TOKYO FMの運営会社であるエフエム東京(非上場)は2022年4月19日、旧経営陣に法令違反および善管注意義務違反があったとして総額約4億8,230万円の損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起したことを公表した。
エフエム東京では、2019年4月に内部通報窓口と会計監査人(東陽監査法人)に対して「連結外し」についての通報があったことをきっかけに、当時の経営陣(以下、旧経営陣)が事業の失敗による損失を隠蔽するために、連結外しや情報隠ぺいなどを行っていたことが明らかとなり、経営陣が交代する騒ぎとなった。本訴訟は旧経営陣の責任を問うとともに、損害賠償を請求するためのもの。
連結外し : 連結財務諸表の作成にあたり、実質的には連結子会社とすべき会社を連結子会社として扱わないようにする粉飾決算の手法の一つ。
本件の経緯はエフエム東京が公表した下記の2つの報告書により明らかにされている。
| 公表年月 | 報告書 | 目的 |
| 2019年8月 | 第三者委員会による調査報告書 | 不適切な会計処理等の調査 |
| 2020年5月 | ガバナンス改善委員会による報告書 | コーポレートガバナンス体制の見直しおよび旧役員の責任等の検討 |
両報告書からは、旧経営陣が事業の失敗を糊塗するために情報を隠蔽し、更なる資金投入によって益々深みにはまっていく様子がうかがえる。エフエム東京が資金投入したのがi-dio事業だ。i-dio事業とは、地上アナログ放送終了後に空いた周波数帯を利用してエフエム東京グループ各社が運営していた地上波デジタル放送およびインターネットラジオサービスのこと。旧経営陣は2014年から2015年にかけて別会社(ジャパンマルチメディア放送やTOKYO SMARTCASTなど)を設立し、2016年3月1日からi-dioの放送を開始したものの黒字化できず、2020年3月31日をもってi-dioは放送終了となった。
糊塗 : 一時しのぎにごまかすこと。
その間、i-dio事業を営む子会社のジャパンマルチメディア放送やTOKYO SMARTCASTでは赤字の垂れ流しが続いたものの、親会社であるエフエム東京による100億円規模の資金供給や債務保証により、何とかこれらの子会社は存続していた。それを可能にしたのが、エフエム東京の旧経営陣による情報隠しと連結外しだ。
エフエム東京は非上場ながらも取締役会と監査役会を設置しており、社外取締役や社外監査役が就任していた。ただ、旧経営陣は社外役員に対してi-dio事業のネガティブ情報をできる限り説明しないようにしてきた。取締役会で社外役員が質問をしても、旧経営陣は真摯に真正面から回答せず、はぐらかすような、あるいは良く聞かなければ理解できないような回答をしていた。監査役および監査役会は、i-dio事業に係るリスクや連結決算におけるTOKYO SMARTCASTの取り扱いについて早い時期から問題点を認識しており、社外監査役が取締役会でi-dio事業に関する決議のあり方の再検討や各種報告などを求めていたが、これらのほとんどは代表取締役会長の冨木田氏と代表取締役社長の千代氏によって握りつぶされていた。取締役会の議事録には、社外監査役の意見を聞いたかのような記載や、今後報告するかのような記載があるものの、実際には社外監査役の提言をはぐらかすような対応も多く、報告を約束しながら実行されていないことがほとんどであった。旧経営陣の一人である常勤取締役はガバナンス改善委員会のインタビューに対し、「監査役には議決権がないので何とでもなる」と回答するなど、旧経営陣のガバナンス軽視の姿勢は顕著だった。
こうした中、エフエム東京の旧経営陣は、i-dio事業の低迷が社外取締役を含む同社の取締役や株主その他利害関係人等にも広く共有され、撤退を含めi-dio事業の抜本的な見直しを検討せざるを得ない事態となることや、i-dio事業に多額の投融資を行うなど積極的に同事業を推進してきた経営陣の経営責任が問われることを回避するため、2016年9月頃からi-dio事業を営む連結子会社のTOKYO SMARTCASTの「連結外し」の方策を検討し、実行した。
TOKYO SMARTCASTが エフエム東京の連結子会社から持分法適用関連会社になることにより、TOKYO SMARTCASTの損失がエフエム東京の連結損益計算書において営業外費用のみに計上され(*)、エフエム東京の連結損益計算書の営業利益に影響を与えないこととなる。
持分法適用関連会社 : 持分法とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう。一行連結とも言われる。持分法は非連結子会社や関連会社に対して適用される。また、関連会社の判定は、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができるかどうか(影響力基準)という観点から行われる。なお、関連会社であっても、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができる。よって、持分法適用関連会社とは、持分法を適用する関連会社を指す。
2016年3月31日時点で、エフエム東京は自社および子会社のジグノシステムジャパンを通じてTOKYO SMARTCASTの議決権の50.0%を保有しており、これに緊密者等であるA社が所有するTOKYO SMARTCAST株式200株の議決権を含めると議決権比率は52.0%となっていた。さらに2017年3月末時点のTOKYO SMARTCASTの取締役会の過半数(取締役7人中6人)がエフエム東京およびジグノシステムジャパンの現任あるいは旧役職員であった。この状況下でTOKYO SMARTCASTを連結子会社から外すには、保有する株式の議決権比率を40%未満としたうえで、緊密者等の持分を含めても議決権比率が50%を超えないようにする必要があった(連結子会社の判定については【役員会 Good&Bad発言集】子会社の連結外しの解説を参照)。
緊密者等 : 自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者。
そこで、エフエム東京の社長千代勝美氏と旧知の仲であった i 氏が代表を務めるB社にTOKYO SMARTCASTに対して1.5億円(3,000株)を2017年3月に出資させ(株式の保有期間は3か月間限定との約束あり)、エフエム東京のTOKYO SMARTCASTに対する議決権比率を低下させた。この結果、TOKYO SMARTCASTは2017年3月期にはエフエム東京の連結子会社から外れることとなった(持分法適用関連会社化)。また、形式上持分比率が低下したことにより損失の取り込みも減らすことができた。しかし、3か月後にはジグノシステムジャパンがTOKYO SMARTCASTの株式2,000株を買い戻し、その金利相当分として i 氏に対して顧問料の名目で総額396万円を支払っていたことから、第三者委員会の調査により、本件は「出資」ではなく「融資」と判断された。第三者委員会の判断を踏まえTOKYO SMARTCASTの議決権総数からB社分3,000株を除外し、改めてエフエム東京のTOKYO SMARTCASTに対する議決権比率を見るとちょうど50%となるうえ、TOKYO SMARTCASTの取締役の過半数がエフエム東京およびジグノシステムジャパンの役職員等であったため、実質支配力基準によりTOKYO SMARTCASTはエフエム東京の連結子会社と認定された(これにより、2017年3月期決算は過年度決算の訂正が必要となった)。
実質支配力基準 : 議決権の所有割合といった形式支配力の要素に加えて、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配しているかどうかという観点から、実質的に子会社の判定を行うこと
また、2018年3月期にはジグノシステムジャパンが連結グループ外のA社に対してTOKYO SMARTCASTの株式1,400株(7,000万円)を譲渡しており、これによりエフエム東京が間接的に保有していたTOKYO SMARTCASTの株式の議決権比率が薄まり、エフエム東京の議決権比率は40%未満となったことから、エフエム東京はTOKYO SMARTCASTを持分法適用関連会社としていた。しかし、第三者委員会は、当該譲渡の裏で旧経営陣が画策し、①譲渡から13か月後にA社がTOKYO SMARTCASTに対して買取請求できる旨の合意、②当該買取について、エフエム東京の子会社のメディアコミュニケーションズが保証する旨の合意、③A社が当該買取のために銀行から借り入れた資金の金利をTOKYO SMARTCASTが負担する主旨でA社に210万円を支払う合意をしていたことが判明したとして、本件は一時的な株式預かりに過ぎず、A社保有分の1,400株は実質的にジグノシステムジャパンが保有を継続していたと認定した。その結果、エフエム東京のTOKYO SMARTCASTに対する議決権比率は45.1%となった。しかも、TOKYO SMARTCASTの取締役の過半数がエフエム東京およびジグノシステムジャパンの役職員等であることから、実質支配力基準によりTOKYO SMARTCASTはエフエム東京の連結子会社として認定された(2018年3月期決算についても、過年度決算の訂正が必要となった)。
このような旧経営陣の連結外しの工作について、社外役員は十分な情報を与えられず、取締役会等で異議を述べる機会を失っていた。この点、エフエム東京の社外役員はいずれも同社の株主や取引関係等にある役職員等であり、エフエム東京と何らかの利害関係を有していることから、旧経営陣から完全に独立した立場の者とは言えなかったのではないかという見方もできなくもない。とはいえ、社外役員である以上、適切な情報をタイムリーに与えられていれば、i-dio事業に深入りする前に社外役員がストップをかけ、エフエム東京の損失負担を少なくできた可能性はある。
エフエム東京がi-dio事業関連の損失として計上した損失額は、2018年度で100億7800万円、2019年度で25億5700万円にも及んでおり、ガバナンスが有効に機能していれば損失拡大を回避できた可能性が高い。情報隠しによりガバナンスを無効化し、さらに連結外しにより株主等の目を欺いた旧経営陣の責任は重く、エフエム東京による旧経営陣に対する損害賠償請求訴訟の提起は当然の行動と言えよう。

