2022/09/27 一部の指名委員会等設置会社のガバナンスが機能していない理由と今後のガバナンス改革の方向性

最近、岸田首相が企業のコーポレートガバナンス改革を促進する考えを示している。特に社外取締役の役割に触れ、企業に対する「外部の目」を一層強化し、コーポレートガバナンス改革の実質化を図ることが重要だと述べている。2015年のコーポレートガバナンス・コード施行以降、外形的には欧米企業に近いガバナンス体制や役員報酬制度(欧州並みの報酬水準やインセンティブの仕組みなど)を備える企業も増えてきたが、岸田首相の発言は、必ずしも実態が伴っているわけではないという政府サイドのメッセージと言えるだろう。実際、企業の内情を覗いてみると頷ける部分は少なくない。

自社のコーポレートガバナンスの在り方を議論する場合、まず論点となり得るのが、機関設計(指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役(会)設置会社の3つ)」だ。近年は、監査役(会)設置会社から監査等委員会設置会社に移行する企業が増えているが、その検討過程で、法定の3委員会(報酬/指名/監査)の設置が義務付けられる指名委員会等設置会社に一足飛びで移行するハードルの高さに改めて気付かされるという企業も多い。このため、経営陣等は、「指名委員会等設置会社こそ最もガバナンスが優れた機関設計である」というイメージを抱きがちだ。しかし、残念ながら現実には必ずしもそうとは限らない。

指名委員会等設置会社の株主総会では、基本的に取締役の選任のみが諮られる。逆に言えば、株主の直接的な関与はそこまでにとどまる。他の事項は、取締役会のメンバーである取締役3名以上によって構成され、かつ構成員の過半数を社外取締役が占める報酬/指名/監査員会の各委員会が、株主総会決議に替わって、審議・決定等していくことになる。

一見すると、各委員会は社外取締役が過半数を占めていることから、独立性・客観性が十分に確保され、ガバナンスが機能しているように見えるが、裏を返せば、重要事項が、クローズドな場において、数人の委員次第でいかようにでも決まってしまうことを意味する。すなわち、指名委員会等設置会社のガバナンスは、社外取締役に大きく依存しているということである。指名委員会等設置会社の社外取締役を見ていると、己の経験則(過去の成功体験など)だけを語り、現在の経営環境や今後の見通しを踏まえた話ができない社外取締役、いわゆる“お友達人事”で登用され社内に忖度する社外取締役なども少なからず存在している。指名委員会等設置会社であっても、冒頭で触れた岸田首相の指摘のようにまさに「実質が伴っていない」という状態が当てはまっているケースがあることは否定できない。

では、このような現状を変えるにはどうすればよいだろうか。様々な企業の内情を見ていると、・・・

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2022/09/27 一部の指名委員会等設置会社のガバナンスが機能していない理由と今後のガバナンス改革の方向性(会員限定)

最近、岸田首相が企業のコーポレートガバナンス改革を促進する考えを示している。特に社外取締役の役割に触れ、企業に対する「外部の目」を一層強化し、コーポレートガバナンス改革の実質化を図ることが重要だと述べている。2015年のコーポレートガバナンス・コード施行以降、外形的には欧米企業に近いガバナンス体制や役員報酬制度(欧州並みの報酬水準やインセンティブの仕組みなど)を備える企業も増えてきたが、岸田首相の発言は、必ずしも実態が伴っているわけではないという政府サイドのメッセージと言えるだろう。実際、企業の内情を覗いてみると頷ける部分は少なくない。

自社のコーポレートガバナンスの在り方を議論する場合、まず論点となり得るのが、機関設計(指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役(会)設置会社の3つ)」だ。近年は、監査役(会)設置会社から監査等委員会設置会社に移行する企業が増えているが、その検討過程で、法定の3委員会(報酬/指名/監査)の設置が義務付けられる指名委員会等設置会社に一足飛びで移行するハードルの高さに改めて気付かされるという企業も多い。このため、経営陣等は、「指名委員会等設置会社こそ最もガバナンスが優れた機関設計である」というイメージを抱きがちだ。しかし、残念ながら現実には必ずしもそうとは限らない。

指名委員会等設置会社の株主総会では、基本的に取締役の選任のみが諮られる。逆に言えば、株主の直接的な関与はそこまでにとどまる。他の事項は、取締役会のメンバーである取締役3名以上によって構成され、かつ構成員の過半数を社外取締役が占める報酬/指名/監査員会の各委員会が、株主総会決議に替わって、審議・決定等していくことになる。

一見すると、各委員会は社外取締役が過半数を占めていることから、独立性・客観性が十分に確保され、ガバナンスが機能しているように見えるが、裏を返せば、重要事項が、クローズドな場において、数人の委員次第でいかようにでも決まってしまうことを意味する。すなわち、指名委員会等設置会社のガバナンスは、社外取締役に大きく依存しているということである。指名委員会等設置会社の社外取締役を見ていると、己の経験則(過去の成功体験など)だけを語り、現在の経営環境や今後の見通しを踏まえた話ができない社外取締役、いわゆる“お友達人事”で登用され社内に忖度する社外取締役なども少なからず存在している。指名委員会等設置会社であっても、冒頭で触れた岸田首相の指摘のようにまさに「実質が伴っていない」という状態が当てはまっているケースがあることは否定できない。

では、このような現状を変えるにはどうすればよいだろうか。様々な企業の内情を見ていると、押しなべて日本企業は「世間体」を気にする傾向が強い。資本市場における「世間体」は「株主目線」にニュアンスが近い。そう考えると、企業のガバナンスを実質的に強化するうえでは、株主による直接的な評価を受けることが最も有効と言えるかもしれない。実際、欧米企業(国によって差異はあるものの、おおむね日本でいう指名委員会等設置会社の形態をとっている)では、報酬委員会で役員報酬を決定する場合でも、株主がその内容に対して直接「Yes/No」を表明できるSay-on-Pay等の仕組みがあり、その結果が分析され、世間の注目を浴びることも珍しくない。その意味では、社外取締役に緊張感を与える牽制機能とも言える。今後、岸田首相が力説するように「外部の目」を強化した結果、企業内でのブラックボックス化を更に加速させてしまうような事態となれば本末転倒であろう。ガバナンスが機能していない一部の指名委員会等設置会社の存在は、岸田政権主導のコーポレートガバナンス改革が進むべき道を示す(反面教師的な意味での)ヒントとなりそうだ。

2022/09/26 【失敗学第99回】元気寿司の事例(会員限定)

概要

回転寿司レストランをチェーン展開している元気寿司(東証スタンダード市場に上場)で店舗開発部長が複数の店舗で架空の建築工事を発注し、業者からバックリベートを受け取るなどしていた。

経緯

元気寿司が2022年8月29日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」(以下、調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2021年
元気寿司の社内で「新規店舗出店時の工事において不適切な支出がなされた疑いがある」旨問題提起がなされ、社内調査を実施したところ、不適切な支出は確認されなかったとの結論となっていた。もっとも、元気寿司では、当時の社内調査において、どのような証拠に基づいて不適切な支出がないとの判断に至ったか、また、類似する事案の存否について確認を実施したか等、当時の調査の適切性・十分性を判断するために必要な資料を残していなかった。

2022年
5月10日:元気寿司の常勤監査役A氏は、外部通報窓口を務める外部法律事務所から「新規店舗出店時の工事において不適切な支出がなされた疑い」などについて報告を受ける。
5月15日:元気寿司の会計監査人(有限責任監査法人トーマツ)は、外部法律事務所が受けた通報と同内容の通報を受ける。
5月16日:会計監査人は、元気寿司の監査役会に対して、2022年3月期決算について適正な監査意見を表明できる状況にない旨を通知する。
5月17日:会計監査人は元気寿司の法師人代表取締役社長に対し、本件通報に係る事実および本件事案に類似する事案の存否等について調査を実施する必要がある旨の指摘を行う。
5月27日:元気寿司は特別調査委員会を発足させる。特別調査委員会は8月28日まで調査を行う。
8月29日:元気寿司は「調査報告書」を公表し、保留となっていた2022年3月期の有価証券報告書および2023年3月期第1四半期報告書を提出する。

内容・原因・改善策

元気寿司が2022年8月29日に公表した「調査報告書」によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

店舗開発部長による架空工事の発注とバックリベートの受領
内容 元気寿司の店舗開発部長であるB氏が、複数の店舗に係る建築工事に関して店舗開発課設計担当者に対して架空工事の発注や工事費用の付け替えを指示し、また、建築業者からの架空の名目での請求であると認識しつつも、その名目については重視せず、架空の名目での支払をそのまま承認していた。さらに、B氏がバックリベートを受領するため、仲介業者に対して、業務の実体がないにもかかわらず、架空の仲介手数料・企画料名目の請求を指示し、元気寿司において仲介手数料・企画料に関して不適切な支出が行われ、B氏が当該仲介業者からバックリベートを受領していた。
原因 動機
・架空見積もりの承認にあたっては、他の工事において減額に応じてくれた工事業者との間の「貸し借り関係」も背景にあった。
・バックリベートの受領は金銭的動機が背景にあるものと思われる。

機会
・見積書記載の工事とは別の工事が行われたことは、店舗開発部長のB氏およびB氏の部下しか認識しておらず、見積書記載の工事が架空であったことに他の役職員が気付くことはなかった(牽制機能の欠如)。
・相見積りを経ずにa社を建築業者として起用していた。
・店舗開発部長のB氏の業務がブラックボックス化していた。その背景には、元気寿司がこれまで出店の経験が乏しい関西エリアへの出店を拡大していく中で、実績を上げているB氏の仕事の進め方について周囲が疑問を投げ掛けることができない雰囲気が形成されていたことがある。
・元気寿司では、出退店委員会の承認および出店稟議の決裁後、具体的な建築工事費用の見積取得時点において、予算の設定が適切であったかをフォローし、予算を再度検証して調整する仕組みはなく、全ての建築工事が完了し、店舗の引渡しを受けた後に作成する購買報告書の決裁の中で確認するにとどまっていた(不十分な予算管理)。
・元気寿司では2021年にも同様の問題提起がされていた。しかし、当時は店舗開発部内の問題であると整理され、徹底的な調査は行われなかった。また、他の建築工事でも同様の行為が行われていないかといった観点からの調査は実施していなかった。

正当化
・店舗開発部長のB氏は、工事業者からの解体撤去工事費名目の請求が架空の名目での請求であったとしても、最終的に予算の範囲内で店舗開発を行うことができればそれでよしとの考えを有していた。

再発防止策 ・店舗開発部における確認体制の強化
・元気寿司における新規出店に係る予算管理の仕組みの導入
・総務・経理部門における確認体制の強化
・元気寿司におけるコンプライアンス違反への対応体制の強化
<この失敗から学ぶべきこと>

元気寿司常勤監査役であるA氏が外部通報窓口を務める外部法律事務所から「新規店舗出店時の工事において不適切な支出がなされた疑い」などについて報告を受けたのが5月10日のことです。その5日後の5月15日に、今度は元気寿司の会計監査人が、外部法律事務所から受けた通報と同内容の通報を受けることになります。監査役が会計不正についての疑惑をキャッチしたら、会計監査人と迅速に情報を共有することが望まれますが、常勤監査役がこの5日の間にどのような動きをしたのかが、調査報告書からは明らかではありません。調査報告書には「同月17日、代表取締役社長である法師人尚史氏(以下「法師人社長」という。)に対し、本件通報に係る事実(以下「本件事案」という。)及び本件事案に類似する事案の存否等について、調査を実施する必要がある旨の指摘を行い、元気寿司の経営層が本件通報を認識するに至った。」と記載されていることから、常勤監査役は執行側にも情報共有をしていなかった可能性があります。内部通報があった場合には、範囲外共有を防ぐために情報共有を慎重にすべきとはいえ、調査報告書からは常勤監査役の動きが見えていないことから、常勤監査役の動きが遅いとの印象を持たれてしまうのは否めません。

また、2021年にも元気寿司社内で「新規店舗出店時の工事において不適切な支出がなされた疑いがある」旨問題提起がなされ、社内調査を実施したのですが、当時は「不適切な支出は確認されなかった」との結論で終わらせていました。当時の社内調査において、どのような証拠に基づいて不適切な支出がないとの判断に至ったか、また、類似する事案の存否について確認を実施したか等、当時の調査の適切性・十分性を判断するために必要な資料が残されていませんでした。社内調査を実施した場合、社内調査の結果やプロセスの妥当性が後日問題視される可能性もあることから、それに備えて調査結果のみではなく調査のプロセスなども記録として残すようにする必要があります。

2022/09/22 人権尊重ガイドラインが確定、一般市販品の調達も対象に(会員限定)

「安く仕入れることができるのであれば多少のことは目をつぶる」という従来の企業の行動様式が本格的に変革を迫られている。米国では強制労働が問題となっている新疆ウイグル自治区からの輸入を原則として禁止する法律(ウイグル禁輸法)が2022年6月に施行され、欧州委員会はこの9月14日、強制労働によって製造された製品のEU市場での流通を禁止することを提案している。欧米のルールは、たとえ自社が強制労働に関わっていなくても、自社が属するサプライチェーンの中で強制労働が行われていれば、自社製品を流通させることができなくなることを意味する。一方、日本では法規制の導入までには至っていないが、9月13日には政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を確定し、公表した。企業が直面している人権問題は、強制労働以外にも児童労働、女性差別や人種差別、劣悪な労働環境、環境汚染など多々存在し、自社だけではなく、自社を含むサプライチェーン全体として問題の解消に取り組まなければならない。その取り組みにあたっての指針となるのが本ガイドラインだ。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関

本ガイドラインは経済産業省に設置された「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」が2022年8月8日に公開草案を公表し、8月29日までパブコメを募集していたもの(公開草案については2022年8月25日のニュース『「ビジネスと人権」、サプライチェーン重視鮮明』参照)。検討およびパブコメの主体が経産省である本ガイドラインが「日本政府」のガイドラインとして公表されたということは、本ガイドラインが、日本政府が国連指導原則(日本語訳はこちら)を踏まえ2020 年に策定・公表した「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」の延長上にあり、日本政府によりコミットされたものであることを示している。

国連指導原則 : 2011年に国連の人権理事会で全会一致で支持された文書で、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱から構成される。企業活動における人権尊重の指針として用いられている。

公開草案に対しては、131の団体・事業者・個人から計706個にものぼるコメントが寄せられた。本ガイドラインに対する関心の高さがうかがえる。寄せられたコメント数が多いこともあり、公開草案と確定版を比較すると修正箇所は多岐にわたる。コメントに対する経産省の考え方は、同省が確定版の公表にあわせて公表した『「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に係る意見募集の結果について』(以下、経産省の考え方)により明らかにされている。経産省の考え方は全部で141ページとボリュームがあることから、すべてに目を通すことは容易ではない。そこで当フォーラムでは、主な修正箇所や指摘事項を下表のとおりピックアップした(番号は経産省の考え方におけるNo.に対応)。

項目 番号 コメントの内容 経産省の考え方・対応
タイトル 46~48 「サプライチェーンにおける」とのタイトルは、読み手に「本ガイドラインの対象はサプライヤーのみである」とミスリードさせてしまう。 「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」となっていたタイトルを「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(「等」を追加)に変更。
対象範囲 129,134,136,239 「国及び地方公共団体が出資している法人」「金融機関」は、本ガイドラインの対象となるのか。また、「政府自治体自体」も対象とすべき。 「国及び地方公共団体が出資している法人」「金融機関」も本ガイドラインの対象となる。もっとも、本ガイドラインは、企業の自主的な取り組みの促進を目的とするものであるため、政府自治体は対象にしない。
サプライチェーンの定義 141~144 サプライチェーンの定義として、「自社の製品・サービスの原材料や資源、設備やソフトウェアの調達・確保等に関係する「上流」と、自社の製品・サービスの販売・消費等に関係する「下流」を意味する 」とあるが、この定義は、サプライチェーンではなくバリューチェーンの定義ではないか。 例えば、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令案」においてバリューチェーンという文言が用いられていることは承知しているが、他方で、ドイツの「サプライチェーン・デュー・ディリジェンス法」においては、「サプライチェーン」が上流に限定しない形で使用されていると理解しており、「サプライチェーン」が「上流」のみを指すものとして、必ずしも統一的に使用されているわけではないと認識している。よって修正せず。
全体 13,14,15等多数 女性のエンパワーメントやジェンダーについての記述が足りない。

エンパワーメント : 個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出すこと。

女性のエンパワーメント原則」について、本ガイドラインに脚注63を追加。
また、全体的に女性・ジェンダーに関する記述を追加。公開草案では2か所しかなかった「女性」が8か所に増加。また、「ジェンダー」も2か所から6か所に増加。
「負の影響」の範囲 224 国連指導原則17の解説では、「(サプライヤー等の)他者が犯した侵害から利益を得ているとみられる場合など、企業はその当事者の行為に「加担して」いると受け取られる可能性がある、と指摘しているが、この「加担」の概念はきわめて重要であり、「ガイドライン」においても記載する必要がある。
なお、具体例としては、
・人権侵害の発生している企業と取引を行い、あるいは、人権抑圧地域から輸入することによって、結果的に低価格で原料、素材、部品、製品などの供給を受けている場合
・人権抑圧地域で生産を行うことにより、結果的に生産コストが低減されている場合などが想定される。
御意見の趣旨を踏まえ、本ガイドラインに脚注29を追記。
人権方針の承認主体 262 「企業のトップを含む経営陣で承認されていること」について、経営陣とは、執行役員を指すこともあるが、ここは明確に「最上級レベルでの承認」(取締役会での承認)とすべき。 企業の組織構成は様々であることを理由に修正せず。
人権方針と企業行動規範の関係 304,305 人権方針を他の企業行動方針と分離せず、例えば、企業行動規範の一節など、他の手段で人権の方針について表明することでもよいのか。 ガイドラインに脚注41として「人権方針という名称の単独の文書である必要は必ずしもなく、実質的に人権方針の要件を満たす文書でもよいが、人権方針に相当するものであることが対外的に明確な文書であることが望ましい。」を追加。
人権方針と人権DDの順序 313,314 「人権方針の策定に当たっては、まずは、自社が影響を与える可能性のある人権を把握する必要がある」旨が記載されている。この「自社が影響を与える可能性のある人権を把握する」ことは、本ガイドラインにおける人権DDと同じことか。そうだとすると、人権方針策定前に人権DDをすることになるが、それは実務上困難。 「自社が影響を与える可能性のある人権を把握する」ことは、本ガイドラインにおける人権DDは別物であり、人権方針を策定するために必要な範囲において、自社が影響を与える可能性のある人権を検討することを意味している。
Q&A の 5 番において、「人権方針の策定に際して人権DDの実施が求められるわけではない。」と記載済み。
人権専門家 317 「リスクが高いと特定される部分については、人権専門家の意見も聞き、その知見を反映させる」とあるが、「人権専門家」とはどのような立場の人を想定しているのか。例えば、弁護士や社会保険労務士、コンサルタントなど、特定の資格保有者を念頭に置いているのか。 御指摘の例における「専門家」は、特定の資格保有者を念頭に置いているのではなく、「ビジネスと人権」分野に精通した専門家という趣旨で記載していたが、御意見の趣旨を踏まえ「その上で、リスクが高いと特定される部分については、人権専門家の意見も聞き、その知見を反映させる」を「その上で、リスクが高いと特定される部分については、その専門家の意見も聞き、その知見を反映させる。」に修正。
人権方針の従業員向け研修 320~322 自社の従業員に人権方針を周知する際に「研修等の実施」が重要となることを追記すべき。単なる周知だけでは浸透は難しく、ライツホルダーが自身の権利について理解し、問題があった際に活用してもらわなければ意味がないため。

ライツホルダー : 企業が尊重すべき人権の主体

御意見の趣旨を踏まえ、本ガイドライン脚注46を修正。
※修正内容は次の欄参照。
人権方針の周知の必要性 327 注32の、人権方針の「「公開」とは別に「周知」のための手続が必要となるわけではない」との記載は、実務上、適切な記載ではないため、削除すべき。 御意見の趣旨を踏まえ、本ガイドライン脚注46を修正。
(修正前)必ずしも全ての場合において、「公開」とは別に「周知」のための手続が必要となるわけではない。もっとも、例えば、人権への負の影響の深刻度等を踏まえて重要と考えられるステークホルダーに対して、「公開」とは別に「周知」のための行動をとることが適切と考えられる。
(修正後) 例えば、自社の従業員に対して、「公開」とは別に「周知」のための行動(例:研修の実施)をとることが適切と考えられる。ただし、必ずしも全ての場合において、「公開」とは別に「周知」のための手続が必要となるわけではない。
対話対象とするステークホルダー 337 対話対象とするステークホルダーの例に「非正規労働者」を加えるべき。 本ガイドライン4.1項における「従業員」には、契約社員等のいわゆる「非正規労働者」も含まれる。
人権への負の影響の評価 373~376 本ガイドライン4.1.2.2項の「人権への負の影響の評価に当たっては、脆弱な立場に置かれ得る個人、すなわち、社会的に弱い立場に置かれ又は排除されるリスクが高くなり得る集団や民族に属する個人への潜在的な負の影響に特別な注意を払うことが望ましい」の末尾は「特別な注意を払うべきである」に文言を修正すべき。 「特別な注意を払うことが望ましい」を「特別な注意を払うべきである」に修正。
情報開示の内容 534 より具体的な開示内容を明示して欲しい。例えば、人権に関する推進体制、経営層の責任の明記、ガバナンス体制、人権DDの対象・方法・結果、改善状況、苦情処理メカニズムの周知と浸透・活用状況、苦情処理の内容と改善策、人権リスク防止・軽減のための具体的内容等、具体的な目標と状況を定性的・定量的に開示することを検討頂きたい。 本ガイドライン4.4.1.1項において、下記をあくまでも開示「例」として記載。
(開示例)
人権方針を企業全体に定着させるために講じた措置、特定した重大リスク領域、特定した(優先した)重大な負の影響又はリスク、優先順位付けの基準、リスクの防止・軽減のための対応に関する情報、実効性評価に関する情報
情報開示の媒体 536 人権方針について、説明・情報開示を行う媒体の例示として有価証券報告書を推奨してはどうか。 有価証券報告書は、金融商品取引法に定められる法定開示書類であり、本ガイドラインにおいて有価証券報告書において説明・情報開示を行うことを推奨することは適切ではない。

修正を求めるコメントが寄せられたものの、結局修正されなかった部分も多数ある。修正されなかったものの中で、多くの企業関係者から聞かれたのが「消費者としての調達は、本ガイドラインにおける取組範囲ではないとの認識でよいか」(No.138)との疑問だ。企業の調達には、自社の商品等の生産にかかる調達と、自社で使用する一般市販品の調達があるが、例えば、事業運営に使用する車両を自動車販売業者(トヨタや日産など)から一般市販品の調達として購入する場合、自動車販売業者には人権DDを実施する責任があるとしても、果たして一消費者の立場で車両を調達した企業が本ガイドラインの適用対象になるかどうかは悩ましいところだろう。この点について経産省は、「自社の販売品等の生産にかかる調達」及び「自社で使用する一般市販品の調達」のいずれについても本ガイドラインの適用対象になるとの考えを示している。パブコメで求めていた修正が行われなかったことで、人権侵害問題を起こした企業は、例えば一般消費者による製品・サービス等の不買運動などにとどまらず、人権方針を掲げる得意先の企業からも一斉に取引を終了させられるリスクが高まったと言える。ただし、経産省は「全ての取組を直ちに行うことが困難である場合には、優先順位を踏まえ順次対応することになる」旨の考えも示している。一般市販品を調達する側の企業にとっても、それが現実的な対応と言えそうだ。

また、顧客(下流)への人権DDは仕入先(上流)への人権DDよりも難度が高まると言われているが、経産省は、「「上流」「下流」ごとに求められる調査の水準の目安や、実際に顧客に対して調査を行っている好事例などを、本ガイドラインに追加していただきたい」とのコメント(No.149)に対し「貴重な御意見として、今後の検討の参考にさせていただきます」と回答するにとどまっており、「「上流」「下流」ごとに求められる調査の水準の目安」は示さなかった。結局、どこまで人権DDの対象を広げるのかは、企業の判断に委ねられた格好だ。

さらに、「人権問題と国際問題の優先順位」(No.476:ロシアがウクライナに対する軍事侵攻によりウクライナの住民に対してさまざまな人権抑圧を行っているところ、サハリン2の権益を守るために出資企業が事業関与を継続することは人権軽視に当たらないか)や「人権問題とESGの問題の優先順位」(No.432:カーボンニュートラルを推進するために太陽光発電を進めたいが、太陽光発電に必要となる機器や素材の製造は、強制労働が行われているとされる新疆ウイグル自治区に相当依存している)といった問題もある。「人権問題と国際問題の優先順位」について経産省は、「本ガイドラインは、特定の国家を念頭に置いたものではありませんが、一般論としては、本ガイドライン4.2.1.3項のとおり、仮に、国家等の関与の下で人権侵害が行われていたとしても、その地域の拠点の事業活動を行っていることのみをもって、直ちに人権侵害に関係したこととはならず、事業活動の即時停止又は終了が求められるわけではない旨、他方で、関連性について慎重に検討することが必要である旨記載しております。」との考えを示しているが、「人権問題とESGの問題の優先順位」については「貴重な御意見として、今後の検討の参考にさせていただきます。」との回答にとどまっている。

人権問題のすべてをガイドラインで規定するのは実際には困難である以上、最終的には各社が自社なりの優先順位をつけて対応していかざるを得ない。企業には、そのことを認識したうえで、自ら人権侵害のリスクを低減する方策を検討し、結果として経営リスクを回避する努力が求められることになろう。

2022/09/22 人権尊重ガイドラインが確定、一般市販品の調達も対象に

「安く仕入れることができるのであれば多少のことは目をつぶる」という従来の企業の行動様式が本格的に変革を迫られている。米国では強制労働が問題となっている新疆ウイグル自治区からの輸入を原則として禁止する法律(ウイグル禁輸法)が2022年6月に施行され、欧州委員会はこの9月14日、強制労働によって製造された製品のEU市場での流通を禁止することを提案している。欧米のルールは、たとえ自社が強制労働に関わっていなくても、自社が属するサプライチェーンの中で強制労働が行われていれば、自社製品を流通させることができなくなることを意味する。一方、日本では法規制の導入までには至っていないが、9月13日には政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を確定し、公表した。企業が直面している人権問題は、強制労働以外にも児童労働、女性差別や人種差別、劣悪な労働環境、環境汚染など多々存在し、自社だけではなく、自社を含むサプライチェーン全体として問題の解消に取り組まなければならない。その取り組みにあたっての指針となるのが本ガイドラインだ。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関

本ガイドラインは経済産業省に設置された「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」が2022年8月8日に公開草案を公表し、8月29日までパブコメを募集していたもの(公開草案については2022年8月25日のニュース『「ビジネスと人権」、サプライチェーン重視鮮明』参照)。検討およびパブコメの主体が経産省である本ガイドラインが「日本政府」のガイドラインとして公表されたということは、本ガイドラインが、日本政府が国連指導原則(日本語訳はこちら)を踏まえ2020年に策定・公表した「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」の延長上にあり、日本政府によりコミットされたものであることを示している。

国連指導原則 : 2011年に国連の人権理事会で全会一致で支持された文書で、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱から構成される。企業活動における人権尊重の指針として用いられている。

公開草案に対しては、131の団体・事業者・個人から計706個にものぼるコメントが寄せられた。本ガイドラインに対する関心の高さがうかがえる。寄せられたコメント数が多いこともあり、公開草案と確定版を比較すると修正箇所は多岐にわたる。コメントに対する経産省の考え方は、同省が確定版の公表にあわせて公表した『「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に係る意見募集の結果について』(以下、経産省の考え方)により明らかにされている。経産省の考え方は全部で141ページとボリュームがあることから、すべてに目を通すことは容易ではない。そこで当フォーラムでは、主な修正箇所や指摘事項を下表のとおりピックアップした(番号は経産省の考え方におけるNo.に対応)。・・・

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2022/09/21 株式保有割合の小さいアクティビストに存在感

一口にアクティビストと言っても、自社の株式を保有している割合によって企業側の対応も変わってくるのが通常だろう。・・・

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2022/09/21 株式保有割合の小さいアクティビストに存在感(会員限定)

一口にアクティビストと言っても、自社の株式を保有している割合によって企業側の対応も変わってくるのが通常だろう。2022年6月定時株主総会では前年の29社を大幅に上回る77社に対して292議案(前年162議案)の株主提案が行われ、社数、議案数ともに過去最多を記録するなど、“株主アクティビズム”が活発化しているが(2022年7月7日のニュース「株主提案、目に付くCGコードの引用」参照)、企業としては、株主提案を行った株主の株式保有割合は当然気になるはずだ。ただし、たとえ提案した株主の株式保有割合は小さくても、大手機関投資家が追随して株主提案が可決に至るということは起こり得る。実際、従来は株主提案には原則反対するとしていた機関投資家の対応も変わりつつあり、提案の内容が企業価値の向上につながるものであれば賛成する事例も出てきた。特に注意を要するのが、気候変動をはじめとするESG関連の株主提案だ。

2022年6月定時株主総会では、気候変動などESG関連の議案が合計7件あった。発電事業などを営む電源開発株式会社(J-POWER)の株主総会では、フランスの大手資産運用会社アムンディを含む機関投資家3社が、パリ協定に基づく脱炭素化の取り組み強化を求める株主提案を行った。結局、賛成率は26%にとどまり可決には至らなかったが、この株主提案は機関投資家が気候変動対応を求める日本初の事例であり、日本企業の株主総会の将来を示唆しているとも言える。

パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。

既に欧米企業では、株式保有割合が小さいアクティビストによるESG関連の株主提案が可決された事例や、可決には至らなくても、機関投資家の賛同を得て経営陣の方針を変更させた事例が出現している。例えば米国の石油メジャー、エクソン・モービル(Exxon Mobile)の昨年(2021年)6月の株主総会では、創業したばかりの無名のアクティビストファンドである「Engine No.1」が気候変動対策強化を求め、独自の取締役候補の選任を株主提案した。同ファンドのエクソン・モービルに対する株式保有割合はわずか0.02%にすぎなかったが、大株主のブラックロック(BlackRock)、バンガード(Vanguard)、ステートストリート(State Street)の支持を得て、株主提案した取締役候補3人(取締役総数は13人)の選任に成功した。

同じく石油メジャーであるフランスのトタルエナジーズ(Total Energies)は、ロシアによるウクライナ侵攻を受け同業他社がロシアから続々と撤退する中、撤退を躊躇していたところ、ドイツのアクティビストファンドであるClearway Capitalが同社の株式を購入した。Clearway Capitalは、同社との対話を経ても同社がロシアからの撤退を決断しなかったことから、ロシアからの撤退を要求する公開書簡を同社取締役会に送付した。書簡では、同社が対応しない場合には、5月の株主総会で他の機関投資家と合同でロシアからの撤退を求める株主提案を行う旨が記載されていた。その後、機関投資家のイングランド国教会がClearway Capitalの考えに賛同し、ロシアから撤退しない場合は株式を売却する意向を表明したことから、トタルエナジーズはロシアからの撤退を決断し、発表した。書簡送付からわずか10日後のことであった。

このほか、米国の大手ホームセンター、ホームデポ(Home Depot)の2022年5月の株主総会では、米国のアクティビストファンドGreen Century Capital Managementが、サプライチェーンにおける森林破壊防止に関する報告書策定を求める株主提案を行ったところ、他の投資家も、大量の材木を使った商品を販売する同社が適切な森林破壊対策をとらないことはレピュテーションリスクを高めるとしてこの株主提案に賛同し、65%の支持を得た。また、同株主総会では、労働組合から人種間の平等に関する監査報告を求める提案もなされ、こちらも63%の株主の支持を得た。株主総会前は両提案に反対票を投じるよう株主に呼びかけていた同社だが、株主総会後は「当社取締役会は株主の支持を考慮し、今後適切な行動を取る」とのコメントを出している。

上記で紹介したようなアクティビストファンドは、金銭的な利益だけでなく社会的利益の獲得を目的としており、株式保有割合が小さいという弱点をカバーするため、メディアを活用して世論を喚起し、結果的に機関投資家を上手く巻き込み自らの要求を実現させている。その前段階では、社会的な影響が大きいESG分野で問題を抱える企業を丹念な調査により選び出している。企業としては、まずはこうしたアクティビストファンドのターゲットにならないよう、自社にESG関連の問題がないかを検証し、問題があれば自ら積極的に解決を図ることが重要になってくる。それでも彼らがエンゲージメントを求めて来た場合には真摯に対応する必要がある。彼らの多くは、株主提案を、自らの要求が対話で実現できなかった場合の“最終手段”と位置付けている。企業にとっては、株主提案が可決されるよりは対話で合意した方が、例えば時間的猶予を得られるなど有利な結果となる可能性が高い。

もっとも、このところ米国では、政界においてESG否定派が広がりを見せており、ESG投資を牽引してきたブラックロックも難しい舵取りを迫られている(2022年9月2日のニュース「ESG積極派と否定派の間で揺れるブラックロック」参照)。実際、ブラックロックが米国におけるESG関連の株主提案に賛成した割合は、2021年の43%に対し、2022年は24%とほぼ半減している。ESGを巡る株主アクティビズムそのものの行方も注目されるところだ。

2022/09/20 招集通知における取締役に関する開示、「建設的な対話」実現には道半ば

コーポレートガバナンス・コードは「株主の権利・平等性の確保」について定めた第1章において、株主の視点に立って株主総会における権利行使に係る環境整備を行うべき(原則1-2)としたうえで、その一環として、株主総会において株主が適切な判断をするための必要な情報を適確に開示すべき(補充原則1-2①)としている。端的に言えば、「株主総会招集通知に記載する議案は、投資家が議決権行使に係る判断をしやすいよう、投資家が期待する記載方法で開示されるべき」ということになろう。

【原則1-2.株主総会における権利行使】
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。
補充原則1-2① 
上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきである。

そこで当フォーラムでは、TOPIX100構成企業の招集通知(2022年6月末時点)における取締役選任議案を対象に、近年、機関投資家が議決権行使基準を設定しているテーマが“一目で判断できる書き方”で説明されているか否かを調査した。以下、その調査結果をレポートする。・・・

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2022/09/20 招集通知における取締役に関する開示、「建設的な対話」実現には道半ば(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードは「株主の権利・平等性の確保」について定めた第1章において、株主の視点に立って株主総会における権利行使に係る環境整備を行うべき(原則1-2)としたうえで、その一環として、株主総会において株主が適切な判断をするための必要な情報を適確に開示すべき(補充原則1-2①)としている。端的に言えば、「株主総会招集通知に記載する議案は、投資家が議決権行使に係る判断をしやすいよう、投資家が期待する記載方法で開示されるべき」ということになろう。

【原則1-2.株主総会における権利行使】
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。
補充原則1-2① 
上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきである。

そこで当フォーラムでは、TOPIX100構成企業の招集通知(2022年6月末時点)における取締役選任議案を対象に、近年、機関投資家が議決権行使基準を設定しているテーマが“一目で判断できる書き方”で説明されているか否かを調査した。以下、その調査結果をレポートする。

① 取締役会への出席率
機関投資家の議決権行使基準においては、75%や85%といった閾値が設定されている。したがって、招集通知においても、回数のみならず「割合(出席率)」を示すことが望ましい。出席率を記載したのは100社中65社と、約3分の2に達している。記載方法としては、候補者の一覧表に「取締役会への出席状況」という項目を設けたケース(野村ホールディングスなど)や、各候補者で取締役会への出席率を示したケース(アステラス製薬など)が見られた。

② 取締役としての在任年数
最近比較的増加している議決権行使基準であり、10年または12年を上限に設定しているケースが多い。TOPIX100構成企業のうち58社、約6割で在任年数の記載が確認された。記載方法は、①の出席率と同様、一覧表で示す事例(SMCなど)、各候補者欄で示す事例(アサヒグループホールディングスなど)のほか、スキル・マトリックスの中で示す事例(Zホールディングスなど)も見られた。

③ 取締役候補者の性別
取締役会のメンバーに女性が含まれていない場合、経営トップなどの選任議案に反対するとの議決権行使基準を導入する機関投資家が増えている。その一方で、男女の別もしくは女性である旨を明示している事例は、TOPIX100構成企業全体の30%、3分の1未満にとどまった。その理由としては、写真を見れば分かる、ジェンダー多様性は男女にとどまらない、そもそも取締役会に女性がいない、など様々なものが考えられるものの、コーポレートガバナンス・コード原則1-2や補充原則1-2①が求めるように、残り3分の2超の企業が「株主の視点に立って」「適確に」開示を行っているかと問われれば疑問がある。開示の方法としては、候補者の一覧表に「性別」という欄を設け男女の別を示した事例(パナソニックなど)、女性について“フラグ”を付した事例(ダイキン工業など)、各候補者欄で男女の別を示した事例(スズキなど)、スキル・マトリックスの「属性」欄の1項目とした事例(花王など)、などが確認された。

④ 上場会社役員の兼職数
社外取締役が期待される役割を果たすため、兼職数を一定の範囲内にとどめることを求める議決権行使基準も散見される。しかし、TOPIX100構成企業各社の招集通知を見ると、「重要な兼職の状況」として兼職先を羅列はしているものの、具体的に「何社」兼職しているかを「数字」で明確に示している事例は8社と、全体の1割にも満たない。ベストプラクティスとしては、候補者の一覧表に「他上場会社役員の兼職数」を「業務執行」と「非業務執行」に分けて記載しているENEOSホールディングス、各候補者欄に「上場会社の兼職数」という項目を設けて社数を記載しているりそなホールディングス、などが挙げられる。

なお、上記①~④を全て満たしていた事例は、TOPIX100構成企業のうちわずか2社にすぎなかった。逆に、①~④を全て満たしていなかった事例は12社と、全体の1割を超えている。プライム市場上場企業には「投資者との建設的な対話を中心に」据えることが求められている(プライム市場のコンセプトはこちらを参照)ことを考えると、情報開示においては未だ改善の余地が大きいと言えそうだ。