日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創
株主総会において会社提案議案の賛成率が低位に留まった場合、反対行使の主体となっているのは国内外の機関投資家であることが一般的です。したがって、「反対票が多くなった原因の分析」(コーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①)を行うにあたっては、機関投資家の議決権行使基準や議決権行使助言会社の助言ポリシーを理解する必要があると言えます。
本稿では、主な総会議案として剰余金処分、定款変更、役員選任(社内/社外)、役員報酬を取り上げ、本年6月総会の動向も踏まえつつ、機関投資家の主な反対行使の理由について解説します。
剰余金処分議案
| 想定される主な反対理由 ・配当性向/総還元性向が低い ・より高い配当水準を要求されるキャッシュリッチ企業に該当 ・計算書類の監査が未了である |
総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
機関投資家が剰余金処分議案について反対行使を行う場合の理由として最も多いのが、配当性向や総還元性向が低いというものです。国内機関投資家の場合、25%や30%などが閾値となっている場合が多いようです。さらに、いわゆるキャッシュリッチ企業とみなされた場合、より高い水準を求められることがあります。例えば、りそなアセットマネジメントは、ROEが5%未満かつネットキャッシュが25%以上で総還元性向が50%を下回る場合、合理的な説明がなければ反対行使するとしています。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
一方、海外機関投資家が参照することの多い議決権行使助言会社ISSの助言ポリシーでは、配当性向が「15%から100%」の場合には原則賛成推奨するとされています。したがって、一般的には海外機関投資家よりも国内機関投資家からの反対が集まりやすいと言えそうです。
もっとも、仮に反対多数により剰余金処分議案が否決された場合、その決算期は「無配」となってしまいます。そこで機関投資家側も、議案が可決されることを前提に、「配当水準への不満」を表明するというスタンスで反対行使を行っているものとみられます。
なお、本年の剰余金処分議案で最も賛成率が低かったのは大東建託の議案(71.33%)でした(6月に開催されたプライム市場上場会社の定時株主総会に付議された会社提案議案を調査対象とする。以下同)。同社は、決算手続きや監査の遅れに伴い、決算報告を7月開催の継続会で行うとしたうえで、剰余金処分議案については6月の総会に付議しましたが、計算書類の監査が未了であることを理由とした反対が一定程度あったものと考えられます。
継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
定款変更議案
| (反対の多い定款変更の内容) ・剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の変更 ・バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の変更 ・会計監査人の責任免除の取締役会授権/責任限定契約の締結を可能とする旨の変更 |
バーチャルオンリー型株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
授権 : 株式会社の最高意思決定機関である株主総会が、他の機関(取締役会や代表取締役等)に権限を授けること。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
本年の定款変更議案の平均賛成率は98.5%であり、前年比で0.8ポイント上昇しました。ほとんどの会社で株主総会招集通知の電子提供制度に対応するための定款変更議案(*)が上程され、これに対する反対がほとんどなかったことが要因と考えられます。
一方、昨年に続きバーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の定款変更議案(*)については、賛成率が低いケースが目に付きます。ISSが、感染症拡大や天災地変の発生時に限定する場合を除いて、バーチャルオンリー型株主総会の開催には原則として反対するスタンスをとっていることもあり、主に海外機関投資家からの反対が集まったものと考えられます。また、剰余金の配当等の決議を株主総会で行っている会社が、これを取締役会に変更(授権)する旨の定款変更についても、ISSの反対推奨を受けて低賛成率となるケースが多いようです。
なお、本年、ユニデンホールディングスが付議した会計監査人の責任免除の決議を取締役会に授権し、かつ責任限定契約の締結を可能とする旨の定款変更議案は、賛成率49.1%で否決されています。ISSの反対推奨に加えて、「株主価値向上又はガバナンス強化に対する効果が確認されない」として反対した野村アセットマネジメントなど、国内機関投資家からも一定の反対行使がなされたものとみられます。
役員選任議案(社内役員)
| (想定される主な反対理由) ・不祥事、株主価値毀損行為 ・業績基準への抵触 ・取締役会に占める独立役員の割合が小さい ・女性役員の不在 ・政策保有株式が多い |
本年否決された役員選任議案としては、Fast Fitness Japanの議案が挙げられます。もっとも、本件はオーナー株主による反対の影響が大きかったと報じられており、機関投資家から多くの反対を集めた事例とはいえないようです。本件を除いた場合、社内取締役の選任議案として最も賛成率が低かったのは、三菱電機の社長選任議案でした(58.5%)。品質不正問題を受け、多くの機関投資家が反対行使をしたものとみられます。
取締役選任議案に対する典型的な反対理由としては業績基準が挙げられます。同基準の指標にはROEが用いられることがほとんどであり、有名なものとしてはISSのROE基準(過去5年間の平均ROEが5%未満で直近も5%を下回る場合、経営トップ(社長、会長)の選任に反対推奨する)がありますが、新型コロナウイルス感染症拡大以降、同基準の適用は停止されています。一方、本年はほとんどの国内機関投資家が、それぞれのROE基準に抵触した場合は反対行使を行ったようです。ISSとの比較では、①過去3年のROEを見て判断することが多い、②絶対値による基準(「5%未満」など)よりも上場企業あるいはセクター内での相対的な基準(「プライム市場上場企業の中でROEが下位1/3内」など)を用いることが多い、③反対の対象を経営トップに限らない(「3年以上在任の取締役」など)ことが多い、といった特徴がみられます。
取締役会の構成が反対理由となることもあります。多くの機関投資家は、取締役会に占める独立役員の割合として「1/3以上」を求めています。ただし、この「1/3以上」の分子には、社外取締役の人数を用いる場合もあれば、(その機関投資家が認める)独立社外取締役の人数とする場合もある点、注意が必要です。さらに一部の機関投資家は、女性取締役が不在の場合、経営トップの選任議案に反対するなどの基準を設定しています。
また本年は、政策保有株式が経営トップの選任議案の賛成率の低下要因となる事例が目に付きました。ISSが、「政策保有株式の金額が純資産の20%以上の場合に経営トップに反対推奨する」との基準の適用を開始した影響が大きかったとみられます。また、国内機関投資家でも、例えばアセットマネジメントOne(政策保有株式の金額が純資産比率で50%以上、または総資産比率20%以上を占める場合、代表取締役の選任議案に反対)など、6月の総会シーズン前に政策保有株式に関する議決権行使基準の導入が相次ぎました。
役員選任議案(社外役員)
| (想定される主な反対理由) ・取引先や大株主出身者である ・在任期間が長い ・取締役会への出席率が低い ・兼職数が多い |
社外役員の選任議案に対しては、独立性の観点から反対を受けたと見られる事例が多く確認されます。本年の社外役員選任議案では、前述のFast Fitness Japanを除外すると、大株主かつ取引先出身者を監査等委員である社外取締役に選任したSREホールディングスの議案が最も低い賛成率となりました(57.3%)。
社外役員候補者が独立性を有するか否かの判断基準は投資家により様々ですが、国内機関投資家は東証の独立役員届書を考慮することが多いため、独立役員としての届出あるいは届出の予定を確認できない候補者の賛成率が低位に留まる事例が散見されます。
独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
また、本年は、長期在任の社外役員の選任議案への賛成率が大きく低下する事例も増えています。これは、長期在任の社外役員の独立性を否認するとの基準を導入する機関投資家が増えていることによるものです。特に在任期間が12年を超えるような候補者の再任議案には多くの反対が集まっています。
その他の反対理由としては、取締役会への出席率(75%未満で反対等)や過度な兼職数(5社以上の兼職で反対等)などが挙げられます。
役員報酬議案
| (想定される主な反対理由) ・業績連動型報酬等の対象者に社外取締役や監査役が含まれる ・譲渡制限期間/権利行使待機期間が短いまたは不明 ・希薄化が大きい |
希薄化 : 1株当たりの価値が下がること。「希釈化」と同義。希薄化率は「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存か部主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
本年最も賛成率が低かった議案は、スクウェア・エニックス・ホールディングスの譲渡制限付株式報酬制度に係る報酬額の改定議案でした(60.3%)。本議案においては制度の対象者に社外取締役が含まれていることが、多くの投資家の反対要因になったようです。社外取締役に期待される役割は、経営の監督・監視であるとの考え方が背景にあるとみられます。ただし、こうした考え方は必ずしも投資家共通のものではなく、例えば三菱UFJ信託銀行は、昨年4月の行使基準改定に際して、「中長期的な企業価値向上の観点から各取締役の役割に応じた役員報酬体系を考える上で、社外取締役への株式報酬付与も選択肢の一つとして検討することは、より取締役会の実効性が高まる」として、社外取締役に対するストック・オプションや株主報酬の付与を認める方針に転じています。
譲渡制限付株式報酬 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
付与対象者以外にも報酬議案に対する議決権行使判断のポイントは様々なものがありますが、本年は報酬の付与から権利行使可能となるまでの期間が反対要因となる事例が確認されました。具体的には、譲渡制限期間の決定を取締役会に委ねている譲渡制限付株式報酬を付与する議案や、株主総会から2か月後に一定の株式が交付される設計となっている業績連動型株式報酬制度を付与する議案などの賛成率が低位に留まっています。
業績連動型株式報酬 : 中長期的な“業績目標等の達成度合い”に応じて交付される株式報酬。株式交付のタイミングによって、事前交付型(パフォーマンス・シェア)と事後交付型(パフォーマンス・シェア・ユニット)に分けられる。事前交付型は、取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行うが、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。事後交付型は、取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
また株式報酬やストック・オプションについては、その希薄化率が大きいとして反対票を集めるケースが散見されます。希薄化の閾値は様々ですが、「5%〜10%」の間に設定されていることが多いようです。
機関投資家による反対理由の開示
本稿で紹介した内容以外にも、投資家の議案に対する「反対理由」は多岐にわたることから、これをすべて分析するのは簡単なことではありません。一方、足元では投資家側の開示も充実してきており、大手機関投資家を中心に、議決権行使結果の個別開示において、企業毎・議案毎の賛否とともに反対理由を開示する例も増えてきています。本年6月総会に係る開示は、主要国内機関投資家については既に概ね出揃っているようです。自社の大株主である投資家を中心に、議決権行使結果の個別開示の内容を確認することも、「反対票が多くなった原因の分析」の一助となると言えるでしょう。

