2025/12/10 【特集】 ~SSBJ基準が義務化、人的資本開示で新たな展開も~ 令和7年・開示府令改正案のポイント【後編】

令和7年・開示府令改正案のポイント【後編】では、【前編】に続き、令和7年(2025年)11月26日に金融庁が公表した「企業内容等の開示に関する内閣府令」および関連ガイドラインの改正案について解説する。今回は、③人的資本開示の拡充、④総会前開示における記載の省略を取り上げる。

3.人的資本開示の拡充(会員限定)

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2025/12/09 資本効率偏重に警鐘 経団連がコーポレートガバナンス改革に向け久々の本格的提言

コーポレートガバナンス・コードの改訂議論が進む中(2025年10月27日のニュース「CGコードの改訂に関する有識者会議がスタート、各論点への賛否状況は?」参照)、コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議 (以下、有識者会議)に委員(メンバー)を出す経団連が昨日(2025年12月8日)、「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」と題する意見書を公表した。投資家との建設的な対話のあり方を訴えた「企業と投資家による建設的対話の促進に向けて」(2020年9月)からは5年ぶり、コーポレートガバナンス・コードの改訂を受けた「コーポレートガバナンス・コード改訂案及び投資家と企業の対話ガイドライン案への意見」(2018年4月)からは7年ぶりと、久々に経団連がコーポレートガバナンス改革について本格的に“物申す”形となった。

今回の経団連の提言は以下の5つの柱からなる。それぞれについてポイント、背景などを解説する。

目先の資本効率改善に囚われた縮み志向のマインドの転換
まず注目されるのが、・・・

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2025/12/09 資本効率偏重に警鐘 経団連がコーポレートガバナンス改革に向け久々の本格的提言(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードの改訂議論が進む中(2025年10月27日のニュース「CGコードの改訂に関する有識者会議がスタート、各論点への賛否状況は?」参照)、コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議 (以下、有識者会議)に委員(メンバー)を出す経団連が昨日(2025年12月8日)、「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」と題する意見書を公表した。投資家との建設的な対話のあり方を訴えた「企業と投資家による建設的対話の促進に向けて」(2020年9月)からは5年ぶり、コーポレートガバナンス・コードの改訂を受けた「コーポレートガバナンス・コード改訂案及び投資家と企業の対話ガイドライン案への意見」(2018年4月)からは7年ぶりと、久々に経団連がコーポレートガバナンス改革について本格的に“物申す”形となった。

今回の経団連の提言は以下の5つの柱からなる。それぞれについてポイント、背景などを解説する。

目先の資本効率改善に囚われた縮み志向のマインドの転換
まず注目されるのが、投資家の資本効率偏重に対する厳しい意見だ。アベノミクスにより、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードが「成長戦略」として位置づけられてから10年が経過したが、この間、経営へのモニタリング機能の向上や情報開示の充実をはじめ、コーポレートガバナンス改革は着実に進み、投資家の日本企業に対する評価は高まっている。その一方で、日本のコーポレートガバナンス改革は、社外取締役の人数など形式面が先行しており実質が伴っていないとの批判や、対話にコストをかけられないパッシブ投資家の比率が高まり、建設的な対話ができていないとの声もある。また、投資家と企業では成果を期待する時間軸が異なり、短期間で成果を求める投資家側の「資本効率」重視の姿勢に対しては、企業経営者から「中長期的な企業価値の向上を目指して建設的な対話をするのがガバナンス改革の目的ではなかったか」との恨み節も聞こえてくる。


パッシブ投資家 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法をとる投資家のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。

こうした中、経団連の意見書では「経営者のマインドセットの改革」が強調されている。具体的には、「目先の資本効率改善に囚われた縮み志向のマインドを転換し、持続的な成長に向けて、研究開発投資、設備投資、人的投資、さらには新規事業への投資など、中長期的な価値創造に資する投資」に積極的に舵を切るべき(3ページ参照)と、投資家の姿勢を痛烈に批判するものとなっている。ここには、投資家の顔色を窺うことなく、積極的に成長への投資を行い、それを説明していくべきとの思いが込められている。

コーポレートガバナンス・コードの「大胆なスリム化・プリンシプル化」
今年(2025年)6月に開催されたスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(※現在は「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」と「スチュワードシップ・コードに関する有識者会議」に分化)で経団連の委員は「コーポレートガバナンス・コードを改訂する大義というものは乏しいというふうに考えざるを得ない」と発言していたが、政府の新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版案や金融庁のコーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025にコーポレートガバナンス・コードの改訂が盛り込まれたことから、今回は改訂を前提とした意見に転じている。コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議は10月21日を最後に開催されていないが、年明け以降議論が本格化する前に、同会議に委員を出す経団連としての見解を明らかにした格好だ。

具体には、『「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原点に立ち返り、過度な細則化を避けて大胆なスリム化・プリンシプル化を図ること』を求めており、それを実現するために、①「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則等は、可能な限り最小限にとどめる、②経営者自らが考え抜き、自らの言葉で語ることを促すような原則等とする、③本コードの原則等から例示は除き、別途、多様な好事例を示して周知するなど運用面で企業の取り組みを促す、の3つを柱とすべきとしている(4ページ参照)。

また、2025年6月に改訂されたスチュワードシップ・コード(2025年2月18日のニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)や、2024年8月に策定された「アセットオーナー・プリンシプル」(2024年9月3日のニュース『アセットオーナー・プリンシプルが公表 「資金の出し手」に改革迫る』参照)の実効性の向上(説明が不十分な署名の主体に対する勧告や名称の公表等)も求めている(6ページ参照)。

議決権行使助言会社への規制、ESG評価・データ提供機関に係る行動規範の改訂
経団連はかねてより議決権行使助言会社と対話を重ねているが、今回の意見書では、「政府は、議決権行使助言会社の登録制への移行、関係者との意思疎通を行うのに十分かつ適切な人的・組織的体制の整備と運営の透明化など、その影響力に応じた規制のあり方を検討すべき」というかなり突っ込んだ提言を行っている(6ページ参照)。米国ではトランプ政権が議決権行使助言会社への規制を検討しており、これが具体化すれば、日本でも米国に呼応した動きが出てくることになりそうだ。

また、やはり米国の保守派から強く批判されているESG評価機関やデータ提供機関についても、『政府は、2022年12月に公表した「ESG 評価・データ提供機関に係る行動規範」の取り組み状況を検証し、必要な規範の改訂とともに、国際的な連携のもと、実効性を高める仕組みを検討すべき』(7ページ参照)と提言しており、経団連の働きかけを受けて金融庁がどのような対応をとるのか、注目される(ESG 評価・データ提供機関に係る行動規範については(2022年11月22日のニュース「速報 ESG評価・データ提供機関の行動規範案の修正事項」参照)。

有価証券報告書の総会前開示における企業の大幅な負担軽減
経団連は2025年7月15日、有価証券報告書の総会前開示に関する会員企業へのアンケート結果を公表したが、本意見書ではこのアンケート結果を踏まえた意見が示されている。

具体的には、「企業に多大な実務負担を強いて形式的に総会前開示を求めるのではなく、各企業と株主との対話のなかで、株主にとって議決権行使をするうえで真に必要な情報を個別に提示するなど、建設的対話が自律的かつ実質的に促されることを目指すべき」との方向性を示しつつ、「①株主が議決権行使をするにあたり現行制度で不足している情報、②その開示・提供方法、③監査・保証の方法、④企業実務・コスト負担を踏まえた実現性を精査したうえで、総合的な視点からの抜本的な見直しを行い、企業および株主の双方にとって望ましい枠組みとすることが重要である」としている。そのうえで、「有価証券報告書の提出会社においては、会社法上の開示を不要とすることはもとより、一切の書面交付の不要化・電子化、単体決算開示の廃止、決算短信やコーポレートガバナンス報告書など取引所規則による開示書類の合理化、株主に提示する書類に係る監査のあり方の見直し、法的責任範囲の合理化等について、制度横断的に検討を進めるべきである」と、企業の負担の大幅な軽減を求めている(8ページ参照)。

有価証券報告書(金商法)と事業報告・計算書類等(会社法)の監査を含む「一本化」については、アカデミアも担当省庁も真剣に模索しており、現在会社法の改正を検討している法務省の法制審議会会社法制部会で進展がみられるのか、注目される(会社法の改正については2025年7月15・16日のニュース『「稼ぐ力」を高めるための会社法改正の方向性【前編】【後編】」参照)。

株主提案制度の見直しと中長期株主優遇
議決権300個以上を6か月以上保有すれば株主提案が可能になるという諸外国に比べて強すぎる日本の株主権がアクティビストに利用されているとの批判もある。そこで意見書では、「株主提案の議決権 300 個要件は合理性を有するとはいえず、廃止すべき」としている。あわせて、「株主提案権の行使期限の見直し」(株主提案を行うには株主総会の8週間前までに会社に通知する必要があるところ、より早い時期に締め切りを設定するなどして会社側が十分に検討・準備できるようにする)、「業務執行事項に関する定款変更については株主提案を認めないこと」(本来、株主総会は会社のルールを決める場であるところ、事業戦略の細部まで縛るのは取締役会の権限を侵害することになるという議論)、「種類株を活用した長期保有株主を優遇する仕組み」(一定期間以上株を持つ株主に追加議決権や配当優遇を与える仕組み。短期志向の投資家より中長期的に企業を支える株主を厚遇し、企業と株主の時間軸を合わせる狙いがある)を検討課題に挙げている(9ページ参照)。

高市政権による成長戦略策定において経団連の存在感は大きいとされるだけに、コーポレートガバナンス・コードの改訂、開示ルール、会社法の改正といった重要論点に今回の意見書の内容がどこまで反映されるのか、注目される。

2025/12/08 企業の設備投資戦略にも影響必至 政府が「⼤胆な設備投資」を後押し

政府が11月21日に閣議決定した『「強い経済」を実現する総合経済対策』には、・・・

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2025/12/08 企業の設備投資戦略にも影響必至 政府が「⼤胆な設備投資」を後押し(会員限定)

政府が11月21日に閣議決定した『「強い経済」を実現する総合経済対策』には、「成⻑分野への⼤胆な投資を検討する企業や資⾦繰りに課題を抱える企業を念頭に、税負担のタイミングに関する予⾒可能性を⾼める観点から、即時償却等の⼤胆な設備投資税制の導⼊について検討を進める」(3ページの③)、「⼤胆な設備投資の促進に向けた税制を創設し、国内における⾼付加価値化型の設備投資を促進することについて、令和8年度税制改正で検討し、結論を得る」(52ページの3段落目)とある。これは、経済産業省が令和8年度税制改正要望で創設を求めていたものだが、政府の総合経済対策に盛り込まれた以上、12月19日にも(「税制改正大綱」として)内容が公表される令和8年度税制改正で実現することが確実となっている。


即時償却 : 設備投資した額の全額を、設備を取得し事業に供した初年度に一括で経費(損金)として計上できる税制上の優遇措置。通常は、法定耐用年数に応じて費用を分割して計上(減価償却)するが、即時償却により投資初期の税負担を大きく軽減し、企業の新たな投資を促す狙いがある。ただし、翌年度以降の経費計上分がなくなるため、理論上、全体の納税額は変わらない。
税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)から公表される。

詳細については経済産業省、財務省、政府与党の間で調整中だが、新たな設備投資税制は幅広い業種・設備を対象としつつ、即時償却・税額控除の選択制とする方向で検討が進んでいる。


税額控除 : 法人税額から一定の金額を直接差し引く税制上の優遇措置。即時償却が「税金を計算する前の所得」から差し引くのに対し、税額控除は「計算された税額そのもの」から差し引くため、より直接的で強力な減税効果がある。通常、控除額にはその期の法人税額の一定割合(例:20%)といった上限が設けられる。

まず注目されるのが対象事業者だ。当フォーラムの取材によると、業種を限定せず「全事業者」とすることを模索している。ただ、税収の減少を懸念する財務省は、「強い経済」を実現する総合経済対策で打ち出された17の戦略分野(AI・半導体、造船、量子、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、デジタル・サイバーセキュリティ、コンテンツ、フードテック、資源・エネルギー安全保障・GX、防災・国土強靱化、創薬・先端医療、フュージョンエネルギー、重要鉱物、港湾ロジスティクス、防衛、情報通信、海洋)のみに限るべきと主張している。最終的には政府与党による政治判断となるが、企業側からは「全事業者」で決着することを期待する声が上がっている。

また、対象資産は投資利益率が「15%」を超える設備投資計画に含まれる設備とし、具体的には、機械および装置、器具備品、工具、建物、構築物、建物附属設備、さらにはソフトウェアを含む幅広い資産とする方向。新たな設備投資税制は即時償却または「8%」の税額控除の選択制となる見込みだが、米国の関税の影響を受け対米製品の売り上げが相当割合減少している事業者については別途、「15%」まで税額控除を認める案も浮上している。

米国では、7月4日に成立した“トランプ税制法案”(The One Big Beautifull Bill)により、米国内での投資に対する優遇措置(即時償却措置)が拡充され、①100%即時償却の恒久化(減収規模:10年間で3,600億ドル(約50兆円))、②償却期間が20年以下の幅広い資産(機械装置、車両、ソフトウェア)の取得を対象とする、③4年間の時限措置として「建屋(2025年~2028年に着工し、2030年までに利用が開始される工場等)」を即時償却対象に追加(減収規模:10年間で1,400億ドル(約20兆円))という桁違いの設備投資減税が導入されている。また、ドイツでも7月11日、2025年~2027年における設備投資償却率を最大30%に引き上げつつ、2028年より法人税率を1%ずつ5年間にわたり引き下げることを柱とする今後5年間で約460億ユーロ(≒7.5兆円)規模の減税法案が成立している。令和8年度税制改正で検討されている新たな設備投資税制は、米独で導入された措置に対抗するものであり、企業の設備投資戦略に影響を与えることになりそうだ。

2025/12/05 機能不全の内部通報制度にメス 政府が不利益取扱いの具体例を明示

不祥事が発覚した企業で、第三者委員会等による調査の結果、「内部通報制度が機能していなかった」との指摘を受ける事例が後を絶たない。このような企業の従業員らが、不正に気付いたものの内部通報制度を利用しなかった理由として口を揃えるのが、「通報を行えば自らが社内で不利益(別の理由を口実とした配置転換や降格など)を受けるおそれがあった」ということだ。こうした実情を踏まえ、通報者保護を強化するとともに、公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止するため、公益通報者保護法が改正(2025年6月11日公布、「公布の日から起算して1年6か月以内」に施行)されたのは既報のとおりだが(2025年の公益通報者保護法の改正経緯や改正に向けての論点整理の詳細については、2025年1月22日のニュース『公益通報者保護制度が今通常国会で改正へ 「従事者」未指定の事業者には行政命令も』参照)、この2025年法改正を受け、消費者庁は・・・

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2025/12/05 機能不全の内部通報制度にメス 政府が不利益取扱いの具体例を明示(会員限定)

不祥事が発覚した企業で、第三者委員会等による調査の結果、「内部通報制度が機能していなかった」との指摘を受ける事例が後を絶たない。このような企業の従業員らが、不正に気付いたものの内部通報制度を利用しなかった理由として口を揃えるのが、「通報を行えば自らが社内で不利益(別の理由を口実とした配置転換や降格など)を受けるおそれがあった」ということだ。こうした実情を踏まえ、通報者保護を強化するとともに、公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止するため、公益通報者保護法が改正(2025年6月11日公布、「公布の日から起算して1年6か月以内」に施行)されたのは既報のとおりだが(2025年の公益通報者保護法の改正経緯や改正に向けての論点整理の詳細については、2025年1月22日のニュース『公益通報者保護制度が今通常国会で改正へ 「従事者」未指定の事業者には行政命令も』参照)、この2025年法改正を受け、消費者庁は2025年11月10日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、 その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下、法定指針)の改正案を公表している。

まず2025年法改正のポイントをおさらいしておこう。

2025年に行われた公益通報者保護法改正のポイント
ポイント 内容
公益通報者の範囲拡大 公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランスおよび業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加するとともに、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いを禁止。
通報者の保護の強化 通報者が公益通報後に解雇や懲戒処分された場合、現行法では通報者自身が「公益通報をしたことを理由とする解雇や懲戒であること」を裁判で立証しなければならないが、2025年法改正により、解雇や懲戒処分が公益通報から1年以内に行われた場合には、公益通報を理由とするものと「推定」する旨が規定され、通報者側の立証負担が軽減されている。
事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備と公益通報を阻害する要因への対処 ・現行法に基づく体制整備義務の例示として、労働者等に対する公益通報対応体制の周知義務を明示。
・労働者等に対し、正当な理由なく「公益通報をしない旨」の合意を求めること等による公益通報を妨げる行為を禁止するとともに、当該合意等の法律行為を無効とする。
・正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止(これまでは、法律上の規定として禁止されていたわけではなく、指針の中で事業者に対する「体制整備義務」の一部として通報者探索の禁止が掲げられるにとどまっていた。つまり、「事業者は、犯人探しをさせないルールを作りなさい」という“要請”レベルから、法律レベルの「禁止行為」に格上げされた)。
公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止 公益通報を理由として解雇や懲戒をした者(=処分の決裁・実施に関与した役員・管理職などの個人)は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、事業者に対しては3,000万円以下の罰金。
内部通報制度未整備の事業者に対する行政権限の強化 従事者指定義務に違反した事業者に対し、現行法の指導・助言、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設。
・上記違反事業者に対する現行法の報告徴収権限に加え、立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設。


フリーランス : フリーランスの定義は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)2条と同じ。
従事者指定義務 : 従業員が301人以上の事業者に対して課される「公益通報の受付や調査などの必要な業務に従事する者を定める義務」を指す。2020年の法改正で導入された。従業員が300人以下の事業者では努力義務となる。
両罰 : 個人と法人の両方が罰せられること

公益通報者の範囲拡大に伴い、法定指針の改正案の各所に、今後保護対象となる「事業者と業務委託関係にあるフリーランス」(改正法上の用語は「特定受託業務従事者」)への対応が組み込まれている。事業者は、従業員以外の外部の協力者からの公益通報への対応体制を整備し、周知・教育を含む運用を再検討する必要がある。

また、2025年法改正に合わせ、不利益取扱いの具体例が下記のとおり明記された。

「不利益な取扱い」の具体例
「不利益な取扱い」とは、法第3条第1項、第4条第1項、第5条及び第6条第1項の規定により禁止される行為の総称をいい、公益通報をしたことを理由としてされた、例えば、次に掲げるものが該当する。
・地位の得喪に関すること(解雇、退職の強要、正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと、あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に当該回数を引き下げること、本採用・再採用の拒否、懲戒解雇、休職、労働者派遣契約の解除、業務委託に係る契約の解除等)
・人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配置の変更・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと、不利益な自宅待機を命ずること、けん責等の懲戒処分、派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと、公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めること等)
・経済待遇上の取扱いに関すること(減給、賞与・一時金・退職金等において不利益な算定を行うこと、業務委託に係る取引の数量の削減、業務委託に係る取引の停止、業務委託に係る報酬の減額、役員報酬の減額等)
・精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)

上記の具体例はこれまで明示されていなかったものであり、今後は、解雇、契約更新の拒否、業務の不当な変更、委託取引の停止、報酬の減額、嫌がらせなど、多岐にわたる行為が「不利益取扱い」に該当する可能性がある。当然ながら「事業者と業務委託関係にあるフリーランス」に対しても不利益取扱いは禁止される。企業には、通報後の人事措置や取引判断において、従来以上に厳密な理由付けと記録の保持が求められる。

また、従来から法定指針に盛り込まれている「内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置」も以下のとおり拡充される(赤字が改正案で追加された箇所)。「事業者と業務委託関係にあるフリーランス」が法定指針に組み込まれるとともに、2025年法改正で明示された周知義務に対応して「労働者等に対する周知に関する措置等」が追加されている。

内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
(1) 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
(2)記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置
イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等、特定受託業務従事者及び役員に開示する。
(3)労働者等に対する周知に関する措置等
労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に対し、法及び以下の事項(退職者及び特定受託業務従事者であった者については、チを除く。)について周知・啓発を行う。
イ 内部公益通報受付窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法
ロ 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容
ハ 公益通報対応業務の実施に関する措置の内容
ニ 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容
ホ 不利益な取扱いの防止に関する措置の内容
ヘ 範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容
ト 是正措置等の通知に関する措置の内容
チ 記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置の内容
リ 公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項

(4)労働者等からの質問・相談への対応等に関する措置
労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
(5)従事者に対する教育に関する措置
従事者に対しては、公益通報対応業務の内容及び公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
(6)内部規程の策定及び運用に関する措置
この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。

このほか改正法定指針には、「通報妨害」(改正後の公益通報者保護法第11条の2第1項に定める、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げること)という文言が追加されている。また、これまで「通報者探索の禁止」は「禁止すべき行為類型」として示されるにとどまっていたが、2025年改正法により法律上の禁止事項となったことを受け、法定指針においても「改正後の公益通報者保護法第11条の3に定める、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為」と明確に定義づけられている。

内部通報制度の適切な運用はコーポレートガバナンスの中核に位置付けられ、対応の遅れは事業リスクにも直結しうる。2026年中(2026年の半ばから後半あたり)と見込まれる改正法の施行日まで、残された猶予期間は1年を切った。上場会社各社にあっては、パブリックコメント(2025年12月9日締切り)を経て告示される正式な法定指針を踏まえた体制強化が必須となろう。

2025/12/04 【特集】 ~SSBJ基準が義務化、人的資本開示で新たな展開も~ 令和7年・開示府令改正案のポイント【前編】(会員限定・3)

2.法的責任を軽減するセーフハーバー・ルール

サステナビリティ開示に対する企業の最大の懸念と言えるのが、不確実な将来予測や、自社で管理しきれないサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(Scope 3)について、事後的に数値の誤り等が判明した場合の法的責任(虚偽記載責任)だ。本改正案では、企業が萎縮せずに積極的な開示を行えるよう、一定の要件を満たした場合に責任を問わない「セーフハーバー・ルール(免責規定)」が整備されている。


Scope 3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。
セーフハーバー・ルール : 予測困難な責任を回避するために企業の行動が委縮することがないよう、違法ないし違反にならない範囲を明確化すること。セーフハーバーとは「安全な港」という意味であり、セーフハーバー・ルールという言葉は、船が安全な港にいる限り海難を避けられることに由来する。

(1) 免責の対象となる情報
Scope 3温室効果ガス排出量の定量情報(取引先等から入手するデータや推計に基づく数値)

(2) 免責を受けるための要件
Scope 3温室効果ガス排出量の定量情報が実績と異なる、あるいは誤りであることが事後的に判明した場合でも、重要な事項について(一般的に合理的と考えられる範囲で)以下の開示を行っていれば虚偽記載責任を負わないことが、ガイドラインおよび記載上の注意で明確化される。

・推論過程等の開示:数値を算出するにあたっての前提事実、仮定、推論過程を具体的に説明すること。
・社内手続の開示:情報の入手経路を含む将来情報等の適切性を検討し、評価するための社内の手続(ガバナンスプロセス)を記載すること。

つまり、単にデータを開示するだけでなく、「どのような根拠で算出したか」「どのようなプロセスで承認したか」を併せて開示することで、法的リスクを大幅に逓減することが可能になる。逆に言えば、算出根拠やプロセスが不明瞭なまま開示を行えばリスクが増大するということを認識する必要がある。

(3)見積り数値と確定値の差異への対応
見積りによって算出した数値を有価証券報告書に記載した後、翌期中に確定値が判明し、両者に差異が生じた場合でも、その差分や理由を半期報告書に記載できる旨が規定されている。これにより、訂正報告書を提出する手間を省きつつ、投資家に対して適切なアップデートを行うことが可能になる。ただし、確定値の判明が遅れるなどして半期報告書への記載が間に合わなかった場合には、訂正報告書の提出が求められることになる。

後編に続く

2025/12/04 【特集】 ~SSBJ基準が義務化、人的資本開示で新たな展開も~ 令和7年・開示府令改正案のポイント【前編】(会員限定・2)

1.サステナビリティ開示の義務化とロードマップ

本改正案の最大のポイントと言えるのが、ここから会員エリア国際的な基準と整合性を持ったサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用が義務付けられるということだ。適用の義務化は、以下のとおり企業規模(時価総額)に応じて段階的に行われる(詳細なスケジュールは2025年7月23日のニュース『「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するWG」中間論点整理のポイント【前編】』参照)。
(1)適用対象とスケジュール
SSBJ基準の適用は、「平均時価総額」が一定規模以上の東証プライム上場企業から順次開始される。平均時価総額とは、対象事業年度(SSBJ基準の適用開始事業年度)の「前事業年度末」および「その前4事業年度末」の計5時点における時価総額の平均値を指す。

第1段階(平均時価総額3兆円以上のプライム上場企業)
・適用開始:令和9年(2027年)3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から
・対象になるか否かの判定の基準日:令和8年(2026年)3月31日時点での算定に基づく

第2段階(平均時価総額1兆円以上3兆円未満の企業)
・適用開始:令和10年(2028年)3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から
【時価総額の判定方法】
判定に用いる「平均時価総額」は、過去5年間の期末時価総額の平均である。例えば令和9年(2027年)3月期への適用の有無を判定する場合、令和4年(2022年)3月期から令和8年(2026年)3月期の各末日の平均値を用いることになる。なお、上場後5年を経過していない企業については、上場後の各事業年度の平均値で判定する特例が設けられている。

(2)導入初期の負担軽減措置(二段階開示)
SSBJ基準に基づく開示には、膨大なデータの収集と精査が必要となる。特に決算短信や会社法上の計算書類の作成と並行して行う有価証券報告書の作成時期(期末後3か月以内)に、すべてのサステナビリティ情報を確定させることは実務上困難を伴うことが予想される。

そこで本改正案では、SSBJ基準の適用開始年度およびその翌年度に限り、「二段階開示」という特例措置が認められている。具体的には、有価証券報告書の提出期限までにサステナビリティ情報の記載が間に合わない場合、その時点では記載せず、翌期の半期報告書の提出期限までに「訂正報告書」を提出することで記載を完結させることができる。これにより、データの精度確保と実務スケジュールの調整が可能となることが期待されている。

また、有価証券報告書には、二段階開示の適用状況(例えば「本年度は二段階開示の特例を適用しており、SSBJ基準に基づく開示については半期報告書提出期限までに訂正報告書で補完する予定」など)について記載することが求められる。

2.法的責任を軽減するセーフハーバー・ルール(会員限定)

2025/12/04 【特集】 ~SSBJ基準が義務化、人的資本開示で新たな展開も~ 令和7年・開示府令改正案のポイント【前編】

はじめに

令和7年(2025年)11月26日、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」および関連ガイドラインの改正案を公表した。本改正案は、東証プライム上場企業を対象に、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用を段階的に義務付けるとともに、人的資本経営の可視化を一層進めるための重要な制度変更を含むものとなっている。


SSBJ基準 : サステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan)が策定した日本企業向けのサステナビリティ情報開示の共通ルールであり、国際的なIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と整合性を図った内容となっている。

本特集では、本改正案のポイントを、①サステナビリティ開示の義務化とロードマップ、②法的責任を軽減するセーフハーバー・ルール、③人的資本開示の拡充、④総会前開示における記載の省略の4つの論点に整理し、実務への影響と対応策を解説する。【前編】では、①サステナビリティ開示の義務化とロードマップ、②法的責任を軽減するセーフハーバー・ルールを取り上げる。

1.サステナビリティ開示の義務化とロードマップ(会員限定)

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