2022/03/25 【2022年2月の課題】非財務指標の役員報酬への組込み(会員限定)

欧米企業との比較に基づく場合の日本企業の現状

非財務指標の役員報酬への組込みは、グローバルでもフォーカスされている論点の一つです。欧米企業の多くは既に実施済みではあるものの、どのような指標をいかにして評価すべきかについては引き続き活発に議論されています。欧州においては、Environment(特に気候変動に関する指標)を中心に議論が展開されており、米国においては、それに加え、Social(特に人的資本投資に関する指標)に焦点が当たっています。

一方、日本企業の多くは、欧米企業から一歩遅れる形で、まずは非財務指標を取り入れていくというフェーズにあります。日本の中では先進的な役員報酬制度を有する企業でさえも、欧米企業の事例を参考に試行錯誤を繰り返しつつ、より良い手法を模索している段階にあります。

非財務評価の前提となるサステナビリティ戦略

非財務指標を役員報酬制度に組み込むにあたり、まず念頭に置くべきこととして、自社の経営戦略や経営基盤の在り方があります。機関投資家をはじめとするステークホルダーが求めている非財務評価とは、形だけ非財務指標を導入することではなく、各社の経営戦略等を踏まえたサステナビリティに関する取組みについての実効性を伴った評価です。

これは経済産業省から公表されている価値協創ガイダンス)とも整合しています。下図のとおり、同ガイダンスのフレームワークでは各企業における価値観、ビジネスモデル、戦略等と、KPIの設定や役員報酬の設計が紐づいていることが示されています。このように経営戦略等と役員報酬との関連性を明確にすることは、対外的および社内的に納得感を得る上で極めて重要といえます。

出典:経済産業省「価値協創のための統合的開⽰・対話ガイダンス - ESG・⾮財務情報と無形資産投資 -」より抜粋
61912
 2022年3月現在、経済産業省に設置された価値協創ガイダンス改訂ワーキング・グループでは価値協創ガイダンスの改訂が検討されています。今回改訂では、長期的かつ持続的な企業価値向上の実現の柱となる「長期戦略」や、企業と投資家が、建設的・実質的な対話を通じ、価値創造ストーリー全体を磨き上げ、「協創」することの重要性をより明確化するため、「実質的な対話・エンゲージメント」という項目の新設などが行われます。

したがって、非財務指標を役員報酬制度に組み込むことを検討するにあたっては、まず自社が経営戦略の一部としてどのようなサステナビリティ戦略を策定しているのか、またその戦略についてどのようにPDCAを回しているのかを確認することがスタート地点となります。仮に十分なサステナビリティ戦略が策定できていない場合には、インセンティブの実効性や評価の実効性も十分に確保できないということになります。少なくとも対外的にはそのように映る可能性が高いということを念頭に置き、役員報酬制度の設計を検討する必要があります。

外部評価指標or内部評価指標?

非財務指標として選定されるKPIは、「外部評価指標」と「内部評価指標」の二つに分けることができます。外部評価指標とは、ESG評価機関による評価結果やESGインデックスへの採用状況等を指します。一方、内部評価指標とは、社内において独自に設定したKPIを指します。

外部評価指標は、客観性の確保や運用の容易さ、分かりやすさという観点から、多くの企業が採用を検討しています。一方で、経営戦略との繋がりや企業価値創造の観点からは懸念もあります。具体的な懸念点の一つとして、企業価値向上への取組みと評価基準の間のギャップがあります。ステークホルダーからは、それぞれの企業がビジネスモデルや戦略を踏まえて価値創造に取り組むことに対して、実効的なインセンティブを設けることが要請されています。この点、外部評価指標には各社独自の戦略が必ずしも反映されておらず、各社が目指す価値創造の方向性と整合しない可能性があります。

また、特に「客観性」は外部評価指標の大きなメリットではありますが、内部評価指標についても、社外取締役を中心に構成された報酬諮問委員会等での議論を通じて評価を行うことで十分に客観性を確保することは可能です。客観性、換言すれば透明性の確保を、指標選定の問題ではなく「評価プロセス」の問題であると捉えれば、外部評価指標の採用の優位性は、少なくとも対外的には高くないと考えられます。

役員報酬コンサルティング分野の世界的権威であるWTW(旧ウイリス・タワーズワトソン)が実施した『機関投資家から見た役員報酬の現状および今後の期待 ~機関投資家インタビューに基づく調査報告~』によると、役員報酬制度におけるESG指標(非財務評価指標)は、企業の事業特性を踏まえマテリアリティ(自社にとっての重要な課題)を特定したうえで選択すべきとの意見が機関投資家から多数挙がっています。また、「ESGインデックスの構成銘柄の選定基準を自社のインセンティブ報酬に連動させることが本当に企業価値向上に繋がるのか」といった懸念を示す機関投資家のコメントも見受けられます。これらを踏まえると、多くの機関投資家が「内部評価指標」を採用する方がより望ましいと考えていることがわかります。

非財務評価と株式報酬

また、別の視点として、「非財務評価を株価に委ねる」という考え方を検討してみます。この考え方は、サステナビリティに係る取組みやその成果は株価に反映されるという前提の下、株式を長期にわたり保有すること自体がサステナビリティの視点を確保する手段であるというものです。譲渡制限付株式報酬など長期的に株式を保有する仕組みを、こうした考え方に基づいて導入している企業もあります。すなわち、譲渡制限付株式報酬などがサステナビリティの視点を確保する機能を担うと考え、外部評価、内部評価を問わず、非財務評価は行わないということです。

ただし、譲渡制限付株式報酬等のみにそのような機能を期待する場合にも懸念点がいくつかあります。一つは、株価は公表された取組みや成果のみが反映されて形成されるものであるため、例えば機密性が高いとして公表されていない取組みや成果、その進捗状況等は株価に反映されようがないという点です。また、現状では、サステナビリティに関する取り組みよりも財務業績の方が株価へのインパクトは大きいことから、サステナビリティへの評価がインセンティブとして十分に機能しない恐れがあります。加えて、サステナビリティのみについて独立した評価が行われるわけではないため、評価結果のフィードバックが十分ではなく、その結果PDCAサイクルを回すのが難しいということも懸念点として挙げられます。
 
こうした事情を踏まえ、以降のセクションにおいては、内部評価指標を活用した報酬の在り方について検討することとします。

年次インセンティブor中長期インセンティブ?

評価・報酬への反映における重要な論点の一つとして、「時間軸」があります。具体的には、(1)1年ごとに評価を行い、その評価結果を年次インセンティブに反映するのか、あるいは(2)3年~5年程度の期間の評価結果を中長期インセンティブに反映するのか、ということです。この点、各非財務指標について一律に「こうあるべき」ということは難しく、指標ごとの特性、各社の状況を踏まえて検討することになります。

多くの非財務指標に当てはまる特性の一つが、評価結果の妥当性の判断の難しさです。サステナビリティに関する取組みの成果が、いつ、どのような形で表れるのか必ずしも明確ではない中で、いかにして客観性、妥当性をもって評価するかが課題となります。このような特性が当てはまる指標は、中長期的な取組みの成果への評価ではなく、毎期の取組みの成果への評価に使用することが第一選択肢となります。すなわち、サステナビリティに関する取組みの状況を、毎期定性的に評価し、年次インセンティブ報酬に反映していくことになります。実際、多くの欧米企業ではこうした考え方がスタンダードになっており、非財務指標が年次インセンティブの評価指標として活用されています。

一方で、中長期的な評価に適している指標もあります。例えば、気候変動に関する指標は、比較的中長期での評価に使いやすいKPIといえます。例えばCO2削減については、COP21をはじめとする国際的な枠組みの中で、長期的な目標が既に定められています。企業がこうした目標をブレークダウンした目標を定め、それに向かって取組みを進めている場合、その成果として表れる数値は一定の妥当性を有しているといえます。したがって、中長期的な目標として設定したマイルストーンに対する成果を評価し、その結果を中長期インセンティブに反映させることには合理性があると考えられます。

COP21 : 2015年末にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議のこと。COP21では、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組みとして「パリ協定」が採択された。協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。

また、同じ指標であっても、各社の置かれた状況により、中長期での評価が有効である場合とそうでない場合があります。例えば女性登用比率が挙げられます。現在、多くの日本企業は女性登用比率を高めていく段階にあるため、中長期的なマイルストーンを置きつつ、複数年単位でその進捗状況を評価し、報酬に反映していくことには一定の合理性があるといえます。これに対し、既に女性登用比率が十分に高い企業においては、女性登用比率を指標としても、中長期的に当該比率を引き上げ続けるという目標が採りえないため、評価指標として有効ではありません。女性登用比率を“維持”することを目標にすることは考えられますが、企業価値向上への取組みを評価するという観点からは不十分と捉えられる恐れがあります。こうした企業は、女性登用比率の維持は当然として、より高いレベルのDiversity & Inclusionに関する取組みが求められるでしょう。

Inclusion : 多様性を示すダイバーシティに対し、多様な人材が互いを認め、受け入れ、一体となって働くことを指す。

「個人評価」としての非財務評価

多くの企業では、非財務評価を全役員共通の評価手法として導入することを検討しています。しかし、全役員に共通するものではなく、各役員によって異なる「個人評価」として導入することも考えられます。

個人評価として導入する場合には、各役員がそれぞれ担当する分野について個別に評価することが前提となります。これは社長も例外ではなく、例えば後継者計画への対応やサステナビリティを意識した経営基盤の構築などにおける経営トップとしての役割について評価します。

このように全役員ではなく各役員を個別に評価する場合には、各役員の役割と責任範囲を明確にしたうえで、それぞれの評価結果を個別に報酬に反映することになります。一方、自身の個人評価に影響しない目標は報酬面で動機づけされません。したがって、例えば全社一丸となって意識、共有すべき非財務指標などは個人評価には不向きであるといえます。

報酬全体におけるウエイト、変動幅について

非財務指標に係る報酬のウエイトや変動幅は、企業の経営戦略に基づき決定される場合が多く、一様にその妥当性を語ることは困難です。しかし、非財務指標の特性を踏まえると、評価の客観性や透明性をどの程度確保することができるかにより、設定可能なウエイトや変動幅の範囲は左右されると考えられます。

具体的には、非財務指標の目標策定や評価について客観性を確保するための検討プロセスや、それを可能とする経営基盤が十分に整っていないような場合には、非財務指標に係る報酬のウエイトや変動幅は大きくすべきではありません。仮に不透明な評価体制の中、報酬が非財務指標により大きく変動をすることになれば、評価結果や評価結果を反映した報酬額について社内で不公平感が生じるとともに、対外的にも十分な説得力が得られないことが想定されます。

非財務指標の導入は、ウエイトの大小に関わらずステークホルダーからポジティブに受け止められる場合が多く、決して否定されるものではありませんが、導入時には、経営基盤等の成熟度に合わせたウエイトにとどめるべきです。そして、経営基盤の強化に合わせてウエイトを拡大します。導入期は、将来的に「サステナビリティ経営」をステークホルダーへのメッセージとして強く打ち出すための土台作りと捉え、腰を据えて仕組みのブラッシュアップを図っていくことが重要です。

まとめ

冒頭でも述べた通り、非財務指標の役員報酬への組込みは、グローバルにおいても議論の渦中にあり、“教科書的な対応”はまだ確立されていない状況です。逆に言うと、現状は、各社のサステナブル経営への取組みを、役員報酬を通じて比較的自由に表現できる環境であると捉えることもできるでしょう。

報酬諮問委員会等の説明責任の増大や事務負担の増加などが見込まれる非財務指標の導入・運用は、一朝一夕には実現・確立することは難しいものですが、ステークホルダーからの要請に応えるべく、形式的な対応にとどまらず、企業価値の向上に資する実効的なインセンティブの一つとして、積極的に取り組む姿勢が求められます。

2022/03/25 【失敗学第94回】アールビバンの事例(会員限定)

概要

ラッセンやディズニーキャラクター等の版画の販売事業等を営むアールビバン(JASDAQ)で、2016年以降、一部の版画のロイヤリティが未計上(未支払い)であったことが、著作権者からの指摘で判明した(累計で688百万円の支払い漏れ)。

経緯

アールビバンが2022年3月22日に公表した「社内調査委員会の調査報告書」などによると、一連の経緯は次のとおり。

2022年
2月10日:アールビバンの取締役会は、2016年以降の商品原価(売上原価)の一部に計上漏れがあることが判明したため、社内調査委員会の設置および同日に予定していた2022年3月期第3四半期の決算発表を延期することを決議した。
3月22日:アールビバンは、社内調査委員会の調査報告書を公表し、過年度の決算訂正等を公表した。

内容・原因・改善策

アールビバンが2022年3月22日に公表した「社内調査委員会の調査報告書」によると、調査により判明した事実ならびにその原因および改善策は次のとおりとされている。

ロイヤリティの未計上
内容 アールビバンでは、シルクスクリーン印刷などの版画を販売して際に著作権者に支払うロイヤリティの計上パターンとして2つのパターンがあった。
(i) 商品代金にロイヤリティが含まれているパターン(アールビバンでは仕入れとして商品代金のみを計上する取引)
(ii) 商品代金とは別にロイヤリティの発生を認識するパターン(仕入れの商品代金に加え、ロイヤリティを別途計上する取引)

アールビバンの担当者は、取引先Xとの取引の一部について、実際は(ii) のパターンであるにもかかわらず、(i)のパターンと誤認していたため、ロイヤリティを計上していなかった。本来支払うべき著作権者へのロイヤリティが計上されない分、アールビバンでは利益が多く計上されていた。

原因 担当の引継ぎ時の漏れ
2016年に担当者が交代した際に、取引先Xとの取引の一部は(ii) のパターンであることが正しく引き継がれていなかった。そのため、取引先Xとの取引を担う社員Aやロイヤリティ入力の業務を行う社員Cやその上長の社員Dの全員が、問題となった取引はロイヤリティの計上が不要な取引と誤解していた。

業務の属人化
取引先Xとの取引に関する業務は、ほぼ社員A1名で行われていた。また、慣習上、作家との契約も書面化されないことが多く、業務も主に担当者による口頭やメール等でのやりとりがされているためにブラックボックス化してしまうことが多く、第三者が客観的に確認するすべがなくなっていた。その結果、作家と直接接触する特定の担当者にその作家に関する業務と責任が集中するとともに、担当者以外の従業員には当該作家の業務に関する十分な知識や能力が不足するという業務の属人化が進行し、上長による監督と牽制が充分に働いていない傾向にあった。そのため、担当者の誤信を是正する機会がなかった。
また、ロイヤリティ入力の業務は、社員C1名で担当していた。その入力後、入力後のデータ全体を入力漏れの観点で、検証する作業はなかった。

著作権管理
他の取引先の場合、支払の都度、取引先が支払額を確認する業務フローとなっているが、取引先Xの場合は取引先Xの著作権管理自体をアールビバンが請け負っていたため、取引先Xの代理人からロイヤリティの未払いを指摘されるまで、社内でロイヤリティ未計上が発覚することはなかった。

権利義務の意識・教育が十分ではなかったこと
アールビバンでは、版画等の仕入れにあたり、取引先との間において契約書を作らずに口頭やメール等でのやりとりで行う取引が多く存在する。また、会社全体として著作権の権利関係に対する意識が低く、従業員に対する教育も十分でなかった。

改善策 1 契約の書面化、及び、取引先毎の契約の統一的な管理体制の構築
今後は管理部門において取引先毎に登録を統一的に管理し、複数の商品仕入れルートがある場合には、ロイヤリティ計上の有無を確認・検証する体制の整備を行う。
2 牽制機能を果たし得る組織への転換
今後は社内において牽制機能を効かせるために、作家の担当者の複数化を検討する。
また、これまで担当者の業務内容がブラックボックス化していたことから、第三者、特に上長において担当者の業務内容を把握・確認できるよう、報告事項及び報告の形式について、明文のルールを定めて義務化する。
3 権利義務の内容確認に対する意識向上・教育・指導
管理部門および現場部門に対して、同社の作家との間の著作権を含む著作権に関する権利義務の内容確認およびその重要性に対する意識向上・教育・指導を行う。
4 版画システムの機能向上
現在の版画システムには、担当者が手で1作品ごとにロイヤリティを入力している。ロイヤリティのマスターをシステムに内包して、ロイヤリティを自動で計上するようシステムを更新すべき。
5 経理部門による確認の強化
経理部門は、表面的なチェックにとどまらず、取引内容の適正性までを確認できるよう、確認の向上を図るべき。特に、対外的な特殊な取引に関しては、十分な注意を払うべき。
6 内部監査の強化
これまでの内部監査では会計監査が対象とする経理的な取引の数値の詳細把握までには至っていなかった。今後の内部監査においては、定期的に、詳細な取引や業務の実態の把握、詳細な経理的な数値の検証まで行い、検出された不明な事象を確認するために取引先に確認を行う等より、実効性のある監査を実施することが必要。
7 再発防止に向けた経営陣のコミットメント
再発防止策の具体的な進捗状況や改善状況は、取締役会の重要な報告事項として社外取締役や監査役による監督下に置き、適切なモニタリングを行うべき。
<この失敗から学ぶべきこと>

アールビバンでは、仕入担当者、ロイヤリティ計上担当者、その上長の誰もが、今回問題となった取引をロイヤリティ含みの仕入計上であると誤認して、ロイヤリティの計上を漏らしていました。こういった「思い込み」による間違いは誰しもが経験したことがある「よくあるヒューマンエラー」の一つです。よって内部統制は、そういったヒューマンエラーがあり得るという前提のもと、事前統制または事後統制のどこかで「思い込み」による間違いが検出されるようにデザインされている必要があります。ITの活用によりヒューマンエラーを回避するのも一案です。

上場会社各社では、担当者それぞれの業務について、仮に「思い込み」による間違いがあった場合に当該エラーがどこかで検出されるようになっているかという観点から、再度内部統制のデザインの適切性を確認しておくべきと言えます。

2022/03/24 流通株式関連基準の充足が危うい上場会社がとるべき対応

周知のとおり、東京証券取引所では来月(2022年4月)4日から市場区分が新市場区分へと移行し、それに合わせて流通株式の定義も見直される(流通株式の定義見直しについては【役員会 Good&Bad発言集】流通株式の定義変更を参照)。流通株式数や流通株式時価総額といった流通株式に関連する上場維持基準(以下、流通株式関連基準。当該基準については2021年5月13日のニュース『流通株式時価総額基準クリアへ「意思表明」のリリース相次ぐ可能性も』を参照)を満たせず、経過措置の適用を受けることを前提にプライム市場を選択した上場会社や、2021年6月末を基準日として実施した新市場区分の一次判定時ではぎりぎり流通株式関連基準をクリアした上場会社にとっては、新たな流通株式数の定義見直しに伴う東証の対応が気にかかるところだろう。こうした中、・・・

上場維持基準の適合に向けた計画書 : 選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない場合に開示が求められる書類。この書類を開示しなければ、上場維持基準に係る経過措置は適用されない。

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2022/03/24 流通株式関連基準の充足が危うい上場会社がとるべき対応(会員限定)

周知のとおり、東京証券取引所では来月(2022年4月)4日から市場区分が新市場区分へと移行し、それに合わせて流通株式の定義も見直される(流通株式の定義見直しについては【役員会 Good&Bad発言集】流通株式の定義変更を参照)。流通株式数や流通株式時価総額といった流通株式に関連する上場維持基準(以下、流通株式関連基準。当該基準については2021年5月13日のニュース『流通株式時価総額基準クリアへ「意思表明」のリリース相次ぐ可能性も』を参照)を満たせず、経過措置の適用を受けることを前提にプライム市場を選択した上場会社や、2021年6月末を基準日として実施した新市場区分の一次判定時ではぎりぎり流通株式関連基準をクリアした上場会社にとっては、新たな流通株式数の定義見直しに伴う東証の対応が気にかかるところだろう。こうした中、2022年3月16日に東証から「株券等の分布状況表(新様式)等の作成要領」(以下、分布状況表(新様式)作成要領)が明らかにされている。

そもそも「株券等の分布状況表」(以下、分布状況表)とは、上場会社が証券取引所に提出することを求められる書類の一つで、上場会社における株式の所有状況などを記載するもの。東証の場合、「Target」という上場会社向けポータルサイトを利用して提出することになっている。東証は、新たな流通株式の定義に基づいた流通株式関連基準の審査を「新市場移行日(2022年4月4日)以後に到来する事業年度末」から行うとしている。すなわち、3月期決算会社の場合、2023年3月期から新たな基準による審査が行われる。したがって、3月期決算会社が新様式の分布状況表を用いるのは2023年3月期からであり、2022年3月期は従来通りの様式の分布状況表を提出し、東証の審査も従来の基準で受ける()ことになる。

 売買高および売買代金に係る上場維持基準は、決算期にかかわらず全社一律に2022年6月末(売買高)および12月末(売買代金及び売買高)より適用される。なお、売買高に係る上場維持基準の判定時期は年2回(6月末と12月末)、売買代金に係る上場維持基準の判定時期は年1回(12月末)とされている。

ただし、新様式の分布状況表に、株式事務代行機関から送付される株式分布状況表(三菱UFJ信託銀行、アイ・アール ジャパン、SMBC信託銀行の場合)または統計表≪所有者別≫(東京証券代行、日本証券代行、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行の場合)に基づき所有者区分別の株主数を転記するとともに、事業年度の末日以前3か月間の平均株価を入力すれば、流通株式関連の上場維持基準の適合状況を判断することが可能とされており、新様式の分布状況表をすぐに提出する必要がない上場会社であっても、上場維持基準への適合状況を確認することを目的に新フォーマットを利用する(提出はしない)こともできる(分布状況表(新様式)作成要領の4ページを参照)。

新市場区分に係る流通株式数の算定方法は【役員会 Good&Bad発言集】流通株式の定義変更 でお伝えした内容から変更されていないが、再掲すると下記のとおり(分布状況表(新様式)作成要領の6ページより抜粋。図中のページ番号は分布状況表(新様式)作成要領のページ番号を指す)。なお、例外①や例外②といった例外規定を考慮しなくても上場維持基準に適合している上場会社は、分布状況表における本例外規定に係る欄は入力をパスしても構わない(任意)。

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注意したいのは、上図の「役員」とは分布状況表の基準日時点における取締役、監査役、執行役等を指しており、執行役員は含まないということだ。役員持株会に執行役員も加入している会社では、株主名簿管理人から送付されてくる株式分布状況表に記載されている「役員持株会が保有する株式数」から「執行役員に帰属する持分」を減算した株式数を、「役員及び役員持株会の所有株式数」欄に入力する必要がある。流通株式関連基準にぎりぎりで抵触してしまった上場会社は、株式分布状況表において役員持株会の執行役員持分を「役員」所有株式にカウントしていないか、検証しておきたい。

流通株式の定義変更で最も注目されたのが、「国内の普通銀行、保険会社、事業法人等が所有する株式」が原則として流通株式から除かれる一方、例外的に大量保有報告書および変更報告書または保有状況報告書(様式はこちら)から保有目的が純投資であることが明らかであり、かつ5年以内の売買実績が確認できるもののうち、東証が適当と認めるものに限り、“当分の間”は流通株式として取り扱う(上図の例外①)というものだ。これは端的に言うと、政策保有株式を流通株式から除外するということであり、政策保有株式の縮減を狙いとしている。分布状況表(新様式)の作成要領16ページでは、売買実績が少ない場合(例えば1件/1単位しかない場合)、そのことのみをもって例外規定の対象外とはしない(すなわち流通株式から除外しない)ものの、安定的・固定的な保有でないことを確認する観点から、東証が保有者に対して売買の内容や保有の目的を個別に確認するとしている。

大量保有報告書および変更報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、金融商品取引法上、株券等の大量保有者に対し提出が義務付けられている書類。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
保有状況報告書 : 基準日時点の保有株式数や株式の相互保有の有無、人的関係、取引関係の有無、5年以内の売買実績(具体的な売買日)などを記載する書類で、保有者(株主)が作成し社印を押したうえで上場会社に提出し、それをさらに上場会社が証券取引所に提出する。

また、保有状況報告書では、保有者との関係(株式の相互保有、人的関係、取引関係)の記載を求めているが、「それらの関係がある場合は、純投資目的に係る例外規定の対象とはならないのか」とのQに対して、「保有者との関係がある場合には、別途ヒアリング等を行った上で、対象となるか否かを判断させていただく」としている。

以上を勘案すると、株式を相互保有しており、人的関係や取引関係もある取引先に依頼し、期末日近辺で1株だけ売却したことをもって「純投資」と言い張るような保有状況報告書を作成してもらったとしても、東証が当該取引先に確認した結果、そのような株式は流通株式から除外される可能性は十分にある。そして、それは流通株式関連基準の充足が危うくなることを意味する。

仮に東証がそのような株式を流通株式として取り扱うことが適当と認めたとしても、当該保有状況報告書は公衆の縦覧に供されることになるため、投資家からも妥当性が検証されることとなる。マスコミ等で“怪しい”保有状況報告書などとして報道されれば、その翌年の東証の審査が厳格化されることは容易に想像できる。

自社が株主として提出する保有状況報告書でも同じことが言える。世の中が押印廃止に向けて動いているにもかかわらず、東証があえて保有状況報告書に作成会社の社印の押印を求めたことからは、安易な“純投資宣言”に牽制をかける意図が透けて見える。相互保有の会社の総務担当者同士が通謀してお互いに純投資を装うことも東証は想定しているはずだ。上場会社の役員としては、保有状況報告書関連の事務を総務担当者任せにせずに、提出前(自社が株主の場合は相手の会社に提出する前。自社が受け取る場合は東証に提出する前)に保有状況報告書を主体的にチェックする必要がある。

また、売買実績とは「純投資目的として保有している期間の売買実績」を指す。したがって、政策保有目的で取得した株式を「現在は純投資目的で保有している」と言ったところで、純投資目的として以降売買実績がなければ、当該株式は流通株式としては取り扱われないこととなる(分布状況表(新様式)作成要領の17ページ)。このほか、大量保有報告書において保有目的が「純投資及び●●」のように複数記載されていることもあるが、そのような場合は、東証が別途ヒアリング等を経て判断するとしている。結局のところ、いかに純投資に見せかけても最後は東証の判断次第ということだ。

新市場区分に係る上場維持基準の審査結果は、2021年6月末を基準日として実施した市場区分の見直しに係る一次判定時のように、全社に対して一律に通知されるわけではなく、あくまで上場維持基準に抵触している上場会社(経過措置の適用会社も含む)にのみ、個別に通知される。上場維持基準に抵触した上場会社は事業年度末から3か月以内に「上場維持基準の適合に向けた計画」()を開示しなければならず、かつ、当該計画の審議を行う取締役会の実施予定日(「計画」の骨子等を取締役会で議論し、「計画」の策定を経営会議や代表者による決裁等で行う場合は、当該経営会議等の実施予定日)の2週間程度前までに計画案を東証に情報共有しておく必要がある。この点を考慮すると、東証の判断次第で上場維持基準に抵触する可能性がある場合は東証からの通知を待たずに、最悪の結果(抵触すること)も想定して早期に「上場維持基準の適合に向けた計画」を策定し、基準適合に向けた取組みを開始すべきと言えよう。

 初めて「上場維持基準」のいずれかの項目に適合しないこととなったときなどに東証に提出する計画であり、「上場維持基準の適合に向けた取組の基本方針」や「上場維持基準に適合していない項目ごとの課題と取組内容」が記載される。提出期限は基準日から3か月以内とされている。

2022/03/23 時価総額20億円余でプライム、5千億円超でスタンダードを選択した会社も

2022年4月4日からいよいよ東証の新市場区分(プライム、スタンダード、グロースの三市場)がスタートする。東証はウェブサイトで「上場会社による新市場区分の選択結果」を公表しており、そこでは全上場会社がどの市場区分でスタートするのか、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示しているのかなどが一覧できるようになっている。本稿では2022年3月11日時点のデータを用いて、各市場の状況を分析する。・・・

上場維持基準の適合に向けた計画書 : 選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない場合に開示が求められる書類。この書類を開示しなければ、上場維持基準に係る経過措置は適用されない。

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2022/03/23 時価総額20億円余でプライム、5千億円超でスタンダードを選択した会社も(会員限定)

2022年4月4日からいよいよ東証の新市場区分(プライム、スタンダード、グロースの三市場)がスタートする。東証はウェブサイトで「上場会社による新市場区分の選択結果」を公表しており、そこでは全上場会社がどの市場区分でスタートするのか、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示しているのかなどが一覧できるようになっている。本稿では2022年3月11日時点のデータを用いて、各市場の状況を分析する。

上場維持基準の適合に向けた計画書 : 選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない場合に開示が求められる書類。この書類を開示しなければ、上場維持基準に係る経過措置は適用されない。

まず、新旧の市場区分別の上場会社数は下表のとおりとなっている。市場第一部上場会社2,179社のうちプライム市場を選択したのは「8割強」に当たる1,840社だった。残りの339社はスタンダード市場を選択した。そのスタンダード市場には市場第二部とJASDAQスタンダードの全社に加えて、マザーズから1社(インタースペース)が移行する。残るマザーズの427社とJASDAQグロースの全社がグロース市場を選択した。

旧市場区分
上場市場 社数 割合
市場第一部 2,179 57.8%
市場第二部 474 12.6%
JASDAQスタンダード 654 17.3%
JASDAQグロース 35 0.9%
マザーズ 428 11.4%
1兆円以上 135 7.3%
合計 3,770 100.0%
新市場区分
上場市場 社数 割合
プライム市場 1,840 48.8%
スタンダード市場 1,468 38.9%
グロース市場 462 12.3%
合計< 3,770< 100.0%<

プライム市場を選択した上場会社について、3月11日時点の時価総額の分布を確認したところ、100億円未満の会社が97社(5.3%)あった。同市場の上場維持基準の一つに「流通株式時価総額100億円以上」があるため、時価総額自体が100億円未満の会社は必然的に「上場維持基準の適合に向けた計画書」の提出が避けられない。当フォーラムが確認したところ、97社のうち92社が同計画書を開示していた。残りの5社は今後提出するか、市場を変更するかを選択することになろう。

プライム市場
時価総額 社数 割合
100億円未満 97 5.3%
500億円未満 760 41.3%
1000億円未満 308 16.7%
5000億円未満 438 23.8%
1兆円未満 102 5.3%
1兆円以上 135 7.3%
合計 1,840 10.0%

また、特に時価総額が小さい5社についてプライム市場の上場維持基準の適合状況を確認したところ、下表のとおりであった。最も時価総額が小さいピーバンドットコムの「上場維持基準の適合に向けた計画書」においては、①中期経営計画にしたがった高成長性と高収益性と同時追及、②コーポレートガバナンス・IR体制の持続的な改革、③サステナビリティ経営の導入と情報開示の強化、④ステークホルダーとの建設的対話の強化、⑤流通株式比率の段階的引き上げ、が掲げられている。なお、同社は計画期間を「第2次中期経営計画の期間中(2026年3月期~2028年3月期)のなるべく早い時期」としているが、そもそも経過措置がいつまで適用されるかは現状不明となっている(この点については2021年9月3日のニュース『新市場区分 経過措置が適用される「当分の間」はいつ終わる?』参照)。

プライム市場の上場維持基準 : 流通株式数を上場株式数で除した値
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値

会社名 流通
株式数
流通株式
時価総額
流通株式
比率
1日平均
売買代金
時価総額
(百万円)
ピーバンドットコム 2,462
テノ.ホールディングス 2,744
ワイヤレスゲート 3,083
ブラス 3,443
アイケイ 3,556

逆に、時価総額が大きいにもかかわらず「上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出し、プライム市場を選択した会社として以下の5社が把握された。いずれも上場子会社であり、上場維持基準のうち「流通株式比率35%以上」に抵触している。最も時価総額が大きいゆうちょ銀行の計画書には、「日本郵政株式会社は、当行株式の保有割合を、中期経営計画期間中(2021年度~2025年度)のできる限り早期に50%以下とすることを目指す方針」である旨の記述がある。この記述は、子会社単独での流通株式比率改善が難しいことの裏返しとも言えよう。

会社名 流通
株式数
流通株式
時価総額
流通株式
比率
1日平均
売買代金
時価総額
(百万円)
ゆうちょ銀行 3,817,037
Zホールディングス 3,747,186
かんぽ生命保険 787,397
コーエーテクモホールディングス 635,223
オービックビジネスコンサルタント 295,584

一方、時価総額が大きいにもかかわらずスタンダード市場を選択した会社も散見される。当フォーラムが調査したところ、時価総額5000億円超でスタンダード市場を選択した会社は4社あった。いずれも上場子会社であり、流通株式比率35%の達成が難しいことは容易に想像できる。日本マクドナルドホールディングスは現在上場している市場がJASDAQスタンダードであるため、プライム市場の選択には新規上場審査と同様の審査手続が必要となる(市場変更時の審査手続きについてはこちらを参照)ことを考慮した可能性があろう。その他の会社も、現状は上場維持基準を満たしていたとしても今後の資本政策やグループ戦略に鑑みるとプライム市場を選択するメリットが少ない、またはデメリットが生じ得ると判断したものと考えられる。

会社名 筆頭株主(保有割合) 時価総額(百万円)
日本オラクル ORACLE JAPAN HOLDING,INC.(74.05) 1,042,685
日本マクドナルドホールディングス マクドナルド・レストランズ・オブ・カナダ・リミティッド(25.25) 650,174
新生銀行 SBI地銀ホールディングス株式会社(27.28) 553,039
大正製薬ホールディングス 公益財団法人上原記念生命科学財団:(18.78) 500,621
アコム 三菱UFJフィナンシャル・グループ:(37.57) 451,185

なお、マザーズ上場会社の中で最も時価総額が大きいメルカリ(約4,400億円)は、4月4日の新市場区分移行時にはグロース市場を選択するが、2022年1月14日付けでプライム市場への変更を申請している(メルカリのリリースはこちら)。今後、新規上場審査と同様の審査手続を経て、東証の承認が得られればプライム市場上場会社となる。マザーズには他にも時価総額が3,000億円近いビジョナル、さらにJASDAQスタンダードには時価総額4,000億円近辺にワークマン、ハーモニック・ドライブ・システムズなどがある。上述の日本マクドナルドホールディングスを含め、今後市場区分の変更申請があるのか、注目される。

2022/03/22 CG報告書の記載内容に対する運用機関の期待

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2022年3月15日、『GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」』と題する調査結果を公表した。本調査はGPIFが国内株式の運用を委託している運用機関に対して、改訂(2021年6月)版コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえ記載内容が充実していると思われるコーポレート・ガバナンス報告書を作成している企業を「最大5社」選定するよう依頼したもの。今回の調査は2016年、2019年に続く3回目となる。

本調査結果ではまず、『4機関以上の運用機関から高い評価を得た「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」』を作成している企業として以下の3社を挙げている。・・・

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2022/03/22 CG報告書の記載内容に対する運用機関の期待(会員限定)

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2022年3月15日、『GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」』と題する調査結果を公表した。本調査はGPIFが国内株式の運用を委託している運用機関に対して、改訂(2021年6月)版コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえ記載内容が充実していると思われるコーポレート・ガバナンス報告書を作成している企業を「最大5社」選定するよう依頼したもの。今回の調査は2016年、2019年に続く3回目となる。

本調査結果ではまず、『4機関以上の運用機関から高い評価を得た「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」』を作成している企業として以下の3社を挙げている。

◇ 丸井グループ 6機関
◇ 積水ハウス 4機関
◇ 東京海上ホールディングス 4機関

改訂コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえた評価であるため、運用機関の関心も、改訂された開示原則である補充原則2-4①(ダイバーシティ)、補充原則3-1③(サステナビリティ)、補充原則4-11①(スキルマトリックス)に関する記載に集まった。当フォーラムでは、下表のとおり、上記3社のコーポレート・ガバナンス報告書に対する代表的なコメントを抽出した。

  丸井グループ 積水ハウス 東京海上HD
ダイバーシティ ・女性の活躍推進についてユニークなKPI、目標値を開示
・実績と目標値だけでなく乖離内容を記載し、目標も再設定
・進捗分析からの課題、対応策、新たな目標等を開示
・女性管理職に加え、中途採用者、外国人について詳しく記載
・中途採用者の管理職への登用で不利益はないことを明記
・外国人を今後積極的に登用していくとの記載がある
・ダイバーシティカウンシルの創設など具体的施策を詳細に説明
サステナビリティ ・サステナビリティ課題に対するガバナンス体制を詳細に記載
・課題としているサステナビリティの方針の記載が充実
・役員報酬についての開示で、ESGとの連動率などを細部まで記載
・ESGに関する考え方や、ESGの推進体制をわかりやすく記載
・人的資本への投資について、具体的な取組内容が記載されている
・知的財産への投資に関し、継続的な成長に向けた取組みを記載
・チーフサステナビリティオフィサーやサステナビリティ委員会の設置などの取組みを詳述
スキルマトリックス   ・ビジョンからスキル項目を導出した際の考え方を記載
・取締役に求めるスキルの選定理由を詳細に記載
・住宅・建築・都市開発分野、消費者サービス分野を重視するといった考え方が示されている
・取締役・監査役の有するスキルの一覧において、選任に対する考え方をあわせて開示
その他 ・コーポレート・ガバナンスに関して確認したい事項が当報告書単体で理解することができる
・巻末の「コード実施状況表」はコーポレートガバナンス・コードの改訂に対応した索引であり、ユーザーにとって使いやすい
  ・事業ポートフォリオの運営状況がわかりやすい内容となっている
・向こう3か年における政策保有株式の削減計画を提示
・取締役・監査役に対する就任前の研修時間を開示
・グラフィックの活用などにより、情報量に比して可読性が高い

総括すると、丸井グループはダイバーシティとサステナビリティに関する情報の充実に加え、コーポレート・ガバナンス報告書のユーザビリティが評価されたと言える。積水ハウスはダイバーシティ、サステナビリティ、スキルマトリックスいずれに関する情報も充実しており、特にスキル項目の選定理由の記載が高く評価された。東京海上HDはこれら3つのテーマのみならず、事業ポートフォリオや政策保有株式、役員トレーニングなど幅広いテーマについて評価されている。それぞれ個性がありつつ開示内容も優れているという、まさに好事例となった。

以下は、4つ未満だったものの、本調査で1つ以上の運用機関に「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」に選ばれた企業の一覧である。4機関以上の3社を含めると合計44社となっている。他社にとっては、いずれもベストプラクティスとして参考になろう。

大林組、伊藤園、不二製油グループ本社、双日、味の素、花王、大日本住友製薬、中外製薬、資生堂、ブリヂストン、ジェイ エフ イー ホールディングス、LIXIL、リクルートホールディングス、荏原製作所、ダイキン工業、栗田工業、日立製作所、オムロン、パナソニック、ソニーグループ、日東電工、日本ケミコン、川崎重工業、コンコルディア・フィナンシャルグループ、島津製作所、リコー、ヤマハ、ピジョン、三井物産、東京エレクトロン、住友商事、三菱商事、ユニ・チャーム、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友トラスト・ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、東日本旅客鉄道、日立物流、NIPPON EXPRESSホールディングス、日本航空、SCSK

また、本調査結果の後半には「コーポレート・ガバナンス報告書のなかで運用機関が企業に期待することやエンゲージメントで議論したいことなど、企業へのメッセージ」が掲載されている。当フォーラムでは、本調査結果から運用機関が期待する事項を抜粋し、コーポレートガバナンス上のテーマごとに下表のとおり整理してみた。これらはいずれもエンゲージメントのテーマとなる可能性が高いだけに、コーポレート・ガバナンス報告書の内容、運用機関との対話の改善を検討する際に役立てていただきたい。

コーポレートガバナンス全般 ・中長期的な企業価値向上に資する改善点や今後の課題
・自社独自の優れた取組み
・自社の哲学や考え方、現状把握、目標値や目標像(具体例を交えて)
コーポレートガバナンス・コード対応全般 ・エクスプレインする方がコンプライするより企業価値の向上に資するということへの理解
・エクスプレインを通じ、各原則に対する自社の取組みを見つめ直し、取組みの実効性を高めること
・コンプライ・”アンド”・エクスプレインの精神、コンプライしたから終わりではなく現状を更に良くするための課題認識
・実施内容に少しでも課題認識がある場合はコンプライせずに、課題認識とともにエクスプレインする
取締役会の機能発揮 ・取締役会の実効性評価(挙がった課題、具体的な対応)
・取締役会が独立した監督責任を果たしていることについての説明、取締役の具体的な貢献実績
・「攻め」と「守り」のガバナンスをどのように実現している、もしくは目指しているのか
・顧問・相談役などを任命する理由(必要性や妥当性)
指名・報酬委員会等 ・指名・報酬委員会等での議論の内容、各種委員会の活動の実態、委員長および取締役会の議長が誰なのか、委員会構成の独立性
選解任プロセス ・CEOのサクセッションプラン
・取締役・監査役を含む経営幹部の選解任プロセス
・社内取締役の選任理由
スキルマトリックス ・目指す姿や経営戦略と整合的なスキル要件
・記載項目という結果の表示だけでなく、結果に至った経緯などの記載
政策保有株式 ・縮減方針、縮減に向けた中長期的な時間軸や計画
・保有の必要性の検証における定量的な基準
・株式売却の申し出があった場合、その売却を妨げる行為を行わないことを明記
サステナビリティ ・ステークホルダーが重視する分野に関する意欲的な目標および戦略、その進捗に係るデータや見識
・役員報酬のKPIとして各企業にとってマテリアリティの高いESG項目、ESGとの連動率
ダイバーシティ ・多様性・女性比率
コーポレート・ガバナンス報告書の記載全般 ・簡潔かつ実態把握に充足な情報、分かりやすさ、重要度の高い事項に絞った整理
・定型的な記載にとどまらないこと
・具体的方針を目標値およびタイムフレームをもって開示

マテリアリティ : 「重要性」を意味するCSR用語

2022/03/18 取締役会・委員会等の活動状況、有価証券報告書での開示義務化へ

取締役会・委員会等については、現行の有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】で、構成人員、設置目的、権限といったコーポレート・ガバナンスに関する基本的な情報、さらに「活動状況」に関する情報として、役員報酬等の金額の決定過程における取締役会および委員会等の活動内容を記載することが求められている。また、取締役会および委員会等の「活動状況」については、コーポレート・ガバナンス報告書で、開催頻度主な検討事項、メンバーの出席状況等を記載することが望ましいとされ、有価証券報告書よりも多くの情報が開示されているケースがある。ただ、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループでは、取締役会等における主な検討事項に言及している会社は多いのものの、開催頻度、出席状況はそれほど記載されておらず、取締役会および委員会等の「活動状況」の開示が進んでいないことが報告されている。

<ディスクロージャーワーキング・グループ第5回 2021年12月1日 事務局資料より>
61844

取締役会や委員会等の活動状況は、取締役会や委員会等が機能しているかどうかや、自社の経営状況や課題に対する問題意識の高さを投資家が判断するうえで重要な情報の一つと言える。

既に監査役会等については有価証券報告書で開催頻度、主な検討事項、メンバーの出席状況等の「活動状況」を開示することが求められており、また、諸外国では法定開示書類で取締役会や委員会等の活動状況が開示されている。

<参考-現行の有価証券報告書における取締役会及び委員会等並びに監査役会等の活動状況の主な開示内容比較>
 コーポレート・ガバナンス報告書では、取締役会等の開催頻度、主な検討事項、メンバーの出席状況等を記載することが望ましいとされている。
  取締役会、委員会等 監査役会等
役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)および委員会等の活動内容
取締役会等の開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況および活動等 -(

ディスクロージャーワーキング・グループでは現在、有価証券報告書における取締役会・委員会等の活動状況の開示を強化することが議論されている。取締役会・委員会等について投資家が開示を求める情報としては、コーポレート・ガバナンスの要である取締役会と各種の委員会等との関係や連携の状況、各種委員会の相互関係や連携の状況、委員会等の具体的な権限・役割、さらには、委員会等の決定が取締役会によって覆された場合にはその旨や理由、委員会等が外部コンサルタントをどのような形で利用したのかなど数多く存在するが、まずは・・・

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