2022/03/04 不正調査完了前の訂正報告書の“フライング”提出が不可能に(会員限定)

監査人の会計監査は資本市場の維持に欠かせないインフラとして機能しているが、上場会社の監査意見の99%以上が無限定適正意見(下表参照)であることから、無限定適正意見以外の監査意見にどのようなものがあるのかは、経理関係者以外にはあまり知られていないのが実情と言える。

監査報告書には監査人の意見として下表のとおり4つのパターンのいずれかが記載されている。

無限定適正意見 すべての重要な点において適正に表示している。
限定付適正意見 一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。
不適正意見 適正に表示していない。
意見不表明 適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。

普段は目にする機会がほとんどない無限定適正意見以外の意見だが、東京証券取引所のサイトには東証上場会社のうち財務諸表に限定付適正意見・不適正意見・意見不表明等を表明された会社が一覧で掲載されており(こちらを参照)、無限定適正意見以外の意見をまとめて閲覧することができる。ちなみに、2022年に入ってからは本日時点で意見不表明(四半期の場合は結論不表明)が1社、限定付適正意見(四半期の場合は「限定付結論」という)が4社掲載されている()。

 監査報告書(または四半期レビュー報告書)に「不適正意見(四半期レビューの場合は「否定的結論」。以下同様)」または「意見不表明(結論の不表明)」と記載された場合、証券取引所が「直ちに上場廃止としなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである」と認めるときは上場廃止となり、そこまでではないものの証券取引所が内部管理体制等について改善の必要性が高いと認めるときは、特設注意市場銘柄に指定されたり、改善報告書の提出を求められたりする。

特設注意市場銘柄 : 監査報告書等の不適正意見のほか、有価証券報告書等の虚偽記載、上場契約違反等の上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの上場廃止にまでは至らなかった銘柄のうち、証券取引所が「内部管理体制等を改善する必要性が高い」と判断し、継続的に投資家に注意喚起するために指定する銘柄のこと。特設注意市場銘柄に指定された銘柄は通常の取引銘柄と区別され、特設注意市場において売買される。
改善報告書 : 上場会社が適時開示に係る規定に違反した場合または企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反した場合で改善の必要性が高いと認められるときに、証券取引所が上場会社に提出を求める書類で、違反の経過および改善措置が記載され、公表対象となる。

このうち意見不表明(結論の不表明)は、(1)継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しており、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるものの、経営者が継続企業を前提として四半期連結財務諸表を作成することの適切性に関して結論の表明の基礎となる証拠を監査人が入手することができないケース(例えば資金繰りの方策の目途が立たない場合など)、(2)粉飾が発覚したものの調査が終了しておらず、修正の金額等が未確定のケース、(3)上記以外の理由(例えば重要な海外子会社の決算の遅れなど)により監査(レビュー)手続きを終了できないケース、の3つに大別できる。東証上場会社のうち2021年に意見不表明(結論の不表明)を受けた会社について、その理由を当フォーラムが確認したところ、下表のような結果となった。

意見不表明(結論の不表明)の理由 会社名
(1)継続企業の前提関連 レッド・プラネット・ジャパン
(2)粉飾の調査結果未確定 EduLab
五洋インテックス
(3)その他 ウェッジホールディングス
昭和ホールディングス

上表(2)については、日本公認会計士協会から2022年3月1日に「監査意見不表明及び有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期に関する留意事項」(以下、本留意事項)が公表され、「当該事実関係の調査完了前に、過年度の有価証券報告書等に係る訂正報告書が提出され、監査意見を不表明とする事例が生じている」として、監査人である公認会計士および監査法人に注意喚起するという異例の事態となっている。

本留意事項によると、本来、過年度の有価証券報告書等に訂正が必要であれば、不正調査が完了して訂正に必要な証憑類がそろってから財務局に訂正報告書を提出すべきであるところ、不正調査が完了していないのにもかかわらず財務局に訂正報告書を提出し、当該訂正報告書に監査人の意見不表明の監査報告書を添付する()という対応は不適切であり、監査人としては、企業と適時にコミュニケーションを行い、企業がそのような不適切な対応をとらないようにすべきであるとして、監査人に対し注意を呼び掛けている。その背景には、下記の考え方がある。
① 意見不表明は他の種類の意見と異なり、「極めて例外的な状況」にのみ許容されるものである。
② 進行期の有価証券報告書や四半期報告書のように提出期限がある書類については、金融商品取引法の提出期限を遵守するために不正調査の完了前にいったん提出しておき(この場合の意見不表明(結論の不表明)はやむを得ないとされている)、後日に不正調査が完了してから、必要に応じて訂正報告書を提出するのが筋である。それにもかかわらず、提出期限が切られていない(設定されていない)過去に提出済みの有価証券報告書や四半期報告書についてまで不正調査完了前に“フライング”して訂正報告書を提出する必然性がない。まして当該“フライング”提出した訂正報告書に監査人が「不正調査が完了していないので意見を表明できない」との意見不表明を付すのは不適切である。

 粉飾の疑義が生じた上場会社では、調査委員会による調査により過年度の粉飾内容が確定すれば、よほど重要性が低い内容でない限り、過年度の決算を訂正せざるを得なくなる。上場会社における過年度の決算の訂正は、当該過年度の有価証券報告書の訂正報告書を財務局に提出する方法により行われるが、この過年度有価証券報告書の訂正報告書にも監査人の監査報告書を添付しなければならないこととされている。

つまり、上表(2)のEduLabや五洋インテックスのケースでは、監査人は「不正調査が完了していないので意見を表明できない」との意見不表明を付すのではなく、企業に対して不正調査が完了して訂正に必要な証憑類がそろってから財務局に訂正報告書を提出するよう指導すべきであったということになる。

企業側には、不正発覚後下落し続ける株価を下げ止まりさせたいという一心から、意見不表明になっても構わないので、長期化が見込まれる調査が完了する前にいったん過去の有価証券報告書等の訂正をしておきたいという“フライング”へのニーズがあるのことは否定できない。しかし、日本公認会計士協会による本留意事項の公表により、今後は監査人が不正調査完了前の訂正報告書に意見不表明を付す途が断たれた以上、もはや“フライング”は不可能となった。

万が一自社で不正会計が発覚し、調査が長引いた場合、進行期の有価証券報告書や四半期報告書など金融商品取引法上の提出期限が到来したものについては意見不表明でいったんは対応しつつ(上述のとおり、この場合の意見不表明は本留意事項では問題ないとしている)、不正調査完了後にそれらの訂正報告書および過去の有価証券報告書や四半期報告書の訂正報告書を提出するという段取りで進めるしかない。EduLabや五洋インテックスのケースは参考にならないという点、留意したい。

2022/03/03 米国でESG投資が加速している理由

世界中でESG投資が広がる中、その中心を担ってきたのが欧州だ。・・・

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業を選別して行う投資のこと。

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2022/03/03 米国でESG投資が加速している理由(会員限定)

世界中でESG投資が広がる中、その中心を担ってきたのが欧州だ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業を選別して行う投資のこと。

しかし、ここに来て欧州に対し遅れをとってきた米国でもESG投資が本格化している。

機関投資家の代表格である生命保険会社および損害保険会社を対象にした調査によると、米国の生損保280社のうち、投資判断にESG要素を取り入れ始めた時期について「過去2年より前」と回答した生損保は12%に過ぎなかったのに対し、「過去1年以内」との回答が41%、「過去2年以内」との回答が79%に上っている(米国の運用会社Conningの調査結果より)。この結果は、過去1~2年で米国におけるESG投資が大幅に進展していることを示唆している。さらに、ESG要素を投資判断に取り入れていない生損保(9%=100%−12%−79%)の3分の2も、今後12か月以内にESG要素を投資判断に取り入れることを予定しているという。

機関投資家がESG要素を投資判断に取り入れる大きな理由となっているのが、自社のレピュテーションへの影響だ。上記調査でも、生損保280社の92%が、ESG投資に踏み切る動機として、自社のレピュテーションの維持や向上を「重要」または「非常に重要」と回答している(この他の回答としては、「顧客や従業員の関心の高さ」「規制」「競争力強化」など)。ESGというと、これまでは投資を受ける側である企業にとっての“プレッシャー”となってきた。すなわち、ESGに優れた企業でいなければ投資家にソッポを向かれかねないというプレッシャーだ。しかし、この調査結果からは、機関投資家にとっても、ESG投資に消極的であることが自社のレピュテーションを落としかねないとの懸念により、ESGがプレッシャーとなっていることがうかがえる。

欧州に比べ米国でESG投資が進まなかった背景には、ESG投資のリターンや統一性のないESG報告基準等への懸念があった。また、ESG要素を投資判断に加えるには人的リソースをはじめとする追加のリソースが必要になるという課題もあり、これらの懸念・課題はいまだなくなったわけではない。実際、ESG投資を巡っては、「ESG要素と投資パフォーマンスには相関関係がない」「ネガティブスクリーニング(ESGの観点から見て何らかの問題がある企業への投資を避ける手法)を行ったESG投資はむしろパフォーマンスが低い」といった指摘も一部には根強いが(2022年2月1日のニュース「サステナブル経営に対する投資家の本音」参照)、「ESG投資を行っていない」ことに伴うレピュテーションリスクへの懸念が、ESG投資を巡る懸念を上回る時代が到来したと言えそうだ。

2022/03/02 議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意の開示を促す法令改正が行われる可能性

企業にとって経営上重要な契約は投資家にとっても重要であることは言うまでもないが、近年、その開示が十分でないことについて投資家側には不満の声がある。そもそも金融商品取引法(開示府令)では下記のとおり有価証券報告書で「経営上の重要な契約」の開示を求めているにもかかわらず、だ。

第二号様式記載上の注意
(33)経営上の重要な契約等(抄)
a連結会社において事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の経営上の重要な契約を締結している場合には、その概要を記載すること。最近連結会計年度(連結財務諸表を作成していない場合には最近事業年度。以下(33)において同じ。)の開始日から届出書提出日までの間において、これらの契約について重要な変更又は解約があった場合には、その内容を記載すること。
(以下略)

「経営上の重要な契約」には様々なものが考えられるが、投資家が特に問題視しているのは、投資判断や対話において重要となる「企業・株主間の合意に係る重要な契約」である。なかには、契約の相手方が契約書の内容を開示しているにもかかわらず自社の有価証券報告書では開示していない、または開示内容が明確でない企業が見受けられるとの指摘もある。以下、具体的に見てみよう。・・・

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2022/03/02 議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意の開示を促す法令改正が行われる可能性(会員限定)

企業にとって経営上重要な契約は投資家にとっても重要であることは言うまでもないが、近年、その開示が十分でないことについて投資家側には不満の声がある。そもそも金融商品取引法(開示府令)では下記のとおり有価証券報告書で「経営上の重要な契約」の開示を求めているにもかかわらず、だ。

第二号様式記載上の注意
(33)経営上の重要な契約等(抄)
a連結会社において事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の経営上の重要な契約を締結している場合には、その概要を記載すること。最近連結会計年度(連結財務諸表を作成していない場合には最近事業年度。以下(33)において同じ。)の開始日から届出書提出日までの間において、これらの契約について重要な変更又は解約があった場合には、その内容を記載すること。
(以下略)

「経営上の重要な契約」には様々なものが考えられるが、投資家が特に問題視しているのは、投資判断や対話において重要となる「企業・株主間の合意に係る重要な契約」である。なかには、契約の相手方が契約書の内容を開示しているにもかかわらず自社の有価証券報告書では開示していない、または開示内容が明確でない企業が見受けられるとの指摘もある。以下、具体的に見てみよう。

まず「企業・株主間の合意に係る契約」は、下表のとおり、(1)企業のガバナンスに関する合意、(2)株主の保有株式に関する合意の2つに大きく分類されるとともに、全部でおおむね7つの種類がある。

類型 具体例 影響度・重要性
1.企業のガバナンスに関する合意 ①株主が、投資先企業の役員の一定数について、候補者を指名する権利を有する旨の合意 役員候補者の指名権を認めるものであり、ガバナンスへの影響は大きい。
②株主による議決権行使に一定の制限や条件を付す合意 合意の相手方が保有株式数の少ない株主であれば、ガバナンスへの影響は小さい。
一方、アクティビスト株主などとの合意であれば、ガバナンスへの影響は大きい。
③自社の一定の行為について、株主の事前の承諾を条件とする内容の合意 自社の事業展開を縛るものであるため、ガバナンスへの影響は大きい。
ただし、事前に株主との協議を求めるにとどまる場合や、株主への通知を求めるにとどまる場合には、影響はそれほど大きくないことも考えられる。
2.株主の保有株式に関する合意 ④自社の事前の承諾なく、株式の第三者への譲渡その他の処分を行うことを禁止する合意 保有株式の譲渡の禁止・制限、買増しの禁止、保有比率の維持、契約解消時の売渡請求について合意は、いずれも投資家にとっては重要な情報となる。
保有割合5%以上の株主であれば大量保有報告書での開示が求められる一方、有価証券報告書では上場企業の支配の変動に関する重要な情報となる可能性がある。

大量保有報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、金融商品取引法上、株券等の大量保有者に対し提出が義務付けられている書類が大量保有報告書である。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書」または「変更報告書」の提出が求められる。②の場合に提出するのが「変更報告書」である。

⑤株主に対し、一定の出資割合を超えることとなる株式の買増しを禁止する合意
⑥株主が出資比率に応じた株式引受権を有する旨の合意
⑦株主と自社の契約解消時に、自社から株主に対し保有株式の売渡しを請求することができる旨の合意

また、株主・被保有企業間の合意に係る契約の内容を契約の相手方が開示しているにもかかわらず、被保有企業の有価証券報告書での開示がないケースとしては以下のような事例がある。

(1)株主が5%以上の株式を保有している場合には株主によって大量保有報告書が提出され、当該大量保有報告書では保有株券等に関する重要な契約又は取決めが開示されている。一方、被保有企業側の有価証券報告書では何ら開示がされていない。
(2)外国企業と日本企業の間で契約が締結されているケースで、外国企業のみが開示し、日本企業の有価証券報告書には何ら開示がない。または、日本の上場企業同士の契約で、一方の企業の有価証券報告書では重要な契約として開示されているが、もう一方の企業の有価証券報告書では何ら開示がない。

(1)に該当するケースとしては以下のような事例がある。

<株主は大量保有報告書で「資本業務提携契約に含まれる役員候補者指名権に関する合意」の存在を開示している一方、被保有企業の有価証券報告書ではその事実が明確に開示されていない事例>
A社(株主)が提出したB社株券等に係る大量保有報告書 B社(被保有企業)の有価証券報告書
(2)【保有目的】
業務提携強化及び資本提携を目的とした中長期の保有。なお、当社はB社の取締役候補者3名(代表取締役候補者1名を含む。)及び監査役候補者1名を推薦することができる権利を有しており、状況に応じて取締役候補者(代表取締役候補者を含む。)又は監査役候補者の推薦を行います。
4【経営上の重要な契約等】当社は、○年○月○日開催の取締役会において、A社との間で資本業務提携契約並びにA社と○○有限責任事業組合との間で株式引受契約を行うことについて決議し、同日付で資本業務提携契約並びに株式引受契約を締結しました。

(2)に該当するケースとしては以下のような事例がある。

<支配力を有する主要株主である外国企業が開示しているアライアンス契約(議決権行使内容を拘束する合意を含むもの)が、日本の被保有企業有価証券報告書では詳細に開示されていない事例>
外国企業L社(株主)が提出した海外当局への登録書類 日本企業N社(被保有企業)の有価証券報告書
※契約改訂の経緯及び直近の改訂内容を具体的に開示
[契約相手(N社)]
[関係する取締役名]
[契約のタイトル]
(当初の契約締結及びその後の修正の経緯、契約の目的の説明)
(最新の修正に係る議決権拘束合意の内容の説明)
・N社取締役会が株主総会で提案する役員選任、解任及び報酬に係る議案に賛成票を投じる。
・N社株主総会に、N社取締役会が承認しない内容の株主提案をしない。
・N社取締役会が支持していない株主提案に賛成票を投じない。
・L社は自身の判断で投票が可能だが、上記に反する場合、N社はL社取締役会の承認なしにL社株式を買い増すことができる。
※アライアンス契約の内容に関する具体的な開示なし

【経営上の重要な契約等】

契約会社名 相手先 国名 契約の内容 契約年月日
N社 L社 フランス ●●事業に係る提携契約 〇年〇月
・当初契約についてのみ開示(その後の契約内容の改訂には言及なし)
・議決権拘束合意等、具体的な内容の開示なし

企業が締結する契約は、必ずしも双方にとって重要であるとは限らないため、契約の相手方が開示しているからといって、必ずしも自社も開示しなければならないというものではない。ただ、議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意は、一般的には投資家の意思決定に影響を与える重要な事項と考えられる。特に支配権の獲得を目的として投資判断をしようとしている投資家にとっては非常に重要な情報となる。なぜなら、これらの合意は支配権取得の障害となり得るからだ。

金融庁に設置された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループでは現在、「経営上の重要な契約等」の開示について議論が行われているが、上記の問題点を解消するため、一定の議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意について開示を促す開示府令の改正が今後行われる可能性がある。そもそも「経営上の重要な契約」という場合、「経営上の」という部分に重きを置くのではなく、投資家保護の観点から「投資家の投資判断にとっての重要性」こそが重視されるべきと言える。上場企業の経営陣は、議決権行使や株式の譲渡・保有に関する合意が「投資家の投資判断にとっての重要」であるか否かという観点から開示の要否を判断する必要がある。

2022/03/01 (新用語・難解用語)Web3.0(会員限定)

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめとする巨大テック企業がインターネットを通じグローバル規模で経済・社会に大きな影響を与えているが、この現状が大きく変わるかもしれない。

GAFAにある意味で“支配”された現在のインターネット社会は「Web2.0」と位置付けられている。「Web1.0」は1990年代初頭から2000年代初めまでのWeb黎明期を指しており、この時代におけるインターネットは主に文字ベースのシンプルな情報を得るツールに過ぎず、また、コミュニケーションも基本的に情報発信or受信の一方通行に限られていた。これに対しWeb2.0時代には、SNS等の登場により情報発信者と閲覧者の間に双方向性が生まれ、インターネットユーザーは「読む」のみならず自ら書き、発信するようになり、人々のコミュニケーションの取り方、つながり方は大きく変わった。さらに、端末はパソコンからスマート・フォンへの移行が顕著となり、インターネットが日々の生活に欠かせなくなった。これが2000年代中頃から現在まで続くWeb2.0時代だ。

しかし、Web2.0は多くの問題を抱えている。インターネットユーザーは、サービスを利用するたびに個人情報収集に同意しなければならず、その結果、GAFAをはじめとする巨大テック企業に世界中のあらゆる個人情報が独占されている。これは、巨大テック企業が個人を対象にしたビジネスの根幹を握るということでもあり、巨大テック企業以外の企業のビジネス展開をも左右しかねない状況となっている。また、個人は自分が提供した情報の機密性について巨大テック企業を信じる以外に術はないが、実際には情報漏洩は多発している。さらに、巨大テック企業は、個人情報やプライバシーのみならず、言論の自由さえ脅かしかねないパワーを持ち始めている。現実に、トランプ大統領(当時)が SNS のアカウントを凍結される“事件”も発生した。このように、巨大テック企業によって企業活動や個人の生活が左右されているというのが、Web2.0時代の特徴と言える。

こうした中、各国政府はWeb2.0時代に表面化した課題を解決すべく、巨大テック企業に対し個人情報の利用を制限するなど規制強化を図る一方、巨大テック企業側も社会からの批判を受け自主的に対応を進めているが、テクノロジーによって大きくなり過ぎたパワーを制御するには、新たなテクノロジーが必要になる。この新たなテクノロジーの時代がWeb3.0だ。

Web3.0 はまだ生まれたばかりの概念であり、現時点では明確な定義は固まっていないが、ブロック・チェーンをはじめとする分散型のネットワークを基礎とした“非中央集権的”なネットワークによりインターネット上のパワーを均等に分配することで、個人情報などのデータが巨大テックに集中するというWeb2.0 の問題を解消し、巨大テックの支配力を奪うものと言える。Web3.0 の特徴として、①オープン(オープン・ソースで開発され、データ・取引履歴等は全てブロック・チェーン上に記録される)、②トラストレス(信頼できる仲介者(Web2.0時代における巨大テック企業)を介さずに参加者が直接対話できるネットワーク)、③パーミッションレス(管理者の許可(パーミッション)なく、誰でもネットワークにアクセスできる)、の3つが挙げられる。

ブロック・チェーン : 参加者の中に不正を働く者や正常に動作しない者がいたとしても正しい取引ができ、改ざんが非常に困難で、停止しない、多数の参加者に同一のデータを分散保持させる仕組み。
オープン・ソース : ソフトウェアを構成しているプログラムであるソース・コードを無償で一般公開すること。これにより、誰でもそのソフトウェアの改良や再配布が行なえるようになる。

今後Web3.0が進展していくためには、エッジ・コンピューティング分散型データ構造、AI がコア技術として必須となる。AIがビッグ・データ化したデータの解析を繰り返すことにより、個々人に適したコンテンツのパーソナライズや推奨への応用が進むことが考えられる。ブロック・チェーンや AI などが牽引する Web3.0 の進展によりデータの中央集権性が解消され、個人情報・プライバシーの保護が飛躍的に進むことで、巨大テック企業によるデータの独占は終焉を迎える可能性があろう。

エッジ・コンピューティング : クラウドにデータを送らず、IoT 端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバーで、データ処理・分析を行う分散コンピューティング概念。リアルタイム性と安全性が高く、負荷が分散されることで通信の遅延も起こりにくいという特⾧も持つ。
分散型データ構造 : ブロック・チェーンなどのテクノロジーの台頭により可能となる、分散型でオープン、そして管理者が存在しないインターネット・フレームワークのこと。分散型データ構造の下では、個人情報は、ユーザー個人によって分散管理され、中央集権化は解消される。また、中央のサーバーを狙ったハッキングは不可能になり、データベースの複製をネットワーク全体に分散配置することによってシステムへのハッキングやデータ改ざんを極めて困難にする。

2022/02/28 2022年2月度チェックテスト

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【問題1】

取締役の「スキル等の組み合わせ」の情報は、招集通知よりもコーポレート・ガバナンス報告書に記載する方が株主にとっての有用性は高い。


正しい
間違い
【問題2】

ESGファンドの運用コストは一般的に高いと言われている。


正しい
間違い
【問題3】

コーポレート・ガバナンス報告書における「中核人材における測定可能な目標」(補充原則2-4①)の開示にあたり、女性管理職についてはシンプルに「女性活躍推進法に基づく行動計画」のURLのみを記載するのが投資家にとっては利便性が高いと言える。

正しい
間違い
【問題4】

カスハラ(カスタマーハラスメント)防止措置を講じることは、パワハラ防止措置やセクハラ防止措置とは異なり、事業主の法律上の義務とはされていない。


正しい
間違い
【問題5】

2021年12月末時点において東京証券取引所の一部上場企業でコンプライ率がもっとも低いコーポレートガバナンス・コードの原則は補充原則4-2②の「サステナビリティ基本方針の策定」であった。


正しい
間違い
【問題6】

賃上げ税制の適用を受けるためには「賃上げ宣言」に加えて「パートナーシップ構築宣言」の表明も求められるようになる方向である。


正しい
間違い
【問題7】

役員に役員持株会への加入を義務化する代わりに、株式取得資金を月額報酬に上乗せして支給することは、日本証券業協会が公表している「持株制度に関するガイドライン」が規定している「奨励金等の禁止」に該当するため、認められない。


正しい
間違い
【問題8】

監査報告書でKAMが開示されるようになったことについて証券アナリストはプラスの評価をしていると言える。


正しい
間違い
【問題9】

上場会社の中には、親会社があるにもかかわらず議案の議決権行使率が10%台にとどまり定足数に達しないことから、定足数を必要とする議案を可決できないところもある。


正しい
間違い
【問題10】

社外取締役に「将来の幹部候補となる執行役員や従業員への教育」といった役割を担わすべきではない。


正しい
間違い

2022/02/28 2022年2月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
社外取締役の本来のミッションは独立した立場から執行側を監督することにあります。社外取締役の時間的なリソースに限りがある中、アウトソーシング社のように社外取締役に「将来の幹部候補となる執行役員や従業員に対する教育」といった役割も担わすことは、本来のミッションへのコミットメントが下がる可能性が“大”と言え、適切ではありません(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2022年2月25日 【失敗学第93回】アウトソーシングの事例(会員限定)

2022/02/28 2022年2月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
社外取締役の本来のミッションは独立した立場から執行側を監督することにあります。社外取締役の時間的なリソースに限りがある中、アウトソーシング社のように社外取締役に「将来の幹部候補となる執行役員や従業員に対する教育」といった役割も担わすことは、本来のミッションへのコミットメントが下がる可能性が“大”と言え、適切ではありません(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2022年2月25日 【失敗学第93回】アウトソーシングの事例(会員限定)