議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services)は(2022年)11月4日、2023年版の議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始した。コメント募集期間は11月16日までに設定されており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて、来月にも改定ポリシーを確定するものとみられる(昨年は12月7日に確定版を公表)。・・・
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議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services)は(2022年)11月4日、2023年版の議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始した。コメント募集期間は11月16日までに設定されており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて、来月にも改定ポリシーを確定するものとみられる(昨年は12月7日に確定版を公表)。・・・
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議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services)は(2022年)11月4日、2023年版の議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始した。コメント募集期間は11月16日までに設定されており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて、来月にも改定ポリシーを確定するものとみられる(昨年は12月7日に確定版を公表)。
今回は日本だけを対象とした改定は予定されていないが、「温室効果ガス排出量の多い企業における取締役会の気候アカウンタビリティ」に関する環境ポリシーの改定が検討されている。同ポリシーは、「温室効果ガス排出量の多い企業を対象に」「気候リスクを適切に開示しておらず、温室効果ガスの直接排出量の多くの部分について、定量的な削減目標を持っていない場合、取締役の選任で反対を推奨」するもので、2022年に米国、欧州、英国、アイルランド、ロシア、カザフスタンで先行して導入された。今回の改定によって同ポリシーは、日本を含む全世界の市場が対象となる見通し。
アカウンタビリティ : 説明責任
取締役の選任に反対する具体的なケースとして、ISSは下記を示している。ここでいう「取締役」とは経営トップ(社長、会長)であり、下記のいずれかが開示されていない場合には選任議案に反対助言が行われるものと考えられる。
・気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) などの枠組みに従い気候変動リスク情報が適切に開示されているとは見なせない場合
・少なくともスコープ1およびスコープ2の大部分(95%以上)における、温室効果ガス排出量削減の中期目標または2050年までのネットゼロ目標を持っていない場合
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになっている。
スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。
スコープ2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと。ちなみに、スコープ 3とは「スコープ1、スコープ2」以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社の排出」のことである。
ここで重要になるのは「温室効果ガス排出量の多い企業」の定義であるが、この点についてISSは、「Climate Action 100+により選定された」ものとしている。Climate Action 100+とは2017年12月に発足したグローバル機関投資家による気候変動イニシアチブで、2020年の進捗報告書によると545の投資家が参加し、運用資産の総額は52兆ドルに達している(グローバルな運用資産全体の約半分と推測される)。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。
Climate Action 100+では大量の温室効果ガス(GHG)を排出しているグローバル企業を選定し、排出量削減に向けた積極的なエンゲージメントを実施している。このエンゲージメント対象企業リストは現在グローバルで167社、日本企業としては以下の10社がリストアップされている。
・ダイキン工業
・日立製作所
・本田技研工業
・ENEOSホールディングス
・日本製鉄
・日産自動車
・パナソニック
・スズキ
・東レ
・トヨタ自動車
したがって、これ以外の上場企業にとっては、今回のポリシー改定による直接的な影響はないと言ってよい。もっとも、ISSのポリシー改定を端緒に、気候変動問題に関する議決権行使基準を厳格化したり、エンゲージメントを活発化したりする機関投資家が増えることは十分考えられる。今回のポリシー改定を、自社における取り組みを確認し、場合によっては見直すための契機とすることが望ましいだろう。
なお、今回のオープンコメントでは、「別紙」として、2022年のポリシー改定において決定済みのジェンダー・ダーバーシティに関する新ポリシーが「2023年2月」から導入される件が改めて告知されている。同ポリシーの導入後は、取締役会に女性取締役が一人もいない場合、経営トップである取締役の選任議案に対して反対推奨が行われることになる点、留意したい。
【WEBセミナー公開開始日】2022年11月8日
近年、日本企業がアクティビストのターゲットとなるケースが急増しています。2022年においては、9月30日時点において米国に次ぐ2位(82社)と、3位のオーストラリア(42社)を大きく上回っています。
もっとも、アクティビズムの方法は以前とだいぶ異なっており、株式を大量に買い付け一方的に増配を要求するといった“強硬的”なアクティビズムは影を潜め、“対話重視型”、あるいは主張を論理的に展開してマーケットの賛同を得る“扇動型”へと変化してきています。
本セミナーでは、これまで買収防衛策やTOB等に備えたコンティンジェンシー・プラン作成、アクティビズム対応関連のコンサルティングを手掛けるなど、アクティビスト対策に詳しい日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリストの日昔 明子様に「株主アクティビズムへの備え」とのテーマでご講演いただきます。
具体的には、アクティビストが掲げることが多いテーマの傾向、その成功率などを分析していただいた上で、上場企業側が備えておくべきことを、リスク度合いの高さ(ステージ)に応じ、To-Do、その担い手や役割分担まで噛み砕いて解説していただきます。
さらに、上場企業側から実際に聞かれる悩みをとり上げ、Q&A形式で対応の方向性を示していただきます。
【講師】
日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリスト
日昔 明子 様
| セミナー資料 | 株主アクティビズムへの備え.pdf |
【WEBセミナー公開開始日】2022年11月8日
近年、日本企業がアクティビストのターゲットとなるケースが急増しています。2022年においては、9月30日時点において米国に次ぐ2位(82社)と、3位のオーストラリア(42社)を大きく上回っています。
もっとも、アクティビズムの方法は以前とだいぶ異なっており、株式を大量に買い付け一方的に増配を要求するといった“強硬的”なアクティビズムは影を潜め、“対話重視型”、あるいは主張を論理的に展開してマーケットの賛同を得る“扇動型”へと変化してきています。
本セミナーでは、これまで買収防衛策やTOB等に備えたコンティンジェンシー・プラン作成、アクティビズム対応関連のコンサルティングを手掛けるなど、アクティビスト対策に詳しい日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリストの日昔 明子様に「株主アクティビズムへの備え」とのテーマでご講演いただきます。
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日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリスト
日昔 明子 様
| セミナー資料 | 株主アクティビズムへの備え.pdf |
新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2022年11月8日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。
| テーマ | 講 師 |
| 株主アクティビズムへの備え | 日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリスト 日昔 明子 様 |
■WEBセミナーの詳細
| セミナー の内容 |
近年、日本企業がアクティビストのターゲットとなるケースが急増しています。2022年においては、9月30日時点において米国に次ぐ2位(82社)と、3位のオーストラリア(42社)を大きく上回っています。 もっとも、アクティビズムの方法は以前とだいぶ異なっており、株式を大量に買い付け一方的に増配を要求するといった“強硬的”なアクティビズムは影を潜め、“対話重視型”、あるいは主張を論理的に展開してマーケットの賛同を得る“扇動型”へと変化してきています。 本セミナーでは、これまで買収防衛策やTOB等に備えたコンティンジェンシー・プラン作成、アクティビズム対応関連のコンサルティングを手掛けるなど、アクティビスト対策に詳しい日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリストの日昔 明子様に「株主アクティビズムへの備え」とのテーマでご講演いただきます。 具体的には、アクティビストが掲げることが多いテーマの傾向、その成功率などを分析していただいた上で、上場企業側が備えておくべきことを、リスク度合いの高さ(ステージ)に応じ、To-Do、その担い手や役割分担まで噛み砕いて解説していただきます。 さらに、上場企業側から実際に聞かれる悩みをとり上げ、Q&A形式で対応の方向性を示していただきます。 |
| 講師の ご紹介 |
日昔 明子(ひむかし あきこ)様 日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティンググループ シニアアナリスト 三菱UFJ信託銀行にて融資、受託、人事業務等に従事の後、2008年より株主戦略支援室にて買収防衛策やTOB等に備えたコンティンジェンシー・プラン作成などを支援。2015年経営企画部等でマーケティング・ブランディング業務に従事の後、2020年12月より現職にて、アクティビズム対応関連のコンサルティング業務に従事。 |
会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
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https://forms.gle/6TNYfzbGQHXUQELGA
<収録月>
2022年11月
<収録時間>
39分
<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。
2008年4月以降の事業年度から適用されている内部統制報告制度(J-SOX)の導入から10余年が経過したが、同制度は企業の経営管理・ガバナンスの向上に一定の効果をもたらしたものの、その実効性には懸念があるとの指摘が聞かれる。金融庁の調査によると、近年「内部統制が有効でなかった」とされた事例では、コンプライアンス意識の欠如、モニタリング体制の不備、牽制機能の無効化、子会社等の管理体制の不備などが原因となっている。・・・
J-SOX : エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため、コーポレートガバナンスのあり方と監査制度を抜本的に改革するとともに、投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めた米国連邦法がSOX法であり、2002年7月に制定された(正式名称はサーベンス・オクスリー法)。日本におけるJ-SOX(内部統制報告制度)は、SOX法に基づく内部統制監査制度を参考に、2008年に導入されたものである。
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2008年4月以降の事業年度から適用されている内部統制報告制度(J-SOX)の導入から10余年が経過したが、同制度は企業の経営管理・ガバナンスの向上に一定の効果をもたらしたものの、その実効性には懸念があるとの指摘が聞かれる。金融庁の調査によると、近年「内部統制が有効でなかった」とされた事例では、コンプライアンス意識の欠如、モニタリング体制の不備、牽制機能の無効化、子会社等の管理体制の不備などが原因となっている。
J-SOX : エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため、コーポレートガバナンスのあり方と監査制度を抜本的に改革するとともに、投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めた米国連邦法がSOX法であり、2002年7月に制定された(正式名称はサーベンス・オクスリー法)。日本におけるJ-SOX(内部統制報告制度)は、SOX法に基づく内部統制監査制度を参考に、2008年に導入されたものである。
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訂正内部統制報告書 : 当初、内部統制報告書において内部統制を「有効」としていた場合でも、後から不正や不備等が発覚し、内部統制が「非有効」へ変更されることがある。このように、開示済みの内部統報告書等の記述に変更や不備がある場合に提出が求められる書類が訂正内部統制報告書である。
また、金融庁が大手監査法人にヒアリングしたところ、「開示すべき重要な不備」が認識された直近数年の訂正内部統制報告書のうち、当該不備が「経営者による評価範囲外」から認識されたものが2~3割程度にも及んでいる。裏を返せば、評価範囲が適切に決定されていれば、開示すべき重要な不備とはならなかった可能性があるということだ。
通常、内部統制の評価範囲を決める際には下表のような定量的な選定基準が用いられるが、評価範囲が適切に決定されなかった要因の一つとして、企業が評価範囲を決める際にこうした定量的な選定基準の例示を偏重し、リスクの高い事項を評価対象に含めることができていなかったとの指摘がある。内部統制評価の範囲を決定するための定量的な選定基準の例示があると、例示を満たすことが目的となってしまい、それ以上に評価範囲を広げようという意識が薄れるデメリットがあると言われている。この点について、2022年10月13日に開催された企業会計審議会第22回内部統制部会では、各委員から「内部統制の評価範囲は“リスクベース”とすべき」との意見が相次いだ。
| 手続き | 選定基準の定量的な例示 |
| ①全社的な内部統制の評価 | 例えば売上高で全体の95%に入らない連結子会社は評価対象から外すことができる。 |
| ②業務プロセスの評価範囲 | 例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高いものから合算していき、連結ベースの売上高等の一定割合に達するまでの事業拠点を評価対象とする。一定割合については、全社的な内部統制の評価が良好であれば、連結ベースの売上高等の概ね3分の2程度。 |
もっとも、現行の内部統制報告制度においても、上記の選定基準の定量的な例示を機械的に使用することは想定されていない。
例えば上記①の「全社的な内部統制」では、原則としてすべての事業拠点について評価しなければならない。「売上高」や「95%」はあくまで例示であり、こうした指標や数値は必要に応じて見直すことが必要になる。仮に選定されていなかった5%の事業拠点で不備があった場合、それが「軽微な不備」にとどまらなければ、例示は無意味なものとなる。また、②の「業務プロセスの評価範囲」では、連結ベースの売上高等の概ね3分の2程度までの事業拠点について全社的な内部統制が良好と評価されていることが前提となる。つまり、全社的な内部統制に不備がある場合には評価対象範囲を広げることが必要であり、単純に「連結ベースの売上高等の概ね3分の2」という例示を当てはめればよいわけではない。
さらに、選定基準の定量的な例示の有無にかかわらず、「重要性の大きいプロセス」は個別に評価対象に追加することが求められている。具体的には以下のものがある。
| 追加すべき重要性の大きいプロセス | 例 |
| リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス | ・事業上のリスクを有する事業又は業務 ・複雑な会計処理が必要な取引を行っている事業又は業務 |
| 見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス | 以下のような見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス ・引当金 ・固定資産の減損損失 ・繰延税金資産(負債) 減損損失 : 減損を実施するか否かの判定は、減損の兆候があると判定された資産グループについて、その資産グループが稼ぎ出す「割引前」(将来の金利にあたる部分は差し引かない)の将来キャッシュ・フロー(資産グループを継続して使用することによる資金収支と、資産グループの処分による資金収支を合わせた金額)の総額が帳簿価額を下回っていないかを確認することにより行う。割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価格を下回っていれば、その資産グループは減損損失計上の対象となる。減損損失は、将来キャッシュ・フローを現在価値に直して測定する。 |
| 非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス | ・通常の契約条件や決済方法と異なる取引 ・期末に集中しての取引や過年度の趨勢から見て突出した取引等 ・非定型・不規則な取引 |
つまり、選定基準の定量的な例示があるとはいっても、個別に重要性の大きいプロセスがあれば評価対象としなければならず、現行制度でも「リスクベース」に基づく内部統制の評価範囲の決定が求められているということだ。開示すべき重要な不備が評価範囲外から認識されたということは、選定基準の定量的な例示を形式的に当てはめただけで、経営者が潜在的なリスクを過小評価し、追加すべき重要性の大きいプロセスを適切に判断、評価できなかった結果に他ならない。
コロナウイルス感染症、急激な円安、インフレ、DXの推進、海外子会社の増加など企業を取り巻く昨今の経営環境・リスクは、内部統制報告制度導入当時とは大きく変化している。経営者には、このような急激な変化に対応して、重要な虚偽記載に繋がる潜在的なリスクを評価し内部統制を整備することが求められると同時に、適切に内部統制を運用、評価する責任がある。とはいえ、現実には、経営者が必ずしもその道の専門家でないことは少なくない。このような場合は、専門家である監査法人との協議も必要となろう。
金融庁は(2022年)11月7日、開示府令の改正案を公表した。これは、2022年6月に金融庁に設置された金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が公表した報告書で、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などについて制度の整備を行うべきとの提言がされたことを受けたもの。改正開示府令は「令和5年(2023年)3月31日以後に終了する事業年度」に係る有価証券報告書から適用することとされており、サステナビリティ情報の開示が2023年3月期に係る有価証券報告書から義務化される方向となった。本稿では、改正案の主な内容を速報する。・・・
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金融庁は(2022年)11月7日、開示府令の改正案を公表した。これは、2022年6月に金融庁に設置された金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が公表した報告書で、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などについて制度の整備を行うべきとの提言がされたことを受けたもの。改正開示府令は「令和5年(2023年)3月31日以後に終了する事業年度」に係る有価証券報告書から適用することとされており、サステナビリティ情報の開示が2023年3月期に係る有価証券報告書から義務化される方向となった。本稿では、改正案の主な内容を速報する。
| 改正案の内容 | 有価証券報告書等に【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄を新設。同欄においては「ガバナンス」及び「リスク管理」を必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」は重要性に応じて記載する。 また、サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」から当該他の箇所の記載を参照できることとされた。 ガバナンス : サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視・管理するためのガバナンスの過程、統制、手続きのこと。 |
| 改正のポイント | 気候変動情報の開示義務化が予想されていたが、改正開示府令案では、TCFDの気候変動開示フレームワークの4つの柱である「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」及び「指標及び目標」という用語は用いられているものの、「気候変動」という用語は見当たらない。これは、2023年の早い時期に最終化される予定のISSBの気候関連開示基準を踏まえSSBJにおいて具体的開示内容が定まった段階で、開示を義務化するということであると思われる。 サステナビリティ情報には、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗・贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項などがあるが、改正案を踏まえると、これらの中から各社がサステナビリティに関する重要課題(マテリアリティ)を特定し、当該重要課題に関する「ガバナンス」「リスク管理」を、さらに、その重要性に応じて「戦略」及び「指標及び目標」を記載することになると考えられる。サステナビリティ課題は各社によって異なるため、【サステナビリティに関する考え方及び取組】に何を書くかは、下記(2)の記載事項を除き、自由ということになる。仮に気候変動対応が会社にとって重要課題であると認識されれば、気候変動情報を本記載欄で開示することになる。ただし、上述のとおり、気候変動について何を書くべきかという開示の推奨項目は、2023年の早い時期に最終化予定のISSBの気候関連開示基準を踏まえ、SSBJにおいて定められることになる。 TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになっている。 |
| 改正案の内容 | サステナビリティ情報をはじめとする将来情報について、①経営者の認識、その前提となる事実や仮定等について合理的な記載がされている場合や、②将来情報について社内で適切な検討を経た上で、その旨が検討された事実や仮定等とともに記載されている場合には、たとえ記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことが明確にされた。 | サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況(下記【2】参照)の詳細な情報については、任意開示書類を参照できることを明確化。 また、任意開示書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、任意開示書類の参照が有価証券報告書の重要な虚偽記載に該当し得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載の責任を問われるものではないことが明確にされた。 |
| 改正のポイント | 上記改正の趣旨は、仮に記載した将来情報と実際の結果が異なった場合、虚偽記載の責任を問われるとなれば、充実した開示が行われなくなるのではないかという懸念を払しょくすることにある。 | 上記改正は、サステナビリティ情報については任意開示が先行しているため、開示の重複を避ける趣旨で行われた。ただし、開示府令に規定されている記載事項は参照できず、あくまで当該記載事項を“補完”する情報のみ、参照できることとされている。 |
| 改正案の内容 | 人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針、及び当該方針に関する指標の内容等が必須記載事項とされた。【サステナビリティに関する考え方及び取組】の「戦略」と「指標及び目標」において記載する。 | 女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を【従業員の状況】において記載することを求める内容となっている。 |
| 改正のポイント | 上記の指標を記載するにあたり、①任意で追加的な情報を記載することが可能、②サステナビリティ情報の記載欄の「指標及び目標」における実績値に、これらの指標の記載は不要であることが明確化されている。 また、人材育成に関する社内環境整備の方針として、「例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等」という具体的な記載例が示された。 |
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【2】コーポレートガバナンスに関する開示
取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)、政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要について記載が求められる。
※関連記事として、2022年6月20日のニュース『「取締役会および委員会等の活動状況」として有報に記載すべき内容』参照。
デュアルレポーティング : 内部監査のレポート先が、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること。
【3】その他
DWG報告では、【重要な契約】において、企業・株主間のガバナンスに関する合意、企業・株主間の保有株式の処分・買増し等を開示すべきとされていたが(2022年3月2日のニュース「議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意の開示を促す法令改正が行われる可能性」参照)、今回の改正案では見送られている。
日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創
本年(2022年)の株主総会シーズンから4か月以上が経過し、ほとんどの国内機関投資家の議決権行使結果の個別開示の内容を確認できるようになりました。行使判断の理由などを開示する投資家も増えてきています。
本稿ではまず、会社提案議案として最も典型的な取締役選任議案に対する主要国内機関投資家の行使判断について、その「反対率」を算出し、前年との比較も踏まえて傾向を分析します。
続いて、本年過去最多となった株主提案議案のうち、株主還元を求める議案と気候変動関連の株主提案について、主要国内機関投資家の行使判断とその理由をみていくこととします。
主要国内機関投資家の取締役選任議案に対する反対率を算出したところ、図表1のとおりとなりました。
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主要国内機関投資家のうち、取締役選任議案に対する反対率が最も高かったのは三井住友DSアセットマネジメントでした。同社の個別開示に記載されている「主な判断理由」を参照すると、反対の要因として最も多いのは、ROE基準への抵触であることが分かります。同社の基準は、原則として「国内上場企業平均水準を過去3年に一度も上回っていない場合」に、3年以上在任の取締役に対して反対行使を行うというものです。上場企業平均値という厳しい水準と、反対の対象が経営トップに限られないことなどにより、他の投資家に比べて反対が多くなったと考えられます。
三井住友DSアセットマネジメントに次いで反対率が高く、かつ前年比で反対率の増加が最も大きかったのが三菱UFJ国際投信です。これには、同社が本年2月に行った議決権行使基準の改定が影響していると考えられます。具具体的な改定内容は、例えばプライム市場に上場する親会社等のない監査役会設置会社の場合、従来「社外取締役2名未満の場合に反対」とされていたものが、「独立性のある社外取締役が1/3未満の場合に反対」へと厳格化されています。反対の対象が全取締役であることもあり、社内取締役選任議案、社外取締役選任議案ともに反対率が高くなっています。
なお、三菱UFJ信託銀行は前年比で反対率が大きく減少しています。これは、原則として「社外取締役が1/3未満の場合に取締役全員の選任に反対する」との同社の取締役会構成基準に抵触する上場会社が大きく減った、逆に言うと、1/3以上の社外取締役を選任する上場会社が大きく増加したためであると考えられます。ただし、三菱UFJ信託銀行は、来年からこの基準を厳格化し、原則として独立性ある社外取締役が1/3未満の場合、取締役全員に反対する予定であることには注意が必要です。
本年株主総会シーズンの特徴としては、アクティビストによる株主提案が多かったことが挙げられます。なかでも、シルチェスター・インターナショナルは、アクティビストとしてその名が知られている一方で、これまで株主提案に踏み切ることはなかったことから、岩手銀行、滋賀銀行、京都銀行、中国銀行に対して実施した特別配当を求める議案は大いに注目されました。
本議案に対する主要国内機関投資家の行使判断は図表2のとおりです。三井住友DSアセットマネジメントは、「株主共同の利益の観点」から全議案に賛成したものの、全体としては大部分が反対行使に回ったことが分かります。
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4行に対する剰余金処分議案は、コアの融資事業からの利益の50%と政策保有株式の受取配当金の100%に相当する金額を株主に配当するよう求めるものであり、実質的に同じ内容と言えるにもかかわらず、大和アセットマネジメントと三菱UFJ信託銀行は議案ごとに異なる行使判断となっています。ただし、大和アセットマネジメントは、各行と「営業上の関係を有する」ことから行使判断の中立性を維持するため、特定の議決権行使助言会社の推奨に沿った行使を行ったとしています。
一方、三菱UFJ信託銀行は、岩手銀行と中国銀行への提案について「同社の株主還元方針に特段問題がない」として反対したのに対し、滋賀銀行と京都銀行の議案については「株主提案の配当を実施しても、財務の健全性上問題はなく、資本の効率性は高まるものと考える」として賛成しています。各行の財務状況などを個別に精査したうえでの判断であることがうかがえますが、特に政策保有株式の保有状況などが重視された可能性もあると考えられます。
なお、全議案に反対した野村アセットマネジメントは、個別開示において「提案株主が当該企業の事業・財務戦略や自らの大量買付について説明責任を果たしていないと判断し、反対」したと公表しています。同社の議決権行使基準にも「株主提案については、一般株主が適切に内容を理解した上で判断を行うことができるように、提案株主及び取締役会が、それぞれの立場で、株主価値の観点から分かりやすく丁寧に説明を行うことが望まれる」との記載があり、提案株主に対しても十分な説明を求める姿勢がうかがえます。
本年も気候変動関連の株主提案が注目されました。主な提案の内容と、これに対する主要国内機関投資家の行使判断は図表3、4のとおりです。
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IEAによるネットゼロ排出シナリオ:IEA(International Energy Agency=国際エネルギー機関)とは、第一次オイルショックをきっかけに、米国の提唱によって1974年にOECD(経済開発協力機構)の下部組織として設立された組織で、日本、米国、英国、ドイツ、フランスを含む30か国余りにより構成される。IEAによるネットゼロ排出シナリオとは、先進国はおよそ2045年、世界全体では2050年にCO2排出のネットゼロを達成することを目標とするもの。具体的には、2050年の発電電力の構成を、再エネルギー約90%(このうち、太陽光と風力が約70%)、約10%を原子力、水素ベース燃料、および化石燃料+CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage=二酸化炭素回収・利用・貯留)とする。IEAネットゼロシナリオの特徴は、省エネ・再エネ、水素の寄与度が高い点にある。
注釈の文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
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一定程度の賛同を集めたと評されることの多い気候変動関連の株主提案ですが、主要国内機関投資家について言えば、賛成は限定的となっています。株主提案については、賛成、反対いずれの場合でも、個別開示においてその理由を記載する機関投資家が多く、それによると気候変動関連の株主提案への反対理由は大きく二通りに分けることができそうです。
一つ目は、定款に記載することの是非を重視する考え方です。例えば野村アセットマネジメントの反対理由には以下のような記載が確認されます。
| 野村アセットマネジメント:気候変動関連の株主提案への反対理由 ・中長期的な企業価値に対する気候変動問題の重要性には同意するものの、業務執行に具体的な制約を加える可能性のある内容を含んでおり定款への記載は妥当でないと判断し、当社基準に則り反対しました。 ・中長期的な企業価値に対する気候変動問題の重要性には同意するものの、過度に詳細な内容を含むため業務執行を制約する可能性があり定款への記載は妥当でないと判断し、当社基準に則り反対しました。 |
気候変動問題の重要性を認めつつも、定款に記載することで生まれる拘束力を考慮して反対に至ったことがうかがえます。
二つ目が、株主提案を受けた会社の取組みに問題がないため株主提案に賛成する必要がないとの考え方です。例えば日興アセットマネジメントの反対理由には以下のような記載が確認されます。
| 日興アセットマネジメント:気候変動関連の株主提案への反対理由 ・賛否判断に当たり、会社、株主提案者双方と面談しました。定款に記載することの是非については議論の余地がありますが、提案内容が中長期的な株主価値向上に資するかという視点を重視して賛否判断を行いました。気候関連リスク・機会に対する会社の取組みや姿勢を評価し、提案に対して反対しました。 |
定款の記載事項とすべきか否かという点よりも、定款変更議案を通して要求された具体的な内容を重視して検討したうえで、対象会社の取組みや姿勢の観点から反対したとの内容になっています。
また、ブラックロック・ジャパンは以下のとおり、「定款への記載」と「会社の取組み」の両方を反対理由として挙げています。
| ブラックロック・ジャパン:気候変動関連の株主提案への反対理由 ・気候変動に対する会社の取組み姿勢や情報開示に懸念はないと考える。また、提案された定款変更の内容は経営の過度な制約となる懸念がある。 |
提案に反対した投資家が多い中で、アセットマネジメントOneはほとんどの議案に「株主価値向上に資すると判断」したとして賛成しています。同社の議決権行使ガイドラインをみても、気候変動に関する情報開示を促す提案については「原則賛成」に近いスタンスであることが読み取れます。
| アセットマネジメントOne:議決権行使ガイドライン上の記載 ・自社の事業に対する重要性の高い環境や社会リスクなど企業毎の重要な課題に関する適切な情報開示の充実を求める議案について、中長期的な株主価値向上に資すると判断される場合は、原則として賛成する。 |
同社が唯一反対したのが、三井住友フィナンシャルグループの第5号議案です。この議案は同社の貸付等が新規の化石燃料供給等に用いられないようにすることなどを求めるものであり、単に開示を求めるという範疇を超えて、業務執行を制約する提案と判断された可能性があると考えられます。
会社提案として株主総会に付議しようとする議案が機関投資家から反対される可能性がある場合や、株主提案の予兆がある場合などに、いわゆる「票読み」を行うにあたっては、各投資家の議決権行使ガイドラインを参照することが考えられます。加えて、上記のように過去の議決権行使結果を分析することも、投資家の考え方を理解するうえで有用となることがあると言えそうです。