2022/06/24 【失敗学第97回】大東建託の事例(会員限定)

概要

大東建託(東証プライム市場・名証プレミア市場)では、経理部次長が業績実績を業績予想に近付けようと費用の過大計上や過少計上等の会計操作を繰り返し実施したことで、2019年3月期以降の業績実績が歪められていた。

経緯

大東建託が2022年6月23日に公表した「調査チームの調査結果報告書」(以下、調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2022年
4月13日:大東建託では、同社の連結子会社である大東建託リーシング代表取締役社長A氏が大東建託経理部次長のX氏を不適切な経費使用の疑惑があると告発したことを契機として、同社内部監査室による社内調査が開始された。
4月26日:X氏から同社執行役員経理部長であるB氏に対して、大東建託リーシングに不適切な計上の疑いのある未払金および末払費用の残高が約500百万円あるとの自主的な申告があったことから、内部監査室の調査と並行して経理部でも社内調査が開始された。
4月28日:大東建託は、決算短信剰余金の配当に関するお知らせを公表する(上記の不正発覚や不正調査が進行していることは開示せず)。
5月10日:大東建託は社内調査の適正性・客観性を確認・担保することを目的として、外部専門家として弁護士4名、公認会計士18名、デジタル・フォレンジック担当者2名を調査メンバーに追加した(上記の不正発覚や不正調査が進行していることは開示せず)。
5月24日:大東建託は、「当社連結子会社の不適切な会計処理に係る調査に関するお知らせ」をリリースする。
6月3日:大東建託は2022年3月期の定時株主総会の招集通知をウェブにて開示した(同社のリリースはこちら)。決算報告は継続会(開催日時は未定)で行うものの、6月28日に開催予定の定時株主総会では剰余金の処分を議案として提案していた。
6月10日:大東建託の剰余金処分議案に対して議決権行使助言会社ISS社が「計算書類の監査が未完了の状態で期末配当を行うことは不適切である」との理由から反対推奨をしていることが分かり、大東建託は「本議案における期末配当総額(189億円)は、保守的に見込んでも、既に確定した2021年3月期の計算書類に基づいて算出された分配可能額(383億円:剰余金の配当の効力発生日(2022年6月29日)時点の見込額)の範囲内となっており、昨年度(2022年3月期)の計算書類の監査は未完了の状態ではありますが、一昨年度(2021年3月期)の計算書類に基づいて算出された分配可能額をもって、本定時株主総会で本議案をお諮りすることが株主共同の利益に資すると判断した」とのリリースを公表した(同社のリリースはこちら)。
6月23日:大東建託は「調査チームの調査結果報告書の受領に関するお知らせ」を公表した。
6月23日:大東建託は配当支払開始予定日の変更に関するお知らせを公表し、「現時点で配当金の支払いに係る事務手続き開始の判断が困難である」ことを理由に、配当支払開始予定日を6月19日から7月19日に遅らせるとした。

内容・原因・改善策

大東建託が2022年6月23日に公表した「調査チームの調査結果報告書」によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

業績予想に沿うよう実績利益を操作
内容 大東建託の経理部次長X氏が業績実績を業績予想に近付けようと子会社等における費用の過大計上や過少計上等の会計操作を繰り返し実施したことで、2019年3月期以降の業績実績が歪められていた(役員の指示は認められなかった)。

<会計操作の内容>
ア 連結子会社のキャンペーン旅行費用の末払費用への過大計上(2019年3月期:265百万円)
イ 十分な根拠なく処理されたリクルート関連費用の未払費用への計上(2019年3月期:100百万円)
ウ 連結子会社のキャンペーン旅行費用の末払金への二重計上(2020年3月期:308百万円)
エ 取引実態のない請求書による広告宣伝費等の未払費用への計上(2020年3月期:230百万円、2022年3月期:8百万円)
オ 取引実態のない請求書による広告宣伝費等の不適切な支払い等(2022年3月期:162百万円)
カ 取引実態のない請求書による広告宣伝費の不適切な支払い(2022年3月期:29百万円)
キ 避難場所案内看板費用の未払金等への過大計上(2019年3月期:488百万円)
ク 連結子会社の賞与引当金の二重計上(2019年3月期:261百万円)
ケ フルハーネス費用の未払金への過大計上(2019年3月期:42百万円)
ク 連結子会社の賞与引当金の二重計上(2019年3月期:261百万円)
コ クリーン大作戦費用等の未払金への過大計上(2022年3月期:203百万円)
サ CKシステム締め後費用の未計上(2021年3月期:106百万円)
シ 連結子会社の原状回復引当金の過少計上(2021年3月期:360百万円)
ス 契約書読込業務委託費用の末払金への過大計上(2020年3月期:41百万円)等

<会計操作の結果>
2019年3月期は税引前当期純利益が1,157百万円過少に計上されていた(逆粉飾)。
2020年3月期は税引前当期純利益が171百万円過少に計上されていた(逆粉飾)。
2021年3月期は税引前当期純利益が961百万円過大に計上されていた(粉飾)。
2022年3月期は税引前当期純利益が412百万円過少に計上されていた(逆粉飾)。

原因 動機
大東建託においては、従来から「株主に約束した数字は必ず達成する。」という経営陣の意識が強く、とくに管理部門の幹部は、このような経営陣の思いを勘酌して、予算と実績値の乖離をなるべく生じさせないという意識を強く持っていた。特に、経理部次長のX氏は、大東建託パートナーズおよび大東建託リーシングにおいて予算作成者かつ経理責任者であったことから、より一層、予算と実績値の乖離を注視する立場にあったところ、社内の会議にて管理工事部が注意を受け、叱責を受けている様子を見て、会計的な処理を活用して、各期の対外公表数値を維持するといった期待に応えたいという思いを強めていた。

機会
X氏は、仕訳の承認権者として実績値を任意に調整することが可能であり、決算の正確性の検証も潜脱することが可能となっていた。
X氏の会計操作を認識していた経理担当者もいたが、X氏は元公認会計士であったこともあり、XX氏に異議を唱えることはできなかった。大東建託には内部通報制度があったが、X氏の会計操作を認識していた経理担当者は、内部通報制度を利用しても業務の特殊性から通報の存否や通報内容が社内に知られてしまうと考え、利用に至らなかった。
内部監査室の内部監査は、支店監査の比重が極めて大きく、本社への監査は頻度も高くない等、内部監査室による経理部への監査が十分でなかった。

正当化
X氏は元公認会計士として財務会計的知見を有しており、たとえ問題のある引当金計上であったとしても、後日の会計処理によって「なんとか帳消しにできる」と考えていた。

再発防止策 具体的な再発防止策は今後策定予定。
<この失敗から学ぶべきこと>

役員の考え(業績予想の死守)を忖度した管理職が、元公認会計士の知見を利用して費用の過大・過少計上を繰り返していました。専門家が自身の知見を発揮する方向性を間違えた残念なケースと言えます。安定を志したはずの会計操作が露見して、図らずも会社は安定とは反対の方向(決算確定の延期、配当議案へのISSの反対など)に進んでいったのは皮肉な結果になったと言わざるを得ません。

大東建託では4月13日に経理部次長による不正な会計処理の存在が発覚し、4月26日に経理部による調査がスタートした後、すぐ(4月28日)に決算短信を公表しています(決算短信や決算説明会資料では、不正な会計処理については一切開示が行われていません)。通常はこのタイミングでの不正発覚であれば、決算の公表を延期するのが通常と思われます。しかも、6月の定時株主総会では決算への影響を確定できないことから継続会を開催するとしつつ、配当議案を会社提案としたことから、ISSより“物言い”をつけられました。決算短信は監査対象ではなく、かつ、逆粉飾(トータルでは費用の過大計上の方が多かった)であり、前期の分配可能額の残りも余裕があったことから配当議案への影響の心配はなしという実質判断に基づくものですが、これもまた「決算短信公表の死守」「配当議案の死守」という役員の考えとそれを忖度する企業風土が透けて見えるように思えます。配当の権利落ち後の会計不正発覚という難しい局面であったとはいえ、議論の余地がある対応でした。また、投資家が今回の不正を知ったのは5月24日のことでした。大東建託はもっと早い段階で不正な会計処理があったことと現在調査中であることをリリースすべきであったものと思われます。

大東建託には内部通報制度があり、年間300件を超える利用がありました。しかし、内部通報制度の運用は支店におけるコンプライアンス案件の発見に主眼が置かれていました。X氏の会計操作を認識していた経理担当者は、内部通報制度を利用すると業務の特殊性から通報の存否や通報内容が社内に知られてしまうと考え、利用に至りませんでした。普段から内部監査が経理に対しても抜き打ち調査をしていたのであれば、内部通報時にも抜き打ち調査のテイで通報対応できた(内部通報の存否がばれない)はずであり(調査報告書10ページ参照)、他社でも参考にしたいところです。

2022/06/23 改訂CGSガイドライン、社外取に「社長・CEOの選解任に関与する覚悟」求める

経済産業省に設置された(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)は現在、コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の(再)改訂を進めているが、・・・

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2022/06/23 改訂CGSガイドライン、社外取に「社長・CEOの選解任に関与する覚悟」求める(会員限定)

経済産業省に設置された(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)は現在、コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の(再)改訂を進めているが、最後の会合となる来週月曜日(27日)で議論される改訂案の内容が判明した。CGSガイドラインはコーポレートガバナンス・コードの主要原則を実践するための実務指針と位置付けられるだけに、上場企業のガバナンスのあり方に与える影響は大きい。

コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン : CGコードの主要原則を実践するための実務指針。

日本を代表する企業と言えるTOPIX500社のうち約4割でPBRが1倍を割っている中で今回のCGSガイドライン改訂のポイントとなったのが、「執行側」と「監督側」の双方の機能強化だ。その中にはややドラスティックとも言える指摘等も含まれている。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

監督機能の強化
まず「監督側」の代表格である社外取締役に対しては、有するべき資質として「社長・CEOの選解任に関与する覚悟」を求めている。また、取締役会の役割・機能を向上させるための「監督」には、単に執行にブレーキをかけたり不祥事を発見したりすることだけではなく、「リスクテイクをしないことのリスク(不作為のリスク)」を提起することも含まれるとした。

現状、社外取締役の個別評価には及び腰の企業が少なくないが、社外取締役の資質や役割への要求レベルが上がれば、必然的に「評価」という話が出て来る。改訂CGSガイドラインでは、社外取締役の評価の方法として、社外取締役である取締役会議長や指名委員会委員長、筆頭独立社外取締役などが主導しつつ、社外取締役による自己評価や相互評価を提案している。相互評価のためにインタビューを行う場合には、取締役会議長や指名委員会委員長、筆頭独立社外取締役、あるいは外部の第三者機関が実施することが望ましいとしたほか、多面的な評価のためには、社長、CEOを含む執行側の取締役の声を聞くことも考えられるとした。日本企業において社外取締役を評価することは未だセンシティブであり、評価結果を公表することは避けたいと考える企業が多いだろう。そこで改訂CGSガイドラインでは、評価の詳細は公表せず、「評価をした事実」や「評価のプロセス」を公表することを提案している。

さらに改訂CGSガイドラインでは、「監督機能」を自律的かつ継続的に発揮するための取組み(ボードサクセッション)についても言及している。ここでも鍵を握るのは社外取締役であり、「社長・CEOの選解任に責任を持って関与し、リードすることができる社外取締役」をどのように継続的に確保するかについて議論することが重要であるとした。

執行機能の強化
一方、「執行側」の機能を強化するためには、しがらみにとらわれない経営判断とリスクテイクができる資質を備えた社長・CEOの選任を実現する「指名」の仕組みが前提になるとしつつ、社長・CEOがリーダーシップを発揮して経営改革を推進するための社内の仕組み作りも必要であるとしている。例えば、CEOを中心としたトップマネジメントチームをCEO自身が組成し、責任・権限を明確にした上で権限を委譲することを挙げている。その際には、機能ごとに最高責任者(CxO)を設置することも有益とした。

また、日本企業では海外企業に比べるとCEOに就任する年齢が高く、数年間で順送りにすることが多いことを問題視、CEOの就任年齢の若返りを図るとともに、CEOが経営戦略を実現できる期間を確保すべきとした。もっとも、若いCEOを生み出すためには、将来の幹部候補となる人材プールを作る必要がある。そのために、幹部候補に対して自社株報酬を付与することや、持株会の活用が有益であるとした。

ガバナンス体制(機関設計や取締役会)のあり方
ここまで述べて来たとおり、社外取締役による監督機能の強化と経営陣のリスクテイクが求められる中、日本企業にとって課題となるのがガバナンス体制(機関設計や取締役会)のあり方だ。

改訂CGSガイドラインでは、まず取締役会の典型的な形を、①取締役会を監督に特化させることを志向するモデルと、②取締役会の意思決定機能を重視しつつ取締役会内外の監督機能の強化を志向するモデル、の2つに大別しつつ、①のモニタリング機能に重点を置いたガバナンス体制に移行することを検討することが有益とした。一方、②のモデルでは個別の業務執行上の決定に取締役会が関与するため、当該モデルを採用しつつ社外取締役の数・割合を増やしていく場合には、意思決定のスピードを損なわないための運営上の工夫が必要として注意を喚起している。ただし、いずれのモデルを採用するのか、またそれにはどの機関設計が適しているのかは、企業が“自覚的に”選択し、その理由について株主等に説明できるようにすることが望ましいとした。

近年は監査等委員会設置会社を選択する企業が大幅に増加しているが、改訂CGSガイドラインでは、当該機関設計を選択する場合の留意事項についても整理している。具体的には、個別具体的な業務執行事項の決定を大幅に執行側に委任する一方、取締役会を監督に特化させることが十分に検討されるべきとした。また、当該機関設計においては、法定の監査等委員会と任意の指名委員会・報酬委員会が併存している現状を踏まえ、これらの委員会に不必要な競合が生じないよう、監査等委員会が任意の指名委員会・報酬委員会の決定手続の適切性を確認した上で、各委員会の判断を踏まえて監査等委員会としての意見を形成することを推奨している。会社法上、監査等委員会は監査等委員以外の取締役の選任・報酬等について株主総会で意見を述べる「意見陳述権」を持っていることを踏まえ、監査等委員会の“序列”が最も高いことを明確にした格好だ。

また、“ボード3.0”(2022年6月8日のニュース『「Board3.0」が注目される理由と現状の社外取締役に足りないもの』参照)と呼ばれる新たなガバナンス体制として、「投資家・株主の関係者」を取締役として選任する事例が出て来たことを紹介しているが、選任に際しては、利益相反、情報管理、独立性・社外性などに留意しつつ、取締役候補者の資質や投資家・株主のトラックレコード等を総合的に考慮して、取締役会または指名委員会が選任の適否を判断すべきとしている。

このほか、取締役会または指名委員会の役割として、社長・CEOの解任・不再任を議論する契機となる評価基準等(定量基準を定める場合もある)を平時から定めておくことが推奨されている。

第3期CGS研究会は、来週27日の会合(最終回)で出た意見を反映したうえで、7月中旬頃には改訂版CGSガイドラインを確定し、公表する方向だ。

2022/06/22 有事導入型買収防衛策辞さない姿勢示すもCEOの選任議案に高賛成率

6月17日にエーザイの2022年3月期に係る定時株主総会が開催されたが、同20日に公表された臨時報告書により、CEOである内藤氏の選任議案への賛成率が96.3%と、前年の67.3%から30ポイント近く改善したことが分かった。全取締役の平均賛成率は97.7%と、やはり前年の84.0%から15ポイント近く改善している。下表のとおり、内藤CEOの賛成率は2015年までは90%前後で安定していたが、それ以降は年々切り下がっており、前年は過去最低のレベルまで落ち込んでいた。
63149
CEOの賛成率が7割弱まで落ち込んだ前年の総会だったが、2020年度のROEは6.1%あり、業績不振が問われるほどではない。議決権行使助言最大手ISSが経営トップ(会長、社長)である取締役の選任議案に反対推奨するのは過去5年平均または直近期のROEが5%未満の場合である(2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大に鑑みて当該“ROE基準”の適用を停止中)。逆に、2021年度のROEは6.6%で昨年度とほぼ横ばいとなっており、本年総会でCEOの賛成率が急改善した理由にもなり得ない。さらにもう1年遡ってみると、2019年度のROEは18.6%と顕著な好業績であったが、2020年総会におけるCEOの賛成率は71.7%と最低レベルだった。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

また、周知のとおり、コーポレートガバナンスについても同社は盤石と言える。2004年には指名委員会等設置会社(当時は委員会等設置会社)に移行、2021年総会終了後の時点で取締役11人のうち7人を独立社外取締役が占めており、取締役会議長も独立社外取締役が務めている。近年において目立った不祥事も確認されていない。

以上の分析を踏まえると、近年におけるCEOへの賛成率の低下、そして本年における急激な改善の主な理由は、・・・

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2022/06/22 有事導入型買収防衛策辞さない姿勢示すもCEOの選任議案に高賛成率(会員限定)

6月17日にエーザイの2022年3月期に係る定時株主総会が開催されたが、同20日に公表された臨時報告書により、CEOである内藤氏の選任議案への賛成率が96.3%と、前年の67.3%から30ポイント近く改善したことが分かった。全取締役の平均賛成率は97.7%と、やはり前年の84.0%から15ポイント近く改善している。下表のとおり、内藤CEOの賛成率は2015年までは90%前後で安定していたが、それ以降は年々切り下がっており、前年は過去最低のレベルまで落ち込んでいた。
63149
CEOの賛成率が7割弱まで落ち込んだ前年の総会だったが、2020年度のROEは6.1%あり、業績不振が問われるほどではない。議決権行使助言最大手ISSが経営トップ(会長、社長)である取締役の選任議案に反対推奨するのは過去5年平均または直近期のROEが5%未満の場合である(2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大に鑑みて当該“ROE基準”の適用を停止中)。逆に、2021年度のROEは6.6%で昨年度とほぼ横ばいとなっており、本年総会でCEOの賛成率が急改善した理由にもなり得ない。さらにもう1年遡ってみると、2019年度のROEは18.6%と顕著な好業績であったが、2020年総会におけるCEOの賛成率は71.7%と最低レベルだった。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

また、周知のとおり、コーポレートガバナンスについても同社は盤石と言える。2004年には指名委員会等設置会社(当時は委員会等設置会社)に移行、2021年総会終了後の時点で取締役11人のうち7人を独立社外取締役が占めており、取締役会議長も独立社外取締役が務めている。近年において目立った不祥事も確認されていない。

以上の分析を踏まえると、近年におけるCEOへの賛成率の低下、そして本年における急激な改善の主な理由は、敵対的買収防衛策の継続導入および廃止にあると推測される。

本年総会に係る招集通知(事業報告)の「財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」には以下の記述がある。

当社は、2022年4月27日開催の取締役会において、「当社企業価値・株主共同の利益の確保に関する対応方針」を継続せず、その有効期限が満了する2022年6月30日をもって廃止することを決議していますが、当社は企業価値・株主共同の利益を確保するために、その時点において採用可能な適切と考えられるあらゆる施策(いわゆる買収防衛策を含む)を講じていきます。

エーザイ取締役会が廃止したのは、いわゆる“平時”に導入する事前警告型買収防衛策である。同社の買収防衛策の最大の特徴は、株主総会の議案として諮ることなく、取締役会の決議によって導入・継続してきたことにある。同社取締役会は過半数が独立社外取締役で占められており、また、決議に先立って独立社外取締役のみで構成される「社外取締役独立委員会」でも検討することから、株主の意思は十分に踏まえることができると同社は考えたものと思われる。しかし、機関投資家は総会決議があっても買収防衛策には原則反対しており、同社の導入プロセスは株主の権利を損なうものでもあるとして、経営トップに反対票を投じてきた経緯がある。

事前警告型買収防衛策 : いつ現れるかわからない買収者への備えとして導入される買収防衛策のこと。買収者が守るべき手続き(例えば(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される「独立委員会」が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する、等)を事前に定めておき、買収者がこのプロセスに従わずに買収(一定比率(通常は15~20%)以上の株式の買付け)を強行した場合、あるいはこのプロセスを通じて買収提案が濫用的と判断された場合には、必要に応じて対抗措置(新株予約権の発行など)を決議することになる。「濫用的」と見なされる買収行為の典型例として、株式を買い占めた後に高値で買い取ることを要求する、といったことが挙げられる。

今回、投資家の批判を受けて従来の買収防衛策を廃止した形になったが、同時に、上記のとおり有事の際には「いわゆる買収防衛策を含む」あらゆる施策を講じるとしている。すなわち、「平時導入型の買収防衛策」を継続しない一方、いざ敵対的買収の局面を迎えた場合には「有事導入型の買収防衛策」を辞さないということである。平時、すなわち何も起こっていないにもかかわらず、買収防衛策を継続するだけでCEOへの賛成率が低迷すれば、そのこと自体が有事にもつながりかねず「割に合わない」といったところが同社の本音なのかもしれない。

有事導入型の買収防衛策 : 実際に買収者が出現してから導入する買収防衛策のこと。通常、有事導入型の買収防衛策は株主総会で承認を得ることが前提とされている。これにより時間稼ぎをするとともに、情報収集を行うことも有事導入型の買収防衛策の目的と言える。ただし、買収者側が買収防衛策の発動差し止めを裁判所に求めるケースもあり、有事型の買収防衛策が必ず認められるわけではない。また、買収者が公開買付期間を延長して時間を確保し、情報を提供した場合には有事型の買収防衛策を発動すること自体困難となる。

今回、同社が有事導入型の買収防衛策に頼ることとした背景には、近時の司法・投資家の判断が存在するものと考えられる。東京機械製作所が昨年8月、市中買い増しを続けるアジア開発キャピタルを対象に買収防衛策を導入、東京地裁はアジア社による差し止め仮処分の請求を却下し、最高裁も同判断を正当として抗告を棄却した。また、昨年10月には新生銀行がSBIホールディングスによるTOBに対抗して買収防衛策を導入、議決権行使助言会社のISSとグラスルイスがともに賛成推奨している(買収防衛策自体は11月に撤回)。

もっとも、有事の際に司法・投資家が注目するのは、敵対的買収者の出自および提案内容、それに対する会社側の過去実績と経営戦略であり、有事導入型の買収防衛策が支持を受けるかどうかはケースバイケースとなる。平時導入型の買収防衛策は“猛犬注意”の張り紙に過ぎないと揶揄されてきたが、有事導入型についても決して“魔法の杖”ではないことは認識しておく必要があるだろう。

2022/06/21 「投資家を誤解させる記載」は金商法上の罰則等の対象になるか

早ければ2023年3月期に係る有価証券報告書からサステナビリティ、人的資本など非財務情報の開示の強化が図られる方向となっているが(2022年6月20日のニュース『「取締役会および委員会等の活動状況」 として有報に記載すべき内容』ほか、これらの記事において引用されている記事参照)、これに伴い企業に求められるのが、有価証券報告書の“作成部隊”のあり方だ。・・・

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2022/06/21 「投資家を誤解させる記載」は金商法上の罰則等の対象になるか(会員限定)

早ければ2023年3月期に係る有価証券報告書からサステナビリティ、人的資本など非財務情報の開示の強化が図られる方向となっているが(2022年6月20日のニュース『「取締役会および委員会等の活動状況」 として有報に記載すべき内容』ほか、これらの記事において引用されている記事参照)、これに伴い企業に求められるのが、有価証券報告書の“作成部隊”のあり方だ。

財務情報を中心としたこれまでの有価証券報告書の作成は、主に経理部門が担うケースが多かったものと思われる。しかし、非財務情報の開示に対応するには、社内の様々な部門から情報を引っ張ってくる必要がある。この点を踏まえると、有価証券報告書を効率的に作成するには、統合報告書を作成している部門と経理部門がこれまで以上に連携を強めることが有効だろう。

もっとも、現在統合報告書に掲載している情報をすべて有価証券報告書に非財務情報として掲載することが求められているわけではない。有価証券報告書に掲載するのはあくまで投資家にとって「マテリアル(重要)」な情報に絞り込み、有価証券報告書に書き切れない情報については統合方向書を“参照”させる方式をとることになる(逆に、投資家にとってマテリアルな情報を有価証券報告書に掲載せず、丸ごと統合報告書を参照させる方式はNG)。

この際、仮に有価証券報告書から参照された統合報告書の情報に「事実と異なる実績」等が掲載されていた場合には、金融商品取引法上の虚偽記載に該当するとして同法の罰則や課徴金の対象になるのかという懸念が企業側から示されていたが、この点については、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループが6月13日に公表したディスクロージャーワーキング・グループ報告の中で、「明らかに重要な虚偽記載があることを知りながら参照するなど、当該任意開示書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載になり得る場合」を除けば、参照先の任意開示書類(統合報告書など)に虚偽記載があったとしても、金融商品取引法上の罰則や課徴金が課されることにはならないとの考えが、同報告の9ページの下部~の「② 任意開示書類の参照」の中で明確に示されている。

ちなみに、ディスクロージャーワーキング・グループ報告の「案」の段階では、上記の部分に「投資家の誤解を生じさせる」との文言があったが、これも公表版では削除されている。

<「案」段階の記述> ※公表版では赤字部分が削除
「明らかに重要な虚偽記載があることを知りながら参照することで投資家の誤解を生じさせるなど、当該任意開示書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載になり得る場合を除けば、

「投資家の誤解」という概念は曖昧であり、投資家によっても誤解の仕方(単なる勘違いの可能性もある)や程度は異なることから削除された模様。企業としては、有価証券報告書が情報過多とならないためにも、金融商品取引法の罰則等を恐れて過度に萎縮することなく統合報告書の参照方式を活用し、有価証券報告書の情報量・内容にメリハリをつけていきたいところだ。

2022/06/20 「取締役会および委員会等の活動状況」 として有報に記載すべき内容

既報のとおり、金融庁 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は2022年6月13日、非財務情報(サステナビリティ、人的資本、多様性、取締役会の機能発揮等)の開示の充実化に向けた提言(ディスクロージャーワーキング・グループ報告)を公表している(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」、2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」、2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』ほか、これらの記事において引用されている記事参照)。これを踏まえて、今後、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)の改正内容が検討され、早ければ2023年3月期に係る有価証券報告書から改正開示府令が適用される方向だ。

取締役会の機能発揮については、取締役会および指名・報酬委員会等の活動状況の「記載欄」を新たに設けて、各会議体の①「開催頻度」、②「主な検討事項」、③「個々の構成員の出席状況」等の記載が求められる見込みとなっている。これは現行の監査役会等の活動状況の開示と同様の要請であり、また、既に取締役会の開催頻度・出席状況(①③)や報酬委員会の開催頻度・主な検討事項(①②)については一定程度の開示が進んでいるため、一見、さほど対応は難しくないようにも見える。しかし、取締役会と委員会等では、期待される役割も裁量の範囲も大きく異なり、また、会社ごとに機能や位置づけも異なるため、活動状況として開示が期待される内容や程度には大きな違いがあることに留意する必要がある。以下、それぞれについて記載すべき内容を解説する。・・・

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2022/06/20 「取締役会および委員会等の活動状況」 として有報に記載すべき内容(会員限定)

既報のとおり、金融庁 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は2022年6月13日、非財務情報(サステナビリティ、人的資本、多様性、取締役会の機能発揮等)の開示の充実化に向けた提言(ディスクロージャーワーキング・グループ報告)を公表している(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」、2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」、2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』ほか、これらの記事において引用されている記事参照)。これを踏まえて、今後、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)の改正内容が検討され、早ければ2023年3月期に係る有価証券報告書から改正開示府令が適用される方向だ。

取締役会の機能発揮については、取締役会および指名・報酬委員会等の活動状況の「記載欄」を新たに設けて、各会議体の①「開催頻度」、②「主な検討事項」、③「個々の構成員の出席状況」等の記載が求められる見込みとなっている。これは現行の監査役会等の活動状況の開示と同様の要請であり、また、既に取締役会の開催頻度・出席状況(①③)や報酬委員会の開催頻度・主な検討事項(①②)については一定程度の開示が進んでいるため、一見、さほど対応は難しくないようにも見える。しかし、取締役会と委員会等では、期待される役割も裁量の範囲も大きく異なり、また、会社ごとに機能や位置づけも異なるため、活動状況として開示が期待される内容や程度には大きな違いがあることに留意する必要がある。以下、それぞれについて記載すべき内容を解説する。

指名・報酬委員会等の活動状況
まず指名・報酬委員会等については、任意の会議体であることがほとんどで、各社の委員会の裁量には幅がある。審議内容は、必然的に役員の指名または報酬に関することが中心となる。

活動状況を開示する意味は、必要十分な情報を基に、十分な時間をかけて、出席すべき委員全員で適時・適切に審議しているかどうかを、株主・投資家が確認できるようにすることにある。具体的には、開催頻度・出席状況(①③)を定量的に示しつつ、主な検討事項(②)については、各社の委員会の裁量(権限・役割)に照らして、適切な審議を行っていることを確認できる程度の開示が求められているものと考えられる。したがって、委員会の裁量が大きいほど、主な検討事項(②)の開示も充実していて然るべき、ということになる。また、法定の委員会や個人別の報酬決定権限を取締役会から委任されている委員会については、その責務の大きさを踏まえると、任意の委員会よりも充実した開示が期待される。

一方で、指名・報酬委員会等に期待される典型的な役割としては、「後継者計画の策定・モニタリング」「環境・戦略の変化に即した報酬ポリシー改定の審議」「業績等の評価と指名・選解任の審議」「業績等の評価と報酬支給額の審議」などが挙げられるが、そもそも委員会にその権限・役割が与えられていなければ、こうした活動が行われることもないため、活動状況の開示はその前提となる権限・役割とセットで開示することが望ましい。また、必要十分な情報を基に審議・検討していることの証左としては、信頼性の高い外部アドバイザーを活用している旨を記載することも有用であろう。

取締役会の活動状況
次に取締役会については、既に開催頻度・出席状況(①③)の開示が進んでいる。こうした中、主な検討事項(②)として、何をどの程度記載するかが論点となる。

委員会と比べると、審議・検討すべき範囲が段違いに広く、テーマも多岐にわたるため、単に付議事項を列挙しても、株主・投資家がその是非を判断するのが難しいことは容易に想像できる。また、開示の趣旨は、取締役会の実効性を株主・投資家が確認できるようにすることにあるため、まずは、その前提条件として、各社が定める取締役会の期待役割や課題感(前年度の実効性評価の結果)を示したうえで、当年度は、何に重点をおいて、具体的にどのようなことについて主に(十分な時間をかけて)審議・検討またはモニタリングしたのかが分かるような開示が期待されている。

また、取締役会の実効性を高めるための工夫として、例えば、取締役会以外の場を活用して(非公式に)意見交換や情報交換をしている場合は、その状況についても記載することが望ましいだろう。むしろ、こうした実態を開示しないと、取締役会で審議すべき事項に過不足があるといった誤解を招き、株主・投資家の信任を損なうリスクもある。

なお、取締役会の具体的な活動状況について(開示が先行する報酬委員会と異なり)有価証券報告書で充実した記載を行っている事例は、現時点ではほぼ皆無である。ただし、取締役会の実効性評価の一環として統合報告書や各社のWebサイトで任意に開示している事例や、事業報告で開示している事例もあるので、今後の参考として、以下でいくつか紹介しておく。

三井物産
取締役会の実効性評価の参考資料(Webサイトに掲載)として、取締役会、各種委員会、および社外役員会議の開催回数と個々の構成員の出席状況を一覧表で分かりやすく示しており、各役員が期待役割を果たしているかどうかを一目で確認できる。また、取締役会付議・報告件数を6つに分類したうえで、過去3年分の実績を開示するとともに、直近事業年度における取締役会の開催日・議題、各委員会の期待役割・活動状況、並びに社外役員会議のテーマの一覧等を記載しており、任意の委員会等を含めて取締役会全体として何に重点をおいて審議・検討しているのか、また、その実効性を高める工夫が読み取れるような開示となっている。

セブン&アイ HLDGS
統合報告書(116ページ)において、取締役会の実効性評価の前段に、取締役会の活動状況を記載している。取締役会の開催頻度に関しては、開催回数だけでなく審議時間も含めて、過去4年間の推移をグラフで示しており、あわせて、経営意見交換会(取締役会議案の事前説明や経営・事業戦略等の情報共有を目的とした非公式の場)についても同様のグラフを並べて掲載することにより、実質的な審議・検討時間が増加傾向にあることが、視覚的に一目で分かるよう工夫がなされている。取締役会の審議事項については、6つに分類したうえで、各分類別に主要なテーマ例を示している。

エーザイ
事業報告(66ページ以降)において、取締役会および各委員会の活動状況を、同じフォーマット・ボリューム感で、シンプルに分かりやすく記載している。当期における特に重要な課題や審議・検討内容については、取締役会議長および各委員会の委員長からのメッセージとして掲載しており、株主・投資家の理解・納得感を高める工夫が凝らされている。

インテリジェント ウェイブ
インテリジェント ウェイブは、有価証券報告書(28ページ以降)において、唯一、取締役会の活動状況に関する充実した開示が確認された事例である。今後の開示強化を先取りする形で、「コーポレートガバナンスの概要」欄に、取締役会や各委員会の機能・役割を記載したうえで、各会議体の開催回数・開催時間や主な審議・検討内容を記載している。取締役会については、出席状況や議案の数・報告事項の数、経営上特に重要な決議事項のほか、取締役会の実効性に関する評価や実効性向上に向けた取り組みなどについても触れている。

上記事例の他、取締役会の審議事項を分類して開示するにあたり、三菱商事(4つに分類。統合報告書75ページ)や出光興産(3つに分類。統合報告書62ページ)の事例も参考になるだろう。