2023/01/18 若手や女性の役員就任を促すための方策(会員限定)

近年、数年間単位で順繰りに経営トップを務める慣行を廃止するとともに、就任時年齢の若返りを進めることにより、経営陣が精力的に経営戦略を実現できる期間を確保しつつ、そのパフォーマンスを継続して評価すべき(報酬に反映したり、再任・解任の判断材料としたりするべき)という論調が強まっている。従来の“短期間で繋ぐ経営”は、企業が成長軌道に乗り、長期的に安定していた時期には機能していたが、経営環境の変化が激しく、経営の改革や軌道修正が求められる昨今においては通用しなくなりつつある。実際、日本のトップ企業と米国の高業績企業を比較すると、米国企業の“ベストCEO”の平均就任年齢は47歳・平均在任期間は13年であるのに対し、日本のTOPIX100企業のCEOの平均就任年齢58歳・平均在任期間5年となっており、大きな開きがある。また、就任期間が長く、孫の代まで見据えた“超長期視点”で経営を行うオーナー系企業は、他の企業よりも高いパフォーマンスを上げているという研究結果もある。

こうした中、役員の就任年齢の若返りや任期の見直しを図る日本企業は増えている。しかし、若くして役員、場合によっては経営トップに就任するということは、欧米企業に比べ低い報酬で、解任リスクを負うことを意味する。また、退任後の安定的な処遇としての役割を果たしていた相談役・顧問を、現経営陣に対する不当な影響力を排除し経営トップがリーダーシップを発揮しやすい環境を整えるといった理由から廃止又は縮小する企業も相次いでいる()。

 従来は大手企業の8割以上が相談役・顧問制度を有していたが、現在はその半分の4割程度まで減少している。

一方、従業員の定年は徐々に延長されているため()、無理をして役員に就任することへの魅力が薄れ、特に若い世代では、優秀な人材が従業員の地位に留まることを選好する可能性も指摘されている。

 高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保に関する措置を講ずるよう、企業に努力義務(70歳までの定年の引き上げや継続雇用制度の導入等)が課されることとなった(2022年4月から適用開始)。

さらに、仮に若くして役員を退任することとなった場合、経営人材の流動性の低い日本においては再就職が困難という問題もある。企業にとっても、退任することになったとはいえ優秀な人材(かつ企業の機密事項を保持する人材)の流出は痛手となろう。

こうした問題は一企業の努力だけで一朝一夕に解決できるものではないが、一部の企業は既に新たな取り組みを開始している。以下、実際の事例を紹介しよう。

まず、優秀な若手人材が役員に就任することを前向きに捉えられるようにするためには、相談役・顧問制度(報酬)の廃止・縮小とセットで在任中の役員の報酬水準を引き上げることが必須であり、こうした取り組みを進める事例も多数確認されるようになってきた(ただし、対外的には、優秀な経営人材を獲得・保持することを目的に掲げていても、その実態は、外国人役員の高額報酬に引っ張られる形での報酬水準の引上げや、相談役・顧問報酬の廃止・縮小に伴うものであることが未だ多い)。

また、従業員の定年延長への対応や、優秀な経営人材の社外流出リスクへの対応を念頭に、相談役・顧問制度に代わる新たな仕組みとして、「シニア・アドバイザー制度」を設ける企業が増えている。シニア・アドバイザーと言っても単に相談役・顧問の名称を変えただけではないか、との疑念を持たれがちだが、シニア・アドバイザーは従来の相談役・顧問制度と異なり、経営トップ等が退任後に無条件で就任できるものではない。具体的には、自社への貢献が期待できる職務を設定し、その職務を遂行する資質・経験やスキルがあることを、社外取締役を中心とした指名委員会が審議・承認したうえで、はじめて就任することができる仕組みとなっている。任期は通常1年とし、再任時に改めて指名委員会での審議・承認が必要となる。職務内容は、財界や業界団体での活動、重要な取引先の各種イベントや冠婚葬祭への対応、社内の専門分野における教育・指導・助言、地域社会のサステナビリティへの貢献活動などがある。

このほか、若くして役員を退任することとなるリスクを踏まえ、欧米のセベランス・ペイ()に類似する制度や、再就職支援制度を導入する事例も見られるようになってきた。従業員の定年前に役員やシニア・アドバイザーを退任することとなる場合には、再就職支援とセットで、再就職先を探す期間中の生活保障として一時金を支給する事例もある。なお、取締役に対するセベランス・ペイ等は、通常は役員報酬として株主総会の決議を経ることが必要であり、有価証券報告書等での開示対象となるため、まずは、取締役を兼務していない「執行役員」クラスを対象に、こうした制度を導入することも考えられる。

 会社都合による委任契約の解除など一定の事由による退任時において支給される特別手当(一時金)のこと。欧米では、通常年収の1倍~2倍程度の金額が支給される。解任・退任リスクを理解したうえで役員への就任要請を肯定的に受け止められるようにするための仕組みであり、これにより、適時・円滑な役員の入替えも可能となる。

上記に掲げるような取り組みを進めるにあたっては、女性役員への配慮も念頭に置くおく必要がある。女性の管理職や役員への登用が進む中、今後は女性の役員候補者にとっても、役員就任(すなわち委任契約への移行)により、(法的な)産休・育休期間中の手当の大幅な縮減や解任のリスクが高まることになる。近年、取締役会のダイバーシティを確保する観点から、女性や若手を役員に起用するケースが増えているが、その際には役員就任に伴う現実的なリスクへの対応もセットで考える必要があろう。

2023/01/17 “ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩 まずは広告主を告示で規制

広告である旨明示せず、有名人にSNS等へ商品・サービスへの高評価の投稿をさせたり、インターネット上に記事を掲載したりする行為は「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれている。ステルスマーケティングに関する検討会が2022年12月28日に公表した「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」(以下、本報告書)によると、マーケティングの現場からは『ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、「広告」である旨明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという体感を持っている。これは広告主にとって非常に魅力的な数字になっているはず。(広告代理店)』や『広告宣伝を行うインフルエンサーによっては、ステルスマーケティングによって、「大手ECサイトで一気に売上ランキングで20位程度上がることや、売上が数倍程度になるなど、大きな広告効果がある。景品表示法で規制されていない以上、広告主にとってはステルスマーケティングを行う大きなインセンティブになる。(PR会社)』といった声が紹介されている(本報告書の10ページ)。また現役のインフルエンサーにアンケートを行ったところ、回答者の41%(123人)が「これまでにステルスマーケティングを広告主から依頼された経験がある」と回答し、そのうち約45%(55人)のインフルエンサーが、その依頼を「全部」または「一部」受けたと回答するなど、ステルスマーケティングが横行している様子がうかがえる(本報告書の10ページ)。

ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。
インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物

こういったステルスマーケティングは、消費者の合理的な選択を阻害するものとして問題視されているものの、日本にはステルスマーケティングに対する法規制がないため、広告主にとって“ステマ天国”となっていることは2022年10月20日のニュース「“ステマ天国”日本、ようやく消費者庁が規制強化へ」でお伝えしたとおりだ。この状況を変えるべく立ち上げられたのがステルスマーケティングに関する検討会であり、その検討会が2022年12月28日に公表した上記の本報告書において「ステルスマーケティングに対して法規制を行うべき」という結論を出したことは評価に値する。これにより、日本も“ステマ天国”の汚名返上に向けようやく第一歩を踏み出したことになる。本稿では同検討会が想定している規制手法を中心に詳報する。・・・

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2023/01/17 “ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩 まずは広告主を告示で規制(会員限定)

広告である旨明示せず、有名人にSNS等へ商品・サービスへの高評価の投稿をさせたり、インターネット上に記事を掲載したりする行為は「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれている。ステルスマーケティングに関する検討会が2022年12月28日に公表した「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」(以下、本報告書)によると、マーケティングの現場からは『ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、「広告」である旨明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという体感を持っている。これは広告主にとって非常に魅力的な数字になっているはず。(広告代理店)』や『広告宣伝を行うインフルエンサーによっては、ステルスマーケティングによって、「大手ECサイトで一気に売上ランキングで20位程度上がることや、売上が数倍程度になるなど、大きな広告効果がある。景品表示法で規制されていない以上、広告主にとってはステルスマーケティングを行う大きなインセンティブになる。(PR会社)』といった声が紹介されている(本報告書の10ページ)。また現役のインフルエンサーにアンケートを行ったところ、回答者の41%(123人)が「これまでにステルスマーケティングを広告主から依頼された経験がある」と回答し、そのうち約45%(55人)のインフルエンサーが、その依頼を「全部」または「一部」受けたと回答するなど、ステルスマーケティングが横行している様子がうかがえる(本報告書の10ページ)。

ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。
インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物

こういったステルスマーケティングは、消費者の合理的な選択を阻害するものとして問題視されているものの、日本にはステルスマーケティングに対する法規制がないため、広告主にとって“ステマ天国”となっていることは2022年10月20日のニュース「“ステマ天国”日本、ようやく消費者庁が規制強化へ」でお伝えしたとおりだ。この状況を変えるべく立ち上げられたのがステルスマーケティングに関する検討会であり、その検討会が2022年12月28日に公表した上記の本報告書において「ステルスマーケティングに対して法規制を行うべき」という結論を出したことは評価に値する。これにより、日本も“ステマ天国”の汚名返上に向けようやく第一歩を踏み出したことになる。本稿では同検討会が想定している規制手法を中心に詳報する。

「法規制を行うようにする」と言っても、新法を制定したり、既存の法律を改正したりするわけではない。あくまで、既存の法律である景品表示法5条3号(同条文については2022年10月20日のニュース「“ステマ天国”日本、ようやく消費者庁が規制強化へ」を参照)に基づく「告示」により、内閣総理大臣が「一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」として指定している下記の現在6項目に追加する形でステルスマーケティングへの規制を行うことになる。

告示 : 行政機関等がある事項を広く国民・市民に周知させる行為のこと。告示は法令や条例等に基づいて行われる。なお、告示と類似する行為に「公示」があるが、公示は法令や条例等に基づかない行為であるため、法的効果はない。

<景品表示法の5条3号に基づき現在内閣総理大臣が指定している6項目>
無果汁の清涼飲料水等
商品の原産国
消費者信用の融資費用
不動産のおとり広告
おとり広告
有料老人ホーム

告示により禁止されるステルスマーケティングの定義は下記のとおり。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの。

上記のステルスマーケティングの定義のうち「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは「広告」を指しており、「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」とは「広告であることを隠す」、すなわち「一般消費者に広告であることが分からない表示をする」ことを意味する。

本報告書によると、告示では事業者(広告主)に対して“一般的・包括的に”ステルスマーケティングを規制するにとどめる予定。これには、インターネット上で行われやすいステルスマーケティングは技術の進歩が早いため、規制の対象を具体的にすると、短期間で規制が陳腐化し、後追い規制になってしまうおそれがあるということに加え、一般的・包括的な規制の方が消費者にとって分かりやすいなどの理由がある。もっとも、一般的・包括的な規制だけでは、広告主の予見可能性が害されかねない。そこで、今後、公聴会や内閣府に設置された消費者委員会への諮問を経て、内閣総理大臣による景品表示法第5条3号に基づく告示が行われる際に、消費者庁が、告示の考え方を反映した「実務上の手引き」を運用基準と併せて公表する予定。なお、ステルスマーケティングはインターネット上で行われやすいとはいえ、インターネット以外の媒体でも行われることはあるため、規制対象となる表示(媒体)の範囲はインターネットに限定しない方針。

本報告書によると、運用基準では次のような考え方が示される見通し。

・「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」(事業者の表示)となるかについては、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合である。
・「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」かどうかについては、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうかを表示内容全体から判断することになる。

本報告書をもとに今後マーケティングを実施する際に気を付けるべきポイントは以下のとおり。

まず、「事業者の表示」には、「事業者が自ら行う表示」(事業者の従業員や事業者のグループ会社の従業員が行った当該事業者の商品又は役務に関する表示も含まれる)だけでなく、SNSを使った投稿、ECサイトのレビュー投稿、アフィリエイトプログラム、プラットフォーム上の口コミ投稿など、「事業者が第三者(著名人やインフルエンサー)をして行わせる表示」も含まれる。この「事業者が第三者をして行わせる表示」には、金銭報酬の支払いが行われる場合は当然として、金銭報酬の代わりに当該商品又は当該役務を無償で提供したり、イベントへの招待等のきょう応を行ったりする場合や、SNSへの投稿を直接依頼しなくても、投稿してくれれば今後の取引の可能性に言及するような場合も該当するので注意が必要だ。

一方、有名人が勝手に(事業者から当該有名人に対し、表示内容について一切の情報のやり取りが行われることなく)自らの嗜好に基づきSNSで「この商品がお気に入りです」と投稿したり、一般人が自らの自主的な意思に基づきアマゾンなどのECサイトのレビュー機能を用いて高評価を付けたりする行為は、事業者が「表示内容の決定に関与した」とは言えないことから「事業者の表示」とはされず、景品表示法で禁止されるステルスマーケティングには該当しない。

また、「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であるかどうか」は、「当該表示が記載されていない場合」だけでなく、「当該表示が不明瞭な方法で記載されている場合」も含まれる。本報告書で不明瞭な表示方法の例として挙げられているのは以下のような場合だ(本報告書の42ページ以降)。

・「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であることが分かりにくい表示をするような場合
・動画において事業者の表示を行う際に、当該事業者の当該表示であることを表示しているものの、一般消費者が認識できないほど短い時間でしか表示をしていない場合(長時間の動画において冒頭にのみ表示する場合も含む)
・事業者の表示であることを一般消費者が認識できない文言を用いたり、一般消費者が視認しにくい末尾の位置に表示したり、当該表示の周囲の文字と比較して小さく表示する場合

逆に、一般消費者にとって「事業者の表示」であることを判別しやすい表示の例として、本報告書では、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言を使用することが考えられるとしている。ただし、上記文言はあくまで例示であり、上記文言を使用していたとしても、表示内容全体から判断すれば一般消費者にとって事業者の表示であると認められない場合もあり得ることに留意する必要がある(本報告書の43ページ)。

また、本報告書は、今回の告示指定では規制対象を広告主に限定しているものの、ステルスマーケティングは広告主だけの問題ではなく、広告主だけを景品表示法で規制してもステルスマーケティングがなくならない可能性があるとして、中長期的には下表のとおり現行の景品表示法の見直しも含めた更なる規制が考えられるとしている(本報告書の47ページ)。

追加的な規制の対象 今後想定される追加的な規制の手法
告示違反者 ・景品表示法の5条3号の告示に違反した者へ課徴金を課すことができるようにする。
仲介事業者 ・現行の景品表示法で直接規制されていない広告主ではない悪質な不正レビューを募集する仲介事業者(いわゆる不正ブローカー)について、当該仲介事業者が、中心となってステルスマーケティングを生じさせており、当該仲介事業者を規制することがステルスマーケティングを解決するために必要であると判断される場合、景品表示法の供給主体又は責任主体の位置付けの見直しを行い、仲介事業者を規制の対象範囲に含めるよう検討すべき。
インフルエンサー ・インフルエンサーが広告主の指示を超えて表示を作成することが常態化していると判断される場合には、景品表示法の供給主体又は責任主体の位置付けの見直しを行い、インフルエンサーを規制の対象範囲に含める。
・インフルエンサー等へのインセンティブ付け(独占禁止法におけるリニエンシー制度に類似した制度や報奨金制度)といった新たな制度の導入
プラットフォーマー ・取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和3年法律第32号)に基づき、デジタルプラットフォームを利用した通信販売に係る取引の適正化及び紛争解決の促進や官民協議会の開催を通じて、消費者利益の保護に努めているところである。このような同法に基づく取組については、景品表示法の目的に沿うものであると考えられるため、同法の積極的な活用が求められる。諸外国では、不当表示によって誤認する対象が事業者であっても消費者であっても、同じ執行当局の下、法執行が行われているものの、日本においては、法執行を担当する当局が公正取引委員会と消費者庁に分かれており、効率的な法執行が行えていないこともある。デジタルプラットフォーム提供者への対応においては、これらの点も含めて検討を進める必要がある。

今回の告示指定で「ステルスマーケティング=悪」という認識が一般化することが予想される。広告主である企業は従来の考えを改め、ステルスマーケティングに依存しない広告を心掛けるようにしたい。

2023/01/16 (新用語・難解用語)3線モデル

企業不祥事を防止するうえで重要な役割を果たしてきた内部統制制度だが、最近の企業不祥事の中には、事業部門のコンプライアンス意識が希薄であったり、管理部門や内部監査部門によるチェック機能が不全であったりといったことが原因で、内部統制システムが実効的に運用されていないことにより引き起こされているとの指摘が聞かれる。こうした中で注目を集めているのが、内部統制と、ガバナンスおよび全社的なリスク管理を一体的に整備・運用しようという「3線モデル」と呼ばれるフレームワークだ。・・・

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2023/01/16 (新用語・難解用語)3線モデル(会員限定)

企業不祥事を防止するうえで重要な役割を果たしてきた内部統制制度だが、最近の企業不祥事の中には、事業部門のコンプライアンス意識が希薄であったり、管理部門や内部監査部門によるチェック機能が不全であったりといったことが原因で、内部統制システムが実効的に運用されていないことにより引き起こされているとの指摘が聞かれる。こうした中で注目を集めているのが、内部統制と、ガバナンスおよび全社的なリスク管理を一体的に整備・運用しようという「3線モデル」と呼ばれるフレームワークだ。

元々「3線モデル」とは米国の内部監査人協会COSOによる「内部統制の統合的フレームワーク」において示されているもので、事業部門(第1線)、法務・財務等の専門性を備えつつ、事業部門の支援と監視を担当するリスク管理部門(第2線)、第1線・第2線の有効性に対する監査を担当する内部監査部門(第3線)から構成される。それぞれの役割は下表のとおりとなっている。

内部監査人協会 : The Institute of Internal Auditors(通称 :IIA)。1941年に米国ニューヨーク州で設立され、現在では内部監査の実務基準の策定、内部監査の理論・実務に関する研究等で、世界的に内部監査に関する指導的役割を担っている。日本でも資格取得者が多い公認内部監査人(Certified Internal Auditor:CIA)等の資格認定機関でもある。
COSO : 企業の不正行為に対抗するための、米国公認会計士協会(AICPA)、米国会計学会(AAA)、財務管理者協会(FEI)、内部監査人協会(IIA)、管理会計士協会(IMA)の5つの組織が資金を提供して1985年に設立された共同イニシアチブで、企業や組織が自社の統制システムを評価できる共通の内部統制モデルを確立した。「トレッドウェイ委員会」という通称は、初代委員長である元証券取引委員会委員のジェームズ・C・トレッドウェイ・ジュニア氏に由来する。

(注)内部監査人は、熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって職責を全うすることが求められる。内部監査人による取締役会および監査役等への直接的な報告体制の整備は、経営者による内部統制の無視ないし無効化のための対策となる。
3ライン 役割 留意点
第1線 製品、サービスの提供をする業務部門内での日常的モニタリングを通じたリスク管理(例:業務プロセスの内部統制の整備・運用) 第1線と第2線は連携する
第2線 リスク管理部門(法務、財務などの間接部門)などによる部門横断的なリスク管理
(例:第1線の内部統制の整備・運用が適切かをモニタリングし、必要に応じて助言)
第3線 内部監査部門による独立的評価(アシュアランス)と助言 取締役会および監査役等への報告経路を確保すること等が重要(注)

かつて、3線モデルは「3つのディフェンス(防衛)ラインモデル」と呼ばれ、企業の「リスク・マネジメント」の観点で設計されたものだったが、内部監査協会(IIA)は2020年7月にその改訂版を公表、リスク・マネジメントは「ディフェンス(防御)と価値の保全」の問題だけでなく、目標の達成と価値の創造に貢献することにも焦点を当てる概念とされ、従来の「3つのディフェンス(防衛)ラインモデル」を、リスク・マネジメントに限定せず、「ガバナンス」の観点から再構築し、「防衛」という言葉も削除した「3ラインモデル」を示した。統治機関には、有効なガバナンスを行うための適切な構造とプロセスを整備することのほか、組織の目標と活動をステークホルダーが優先する利益と整合させることが求められている。

出典:企業会計審議会第22回内部統制部会資料2事務局参考資料(国内外の内部統制報告制度)2022年10月13日
66217a

こうした流れを受け、金融庁は2022年12月15日、内部統制の基本的枠組みを見直すため、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の公開草案を公表した。本公開草案では、内部統制と、ガバナンスおよび全社的なリスク管理は“一体的に”整備・運用されることの重要性を強調しており、その手法として「3線モデル」を例示している。

本公開草案における「3線モデル」は、「第1線を業務部門内での日常的モニタリングを通じたリスク管理、第2線をリスク管理部門などによる部門横断的なリスク管理、そして第3線を内部監査部門による独立的評価として、組織内の権限と責任を明確化しつつ、これらの機能を取締役会又は監査役等による監督と適切に連携させることが重要である。全組織的なリスク管理に関し、損失の低減のみならず、適切な資本配分や収益最大化を含むリスク選好の考え方を取り入れることも考えられる。」(本公開草案の新旧対照表の11ページを参照)とされており、内部監査人協会(IIA)における「3ラインモデル」と同一内容と考えられる(ただし、内部監査人協会の3ラインモデルは日本の「監査役」を考慮していないため、監査役会設置会社については内部監査人と監査役会の関係性を考慮する必要がある)。

リスク選好 : 組織のビジネスモデルの個別性を踏まえたうえで、事業計画達成のために進んで受け入れるべきリスクの種類と総量をいう。

※ERMとは「Enterprise Risk Management(全社的リスクマネジメント)」のこと。
出典:企業会計審議会第22回内部統制部会資料1事務局参考資料(内部統制報告制度について)2022年10月13日
66217b

国際的な内部統制のフレームワークである3線モデルは日本の内部統制報告制度に関する基準等に反映されていなかっただけに、本公開草案が公表されたことで、ようやくこの遅れが解消されることになろう。

2023/01/13 電子提供制度開始後も“従来どおり”総会資料を書面送付する会社の対応

2023年3月以後に開催される株主総会から株主総会資料の電子提供制度(以下、電子提供制度)がスタートするが(電子提供制度については2022年11月29日のニュース『総会資料の電子提供に先立ち「必ずすべき事項」と「推奨される事項」』を参照)、電子提供制度の開始後に開催される株主総会であっても、書面交付請求の有無にかかわらず“従来どおり”総会資料を一律に書面で送付(以下、任意送付)する旨のリリースを出す上場会社が散見されるようになってきた。・・・

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2023/01/13 電子提供制度開始後も“従来どおり”総会資料を書面送付する会社の対応(会員限定)

2023年3月以後に開催される株主総会から株主総会資料の電子提供制度(以下、電子提供制度)がスタートするが(電子提供制度については2022年11月29日のニュース『総会資料の電子提供に先立ち「必ずすべき事項」と「推奨される事項」』を参照)、電子提供制度の開始後に開催される株主総会であっても、書面交付請求の有無にかかわらず“従来どおり”総会資料を一律に書面で送付(以下、任意送付)する旨のリリースを出す上場会社が散見されるようになってきた。

例えばJT(東証プライム上場)は2022年11月7日にコーポレートサイトを更新し、「2023年3月に開催予定の第38回定時株主総会においては、書面交付請求の有無にかかわらず、一律に従前どおり書面でお送りする予定」であることを告知している(JTのサイトはこちら)。同様にモロゾフ(東証プライム上場)も、2022年12月19日に自社サイトで「当社が2023年4月に開催予定の第93回定時株主総会にかかる株主総会資料につきましては、一律に従前どおり書面でお送りする予定」としている(モロゾフのサイトはこちら)。

これらの上場会社の決算期は12月(JT)や1月(モロゾフ)であり、電子提供制度の開始直後の2023年3月や4月に定時株主総会が開催される。このため、電子提供制度が十分に周知されていないことによる混乱を避ける趣旨で従来どおり書面送付を選択したようにも見えるが、3月決算会社(通常は2023年6月に定時株主総会を開催)でも同様のリリースを出す上場会社が散見される。

例えば、3月決算の第一生命ホールディングス(東証プライム上場)はコーポレートサイトで「2023年6月に開催予定の第13期定時株主総会においては、書面交付請求の有無に関わらず、一律に従前どおり書面でお送りする予定」としている(第一生命ホールディングスのサイトはこちら)。同じ3月決算の住友倉庫(東証プライム上場)もコーポレートサイトで、「2023年6月開催予定の定時株主総会から電子提供制度が適用されることとなりますが、当面の間は議決権を有するすべての株主様に対して、従来どおり書面で株主総会資料をお送りいたします。本対応を継続する間におきまして、株主様における特段のお手続きは不要でございます。」としている(住友倉庫のサイトはこちら)。

一旦は株主に「任意の書面送付をしない」旨を通知した後、方針を180度転換したのがブイキューブ(東証プライム上場)だ。同社は2022年12月16日に「会社法改正に伴い、株主総会資料のご通知に関しまして原則当社IRサイトへの掲載のみとさせて頂く旨のハガキを2022年8月に株主の皆様へ送付させて頂きました。その後、改めて株主の皆様の利便性等を検討し、2022年12月期以降も従前と同様に株主総会資料を発送させて頂くことといたしました。このため、ハガキ及びIRサイトにてご案内しておりました書面交付請求を行って頂く必要はございません。」との告知を自社サイトで行っている(ブイキューブのサイトはこちら)。200社以上のバーチャル株主総会の運営に関与し、株主総会運営のDX化の旗振り役であった同社の方針転換には意外感もあるが、当初方針に対する株主のネガティブな反応に配慮したものと思われる。

任意送付によって株主の利便性は維持されるものの、法令で必須とされていない書類をあえて印刷物にして郵送するという行為は、SDGsの観点からは推奨されない。このため、任意送付を選択した上場会社は、「株主には優しくても地球には優しくない」といった指摘を受けるリスクがある。そこで、任意送付のリリースには「今後方針が変更される可能性がある」旨を記載しておくのが無難であり、実際、任意送付を選択した会社のリリースの多くでそのような記載が見られる。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

また、任意送付は法令の縛りを受けないため、送付する書面の範囲を上場会社が自由に決定できる点も利用したい。例えば、四国電力(東証プライム上場)はコーポレートサイトのIRページで「株主総会資料の電子提供制度の開始後も、招集通知以外の書面を任意に送付することは認められていることを踏まえ、当社では、招集通知のほか、議決権行使書面および株主総会参考書類(株主総会の議案内容等を記載したもの)につきましては、今後も書面でお届けする予定です。」としたうえで、下図を示し、株主総会参考書類(議案)は書面で送付し、事業報告、監査報告、計算書類、連結計算書類はウェブで確認してもらう(=書面交付請求をした株主を除き、書面での送付はしない)旨説明している(四国電力のサイトはこちら)。
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任意で送付する書面の範囲を議案に限定することは、「地球に優しくない」という批判をかわしつつ、株主の利便性も高めるという、いわば“良いとこ取り”の手法と言えよう。

ここまで紹介した事例のとおり、上場会社の電子提供制度への対応は、TDnet(適時開示情報伝達システム)を利用せずに、自社サイトのリリースページまたは株主総会関連のページを更新する形で告知するパターンが一般的となっている。これは、任意送付をする旨の決定はそもそも適時開示が必須とされる事項には該当しないことに加え、現時点では速報する必要のある情報でもなく、かつ、情報が1か月間しか掲載されないTDnetは、数か月先の株主総会の対応を周知する媒体としては不向きであるためだ。同じことは、自社サイトの「IRニュース」欄でのリリースにも言える。同欄では新しいニュースが上に掲載されるため、任意送付を実施する旨のニュースは時間の経過とともに下の方に埋もれていくことになる。とはいえ、IRニュース欄は株主の閲覧機会が多いため、「IRニュース」欄でもリリースしつつ、株主総会関係のページのコンテンツの一つとして情報提供するのが、株主に最も確実に伝わる方法としてお勧めと言えそうだ。

2023/01/12 男女間賃金格差の開示始まる 他社は“ギャップ”をどう説明した?

女性活躍推進法の改正により、常用労働者数(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))301人以上の企業は男女間賃金格差の開示が義務化され、「2022年7月8日以後最初に終了する事業年度」の実績を、翌事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要が生じることとなったところだ(厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」4ページ参照)。少なくとも、既に初回の公表期限の目安が到来している2022年7月決算企業、同8月決算企業については、実際の開示例を見ることができる状況となっている。数字を見てみると、男性の水準を100とした場合に、女性の値が100以上という企業もわずかながら見受けられるが、ほとんどの企業では100を下回っており、90、80、70台などが目立ち、50を下回っている企業もある。

正規雇用労働者 : 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者
非正規雇用労働者 : パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者)および有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)

もっとも、男女の処遇差は職種や雇用形態だけでなく、管理職等への登用、勤続年数、労働時間、年齢、パフォーマンス評価など、様々な要因によって生じうる。したがって、男女間賃金格差の指標を他社と比較して「高い」「低い」と一喜一憂するのではなく、経年での自社の改善度をモニタリングしていくべきと言える。その意味では、初回の開示よりも2年目、3年目の開示に向けて、どのような社内施策をいかに効果的に展開できるか、また、社内施策の背景・課題や具体的な取組内容をどのように対外的に説明できるかといった点が重要になってくるだろう。

各社の開示を見てみると、・・・

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2023/01/12 男女間賃金格差の開示始まる 他社は“ギャップ”をどう説明した?(会員限定)

女性活躍推進法の改正により、常用労働者数(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))301人以上の企業は男女間賃金格差の開示が義務化され、「2022年7月8日以後最初に終了する事業年度」の実績を、翌事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要が生じることとなったところだ(厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」4ページ参照)。少なくとも、既に初回の公表期限の目安が到来している2022年7月決算企業、同8月決算企業については、実際の開示例を見ることができる状況となっている。数字を見てみると、男性の水準を100とした場合に、女性の値が100以上という企業もわずかながら見受けられるが、ほとんどの企業では100を下回っており、90、80、70台などが目立ち、50を下回っている企業もある。

正規雇用労働者 : 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者
非正規雇用労働者 : パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者)および有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)

もっとも、男女の処遇差は職種や雇用形態だけでなく、管理職等への登用、勤続年数、労働時間、年齢、パフォーマンス評価など、様々な要因によって生じうる。したがって、男女間賃金格差の指標を他社と比較して「高い」「低い」と一喜一憂するのではなく、経年での自社の改善度をモニタリングしていくべきと言える。その意味では、初回の開示よりも2年目、3年目の開示に向けて、どのような社内施策をいかに効果的に展開できるか、また、社内施策の背景・課題や具体的な取組内容をどのように対外的に説明できるかといった点が重要になってくるだろう。

各社の開示を見てみると、やはり100とならない背景については何らかの説明もしくは釈明が必要と考えているようであり、記載が充実している企業が多い。「同一労働同一賃金に基づき男女での賃金差はありません」といった「適法性」のみに言及する最低限の開示も見受けられるが、「女性の採用を積極化したため、結果として勤続年数が浅い女性社員の割合が増加傾向にある」「女性管理職比率の向上は、弊社における重点課題として位置づけ取り組みを推進中」「専門的職務に従事する男性が女性より多く、資格手当等による賃金差異が生じている」など、相当程度の企業が「説明欄」を活用している。

海外に目を向けると、2022年12月15日には欧州議会とEU加盟国においてEU Pay Transparency Directive(報酬の透明性に関するEU指令)の文言の合意がなされており、正式な承認や加盟各国での法制化も向こう数年で実現することが予想される。男女間賃金格差(Gender Pay Gap)は「報酬の透明性」の論点の一つであり、日系グローバル企業においては、国内での足下の議論のみならず、先行する海外の議論も踏まえ、自社の対応について検討を深めていく必要があるだろう。

2023/01/11 DWG報告第二弾 企業と投資家の意見対立踏まえ、四半期開示に関する記述が「案」段階から変更

金融庁に設置された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が12月27日にとりまとめた報告書は、おおむね同15日に公表された同報告書の「案」と同じ内容となったが、四半期開示に関する記述の一部は、企業と投資家等の意見の対立を反映する形で修正されている(両者の意見の対立点については2022年12月20日のニュース『DWGの報告書案、「レビューの有無」の四半期決算短信での開示について企業サイドから反発の声』参照)。

「案」の段階からの主な変更点は下表のとおり。これらの変更点には、上場企業が四半期開示に取り組む姿勢にも影響を与える内容が含まれているので留意したい。・・・

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