米国のように画期的な技術や斬新なビジネスモデルを持った企業が長年現れていないことが、日本経済の低成長、長期低迷の大きな要因と言われている。実際、日本企業におけるエスタブリッシュメントの顔ぶれは30年前と大差がない。この点は当然政府も認識しており、岸田内閣が(2022年)6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」においても、副題をはじめ、「スタートアップ」という言葉が60か所以上登場する。
その一つが、「3.スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進(1)スタートアップ育成5か年計画の策定」(17ページ参照)にある下記の記述である。
| ⑧事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備 ディープテックなど事業化まで時間を要するスタートアップや、グローバル展開を含め長期間をかけて大きな成長を目指すスタートアップを後押しするため、ストックオプション等の環境整備について検討する。 |
ここで注目されるのが、「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」との表現だ。「ストックオプション等の環境整備」が現行の税制適格ストックオプション制度の見直しを想定していることは容易に想像がつく。そして、「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」といった表現からは、政府が現行の税制適格ストックオプション制度が定めているストックオプションの「権利行使期間」の制限の緩和を視野に入れていることがうかがえる。
税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。
現行税制適格ストックオプション制度上の権利行使期間は「付与決議日後、2年を経過した日から10年を経過する日まで」とされているが、グローバルで通用する新たな企業を育てるには10年間では短すぎるとの指摘がある。「時間を要する」「長期間をかけて大きな成長を目指す」といった表現はこうした問題意識を受けたものであり、次の税制改正(令和5年(2023)度税制改正。例年どおり、今年12月中旬頃に改正内容の大枠が決定)では、税制適格ストックオプションの権利行使期間の上限である「10年間」の延長が議論されることが予想される。
スタートアップの育成は、既存の上場企業にとっても大きな課題となっており、CVCを使ったスタートアップ投資を実施している上場企業も少なくないが、短期間で投資の成否を判断するべきでないという点は、“新しい資本主義”と軌を一にするはずだ。税制適格ストックオプションの権利行使期間の新たな上限は、投資先の事業の推進・撤退を判断する上での目安となっていく可能性もあろう。
CVC : 投資を本業としない事業会社が自己資金をベンチャー企業に投資すること(又はその組織)。CVCは社内の投資部門や子会社が運営するか、外部のVC(Venture Capital=ベンチャーキャピタル)に運営を委託することが多い。CVCもVCもベンチャー企業に投資を行うという点では同じだが、VCが投資先の将来的な上場によるキャピタルゲインを得ることを目的としているのに対し、CVCは自社とシナジーのあるベンチャー企業に投資し、協業等により本業の成長や拡大を目的としている点、大きく異なる。



