2022/06/17 家族が同業他社に勤務している従業員の処遇

従業員にとって、自分の家族の職業や勤務先はセンシティブな情報であり、少なくとも会社が強制力をもってそれを報告させることは難しい。会社が従業員の家族関係の情報を入手する目的としては「課税処理や年末調整のため」「社会保険の加入手続きのため」「家族手当や慶弔見舞金等の支給可否判断のため」「緊急時の連絡のため」などが考えられるが、家族の職業や勤務先はこれらに関係がないからだ。

ただ、近年のダイバーシティの流れや就労する女性の増加とともに、インフォーマルな形で従業員の家族の勤務先等を会社が知るケースが増えることも予想される。これに伴い問題となりかねないのが、従業員の家族が同業他社に勤務していることが判明した場合だ。会社が「同業他社に機密情報が漏洩するのではないか」との懸念を抱いたとしてもやむを得ないところだろう。

このような場合の対応として、・・・

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2022/06/17 家族が同業他社に勤務している従業員の処遇(会員限定)

従業員にとって、自分の家族の職業や勤務先はセンシティブな情報であり、少なくとも会社が強制力をもってそれを報告させることは難しい。会社が従業員の家族関係の情報を入手する目的としては「課税処理や年末調整のため」「社会保険の加入手続きのため」「家族手当や慶弔見舞金等の支給可否判断のため」「緊急時の連絡のため」などが考えられるが、家族の職業や勤務先はこれらに関係がないからだ。

ただ、近年のダイバーシティの流れや就労する女性の増加とともに、インフォーマルな形で従業員の家族の勤務先等を会社が知るケースが増えることも予想される。これに伴い問題となりかねないのが、従業員の家族が同業他社に勤務していることが判明した場合だ。会社が「同業他社に機密情報が漏洩するのではないか」との懸念を抱いたとしてもやむを得ないところだろう。

このような場合の対応として、当該従業員の解雇が思い浮かぶところだが、結論から言うと、家族が同業他社に勤務していることを理由に解雇することはできない。そもそも従業員と家族は別人格であり、現に機密を漏洩したのならともかく、その“おそれ”が漠然とあるだけでは解雇の理由とはなり得ない。実際、夫が同業他社に勤務しているという理由で妻を試用期間中に解雇した事案について「仮に秘密が漏洩するおそれがあるのであれば、秘密保持のための適宜の措置を取ればいいのであって、解雇の合理的理由とは認められない」とした裁判例(平成16年3月11日大阪地判)もある。

では、会社から一方的に解雇するではなく、退職を勧奨するのはどうだろうか。退職勧奨自体に違法性はないため、詐欺や強迫が無い限り問題はないと考えられる。しかし、退職勧奨はあくまで“勧奨”であって、本人が応じなければ意味が無い。本人に納得してもらうためには、退職金の割増しなどの“パッケージ”を用意する必要が出てくる可能性もあろう。

これが採用前であれば話は違ってくる。面接等で家族について質問することは「不適切な採用選考」として行政指導の対象となり得るが、“雑談”の中で応募者が自ら家族が同業他社に勤務している旨を話したのであれば、それをもって不採用とすることは問題ない。その応募者を従業員として採用するもしないも「営業活動の自由」に属するからだ。

営業活動の自由 : 特定の営業を選択し、遂行する自由のこと。法令上明文の規定はないが、憲法22条の職業選択の自由と 29条の財産権を根拠としているというのが通説となっている。

ここまでは当該従業員を組織から排除する方法について述べてきたが、組織の中での配置転換も考えられる。配置転換は、人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使として、ある程度の裁量が認められる。例えば「機密を取り扱う部署から他部署へ異動させる」といったケースであれば、その配置転換には合理的な理由があると言えよう。ただし、合理的な理由があっても、経営上の必要性と比較衡量して従業員の受ける不利益が過大である場合は“権利の濫用”として無効となることもある(参考判例:昭和61年7月14日最高裁第二小法廷判決)。特に転居を伴う配転命令には注意したい。現実問題としては、当該従業員の有用性も考慮に入れる必要があろう。“おそれ”が有用性を上回るようであれば、配置転換は十分選択肢となりそうだ。

経営権 : 自己の経営の利害と自主性を主張し、経営の維持、発展を図る権限のこと。社内に向けては、従業員を機能的に指揮、統率しうる権限であり、その典型が人事権である。ただし、法令の根拠がある権利ではない。

2022/06/16 株主からの臨時総会開催要請に裁判所の決定と異なる決断 監査役の善管注意義務違反は?

買収防衛策の導入(継続)議案に対する賛成率がかつてより大幅に低下するなど、近年、買収防衛策に対しては投資家サイドから厳しい視線が注がれている。こうした中、3%以上の議決権を有する・・・

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2022/06/16 株主からの臨時総会開催要請に裁判所の決定と異なる決断 監査役の善管注意義務違反は?(会員限定)

買収防衛策の導入(継続)議案に対する賛成率がかつてより大幅に低下するなど、近年、買収防衛策に対しては投資家サイドから厳しい視線が注がれている。こうした中、3%以上の議決権を有する乾汽船(東証スタンダード上場)に対し、「買収防衛策の廃止」を含む5項目を株主総会の目的事項に掲げ、臨時株主総会招集を求めていたのが、アクティビストファンド「アルファレオホールディングス合同会社」(以下、アルファレオ)だ。

これに対し乾汽船は、定款上、買収防衛策の廃止は「取締役会決議」によることができるとして、アルファレオの要求に応じなかった。そこでアルファレオが臨時株主総会の招集を東京地裁に申し立てた結果、同地裁は買収防衛策の廃止を目的事項とした臨時株主総会招集許可決定を行った。

<参考>
(株主による招集の請求)
第二百九十七条 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)
及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
2 略
3 略
4 次に掲げる場合には、第一項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一 第一項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二 第一項の規定による請求があった日から八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合

この招集許可決定に基づき臨時株主総会は開催されたものの、買収防衛策の廃止を求める議案は否決された。しかし、これで一件落着とは行かなかった。

問題は、上記のとおり乾汽船が買収防衛策の廃止を臨時株主総会の議案として取り上げなかった一方で、裁判所が買収防衛策の廃止を目的事項とした臨時株主総会招集を許可したということだ。アルファレオはこの点を突き、「裁判所による招集許可決定がなされているにもかかわらず、監査役らが買収防衛策の廃止を議案として取り上げないことに異議を申し立てなかったことは、監査役らの重大な善管注意義務違反である」などと主張し、監査役らを相手取り東京地裁に訴訟を提起した。

結論から言うと、東京地裁は、監査役らに重大な善管注意義務違反があったとは言えないとして、アルファレオの請求を棄却している。東京地裁が重視したのが「判断過程」だ。東京地裁は、監査役らが自社の代表取締役から、(1)会社法上、取締役会設置会社の株主総会では、会社法および定款所定の事項に限り決議できる旨が定められていること、(2)会社法および定款には、買収防衛策の廃止が株主総会決議事項として定められていないこと、(3)買収防衛策の廃止を目的とした株主提案権の行使を認めないとした裁判例(東京高等裁判所令和元年5月27日“ヨロズ事件”決定(2019年6月24日のニュース「買収防衛策の廃止を目的とした株主提案を裁判所が否定」参照))が存在していることから、買収防衛策の廃止議案は、自社の株主総会の権限の範囲に属する事項とは言えないと考えられることについて説明を受けたうえで、弁護士の意見を確認し、監査役間で協議した結果、買収防衛策の廃止を株主総会の議案として取り上げないことに異議を申し立てないとの判断に至ったと認定。「裁判所では、監査役らの判断とは異なり、株主総会の招集許可決定がなされたものの、判断過程に照らせば、監査役らに重大な善管注意義務違反があったということはできない」と結論付け、原告の請求を棄却している(2022年5月20日判決)。

判断のプロセスを(記録することを含め)明確にしておくことの重要性を改めて認識させる事案と言えそうだ。

2022/06/15 有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ(会員限定)

当フォーラムがいち早く報じてきたとおり、2023年3月期の有価証券報告書より、【従業員の状況】において「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」の開示が義務化されることが確定的となっている()。

こうした中、(2022年)6月13日には、金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループが開示事項の見直しをとりまとめた「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表した。その中で上場企業にとって喫緊の課題となるのが、海外機関投資家の間でジェンダー・ぺイ・ギャップと呼ばれる「男女間賃金格差」の開示だ。

男女間賃金格差については、有価証券報告書(金融商品取引法)に加え、女性活躍推進法でも動きがある。現行の女性活躍推進法では、複数の女性活躍関連項目の中から1つ以上の項目を選択して開示すればよいことになっており()、男女の賃金格差は開示対象項目となっていないが、当フォーラムの取材によると、近く女性活躍推進法の政令が改正され、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」に対しては、男女の賃金格差の開示が義務付けられることとなる模様だ(開示の選択肢の一つとなるのではなく、開示が強制されることになる)。したがって、たとえ有価証券報告書による開示対象からは外れた子会社でも、男女の賃金格差の開示が求められる可能性が高い。さらに、ディスクロージャーワーキング・グループ報告では、女性活躍推進法で男女の賃金格差を公表していない企業であっても、「有価証券報告書で開示することが望ましい」(報告書15ページを参照)とされている。

 女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、2020年6月1日以降、①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の区分ごとにそれぞれ1項目以上選択して2項目以上の情報を公表することが求められている。女性管理職比率は「①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」における選択項目の一つで、男女別の育児休業取得率は「②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」における選択項目の一つとなっている。2022年4月1日には、当該公表義務の対象となる事業主が常時雇用する労働者が101人以上の事業主にまで拡大された。

男女の賃金格差は男女の平均勤続年数や管理職比率に差異があることが主因とされており、そこからは、企業内で賃金階層における男女の偏在(管理職などの賃金の高い階層には男性が多く、平社員や非正規従業員など賃金が比較的低い階層には女性が多い)とそれを許容している経営陣の姿勢が透けて見えるため注目を集めやすい。今後、上場企業は開示に備え、①「男女間賃金格差」などのデータを算定し、全国平均値などと比較したうえでギャップの“見える”化を図り、その結果を経営陣が共有する、②ギャップの原因を追究し、改善を図る、③一定期間経過後にデータを再算定し、改善の効果が出ているかどうかを検証し、改善計画に反映するというプロセスを繰り返す必要がある。以下、具体的に見ていこう。

まず取り掛かるべきは、経営陣が現状のデータ(例えば前事業年度の値)を共有し、日本企業の平均値と比較して自社の置かれた現状を理解することだ(第一ステップ)。これは単なる数値の把握であるため、前提(対象期間、連結or単体、パートタイマーやアルバイトの取扱い等)さえ確定すれば、すぐにできるはずだ。比較対象は有価証券報告書での開示がスタートして同業他社の平均値が算出できるようになるまでは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査や国税庁の民間給与実態統計調査(令和2年分はこちら)を利用することが考えられる。

①のデータを経営陣が共有した後は、「原因追求」のステップに移ることになる。上述のとおり、賃金格差の直接の原因は男女の平均勤続年数や管理職比率に差異にあるが、何故そのような差異が生じているのか理由を分析しなければ、解決策を打つことはできない。具体的には、(1)制度設計と(2)制度運用の二面からの検討が必要になる(厚生労働省の「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」参照)。ただし、通常は様々な原因が複合的に絡み合って差異が生じており、すべての原因を解き明かすのは実務上困難とされている点には注意が必要だ。

(1)制度設計 ・性別によって差別的取扱いをする制度になっている(労働基準法第4条違反)
・性別役割分担意識を持って運用されることが実質的に容認される制度になっている
・家事、育児と仕事との両立が困難な制度になっている
(2)制度運用 ・採用、配置や仕事配分、育成方法の決定、人事評価や業務評価などの側面で、男女労働者間に偏りがある

上記パンフレットにもあるように、制度設計に問題があれば採用・配置等の面での男女差が生まれ、制度運用に問題があれば男女間に経験や能力差が生まれ、管理職比率の男女差につながることになる(パンフレットの5ページ目を参照)。

上場企業では、そもそも性別によって差別的取扱いをする制度が採用されているとは考えにくいが、「性別役割分担意識を持って運用されることが実質的に容認される制度になっていないか」「家事、育児と仕事との両立が困難な制度になっていないか」といった観点については、従業員にインタビューをすることで、問題点を浮き彫りにすることが考えられる。

難しいのは(2)の制度運用面の原因追求だ。給与は完全成果報酬型でない限り賃金テーブルに基づくのが通常であり、一人ひとりの給与は賃金テーブルから、手当は各種規程から機械的に定まるが、そもそも賃金テーブル上の等級と号俸の選択・決定にあたり一定の範囲で上司の裁量が認められており、また、昇進させるかどうかの意思決定においても上司の裁量の幅が大きい。ジェンダー・ぺイ・ギャップはそのような裁量の結果の累積とも言えるため、原因調査にあたっては仮説と検証を繰り返さざるを得ない。例えば、従業員へのインタビューの結果、「人事評価が男性に甘く、女性に厳しいのではないか」という仮説を立てるのであれば、人事評価結果を男女別に集計して差異を分析することが考えられる。その結果、仮説が正しいということになれば、次は人事評価において性別ごとに不平等が起きている原因について仮説(例えば「評価者に男性が多い」「評価にあたり男性優位のバイアスが無意識に生じている」などの仮説)を立て検証していくことになる。一方、男女別の人事評価結果に男女の差異は生じていない、あるいは女性の方が評価は高いという結果になれば、次は「人事評価の結果と昇進昇格が連動していないのではないか」という仮説を立て、人事評価の結果と昇進昇格の相関関係を男女別に分析することとなる。

そして第三ステップとして、目標の設定、目標実現に向けてのマイルストーンの立案と実行、その検証というPDCAサイクルを回していくこととなる。

PDCAサイクル : Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の循環

それでもなお、「男女間賃金格差」「女性管理職比率」において男女の差異が埋まらないのであれば、女性を優先して配置、昇進させたり、賞与を増額させたりするなどポジティブ・アクション()に取り組むことも考えるべきであろう。とりわけ女性への賞与の増額(割り増し)は、男性からの強い反発が予想されるとともに、本質的な解決方法とは言い難い奇策ではあるものの、「男女間賃金格差」の改善には即効性がある。王道の「女性管理職の増加」には長い時間がかかることを考慮すると、「男女間賃金格差」の解消にてこずっている上場企業は有力な選択肢として検討したいところだ。

 男女間の固定的な役割分担意識や過去の流れから生じている「管理職は男性が大半を占めている」といった男女労働者間の格差の解消を目指し、女性の採用拡大・職域拡大・管理職登用の拡大等、個々の企業が進める自主的かつ積極的な取り組みをいう。

役員の女性比率が少ない企業で「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」のデータが同業あるいは同市場(たとえばプライム市場上場企業)の平均を下回れば、投資家をはじめとするステークホルダーから「女性役員が少ないから取り組みが遅れているのではないか」との指摘を受けるかもしれない。しかし、女性活躍の推進はそもそも女性役員だけが責任を負うべき課題ではないはずだ。経営陣には、性別に関係なく全員で「ガラスの天井」を取り払う姿勢が求められていると言えよう。

2022/06/15 有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ

当フォーラムがいち早く報じてきたとおり、2023年3月期の有価証券報告書より、【従業員の状況】において「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」の開示が義務化されることが確定的となっている()。

こうした中、(2022年)6月13日には、金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループが開示事項の見直しをとりまとめた「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表した。その中で上場企業にとって喫緊の課題となるのが、海外機関投資家の間でジェンダー・ぺイ・ギャップと呼ばれる「男女間賃金格差」の開示だ。

男女間賃金格差については、有価証券報告書(金融商品取引法)に加え、女性活躍推進法でも動きがある。現行の女性活躍推進法では、複数の女性活躍関連項目の中から1つ以上の項目を選択して開示すればよいことになっており()、男女の賃金格差は開示対象項目となっていないが、当フォーラムの取材によると、近く女性活躍推進法の政令が改正され、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」に対しては、男女の賃金格差の開示が義務付けられることとなる模様だ(開示の選択肢の一つとなるのではなく、開示が強制されることになる)。したがって、たとえ有価証券報告書による開示対象からは外れた子会社でも、男女の賃金格差の開示が求められる可能性が高い。さらに、ディスクロージャーワーキング・グループ報告では、女性活躍推進法で男女の賃金格差を公表していない企業であっても、「有価証券報告書で開示することが望ましい」(報告書15ページを参照)とされている。

 女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、2020年6月1日以降、①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の区分ごとにそれぞれ1項目以上選択して2項目以上の情報を公表することが求められている。女性管理職比率は「①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」における選択項目の一つで、男女別の育児休業取得率は「②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」における選択項目の一つとなっている。2022年4月1日には、当該公表義務の対象となる事業主が常時雇用する労働者が101人以上の事業主にまで拡大された。

男女の賃金格差は男女の平均勤続年数や管理職比率に差異があることが主因とされており、そこからは、企業内で賃金階層における男女の偏在(管理職などの賃金の高い階層には男性が多く、平社員や非正規従業員など賃金が比較的低い階層には女性が多い)とそれを許容している経営陣の姿勢が透けて見えるため注目を集めやすい。今後、上場企業は開示に備え、①「男女間賃金格差」などのデータを算定し、全国平均値などと比較したうえでギャップの“見える”化を図り、その結果を経営陣が共有する、②ギャップの原因を追究し、改善を図る、③一定期間経過後にデータを再算定し、改善の効果が出ているかどうかを検証し、改善計画に反映するというプロセスを繰り返す必要がある。以下、具体的に見ていこう。

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2022/06/14 リストリクテッド・ストック・ユニットが退職所得に該当せず

既に多くの上場企業が様々な株式報酬()を導入しているが、代表的な株式報酬としてリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)がある。そして、リストリクテッド・ストックには、株式交付のタイミングによって、「事前交付型」(これが通常は単にリストリクテッド・ストック(略称:RS)と呼ばれる)と「事後交付型」(リストリクテッド・ストック・ユニット(略称:RSU))に分けられる。

事前交付型 : 取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行い(この時が会社法上の「割当日」に該当)、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。
事後交付型 : 取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

近年は、長期インセンティブプランとして・・・

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2022/06/14 リストリクテッド・ストック・ユニットが退職所得に該当せず(会員限定)

既に多くの上場企業が様々な株式報酬()を導入しているが、代表的な株式報酬としてリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)がある。そして、リストリクテッド・ストックには、株式交付のタイミングによって、「事前交付型」(これが通常は単にリストリクテッド・ストック(略称:RS)と呼ばれる)と「事後交付型」(リストリクテッド・ストック・ユニット(略称:RSU))に分けられる。

事前交付型 : 取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行い(この時が会社法上の「割当日」に該当)、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。
事後交付型 : 取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

近年は、長期インセンティブプランとしてリストリクテッド・ストック・ユニット(RSU)を導入する企業が増加しているが、「退職後」に支給を受ける経済的利益が「給与所得」に該当するのか、あるいは税制が優遇されている「退職所得」に該当するかが国税不服審判所で争われ(法人税や消費税など国税に関する紛争は、裁判の前にまず国税不服審判所で争うのが原則とされている)、国税不服審判所が「退職所得ではなく給与所得に該当する」との判断を下していたことが分かった。

税制が優遇されている : 「退職金額-退職所得控除額)×1/2×税率」により税金を計算することになっている。ただし、平成24年度税制改正により平成25年1月1日以降支給分から、「勤続年数5年以下の役員」への退職金については算式中「×1/2」が廃止された。

このRSUは、A社の親会社の普通株式1株に等しい価値を持つ譲渡制限付株式ユニットであり、RSUを付与された従業員等は、RSUが所定の時期に権利確定した際に、RSUの数に等しいA社の親会社の普通株式を取得することができる仕組みとなっている。また、このRSUは、従業員等の雇用が継続している場合、RSUの付与日の1年後から「1年ごと」に「4分の1ずつ」権利確定するとともに譲渡制限も解除され、それに伴い生じる経済的利益は「給与所得」に該当するが、本件では従業員が2回RSUの権利が確定したところで退職したことから、「退職後」に支給を受ける経済的利益の税務上の所得区分が争われることとなった。

税務署は、譲渡制限解除に伴い生じる経済的利益は「雇用契約に基づいて給付された労務の対価」であり、本件経済的利益は給与所得に該当すると判断、これを退職所得とした納税者(元従業員)に追徴課税を行った。

元従業員は、退職に際して、勤務先の代表者との間で「在職中に付与されたRSUを没収することなく、退職金の一部として付与すること」について口頭で合意したとして、「退職後」に支給を受ける経済的利益は退職所得に該当すると主張。実際、A社では、退職時におけるRSUの譲渡制限解除等の条件として、「RSU規定書」に下記のCのとおり定めていた。

<A社のRSU規定書>
A 従業員の雇用が継続している場合、RSUの付与日の1年後から1年ごとに RSUの4分の1ずつ権利確定し、同時に譲渡制限が解除される。
B RSUの権利確定及び譲渡制限が解除される前に雇用が終了した場合、一定の場合を除き、RSUは没収される。
C 上記Bにかかわらず、雇用終了の理由が、会社側が特別退職金等を支払う場合の退職に該当するとき、RSUは上記 Aに基づき引き続き権利確定し、譲渡制限が解除される。ただし、RSU規定書に記載された要件を遵守しない場合は、RSUは没収される。

国税不服審判所は、「元従業員がA社を退職した際に作成された雇用保険被保険者資格喪失確認通知書には資格喪失原因が会社都合による離職である旨が記載されており、実際に退職の際に特別退職金の支給を受けている」ことを踏まえ、条件Cの「会社側が特別退職金等を支払う場合の退職」に該当することは認めつつも、「RSUから生じる経済的利益の収入計上時期はRSU規定書に定められた権利確定年月日(※RSUの付与日の1年後から1年ごと)であり、未確定RSUは退職後も没収されなくなっただけであって、この時点で権利が確定していないことは明らか」などとして、経済的利益の収入計上時期を「退職日」であるとする元従業員の主張を斥けている。

結論として国税不服審判所は、請求人が退職したにもかかわらず未確定のRSUが没収されなかった原因は条件AおよびCを満たしたことであり、請求人の「退職」という事実によって初めて給付されたものではないことなどから、本件経済的利益は退職所得には該当せず、給与所得に該当するとの判断を示した。

当初は外資系企業で導入が広がったRSUだが、近年は野村ホールディングス、ソフトバンクグループ、メルカリなど日本の上場企業でも導入されている。その背景の一つには、平成29年度税制改正により、RSUが「事前確定届出給与」として法人税法上、損金算入の対象とされたということがある(【特集】2017年度税制改正を踏まえたインセンティブ報酬設計のポイント「2.損金算入要件の変化」参照)。今後RSUの導入を検討している企業は本事案を念頭に置いておきたいところだ。

事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの 。

2022/06/13 「筋肉質な組織」をどう訳す? 英文開示に頭を悩ませる日本企業

日本企業でも英文開示は年々充実化傾向にあるが、現場においては時間も労力もコストもかかっており、また、そのようにしてようやく完成した英文開示書類は、海外の読み手(主に海外投資家)からすると難読を極めるというように、作成側・読み手側の双方にとってストレスが生じている。特に報酬開示については、どのようなパフォーマンスに対してどのように報いる報酬パッケージなのか、それは経営計画で謳っているストーリーと整合した形となっているのかといった点をシンプルに理解したいと読み手は考えているにもかかわらず、そこに到達する数歩手前で立ち止まってしまうことが少なくないのが現状だ。

例えば、和文原稿の段階で「筋肉質な組織」を謳っていても、いざこれを英訳しようとすると、一体どのような訳語が適切なのか、頭を悩ませることになる。海外投資家にどう伝わるかはさておき、ひとまず・・・

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2022/06/13 「筋肉質な組織」をどう訳す? 英文開示に頭を悩ませる日本企業(会員限定)

日本企業でも英文開示は年々充実化傾向にあるが、現場においては時間も労力もコストもかかっており、また、そのようにしてようやく完成した英文開示書類は、海外の読み手(主に海外投資家)からすると難読を極めるというように、作成側・読み手側の双方にとってストレスが生じている。特に報酬開示については、どのようなパフォーマンスに対してどのように報いる報酬パッケージなのか、それは経営計画で謳っているストーリーと整合した形となっているのかといった点をシンプルに理解したいと読み手は考えているにもかかわらず、そこに到達する数歩手前で立ち止まってしまうことが少なくないのが現状だ。

例えば、和文原稿の段階で「筋肉質な組織」を謳っていても、いざこれを英訳しようとすると、一体どのような訳語が適切なのか、頭を悩ませることになる。海外投資家にどう伝わるかはさておき、ひとまず「Company with muscle」と直訳して済ませることも出来るが、英文開示の本来の趣旨からはまったく逸脱した対応と言わざるを得ない。

日英両語での開示においては、「両者に差異がある場合、和文を正とする」(In the event of any discrepancy between this translated document and the Japanese original, the original shall prevail)という“逃げ文句”が付されていることも多い。また、取締役でも自社の英文開示書類を精読しているケースは少ないのが実態であり、まさか「Company with muscle」という英訳が世に出ているとは夢にも思っていないケースがほとんどだ。

文脈から趣旨を判断すると、言わんとすることは「(達成ありきではなく)aspirational goal(野心的な目標)を持つカルチャーの醸成」という意味合いであったり、「cost effectiveness(費用対効果)」を追求する、という意味合いであったり、はたまた「資本コストを念頭に、十分なROICを見込める事業領域、そうでない事業領域を見極めていく」という意味合いであったりと、言葉の背景には事業計画・組織づくりの本質に迫る議論があることも多い。こうした深い意味が「Company with muscle」で伝わるはずがない。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

「Company with muscle」のような極端な例以外にも、直訳的な翻訳となっているために読みにくい英文は数多い。例えば固定報酬・変動報酬は、一般的にはそれぞれ「“fixed” pay(/compensation/remuneration)」と「”variable” pay」であるが、変動報酬を直訳的に「fluctuating pay(揺れる報酬)」としているような例はごく一般的に見受けられる。この表現を外国人が見た場合、まるで業績の好不調は自分たちの努力では如何ともしがたい、という意味にさえ捉えられかねない。また、表記の揺れが放置されているケースも多い。例えば、「〇〇 remunerationと◇◇ compensationから構成される」(remuneration、compensationはいずれも「報酬」を意味するが、意図的に使い分けているわけではなく、ただ表記が揺れているに過ぎない)といった事例が頻繁に見受けられる。

このような事態を避けるためには、英文に落とし込まれても「Lost in Translation」とならない日本語の開示文言をあらかじめ検討するという工夫も必要になってくるだろう。より本質的には、本社のコーポレート部門は“なんちゃってグローバル企業”のコーポレート部門ではなく、真のグローバルオペレーティングモデルを支える本社部隊として機能強化されていく必要がある。しかし、組織づくりは年輪を重ねるような取り組みであり、一足飛びに実現できるものではない。英文開示のゴールが、読み手にとってシンプルで分かりやすいものを作ることにあるならば、なるべく図表・グラフィックを活用していく、という対応が最も即効性があろう。これにより、英文開示のみならず、和文開示も理解されやすいものになるという相乗効果もある。

Lost in Translation : 直訳すれば「翻訳において失われる」となるが、要するに、例えば日本語を英語に翻訳することによって、その言葉が持つ本来の意味が伝わらない、失われてしまうことをいう。

上場会社の取締役は、自社の英文開示がどのようなレベルにあるのかを把握するため、まず手始めに英文の株主総会招集通知くらいは通読してみるべきだろう。