2022/03/11 2023年10月からのインボイス制度導入を見据えた免税事業者との付き合い方(会員限定)

周知のとおり、2023年10月から、消費税においてインボイス制度(*1)が導入される。上場会社は、子会社ともども、まずは適格請求書(=インボイス)発行事業者の登録(*2)を行う必要がある。さらに、適格請求書適格返還請求書や領収書の様式を整備し、登録番号の確認ルール(後述)を構築しなければならない。インボイス制度の導入を機に電子インボイスに移行する上場会社も少なくないとみられる。こうした手間やシステム投資の負担に加え、消費税の免税事業者である外注先との付き合い方に悩む上場会社は少なくない。

適格請求書 : 適格請求書発行事業者が発行する請求書で、登録番号、税率区分ごとの取引価額と消費税額などが記載されることで、「インボイス」になる。
適格返還請求書 : 適格請求書発行事業者が返品、値引、割戻など売上に係る対価の返還等をした場合に、取引先に対して交付する必要がある書類
電子インボイス : 電磁的記録により提供するインボイス

*1 売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものをインボイスといい、2023年10月からは、売手である登録事業者が、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、「登録番号」「適用税率」および「消費税額等」を記載したインボイスを交付するとともに、交付したインボイスの写しを保存しておかなければならない。また、買手が仕入税額控除の適用を受けるために、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存が必要となる(簡易課税適用事業者を除く)。なお、インボイスは請求書に限られず、必要な事項(「登録番号」「適用税率」および「消費税額等」)が記載された書類であれば請求書、領収書、納品書といった名称を問わない。また、インボイスは手書きであってもよい。
*2 インボイスは適格請求書発行事業者でなければ発行できない。また、適格請求書発行事業者になるには税務署への事前登録が必要とされている。2023年10月の制度開始に間に合わせるためには、原則として2023年3月までに適格請求書発行事業者の登録を済ませておかなければならない。

消費税の「適格請求書等保存方式」と言われるインボイス制度の下では、たとえ実際に消費税を支払ったとしても、適格請求書発行事業者のみが発行できるインボイス(登録番号、消費税率および消費税額等が明示された請求書や領収書等)がなければ、そもそも当該消費税を、消費税計算上の仕入れに係る消費税額として控除することは認められない。自社が納税すべき消費税の額は、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除(仕入税額控除)して算定されるが、2023年10月以降は適格請求書発行事業者でない事業者(会社を含む)から仕入れをしても仕入税額控除はできないということだ。そうなれば、当然自社が負担する消費税の納税額は増えることになる。

それを避けるためには、可能な限り、適格請求書発行事業者と取引をすべきということになる。ただし、消費税の免税事業者は適格請求書発行事業者になれない(適格請求書発行事業者になるには、消費税の課税事業者である必要がある)。したがって、2023年10月以降は、仕入税額控除ができないデメリットを上回るほどのメリット(価格が相場よりも圧倒的に安い、納期が他社よりも早い、他社では代替不能なサービスを提供しているなど)がない限り、免税事業者である外注先とは取引を控えた方が良いという判断にならざるを得ない。

インボイス制度は消費税導入後最もドラスティックな改正と言われており、上記のとおり、取引から排除される可能性が高まる免税事業者にとっては死活問題となりかねない。裏を返せば、外注先として免税事業者(例えば、建設業界における土木・内装工事などを営むいわゆる“一人親方”、出版・広告業におけるライター、IT業におけるエンジニアなど)と多くの取引がある業態の会社も、免税事業者との取引をどうするか、判断を迫られることになる。例えば出版業界では、「出版社としては、これまで仕入額として控除できた分の消費税を新たに負担することは困難」「(インボイスの発行を依頼することで)出版社と制作に携わる人々との関係を悪化させたり、免税事業者である人々が取引から排除されたりすることが起こりかねず、出版活動に支障をきたす懸念が大きい」と危機感をあらわにしている(一般社団法人日本出版社協議会の2022年2月3日の声明より引用)。建設業など既に外注先の選別が始まっていると言われている業界もあり、財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省は2022年1月19日に連名で「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下、Q&A)を公表するなど、対応に追われている。また、経理部や総務部などフリーランサーや規模の小さい法人と取引に関する事務処理を担う部署では、相手先が適格請求書発行事業者かどうかは今後、事前確認事項の一つとなってくるだろう。

なお、免税事業者との取引への影響を緩和するため、インボイス制度導入後3年間は、免税事業者からの仕入れに係る消費税の8割相当額、その後の3年間は5割相当額の仕入税額控除を可能とする経過措置が設けられている。そのため、消費税の仕入税額控除ができないデメリットを上回るほどのメリットがない免税事業者との取引であっても、2023年10月をもってすべて停止するのではなく、経過措置が終了するまで段階的に取引量を減らしていくというやり方も考えられる。

現状、免税事業者は消費税を納税していないにもかかわらず、請求書上は消費税を上乗せして請求しているケースが多い。こうした“益税”が野放しとされてきた理由として、①仕入れる側(自社)が消費税の課税事業者であれば、たとえ相手が免税事業者であったとしても、消費税を上乗せした形で請求を受けた場合には自社にとっては課税仕入れとなり仕入税額控除できることから、相互にメリットがあった、②相手が免税事業者かどうかは知りようがない、といったことがある。しかし、2023年10月以降はこのような“免税事業者による消費税上乗せ“が封印される。免税事業者としては、2023年10月以降は適格請求書発行事業者の登録をして課税事業者になり(以下、課税転換)、堂々と消費税を上乗せしたインボイスを発行するか、あるいは適格請求書発行事業者の登録をせず、消費税を上乗せしない(本体価格のみ計上)請求書に切り替えるかの選択をしなければならない(どちらを選ぶかは事業者の自由)。いずれにせよ、適格請求書発行事業者公表サイトにアクセスすれば、登録番号から適格請求書発行事業者かどうかの確認が取れるので、偽の登録番号を請求書に記載してもすぐにバレることになる。そもそも、登録番号を持たない事象者が適格請求書発行事業者を装って消費税を上乗せした請求書を発行すれば、適格請求書類似書類等の交付の禁止規定(2023年10月1日から施行される消費税法57条の5)に違反し、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性がある(同消費税法65条4号)。つまり、2023年10月以降は“益税”(免税事業者が消費税を上乗せした代金を得ること)の余地はなくなるわけだ。これがインボイス制度導入の最大の狙いである。

上場会社としては、自社の消費税負担を増やさないため、まずは取引先の免税事業者に対して課税転換を勧奨することが、インボイス制度導入に伴う免税事業者対応のスタートとなる。実際、建設業界などでは昨年あたりから既にこのような取り組みが始まっている。ただし、課税転換の勧奨にあたっては、「課税転換しなければ取引価格を引き下げる」とか「課税転換しなければ取引を打ち切る」などと一方的に通告することは、独占禁止法上または下請法上、問題となるおそれがあるので注意しなければならない(上記Q&Aの12ページ目「6 登録事業者となるような慫慂等」を参照)。あくまで「話し合い」を出発点として、取引先が課税転換を検討する(あるいは価格交渉をする)機会を与えるいうスタンスで交渉に臨む必要がある。

もっとも、話し合いを経ても、消費税の納税を嫌って課税転換を拒否する取引先が出てくる可能性もあろう。課税転換を拒否してきた外注先に対しては、次は取引条件の見直しを交渉することになる。その際には、たとえ免税事業者であっても、仕入れや諸経費の支払いにあたっては消費税を負担しているということは念頭に置いておきたい。一方的に「どうせ益税なんだから消費税相当額はすべて差っ引かせてもらう」といった交渉は禁物である。上記Q&Aでは、課税転換を選択しない免税事業者が2023年10月以降も取引価格の維持を求めたにもかかわらず、取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく取引価格を引き下げれば、独占禁止法上または下請法上、問題となるおそれがあるしている(Q&Aの12ページ目の「6 登録事業者となるような慫慂等」を参照)。逆に言えば、課税転換を選択しない免税事業者に対しては取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で伝えるとともに、説明会を開催するなどして免税事業者とコミュニケーションをとってから取引価格を引き下げるのであれば、交渉過程が問題視されるリスクを減らすことができる。

なお、Q&Aの9ページ目の「1 取引対価の引下げ」では、独占禁止法上の優越的地位の濫用が問題になるケースとして、「再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合」を挙げているが、実際にはそこまで極端な値下げをするケースは想定しにくい。交渉手法に留意しながら、外注先の消費税負担の程度も考慮したうえで、発注元の仕入税額控除が制限される分(上記の経過措置を参照)について、双方が納得できる取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではない(Q&Aの9ページ目の「1 取引対価の引下げ」を参照)。

また、取引先が課税転換をした場合であっても取引条件の見直し交渉が必要になることもあるので留意したいところだ。具体的には、従来、下請事業者が免税事業者であることを前提に単価を低く設定していたものの、請求書上は消費税込みの表記をしていた(例えば課税事業者であれば税込価格110円(本体価格100円)を請求するところ、免税事業者であることを理由に単価交渉をした結果として、税込価格100円を請求させていた)ケースだ。2023年10月以降も税込価格100円で取引をするとなれば、課税転換をした下請事業者としては実質的な値下げとなるため納得がいかないはずであり、下請法第4条第1項第5号で禁止されている「買いたたき」として問題になるおそれもあるので注意しなければならない(公正取引委員会の「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」の事例2)。この場合、発注側(自社)で当初の単価設定の際の担当者が異動になり、後任者に単価設定時の事情(免税事業者であることを前提に単価を低く設定していたこと)が引き継がれていないと、後任者は「買いたたき」をしている感覚がないまま価格を据え置きかねないので、発注側としては過去の経緯も確認するようにしておきたい。

上記のような点に注意しながら、優越的地位の濫用にならないよう取引条件の見直し交渉をしたものの、納得のいく価格で合意できないのであれば、取引をやめるということも考えなければならない。ただ、上述したとおり、消費税の納税にあたり取引額を課税仕入として控除できないデメリットを上回るほどのメリット(価格が相場よりも圧倒的に安い、納期が他社よりも早い、他社では代替不能なサービスを提供しているなど)がある免税事業者(外注先)との取引条件を見直すことが適当でないという判断も「あり」であろう。その場合、仕入税額控除額が減少する分を販売価格に転嫁することが可能か、自社製品の販売先に相談することも考えられる。最近は原油や小麦価格などの仕入値の高騰で販売価格の値上げに踏み切った上場会社も多いが、2023年10月以降は「免税事業者対応コスト」も値上げ理由の一つになるかもしれない。

このほか、取引先からインボイスを受け取った側としては、インボイスの適格性を確認するために、本来であれば適格請求書発行事業者公表サイトに逐一アクセスし、インボイスに記載されている登録番号が真正であることを確認しなければならない(もし登録番号が架空の番号であれば、当該インボイスは消費税の仕入税額控除に用いることができないため)という問題がある。とはいえ、数百円のレシートの精算程度で、逐一、適格請求書発行事業者公表サイトにアクセスして確認を取るのは事務負担の観点から現実的ではない。金額が僅少なインボイスや真正の可能性が高い大手チェーン店発行のインボイス、継続取引先などは費用対効果を考えて登録番号の確認をパスするようなルール(マニュアル)も整備しておく必要があろう。

2023年10月まであと1年半残されている。じっくりと時間をかけ、コンプライアンスを確保しながらインボイス制度への対応を図る体制・ルールを整えていくべきであろう。

2022/03/10 変化するESG投資の価値観

「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業を選別して投資するESG投資は、これまで多くの企業をダインベストメント(投資の取りやめ)の対象としてきた。そのテーマは、化石燃料をはじめ、プラスチックゴミ、ファストファッション、軍需、情報漏洩、抗生物質、さらにはアルコール飲料に至るまで多岐にわたる(2020年11月26日のニュース「コロナ禍で浮上した新たなESGのテーマ」および同ニュースの一段落目で引用されているニュース参照)。その一方で、・・・

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2022/03/10 変化するESG投資の価値観(会員限定)

「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業を選別して投資するESG投資は、これまで多くの企業をダインベストメント(投資の取りやめ)の対象としてきた。そのテーマは、化石燃料をはじめ、プラスチックゴミ、ファストファッション、軍需、情報漏洩、抗生物質、さらにはアルコール飲料に至るまで多岐にわたる(2020年11月26日のニュース「コロナ禍で浮上した新たなESGのテーマ」および同ニュースの一段落目で引用されているニュース参照)。その一方で、ロシアの脅威がダインベストメントの範囲を一部縮小させている。近年、欧州の機関投資家は、ESG投資(サステナブル投資)の対象から軍需産業を外す傾向にあった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は各国政府のみならず投資家の防衛意識も高めることになり、軍需産業の一部を「サステナビリティ」の観点から必要と捉え、投資を再開する動きが見られる。例えば、スウェーデン大手金融機関SEBは、1年前に設定したばかりのサステナブル投資基準を改定し、軍需産業への投資を再開する方針を打ち出している。また、欧州委員会でも、軍需産業全体を有害とするのではなく、EUにとって重要な防衛を担う企業と、国際法違反の武器販売等を行う企業は別モノと捉えるべきとの考えが広がっている。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関。

もう一つ、ESG投資に影響を与えそうなのがエネルギーだ。現状、世界的に原油価格の高騰が止まらない状況となっており、日本では政府が3月4日に「原油価格高騰に対する緊急対策」を取りまとめ、元売事業者等に対する価格抑制原資の支給額の上限を5円から25円に引き上げることを決定している。近年、化石燃料は気候変動の最大の“戦犯”とされてきたが、この現状を見ると、未だ化石燃料への依存度の高さを改めて感じざるを得ない。こうした中、欧州委員会は2月2日、環境に配慮したグリーンな経済活動を定めるEU規則である「EUタクソノミー」に、原子力と天然ガスを追加することを発表しており、年内に正式に法制化されることが見込まれている。2020年7月から施行されたEUタクソノミーは、「何がグリーン(環境的に持続可能)な経済活動なのか」を分類するための枠組みであり、サステナブル・ファイナンスを促進するとともに、グリーン・ウォシングを防ぐことを目的としている。例えば、グリーンな経済活動の分類基準として、以下の6つの環境目標の1つ以上に貢献するか、あるいはいずれにも「著しい害を及ぼさない」ことが求められる。

サステナブル・ファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
グリーン・ウォシング : 商品・サービスなどが環境に配慮しているかのように見せかけ、消費者への訴求効果を高めようとする行為

① 気候変動の緩和
② 気候変動への適応
③ 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
④ 循環型経済への移行
⑤ 環境汚染の防止と抑制
⑥ 生物多様性と生態系の保全と回復

EUタクソノミーは世界に先行する取り組みであり、日本を含む世界にも影響を与えている。

このEUタクソノミーに、多くの機関投資家が投資しないことを表明している化石燃料の一つである天然ガス、また、核廃棄物の処分という課題を持つ原子力が加わったインパクトは大きい。その背景には、各国のエネルギー事情を踏まえた政治的な判断があると言われている。例えばフランスは国内の電源構成において原子力の割合が高く、脱原発を目指すドイツには天然ガスが欠かせない。いずれにせよ各国に共通するのは、再生可能エネルギーへの完全移行は一朝一夕には達成できず、“過渡期の電源”が必要だという事情だ。さらにウクライナ情勢の急変で、ロシア産の天然ガスの供給見通しが立たなくなっており、ロシア産の天然ガスに依存してきたドイツでは、廃止する予定だった原子力や石炭による発電を引き続き利用するかどうかの議論も始まっている。

EUタクソノミーに原子力と天然ガスを追加することについて、機関投資家の間では「サステナブル投資のベンチマークとしてのEUタクソノミー評価を損なうものである」と問題視する声が上がっており、仮にEUタクソノミーの法制化が実現したとしても、機関投資家が原子力や天然ガスを「グリーン」に位置付けるかどうかは不透明と言えるが、世界のエネルギー事情が危機に瀕する中、軍需産業と同様、条件付きで投資対象に加えるといった展開になることもあり得なくはない。

いずれにせよ、従来のESG投資の価値観とは相反する軍需産業への投資が復活し、サステナブル・ファイナンスを促進する枠組みであるEUタクソノミーの対象に化石燃料である天然ガスと核廃棄物問題を抱える原子力が加わったという事実は、ESG(特にEやS)の価値観が社会・経済情勢によって変化し得ることを示していると言える。ESGを重視する「ESG経営」においてはこのことを念頭に置きながら、時としてチューニングが必要であることを認識する必要があろう。

2022/03/09 TCFD開示のレベル

周知のとおり、コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③が求める「TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示」はプライム市場上場会社に限定して適用されるものであり、2022年4月4日の新市場区分移行後に開催される最初の株主総会終了後まで猶予されている。しかし、東証が2022年1月26日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)」(以下、東証資料)によると、TOPIX100構成企業のうち76社が「対応済み」、9社が「対応を検討中」である旨開示しており、東証は「先行した取り組みが見られる」と評価している(東証資料11ページ参照)。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

このように、TOPIX100構成企業の約4分の3がTCFD開示に対応済みとなっているが、一口に「対応済」と言っても、対応のレベルは各社によって異なるはずだ。そこで当フォーラムでは、独自にTOPIX100構成企業(2021年11月の銘柄入れ替え時点)のコーポレートガバナンス報告書および参照先の各種開示媒体を調査したところ、以下のことが判明した。・・・

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2022/03/09 TCFD開示のレベル(会員限定)

周知のとおり、コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③が求める「TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示」はプライム市場上場会社に限定して適用されるものであり、2022年4月4日の新市場区分移行後に開催される最初の株主総会終了後まで猶予されている。しかし、東証が2022年1月26日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)」(以下、東証資料)によると、TOPIX100構成企業のうち76社が「対応済み」、9社が「対応を検討中」である旨開示しており、東証は「先行した取り組みが見られる」と評価している(東証資料11ページ参照)。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

このように、TOPIX100構成企業の約4分の3がTCFD開示に対応済みとなっているが、一口に「対応済」と言っても、対応のレベルは各社によって異なるはずだ。そこで当フォーラムでは、独自にTOPIX100構成企業(2021年11月の銘柄入れ替え時点)のコーポレートガバナンス報告書および参照先の各種開示媒体を調査したところ、以下のことが判明した。

① TCFDへの賛同を表明:60社
コーポレートガバナンス報告書、あるいはその参照先(ホームページ、統合報告書など)において、「当社は20xx年x月にTCFD提言への賛同を表明し、TCFDコンソーシアムに参加しております」などと記載している企業は全体の6割にのぼった。もっとも、補充原則3-1③は「開示の質と量の充実を進めるべき」としており、「賛同=コンプライ」とはならない。実際、TOPIX100構成企業の中には、賛同はしているものの「現状は開示に向けて分析中である」などとして、現時点ではエクスプレインとした事例も見られる。

② 「4つの枠組み」に基づく開示:58社
TCFDは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」による4つの枠組みに基づく開示を推奨している(2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」の表参照)。TOPIX100構成企業のうち、コーポレートガバナンス報告書の参照先において、この4つの枠組みによる開示が明確に読み取れる事例は約6割あった。その中には、各枠組みに基づく開示がサステナビリティ報告書の中で広範囲に分散しており、各開示がどのページで行われているかを「参照表」で示している事例もある。このような開示でも「コンプライ」とすること自体に問題はないと考えられるが、投資家の一覧性、比較のしやすさを確保するためには、4つの枠組みを一か所で開示する方が望ましいだろう。

③ 複数シナリオを提示:59社
TCFD開示で推奨されている4つの枠組みのうち「戦略」では、「2℃以下シナリオを含む、さまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明する」ことを求めている。その際に推奨されている2℃シナリオ(または1.5℃シナリオ)と4℃シナリオを用いた説明は、TOPIX100構成企業の6割弱で見られた。以上の①~③を総合すると、TOPIX100構成企業の約6割においては、TCFDに賛同しつつ、4つの枠組みに準拠して、複数のシナリオによる分析結果を開示していると言える。

2℃以下シナリオ : 気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標とするパリ協定で合意された脱炭素社会を目指すシナリオ
レジリエンス : 気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。

④ 財務への影響度を説明:31社
シナリオ分析を通じて気候変動に伴うリスクと機会を洗い出した後、それぞれが自社の事業に与える財務的なインパクト(収益や費用の増減)を試算することが期待されるところだが、この財務影響度に関する開示は、TOPIX100構成企業のうち少なくとも3割超において確認された。その多くは「大・中・小」「H・M・L」といった大まかな表現で定性的に説明されており、具体的な金額を開示しているのは8社にとどまっている。そのうちの1社であるキリンホールディングスはホームページでシナリオ分析結果を開示しており、例えば4℃シナリオにおける「農産物収穫減による調達コストの増加」の影響を約30~120億円、2℃または1.5シナリオにおける同影響を約10~25億円と試算している。

シナリオ分析 : 2℃以下シナリオ(気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標とするパリ協定で合意された脱炭素社会を目指すシナリオ )を含む様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明すること。

すべての事業分野におけるリスクと機会を網羅的に金額換算することには相当な事務負担を強いられることもあり、当面は「大・中・小」など大まかな表現で重要性を示せば足りると考えられる。一方で資生堂は、「2020年はリスクと機会の定性分析の結果を開示し、2021年は定量的リスクと主な対応アクション領域とをあわせて開示します」と宣言している。まずは定性的な説明からスタートするとしても、その後は段階的に定量的な開示を検討することが、資本市場の期待に高い水準で応えることにつながると言えよう。

2022/03/08 続報・四半期報告書の行方

既報の通り、岸田総理が打ち出している四半期開示の見直しについて、金融庁に設置された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)ではメンバーから否定的な意見・・・

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2022/03/08 続報・四半期報告書の行方(会員限定)

既報の通り、岸田総理が打ち出している四半期開示の見直しについて、金融庁に設置された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)ではメンバーから否定的な意見(四半期報告書の開示を維持すべきとの意見)が相次いだが(2022年2月22日のニュース「ディスクロージャーワーキング・グループの議論から見える四半期開示の新たな形」参照)、当フォーラムの取材により、「四半期開示の見直し」は、四半期報告書と四半期決算短信の開示の重複の解消など単なる「四半期開示の効率化」等では収まらない可能性もあることが分かった。

具体的には、金融商品取引法上の「四半期報告書」の廃止だ。四半期開示がテーマになった2022年2月18日開催のDWGに提出された事務局(金融庁)資料からは、下記のとおり四半期報告書の廃止も検討課題となっていることが分かる。

「事務局説明資料(情報開示の頻度・タイミング)」の「IV. ご議論いただきたい事項」
ご議論いただきたい事項②
仮に金融商品取引法に基づく四半期報告書を廃止する場合、取引所規則に基づく四半期決算短信に関し、
A) 開示内容についてどう考えるか。見直すべき点はないか。
B) 開示内容の正確性を担保するための措置についてどのように考えるか。例えば、監査人のレビュー(現在、金融商品取引法に基づく四半期報告書に求められている)についてどう考えるか。

四半期報告書の廃止が議論の俎上に載せられることとなった背景の一つとして、まず投資家や新聞等のメディアが注目しているのは東証の四半期決算短信であり、一部のアナリストを除き、四半期報告書はほとんど見られていないという実態がある。また、会社側の事務負担や近年の監査法人における人手不足といった事情もあろう。

これに対し、四半期報告書を残すべきとの意見の最大の根拠となっているのは、「四半期報告書は法定開示書類であり、監査人のレビューを受けているため信頼性が高い」ということだ。また、四半期報告書に虚偽記載があれば罰則(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(併科あり)、会社に対しては5億円以下の罰金)が科される。この点、四半期決算短信は監査法人のレビュー対象外であり、虚偽記載があっても罰則はない。とはいえ、四半期決算短信の虚偽記載が発覚すれば、有価証券上場規程により、①特設注意市場銘柄に指定され、改善報告書等の提出が求められるほか、②公表措置や③上場契約違約金の対象となる可能性があり、特設注意市場銘柄指定後1年以内に上場会社の内部管理体制等について改善がなされなかったと東証が認める場合などにおいては上場が廃止される。これは上場会社にとって四半期報告書の罰則に勝るとも劣らない重いペナルティであることを考えると、「監査法人のレビューを受けない」からといって四半期決算短信の信頼性が低いとは一概には言えないだろう。

特設注意市場銘柄 : 監査報告書等の不適正意見のほか、有価証券報告書等の虚偽記載、上場契約違反等の上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの上場廃止にまでは至らなかった銘柄のうち、証券取引所が「内部管理体制等を改善する必要性が高い」と判断し、継続的に投資家に注意喚起するために指定する銘柄のこと。特設注意市場銘柄に指定された銘柄は通常の取引銘柄と区別され、特設注意市場において売買される。
改善報告書 : 上場会社が適時開示に係る規定に違反した場合または企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反した場合で改善の必要性が高いと認められるときに、証券取引所が上場会社に提出を求める書類で、違反の経過および改善措置が記載され、公表対象となる。

さらに、上記「IV. ご議論いただきたい事項」にあるとおり、仮に四半期報告書が廃止され四半期決算短信が残ったとしても、四半期決算短信の内容が見直される可能性もある。欧州の四半期開示では財務諸表が添付されず(「事務局説明資料(情報開示の頻度・タイミング)」の「諸外国の四半期開示の状況」参照)、P/Lの一部のみの情報やKPIの進捗状況を掲載するにとどまっている事例も多い。日本で四半期決算短信のみが残ることとなった場合、内容の簡素化も注目論点となる。

DWGの3月の会合ではサステナビリティ関連の開示がテーマとなるが、4月には再び四半期開示が議論される模様。とはいえ、それまでの間、四半期開示に関する動きが止まることなく、むしろ4月の会合に向けた準備は水面下で進められるずだ。4月のDWGは四半期開示の行方を左右する極めて重要なものとなろう。

2022/03/07 女性取締役比率、TOPIX100構成企業でも27社10%未満、ゼロも8社

既報のとおり、議決権行使助言大手のグラスルイスは2021年12月23日に公表した日本向けの2022年版ポリシー(英語版)においてジェンダー・ダイバーシティ基準を厳格化しているが(2021年12月24日のニュース「グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定」参照)、その後日本語版も公表されたので、米国向けポリシーと比較しつつ、改めてその内容を確認してみよう。・・・

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2022/03/07 女性取締役比率、TOPIX100構成企業でも27社10%未満、ゼロも8社(会員限定)

既報のとおり、議決権行使助言大手のグラスルイスは2021年12月23日に公表した日本向けの2022年版ポリシー(英語版)においてジェンダー・ダイバーシティ基準を厳格化しているが(2021年12月24日のニュース「グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定」参照)、その後日本語版も公表されたので、米国向けポリシーと比較しつつ、改めてその内容を確認してみよう。

・英語版はこちら
・日本語版はこちら

日本語版で使用されている文言を適宜引用しながら、ジェンダー・ダイバーシティ基準における今回および今後の変更点をまとめると下表のとおりとなる。

  旧ポリシー 2022年2月以降 2023年2月以降
適用対象 東証一部・二部上場企業 日本の証券取引所に上場する全ての企業
要求する多様性 女性役員 多様な性別の役員
人数・割合 全ての役員(取締役、監査役及び指名委員会等設置会社における執行役)
において少なくとも1名
プライム市場上場企業向け基準 取締役会に占める割合が少なくとも10%以上

上表のとおり、ジェンダー・ダイバーシティ基準の適用対象は、現在の市場区分における全上場企業(東証一部、東証二部、マザーズ、ジャスダック)および4月4日以降の新市場区分における全上場企業(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)とされている。

ここでいう「多様な性別」とは、「女性」のみならず文字通り「多様な性別」を指す。この点についてグラスルイスは、日本語版ポリシーで以下のように説明している。

多様な性別の役員とは、男性と女性以外の性別の役員も含まれる。ただし、日本市場においては、性別に関する開示が乏しく、実質的には、女性役員を求める方針である。

同じ変更は米国向けポリシーにおいても今年から実施されており、従来の” female directors”は”gender diverse directors”に置き換わった。全上場企業向けの基準としては日本同様、「少なくとも1人が必要(a minimum of one)」とされているが、ラッセル3000インデックス構成企業(取締役の人数が6人以下の場合を除く)においては複数いないと(fewer than two)指名委員会の委員長の選任議案に反対推奨される。さらに、ラッセル3000インデックス構成企業については2023年以降、取締役会の30%という高い割合(at least 30 percent gender diverse)が要求されることになる。

ラッセル3000インデックス : 米国企業株式のうち、時価総額上位3000の銘柄から構成される時価総額加重平均型の株価指数。米国の株式市場を包括的にカバーする。米国の株式市場の時価総額の100%近くを占めており、機関投資家向けの米国株のベンチマークとして代表的な存在となっている。

実は米国向けポリシーにおいては、上述した日本向けのような「実質的には女性役員を求める」趣旨の記載はない。これは、米国市場においては性別に関する開示が充実していることを示していると言える。先進的な開示事例として、Prudential Financial, Inc.の株主総会招集通知(proxy statement)を紹介しよう。

Prudentialの招集通知の役員選任議案を見ると、「多様性を非常に重視している(place great emphasis on diversity)」としたうえで、非業務執行取締役(すべて独立社外取締役)である11人の候補者における、多様性の状況を以下のとおり説明している。

✓ 米国外でのビジネス経験:4人
✓ アフリカ系の米国人:2人
✓ アジア系の米国人:1人
✓ ヒスパニック系:2人
✓ 女性:4人
✓ LGBTQ+:1人

招集通知の記載からは誰がLGBTQ+に該当するのかまでは明確でないが、このような開示があった場合、グラスルイスとしては「3種のジェンダー・ダイバーシティが確保されている」と評価することが、当フォーラムの取材によって確認されている。2種と3種で推奨内容に差が出るわけではないが、開示された内容が助言レポートに反映されることは間違いない。日本企業においても中長期的には検討が必要となることも十分に考えられるだけに、今からでも取締役会や指名委員会で一定の認識は共有しておきたい。

プライム市場上場予定企業にとっては、2023年以降適用されるプライム市場上場企業向け基準(取締役会に占める割合が少なくとも10%)が気になるところだろう。グラスルイスは昨年来、プライム市場に特化した方針の制定を検討することを表明している。当該基準はプライム市場上場企業に求められる「高いガバナンス水準」に見合う方針変更と言えるが、当フォーラムがTOPIX100採用企業(2021年11月の銘柄入れ替え時点)における女性取締役比率を確認したところ、「10%」に達していない企業は27社あり、ゼロという企業も8社あった。グラスルイスと同じく来年から1名の女性取締役の選任を求めるISSのポリシー改訂もあり、今後1年間の猶予期間において選任が進むものと思われるが、人数・割合が不足している各社においては、適任者の確保が喫緊の課題となろう。

2022/03/04 不正調査完了前の訂正報告書の“フライング”提出が不可能に

監査人の会計監査は資本市場の維持に欠かせないインフラとして機能しているが、上場会社の監査意見の99%以上が無限定適正意見(下表参照)であることから、無限定適正意見以外の監査意見にどのようなものがあるのかは、経理関係者以外にはあまり知られていないのが実情と言える。

監査報告書には監査人の意見として下表のとおり4つのパターンのいずれかが記載されている。

無限定適正意見 すべての重要な点において適正に表示している。
限定付適正意見 一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。
不適正意見 適正に表示していない。
意見不表明 適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。

普段は目にする機会がほとんどない無限定適正意見以外の意見だが、・・・

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