2022/07/07 株主提案、目に付くCGコードの引用(会員限定)

2022年6月定時株主総会では前年の29社を大幅に上回る77社に対して292議案(前年162議案)の株主提案が行われ、社数、議案数ともに過去最多を記録した。このうち機関投資家による株主提案も45社(前年17社)、132議案(前年47議案)と相当数を占めた。機関投資家による株主提案を内容面から見ると、最も多かったのがガバナンスに関するものだ。自己株式取得・消却(29件)、剰余金処分(23件)を大きく上回る42件に上っている。

ガバナンスに関する株主提案の内訳を見ると、最も多かったのが株式報酬等の付与に関するもので12件、次いで役員の選解任に関するものが9件、以下、個別報酬開示6件、機関設計の変更・委員会設置、グループガバナンスがそれぞれ4件で続いている。多くは否決されているが、フューチャーベンチャーキャピタル(以下、FVC)では、株主側が提案した取締役(監査等委員である取締役以外)2名の選任、監査等委員である取締役3名の選任議案がいずれも約68%の賛成率で可決されている。

FCVの株主提案は、個人株主と当該個人が所有する「マンティス・アクティビスト1号」によるものであり、実質的に当該個人株主によるものと言える。株主提案では、FCVが「有能な社員や強固な財務状況、有力地方銀行とのパイプなど、持てる潜在価値を長年解放できていない」と指摘し、①細分化モデルとの決別(ファンド数過多の弊害を克服するため、一本あたりのファンド規模を拡大すべき)、②投資領域の拡大(コロナ融資が市場でだぶつく中、地方銀行とのパイプを活かした事業再生投資は妙味あり、地方創生テーマとも合致。ESGの気運が高まるいま、企業統治に不備ある上場企業も割安且つ投資機会が豊富)、③リターン重視への原点回帰(手数料ではなく“投資リターン”を追求する投資会社へと原点回帰すべき。ファンド数をコントロールしつつ規模拡大し、直接投資も交えて投資領域を大胆に広げれば、高投資倍率を狙える投資会社になると確信)、の3つの解決策の実施を求め、他の個人株主に対し「本個人株主提案は、上記改革を断行できる経営陣との交替を意図するものであり、この選択肢は個人株主あなた様のものです」「“勝てるビジネスモデル”で、FVCに未来を創るためのキャピタル運用をしてほしいと願っています」と呼びかけ、可決を勝ち取った(同社の株主提案の内容はこちら)。実はこの株主提案を行った個人株主は今回選任された取締役の1人でもある。ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券会社、ユニゾン・キャピタルなどを渡り歩き、トレーダー、投資ファンド、ベンチャー経営、個人投資家を経験、さらにニューヨーク州弁護士として法律事務所にも勤務した経験を持つ人物だ。長期間株価が停滞する企業に対し、このような人物が説得力のある提案を行った場合、株主が賛成に回る可能性があることを示した事案と言えるだろう。

また、このほかの企業の株主提案を見ると、提案理由の中にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)を引用しているものが目に付く。例えば、否決されたとはいえ賛成率が36.7%に上った日産車体の株主提案のうち第8号議案【定款一部変更(代表権を有する取締役の個別報酬開示】の件を見ると、提案の理由として、CGコードの補充原則4-2①を引用しつつ、「当社の取締役の報酬制度は、自社株報酬が導入されていることは窺われず、少数株主の利益を実現するインセンティブとはなっていない可能性が高い」ことを挙げている。

また、文化シャッターの株主提案議案のうち第8号議案 【政策保有株式に係る定款変更の件】では、同社が政策保有株式の保有目的とする「良好な関係の維持、強化」が実際に果たされているかを検証するため、「少なくとも年1回以上、保有する政策保有株式の発行会社に対して、当該株式の売却を希望する旨を伝え、発行会社からの回答の内容をコーポレートガバナンス報告書で開示する」旨の定款変更を求めた。提案者であるストラテジックキャピタル他は、文化シャッターが保有する54銘柄の政策保有株式の発行会社が、政策保有株主の売却意向を妨げるべきではないとするCGコード補充原則1-4①をコンプライしていることを確認したうえで発行会社に問い合わせ、大和ハウス工業株式会社を含む複数社から、株式保有と取引の関係性を否定する回答を受領したとしている。今回の株主提案に対する賛成率は13.7%にとどまったが、CGコードのコンプライ状況が株主提案の理由とされた点は注目に値する。

今後上場企業は、株主提案で利用される可能性を念頭に置きながら、CGコードに向き合う必要があろう。

2022/07/06 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】で“4つの柱”の記載が急増

今後予定される気候変動情報開示の強化を先取りした動きが、2022年3月期決算会社の有価証券報告書に早くも表れていることが当フォーラムの調査により判明した。

2022年6月13日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、DWG報告)では、「(2)我が国における気候変動対応に関する開示の対応」として、「・・・まずは、基準策定に向けた議論の途上にある ISSB の気候関連開示基準の策定に積極的に参画し、日本の意見が取り込まれた国際基準の実現を目指す」とし、「その後、本年中に最終化予定のISSBの気候関連開示基準を踏まえ、SSBJにおいて迅速に具体的開示内容の検討に取り掛かる」との方向性を打ち出しつつ(ISSBとSSBJの関係については2021年9月28日のニュース『気候変動など非財務の「開示基準」の行方』参照)、「現時点」においては、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の枠(下表参照)で開示すべき、との考えを示している。周知のとおり、これら4つの枠は、TCFDが求める気候変動情報開示の“4つの柱”であり、DWG報告の内容は、プライム市場上場会社に対しTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③とも整合していると言える。

ISSB : 正式名称はInternational Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が昨年(2021年)11月に設立した。
SSBJ : 正式名称は「Sustainability Standards Board of Japan(サスティナビリティ基準委員会」で、IFRS財団におけるISSBに相当する日本の組織。母体となるのは、財務会計基準機構(FASF)である。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

1.ガバナンス 2.戦略 3.リスク管理 4.指標と目標
気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する。 気候関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重大な場合は、開示する。 気候関連リスク及び機会について、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する。 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する。

気候変動情報の具体的な開示内容はSSBJの議論を踏まえ開示府令が改正されて確定することを踏まえると、気候変動情報の開示が義務化されるのは最短でも2024年3月期からとなる。したがって、当然ながら2022年3月期の有価証券報告書においては、4つの柱に基づく開示は義務付けられていない。

しかし、当フォーラムが2022年3月期有価証券報告書(全2,589社)の気候変動リスクに関する開示状況を調査したところ、・・・

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2022/07/06 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】で“4つの柱”の記載が急増(会員限定)

今後予定される気候変動情報開示の強化を先取りした動きが、2022年3月期決算会社の有価証券報告書に早くも表れていることが当フォーラムの調査により判明した。

2022年6月13日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、DWG報告)では、「(2)我が国における気候変動対応に関する開示の対応」として、「・・・まずは、基準策定に向けた議論の途上にある ISSB の気候関連開示基準の策定に積極的に参画し、日本の意見が取り込まれた国際基準の実現を目指す」とし、「その後、本年中に最終化予定のISSBの気候関連開示基準を踏まえ、SSBJにおいて迅速に具体的開示内容の検討に取り掛かる」との方向性を打ち出しつつ(ISSBとSSBJの関係については2021年9月28日のニュース『気候変動など非財務の「開示基準」の行方』参照)、「現時点」においては、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の枠(下表参照)で開示すべき、との考えを示している。周知のとおり、これら4つの枠は、TCFDが求める気候変動情報開示の“4つの柱”であり、DWG報告の内容は、プライム市場上場会社に対しTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③とも整合していると言える。

ISSB : 正式名称はInternational Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が昨年(2021年)11月に設立した。
SSBJ : 正式名称は「Sustainability Standards Board of Japan(サスティナビリティ基準委員会」で、IFRS財団におけるISSBに相当する日本の組織。母体となるのは、財務会計基準機構(FASF)である。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

1.ガバナンス 2.戦略 3.リスク管理 4.指標と目標
気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する。 気候関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重大な場合は、開示する。 気候関連リスク及び機会について、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する。 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する。

気候変動情報の具体的な開示内容はSSBJの議論を踏まえ開示府令が改正されて確定することを踏まえると、気候変動情報の開示が義務化されるのは最短でも2024年3月期からとなる。したがって、当然ながら2022年3月期の有価証券報告書においては、4つの柱に基づく開示は義務付けられていない。

しかし、当フォーラムが2022年3月期有価証券報告書(全2,589社)の気候変動リスクに関する開示状況を調査したところ、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】において「気候変動リスク」に言及している会社が対前年比で大幅に増加していることが確認された。

  2021年3月期 2022年3月期
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】で気候変動リスクに言及 261社 485社
【事業等のリスク】で気候変動リスクに言及 421社 683社

また、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】に4つの柱を記載している会社は、前年の7社を大幅に上回る121社に上った。

(注)「気候変動」「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」のすべてを記載していると考えられる会社を集計。
  2021年3月期 2022年3月期
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】に4つの柱を記載 7社 121社

業種別の内訳は下表のとおりとなっている。

業種 社数 業種 社数
電気機器 17 医薬品 3
銀行業 10 輸送用機器 3
機械 9 ゴム製品 2
食料品 9 その他金融業 2
建設業 7 金属製品 2
化学 6 精密機器 2
小売業 6 非鉄金属 2
情報・通信業 6 不動産業 2
サービス業 5 保険業 2
卸売業 5 パルプ・紙 1
陸運業 5 鉱業 1
その他製品 4 水産・農林業 1
繊維製品 4 鉄鋼 1
非公開 4 合計 121

いまだ開示府令では義務化されていないTCFDの4つの柱に基づく開示が大幅に増加しているのは、コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③の影響が大きいと言えそうだ。

4つの柱を記載したダスキンの開示事例は以下のとおり。

<参考事例(【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に4つの柱を記載)―ダスキン(サービス業) >
③気候変動への取り組みとTCFDへの対応
 当企業集団は、気候変動に関するリスクと機会を重要な経営課題と認識しております。気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の要請に基づいた情報開示を進めるため、気候関連のリスクを低炭素経済への移行リスク、気候変動の物理的影響に伴うリスクに分類し、検討を進めております。

<ガバナンス>
 気候変動に関わる基本方針や主要事項等を検討・審議する組織として、取締役会の諮問機関であり、社外取締役、執行役員、常勤監査役をメンバーとする「サステナビリティ委員会」を設置。更にその下部組織として全社の環境政策・方針を決定する「品質・環境会議」、環境政策を進捗管理する「環境連絡会」を設置することで、取締役会等がリスクと機会の実態を把握・監視できる体制を整備し、気候変動に関するガバナンスの強化を進めております。

<戦略>
 異常気象等気候変動に起因する影響は徐々に深刻化しており、気候変動への対応は地球規模の課題と認識しております。環境方針で掲げた脱炭素社会の実現に貢献するため、2030年から2050年の近未来の世界における気候変動に伴う物理的な変化と、社会経済的な移行に関する複数のシナリオ分析から、当社のビジネスにどのような財務インパクトが想定され、どのような対応策が考えられるかを検討し、戦略の策定を進めてまいります。

気候変動に関するリスク
63513a

気候変動に関連する機会
63513b

<リスク管理>
 気候変動によって、各事業に重要な財務上の影響を与える可能性の大小を定性的に暫定評価しました。その評価結果を踏まえて検討を重ね、最終的に当企業集団及び加盟店にとって事業継続に与える影響が大きいと想定されるキードライバーを特定しました。今後、特定したキードライバーに対して、シナリオ分析を用いて評価し、リスク管理を行ってまいります。
(採用シナリオ)
IPCC RCP8.5シナリオ等:産業革命以前より平均気温が4℃以上上昇する世界

IPCC : 世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された国連の組織。各国の政府から推薦された科学者の参加のもと、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、得られた知見を政策決定者をはじめ広く一般に提供することを目的としている。

●IPCC SR 1.5シナリオ等:平均気温の上昇が1.5℃以下に抑えられる世界

<指標と目標>
 脱炭素社会の実現に貢献するため、2030年までに当社グループの事業活動で消費する電力の50%を再生可能エネルギーに切り替える目標と自社拠点でのCO2排出量46%減(2013年度比)の削減目標を設定しております。
 また、情報開示の正確性・透明性を確保するため、Scope1,2,3のエネルギー使用量及びCO2排出量について第三者保証を取得しております。
(注) Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

また、DWG報告では、有価証券報告書にサステナビリティ情報を記載しつつ、より詳細な情報を記載した任意開示書類に記載した詳細情報を参照することも考えられるとし、その場合、参照先の任意開示書類に虚偽記載があったとしても、それだけで金融商品取引法の罰則や課徴金が課されることにはならないとの考え方が示されているが(9ページ下部~参照)、4つの柱を記載しつつ任意開示書類を参照しているパターンが下記の商工中金の開示事例だ。分量が多い気候変動情報開示(サステナビリティ開示)ではこのパターンの開示を行うケースが多くなると思われるので参考にしたい。

<参考事例(【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に4つの柱を記載+任意開示書類を参照)
-(株)商工組合中央金庫(非上場)>
<気候変動リスクへの対応>
 特に、サステナビリティに関する課題の中でも「気候変動リスクへの対応」は、多くのお取引先中小企業に影響を与える重要な課題で、当金庫における経営のトップリスクの一つと認識しております。
近年、異常気象による被害が甚大化しており、持続可能な社会の実現に向けて、世界各国で気候変動に対応していく動きが広がっております。
 当金庫は、お取引先中小企業の取組みを支援すること、また、自身でも取組みを進めていくことにより、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
 当金庫はTCFD(※2)の提言に賛同しております。気候変動に対する取組みの情報開示の重要性を認識しており、TCFDの推奨する形での情報(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)の開示に取り組んでまいります。なお、詳細情報は、TCFDレポートをご覧ください。(https://www.shokochukin.co.jp/share/library/tcfd/)
(※2)TCFD…Task Force on Climate Related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)

<ガバナンス>
(省略)

2022/07/05 7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声

女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示が(2022年)6月24日、厚生労働省の第50回労働政策審議会 雇用環境・均等分科会で決定し、「2022年7月1日以後」に締まる年度から義務付けられることになった(男女の賃金格差開示については、2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』および同ニュースで引用されているニュース参照)。

女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示は常用労働者(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))数が301人以上規模の企業が対象となり、①正規雇用労働者、②非正規雇用労働者、③全労働者(①+②)、それぞれについて、「終了した直近事業年度」における「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」をパーセンテージで開示することが求められる。「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」は下記のとおり算出することになる。

賃金台帳を基に、正規雇用労働者、非正規雇用労働者、全労働者について、それぞれ、男女別に、直近事業年度の賃金総額を計算し、人員数で除して平均年間賃金を算出する。その上で、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して100を乗じたもの(パーセント)を、男女の賃金の差異とする。

また、「賃金総額」の定義も気になるところだが、「基本給、手当、賞与、超過労働に対する報酬、賞与」は必ず賃金総額に含めなければならい。これに対し、「退職手当、通勤手当等」は、企業の判断により「賃金総額」から除外しても差し支えないが、その取扱いは男女共通としなければならない。ここでいう「賃金総額」の定義は所得税法(28条)に基づく給与所得に合致することから、所得税法上の給与所得を用いることが無難と言えるだろう。

当フォーラムでも注意を喚起してきたところだが、企業がこの男女賃金格差開示に対応する時間は驚くほど短い。・・・

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2022/07/05 7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声(会員限定)

女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示が(2022年)6月24日、厚生労働省の第50回労働政策審議会 雇用環境・均等分科会で決定し、「2022年7月1日以後」に締まる年度から義務付けられることになった(男女の賃金格差開示については、2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』および同ニュースで引用されているニュース参照)。

女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示は常用労働者(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))数が301人以上規模の企業が対象となり、①正規雇用労働者、②非正規雇用労働者、③全労働者(①+②)、それぞれについて、「終了した直近事業年度」における「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」をパーセンテージで開示することが求められる。「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」は下記のとおり算出することになる。

賃金台帳を基に、正規雇用労働者、非正規雇用労働者、全労働者について、それぞれ、男女別に、直近事業年度の賃金総額を計算し、人員数で除して平均年間賃金を算出する。その上で、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して100を乗じたもの(パーセント)を、男女の賃金の差異とする。

また、「賃金総額」の定義も気になるところだが、「基本給、手当、賞与、超過労働に対する報酬、賞与」は必ず賃金総額に含めなければならい。これに対し、「退職手当、通勤手当等」は、企業の判断により「賃金総額」から除外しても差し支えないが、その取扱いは男女共通としなければならない。ここでいう「賃金総額」の定義は所得税法(28条)に基づく給与所得に合致することから、所得税法上の給与所得を用いることが無難と言えるだろう。

当フォーラムでも注意を喚起してきたところだが、企業がこの男女賃金格差開示に対応する時間は驚くほど短い。冒頭で述べたとおり、今回の女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示は「2022年7月1日以後」に締まる年度から義務付けられる。つまり、7月決算企業はいきなり来月には開示を求められることになる。上場企業に限ると、7月決算企業は約50社、8月決算企業は約80社ある。また、12月決算企業は2022年12月期分を2023年1月以降に、3月決算企業は2023年3月期分を2023年4月以降に開示しなければならず、いずれにせよ進行期が開示対象となることには変わりない。一方、「2022年7月1日以後」に締まる年度からの開示義務付けということで、6月決算企業は初めての開示が2023年7月以降と、最も遅くなる。

また、対象は「常用労働者数301人以上規模の企業」とされているため、上場企業の未上場子会社や、上場企業グループに属さない純粋な未上場企業にも開示が求められることとなる点にも注意したい。常用労働者が300人を超える子会社を数多く有する上場企業グループは、子会社の対応にも気を配る必要があろう。

逆に言うと、上場企業であっても、常用労働者が300人以下であれば開示義務はない。このような現象は、持株会社が上場している企業グループでは十分に起こり得る。例えば7月決算の鳥貴族ホールディングスの従業員数は48人となっている一方、100%子会社の鳥貴族株式会社には830人の従業員がいるため、子会社である鳥貴族株式会社の方が女性活躍推進法に基づく開示を求められることになる(年内に見込まれる開示府令の改正を受け、有価証券報告書においても男女の賃金格差開示が求められることになるが、金融庁・金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」が2022年6月13日に公表したディスクロージャーワーキング・グループ報告によると、有価証券報告書では、女性活躍推進法の開示対象となっている企業の情報は開示する必要がある一方、女性活躍推進法の開示対象となっていない企業や連結グループ全体の数値は任意開示事項となる見込みとなっている(15ページの上部参照)。したがって、鳥貴族ホールディングスの有価証券報告書では、子会社の鳥貴族株式会社における男女賃金格差の開示が求められる一方、鳥貴族ホールディングス単体や鳥貴族グループ全体の連結の数値の開示は任意となる可能性がある)。

このように、企業にとっては(決算期にもよるが)十分な準備期間がない状態で改正女性活躍推進法の適用が開始となったが、同法に基づく男女賃金格差の開示義務化に際しては「説明欄」が設けられている。例えば男女で勤続年数に差があれば賃金の平均値に差が出るのはやむを得ないところだが、同欄にはこうした説明を記載することができる。一見すると男女の賃金格差が大きい企業は、説明欄への記載内容も十分に検討したい。

2022/07/04 改訂CGSガイドライン、日本企業に変革を迫る2つのポイント

2022年6月の株主総会シーズンは終わったばかりだが、既に一部の企業では、来年の株主総会シーズンへ向け、一層のガバナンス強化に取り掛かっている。こうした企業の動きの端緒は、6月27日に開催された(第3期)CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)の第6回会合で公表されたCGSガイドラインの再改訂版(案)からも読み取ることができる。再改訂の方向性は基本的にはこれまでの取り組みの延長線上にあるものの、エッジの効いた提言も盛り込まれているだけに、企業はチェックしておく必要があるだろう。特に注目されるポイントを二つ紹介する。・・・

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2022/07/04 改訂CGSガイドライン、日本企業に変革を迫る2つのポイント(会員限定)

2022年6月の株主総会シーズンは終わったばかりだが、既に一部の企業では、来年の株主総会シーズンへ向け、一層のガバナンス強化に取り掛かっている。こうした企業の動きの端緒は、6月27日に開催された(第3期)CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)の第6回会合で公表されたCGSガイドラインの再改訂版(案)からも読み取ることができる。再改訂の方向性は基本的にはこれまでの取り組みの延長線上にあるものの、エッジの効いた提言も盛り込まれているだけに、企業はチェックしておく必要があるだろう。特に注目されるポイントを二つ紹介する。

一つ目は社外取締役の評価だ。社外取締役に関する議論は、これまでは人数や構成比の拡大、独立性や経営経験等の資質がメインだった。規制サイドとしては、まずは国際的に遜色のない外形を整えていくことに注力し、個々の社外取締役の評価は明確な論点としてこなかった。その流れを踏まえると、今般の再改訂版において、
「社外取締役の評価は、社外取締役である議長や指名委員長、筆頭独立社外取締役などが主導し、社外取締役による自己評価や相互評価等の取組を行うことが考えられる。」
「相互評価の聴取等(最終的な評価や判断を行うわけではない)のためにインタビューを行う場合、社外取締役である議長、指名委員長や筆頭独立社外取締役等や、第三者機関が実施することが望ましい。多面的に捉えるため、相互評価において社長・CEO を含む執行側の取締役の声を聞くことも考えられる。」
といった形で、個々の社外取締役の評価についての具体的提言が新たに加えられたことからは、社外取締役に関する政策が大きな転換点を迎えていることが強く感じられる。最近、「週刊ダイヤモンド」誌には、上場3700社9400人の社外取締役を報酬や業績で大々的にランキング評価し、「欺瞞のバブル」と称してその実態を厳しく問うトーンの記事が掲載された。実際、経営者仲間を社外取締役として招き、“お客様”として扱ったうえでお互いにこれまでの栄光を称賛し合うだけの取締役会は未だに少なくない。そこにはガバナンスに関する議論は存在しない。「監督サイドにも規律が必要」という世論の高まりに、企業はいよいよ意識を改めて対応する必要がありそうだ。

二つ目が執行サイドの機能強化である。かねてから経営陣のリーダーシップ強化の重要性は示されてはいたが、今般の再改訂版では、特に社長・CEOのリーダーシップの発揮をより強調している。具体的には、
「業務執行のスピードを向上させ、より適切な経営判断が行えるようにするためには、社長・CEO を中心としたトップマネジメントチームにおいて各業務執行役員の責任・権限を明確にし、その内容に応じて権限委譲を進めることが有効である。その際、責任・権限を明確化する中で、機能毎の最高責任者(CXO)を設置することも有効である。」
「経営・執行の機能強化のための方法の一つとして、戦略やサステナビリティ等の特定のテーマを社長・CEO のコミットメントの下で全社的に検討・推進するための委員会を設けることも、選択肢として考えられる。」
など、新たな提言が盛り込まれている。つまり、旧来の日本企業的な役位序列体系を基礎とした硬直的な経営チームを所与とするのではなく、CEOの選定を軸に戦略の遂行にとって機能的かつ実効的なリーダーシップチームを機動的に選抜し、その執行を支えるマネジメントフレームワークを明確にせよ、ということだ。日本におけるコーポレートガバナンス強化の議論はこれまで監督機能の強化がメインテーマであったが、執行側と監督側の双方の機能強化を相乗的に推し進めていく意識が必要であるとし、新たに執行サイドの抜本改革も求めている点に企業は注目する必要がある。また、こうした中で、報酬の在り方についても、
「グローバル展開が進む企業であれば、業績目標へのコミットや株主目線での経営姿勢を明らかにするため、執行側のトップである社長・CEO について、業績連動報酬の比率をグローバルにベンチマークする企業の水準まで高めることや、長期インセンティブ報酬の比率の目安をグローバル水準である 40~50%程度とすることも考えられる。」
との提言が加えられている。事実、日本企業の報酬水準はグローバルモデルに移行している企業とそうでない企業に、大きく二極化が進んでいる。従来は日本企業が欧米企業と水準を比較するのは適切でないという考え方が主流だったが、上記のような欧米モデルの執行チーム体制に移行している一部の日本企業では、既に欧米企業とのグローバルベンチマーキングを取り入れて報酬水準を設定している。同時に、純日本的な経営体制のままの企業は、同じ日本企業だからと言って単純にベンチマーキングを行えない時代になった。規模や業種で見ていくだけではなく、執行モデルの類似性も考慮に入れて報酬水準や報酬制度の在り方を考えなければ、判断を誤るリスクがあると言えよう。

ベンチマーキング : 競合他社で同様の仕事をする労働者に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。

2022/07/01 創業家社長、アクティビストへの対応が後手に回り社長の座を失う

上場会社の2022年3月期決算の定時株主総会のシーズンが終了した。今年もアクティストファンドを起点とした株主提案がいくつも見られたが、提案資料の内容や会社経営に与えたインパクトの大きさという観点からは、・・・

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2022/07/01 創業家社長、アクティビストへの対応が後手に回り社長の座を失う(会員限定)

上場会社の2022年3月期決算の定時株主総会のシーズンが終了した。今年もアクティストファンドを起点とした株主提案がいくつも見られたが、提案資料の内容や会社経営に与えたインパクトの大きさという観点からは、Oasis Management Company Ltd.(以下、オアシス)のフジテックに対するキャンペーンの残した爪痕はすさまじいものがあった。

もともとオアシスは、2020年2月に東京ドームに対して示した業務改善計画案「より良い東京ドームへ」が「エビデンスが豊富でリアリティに満ちている」と高い評価を受けたように(「より良い東京ドームへ」については、2020年10月28日のニュース「アクティビストの業務改善提案への対応が遅れ社長の解任請求へ」を参照)、その調査・提案能力は折り紙付きだった。今回の「フジテックを守るために」(2022年5月19日公表)ではその能力にさらに磨きがかかっており、アクティビストファンドの存在・役割が新たなステージに入ったことを示すシンボリックなレポートとして市場関係者や投資家から注目されている。

オアシスが「フジテックを守るために」の中で指摘していたのが、フジテック社長内山氏による公私混同だ。具体的には下記のとおり。

(1)フジテックが内山家の私的利用のために超高級マンションを取得した
(2)内山社長が保有する法人による不動産投資の失敗を補填するために、当該不動産をフジテックが買い取った
(3)フジテックは内山家が保有する法人の抱える債務に保証を付けたほか、内山社長が保有する法人に11年間にわたり担保なしにフジテックの手許現金の2割にも及ぶ莫大な額の現金を貸し付けていた
(4)フジテックは内山家及び内山社長本人が保有する法人から、その保有不動産を賃借していた
(5)フジテックが保有する非公開の会社の株式を、入札や株主への開示なしに内山社長が保有する法人に売却した
(6)内山社長の自宅の庭の手入れにフジテック社員を利用

オアシスはこれらを理由に、2022年6月23日の定時株主総会で内山高一社長の取締役選任議案に反対票を投じることを他の株主に推奨するキャンペーンを行った。

上記の反対理由のうち特に注目されるのが、(1)(6)だ(表中の赤字部分)。(1)は不動産物件「ドムス元麻布104号室」に関する疑義である。当該物件は港区元麻布にあるヴィンテージマンションで、104号室だけで面積は426.44平方メートルもある。当該物件はフジテックが2013年2月に取得し、2021年6月に内山社長の息子である内山雄介氏が代表を務めるサントに売却した。その間、当該物件には内山社長の妻と息子が居住(以下、不動産登記簿や法人登記簿に権利者や代表者の居住地として記載されていることを指す)している(なお、2人の居住開始時期には若干のずれがある)。オアシスでは、ドムス元麻布の他の物件の取引事例等を参考に、現在の不動産市況での推定価格は730百万円程度としており、賃料相場は年間30百万円程度と推計している。

オアシスがフジテック側と事前(決算日より前)に接触した際、フジテックが所有するドムス元麻布104号室に内山高一社長の妻と息子が居住していることを踏まえ、内山家とドムス元麻布104号室はどういった関係にあるのか尋ねたところ、2022年2月上旬にフジテックIRより「首都圏での当社ステータス向上に向けたトップセールス強化を目的に、社用迎賓施設及び役員社宅として運用していたが、当該目的が達成できたこと、また、社用迎賓施設としての利用頻度の低下及び税務上の観点から当該低下に伴う費用負担の方法を検討する必要があった。」との回答があったことを明かしている(「フジテックを守るために」の19ページを参照)。

内山家とドムス元麻布104号室の関係についてオアシスが「フジテックを守るために」で明らかにした疑問点と、それに対する回答としてフジテックが2022年5月20日にリリースした説明文およびオアシスが2022年6月7日にリリースした「フジテックの調査報告書(後述)に対する反論」で示したコメントをまとめると下表のとおり。

「フジテックを守るために」(2022年5月19日公表)での
オアシスの疑問
フジテックによるリリース
(2022年5月20日公表)
フジテックの調査報告書に対するオアシスの反論
(2022年6月7日公表)
●賃料について
・内山家は賃料を支払っているのか。
・もし、内山家が無償あるいは割引での住居提供という恩恵を受けているならば、それらは税務当局に報告されているのだろうか。
・もし、内山家が無償あるいは割引での住居提供という恩恵を受けていたのならば、当該取引が有価証券報告書の関連当事者取引に記載されていない理由は何か。
●社用迎賓施設および役員の社宅として使用していたと回答しているが、仮にこの主張が正しいとすると、以下のような複数の疑問が生じる。 
・なぜ、フジテックにこのような超高級マンションが営業活動の推進および宿泊先として必要なのか?
・内山社長の妻はフジテックの社員ではないにも関わらず、フジテックが同物件の取得直後、同氏が居住地として使用しているのはなぜなのか?
・内山雄介氏は自身の法人であるサント株式会社の登記簿から、2015年からこのマンションを居住地として使用していることが分かるが、雄介氏がその当時役員でもなく、フジテックの従業員の一人に過ぎないのに、なぜ迎賓施設及び、役員の宿泊先にいるのか。
・内山雄介氏は2015年3月期時点で単なる若手社員に過ぎないにもかかわらず、なぜトップセールスの営業拠点だというこのマンションで生活しなければならなかったのか?
・2017年3月期~2019年3月期は、内山雄介氏は千葉の支店長に就いていた。マンションから千葉までの所要時間は公共交通機関で90分。なぜ、フジテックはそんなにも遠くのマンションを雄介氏に提供したのだろうか?
当社では、オアシスが主張している「当社と当社代表取締役である内山高一氏及びその関係会社との間での関連当事者取引その他行為についての企業統治上の問題」は、「全くあたらない又は事実誤認に基づく主張であると認識」しており、「本取引は、いずれも所定の法令・手続等に従ってなされた適法かつ適切な取引及び行為であり、企業統治上も問題はない」と考えている。 5月20日のリリースに記載されている内容は取締役会の承認を受けたものではなく、その時点で調査はまだ継続中であったはず。
「本取引のうち、オアシスが新たに挙げている事項についても、当社にて至急で調査」したものの、「事実ではないと確認」している。 オアシスが関連当事者取引を極めて多岐にわたって分析した結果を発表したのは5月19日であり、それに対して十分な調査を行うには時間が足りず1日ではとても終わるものではなかったはず。

「フジテックを守るために」が公表されたのは2022年5月19日であり、フジテックはその翌日(2022年5月20日)に反論のリリースを出している。その反応の速さは評価されるものの、オアシスが指摘しているとおり、内容に具体性がなく、説得力に欠けていたことは否めない。2022年4月1日に開始された西村あさひ法律事務所の平尾弁護士による調査の結果がフジテックの取締役会に報告されたのは2022年5月29日であり、2022年5月20日の時点では当該調査が進行中であったことから、本来は「調査中」と回答すべきであった。もし本当に「本取引は、いずれも所定の法令・手続等に従ってなされた適法かつ適切な取引及び行為であり、企業統治上も問題はない」と考えていたのであれば、そもそも弁護士に調査を依頼する必要はないはずだ。結局、その矛盾をオアシスに突かれ、「(5月20日のリリースを主導したであろう)社長に対する取締役会のガバナンスが効いていない」との反論を受けることとなった。オアシスから初めて接触があったのは期末前であるため、フジテックには、危機管理として、オアシスがキャンペーンを張った場合の対応策を準備しておく時間はあったはずだ。

フジテックが外部の専門家(西村あさひ法律事務所の平尾弁護士)による調査結果を公表したのは2022年5月30日と、遅きに失した感は否めない(フジテックのリリースはこちら)。調査結果の内容とこれに対するオアシスの反論は下表のとおり。

項目 西村あさひ法律事務所の平尾弁護士による調査結果(2022年5月29日付) オアシスの反論
元麻布物件を巡る経緯 当時、フジテックは、首都圏への本格進出を企図しており、首都圏でのステータス向上に向けたトップセールスを行うためのレセプション施設としてドムス元麻布104号室を活用することを考えていた。また、フジテックは、レセプション活動を積極的に行うため、レセプションのホストである代表取締役社長の居所をレセプションエリアに隣接して設ける必要があると判断し、ドムス元麻布104号室をレセプションエリアと居住用エリアに区分けし、内山高一社長にドムス元麻布104号室の居住用エリアヘの居住を要請した。 調査報告書は、フジテックが超高級マンションを購入した上で、接待の主催者が「レセプションエリア」の隣に住む必要があるため、内山社長に居住することを依頼したというフジテックの説明をそっくりそのまま受け入れています。
調査報告書では、なぜかこの点に疑問が持たれていません。社長が賓客を接待する場所そのものに住む必要性は全くなく、これは一般的な慣習ではありません。
他の企業には必要ないのに、なぜフジテックには一等地の超高級マンションが迎賓施設として必要だったのでしょうか?
調査報告書では、住居エリアとレセプションエリアを分けるという主張の妥当性を評価せず鵜呑みにして受け入れています。
調査報告書では、日本の他の企業では行われていない極めて異例な超高級マンションの購入理由がそもそも合理的であったかどうかについては評価されていません。
私たちは、日本で何百社もの企業に会ってきました。営業強化のために、一等地にある大きな超高級マンションを買ってそこに社長が住むことが必要と判断した企業はありませんでした。
内山社長は、自分の立場と権限を濫用して、営業強化のためと称して、自分が住みたかったマンションをフジテックに買わせたのでしょう。
利益相反決議 ドムス元麻布104号室取得の件は、2013年2月8日の取締役会に諮られ、利益相反の可能性がある内山高一社長が参加しない形で取締役会決議がなされた。
元麻布物件のレセプション用エリア フジテックは、2013年(平成25年)の取得以降、ドムス元麻布104号室のレセプション用エリアを継続的にレセプション施設として使用しており、そのことは客観資料からも確認できる。 報告書は、このアパートが常に迎賓施設として使用されていた証拠があると主張していますが、どのような証拠が集められたのか、迎賓施設としてドムス元麻布が何回使用されたのか、何ら詳細が記載されていません。
マンションのいわゆる「レセプションエリア」について、以下のような詳細なデータを提供していただけますでしょうか。
a. レセプションエリアに使用されていた面積(単位:平方メートル)は?
b. 居住エリアに使用されていた面積(単位:平方メートル)は?
c. 居住エリアとレセプションエリアの区分けを示す写真や間取り図を提示することはできますか?
d. 2013年から継続してレセプションエリアを事業目的に使用していたことを証明する「客観資料」とは一体何ですか?
e. レセプションエリアはどれくらいの頻度でお客様にどのようにご利用いただいていたのでしょうか?
f. 内山家は、レセプションゾーンを業務で使用していないときは、個人的な目的で使用していたのでしょうか?
g. レセプションゾーンで具体的にどのお客さまをもてなしたか、記録はありますか?
h. 内山家とフジテックの間で、光熱費等はどのように分けられていたのでしょうか?
元麻布物件の居住用エリア ドムス元麻布104号室の居住用エリアには、内山高一社長及びその家族が居住していた。 ・内山社長一家のこのドムス元麻布での生活が、客観的に考えて必要であったかどうかについて、調査報告書では全く検証・評価されていません。
・なぜこの取引はコーポレート・ガバナンス上の観点から問題がないのでしょうか?
元麻布物件の居住用エリアの賃料 内山高一社長及びその家族は、フジテックの要請を受け、所定の居住用エリアに係る家賃を支払い、ドムス元麻布104号室の居住用エリアに居住することとした。ドムス元麻布104号室の居住用エリアの賃料は、所得税法基本通達において、役員に対して貸与した住宅等に係る通常の賃料とされる金額を踏まえた上で算出した。 ・内山一家が、この居住エリアに対して支払った賃料はいくらでしょうか?
・フジテックは、この地域の家賃相場をどの程度であると考えているのでしょうか?
・なぜフジテックは、内山家の支払った家賃が所得税法上の“豪華社宅”の規制を免れると考えているのでしょうか?
調査手法 社外取締役の指示に従い、フジテックから提供された取締役会議事録等の関係資料の精査確認及びフジテック関係者に対する聴取 本調査は、電子メールを詳細に分析したとも、第三者に依頼して取引や関連する評価の妥当性を評価したとも思われません。また、他に誰にヒアリングを行ったか、何人にヒアリングを行ったかについても何ら触れられていません。そのような詳細な分析がなされた記載がないことは、調査は結論ありきで行われたものであり、調査に信頼性がないことを示しています。

上表のとおり、オアシスは「調査は結論ありきで行われたもの」として、調査そのものの信頼性を否定しているが、オアシス側からこのような反論が出て来ることは当然予想されたにもかかわらず、フジテックの社外取締役がなぜ本調査の調査主体に同社の顧問弁護士と同じ法律事務所に属する弁護士を指名したのか、疑問を抱かざるを得ないところだ。顧問弁護士そのものではないにしても、調査主体としての適格性を問われることは目に見えており、危機管理の観点から不適切と言われても仕方ないだろう。社外取締役としては、オアシスがキャンペーンを張った場合に備え、完全な外部の第三者の専門家を選任して早めに調査を依頼し、迅速に報告書を公表できるように準備しておくべきだった。

また、フジテックは5月30日のリリース「当社株主による主張に対する取締役会決議に関するお知らせ」において、「2022年3月14日以降、本日までに、代表取締役である内山高一氏が2回、また、2名の当社社外取締役が各々1回の面談」を当社株主(オアシス)との間で実施する等、「建設的な対話を図るべく、積極的なエンゲージメントを行っておりました」とし、同社が投資家との対話に積極的だったことをアピールしたものの、逆にオアシス側から対話に消極的な同社の姿勢()を暴露され、結果として藪蛇となってしまった。

 オアシス側のリリースによると次のとおり。
「オアシスは、フジテックのガバナンスと経営を改善するために株主としてエンゲージメントしようと、何年も前からフジテックに手紙を送り、内山社長との面会を求めてきました。しかし、2022年3月にオアシスが関連者間取引に関する詳細な質問リストを送ってから、ようやくフジテックはオアシスが内山社長と面会する段取りを整えました。その後、内山社長は2度オアシスと面会しましたが、その際に、関連当事者取引の話題を提起しないこと、西村あさひ法律事務所の藤本弁護士を同席させるという厳しい条件が付されました。その際、オアシスの質問に対して、藤本弁護士や他の役員が答えることが多く、内山社長の意見はほとんど聞かれませんでした。オアシスが出席したフジテック社外取締役との他の会議でも、藤本氏が再び出席し、頻繁に介入していたことも併せて、他の株主にお知らせしておきたく存じます。」

上記のとおり、オアシスが「フジテックを守るために」の中で内山社長による公私混同の例として挙げた「(6)内山社長の自宅の庭の手入れにフジテック社員を利用」は、掲載された“庭師”の写真が目を引く印象的な告発となっている(52ページ~58ページ)。フジテックの社員が同社の制服を着て西宮の内山社長の自宅を掃除して茨木事業所に戻る様子が写真に収められており、これに対しオアシスは、「フジテックの従業員が内山家の私的な仕事を行うことは非常に不適切」である旨指摘している。この写真は同社における内山社長の公私混同疑惑を象徴的に伝える1枚として、株主の投票行動(内山社長の再選議案への反対票の投票)に大きな影響を与えたものと思われる。

上記西村あさひ法律事務所の弁護士の調査結果によると「内山高一氏は、フジテックとは関係なく、当該個人に対して、実費等を支払って自宅の庭の手入れを依頼していた。当該個人による庭の手入れは、2018年(平成30年)4月頃から開始して現在も継続しているところ、フジテックと当該個人との間の雇用関係は、2021年(令和3年)6月30日をもって終了しており、また、当該個人がフジテックのアルバイトであった期間中(2016年(平成 28年)6月1日~2021年(令和3年)6月30日)、当該個人は、あくまでアルバイトの勤務時間外に庭の手入れを行っていた。なお、本件詳細資料の写真に写っている軽トラックは、当該個人の所有物である。」とのことだが、仮に、内山社長の主張どおり軽トラックが個人所有のもので、庭の手入れがフジテックの勤務時間外に行われたとしても、なぜ作業終了後にフジテックの茨木事業所に軽トラックで戻る必要があったのかとの疑問は残る。この点はオアシスも、「内山社長の私邸で庭の掃除をした後、車でフジテックの事業所に戻っています。フジテックの勤務時間はいつからいつだったのでしょうか? 2018年4月から2021年6月まで、庭師はフジテックでいつ何時間、何日働いていたのでしょうか?」と問いかけている。

「フジテックを守るために」における詳細な調査と理詰めの反論が功を奏し、オアシスによる「株主の皆様は、内山高一氏の取締役再任に反対票を投じ、フジテックおよび日本全体にコーポレート・ガバナンスの重要性を強く訴えるメッセージを送っていただくようお願い申し上げます。」との呼びかけはフジテックの株主の多くに知られるところとなる。フジテックは、6月8日にガバナンス体制の強化策(リリースはこちら)、6月17日に第三者委員会による追加調査の実施(リリースはこちら)を公表して挽回を図ろうとするも、既に時機を逸していた。

オアシスのキャンペーンが浸透し、フジテックの対応が後手に回り続けた結果、フジテックは内山高一社長の取締役再任議案の取り下げを決断することになる。しかも、取り下げをしたのは定時株主総会の当日朝であり、異例の事態に驚いた株主も多かったことだろう。票読みの結果()、内山高一氏の取締役再選は困難との結論になり、「否決」という結果を残さないために議案を取り下げたように見えるが、フジテックは「第三者委員会の調査結果の報告を受けるまでの間、内山高一氏は当社の取締役に就任しない」「当該調査の結果、当社の一部株主より指摘を受けた関速当事者取引その他行為につき問題のないことが確認された際には、改めて、同氏の取締役就任の是非を株主の皆様に諮るべき」との考えによるものと説明している。内山氏の取締役復帰への道筋を残すための一手だったと言えよう。

 フジテックが議案を取り下げたことから、内山社長の取締役再選議案に対して、実際にどの程度の反対票が集まっていたのかは、外部からはうかがい知ることはできない。ただ、2022年3月期の事業報告によると、内山社長の資産管理会社である株式会社ウチヤマ・インターナショナルの持分比率6.21%はオアシスの7.54%を下回っている。この点、本件は持株比率の少ない創業家の立場の危うさを感じさせる事例と言えよう。

さらに世間を驚かせたのは、フジテックにおける株主総会後の初の取締役会で、取締役を退任したばかりの内山高一氏の会長就任が決議されたことだ(フジテックのリリースはこちら)。非取締役の会長職は株主に対してなんら責任を負わず、その一方で、“院政”により社内への影響力を行使することで現経営陣による事業運営の足かせになりかねないため、相談役や顧問職と並び投資家から廃止を求められるのが近年のトレンドとなっている。このような逆風下であえて内山高一氏を会長職に選出したフジテックの取締役会に対しては、ガバナンスが機能していないのではないかとの疑念も生じる。オアシスが「フジテックを守る」ためにキャンペーンを張ったのに対し、社外取締役をはじめとするボードメンバーは「内山高一氏を守る」ことが行動原則になっているようにさえ見受けられる。こうした中、英国の投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズが「社外取締役が株主の利益のために行動したか疑問」として、社外取締役の責任を追及する構えを見せている。こうした事態においてこそ本領を発揮できない社外取締役は存在意義を問われるということであり、他社の社外取締役は同じ轍を踏まないようにしたいところだ。

第三者委員会は調査能力には自ずと限界がある。そもそも調査にあたっては会社側の協力が不可欠となるからだ。今後設置されるフジテックの第三者委員会に対しても、現役の会長をどこまで深く調査しきれるのか、疑問の声がある。また、報道によると、オアシスには複数の内部告発が寄せられている模様であり、今後、オアシスが内部告発等を元にフジテックに対して第二、第三の矢を放つことが当然予想される。そうなると、本事例はガバナンスが機能していない上場会社においてアクティビストファンドが内部告発の受け皿として機能しうる好例として位置づけられることになろう。こうした中、社外取締役が中心となり「ガバナンスが機能していないのではないか」といった疑念の声を払しょくできるのか、同社取締役会の対応が注目される。

2022/07/01 【2022年7月の課題】経営層におけるジョブ型人事制度

2022年7月の課題

昨今、従業員の人事制度(雇用を含む)において「ジョブ型」と呼ばれる方針を採用する企業が増加しています。また、こうした動きは従業員のみにとどまらず、経営層(役員)に対しても広がりつつあります。経営層に対し「ジョブ型」人事制度を採用するにあたり特有の(従業員における「ジョブ型」人事制度にはない)検討事項としてどのようなものがあるか、考えてみてください。

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