2022/03/18 取締役会・委員会等の活動状況、有価証券報告書での開示義務化へ(会員限定)

取締役会・委員会等については、現行の有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】で、構成人員、設置目的、権限といったコーポレート・ガバナンスに関する基本的な情報、さらに「活動状況」に関する情報として、役員報酬等の金額の決定過程における取締役会および委員会等の活動内容を記載することが求められている。また、取締役会および委員会等の「活動状況」については、コーポレート・ガバナンス報告書で、開催頻度主な検討事項、メンバーの出席状況等を記載することが望ましいとされ、有価証券報告書よりも多くの情報が開示されているケースがある。ただ、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループでは、取締役会等における主な検討事項に言及している会社は多いのものの、開催頻度、出席状況はそれほど記載されておらず、取締役会および委員会等の「活動状況」の開示が進んでいないことが報告されている。

<ディスクロージャーワーキング・グループ第5回 2021年12月1日 事務局資料より>
61844

取締役会や委員会等の活動状況は、取締役会や委員会等が機能しているかどうかや、自社の経営状況や課題に対する問題意識の高さを投資家が判断するうえで重要な情報の一つと言える。

既に監査役会等については有価証券報告書で開催頻度、主な検討事項、メンバーの出席状況等の「活動状況」を開示することが求められており、また、諸外国では法定開示書類で取締役会や委員会等の活動状況が開示されている。

<参考-現行の有価証券報告書における取締役会及び委員会等並びに監査役会等の活動状況の主な開示内容比較>
 コーポレート・ガバナンス報告書では、取締役会等の開催頻度、主な検討事項、メンバーの出席状況等を記載することが望ましいとされている。
  取締役会、委員会等 監査役会等
役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)および委員会等の活動内容
取締役会等の開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況および活動等 -(

ディスクロージャーワーキング・グループでは現在、有価証券報告書における取締役会・委員会等の活動状況の開示を強化することが議論されている。取締役会・委員会等について投資家が開示を求める情報としては、コーポレート・ガバナンスの要である取締役会と各種の委員会等との関係や連携の状況、各種委員会の相互関係や連携の状況、委員会等の具体的な権限・役割、さらには、委員会等の決定が取締役会によって覆された場合にはその旨や理由、委員会等が外部コンサルタントをどのような形で利用したのかなど数多く存在するが、まずは「開催頻度」「主な検討事項」「出席状況」といった取締役会・委員会等の活動状況に関する最低限の情報の開示が有価証券報告書で義務化されることが予想される。

それが実現した場合に問題になりそうなのが、有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の関係性だ。上述のとおり、取締役会・委員会等の活動状況はコーポレート・ガバナンス報告書で開示されているケースもある。開示の重複を避けるためには、有価証券報告書の信頼度の高さを踏まえ、投資情報として重要なものは有価証券報告書で開示しつつ、コーポレート・ガバナンス報告書の記載内容の充実度・更新頻度や優れた検索機能等の特長を活かし、有価証券報告書を補完する情報をコーポレート・ガバナンス報告書で開示することも考えられよう。

2022/03/17 立会時間終了前の決算発表実現を支える「考え方」

多くの上場会社では、取締役会で決算短信の承認決議をしてもすぐに決算発表をすることはせず、「場」()が引けてから決算発表を行うのが通例となっている。これは、立会時間中に決算発表を行うと株価が乱高下しかねないからだ。しかし、立会時間終了まで決算発表をしないとなると、未発表の重要な情報が社内に留め置かれることになり、インサイダー取引を惹起しやすくなる点、注意する必要がある。

 東証では、朝9時から11時30分までの2時間半と昼12時30分から15時までの2時間半の計5時間にわたり、株券の立会(証券取引所内において会員証券会社間で行う売買取引のこと)が行われている。午前中の立会は前場(ぜんば)、午後の立会は後場(ごば)と呼ばれる。なお、東証は、2024年度中に後場の立会時間を15時半にまで延伸する計画を進めている。詳細は『立会時間の延伸議論決着へ 「前場引け後」の決算発表を検討する企業も』参照。

2021年12月16日のニュース『「他社での経営経験を有する者」のみを社外取締役とすることの是非』で紹介したバルミューダの事例がまさにその典型例だ。・・・

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2022/03/17 立会時間終了前の決算発表実現を支える「考え方」(会員限定)

多くの上場会社では、取締役会で決算短信の承認決議をしてもすぐに決算発表をすることはせず、「場」()が引けてから決算発表を行うのが通例となっている。これは、立会時間中に決算発表を行うと株価が乱高下しかねないからだ。しかし、立会時間終了まで決算発表をしないとなると、未発表の重要な情報が社内に留め置かれることになり、インサイダー取引を惹起しやすくなる点、注意する必要がある。

 東証では、朝9時から11時30分までの2時間半と昼12時30分から15時までの2時間半の計5時間にわたり、株券の立会(証券取引所内において会員証券会社間で行う売買取引のこと)が行われている。午前中の立会は前場(ぜんば)、午後の立会は後場(ごば)と呼ばれる。なお、東証は、2024年度中に後場の立会時間を15時半にまで延伸する計画を進めている。詳細は『立会時間の延伸議論決着へ 「前場引け後」の決算発表を検討する企業も』参照。

2021年12月16日のニュース『「他社での経営経験を有する者」のみを社外取締役とすることの是非』で紹介したバルミューダの事例がまさにその典型例だ。バルミューダが携帯端末事業(5Gスマートフォン開発および販売)に参入することと業績の上方修正などをリリースしたのは2021年5月13日の15時だが、同日正午頃に同社の社外取締役を務める田中 仁 氏(眼鏡メーカーのジンズホールディングスの代表取締役)がバルミューダ株式の買付け(以下、本取引)を行ったことが問題視され、田中氏は12月24日、任期を残してバルミューダの社外取締役の地位を退くこととなった。同社取締役会がリリース内容の決議をした「時刻」は開示資料からは不明(*1)だが、仮に午前中に取締役会が開催されており、かつ、バルミューダが決議後すぐに(前場中に)それらのリリースを行っていれば、田中氏の買付け行為がそこまで非難されることもなかったかもしれない(前場中にリリースしたとしても、実際に情報がマーケットで消化されるのには多少の時間を要することを考慮すると、リリース直後に同社株式を売買することはインサイダー取引に該当しないとしても、「モラル」(*2)を問われる可能性はある)。

*1 バルミューダの開示資料によると、2021年5月13日午前11時頃に、田中氏に対して「同月14日から同月20日」にかけての同社株式の売買を承認したとしていることからすると、携帯端末事業に参入すること等の決議も午前中に行われたものと推測される。
*2 モラルに頼るのには限界があることから、社内ルールで規制をかけている上場会社は多い。東証が実施したアンケート調査の結果(第4回 全国上場会社インサイダー取引管理アンケート調査報告書)によると、決算発表前後などの一定期間、役職員等の自社株売買を禁止している上場会社は半数を超えている(56.0%)。なお、「一定期間」には幅があり、「いつから」「いつまで」と設定するかは各社各様となっている(同アンケートの36ページを参照)。なかには決算発表日の翌日も自社株売買を禁止(翌々日から可能)している上場会社もある。ちなみに、バルミューダでは決算発表日の翌日から自社株売買が可能とされていたため、田中氏の買付け行為は社内規定にも違反していた。

このように取締役会での決定から適時開示(決算発表)までに数時間のタイムラグがあるとインサイダー取引の温床になることや、投資者への速やかな情報伝達の観点から、東証では立会時間中であるか否かを問わず適時かつ適切な開示を行うことを求めている。これを受け、立会時間終了前に決算発表を行う上場会社は増えており、東証が2022年3月2日に上場会社各社に通知した「2022年3月期第3四半期決算発表状況の集計結果について」によると、第3四半期決算発表を立会時間終了前に行った上場会社は451社(19.9%)であった。概ね5社に1社が立会時間終了前に決算発表を行っており、立会時間終了後(引け後)に決算発表を行う慣行は少しずつ変わってきていると言える。

時間帯別決算発表会社数
61821
では、どのような会社が立会時間終了前に決算発表を実施しているのだろうか。当フォーラムが下記の279社を対象に各社の決算発表の時刻を調べてみたところ、次のような顔ぶれとなっていることが分かった。

【対象】
2022年2月14日(2022年3月期を事業年度とする3月決算の東証上場会社が第3四半期の決算短信を公表する期限(四半期報告書の45日ルール))に第3四半期の決算短信を公表した2022年3月期を事業年度とする3月決算の東証上場会社(279社)
2022年2月14日における時間帯別決算発表会社数(J:JASDAQ、M:マザーズ)
5:30-8:59
(立会開始前)
8:00 三和油化工業(J)
9:00-11:29
(前場立会時間)
10:15 インフロニア・ホールディングス(東証1部)
10:30 サンユー建設(J)
11:00 大田花き(J)、トミタ(J)JKホールディングス(東証1部)
11:30-12:29
(昼休み)
11:30 みらいワークス(M)、NFCホールディングス(J)
12:00 力の源ホールディングス(M)、リミックスポイント(東証2部)、ランサーズ(M)、ムロコーポレーション(J)、ナイス(東証1部)、光通信(東証1部)
12:30-14:59
(後場立会時間)
13:00 デルソーレ(J)、アイフリークモバイル(J)、川辺(J)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(東証1部)
13:30 広島電鉄(東証2部)、藤井産業(J)
14:00 メニコン(東証1部)、東映(東証1部)、新日本建設(東証1部)、三菱製紙(東証1部)、片倉コープアグリ(東証1部)、クリップコーポレーション(J)、日本ヒューム(東証1部)、日本コンクリート工業(東証1部)、メタルアート(東証2部)、宇野澤組鐵工所(東証2部)、共和コーポレーション(東証2部)
14:20 日阪製作所(東証1部)
14:30 第一生命ホールディングス(東証1部)
14:40 ヤマウラ(東証1部)、東京汽船(東証2部)
15:00-17:29
(立会時間終了後-
立会外取引終了前)
その他244社
17:30以降
(立会外取引終了後)
0社

立会時間終了前に決算発表をしている上場会社の企業規模や業種に特に偏りはない。

とはいえ、2022年2月14日だけ見ても、いまだ244社が引け後に決算発表を行っていることになる。これには「立会時間中に決算発表を行うことで株価に混乱が生じることを避けたい」との考えがあることは冒頭で述べたとおり。確かに、「重要情報が市場参加者に十分に消化された上で取引されることが株価形成の観点から適切であり、立会時間終了後に公表されることは望ましい」(2022年2月18日に開催された第6回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和3年度)で配布された資料1のスライド36枚目)といった伝統的な考え方が依然として支配的ではある。しかし、このような伝統的な考え方に否定的な「多様な取引市場がある今日においては、情報は常に即時に株価に反映されるため、実際には情報を咀嚼するための時間の確保は実現できず、むしろ、日本企業に関する情報であるにもかかわらず、海外投資家主導で形成された価格を我が国の投資家が受け入れざるを得ないことは問題である」(同上)との指摘は傾聴に値する。情報処理速度の高速化とシステムトレードの興隆を考えると、この指摘は説得的であり、決算発表の時刻を立会時間中に切り替える論拠となり得る。本当の意味での「適時」開示の実現を支えるロジックとして、上場会社の経営陣は知っておきたい。

システムトレード : あらかじめ決めておいたルールに従って機械的・継続的に売買する投資法

2022/03/16 スキル・マトリックスの開示に求められるもう一つの意味

周知のとおり、昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)により、プライム市場上場会社には3分の1以上の独立社外取締役の選任が求められることとされたが、来月4月4日からの新市場区分移行後には、プライム市場上場会社の多くがこの基準を満たすことが予想される。「過半数」という欧米企業のスタンダードには及ばないものの、日本企業においても一定のガバナンス体制は整ったと言えよう。「まずは社外取締役の数(あるいは割合。以下同)を増やす」というのが、我が国でコーポレートガバナンス改革が本格化した当初から規制当局が描いていたストーリーであり、その思惑はほぼ達成されたことになる。

従来は社外取締役の数を増やすことに重きを置く規制当局に配慮し社外取締役にあまり厳しい姿勢をとってこなかった機関投資家の対応も変化を見せ始めている。社外取締役に求められる役割として最も重要なのが、経営トップを含む経営陣の「指名」と「報酬」の決定プロセスへのコミットメントだ。例えば経営トップが自らの報酬と進退を決めるのは“自己評価”にほかならない。役員の指名と報酬については社外取締役が主導しない限り、投資家の信頼を得ることはできない。逆に言うと、社外取締役はその役割を果たしているのかを、善管注意義務の観点からも投資家に問われることになる。

その問われ方として、株主による社外取締役の選解任、あるいは何か問題が生じた場合には株主代表訴訟により社外取締役に対し損害賠償請求を行うといった余地もある。これは欧米企業では必ずしも珍しいことではない。日本では、みずほフィナンシャルグループおよびみずほ銀行の経営トップが相次ぐシステム障害の責任をとって辞任した際に、問題を放置し続けた指名委員会を構成する社外取締役等の責任を問う声も上がった。こうした流れに対し、社外取締役からは「責任が重すぎる」「我々にはそこまではできない」といった声も少なからず聞かれるが、今後、社外取締役の「実質」が問われる時代が本格的に到来することは不可避となっている。

実は、・・・

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2022/03/16 スキル・マトリックスの開示に求められるもう一つの意味(会員限定)

周知のとおり、昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)により、プライム市場上場会社には3分の1以上の独立社外取締役の選任が求められることとされたが、来月4月4日からの新市場区分移行後には、プライム市場上場会社の多くがこの基準を満たすことが予想される。「過半数」という欧米企業のスタンダードには及ばないものの、日本企業においても一定のガバナンス体制は整ったと言えよう。「まずは社外取締役の数(あるいは割合。以下同)を増やす」というのが、我が国でコーポレートガバナンス改革が本格化した当初から規制当局が描いていたストーリーであり、その思惑はほぼ達成されたことになる。

従来は社外取締役の数を増やすことに重きを置く規制当局に配慮し社外取締役にあまり厳しい姿勢をとってこなかった機関投資家の対応も変化を見せ始めている。社外取締役に求められる役割として最も重要なのが、経営トップを含む経営陣の「指名」と「報酬」の決定プロセスへのコミットメントだ。例えば経営トップが自らの報酬と進退を決めるのは“自己評価”にほかならない。役員の指名と報酬については社外取締役が主導しない限り、投資家の信頼を得ることはできない。逆に言うと、社外取締役はその役割を果たしているのかを、善管注意義務の観点からも投資家に問われることになる。

その問われ方として、株主による社外取締役の選解任、あるいは何か問題が生じた場合には株主代表訴訟により社外取締役に対し損害賠償請求を行うといった余地もある。これは欧米企業では必ずしも珍しいことではない。日本では、みずほフィナンシャルグループおよびみずほ銀行の経営トップが相次ぐシステム障害の責任をとって辞任した際に、問題を放置し続けた指名委員会を構成する社外取締役等の責任を問う声も上がった。こうした流れに対し、社外取締役からは「責任が重すぎる」「我々にはそこまではできない」といった声も少なからず聞かれるが、今後、社外取締役の「実質」が問われる時代が本格的に到来することは不可避となっている。

実は、同じく昨年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂で求められることとなったスキル・マトリックスの開示(補充原則4-11①)はその“足場固め”であることは明らかだ。取締役の役割を明確にすることで、逆にその役割を果たさなかった場合に投資家は対話(場合によっては責任追及)を求めやすくなる。スキル・マトリックスの開示を求めるということは、そのためのファクト作りの一環であり、単に取締役の能力のダイバーシティを示すためだけのものではない点、留意したい。また、2021年3月1日から施行された改正会社法施行規則では、「株主総会参考書類」には社外取締役候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割を、「事業報告」は社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を記載することが求められているが、これにもスキル・マトリックスと同様の意義がある。今のところスキル・マトリックスの開示を求める補充原則4-11①のコンプライ率は低位にとどまっており(2022年2月3日のニュース『「スキル等の組み合わせ」開示、様子見企業相次ぎコンプライ率が大幅低下』参照)、また、株主総会参考書類や事業報告での開示も表面的な内容にとどまっているが、今後開示内容を充実させていく際には、それらが責任追及の材料にもなり得るという点も念頭に置く必要がある。

2022/03/15 一部業界に未宣言企業が集中も 強まるパートナーシップ構築宣言へのプレッシャー

3月16日には春闘の集中回答日(従業員からの賃上げの要求への一斉回答日)を迎えるが、「賃上げ」を政策の柱に据える岸田政権の下、多くの企業が賃上げに踏み切る情勢となっている。企業の賃上げ意欲が高まっている要因の一つには、・・・

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2022/03/15 一部業界に未宣言企業が集中も 強まるパートナーシップ構築宣言へのプレッシャー(会員限定)

3月16日には春闘の集中回答日(従業員からの賃上げの要求への一斉回答日)を迎えるが、「賃上げ」を政策の柱に据える岸田政権の下、多くの企業が賃上げに踏み切る情勢となっている。企業の賃上げ意欲が高まっている要因の一つには、令和4年度(2022度)税制改正で導入された賃上げ税制の存在も挙げられるだろう(賃上げ税制の詳細は2021年12月13日のニュース「パートナーシップ構築宣言と賃上げ宣言の違い」参照)。

大企業(資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上の企業)が賃上げ税制の適用を受けるためには、「給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針」等を自社サイトで公表し、さらにそれを経済産業大臣に届け出るという“賃上げ宣言”(正式名称:マルチステークホルダー宣言)を行うことが求められるが、既報のとおり、さらに既存のパートナーシップ構築宣言も求められることが当フォーラムの取材により確認されている(2022年2月16日のニュース『企業が頭を悩ませる「賃上げ」を宣言する時期』の下から2段落目参照)。“賃上げ宣言”については、現在政府が定型の様式を準備しており、この様式の中でパートナーシップ構築宣言に署名しているとの記載も求められる模様だ。

逆に言えば、賃上げ税制の適用を考えていない企業にとって、パートナーシップ構築宣言をすることは必須ではない。現状、パートナーシップ構築宣言をしている企業約6,500社の内訳を見ると、その大部分が中小企業であり(宣言をすると各種補助金が受給しやすくなるため)、また、例えば全19業種の中でも5番目に登録企業数が多い「学術研究、専門・技術サービス業」分野を見ると、動物病院、税理士法人、中小企業診断士事務所など、下請取引とはおよそ無関係の事業者が多数掲載されており、宣言社数を多く見せるための “水増し”疑惑さえ聞かれる。

ただ、「大企業の宣言社数が少ないからまだ宣言しなくても大丈夫だろう」と考えるのは間違いだ。パートナーシップ構築宣言がメインターゲットとしている下請け関係のある製造業の有名企業の多くは既に宣言をしている。逆に、一部の業界では明らかに宣言をしている企業数が少ないが、これらの業界では、下請けの制作会社等への過酷な値下げ交渉が横行しているとも言われている。パートナーシップ構築宣言を行うこと自体には官庁等の認定は伴わないものの、宣言を行った企業の所管省庁は、「下請中小企業振興法第4条に基づく指導又は助言を行ったときその他宣言企業が宣言を履行していないと認めるとき」は、当該企業に対し、中小企業庁経由で宣言の掲載の取りやめを求めることができる。一度宣言を行っておきながら宣言の掲載が取り消されれば、企業にとってはレピュテーションの毀損につながる。頑なに宣言をしない企業にはそれなりの理由が存在している可能性が高いということだ。

宣言内容は下請け取引をするうえでは当然のこととなっており、“やましい”ことのない企業であればデメリットはない。補助金を受給できない大企業にとってはメリットもないとはいえ、賃上げ税制の導入に伴いパートナーシップ構築宣言をする大企業の増加が見込まれる中、宣言していない大企業が目に付きやすくなるのは間違いない。あらぬ疑いを持たれないためには、仮に賃上げ税制を利用しないとしても、パートナーシップ構築宣言を行うことは検討すべきだろう。

2022/03/14 男女の賃金格差開示、中小子会社も対象へ

既報のとおり、「男女の賃金格差」が有価証券報告書の開示項目となることは既定路線となっており(2022年1月24日のニュース「岸田総理が「有価証券報告書」における男女別賃金の開示を明言」参照)、企業側の関心は既に“開示の仕方”に移りつつある。なかでも最も注目を集めているのが、・・・

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2022/03/14 男女の賃金格差開示、中小子会社も対象へ(会員限定)

既報のとおり、「男女の賃金格差」が有価証券報告書の開示項目となることは既定路線となっており(2022年1月24日のニュース「岸田総理が「有価証券報告書」における男女別賃金の開示を明言」参照)、企業側の関心は既に“開示の仕方”に移りつつある。なかでも最も注目を集めているのが、男女の賃金格差を「金額」で示すのか、あるいは「比率」で示すのかという点だ。前者であれば、例えば男女の賃金の平均額を「男性900万円、女性600万円」といった形で開示することになる。後者であれば、「男性:女性=9:6」といった形での開示となる。前者はあまりに生々しいことから避けたいというのが企業側の本音と言える。

また、正規・非正規労働者を区分して開示するかどうかも論点となるが、企業側からは区分して開示することを望む声が多い。というのも、非正規労働者には女性が多い傾向があるため、正規・非正規の区分なく男女別の賃金を比較すれば、男女の賃金格差がより強調された結果となることが想定されるからだ。

ここでいう非正規労働者には派遣社員は含まれない可能性が高い。これは、派遣社員は派遣元の従業員であるため。一方、企業側としては、契約社員はもちろんパートも非正規労働者として開示対象にしたいとの意向が強い。パートには女性が多く、残業代が発生することも少なくないため、パートも含め「非正規労働者」について男女別の賃金を比較した場合、女性の方が賃金が高くなることもあり得るからだ。なお、学生アルバイトは一時的な在籍にとどまることが多いため、除外されることになろう。

企業側のもう一つの関心事として、開示対象となる子会社の範囲がある。男女の賃金格差を開示する趣旨は、あくまで「国内」における男女の賃金格差の是正にあるため、海外子会社は除外される可能性が高いこと、また、持株会社が上場している場合、持株会社のデータだけを出しても意味がないため、中核的子会社についても開示が求められることになる可能性が高いことは上記で引用したニュースで既報のとおりだが、複数の子会社を有する上場会社にとっては、子会社のどこまでが開示対象となるのか気になるところだろう。

例えば、買収した子会社の中に男女の賃金格差が大きいところが含まれるといったケースもあろう。仮に連結ベースで男女別の平均賃金を算出することになれば、特定の子会社における男女の賃金の格差は“薄まる”ことになる。また、中核的子会社のみが開示対象となれば、男女の賃金格差が大きい子会社は開示対象から外れるという場合もあろう。

ただし、たとえ有価証券報告書の開示対象からは外れた子会社でも、男女の賃金格差の開示は避けられない可能性がある。これは、岸田総理が、有価証券報告書のみならず「女性活躍推進法」に基づく企業の“必須”開示項目に男女の賃金格差を追加することを検討する旨表明しているからだ。現行の女性活躍推進法では、男女の賃金格差は開示対象となっていない(現行法上の開示項目はこちらの表参照)。現行の女性活躍推進法に基づく開示義務等は「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」を対象としているが、同法の改正により2022年4月1日からは「常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主」も対象とされる。これにより、中小企業である子会社も、近い将来、男女の賃金格差の公表を迫られることとなる可能性がある。そうなれば、親会社は、多数の子会社における男女の賃金格差にも目を配らなければならなくなることも考えられよう。

※その後の政府内の議論により、女性活躍推進法に基づき「男女の賃金格差」の開示を必須とするのは、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」に限定されることが当フォーラムの取材により判明している。6月末に女性活躍推進法の政令が改正され、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」については、「男女の賃金格差」の”必ず公表しなければならない項目”として追加される。なお、「常時雇用する労働者が301人以上」いれば、子会社であっても、「男女の賃金格差」の公表が義務付けられることには変わりがない。

2022/03/11 2023年10月からのインボイス制度導入を見据えた免税事業者との付き合い方

周知のとおり、2023年10月から、消費税においてインボイス制度(*1)が導入される。上場会社は、子会社ともども、まずは適格請求書(=インボイス)発行事業者の登録(*2)を行う必要がある。さらに、適格請求書適格返還請求書や領収書の様式を整備し、登録番号の確認ルール(後述)を構築しなければならない。インボイス制度の導入を機に電子インボイスに移行する上場会社も少なくないとみられる。こうした手間やシステム投資の負担に加え、・・・

適格請求書 : 適格請求書発行事業者が発行する請求書で、登録番号、税率区分ごとの取引価額と消費税額などが記載されることで、「インボイス」になる。
適格返還請求書 : 適格請求書発行事業者が返品、値引、割戻など売上に係る対価の返還等をした場合に、取引先に対して交付する必要がある書類
電子インボイス : 電磁的記録により提供するインボイス

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