2022/05/19 欧米に大きく遅れをとる日本企業の株式報酬と投資家等の議決権行使基準

日本企業においても株式報酬の導入が進み、先行する企業では付与対象者を日本国内の役員にとどめることなく、国内外の幅広いリーダー層に拡大しているケースが一定程度見られるようになってきた。その背景として、「株式報酬が無いと現地で幹部層を採用できない」「“グローバルワンチーム”という意識や覚悟を醸成したい」といった現場からのニーズが高まっていることや、株式報酬を巡る各国の法律や税務の知見が日本企業の中にも蓄積してきたこと、グローバルな株式報酬の管理・運用を支援するサービスプロバイダーが日本にも本格的に進出してきたことなどが挙げられる。

ただ、このような状況に対して投資家がまだ不慣れであることも多く、グローバル・プラクティスに沿った株式報酬を設計・導入しようとすると投資家から否定的判断を受けてしまうという本末転倒な事態が現実に起こっている。・・・

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2022/05/19 欧米に大きく遅れをとる日本企業の株式報酬と投資家等の議決権行使基準(会員限定)

日本企業においても株式報酬の導入が進み、先行する企業では付与対象者を日本国内の役員にとどめることなく、国内外の幅広いリーダー層に拡大しているケースが一定程度見られるようになってきた。その背景として、「株式報酬が無いと現地で幹部層を採用できない」「“グローバルワンチーム”という意識や覚悟を醸成したい」といった現場からのニーズが高まっていることや、株式報酬を巡る各国の法律や税務の知見が日本企業の中にも蓄積してきたこと、グローバルな株式報酬の管理・運用を支援するサービスプロバイダーが日本にも本格的に進出してきたことなどが挙げられる。

ただ、このような状況に対して投資家がまだ不慣れであることも多く、グローバル・プラクティスに沿った株式報酬を設計・導入しようとすると投資家から否定的判断を受けてしまうという本末転倒な事態が現実に起こっている。

一般的に、日本企業の株式報酬は権利確定までに3年間の待機期間(業績条件がある場合は3年間の業績評価期間)を経てその後にまとめて権利が確定するという、いわゆる「一括権利確定」(英語ではCliff (=崖)vesting(=一定期間の経過によって権利を確定させる契約条項))と呼ばれる)という設計となっていることが多い。しかし、人材獲得競争が熾烈な欧米のプラクティスを見てみると、より役職員にとって魅力的な設計となっていることが多い。具体的には、日本企業の株式報酬の「一括管理確定」に対し、「段階的な権利確定」(Phased/Graded/Ratable vestingなどと呼ばれる)としているケースが目につく。例えば、毎年1/3ずつ3年間かけて権利確定・株式交付されるようなものや、1年間経過後は、四半期ごと(Quarterly vesting)や場合によっては月次(Ⅿonthly vesting)で細かく権利確定されていくという設計になっているものもある。

慎ましい日本人であれば「3年間丸ごとお預け」でも受け入れるし、場合によっては退職所得の優遇税制を受けるために「退任時まで全株お預け」であっても受け入れるかもしれないが、海外人材からは「もっと役職員側に魅力的な設計にして欲しい」と率直に言われてしまう可能性がある。

そこで、株式報酬の付与対象者を国外にも広げている日本企業の中には、上記のようなグローバル・プラクティスに沿った株式報酬を導入しようとしているところもある。ところが、このような役員報酬議案を株主総会に上程した場合、現在の日本においては賛成率がかなり低くなりうることを覚悟しなければならない。というのも、議決権行使助言会社のガイドラインや国内機関投資家の議決権行使基準では、株式報酬の待期期間を「最低2年」もしくは「3年以上」と定めているケースが多いからだ。上述の「段階的な権利確定」タイプの株式報酬はこれらの議決権行使基準よりも早く権利確定が始まってしまうため、機械的に議決権行使されると反対票が投じられることになる。

欧米企業では、上記のような権利確定スケジュールの柔軟さ以外にも、幹部採用・登用時の臨時付与(New hire grant, promotion grant)など、「毎期の報酬」という枠を超えて株式報酬が機動的に活用されているが、このような株式報酬の運用も日本企業においては極めて珍しい。現在、経済産業省に設置された産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会では「グローバル競争で勝ちきる企業群の創出」について議論が進んでいるが、日本企業が国内外のベスト&ブライテスト(best and brightest)な人材が集う組織を作り上げるためには、より魅力的な株式報酬制度の導入に向け、企業・投資家ともに従来の考え方を次のフェーズに移行させるべき時期に来ていると言えそうだ。

2022/05/18 第2四半期開示の行方

昨日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」では、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が来週月曜日(5月23日)午前中に開催される会合で・・・

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2022/05/18 第2四半期開示の行方(会員限定)

昨日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」では、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が来週月曜日(5月23日)午前中に開催される会合で報告書の原案(以下、原案)を示すことをお伝えしたが(原案自体は今週金曜日(5月20日)の夕方にはDWGのWEBサイトに掲載される見込み)、原案では四半期開示についても一定の方向性が示される。

金融商品取引法(以下、金商法)上の四半期報告制度の廃止が事実上確定したが(2022年4月12日のニュース「四半期報告書の廃止が事実上決定」参照)、企業の関心を集めているのが第2四半期の取扱いだ。この点、原案では、第1四半期、第3四半期における四半期報告書の廃止は明記されるものの、第2四半期については「今後の検討課題」とされるにとどまる見込み。

ただし、既報のとおり、少なくとも半期報告書および中間監査の復活はないことに変わりはない(2022年4月20日のニュース「第二四半期報告書に代わって半期報告書の復活はあるか?」参照)。半期報告書の作成に要する作業量は年度の有価証券報告書とほぼ同じであり、仮に半期報告書および中間監査が復活することになれば、四半期報告書を維持するよりも負担が重くなるため、これには企業側が強い抵抗を示しているからだ。

もし、第2四半期報告書のみ維持されるのであれば、第2四半期報告書の信頼性確保のために現在の四半期レビューも維持されるはずである。一方、第1四半期、第3四半期については東証の四半期決算短信の開示のみにとどまる。これに対し投資家からは、四半期決算短信の信頼性をいかに担保するのか問題視する声がある。このような声を受け、四半期決算短信を公表したことを金商法上の臨時報告書で開示させることにより、四半期決算短信による開示を金商法の対象とし、同法上の罰則等の対象とする案が有力となっている。臨時報告書では四半期決算短信の内容を開示することなく、あくまで「四半期決算短信を公表した」という事実を記載させるにとどまる見込み(「詳細は四半期決算短信を参照」といった形の“参照方式”となる可能性はある)。

第1四半期および第3四半期の四半期報告書の廃止には金商法の改正が必要になるため、来年の通常国会での金商法改正が行われ、2024年3月期から適用開始となる方向だ。

2022/05/17 男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り

昨年(2021年)9月から気候変動対応、人的資本投資などの非財務情報開示や四半期開示のあり方について検討を重ねてきた金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が・・・

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2022/05/17 男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り(会員限定)

昨年(2021年)9月から気候変動対応、人的資本投資などの非財務情報開示や四半期開示のあり方について検討を重ねてきた金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)が来週月曜日(5月23日)午前中に開催される会合で“報告書”の原案を示すことが当フォーラムの取材により判明した(原案自体は今週金曜日(5月20日)の夕方にはDWGのWEBサイトに掲載される見込み)。

原案の内容は、実施までのプロセスという点で、大きく「四半期報告書」関係と「非財務情報」関係の2つに分けることができる。既報のとおり四半期報告書(少なくとも1Q、3Q)の廃止が事実上確定したが、四半期報告書の廃止には金融商品取引法本法の改正が必要となるため、「2023年の通常国会で金融商品取引法を改正→2024年3月期に係る四半期から適用」というスケジュールが有力となっている(2022年4月12日のニュース「四半期報告書の廃止が事実上決定」参照)。これに対し、非財務情報開示の強化は開示府令の改正で対応が可能であり、今年中にも開示府令の改正により実現する可能性が高い。

そこで本稿では、まず開示府令マターである非財務情報開示の強化に関する内容についてお伝えする(四半期報告書の廃止に関する内容は明日報じる予定)。その中で注目されるのが、「人的資本」に関する開示の強化だ。2023年3月期に係る有価証券報告書から男女の賃金格差の開示が求められる方向であることは既報のとおりだが(2022年4月19日のニュース「男女の賃金格差開示の内容とスケジュール」参照)、これに加え、「男性の育児休暇取得率」「女性の管理職比率」の有価証券報告書での開示も義務付けられることが当フォーラムの取材により判明した。

一方、企業にとって負担が大きい有価証券報告書の英文開示については、報告書で言及はされるものの、あくまで“推奨”にとどまり、義務化は回避される。また、英文開示が推奨されるのも有価証券報告書全体ではなく、戦略、MD&A、リスク、サステナビリティなど投資家の関心が高い項目に絞り込まれる。基本的には「文字」による開示部分であり、数字による開示部分は推奨対象とはならない模様。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

気候変動開示については、TCFD開示の柱となる「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの要素のうち、TCFDで全ての企業が開示することが望ましいとされている「ガバナンス」と「リスク管理」の開示が義務化され、「戦略」「指標と目標」については、各社が自社にとっての重要性に応じて開示するか否かを判断すればよいこととされる。この点は当フォーラムが2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」で報じていた内容のとおりとなっている。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

また、支配的株主との間の重要な契約()開示も求められる(2022年3月2日のニュース「議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意の開示を促す法令改正が行われる可能性」参照)。

例えば以下のような契約が想定されている。
・支配的株主の承諾を得なければ経営上の重要なアクションを起こせないこととする契約
・支配的株主による持分比率を維持することを義務付ける契約
・支配的株主からの役員の派遣を受け入れることを義務付ける契約
・提携関係が切れた場合、保有株式を売却する旨の契約

上述のとおりこれらの事項の開示義務化は年内の開示府令改正により実現し、2023年3月期に係る有価証券報告書から、すなわち3月決算会社にとっては進行期である「当期」から適用されることになる可能性が高いだけに、早急な対応が必要となろう。

2022/05/16 「新しい資本主義」の“再演説”から見える政府の施策

岸田首相は就任時(2021年1月17日)の施政方針演説で、「成長と分配の好循環」「経済再生の要」などの触れ込みで「新しい資本主義」を打ち出したが、資本市場からは「内容が曖昧」などの指摘が少なからず上がっており、今のところ評価を得られているとは言い難い。こうした中、GW中に英国を訪問していた岸田首相は5月5日、英国金融街のロンドン・シティにあるギルドホールで、「新しい資本主義」について改めて演説している。この演説では従来よりも踏み込んだ説明がされており、今後政府がどのような施策を検討しているのかが一定程度見えてくる。今回の演説から「新しい資本主義」を読み解いてみよう(首相官邸ウェブサイトの講演録はこちら)。

まず大前提として、・・・

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2022/05/16 「新しい資本主義」の“再演説”から見える政府の施策(会員限定)

岸田首相は就任時(2021年1月17日)の施政方針演説で、「成長と分配の好循環」「経済再生の要」などの触れ込みで「新しい資本主義」を打ち出したが、資本市場からは「内容が曖昧」などの指摘が少なからず上がっており、今のところ評価を得られているとは言い難い。こうした中、GW中に英国を訪問していた岸田首相は5月5日、英国金融街のロンドン・シティにあるギルドホールで、「新しい資本主義」について改めて演説している。この演説では従来よりも踏み込んだ説明がされており、今後政府がどのような施策を検討しているのかが一定程度見えてくる。今回の演説から「新しい資本主義」を読み解いてみよう(首相官邸ウェブサイトの講演録はこちら)。

まず大前提として、「新しい資本主義」の目指すところは「資本主義のバージョンアップ」であるということだ。資本主義に代わる経済体制を目指すのではなく、あくまでも資本主義自体をさらに優れたもの(岸田首相によれば「より強く持続的な資本主義」)にすることを志向している。

岸田首相は、資本主義のバージョンアップが必要な理由として「2つの現代的な課題」、すなわち、①外部不経済の問題と②権威主義的国家からの挑戦、を挙げている。①はグローバル資本主義の負の側面であり、具体的には「格差の拡大」「地球温暖化問題」「都市問題」を指す。②は権威主義的体制の国家が「ルール無視の不公正な経済活動」によって「急激な経済成長」を遂げることで、自由主義・民主主義の陣営が厳しい挑戦を受けており、その経済を「持続可能で包摂的」なものとできるかが問われている、と問題提起している。

バージョンアップの担い手については、これまで資本主義は2回の転換点として、第二次世界大戦後の福祉国家の設立(官主導)と、これを修正する形でオイルショック後の新自由主義の台頭(民間活用)があったことを踏まえ、今回は「市場も国家も、官も民も」と官民連携を掲げている。社会課題の存在する分野を新たな成長マーケットとするため、まずは官が呼び水となる施策を積極的に打つことで、広く民間の投資を集めるという流れが示された。

新自由主義新自由主義 : 1980年代に登場した、国家による福祉・公共サービスの縮小、大幅な規制緩和、市場原理主義の重視する経済思想のこと。英国おける金融ビッ グバンや、米国レーガン政権による規制緩和や大幅な減税、日本の中曽根政権による電電公社や国鉄の民営化などは、新自由主義の発想に基づいている。

具体的な内容としては、下表のとおり「5つの課題」と「4本柱」を掲げている。外部不経済に関する「5つの課題」を解決するため、官民連携で「4本柱」を講じるという図式となる。

5つの課題 4本柱
① 分配の目詰まりの解消
② 付加価値を生む分野への過少投資の克服
③ 新分野への労働移動の後押し
④ 多様性の取り込み
⑤ 健全な新陳代謝の実現
Ⅰ.人への投資
Ⅱ.科学技術・イノベーションへの投資
Ⅲ.スタートアップ投資
Ⅳ.グリーン、デジタルへの投資

「5つの課題」のうち①分配の目詰まりの解消、③新分野への労働移動の後押し、④多様性の取り込みはいずれも「Ⅰ.人への投資」で解決されるべきものと言える。今回の演説では、これら3つの課題についてそれぞれ下表の施策が示された。

Ⅰ.人への投資
① 分配の目詰まりの解消 ③ 新分野への労働移動の後押し ④ 多様性の取り込み
✓ 生産性を上昇させるとともに、それに見合った形で賃金を伸ばすため賃上げ税制を導入
✓ 貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進め、投資による資産所得倍増を実現
✓ 教育訓練投資を強化して人的資本の蓄積を推進、労働移動・雇用流動化を積極的に支援 ✓ 女性や若者、外国人を組織の中で活用するため、働き方の柔軟化や子育て支援などの充実を図る

また、②付加価値を生む分野への過少投資の克服は、4本柱のうち「Ⅱ.科学技術・イノベーションへの投資」「Ⅲ.スタートアップ投資」「Ⅳ.グリーン、デジタルへの投資」によって実現を目指す。今回の講演で示された施策は下表のとおりとなっている。

② 付加価値を生む分野への過少投資の克服
II. 科学技術・イノベーション
への投資
Ⅲ.スタートアップ投資
IV. グリーン、デジタルへの投資
✓ AI、量子、バイオ、デジタル、脱炭素の5領域で国家戦略を明示、インセンティブを付与
✓ 10兆円の大学基金を通じて大学の研究開発を支援、前提としてガバナンス改革を徹底
✓ スタートアップエコシステム()育成の5か年計画を策定、横断的な司令塔機能を明確化

 海外の一流大学の誘致を含むスタートアップキャンパスの創設、スタートアップへのSBIR制度(中小企業技術革新制度)の抜本拡充、海外のベンチャーキャピタルの誘致と海外ベンチャーキャピタルへの公的資本の参加、個人金融資産及びGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)等の長期運用資金のベンチャー投資への循環、スタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備

スタートアップキャンパス : 多様なスタートアップがつながったり学び合ったりすることで成長し、ビジネスを成功に導くためのコミュニティスペース

✓ pro growth Carbon Pricing、規制・支援一体型投資促進策から成る包括的政策ロードマップを作成
✓ ブロックチェーンや、NFTメタバースなど、web3.0推進のための環境整備
✓ 99パーセントの需要をカバーできるように5Gや光ファイバーの整備を5年程度で進める
✓ デジタル庁の下、4万以上のアナログな規制を洗い出し、3年間で一気に見直す大改革

pro growth Carbon Pricing : 成長やイノベーションを促進するような成長志向型カーボンプライシング
ブロックチェーン : 参加者の中に不正を働く者や正常に動作しない者がいたとしても正しい取引ができ、改ざんが非常に困難で、停止しない、多数の参加者に同一のデータを分散保持させる仕組み。
NFT : ブロックチェーン上で発行・流通するデジタルデータの一種(トークン)で、「替えが効かず唯一無二」であるという点で、代替可能なトークンである仮装通貨(FT)とは異なる。NFTが注目される大きな理由のひとつが、デジタル資産の所有者を明確にできるということだ。例えばデジタルアートの場合、NFTとデジタルアートはそれぞれ別に存在するが、NFTにはデジタルアートに関するメタデータ(データについてのデータ。あるデータそのものではなく、そのデータを表す属性や関連する情報を記述したデータのこと)が含まれており、NFTを持っていることでその唯一無二のデジタルアートの所有を証明することができる。

一方で、課題の「⑤健全な新陳代謝の実現」には4本柱のいずれも対応していない。課題としては明確に認識されているものの、少なくとも今回の演説で具体的な取り組みは示されなかった。もっとも、この課題は事業ポートフォリオの再編、コングロマリット・ディスカウントの解消といった日本におけるコーポレートガバナンス改革の本丸と言える。本講演で示された課題認識が今後のガバナンス関連の施策につながる可能性もありそうだ。

2022/05/13 独立役員が実は独立性を満たしていなかった場合の影響

東証は上場会社の企業行動規範において、「経営陣から独立した役員である独立役員を少なくとも1名以上確保する」ことを「上場会社が遵守すべき事項」として定めている(東証有価証券上場規程445条の4)。そして上場会社には、独立役員について記載した独立役員届出書を東証に提出することを義務付けている。ここでいう独立役員とは、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役を指す。

東証が「一般株主と利益相反の生じるおそれがあると判断する場合」の判断要素(独立性基準)は「上場管理等に関するガイドライン」に定められており、この独立性基準に抵触する者を独立役員として届け出ることはできない。また、コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべき」としている(下記の原則4-9)。この原則をコンプライする上場会社は、東証が定める独立性基準だけでなく、自社(グループ)の独立性判断基準にも照らして独立役員を選任する必要がある。

【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。

換言すれば、独立役員として選任していた者が実はこれらの基準に抵触していたことが後から発覚すれば、結果として独立性のない者を独立役員と偽っていたことになり、様々な問題を引き起こすこととなる(詳細は後述)。

まさにそれが発覚したのが・・・

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2022/05/13 独立役員が実は独立性を満たしていなかった場合の影響(会員限定)

東証は上場会社の企業行動規範において、「経営陣から独立した役員である独立役員を少なくとも1名以上確保する」ことを「上場会社が遵守すべき事項」として定めている(東証有価証券上場規程445条の4)。そして上場会社には、独立役員について記載した独立役員届出書を東証に提出することを義務付けている。ここでいう独立役員とは、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役を指す。

東証が「一般株主と利益相反の生じるおそれがあると判断する場合」の判断要素(独立性基準)は「上場管理等に関するガイドライン」に定められており、この独立性基準に抵触する者を独立役員として届け出ることはできない。また、コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべき」としている(下記の原則4-9)。この原則をコンプライする上場会社は、東証が定める独立性基準だけでなく、自社(グループ)の独立性判断基準にも照らして独立役員を選任する必要がある。

【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。

換言すれば、独立役員として選任していた者が実はこれらの基準に抵触していたことが後から発覚すれば、結果として独立性のない者を独立役員と偽っていたことになり、様々な問題を引き起こすこととなる(詳細は後述)。

まさにそれが発覚したのが、九州旅客鉄道(以下、JR九州。東証プライム市場と福証本則市場に上場)だ。同社は社外役員の独立性判断基準を定めており、当該基準において、「当社を主要な取引先とする者(直前3事業年度において、平均してその者の年間連結売上高の2%を超える支払を当社から受けている者)、又はその者が法人等の場合には、当該法人の業務執行者」は同社からの独立性を有しないこととしていたが、同社の“独立役員”である桑野氏(2014年6月に同社の取締役に就任)が実はこの基準を2021年度はクリアしていなかったことが、本年6月開催予定の定時株主総会の準備作業中に発覚した(JR九州の2022年5月10日付リリース「当社の独立役員に係る開示資料の訂正について」はこちら)。リリースによると、原因は担当部署の計算ミスで「基準をクリアしている」と誤解していたことにある。別の部署が調査したところ、JR九州は桑野氏が代表取締役を務める株式会社玉の湯に対し、2018年度から2020年度の3事業年度において、玉の湯の連結売上高の平均 2.2%に相当する支払いを行っていた。

すなわち、JR九州は桑野氏に関して虚偽の事実を記載した独立役員届出書を東証に提出していたことになる。また、独立役員の確保の状況は、コーポレート・ガバナンス報告書の記載事項でもあることから、同社は桑野氏に関して虚偽の事実を記載したコーポレート・ガバナンス報告書を東証に提出し開示していたことにもなる。

問題は同社の作成していた独立役員届出書やコーポレート・ガバナンス報告書が虚偽であっただけに留まらない。

同社の2021年3月期の定時株主総会の招集通知には、桑野氏との特別利害関係の有無について「当社は、株式会社玉の湯と旅行業における宿泊料金の支払い等の取引関係がありますが、直前3事業年度における当社の年間連結売上高に対する同社からの取引金額の割合は1%未満、同社の年間連結売上高に対する当社からの取引金額の割合は2%未満であり、当社が定める独立社外役員の要件を満たしております」と記載されている。つまり、桑野氏が独立性に関する基準をクリアしているとの間違った情報を株主に伝え、議決権行使の意思決定を誤らせたことになる。

また、同社は2021年度の統合報告書にも桑野氏が独立役員である旨明記しており、こちらでも投資家に対して間違った情報を伝えていたことになる。ESGデータブックに記載されている取締役関連のデータ(独立社外取締役比率や独立取締役出席率)も桑野氏を除いて算定すれば別の値になるはずだ。とくに注目したいのが独立社外取締役比率である。同社は2021年度の独立社外取締役比率を53.3%(15人中8人)と開示しており、社外取締役が取締役会の半数を越えていることをアピールしていたが、実際には46.6%(15人中7人)と半数を割り込んでいたことから、桑野氏を独立社外取締役に含めたことで投資家に与える印象が大きく歪められた可能性がある。さらに、桑野氏が2021年度において任意の指名・報酬諮問委員会の委員の一人であったかどうかは開示資料からは明らかではないが、もし同委員会のメンバーであったとすれば、委員会の独立性への影響という観点からも問題は小さくない。

日本語での開示を間違えていれば、英文での開示も当然のように間違えることになる。2021年6月24日に開示した「 Corporate Governance Report」では桑野氏がIndependent directorとして紹介されている。

最も問題が大きいのが有価証券報告書上の記載だ。上場会社は有価証券報告書の【役員の状況】において、「社外取締役又は社外監査役を選任するための提出会社からの独立性に関する基準又は方針の内容(これらの基準又は方針がない場合には、その旨)」を開示しなければならず、JR九州も該当欄で当該基準を開示したうえで、「社外取締役桑野和泉は、株式会社玉の湯の代表取締役社長を兼任しており、同社と当社は旅行業における宿泊料金の支払い等の取引関係がありますが、その取引金額は以下に記載の当社の定める独立性判断基準の範囲内です。」と記載していた。つまり、JR九州は虚偽の有価証券報告書を関東財務局に提出していたことになる。これは、同社が投資家に虚偽の情報を開示していたことを意味する。法定開示資料である有価証券報告書については、投資家保護の観点から、虚偽記載があれば罰金だけでなく課徴金が課される可能性もある(有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の記載内容に虚偽があったとして課徴金を課せられた事案は2020年2月5日のニュース「有報のCG状況の虚偽記載に初の課徴金、上場会社が今とるべき対策」を参照)。統合報告書やESGデータブックといった任意の開示資料とは異なり、法定開示資料としてのペナルティは重い。

以上のとおり、役員の独立性の判定を間違えると様々な開示書類に影響が及ぶことが分かる。JR九州は誤記載となった2021年度の有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書・独立役員届出書は既に訂正済みであり、事業報告および株主総会招集通知についても、本年6月に開催予定の定時株主総会で「誤っていた内容を報告することで、過年度の資料の訂正に代える予定」としている。

本件は単なる「担当部署のミス」として片付けられる問題ではない。自社の独立役員が独立性の基準を充足しているかどうか、担当部署以外の部署(例えば内部監査室など)とダブルチェックする体制を構築する必要があるのはもちろんのこと、そもそも、取引金額等を算定して確認しなければ独立性要件をクリアしているかどうかわからないほど自社への売上依存がある企業の代表者を社外取締役として迎えることの是非が問われる可能性もありそうだ。