正面を切って“あるべき論”を展開し難いといった事情もあろう。しかし、いまだに社内役員の中でもトップレベルの報酬水準を維持しているとなると、今後、投資家等からの批判の声が高まる可能性があり、企業は取締役会長の「報酬ガバナンス」について説明責任を果たすことが求められよう。

では、取締役会長の「報酬ガバナンス」とはどのようなものだろうか。第一に挙げられるのは、・・・

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2023/01/23 「取締役会長」の報酬ガバナンス(会員限定)

従来、役員退任後の処遇として一般的であった相談役・顧問制度は、その役割や報酬等の処遇が不透明であること、会社経営に対し責任を負わない形で(本人の意思を問わず)不当な影響力が生じる懸念などが指摘され、各社において制度の廃止、報酬の縮減や無報酬化といった見直しが進められ、一定の成果があったものとみられる。その一方で、相談役・顧問とは異なり「会社法上の役員」ではあるものの、同質の懸念が生じやすい存在として挙げられるのが、「取締役会長」だ。

経済産業省が公表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」(2022年7月改訂版)も、「経営陣のリーダーシップ強化の在り方」の観点から「取締役会長の在り方」に言及しており、会長として居座ることで現・社長にとって業務執行を行い難い状況をもたらす可能性等が指摘されている(52ページ~の「5.7. 取締役会長の在り方」参照)。

実際、各社の状況を見てみると、役員の“上がり”のポジションという様相となっており、役割や報酬が不透明であることが多い。通常、取締役会長は「元・社長」であるため、社内の人間や報酬委員の社外取締役でさえも、正面を切って“あるべき論”を展開し難いといった事情もあろう。しかし、いまだに社内役員の中でもトップレベルの報酬水準を維持しているとなると、今後、投資家等からの批判の声が高まる可能性があり、企業は取締役会長の「報酬ガバナンス」について説明責任を果たすことが求められよう。

では、取締役会長の「報酬ガバナンス」とはどのようなものだろうか。第一に挙げられるのは、取締役会長の報酬を決定するにあたり、期待役割を明確にするということだ。例えば、実態としては現・社長とともにヒエラルキーのトップとして業務執行を担っているケース、第一線からは退いたものの引き続き業務執行を担いつつ現・社長/CEOへのサクセッションを推進しているケース、取締役会議長や業務執行の監督を担っているケース、専ら社外活動を行っているケースなど、多様な役割が想定される。ただ、実際にこれらの役割を担っていたとしても、説明責任の観点からは、たとえ大まかにでも「外形的に判別可能な基準」をもって役割を整理しておく必要がある。具体的には、取締役会長の役割は「執行中心」か「監督中心」かに二分され、執行中心の場合は、CEOの兼務の有無や代表権の有無によって、監督中心の場合は、取締役会議長であるかどうかによって、下表の4つのパターンに整理できる。

<取締役会長の役割>
執行中心 監督中心
CEOの兼務の有無や代表権の有無 取締役会議長か否か
〇(有) ×(無) ×

次に、上記4つのパターンの期待役割に照らして適切な報酬を決定することになる。通常、報酬を決める際には、世間相場を確認するために特定の企業群を設定し、報酬ベンチマークを行うことが多いが、「取締役会長」は、社長以下の社内役位に比べて、そもそも母数が少ないうえ、さらに、役割を自社と同じパターンに絞ろうとすればサンプル数を十分に確保することは困難となる。

報酬ベンチマーク : 競合他社で同様の仕事をする労働者に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。

そこで、ベンチマークを工夫する必要が出て来る。例えば、会長に就任するのは社長退任後が多いことを踏まえ、社長報酬との格差(報酬水準、報酬構成の相違等)について、ベンチマークを広げて検証することが考えられる。報酬水準については、期待役割と会社業績との関連性の観点から、業務執行に携わる比重が高いほど水準が高くても説明がつくと考えられる(ただし、CEOを超えない程度)。報酬構成については、業績連動報酬の支給の是非が焦点になる。取締役会議長など監督中心の場合、そもそも業務執行役員と同じベクトルを共有することは困難であるため(管理する側とされる側ということで、むしろ逆のベクトルが働く)、業績連動報酬は馴染まず、固定報酬のみが妥当と言える。ただし、社外役員との期待役割の差や中長期的な企業価値向上への貢献度合を勘案し、基本報酬に加えて「業績条件の無い株式報酬」を付与することは検討され得る。また、昨今注目されているサステナビリティ推進やESG改革の一端を担うのであれば、過度なボリュームにならない程度かつ評価の客観性を担保し得る前提において、取り組みの進捗状況や成果を反映する報酬(例えば、業績連動報酬の当該評価部分のみ)を支給することにも合理性はある。

最後に重要なのは、どのような水準・構成の報酬を支給するにせよ、その決定プロセスの客観性・透明性を十分に確保するため、社外取締役を中心とした報酬委員会の実効性を強化するということだ。現・社長が報酬委員で、今後の自分自身の会長就任にあたって報酬を検討するという局面では、議論の対象となる現・社長には退出してもらうことや、社外取締役のみで構成する下部委員会を別途設置することも考えられる。冒頭でも触れたように、会長職の社内でのヒエラルキーの高さから、“暗黙の了解”や“忖度”が発生してしまう可能性は否定できないからだ。

もっとも、いくら正論だからと言っても、現状では社内役員でトップクラスにある取締役会長の報酬をいきなり引き下げるようなことは難しいとの声もあろう。この点を踏まえると、将来的には「株主による直接的な監視や評価」が行えるよう、取締役会長については、社内業務執行役員と区別し、個別具体的な期待役割や報酬の内容・決定プロセスを開示することを求める、といった世論や法規制の変化も想定されるところだ。

2023/01/20 企業価値向上に悩む上場会社が取り組むべき4つの方策とその具体的対応例

現在多くの上場会社が直面している「企業価値向上」に向けた課題は、全上場会社の約半数がPBR1倍割れとなっていることを勘案すると、“証券市場全体の課題”と言っても過言ではない(PBRの向上策については【役員会 Good&Bad発言集】PBRの向上 を参照)。企業価値向上に向けた方策は会社によって様々だが、・・・

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

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2023/01/20 企業価値向上に悩む上場会社が取り組むべき4つの方策とその具体的対応例(会員限定)

現在多くの上場会社が直面している「企業価値向上」に向けた課題は、全上場会社の約半数がPBR1倍割れとなっていることを勘案すると、“証券市場全体の課題”と言っても過言ではない(PBRの向上策については【役員会 Good&Bad発言集】PBRの向上 を参照)。企業価値向上に向けた方策は会社によって様々だが、東京証券取引所に設置された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、市場再編フォローアップ会議)は下記の4つ方策を提案している。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

市場再編フォローアップ会議による「中長期的な企業価値向上に向けて各社が取り組むべき方策」
(1)資本効率や株価に対する意識改革
(2)コーポレート・ガバナンスの質の向上
(3)英文開示の更なる拡充
(4)投資者との対話の実効性向上

資本効率 : 資本効率とは、投資家から見れば「出資額に対するリターン(配当、キャピタルゲイン)の割合」を意味し、会社側から見れば「投下した資本に対して生み出された利益の割合」を意味する。たとえ利益が出ていても、資本効率が悪ければ、投資家から評価を得ることはできない。

既報のとおり、市場再編フォローアップ会議では、2022年4月に実施された東証の証券市場の区分の見直しの実効性を向上させるため、市場区分の特性に応じて中長期的な企業価値向上を促すための方策や、上場維持基準に適合していない上場会社に対する経過措置の取扱いを検討している()。2023年1月10日に開催された第6回会合では、このうち「中長期的な企業価値向上を促すための方策」について、これまでの議論の内容を上記の4つの方策ごとにまとめた「論点整理」と当該論点整理を踏まえた「今後の東証の対応」の2つの草案が示された(下表の左列と中央列を参照)。なお、当該「東証の対応」を受け、当フォーラムでは、「上場会社が実施することが期待される具体的対応の例」につき有識者を交え検討したので(下表の右列を参照)、あわせて参考にされたい。

証券市場の区分の見直し : 東京証券取引所では2022年4月4日に従来の本則市場(一部・二部)とマザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)の市場区分を廃止し、新たに3つの新市場区分(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)を創設した。

 検討中の経過措置の取扱い(内容については2022年12月2日のニュース『東証の市場再編フォローアップ会議で「経過措置」の終了時期がおおむね固まる』を参照)は次回(第7回)の会合で詳細を検討する予定。

(1)資本効率や株価に対する意識改革
市場再編フォローアップ会議は、「我が国においては、経営者が資本効率や株価を意識していないケースが多く、経営者の意識変革、企業経営における自律性の向上が必要」との問題意識のもと、「経営者の意識改革」を上記4つの方策の中で最初にに取り上げている。ただし、そのうち資本コストに関する意識改革(下表の左列一番上の行)は既にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の原則5-2でも示されており、目新しい提案ではない。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

【CGコード原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

そこで東証では、コーポレートガバナンス・コード原則5-2の趣旨を踏まえ、プリンシプルベースに基づき対応するよう、上場会社に通知するとしている。したがって、上場会社としては、既にCGコード原則5-2をコンプライしていたとしても、コンプライの内容を再度点検して十分な対応ができているかどうかを確認しておく必要がある。継続的にPBRが1倍を切っている上場会社は、東証から正式に要請される前に、表の右列の赤字の方策に早急に取り組む必要があろう。

プリンシプルベース : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。「原則主義」とも呼ばれる。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

論点整理(案) 論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案) 東証の対応(案)を受けて期待される上場会社の対応例
・まずは、経営者に対して、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・時価総額への評価を行ったうえで、必要に応じて、改善に向けた方針や具体的な取組などを開示することを促していくことにより、それをきっかけとした対話の促進や、経営者のリテラシー向上を図っていく。
・特に、継続的にPBRが1倍を割れている(=資本コストを上回る資本収益性を達成できていない)会社に対しては、改善に向けた方針や具体的な取組などの開示を求めていくべき
【2023年春】
経営陣や取締役会において、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・時価総額への評価を議論のうえ、必要に応じて改善に向けた方針や具体的な取組などを開示することを要請
・特に継続的にPBRが1倍を割れている場合など、明らかに改善が必要な会社に対しては、開示を強く要請
コーポレートガバナンス・コード原則5-2の趣旨を踏まえたプリンシプルベースの対応として、上場会社に通知(成長性が重視されるグロース市場については別途検討)
・外注を使うなどして株主資本コストやROICなどの指標(資本コスト等)を算定する。算定した資本コスト等を基に、経営陣や取締役会において、資本収益性の改善に向けた方針をとりまとめるとともに、事業の再編に取り組む。
(参考)
【役員会 Good&Bad発言集】
事業ポートフォリオマネジメント(1)
事業ポートフォリオマネジメント(2)
事業ポートフォリオマネジメント(3)

・プライム市場上場会社やスタンダード市場上場会社のうち、CGコード原則5-2をコンプライしている会社は、自社のコンプライ内容が論点整理(左列)の趣旨に整合しているかどうかを点検しておく。
・改善に向けた方針や具体的な取り組みなどを開示する。

東証が2007年に策定した企業行動規範について、その後のコーポレート・ガバナンス等に関する進展を踏まえつつ、上場会社の責務を明確化するとともに、実効性確保などの観点から全体的に点検を行い、必要な見直しを実施すべき 【2023年度中】
企業行動規範等について、資本収益性への意識や株主の権利の尊重など、上場会社の責務を明確化するとともに、実効性確保などの観点から全体的に点検を行い、必要な見直しを実施
自社のコーポレート・ガバナンス基本方針の見直しの要否を検討する。
・経営者(上場会社)の意識付けとなるよう、株式報酬制度に関する理解の促進や推奨、資本市場やコーポレート・ガバナンスに係るリテラシー向上のための研修機会の提供やベストプラクティスの共有なども積極的に行っていくべき 【順次実施】
その他、経営者(上場会社)の意識づけに資するため、株式報酬制度に関する理解の促進や推奨、資本市場やコーポレート・ガバナンスに関するeラーニングなどの研修コンテンツの点検・アップデート、事例の取りまとめ・公表など
株式報酬制度を導入していない会社では、任意の報酬委員会などで、株式報酬制度の導入の要否を検討する。

(2)コーポレート・ガバナンスの質の向上
上場会社のコーポレート・ガバナンスは、CGコードの導入・改訂への対応などを経て、以前に比べると相当改善されてはいるものの、形式を整えることが優先された結果、内容(質)が伴っていないとの批判も見受けられる。そこで論点整理では、今後は「質の向上」にも注力していくべきということが2つ目の方策として掲げられた。

論点整理(案) 論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案) 東証の対応(案)を受けて期待される上場会社の対応例
例えば、「検討中」というエクスプレインのまま、数年間も放置している事例があるなど、コンプライ・オア・エクスプレインが形骸化している企業が見られることから、東証からコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて周知するとともに、エクスプレインとして不適切な事例等を明示し、適切にコンプライ・オア・エクスプレインを実施していない企業に対しては、必要に応じて改善を促していくべき 【2023年秋】
コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて周知するとともに、エクスプレインとして不適切な事例等を明示
※ コンプライ・オア・エクスプレインが適切に行われているかどうか自主点検を促すとともに、改善の必要性が高い上場会社については個別に働きかけ
自社のCGコード対応を振り返り、エクスプレインとしている原則と年数を特定し、コンプライに向けたスケジュールや責任者を決め、早期のコンプライを目指す。
指名委員会・報酬委員会を設置する上場会社が増加している中で、その役割・機能が明確ではないケースも多く見られることから、指名委員会・報酬委員会の活動状況に関する開示を引き続き促していくとともに、活動状況の実態把握を進めたうえで、その状況や事例の取りまとめ・公表すべき 【2023年秋】
指名委員会・報酬委員会の活動状況等に関する実態調査、その状況や事例の取りまとめ
任意の指名委員会・報酬委員会を作ってはみたものの、形ばかりの運用になっていないか、委員にアンケートを実施し、活性化策を検討する。

(3)英文開示の更なる拡充
市場再編フォローアップ会議は、海外投資家が日本への投資を忌避する理由として、絶対的な情報量の少なさを挙げるケース少なからず存在することから、「プライム市場は、グローバル投資家との対話にコミットした企業向けの市場であることを踏まえれば、その基盤となる英文開示について更なる拡充を促していくとともに、将来的に義務化を行うことが考えられる」という方向性を3つ目の方策として示している。もっとも、コストパフォーマンスの観点から、やみくもに英文開示を義務付けるのではなく、企業負担や投資家の利用状況等を踏まえて英文化の対象とする書類の範囲等を確定する必要があるとしている。

論点整理(案) 論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案) 東証の対応(案)を受けて期待される上場会社の対応例
英文開示について更なる拡充、将来的に義務化を行うことが考えられる 【2023年度中】
プライム市場において、個別の働きかけや情報周知活動等の取組を継続的に実施しつつ、義務化する内容について決定・公表
英文開示に未着手のプライム上場会社は、英文開示が義務化される前から、外注先の選定や開示内容についての打ち合わせを進め、英文開示義務化に備えておく。
(参考)
2022年1月26日のニュース「有報、CG報告書の英文開示、プライム市場選択会社にとっては底辺からの検討課題に
2021年9月2日のニュース「英文開示で海外投資家を満足させるためのチェックリスト」
【2023年度中】
スタンダード市場やグロース市場において、英文開示に関する事例の取りまとめ・公表

(4)投資者との対話の実効性向上
市場再編フォローアップ会議が掲げた方策のうち4つ目が、投資者との対話の実効性向上だ。これは、「依然として対話に消極的な姿勢が見られる上場会社が少なくない」との問題意識に基づくもの。「対話に消極的」とは、必ずしも投資者に対する情報提供の少なさではなく、むしろステークホルダーとの対話を通じて自社の経営を改善するための“気づき”を得ようという姿勢の消極性を問題にしている。「対話して終わり」ではなく、対話の内容を企業価値向上に向けた「次の経営行動」につなげるようにしなければならない。

論点整理(案) 論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案) 東証の対応(案)を受けて期待される上場会社の対応例
特にプライム市場の上場会社は、建設的な対話を中心に据えて企業価値向上に取り組むことが期待されており、投資者との建設的な対話を促す観点から、経営陣と投資者の対話の実施状況やその内容を明らかにするよう求めていく必要がある。 【2023年春】
プライム市場において、経営陣と投資家の対話の実施状況やその内容等のコーポレート・ガバナンス報告書への記載を要請
・開示に備え、経営陣と投資家の対話の実施状況を振り返り、まとめておく。
・その内容は社外取締役にも提供し、社外取締役に投資家の問題意識を共有してもらう。
・「対話して終わり」ではなく、対話の結果を企業価値向上に向けた経営行動につなげるよう意識する。
投資者との対話にはCEOなどの経営陣が中心となり対応することが想定される一方で、社外取締役についても、株主からの付託を受けて経営を監督する立場として、投資者からの求めがあれば積極的に対話に応じることが期待される。しかしながら、現状では投資者との対話を行う社外取締役は限定的であり、その役割を十分に認識していない社外取締役も見られることから、社外取締役に期待される役割を適切に理解してもらうための啓発活動が必要 【順次実施】
社外取締役に対して期待される役割の理解促進のための啓発活動(社外取締役の役割等に言及した冊子の社外取締役への送付など)を実施
社外取締役の教育の一環として、社外取締役に左記の冊子の閲覧を要請する。
他方、上場会社に対して企業価値向上を適切に働きかけるためには、投資者側の役割も重要である中、現時点では対話を担う投資者は一部に限られていることから、今後は企業年金などのアセットオーナーにも積極的に対話に関わるように促していくことが重要 【順次実施】
企業年金などのアセットオーナーにおいて、企業との対話への意識・関心を高めていくための取組について、関係者と連携しながら対応を検討

2023/01/19 変貌するESG投資の概念

2022年は近年急成長してきたESG投資の発展形と言われる「インパクト投資」に関する議論が深まった1年であったと言えるが(ESG投資とインパクト投資の違いについては2019年2月18日のニュース「インパクト投資とESG投資の違い」参照)、2023年はESG投資の概念が改めて議論される年となりそうだ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること

2022年を振り返ると、社会・環境課題の解決やスタートアップを含む新たな事業の創出に資するインパクト投資が、岸田総理が打ち出す「新しい資本主義」の柱となる施策の一つとして注目を浴びた。経団連も「インパクト指標を通じてパーパス起点の対話を促進する」と題する報告書を公表し、より充実した投資家との対話を実現するため、財務情報のみならず、非財務情報であるインパクト指標を併せて示すことを提案している(2022年9月15日のニュース『「インパクト投資」が急速に拡大 注目されるGPIFの動き』参照)。さらに、金融庁に設置されたサステナブル・ファイナンス有識者会議の下には、「インパクト投資等に関する検討会」が設置されるなど(2022年12月6日のニュース「急ピッチで進むインパクト投資の普及に向けた議論」参照)、新自由主義的な資本主義を修正し、社会的起業を応援するというこのポジティブな投資への期待が高まった。

新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。
インパクト指標 : 事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果を示す指標
サステナブル・ファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
新自由主義 : 1980年代に登場した、国家による福祉・公共サービスの縮小、大幅な規制緩和、市場原理主義の重視する経済思想のこと。英国おける金融ビッグバンや、米国レーガン政権による規制緩和や大幅な減税、日本の中曽根政権による電電公社や国鉄の民営化などは、新自由主義の発想に基づいている。

また、企業(プライム市場上場企業)は、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の再改訂により、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理といったサステナビリティを巡る課題はリスクのみならず収益機会にもつながるものであり、これらの課題の検討は中長期的な企業価値向上の観点から行うべき旨が明確化されたことにより、改訂CGコードを踏まえた開示を迫られることとなった。

一方、現在の世界情勢に目を向けると、・・・

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2023/01/19 変貌するESG投資の概念(会員限定)

2022年は近年急成長してきたESG投資の発展形と言われる「インパクト投資」に関する議論が深まった1年であったと言えるが(ESG投資とインパクト投資の違いについては2019年2月18日のニュース「インパクト投資とESG投資の違い」参照)、2023年はESG投資の概念が改めて議論される年となりそうだ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること

2022年を振り返ると、社会・環境課題の解決やスタートアップを含む新たな事業の創出に資するインパクト投資が、岸田総理が打ち出す「新しい資本主義」の柱となる施策の一つとして注目を浴びた。経団連も「インパクト指標を通じてパーパス起点の対話を促進する」と題する報告書を公表し、より充実した投資家との対話を実現するため、財務情報のみならず、非財務情報であるインパクト指標を併せて示すことを提案している(2022年9月15日のニュース『「インパクト投資」が急速に拡大 注目されるGPIFの動き』参照)。さらに、金融庁に設置されたサステナブル・ファイナンス有識者会議の下には、「インパクト投資等に関する検討会」が設置されるなど(2022年12月6日のニュース「急ピッチで進むインパクト投資の普及に向けた議論」参照)、新自由主義的な資本主義を修正し、社会的起業を応援するというこのポジティブな投資への期待が高まった。

新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。
インパクト指標 : 事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果を示す指標
サステナブル・ファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
新自由主義 : 1980年代に登場した、国家による福祉・公共サービスの縮小、大幅な規制緩和、市場原理主義の重視する経済思想のこと。英国おける金融ビッグバンや、米国レーガン政権による規制緩和や大幅な減税、日本の中曽根政権による電電公社や国鉄の民営化などは、新自由主義の発想に基づいている。

また、企業(プライム市場上場企業)は、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の再改訂により、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理といったサステナビリティを巡る課題はリスクのみならず収益機会にもつながるものであり、これらの課題の検討は中長期的な企業価値向上の観点から行うべき旨が明確化されたことにより、改訂CGコードを踏まえた開示を迫られることとなった。

一方、現在の世界情勢に目を向けると、グリーンウォッシュへの批判に加え、ウクライナ危機をきっかけに始まった「安全保障に貢献する防衛産業はサステナブルな社会に貢献しているのではないか」「サイバーセキュリティは急務のレジリエンス課題ではないか」といった議論によりESGそのものの定義を拡大・再編する動きが見られるほか、ウクライナ危機に端を発したエネルギーのひっ迫が、脱炭素社会への移行の動きにブレーキをかけている。また、米国を中心に、ESG投資がともに追求している「社会課題の解決」と「企業価値の向上」について、「二兎を追う中途半端なもの」との疑問も呈されている(2022年12月9日のニュース「ESG投資に強い逆風 巨大自治体がESGを考慮した運用会社への委託打ち切り」参照)。

グリーンウォッシュ : 環境に配慮していることやエコを想起される「グリーン」と、上辺だけを飾ることを意味する「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた造語。一見、環境に配慮しているように見せかけておきながら実態は異なり、環境意識の高い消費者や投資家に誤解を与えることを指す。
レジリエンス : 気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。

こうした中、昨年10月に英国金融行動監視機構(FCA=Financial Conduct Authority)が「ESGラベル」という新たな提案を公表し、話題を呼んでいる。ESGラベルは、文字通り「ラベル」の表示によってグリーンウォッシュを防ぎ、市場における信頼を醸成することを目的としており、3種類のラベルから構成される。1つ目は「サステナブル・フォーカス」と呼ばれるラベルで、高い水準のサステナビリティを実践している資産(への投資。以下同)であることを示す。2つ目は「サステナブル・インプルーバーズ(Improvers=改善するもの)」で、現在はサステナブルとは言えないが、株主・投資家によるスチュワードシップ活動に応えることにより、将来「サステナブル・フォーカス」に格上げできそうな資産を指す。3つ目が「サステナブル・インパクト」で、社会課題、環境課題へのソリューションを通じて世界に大きなインパクトを与えようとしている企業に付与される。これらの分類は、先行して2021年3月に示されたEUのサステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)の分類(第9条:サステナブルな投資目的を持つもの、第8条:環境・社会的な特性を促進するもの)に対する「違いが明確でない」といった批判を念頭に、より分かりやすく分類したものだという。

英国金融行動監視機構 : 英国の金融サービス業(銀行、金融会社、金融アドバイザー、ブローカーなど)に携わる企業の行動を監視し、規制する機関。金融サービス業者から集める会費により運営されている。

日本の運用会社も2022年から相次いで独自の基準を公表している。三井住友DSアセットマネジメントは、「サステナブルプロダクト認定基準」を設け、7つに分類したカテゴリーのうち「ポジティブスクリーニング」「ESGテーマ型」「インパクト」に分類したファンドを「ESGプロダクト」と定義している。同様に三井住友トラスト・アセットマネジメントもESGプロダクト認定基準を設け、ESG投資手法の適用ESG特性とその測定ESGに関する適切な開示の3つの基準をすべて満たすものをESGプロダクトとしている。アセットマネジメントOneはサステナブル投資体系を設け、「インパクト投資(インパクト・ジェネレーティングインパクト・アライン)」「ESGリーダー」「トランジション」「ESGインテグレーション」の4つのカテゴリーに分類している。

ポジティブスクリーニング : 優れたESG要素を備える企業等に投資する特定の定量的なスクリーニング基準を組み込んだもの。
ESGテーマ型 : 特定のサステナビリティ課題・テーマを設定し、それらに貢献する企業等を投資対象とするもの。
インパクト : 投資リターンに加え、サステナビリティ課題解決への貢献を目的に投資先企業等を選定したもの。
ESG投資手法の適用 : ポートフォリオの特性に応じ、適切なESG投資手法を用いそれを運用プロセスにおいて明示的かつ体系的に組み込んでいること。
ESG特性とその測定 : ポートフォリオがESG特性を有し、そのESG特性が測定可能であること。
ESGに関する適切な開示 : ESG特性の測定結果を含む、当該ポートフォリオについてのESGに関する適切な開示を行えること。
インパクト・ジェネレーティング : フィナンシャルリターンを目指しつつ、ソーシャルリターン(インパクト)創出目標を設定し、持続可能な社会に向けた課題解決に直接的に貢献すること。
インパクト・アライン : フィナンシャルリターンを目指しつつ、企業の取組や事業を通じ持続可能な社会に向けたポジティブなインパクトを与えること。
ESGリーダー : 持続可能な社会に資するエクセレントカンパニーに投資すること。
トランジション : 「持続可能な社会に向けたトラン十ションに積極的な企業に投資すること」および「ESG取組の改善が期待できる企業に投資すること」
ESGインテグレーション : ESG機会とリスク(もしくはどちらか)が特定され、運用プロセスに考慮されていること。

日本では金融庁が世界的にも先進的な「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」をとりまとめ、ESGを評価する側の説明責任を問うこととなったが(2022年11月22日のニュース「速報 ESG評価・データ提供機関の行動規範案の修正事項」参照)、2023年は、世界でも日本でも、本当に持続可能な成長をもたらすESG投資とは何かについて、ますます議論が活発化すると思われる。ESG投資が拡大する中、変貌しつつあるESGの概念の整理は急務と言えよう。

2023/01/18 若手や女性の役員就任を促すための方策

近年、数年間単位で順繰りに経営トップを務める慣行を廃止するとともに、就任時年齢の若返りを進めることにより、経営陣が精力的に経営戦略を実現できる期間を確保しつつ、そのパフォーマンスを継続して評価すべき(報酬に反映したり、再任・解任の判断材料としたりするべき)という論調が強まっている。従来の“短期間で繋ぐ経営”は、企業が成長軌道に乗り、長期的に安定していた時期には機能していたが、経営環境の変化が激しく、経営の改革や軌道修正が求められる昨今においては通用しなくなりつつある。実際、日本のトップ企業と米国の高業績企業を比較すると、米国企業の“ベストCEO”の平均就任年齢は47歳・平均在任期間は13年であるのに対し、日本のTOPIX100企業のCEOの平均就任年齢58歳・平均在任期間5年となっており、大きな開きがある。また、就任期間が長く、孫の代まで見据えた“超長期視点”で経営を行うオーナー系企業は、他の企業よりも高いパフォーマンスを上げているという研究結果もある。

こうした中、役員の就任年齢の若返りや任期の見直しを図る日本企業は増えている。しかし、若くして役員、場合によっては経営トップに就任するということは、欧米企業に比べ低い報酬で、解任リスクを負うことを意味する。また、退任後の安定的な処遇としての役割を果たしていた相談役・顧問を、現経営陣に対する不当な影響力を排除し経営トップがリーダーシップを発揮しやすい環境を整えるといった理由から廃止又は縮小する企業も相次いでいる()。

 従来は大手企業の8割以上が相談役・顧問制度を有していたが、現在はその半分の4割程度まで減少している。

一方、従業員の定年は徐々に延長されているため()、無理をして役員に就任することへの魅力が薄れ、特に若い世代では、優秀な人材が従業員の地位に留まることを選好する可能性も指摘されている。

 高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保に関する措置を講ずるよう、企業に努力義務(70歳までの定年の引き上げや継続雇用制度の導入等)が課されることとなった(2022年4月から適用開始)。

さらに、仮に若くして役員を退任することとなった場合、経営人材の流動性の低い日本においては再就職が困難という問題もある。企業にとっても、退任することになったとはいえ優秀な人材(かつ企業の機密事項を保持する人材)の流出は痛手となろう。

こうした問題は一企業の努力だけで一朝一夕に解決できるものではないが、一部の企業は既に新たな取り組みを開始している。以下、実際の事例を紹介しよう。・・・

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