一口にアクティビストと言っても、自社の株式を保有している割合によって企業側の対応も変わってくるのが通常だろう。2022年6月定時株主総会では前年の29社を大幅に上回る77社に対して292議案(前年162議案)の株主提案が行われ、社数、議案数ともに過去最多を記録するなど、“株主アクティビズム”が活発化しているが(2022年7月7日のニュース「株主提案、目に付くCGコードの引用」参照)、企業としては、株主提案を行った株主の株式保有割合は当然気になるはずだ。ただし、たとえ提案した株主の株式保有割合は小さくても、大手機関投資家が追随して株主提案が可決に至るということは起こり得る。実際、従来は株主提案には原則反対するとしていた機関投資家の対応も変わりつつあり、提案の内容が企業価値の向上につながるものであれば賛成する事例も出てきた。特に注意を要するのが、気候変動をはじめとするESG関連の株主提案だ。
2022年6月定時株主総会では、気候変動などESG関連の議案が合計7件あった。発電事業などを営む電源開発株式会社(J-POWER)の株主総会では、フランスの大手資産運用会社アムンディを含む機関投資家3社が、パリ協定に基づく脱炭素化の取り組み強化を求める株主提案を行った。結局、賛成率は26%にとどまり可決には至らなかったが、この株主提案は機関投資家が気候変動対応を求める日本初の事例であり、日本企業の株主総会の将来を示唆しているとも言える。
パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。
既に欧米企業では、株式保有割合が小さいアクティビストによるESG関連の株主提案が可決された事例や、可決には至らなくても、機関投資家の賛同を得て経営陣の方針を変更させた事例が出現している。例えば米国の石油メジャー、エクソン・モービル(Exxon Mobile)の昨年(2021年)6月の株主総会では、創業したばかりの無名のアクティビストファンドである「Engine No.1」が気候変動対策強化を求め、独自の取締役候補の選任を株主提案した。同ファンドのエクソン・モービルに対する株式保有割合はわずか0.02%にすぎなかったが、大株主のブラックロック(BlackRock)、バンガード(Vanguard)、ステートストリート(State Street)の支持を得て、株主提案した取締役候補3人(取締役総数は13人)の選任に成功した。
同じく石油メジャーであるフランスのトタルエナジーズ(Total Energies)は、ロシアによるウクライナ侵攻を受け同業他社がロシアから続々と撤退する中、撤退を躊躇していたところ、ドイツのアクティビストファンドであるClearway Capitalが同社の株式を購入した。Clearway Capitalは、同社との対話を経ても同社がロシアからの撤退を決断しなかったことから、ロシアからの撤退を要求する公開書簡を同社取締役会に送付した。書簡では、同社が対応しない場合には、5月の株主総会で他の機関投資家と合同でロシアからの撤退を求める株主提案を行う旨が記載されていた。その後、機関投資家のイングランド国教会がClearway Capitalの考えに賛同し、ロシアから撤退しない場合は株式を売却する意向を表明したことから、トタルエナジーズはロシアからの撤退を決断し、発表した。書簡送付からわずか10日後のことであった。
このほか、米国の大手ホームセンター、ホームデポ(Home Depot)の2022年5月の株主総会では、米国のアクティビストファンドGreen Century Capital Managementが、サプライチェーンにおける森林破壊防止に関する報告書策定を求める株主提案を行ったところ、他の投資家も、大量の材木を使った商品を販売する同社が適切な森林破壊対策をとらないことはレピュテーションリスクを高めるとしてこの株主提案に賛同し、65%の支持を得た。また、同株主総会では、労働組合から人種間の平等に関する監査報告を求める提案もなされ、こちらも63%の株主の支持を得た。株主総会前は両提案に反対票を投じるよう株主に呼びかけていた同社だが、株主総会後は「当社取締役会は株主の支持を考慮し、今後適切な行動を取る」とのコメントを出している。
上記で紹介したようなアクティビストファンドは、金銭的な利益だけでなく社会的利益の獲得を目的としており、株式保有割合が小さいという弱点をカバーするため、メディアを活用して世論を喚起し、結果的に機関投資家を上手く巻き込み自らの要求を実現させている。その前段階では、社会的な影響が大きいESG分野で問題を抱える企業を丹念な調査により選び出している。企業としては、まずはこうしたアクティビストファンドのターゲットにならないよう、自社にESG関連の問題がないかを検証し、問題があれば自ら積極的に解決を図ることが重要になってくる。それでも彼らがエンゲージメントを求めて来た場合には真摯に対応する必要がある。彼らの多くは、株主提案を、自らの要求が対話で実現できなかった場合の“最終手段”と位置付けている。企業にとっては、株主提案が可決されるよりは対話で合意した方が、例えば時間的猶予を得られるなど有利な結果となる可能性が高い。
もっとも、このところ米国では、政界においてESG否定派が広がりを見せており、ESG投資を牽引してきたブラックロックも難しい舵取りを迫られている(2022年9月2日のニュース「ESG積極派と否定派の間で揺れるブラックロック」参照)。実際、ブラックロックが米国におけるESG関連の株主提案に賛成した割合は、2021年の43%に対し、2022年は24%とほぼ半減している。ESGを巡る株主アクティビズムそのものの行方も注目されるところだ。