監査人の会計監査は資本市場の維持に欠かせないインフラとして機能しているが、上場会社の監査意見の99%以上が無限定適正意見(下表参照)であることから、無限定適正意見以外の監査意見にどのようなものがあるのかは、経理関係者以外にはあまり知られていないのが実情と言える。
監査報告書には監査人の意見として下表のとおり4つのパターンのいずれかが記載されている。
| 無限定適正意見 | すべての重要な点において適正に表示している。 |
| 限定付適正意見 | 一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。 |
| 不適正意見 | 適正に表示していない。 |
| 意見不表明 | 適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。 |
普段は目にする機会がほとんどない無限定適正意見以外の意見だが、東京証券取引所のサイトには東証上場会社のうち財務諸表に限定付適正意見・不適正意見・意見不表明等を表明された会社が一覧で掲載されており(こちらを参照)、無限定適正意見以外の意見をまとめて閲覧することができる。ちなみに、2022年に入ってからは本日時点で意見不表明(四半期の場合は結論不表明)が1社、限定付適正意見(四半期の場合は「限定付結論」という)が4社掲載されている(*)。
特設注意市場銘柄 : 監査報告書等の不適正意見のほか、有価証券報告書等の虚偽記載、上場契約違反等の上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの上場廃止にまでは至らなかった銘柄のうち、証券取引所が「内部管理体制等を改善する必要性が高い」と判断し、継続的に投資家に注意喚起するために指定する銘柄のこと。特設注意市場銘柄に指定された銘柄は通常の取引銘柄と区別され、特設注意市場において売買される。
改善報告書 : 上場会社が適時開示に係る規定に違反した場合または企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反した場合で改善の必要性が高いと認められるときに、証券取引所が上場会社に提出を求める書類で、違反の経過および改善措置が記載され、公表対象となる。
このうち意見不表明(結論の不表明)は、(1)継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しており、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるものの、経営者が継続企業を前提として四半期連結財務諸表を作成することの適切性に関して結論の表明の基礎となる証拠を監査人が入手することができないケース(例えば資金繰りの方策の目途が立たない場合など)、(2)粉飾が発覚したものの調査が終了しておらず、修正の金額等が未確定のケース、(3)上記以外の理由(例えば重要な海外子会社の決算の遅れなど)により監査(レビュー)手続きを終了できないケース、の3つに大別できる。東証上場会社のうち2021年に意見不表明(結論の不表明)を受けた会社について、その理由を当フォーラムが確認したところ、下表のような結果となった。
| 意見不表明(結論の不表明)の理由 | 会社名 |
| (1)継続企業の前提関連 | レッド・プラネット・ジャパン |
| (2)粉飾の調査結果未確定 | EduLab |
| 五洋インテックス | |
| (3)その他 | ウェッジホールディングス |
| 昭和ホールディングス |
上表(2)については、日本公認会計士協会から2022年3月1日に「監査意見不表明及び有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期に関する留意事項」(以下、本留意事項)が公表され、「当該事実関係の調査完了前に、過年度の有価証券報告書等に係る訂正報告書が提出され、監査意見を不表明とする事例が生じている」として、監査人である公認会計士および監査法人に注意喚起するという異例の事態となっている。
本留意事項によると、本来、過年度の有価証券報告書等に訂正が必要であれば、不正調査が完了して訂正に必要な証憑類がそろってから財務局に訂正報告書を提出すべきであるところ、不正調査が完了していないのにもかかわらず財務局に訂正報告書を提出し、当該訂正報告書に監査人の意見不表明の監査報告書を添付する(*)という対応は不適切であり、監査人としては、企業と適時にコミュニケーションを行い、企業がそのような不適切な対応をとらないようにすべきであるとして、監査人に対し注意を呼び掛けている。その背景には、下記の考え方がある。
① 意見不表明は他の種類の意見と異なり、「極めて例外的な状況」にのみ許容されるものである。
② 進行期の有価証券報告書や四半期報告書のように提出期限がある書類については、金融商品取引法の提出期限を遵守するために不正調査の完了前にいったん提出しておき(この場合の意見不表明(結論の不表明)はやむを得ないとされている)、後日に不正調査が完了してから、必要に応じて訂正報告書を提出するのが筋である。それにもかかわらず、提出期限が切られていない(設定されていない)過去に提出済みの有価証券報告書や四半期報告書についてまで不正調査完了前に“フライング”して訂正報告書を提出する必然性がない。まして当該“フライング”提出した訂正報告書に監査人が「不正調査が完了していないので意見を表明できない」との意見不表明を付すのは不適切である。
つまり、上表(2)のEduLabや五洋インテックスのケースでは、監査人は「不正調査が完了していないので意見を表明できない」との意見不表明を付すのではなく、企業に対して不正調査が完了して訂正に必要な証憑類がそろってから財務局に訂正報告書を提出するよう指導すべきであったということになる。
企業側には、不正発覚後下落し続ける株価を下げ止まりさせたいという一心から、意見不表明になっても構わないので、長期化が見込まれる調査が完了する前にいったん過去の有価証券報告書等の訂正をしておきたいという“フライング”へのニーズがあるのことは否定できない。しかし、日本公認会計士協会による本留意事項の公表により、今後は監査人が不正調査完了前の訂正報告書に意見不表明を付す途が断たれた以上、もはや“フライング”は不可能となった。
万が一自社で不正会計が発覚し、調査が長引いた場合、進行期の有価証券報告書や四半期報告書など金融商品取引法上の提出期限が到来したものについては意見不表明でいったんは対応しつつ(上述のとおり、この場合の意見不表明は本留意事項では問題ないとしている)、不正調査完了後にそれらの訂正報告書および過去の有価証券報告書や四半期報告書の訂正報告書を提出するという段取りで進めるしかない。EduLabや五洋インテックスのケースは参考にならないという点、留意したい。
