2022/07/20 “新しい資本主義”により、スタートアップ投資の成否を判断する時期に変化が生じる可能性も(会員限定)

米国のように画期的な技術や斬新なビジネスモデルを持った企業が長年現れていないことが、日本経済の低成長、長期低迷の大きな要因と言われている。実際、日本企業におけるエスタブリッシュメントの顔ぶれは30年前と大差がない。この点は当然政府も認識しており、岸田内閣が(2022年)6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」においても、副題をはじめ、「スタートアップ」という言葉が60か所以上登場する。

その一つが、「3.スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進(1)スタートアップ育成5か年計画の策定」(17ページ参照)にある下記の記述である。

⑧事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備
ディープテックなど事業化まで時間を要するスタートアップや、グローバル展開を含め長期間をかけて大きな成長を目指すスタートアップを後押しするため、ストックオプション等の環境整備について検討する。

ここで注目されるのが、「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」との表現だ。「ストックオプション等の環境整備」が現行の税制適格ストックオプション制度の見直しを想定していることは容易に想像がつく。そして、「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」といった表現からは、政府が現行の税制適格ストックオプション制度が定めているストックオプションの「権利行使期間」の制限の緩和を視野に入れていることがうかがえる。

税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。

現行税制適格ストックオプション制度上の権利行使期間は「付与決議日後、2年を経過した日から10年を経過する日まで」とされているが、グローバルで通用する新たな企業を育てるには10年間では短すぎるとの指摘がある。「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」といった表現はこうした問題意識を受けたものであり、次の税制改正(令和5年(2023)度税制改正。例年どおり、今年12月中旬頃に改正内容の大枠が決定)では、税制適格ストックオプションの権利行使期間の上限である「10年間」の延長が議論されることが予想される。

スタートアップの育成は、既存の上場企業にとっても大きな課題となっており、CVCを使ったスタートアップ投資を実施している上場企業も少なくないが、短期間で投資の成否を判断するべきでないという点は、“新しい資本主義”と軌を一にするはずだ。税制適格ストックオプションの権利行使期間の新たな上限は、投資先の事業の推進・撤退を判断する上での目安となっていく可能性もあろう。

CVC : 投資を本業としない事業会社が自己資金をベンチャー企業に投資すること(又はその組織)。CVCは社内の投資部門や子会社が運営するか、外部のVC(Venture Capital=ベンチャーキャピタル)に運営を委託することが多い。CVCもVCもベンチャー企業に投資を行うという点では同じだが、VCが投資先の将来的な上場によるキャピタルゲインを得ることを目的としているのに対し、CVCは自社とシナジーのあるベンチャー企業に投資し、協業等により本業の成長や拡大を目的としている点、大きく異なる。

2022/07/19 株主提案自体は否決されるも、提案内容の相当部分が実現

日本では、令和4年度(2022年度)税制改正で賃上げ税制が導入されたほか(賃上げ税制については2022年3月28日のニュース「“賃上げ宣言”には何を書く?」および同ニュースで引用されているニュース参照)、有価証券報告書において人的資本投資に関する開示が強化されるなど(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」13ページ~参照)、政府主導で企業に賃上げのプレッシャーがかかっているが、株主提案がきっかけとなり・・・

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2022/07/19 株主提案自体は否決されるも、提案内容の相当部分が実現(会員限定)

日本では、令和4年度(2022年度)税制改正で賃上げ税制が導入されたほか(賃上げ税制については2022年3月28日のニュース「“賃上げ宣言”には何を書く?」および同ニュースで引用されているニュース参照)、有価証券報告書において人的資本投資に関する開示が強化されるなど(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」13ページ~参照)、政府主導で企業に賃上げのプレッシャーがかかっているが、株主提案がきっかけとなり賃上げが実現するという事例が英国で出現した。

責任投資を推進する英国の NGO(非政府組織)である ShareAction は、英国大手スーパーマーケットチェーンの Sainsbury’s に対して、直接雇用の従業員に加え、清掃業務の委託先など下請け企業を含む全従業員に、今後「生活賃金(Living wage)」を支払うよう株主提案を行った。Living wage とは、最低限の生活を維持できる水準の賃金のこと。英国の法定最低賃金は9.5ポンド(本日現在、1ポンド=約165円)とされているが、Living wage はこれより高い9.9ポンド(ロンドンは11.05ポンド)に設定されている。

この株主提案に対し、Sainsbury’s の取締役会は反対を表明。その理由として、Living wage の支払いを約束すれば、今後、会社の業績や株主の意向に関係なく従業員の賃金が決まってしまうこと、急激な物価上昇の中、安価な商品を消費者に提供することを優先すべきと判断したことを挙げている。また、下請け企業の従業員については、雇用者ではないため Living wage は保障できないとした。

株主総会における機関投資家の議決権行使は、Aviva InvestorsLGIM、英国大手銀行 HSBC が賛成票を投じた一方、Sainsbury’s の大株主である英国の資産運用会社の Schroders は反対に回った。この結果、7月7日に開催された株主総会では当該株主提案は約 17%の支持しか得られず、否決された。

Aviva Investors : 英保険大手 AVIVA の運用子会社
LGIM : Legal & General Investment Management の略称で、欧州でも有数の規模を誇る英国の大手保険グループ Legal & General Group の一員であるグローバル機関投資家

しかし、Sainsbury’s は株主提案の前の段階で NGO や機関投資家との対話を経て、今年4月に直接雇用する従業員が Living wage を受け取れるよう、大幅な給与改善を行っていた。同社の大株主の Schroders も、株主提案に反対した理由として、スーパーマーケット業界が厳しい価格競争下にあるにもかかわらず、Sainsbury’s が既に4月に賃金改善を行ったことを挙げている(このほか、株主提案が求める賃上げが同社の事業や株主に与える影響を考慮したとしている)。

2022年7月7日のニュース「株主提案、目に付くCGコードの引用」でお伝えしたとおり、我が国における2022年6月定時株主総会では前年の29社を大幅に上回る77社に対して292議案(前年162議案)の株主提案が行われ、社数、議案数ともに過去最多を記録したが、その中でもガバナンス関連の株主提案数がトップとなった。米国の ESG 推進団体 Sustainable Investments Institute によると、2022年における ESG 関連の株主提案数は、米国で過去最高の件数を記録している。英国でも同様の傾向にある。

現状、否決されることが多い株主提案だが、今回の Sainsbury’s の事例のように、株主提案自体は低い賛成率で否決されたものの、株主提案をきっかけに会社と投資家等との対話が行われ、結果として直接雇用する従業員の賃金改善という大きな成果を残している。ShareAction は、業界全体が Living wage を達成できていないとして、業界の改革のため、今回と同様の株主提案を他の大手スーパーマーケットに対しても行う構えを見せている。今後は日本でも、株主総会の前段階で株主提案が投資家との対話の材料となり、株主総会での賛否の如何にかかわらず、上場会社が提案内容の一定程度を受け入れるといった事例が出て来る可能性は十分にあろう。

2022/07/15 女性活躍推進法の改正省令・告示が施行、有報における開示との関係と現行有報での開示状況

2022年7月5日のニュース「7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声」でお伝えしていたとおり、厚生労働省は2022年7月8日に女性活躍推進法の省令および告示を改正し、同日施行した(厚生労働省のリリースはこちら)。今回の改正で、女性の活躍に関する「情報公表」項目(下表の左欄)に「男女の賃金の差異」が追加され、常用労働者301人以上の企業は、直近の男女の賃金の差異の実績を公表することが義務化された。具体的には、2022年7月8日以降に終了する事業年度の次の事業年度の開始日から「おおむね3か月以内」に、直近の事業年度の男女の賃金の差異の実績を公表することが義務付けられる。例えば事業年度が4月~3月の場合、2022年4月~2023年3月の実績を、おおむね2023年6月末までに公表することとなる。

常用労働者 : 正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く)

公表が求められる具体的な項目は下表のとおり。・・・

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2022/07/15 女性活躍推進法の改正省令・告示が施行、有報における開示との関係と現行有報での開示状況(会員限定)

2022年7月5日のニュース「7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声」でお伝えしていたとおり、厚生労働省は2022年7月8日に女性活躍推進法の省令および告示を改正し、同日施行した(厚生労働省のリリースはこちら)。今回の改正で、女性の活躍に関する「情報公表」項目(下表の左欄)に「男女の賃金の差異」が追加され、常用労働者301人以上の企業は、直近の男女の賃金の差異の実績を公表することが義務化された。具体的には、2022年7月8日以降に終了する事業年度の次の事業年度の開始日から「おおむね3か月以内」に、直近の事業年度の男女の賃金の差異の実績を公表することが義務付けられる。例えば事業年度が4月~3月の場合、2022年4月~2023年3月の実績を、おおむね2023年6月末までに公表することとなる。

常用労働者 : 正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く)

公表が求められる具体的な項目は下表のとおり。常用労働者301人以上の企業は、左欄の「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」の①~⑧の8項目の中から1項目(選択)、⑨の男女の賃金の差異(必須)、右欄の「職業生活と家庭生活との両立」の7項目の中から1項目(選択)を公表しなければならない。

(注)常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主は、上記16項目から任意の1項目以上の公表が必要。
「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」
以下の①~⑧の8項目から1項目選択、⑨の項目(*新設)は必須
「職業生活と家庭生活との両立」
以下の7項目から1項目選択
①採用した労働者に占める女性労働者の割合
②男女別の採用における競争倍率
③労働者に占める女性労働者の割合
④係長級にある者に占める女性労働者の割合
⑤管理職に占める女性労働者の割合
⑥役員に占める女性の割合
⑦男女別の職種または雇用形態の転換実績
⑧男女別の再雇用または中途採用の実績
⑨男女の賃金の差異(必須) ①男女の平均継続勤務年数の差異
②10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
③男女別の育児休業取得率
④労働者の一月当たりの平均残業時間
⑤雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
⑥有給休暇取得率
⑦雇用管理区分ごとの有休休暇取得率

⑨男女の賃金の差異の公表イメージは以下のとおり。

(出典:厚生労働省公表資料)
63654

一方、2022年6月13日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、DWG報告)に明記されたように、有価証券報告書では、【従業員の状況】に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの記載項目が追加されることとなった。

上表のとおり、女性活躍推進法では「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」は“選択項目”の一つとされ、開示必須項目とはなっていない。また、育児・介護休業法では、「従業員数1,000人超の企業」は年1回、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」公表することが義務付けられるが(2023年4月1日~)、「従業員数1,000人以下」の企業には公表が義務付けられない。

そこでDWG報告では、上記3項目のうち「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」については、「女性活躍推進法、育児・介護休業法等他の法律の枠組みで上記項目の公表を行っていない企業についても、有価証券報告書で開示することが望ましい。開示する際には、投資判断に有用である連結ベースでの開示に努めるべきであるが、最低限、提出会社及び連結会社において、女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業は有価証券報告書においても開示することとすべきである。」とされた。すなわち、有価証券報告書で「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」を開示するか否は、女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づき公表を行っているか否かで判断されるということであり、企業の事務負担に配慮した形となった(2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」参照)。

有価証券報告書の【従業員の状況】で「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3項目の開示が義務化されるのは最短で2023年3月期からとなる。当フォーラムが2021年および2022年3月期の有価証券報告書で上記3項目を開示している企業を調査したところ、「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」については【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】で開示している企業が少数見られたが、【従業員の状況】で開示している企業はなかった。「男女間賃金格差」については【従業員の状況】で開示している会社が1社確認されたのみだった。上記3項目に加え気候変動情報など他の非財務情報の開示義務化以降は、各社の有価証券報告書の内容は一変することになろう。

(注)目標、実績、又はその両方の開示
項目 決算期 開示場所
2021年3月期 2022年3月期
女性管理職比率(注) 15社 36社 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
男性の育児休業取得率(注) 3社 7社 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
男女間賃金格差 1社 【従業員の状況】
【参考開示事例 その1】 ㈱HCSホールディングス 2022年3月期
63654a
【参考開示事例 その2】 ㈱コメリ 2022年3月期
(注)男性平均年間給与比は、男性の平均年間給与に対する女性の平均年間給与の割合として計算されている。
63654b

2022/07/14 ESG 評価の適正化のために上場企業が今すぐ取り組むべきこと

2022年7月12日のニュース「日本に影響も 米国で揺らぐESG投資」でお伝えしたとおり、米国でESGファンドへの懐疑的な見方が強まる中、日本ではESG 評価・データ提供機関に対する新たな規律付けの枠組みが明らかになった。この枠組みは、・・・

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2022/07/14 ESG 評価の適正化のために上場企業が今すぐ取り組むべきこと(会員限定)

2022年7月12日のニュース「日本に影響も 米国で揺らぐESG投資」でお伝えしたとおり、米国でESGファンドへの懐疑的な見方が強まる中、日本ではESG 評価・データ提供機関に対する新たな規律付けの枠組みが明らかになった。この枠組みは、金融庁に設置されたESG 評価・データ提供機関等に係る専門分科会(座長:北川哲雄 青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授)が今年2月から検討を重ねてきたもので、7月12日に「ESG 評価・データ提供機関に係る行動規範(案)」としてとりまとめられた。同行動規範案は9月5日までパブリックコメントに付される。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立している。

同行動規範案では、企業のESGに関する取り組み状況、グリーンボンド等の ESG関連債や ESG に関連した融資の適格性などについて情報を収集・提供し、評価を行う「ESG 評価・データ提供機関」の行動規範が示されている。この行動規範では、ESG 評価機関・データ提供機関が「コンプライorエクスプレイン」すべき6つの原則が示されている。これらの原則の詳細は2022年6月27日のニュース「ESG評価・データ提供機関の行動規範、コンプライorエクスプレイン方式に」でお伝えしたとおりだが、それ以外の部分で注目されるのが、同行動規範案の末尾に記載されている「企業への提言」だ。

「企業への提言」は、ESG 評価機関・データ提供機関を規律するための行動規範とは異なり、ESG 評価・データの対象となる上場企業に「コンプライorエクスプレイン」を求めるものではなく、純粋な提言となっているが、下記のとおり自社のESG 評価の適正化を図るための“心得”が示されており、上場企業の役員としては目を通しておきたい内容となっている。

具体的な提言
1.企業は、自らの ESG 関連の情報について、リスクと機会双方の観点から、企業全体としての重要事項を整理し、市場関係者が確認し易い形で提供するなど、わかり易く整理し開示すべきである。また、適切な体制の下で、開示するESG 情報の品質を確保するべきである
2.企業は、ウェブサイトや出版物において、開示する内容について、更新日等の時期に係る情報を明らかにすべきである
3.企業は、ESG 評価・データ提供機関からの企業の戦略・方針等に関する問合せに対応する窓口を開示すべきである
4.企業は、ESG 評価・データ提供機関への対応を行う担当者に、業務遂行上、当然に必要となる ESG 課題に関する知識を身に付ける機会を十分に提供すべきである。さらに、ESG に関連した事項に専門的知見を有する人材の育成を行うべきである
5.企業は、ESG 評価・データ提供機関や投資家との間で、評価の質の改善に向けて、円滑かつ積極的にコミュニケーションを行うべきである。特に、評価機関等が明らかにしている方針に照らして評価等に課題がある場合には建設的な対話を通じ、改善を働きかけていくべきである。その際、個別の評価に際して取引関係等を背景とした不当な影響を行使しているとの誤認を与えないよう、留意すべきである

このうち「2(更新日情報の開示)」と「3(問い合わせ窓口の開示)」は文字通り「開示」するだけで済むため、今すぐにでも対応可能だろう。特に3はESG データ・評価機関が企業のESG データに不明点がある場合に企業に問合せを行うことが出来るようにするものであり、これによってESG データの評価の適正化が促進されるのみならず、「5(ESG 評価・データ提供機関や投資家との間で行うコミュニケーション)」の前提にもなるだけに、早急な対応が求められる。

「4(ESG担当者への教育と専門人材の育成)」は成果が出るまでにどうしても時間がかかるだけに、社内にノウハウが蓄積されておらず育成プログラムもないという上場企業は、ESG関連業務経験者の中途採用や外部コンサルティングの活用が近道と言えよう。4の進展に伴い、波及的に「1(わかり易いESG 情報の開示)」や「5(ESG 評価・データ提供機関や投資家との間で行うコミュニケーション)」の充実も期待できる。

上場企業は、ESG 関連の情報をわかり易く開示するよう努めるとともに、仮にESG 評価・データ提供機関の評価やデータに誤解や誤りがある場合には、建設的な対話を通じて改善を働きかけるようにすべであることは言うまでもない。それによりESG 評価・データの質が向上し信頼性が増すことで、ESG 評価・データを利用したサステナブルファイナンスが活性化し、ひいてはインベストメントチェーン全体が活性化すれば、ESGに積極的に取り組む企業にとっては“株高”というリターンを得ることが期待できる。冒頭で触れたとおりESG投資に対する懐疑的な見方も台頭する中、自社のESGへの取り組みを正当に評価してもらうためには、今回公表された行動規範案の確定を待たず、今すぐ上記1~5の実施に向けた準備に取り掛かるべきだろう。

サステナブルファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
インベストメントチェーン : 受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れ

2022/07/14 夏季休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2022年8月10日(水)~2022年8月16日(火)は事務局の夏季休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

なお、会員登録は夏季休業期間中もオンラインにて可能です。
会員登録はこちら

2022/07/13 “新しい有償ストックオプション”のメリットとリスク

かつては全上場企業の10%に迫る300社以上の上場企業で導入されていた有償ストックオプションだが、会計基準の変更により、無償のストックオプション同様に費用計上が義務化されたことに伴い(2017年11月29日のニュース『有償新株予約権の会計処理変更、「2018年4月1日以後」から適用』参照)、現在は・・・

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2022/07/13 “新しい有償ストックオプション”のメリットとリスク(会員限定)

かつては全上場企業の10%に迫る300社以上の上場企業で導入されていた有償ストックオプションだが、会計基準の変更により、無償のストックオプション同様に費用計上が義務化されたことに伴い(2017年11月29日のニュース『有償新株予約権の会計処理変更、「2018年4月1日以後」から適用』参照)、現在は忘れかけられた存在になりつつある。しかし、実はこのところ改めて活用事例が増えてきている。

特に目に付くのが、上場スタートアップ企業での活用だ。上場スタートアップ企業の場合、既に一定量の株式を保有している創業メンバーと、上場後一定期間経過後にマネジメント層に参画してきたメンバーとの間で株式保有量に大きな差異が生じがちであり、これが「One Team」としての経営参画意識を阻害しかねないとの懸念がある。すなわち、創業メンバーは一定量の株式を保有する株主としての目線を持つが、非創業メンバーのマネジメント層は株式保有量が不十分であるために、創業メンバーと比べて、企業価値向上へのモチベーションが相対的に低くなってしまうとの懸念がある。このような場合、マネジメント層の株式保有強化を進めるうえで有償ストックオプションが改めて選好されている。

しかしなぜ、もはや会計上のメリットも消失した有償ストックオプションなのだろうか。最近の付与事例を調査すると、同じ有償ストックオプションでも、かつてのものとは一部異なる内容となっていることが分かる。“新しい有償ストックオプション”の特徴を見てみよう。特に従来の有償ストックオプションと異なるのが(3)だ。

(1)割当ての機動性
一般に株式報酬は、付与対象者に取締役等の役員を含む場合には株主総会決議を要するため、機動的な導入が難しい。上場スタートアップ企業は「1年」といった通常の事業年度ではなく、半期もしくは四半期といった単位でスピード感を持った事業運営を行っているのが通常であり、「導入は来年の株主総会後です」といった悠長なことを言っていられない場合も多い。有償ストックオプションは総会決議が不要で随時の導入が可能なため、上場スタートアップ企業のスピード感との親和性が高い。

(2)税メリット
有償ストックオプションを付与する際に締結する契約書には「有償ストックオプションは、付与対象者への報酬としてではなく、各者の個別の投資判断に基づき引き受けが行われるもの」という点が明記されていることが多い。この点をあえて記載する狙いは税メリットにある。「報酬」としてのストックオプションは、税制適格ストックオプションを除き、累進課税方式をとる給与所得課税の対象となる。これに対し、有償ストックオプションは「報酬」ではなく「金融商品」であるため、付与ボリュームによらず税率が一律20.315%(復興特別所得税含む所得税15.315%+住民税5%)で済むキャピタルゲイン課税だけで課税関係が完結し、付与対象者にとって大きな税メリットがある。

税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。
累進課税方式 : 所得が増えるほど、より高い税率を課する課税方式のこと。

(3)「強制行使条件」の付加と会計上の取扱い
有償ストックオプションの新たなトレンドとして、株価が行使価額の一定割合を下回った場合には行使義務が発生するという「強制行使条件付き」のものが目に付く。すなわち、株価下落時には対象者が損失を被る(=市場価格よりも高い権利行使価額で株式を買い取らなければならない)可能性があるということだ。具体的には、「(過去に設定された権利行使価額-低迷した株価)×付与数」が付与対象者本人へのロスとなる。この点からしても、“新しい有償ストックオプション”はまさに金融商品としての性質を持っていると言える。

このように新しい有償ストックオプションは株価下落時には損失を被り得るという負の側面も持つが、この条件がバリュエーション(有償オプションの価値評価)に織り込まれるため、発行価額が株価の数%まで抑えられるという大きなメリットがある。また、中小監査法人等では、このような設計であればあくまで「金融商品」として取扱い、費用計上も不要と判断しているところもあるとの話も聞こえてくる。

上記のとおり、(1)割り当ての機動性、(2)付与ボリュームによらずキャピタルゲイン課税のみで課税関係が完結する、(3)強制行使義務を付すことによって発行価額が抑えられ、かつ費用計上も要しない可能性がある、というメリットを背景に、今後、有償ストックオプションの活用が再び広がることも考えられるが、活用にあたっては、“新しい有償ストックオプション”の負の側面である「強制権利行使義務」について付与対象者に十分説明することは必須となる。割当ての規模によっては相応の損失を抱えることになるからだ。経営陣としては、“新しい有償ストックオプション”は「報酬ではなく金融商品」ということをよく理解したうえで、導入の意思決定を行うことが求められよう。