概要
人材派遣業を営むアウトソーシング(東証一部)で、長年にわたり、「レガシー」と称する粉飾決算が組織的恒常的に行われていた(2020年12月期は1,576百万円の売上過大)。
経緯
アウトソーシングが2021年12月28日に公表した「外部調査委員会の報告書」などによると、一連の経緯は次のとおり。
2013年
アウトソーシングでは、遅くともこの頃から、「レガシー」と称する粉飾決算(詳細は下記の「内容・原因・改善策」を参照)を組織的に行っていた。
2021年
2月:アウトソーシングの子会社であるアウトソーシングテクノロジーの子会社(アウトソーシングから見て孫会社)のアネブルなどで、本稿で取り上げるのとは別の不適切な会計処理(前渡金を用いた外注費の先送り)が発覚した。
9月8日:アウトソーシングの会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、「アネブルには、2月に明らかになった不適切な会計処理とは別の不適切な会計処理があるが、そのことをアウトソーシングテクノロジーの内部監査室が隠蔽している疑いがある」旨を指摘する内部告発文書を受領する。
9月9日:アウトソーシングテクノロジーの監査等委員会は、会計監査人から、内部告発文書を受領したことの共有を受けるとともに、調査対応の要請を受ける。
9月10日:アウトソーシングの内部監査室は、アウトソーシングテクノロジーの監査等委員会からの要請を受け、本件疑義についての調査を実施することとなった。
9月29日:アウトソーシングの内部監査室による調査の結果、本件疑義につき確度が高いことが判明したため、アウトソーシングの取締役会は外部調査委員会の設置を決議した。
12月28日:アウトソーシングは、外部調査委員会の調査の結果、粉飾決算は孫会社のアネブルだけにとどまらず親会社や他の子会社でも行われていたことが判明したとして、「外部調査委員会の報告書」を公表した。
2022年
1月14日:アウトソーシングは、外部調査委員会の調査結果を受け、過年度の有価証券報告書等および決算短信等の訂正を公表した。
2月1日:アウトソーシングは、粉飾決算の関与者の処分と組織変更および人事異動による権限の見直し(一部は3月中に実施)を公表した。
2月22日:東京証券取引所はアウトソーシングに対して「改善報告書」を提出するよう請求した。
内容・原因・改善策
アウトソーシングが2021年12月28日に公表した「外部調査委員会の報告書」によると、調査委員会の調査により判明した事実のうち主なものならびにその原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。
| 内容 | アウトソーシンググループでは、親会社および一部の子会社で「レガシー」と称する粉飾決算を組織的に行っていた。
レガシーには、主として次の2つの手法があった。 親会社では専務取締役の指示に基づき、事業管理部担当者が製造・サービス統括本部の各部署の責任者に対してレガシー案の策定を要請していた。 また、粉飾の内容は「レガシー早見表」に集計され、組織的に管理されていた。 その他、受注損失引当金の計上回避、減損損失の計上回避、費用処理すべきソフトウェアについてソフトウェア仮勘定に据え置くなどさまざまな方法により利益のかさ上げが図られていた。 |
| 原因 | 動機 ・アウトソーシングでは右肩上がりの成長への固執があったが、足元では業績不振となっており、それを解消させなければならないという経営陣のプレッシャーもあった。また、2018 年6月から子会社のアウトソーシングテクノロジーの株式の上場(子会社上場)を検討しており、アウトソーシングテクノロジーの営業利益も水増しさせるインセンティブがあった。一方で、アウトソーシングテクノロジーがアウトソーシンググループの中核的な子会社(親会社グループの収益、経営資源の概ね半分を超える子会社など)として扱われると子会社上場が難しくなるために、アウトソーシングテクノロジー以外の営業利益も水増しさせるインセンティブがあった。 ・アウトソーシングの専務取締役が率先してアウトソーシングでの不適切な会計処理に関与しており、社内で不適切な会計処理を行うことが常態化し、こうした処理に異議を唱える者も現れなかった。その結果として、アウトソーシングにおいて内部統制が無効化された。 正当化 機会 |
| 改善策 | ・実現可能な事業計画・予算の策定 ・関与者の責任の明確化 ・コーポレート・ガバナンス体制・組織体制の再構築 (1)管理体制強化による適切な権限配分の実現 (2)取締役会による監督機能の強化 (3)経理部門の人員拡充・良質な人材の確保 ・内部統制部門の強化(子会社管理) (1)管理部門の人員拡充・良質な人材の確保 (2)内部監査体制の見直し (3)監査等委員会による内部統制機能の強化 ・内部通報制度の実効性確保 ・会計処理に係る社内ルールや経理会計システムの見直し ・コンプライアンス意識の改革、再発防止策の徹底 |
<この失敗から学ぶべきこと>
アウトソーシングには、創業者であり筆頭株主である現代表取締役社長の強いリーダーシップの下、右肩上がりの成長を強く求める経営方針により会社を大きく成長させてきたという歴史があります。それだけに、右肩上がりの成長を強く求める考え方が事業部門の役職員に浸透しており、それがレガシーと称する粉飾決算の蔓延につながったものと思われます。
また、アウトソーシングでは子会社のアウトソーシングテクノロジーを子会社上場させようとしましたが、2018年12月期におけるアウトソーシンググループの営業利益15,073百万円のうち、アウトソーシングテクノロジーの事業だけで約半分(7,267百万円)を占めており、アウトソーシングテクノロジーが中核的な子会社に該当するような状況にありました。このように上場会社である親会社から見て中核的な子会社に該当する子会社の株式は上場が難しいことから、2018年以降において、アウトソーシンググループ全体の営業利益を水増しして、アウトソーシングテクノロジーの利益のグループ全体の利益に対する寄与率を下げるべく、不適切な会計処理が容認されていました。つまり、数字をゆがめてでも子会社上場をさせるという間違ったミッションのもと、粉飾決算が蔓延していったことになります。またに、親会社と実質的に一体の子会社の上場については、東京証券取引所等より、「慎重に判断していく」という考え方が示されていることから、アウトソーシングとアウトソーシングテクノロジーの双方で監査等委員に就任していた者は、アウトソーシングテクノロジーが「親会社と実質的に一体の子会社」とならないよう、アウトソーシングテクノロジーの監査等委員としての積極的な監査業務は控えていました。「親会社と実質的に一体の子会社」とならないようにするのであれば、そもそもアウトソーシングテクノロジーの監査等委員に就任すべきではなかったと言えます。
今回の粉飾決算の発覚の発端は、内部通報制度の利用ではなく、会計監査人である有限責任監査法人トーマツへの通報でした。会計監査人への通報は社内の内部通報制度が信頼されていないことの裏返しとも言えます。実際に、外部調査委員会による調査において、従業員の中には、通報により不利益な取扱いを受けることを懸念し、内部通報制度の利用を躊躇する者も存在していたとのことです。内部通報制度の利用が少ない会社では、周知の徹底に加えて、信頼性の向上にも余地がないか検討した方が良いと言えます。
外部調査委員会による調査結果によると、アウトソーシングでは、社外取締役に対して将来の幹部候補となる執行役員や従業員に対する教育といった役割を求めていたとのことですが、そもそもただでさえ日常的なコミットメントが期待できない社外取締役に執行役員や従業員への「教育」の役割を求めるのは理解に苦しみます。経営陣への教育プログラムは別途用意して、社外取締役には本来の「業務執行取締役の職務執行の監督」にリソースを割いてもらうべきですし、仮に「教育」を期待される方であれば、社外取締役ではなく、顧問に就任してもらい、「知見の披露」と依頼すべきです。また、アウトソーシングでは、毎月の各セグメントの予算の達成状況の報告や未達見込みの場合の方策の検討といった「アクセル」に関する議論が中心であり、会計・経理に関する問題をはじめとする「ブレーキ」に関する議論はほとんどなされていませんでした。その原因として、在任期間が長期にわたる社外取締役が複数在任しているなど、執行側との関係性が近く、実質的に独立性が低いとも評価され得る独立社外取締役が散見されたとのことです。上場会社の指名委員会では、社外取締役の取締役会での発言内容が独立性の高い発言なのかどうか確認して、もし「名ばかり社外取締役」に該当するのであれば、次の株主総会では入替を図るようにすべきです。
