2022/02/17 株式取得資金は「奨励金」に該当するか?

多くの上場会社が株式報酬を導入する中、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給している上場会社が少なからず存在することは、2021年9月7日のニュース『「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由』でお伝えしたとおりだ。

簡潔におさらいすると、株式取得資金とは、役員に役員持株会への加入を義務化する代わりに、株式の購入資金を月額報酬に上乗せして支給するものであり、複雑なスキームが少なくない株式報酬に比べ“分かりやすさ”という点で大きなメリットがある。

もっとも、役員持株会を通じた定時定額の株式の取得がインサイダー取引規制の対象外となるには株式購入金額の上限が「月額100万円未満」である必要があり、最大でも年間1,200万円にとどまることから、株式取得資金だけではインセンティブとして十分ではないとして、株式報酬を併用している上場会社もある。

ただ、この株式購入資金の導入に際して懸念の声が聞かれるのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/02/17 株式取得資金は「奨励金」に該当するか?(会員限定)

多くの上場会社が株式報酬を導入する中、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給している上場会社が少なからず存在することは、2021年9月7日のニュース『「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由』でお伝えしたとおりだ。

簡潔におさらいすると、株式取得資金とは、役員に役員持株会への加入を義務化する代わりに、株式の購入資金を月額報酬に上乗せして支給するものであり、複雑なスキームが少なくない株式報酬に比べ“分かりやすさ”という点で大きなメリットがある。

もっとも、役員持株会を通じた定時定額の株式の取得がインサイダー取引規制の対象外となるには株式購入金額の上限が「月額100万円未満」である必要があり、最大でも年間1,200万円にとどまることから、株式取得資金だけではインセンティブとして十分ではないとして、株式報酬を併用している上場会社もある。

ただ、この株式購入資金の導入に際して懸念の声が聞かれるのが、株式取得資金を一種の「手当」と考えた場合、日本証券業協会が公表している「持株制度に関するガイドライン」が規定している「奨励金等の禁止」に該当するのではないか、という点だ。

同ガイドラインでは、従業員持株会については下記のとおり奨励金の付与を認めている。

6ページ下部~参照
9.奨励金 ⑴ 奨励金の付与
実施会社は、会員に対し、福利厚生制度の一環として取り扱われる範囲内において、定時拠出金に関して一定比率を乗じた額又は一定額の奨励金を付与することができるものとする。
以下略

一方、役員持株会については、奨励金の付与を明確に禁止している。これは、会社法上の忠実義務違反を惹起する恐れがあるからだ。

忠実義務 : 取締役には、会社との委任関係に基づいて「善良な管理者の注意をもって職務を遂行する義務」である善管注意義務(会社法330条、民法644条)と、「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行なう義務」である忠実義務(会社法355条)がある。この忠実義務と善管注意義務の関係を説明する学説は諸説あるが、忠実義務とは「善管注意義務を明確化したもの」と考えればよい。取締役は会社に対して善管注意義務を怠って会社に損害が生じた場合には、これを賠償する責任を負うことになる(会社法423条1項)。

14ページ参照
7.奨励金等の禁止
実施会社は、会員に対して奨励金及び事務委託料の経済的援助を与えてならないものとする。

しかし、株式購入資金は一旦役員に金銭により報酬を支給し、(支給時に)支給額が給与所得課税の対象とされた(=所得税の課税関係が完結した)後の手取りで株式購入を義務付けるものであるため、取引としては単に「役員個人」が自社の株式を購入しているにすぎない。

従業員に支給する奨励金も所得には変わりがないため、当然所得税がかかる。ただ、実務上は、奨励金と同額の価値の「株式」を上乗せして保有させるのが通常となっている。すわち、500円部分については、従業員の持株会加入意思を契機として、会社が追加的に「会社の計算で」株式を購入して従業員に持たせているということであり、課税はその枠外で従業員の持ち出しとなっている。例えば「手取りから毎月1万円を持株会に拠出すれば5%の奨励金を支給する」という場合には、従業員の毎月の株式買い付け額は10,500円となる。500円部分に対する所得税は従業員が元々の給料の中から追加的に支払うことになる。

従業員に支給する奨励金にも、本質的には利益供与や会社の不当支配という懸念がないわけではないが、それにもかかわらず支給が可能とされているのは、従業員持株会の奨励金はあくまで「福利厚生目的」という位置付けの下で行われるため。奨励金のボリュームなどについて一定のガイドラインを置くことで、上記懸念にあたらないと整理されていることによる。

株式購入資金については、その支給と株式購入は全く別の「会社―役員間」の取引にすぎず、従業員持株会の奨励金とは構造が異なる。また、そもそも会社と役員は委任契約関係にあるため、役員については労働基準法上の福利厚生という概念がなく、「会社の計算で株式を上乗せして購入する」こと自体が考えにくい。結論として、役員に支給する株式購入資金は「奨励金」には該当せず、持株制度に関するガイドラインにおける「奨励金等の禁止」規定にも抵触しないということになる。

2022/02/16 企業が頭を悩ませる「賃上げ」を宣言する時期

既報のとおり、令和4年度(2022度)税制改正には、岸田総理が掲げる「成長と分配」政策の柱である“賃上げ税制”が盛り込まれたところだ(賃上げ税制の詳細は2021年12月13日のニュース「パートナーシップ構築宣言と賃上げ宣言の違い」参照)。本来、賃上げは企業の経営判断によるものであり、賃上げ税制の適用を受けるかどうかもあくまで企業の任意とされているが、今回は「賃上げ」に対する政府側のプレッシャーはかなり強いと言える。

それを示すのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/02/16 企業が頭を悩ませる「賃上げ」を宣言する時期(会員限定)

既報のとおり、令和4年度(2022度)税制改正には、岸田総理が掲げる「成長と分配」政策の柱である“賃上げ税制”が盛り込まれたところだ(賃上げ税制の詳細は2021年12月13日のニュース「パートナーシップ構築宣言と賃上げ宣言の違い」参照)。本来、賃上げは企業の経営判断によるものであり、賃上げ税制の適用を受けるかどうかもあくまで企業の任意とされているが、今回は「賃上げ」に対する政府側のプレッシャーはかなり強いと言える。

それを示すのが、大企業が賃上げ税制の適用を受ける場合には、“賃上げ宣言”の公表が求められるという点だ。ここでいう大企業とは、「資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上」の企業を指す。これらの企業は、賃上げ宣言として「給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表」し、さらにそれを経済産業大臣に届け出なければ賃上げ税制の適用を受けることができない(令和4年度税制改正正大綱の47ページ参照)。

つまり、ある企業が賃上げをしているか、賃上げに前向きであるかどうかは、賃上げ宣言を自社サイト等で公表しているかどうかにより一目瞭然となる。こうした中、企業の頭を悩ませているのが、賃上げ宣言を「いつ」するべきかという点だ。

賃上げ宣言は賃上げ税制の適用要件となっている以上、遅くとも同税制の適用を受けるまで、つまり期末後の確定申告期限までには宣言することが求められることになるだろう。場合によってはもっと早まる可能性もある。この点は3月末に公表される財務省の政省令によって明確になるはずだ。

ただ、賃上げ税制は岸田政権の目玉政策であることからマスメディアの注目度も高く、賃上げ宣言を打ち出す企業が出てくれば「賃上げ宣言第一号」などと報道される可能性が高い。場合によっては、ランキング形式での報道も考えられる。逆に言うと、いつまでも賃上げ宣言をしない企業も目に付きやすいということになる。業績の状況をギリギリまで見極めなければ賃上げ宣言もしづらいというのが企業側の本音だろうが、採用活動などへの影響を考えても、前倒しで宣言できるのであればそれに越したことはない。

また、上記のとおり、賃上げ宣言では「取引先との適切な関係の構築の方針」の公表が求められるが、賃上げ税制の適用を受けるためには「パートナーシップ構築宣言」も求められる方向であることが当フォーラムの取材により判明している。現状、パートナーシップ宣言をしているのは「発注される側」の中小企業が圧倒的に多いという状況となっているが、賃上げ税制の利用を考えている企業はこちらの宣言も検討したいところだ。

なお、賃上げ宣言の正式名称は「マルチステークホルダー宣言」となる。賃上げ税制の適用を受けることを考えている企業は、マルチステークホルダー宣言およびパートナーシップ構築宣言の記載内容の検討を始めておきたい。

2022/02/15 コンプライ率の低い原則、低下した原則ランキング

東京証券取引所が2022年1月26日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)」(以下、東証資料)では、主に改訂・新設された原則におけるコンプライ率、および特に注目度の高い原則(補充原則4-11①補充原則2-4①補充原則3-1③)の記載内容について分析を行っている(東証資料に関する記事は、2022年2月3日のニュース『「スキル等の組み合わせ」開示、様子見企業相次ぎコンプライ率が大幅低下』、2022年2月8日のニュース『中核人材、「測定可能な目標」と「その状況」の開示実態』参照)。

一方で、特段の改訂がなかったものを含む全83原則の情報については、末尾に参考資料として「全原則のコンプライ状況(2021年12月末時点)」の一覧表が掲載されているのみとなっているが、当フォーラムでは同表のデータを分析、2021年12月末時点におけるコーポレートガバナンス・コード対応の全体像をレポートする。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/02/15 コンプライ率の低い原則、低下した原則ランキング(会員限定)

東京証券取引所が2022年1月26日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)」(以下、東証資料)では、主に改訂・新設された原則におけるコンプライ率、および特に注目度の高い原則(補充原則4-11①補充原則2-4①補充原則3-1③)の記載内容について分析を行っている(東証資料に関する記事は、2022年2月3日のニュース『「スキル等の組み合わせ」開示、様子見企業相次ぎコンプライ率が大幅低下』、2022年2月8日のニュース『中核人材、「測定可能な目標」と「その状況」の開示実態』参照)。

一方で、特段の改訂がなかったものを含む全83原則の情報については、末尾に参考資料として「全原則のコンプライ状況(2021年12月末時点)」の一覧表が掲載されているのみとなっているが、当フォーラムでは同表のデータを分析、2021年12月末時点におけるコーポレートガバナンス・コード対応の全体像をレポートする。

コンプライ率の低い原則(市場第一部)
原則 コンプライ率 2020年8月比
【改訂】1-2④電子行使/英訳 63.5% +7.17pt
【新設】3-1③サステナビリティ開示 66.2%
【新設】2-4①中核人材の多様性 66.8%
【改訂】4-11①取締役会に求めるスキル 71.1% -25.79pt
【新設】4-8③被支配会社の利益相反 71.9%
【改訂】4-10①任意の諮問委員会等 74.2% +10.85pt
4-1③後継者計画 76.6% +3.61pt
【新設】4-2②サステナビリティ基本方針 78.8%
【改訂】4-11取締役会の実効性確保 79.2% +3.04pt
【改訂】3-1②英語の情報開示 80.1% +0.41pt

ワースト10のうち9つを改訂・新設された原則が占めた。最もコンプライ率が低かったのは補充原則1-2④(電子行使/英訳)だが、前回調査からは7ポイントの改善となっている。議決権行使プラットフォームの利用および株主総会招集通知の英訳が進んだということだろう。同原則は、プライム市場上場会社に向けて議決権行使プラットフォームを「利用可能とすべき」としていることから、2022年4月4日以降に開催される株主総会を待たずにプラットフォームに参加して同原則をコンプライとしたプライム市場上場会社が少なからずあったことが想定される。

次いで補充原則3-1③のコンプライ率が低かった理由としては、サステナビリティへの取り組みや人的資源・知的財産への投資について「戦略として策定中」などとしているケースが目に付いたほか、同原則がプライム市場上場会社に求めるTCFD の枠組みに沿った気候変動に関する情報開示に現時点では対応できないことから、2022年4月4日以降に開催される株主総会を待たずにエクスプレインとしたケースが少なからずあったことが挙げられらる。補充原則4-11①については、既報のとおりスキル・マトリックスの開示を控えたことがコンプライ率の大幅な低下につながったものと推測される(2022年2月3日のニュース『「スキル等の組み合わせ」開示、様子見企業相次ぎコンプライ率が大幅低下』参照)。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

コンプライ率が低下した原則
原則 2020年8月比 コンプライ率
【改訂】4-11①取締役会に求めるスキル -25.79pt 71.13%
【改訂】2-3①サステナビリティ課題対応 -5.96pt 93.86%
【改訂】4-8独立社外取締役の人数・割合 -3.05pt 92.03%
【改訂】4-13③内部監査部門の連携 -0.92pt 99.08%
2-3サステナビリティ課題 -0.82pt 98.95%
【改訂】5-1①対話における面談者 -0.69pt 99.22%

やはり改訂された原則のコンプライ率低下が目に付いた。スキル・マトリックスに関する補充原則4-11①の低下率が最大となったが、このほか、「サステナビリティ課題」が詳細に例示され、かつ収益機会につながる経営課題と位置付けられた補充原則2-3①、プライム市場上場会社に対し独立社外取締役3分の1を選任すべきとした原則4-8は2021年12月末までの対応が難しく、エクスプレインが増加した模様だ。

コンプライ率の低い原則(プライム市場)
原則 コンプライ率 市場第一部
【新設】3-1③サステナビリティ開示 66.70% 66.18%
【改訂】1-2④電子行使/英訳 69.97% 63.47%
【新設】2-4①中核人材の多様性 70.02% 66.82%
【改訂】4-11①取締役会に求めるスキル 73.07% 71.13%
【新設】4-8③被支配会社の利益相反 73.37% 71.86%
【改訂】4-10①任意の諮問委員会等 77.75% 74.15%
4-1③後継者計画 78.40% 76.58%
【新設】4-2②サステナビリティ基本方針 80.25% 78.83%
【改訂】4-11取締役会の実効性確保 81.39% 79.24%
【新設】5-2①ポートフォリオ基本方針 83.79% 81.62%

プライム市場上場予定会社におけるコンプライ率が低い原則は市場第一部上場会社のそれと大きく変わらないものの、いずれの原則についてもプライム市場上場予定会社のコンプライ率が若干高くなっている。「より高いガバナンス水準を備え」るべきとの同市場コンセプトを踏まえれば当然とも言えるだろう。

もっとも、「より高いガバナンス水準」を備えるためには、単にコンプライするだけではなく、「どのようにコンプライしたのか」、その実効性が問われる。場合によっては、あえてエクスプレインとし、今後の取り組み等を丁寧に説明した方が望ましいこともあろう。今後はコンプライ率の推移のみならず、各社のエクスプレインの内容と、実際にそれを実行してコンプライに転じたのか否かにも投資家の視線が向けられることになろう。

2022/02/14 人的資本に関する“任意開示”の指針も6月に公表へ

周知のとおり、金融庁に設置された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、人的資本への投資に関する開示について議論が行われており、議論の結果を踏まえ、近い将来、有価証券報告書において新たに人的資本への投資に関する開示が義務化されることになる。

その一方で、「人材の価値」について開示の指針を作るため、内閣官房が2月に専門会議を設置する・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/02/14 人的資本に関する“任意開示”の指針も6月に公表へ(会員限定)

周知のとおり、金融庁に設置された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、人的資本への投資に関する開示について議論が行われており、議論の結果を踏まえ、近い将来、有価証券報告書において新たに人的資本への投資に関する開示が義務化されることになる。

その一方で、「人材の価値」について開示の指針を作るため、内閣官房が2月に専門会議を設置するとの新聞報道があり(2月2日・日本経済新聞朝刊一面)、企業からは、ディスクロージャーワーキング・グループの議論との関係について疑問の声が聞かれる。

この記事の背景には、2月1日に政府の「新しい資本主義実現会議」の下に「非財務情報可視化研究会」が設置されたことがある。非財務情報可視化研究会・第1回の資料3の本文の最初のページには、岸田総理の文芸春秋2月号への寄稿の抜粋が掲載されており、そこには下記の記述がある。ちなみに、この寄稿は今年(2022年)6月までの政府の全ての施策の“教典”となっている。

法的な枠組みの整備だけでなく、個々の企業が自分の判断で開示する場合も含めて、人的資本の価値を評価する方法についても、各企業が参考になるよう、専門家に研究いただき、今夏には、参考指針をまとめていただきたいと思います。

ここでいう「法的な枠組みの整備」とは、ディスクロージャーワーキング・グループで検討されている有価証券報告書における人的資本への投資に関する開示を指す。「法的な枠組みの整備だけでなく」との前置きからも分かるように、研究会の主眼は任意開示にある。

研究会で具体的に検討されることになるのが、開示の指針(企業の成長戦略と無形資産投資の関連付けや、財務情報と非財務情報の統合性を向上させるために参考となる指針)や、企業による人的投資を見える化し、投資家やステークホルダーとの意思疎通を促すための「指標」や「KPI」などだ(資料2「論点(案)」の下から2番目の「・」参照)。また、論点(案)の下から三番目の「・」には、「例えば、金融商品取引法上の有価証券報告書における非財務情報の開示充実を前提としたときに、企業はどのように開示に取り組むべきか」とあり、ここでの議論の結果は、ディスクロージャーワーキング・グループにもフィードバックされることになる模様。「論点(案)」の下から2番目の「・」は任意開示にフォーカスしたものとはいえ、法定開示である有価証券報告書の記載においても参考になるのは間違いない。

当フォーラムの取材によると、新しい資本主義実現会議は6月に「取りまとめ」を公表することから、ディスクロージャーワーキング・グループ、非財務情報可視化研究会ともこのタイミングに合わせ、それぞれ結論の取りまとめを予定しているという。非財務情報開示に関する政府の方針が固まれば、企業に対する非財務開示のプレッシャーも高まることになりそうだ。

2022/02/11 今やセクハラを上回るハラスメントに 「カスハラ」への対応策

セクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)など、ハラスメントの種類は多岐にわたるが、主に企業の顧客対応部門で起こるハラスメントが「カスハラ」(カスタマーハラスメント)だ。厚生労働省が2021年4月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、カスハラを一度以上経験した者の割合はセクハラを上回っており(16ページ参照)」、パワハラには及ばないものの、実はカスハラも主要なハラスメント類型であることが分かる。

パワハラやセクハラは、ハラスメントに対する社会的な問題意識の高まりとともに、ハラスメントを防止するための取り組みが功を奏し、以前に比べると生じにくい環境になってきているのに対し、カスハラ防止に向けた取り組みはまだまだ十分ではないのが現状だ。その背景には、①カスハラにおいては雇用関係にない外部の顧客が加害者となるため、未然防止策やハラスメント行為者に対する直接的な措置を行いづらいことに加え、②法律上、カスハラ対策の防止措置は、セクハラやパワハラの防止措置と異なり、事業主の義務ではない()ため、企業にとって対応の優先度が低いままとなっていること、③日本企業に多く見受けられる過度な顧客第一主義がカスハラを助長させている面があること、④カスハラは発生が特定の部署に偏りがちで、企業内でもカスハラへの問題意識に温度差があること、などがある。

 2020年6月より改正労働施策総合推進法が施行され、職場におけるパワハラ防止措置が事業主の義務になった(中小事業主は2022年4⽉1⽇から義務化)。パワハラ防止措置については、【2019年12月の課題】パワハラ防止策を参照。また、男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラの防止措置を講じることを同法11条で事業主に義務付けており、さらに同条の改正により、セクハラ防止対策について事業主に相談したこと等を理由とする不利益扱いの禁止や自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応の定めが追加された(施行は2020年6月)。一方、カスハラ防止措置は事業主の義務にはなっていない。

実際、上記厚生労働省の調査でも、顧客等からの著しい迷惑行為に対する取り組みとして実施していることは「特にない」と回答した企業が最も多く、57.3%にも上っている(11ページ参照)。業種別にみると、「医療、福祉」「金融業、保険業」「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」などで取り組みが進んでいるものの、「製造業」「建設業」「運輸業、郵便業」などでの取り組みが遅れていることが分かる(50ページ参照)。

カスハラは、店舗や顧客対応窓口の担当者のメンタルに悪影響を及ぼすとともに、モチベーションの低下、人材の流出につながりかねないため、カスハラを防止する仕組みの構築は企業に課せられた従業員の安全配慮義務の一つと言える。また、従業員の離職に伴う従業員の新規採用・教育コスト、顧客からの慰謝料要求への対応、代替品の提供等による経済的損失、来店する他の顧客にとっての利用環境・雰囲気の悪化、業務遅延を考慮すると、カスハラが企業に与える影響は決して小さくない。そこで厚生労働省は、2020年6月に厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表し、事業主は、雇用管理上の配慮として、労働者が他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取り組み(マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取り組み)を行うことを促している。

安全配慮義務 : 労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務(労働契約法5条)

現状ではカスハラへの取り組みが十分でないという企業にとって参考になるのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/02/11 今やセクハラを上回るハラスメントに 「カスハラ」への対応策(会員限定)

セクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)など、ハラスメントの種類は多岐にわたるが、主に企業の顧客対応部門で起こるハラスメントが「カスハラ」(カスタマーハラスメント)だ。厚生労働省が2021年4月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、カスハラを一度以上経験した者の割合はセクハラを上回っており(16ページ参照)」、パワハラには及ばないものの、実はカスハラも主要なハラスメント類型であることが分かる。

パワハラやセクハラは、ハラスメントに対する社会的な問題意識の高まりとともに、ハラスメントを防止するための取り組みが功を奏し、以前に比べると生じにくい環境になってきているのに対し、カスハラ防止に向けた取り組みはまだまだ十分ではないのが現状だ。その背景には、①カスハラにおいては雇用関係にない外部の顧客が加害者となるため、未然防止策やハラスメント行為者に対する直接的な措置を行いづらいことに加え、②法律上、カスハラ対策の防止措置は、セクハラやパワハラの防止措置と異なり、事業主の義務ではない()ため、企業にとって対応の優先度が低いままとなっていること、③日本企業に多く見受けられる過度な顧客第一主義がカスハラを助長させている面があること、④カスハラは発生が特定の部署に偏りがちで、企業内でもカスハラへの問題意識に温度差があること、などがある。

 2020年6月より改正労働施策総合推進法が施行され、職場におけるパワハラ防止措置が事業主の義務になった(中小事業主は2022年4⽉1⽇から義務化)。パワハラ防止措置については、【2019年12月の課題】パワハラ防止策を参照。また、男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラの防止措置を講じることを同法11条で事業主に義務付けており、さらに同条の改正により、セクハラ防止対策について事業主に相談したこと等を理由とする不利益扱いの禁止や自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応の定めが追加された(施行は2020年6月)。一方、カスハラ防止措置は事業主の義務にはなっていない。

実際、上記厚生労働省の調査でも、顧客等からの著しい迷惑行為に対する取り組みとして実施していることは「特にない」と回答した企業が最も多く、57.3%にも上っている(11ページ参照)。業種別にみると、「医療、福祉」「金融業、保険業」「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」などで取り組みが進んでいるものの、「製造業」「建設業」「運輸業、郵便業」などでの取り組みが遅れていることが分かる(50ページ参照)。

カスハラは、店舗や顧客対応窓口の担当者のメンタルに悪影響を及ぼすとともに、モチベーションの低下、人材の流出につながりかねないため、カスハラを防止する仕組みの構築は企業に課せられた従業員の安全配慮義務の一つと言える。また、従業員の離職に伴う従業員の新規採用・教育コスト、顧客からの慰謝料要求への対応、代替品の提供等による経済的損失、来店する他の顧客にとっての利用環境・雰囲気の悪化、業務遅延を考慮すると、カスハラが企業に与える影響は決して小さくない。そこで厚生労働省は、2020年6月に厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表し、事業主は、雇用管理上の配慮として、労働者が他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取り組み(マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取り組み)を行うことを促している。

安全配慮義務 : 労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務(労働契約法5条)

現状ではカスハラへの取り組みが十分でないという企業にとって参考になるのが、厚労省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会が策定中の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」だ。同マニュアルの確定版は2022年3月までに公表予定とされているが、現在でもドラフト版を厚労省のサイトで閲覧できる。

カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(以下、マニュアル)では、従来定まっていなかったカスハラの定義がようやく公に示されることとなった。これによると、カスハラとは「顧客等からの著しい迷惑行為」のことであり、単なるクレームと異なり、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されている(厚生労働省マニュアル7ページ参照)。定義が定まったことで、社会や企業によるカスハラへの理解も進みそうだ。

さらに、マニュアルでは、企業が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策として、事前(カスタマーハラスメントの発生を想定した事前の準備)と事後(カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応)に分け、次のような具体例を示している。

事前(カスタマーハラスメントの発生を想定した事前の準備)
項目 内容
事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発 ・組織のトップが、カスタマーハラスメント対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示す。
・カスタマーハラスメントから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育する。
従業員(被害者)のための相談対応体制の整備 ・カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
・相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
対応方法、手順の策定 ・カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。
社内対応ルールの従業員等への教育・研修 ・顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。
事後(カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応)
項目 内容
事実関係の正確な確認と事案への対応 ・カスタマーハラスメントに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認する。
・確認した事実に基づき、商品に瑕疵がある、またはサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換・返金に応じる。瑕疵や過失がない場合は要求等に応じない。
従業員への配慮の措置 ・被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行う(繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。メンタルヘルス不調への対応等)。
再発防止のための取り組み ・同様の問題が発生することを防ぐ(再発防止の措置)ため、定期的な取組の見直しや改善を行い、継続的な取り組みを行う。
以上の措置と併せて講ずべき措置 ・相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
・相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知する。

まずは、上記の準備や対応策ができているかどうか、自社の現状を検証することがスタートとなる。また、マニュアルには、「時間拘束型」「リピート型」「暴言型」「暴力型」「威嚇・脅迫型」「権威型」「店舗外拘束型」「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」「セクシュアルハラスメント型」といったカスハラ行為の類型別の対応例(マニュアル23ページ)やカスタマーハラスメントに発展させないための現場でのクレーム初期対応の留意点(同26ページ)、カスタマーハラスメント対策チェックシート(同46ページ)などが記載されている。ドラフト版とはいえ、自社の取り組みが十分かどうかを検証するうえで有用なツールとなるはずだ。上表中最後の「不利益取扱いの禁止」は内部公益通報制度と連動した仕組みにするのも一案だろう(内部公益通報制度については【役員会 Good&Bad発言集】内部公益通報制度の設計(1)(2)(3)を参照)。

このほか、マニュアルには「カスタマーハラスメント対策への取組の基本方針・基本姿勢」の具体例も掲載されているが(同19ページ)、最近は「カスタマーハラスメントに対する行動指針」「カスタマーハラスメントへの対応に関する方針」といった名称の基本方針を定め、ウェブサイトに掲載している企業が増えてきたので、同業他社の事例を参考にするのもよいだろう。

また、カスハラというと、自社の従業員が「被害に遭う」ケースにばかり目が行きがちだが、自社の従業員が下請先や取引先に対して横暴な要求をする、あるいはプライベートでカスハラを犯してしまう可能性もある。自社の従業員がカスハラの“加害者”となることを防止するための意識啓発も不可欠と言えよう。