2022/06/30 【役員会 Good&Bad発言集】ポジティブ・アクション

東証スタンダード市場に上場しているP社の取締役会では、男女別賃金格差や女性の管理職比率が業種別平均を下回っていたことから、改善・向上に向けての対策を検討中です。これに関して次の3人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「採用や昇進・昇格に女性枠を設けることは女性を有利に扱うことになり、結果として男性が不利になる。女性枠は逆差別を引き起こすので設けるべきではない。」

取締役B:「以前、女性に営業を担当させたら、得意先から『担当は女性でなく男性にしてくれ』とクレームが入ったことがある。一方で、女性には一般的に『几帳面』『真面目』『丁寧』といった気質がある。そうであれば、営業そのものよりは書類整理がメインとなる営業事務や管理系の仕事を担ってもらうのがよいのではないか。」

取締役C:「いまどきそのようなクレームを出す会社があるのには驚きましたが、そのような得意先には『意欲や能力は十分にあるので、性別で判断しないで欲しい』ということを丁寧に説明してあげればいいのではないでしょうか。」

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

解説と正解はこちらをクリック
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/06/30 【役員会 Good&Bad発言集】ポジティブ・アクション(会員限定)

<解説>

金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)から「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」が公表され、2023年3月期の有価証券報告書(以下、有報)より、【従業員の状況】において「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」の開示が義務化されることが確定的となりました。その背景には、経営陣や管理職に男性しかいない場合、経営判断や意思決定が硬直的となり、企業の自己変革に致命的な遅れが生じるリスクがあるということがあります。外部環境が大きく変化している現代社会では、経営陣や管理職に女性が参画することで、多面的な視点に基づく柔軟な経営判断や意思決定が可能になります。女性の活躍を推進するという政策を実現するために、有報で「男女間賃金格差」等のデータを開示させ、開示面から企業に自己変革を促すことがDWG報告の狙いと言えます。

今後、上場会社では、それらの数値を算定し、開示に備えるとともに、目標値も設定して実現に向けての取り組みを進める必要があります。各指標の開示や目標値達成に向けての具体的なステップは2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』を参照してください。

仮にこれらの指標が全体の平均や業界の平均を下回るものであった場合、当該企業は新卒・中途の人材市場で不利な評価を受けることになるでしょう。意欲的な女性ほど「女性が出世できない会社=女性が高く評価されないor高く評価されても出世にはつながらない会社」を選ぶことはないでしょう。そうなると、「女性が出世できない会社」では、ますます女性の管理職候補者の質の低下が加速することになり、負のスパイラルに陥ります。一方、「女性が出世できる会社」には意欲的な女性が多数集まり、層の厚い管理職候補者グループの中からより優秀な人材を管理職に選任することが可能となります。「女性が出世できない会社」は、SDGsの5番「ジェンダー平等を実現しよう」への取り組みが足りない会社として、女性だけでなく男性からも選ばれない会社となるはずです。そうなると人材の質や多様性が低下し、中長期的な企業価値に影響を与えかねません。

もっとも、いずれの指標も、短期的な改善は難しく、とくに「男女間賃金格差」と「女性管理職比率」の改善・向上には5年から10年、場合によっては20年のスパンで仕事を通じて女性の成長を促す「人材育成」に取り組んでいく必要があります。

そこで、長期スパンによる取り組みとは別にポジティブ・アクションの実施も検討すべきです。ポジティブ・アクションとは、固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、
・営業職など特定の職種に女性がほとんどいない
・課長以上の管理職は男性が大半を占めている
等の差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取り組みをいいます。具体的には、下記のポジティブ・アクションの取組みが広く見受けられます(厚生労働省のサイト「ポジティブ・アクションの取組事例集」の「収集事例から見たポジティブ・アクション取組内容のポイント」を参考)。

ポジティブ・アクションの例
1. 採用拡大
2. 職域拡大
3. 管理職登用
4. 職場環境・風土改善

ポジティブ・アクションの取組みには、大きく分けて「女性のみを対象としたり、女性のみを有利に扱ったりする取組み」と「男女の両方を対象とする取組み」の2つがあります。雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、雇用機会均等法)では、労働者に対し性別を理由として差別的取扱いをすることを原則禁止していることから、ポジティブ・アクションの取り組みとして「女性のみを対象としたり、女性のみを有利に扱ったりする取組み」を行うこと(例えば女性の管理職への目標登用比率を高めに設定したことで、女性が「下駄をはかされて」管理職に登用される可能性が考えられる)は、雇用機会均等法違反になるのではないかが気になるところです。これに関して雇用機会均等法8条では「前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」と定められており、女性労働者に係る措置に関する特例として、過去の女性労働者に対する取扱いなどが原因で生じている、男女労働者の間の事実上の格差を解消する目的で行う「女性のみを対象としたり、女性のみを有利に扱ったりする取組み」は同法に違反しないこととされているので、安心してポジティブ・アクションに取り組んでください。

ポジティブ・アクション例1の「採用拡大」は、まずは全社的にまんべんなく女性の採用増を目指すというものです。女性管理職の数を増やすには、女性管理職候補者の数を増やす必要があり、そのためには全社的な女性の数自体を増やす必要があるからです。経営陣がコミットして採用方針をとりまとめ、数値目標を掲げて、社内で周知するようにします。なお、面接・選考の際には選考担当者に女性を登用するようにしましょう。

ポジティブ・アクション例2の「職域拡大」は、「女性がいない(または少ない)職種に女性を積極的に配置」すというよりは、「女性がいない(または少ない)職種に女性を積極的に採用する」というものです。女性がいない(または少ない)職種では女性管理職が誕生しにくいことから、女性管理職の数を増やすには、女性がいない(または少ない)職種に属する女性の数自体を増やす必要があるからです。職種によって男女の偏在が生じている会社では有効な手法です。また、日本企業では、女性には特有の感性・特性があるなどの先入観や固定的な男女の役割分担意識に基づき、女性のみを募集・採用や配置の対象とすることもままあります。こういった決めつけは、かえって、女性の職域が限定されたり、女性と男性の仕事が分離されたりするという弊害をもたらすと言われています。女性に対して自分がやりたい仕事を自己申告してもらい、要望に沿って配置転換等を実施するようにしましょう。一般論として、女性は男性に比べ、特定の職域や部署に留まりやすい傾向にあると言われています。その結果、幅広く活躍するよりも狭い範囲に特化した専門能力を身につけたいという意識が働きやすく、広い範囲をカバーしなければならない管理職への昇進・昇格につながりにくいといった状況が生まれている可能性もあります。女性の管理職を増やすために、企業が女性従業員に対して多様な経験・実績を積むことのできる場を数多く提供し、幅広い職務を経験させ、管理職としての資質を養う機会を積極的に設けることが課題といえます(例えばこちらの2ページ目を参照)

ポジティブ・アクション例3の「管理職登用」として、まずは昇進・昇格の基準を明確化する必要があります。それをあいまいにすると、つい男性役員や男性管理職によるオールド・ボーイズ・ネットワーク()の論理が優先され、女性の管理職登用の機会が奪われかねません。また、人事評価が無意識のうちに男性優位のバイアスがかかっている可能性があることから、人事評価を公正に行うために、「評価者研修」を実施しておきましょう。そのうえで、部署ごとに「20××年までに女性管理職比率を●%にする」といった数値目標(登用方針)を定め、当該目標の達成に向け責任者を定め目標達成をコミットさせるようにしましょう。また、数値目標だけ定めても何も変化は起きないので、男女格差の原因分析と具体的な解消策への落とし込みとそのスケジュール管理もあわせて実施するようにしましょう(具体的なステップは2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』を参照してください)。

 伝統的な男性中心の社会の中で、社内外における公式または非公式のネットワーク(学閥や出身事業部などの派閥、ゴルフ仲間・飲み仲間・麻雀仲間、各種勉強会、経営者仲間等のグループ)内で長い間培われて伝承されてきた独特の仕事の進め方、コミュニケーションの仕方、貸し借り、ネットワークの作り方、雰囲気などの総称。オールド・ボーイズ・クラブとも言われる。女性は、オールド・ボーイズ・ネットワークに参入しづらいことから、オールド・ボーイズ・ネットワークの中で継承されるノウハウが女性には伝わらず、そのことが女性活用の阻害要因の一つになっているとの指摘もある。

各上場会社がポジティブ・アクションを進めるにあたって参考にしたいのが、厚生労働省が取りまとめた「ポジティブ・アクションを推進するための業種別「見える化」支援ツール活用マニュアル」です。これは厚生労働省がポジティブ・アクションを推進するために業種別(下記)にとりまとめた男女格差の「見える化」を支援するためのツールです。ややデータは古い(2011年から2014年にかけて作成)のですが、業種別の「定着」に関する指標(平均勤続年数、3年目・10年目定着率や出産時離職率など)、「活躍」に関連する指標(管理職女性比率、管理職予備軍女性比率など)、採用時における女性比率などが掲載されており、それらのデータを参考にしつつ、男女格差が生じている「構造」の“見える化”が可能になるよう設計されており、ぜひとも自社の状況把握にあたって参考にしたいところです。

「ポジティブ・アクションを推進するための業種別
「見える化」支援ツール活用マニュアル」の業種一覧
百貨店業
スーパーマーケット業
情報サービス業
製造業〈電機・電子・情報通信分野〉
製造業〈加工食品(冷凍食品等)分野〉
地方銀行業
製薬業
旅行業
クレジット業
建設業
信用金庫業
貿易・商社業

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役C:「いまどきそのようなクレームを出す会社があるのには驚きましたが、そのような得意先には『意欲や能力は十分にあるので、性別で判断しないで欲しい』ということを丁寧に説明してあげればいいのではないでしょうか。」
コメント:取締役Bが語った得意先からのクレームは、男女の役割固定化を崩そうとすると関係者の一部が抵抗勢力になる典型例と言えます。そもそも正当なクレームではない以上、得意先であったとしてもひるむことなく、取締役Cのように「丁重に当社の考えを説明して納得してもらう」のが現実的な解決策と言え、Good発言です。

BAD発言はこちら

取締役A:「採用や昇進・昇格に女性枠を設けることは女性を有利に扱うことになり、結果として男性が不利になる。女性枠は逆差別を引き起こすので設けるべきではない。」
コメント:過去の女性労働者に対する取扱いなどが原因で生じている、男女労働者の間の事実上の格差を解消する目的で行う「女性のみを対象としたり、女性のみを有利に扱ったりする取組み」は雇用機会均等法に反するものではありません。取締役Aは、ポジティブ・アクションの趣旨が分かっていないBad発言です。

取締役B:「以前、女性に営業を担当させたら、得意先から『担当は女性でなく男性にしてくれ』とクレームが入ったことがある。一方で、女性には一般的に『几帳面』『真面目』『丁寧』といった気質がある。そうであれば、営業そのものよりは書類整理がメインとなる営業事務や管理系の仕事を担ってもらうのがよいのではないか。」
コメント:女性には特有の感性・特性があるなどの先入観や固定的な男女の役割分担意識に基づき、女性のみを募集・採用や配置の対象とすることは、かえって、女性の職域を限定したり、女性と男性の仕事を分離してしまうという弊害をもたらすと言われています。以上より、取締役Bの発言は、女性の活躍を阻害させてしまいかねないBad発言です。