議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)10月1日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたり、機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Global Policy Survey」および今回から実施した「New Climate Survey」の調査結果を公表した(2021年8月6日のニュース「ISSがポリシー改定に向け調査開始、役員報酬におけるESG指標の設定やバーチャルオンリー総会がテーマに」、2021年8月16日のニュース「ISS、気候変動に関する“ガバナンスの重大な失敗”を判断する指針を検討」参照)。ISSは両結果を踏まえ、2022年向けポリシー案をまとめ、パブリックコメントを経て年内には確定させるものとみられる。
本稿ではまず「Annual Benchmark Global Policy Survey」の結果を取り上げる。本調査の開始を報じた2021年8月6日付の上記ニュースでお伝えしたとおり、今回は日本だけを対象とした「Region & Market Specific Questions」は設定されなかった。以下、すべての国・地域を対象とする「Global Questions」の回答結果について解説する。なお、本調査に対しては、159の機関投資家のほか、246の企業と4の非営利団体を内訳とする250の非投資家から回答があった。
Region & Market Specific : 地域および市場固有の
(1)役員報酬におけるESG指標の設定
役員報酬に「ESGに関連したインセンティブ指標」を設定することについて、ISSが提示した各選択肢に対する選択率は下表のとおりとなった。
| 選択肢 |
投資家 |
非投資家 |
| ESG指標は効果的でなく、従来の財務指標のみを用いるべき |
4% |
16% |
| 具体的かつ測定可能であれば、ESG指標の設定は有効である |
52% |
27% |
| 財務的に測定できないESG指標でも、前向きな効果をもたらす |
34% |
46% |
| その他 |
10% |
10% |
投資家・企業ともESG指標をおおむね肯定的に捉えているものの、投資家は同指標が「具体的かつ測定可能」(specific and measurable)であることを求めている。「財務的に測定できない」(not financially measurable)場合、株主利益を毀損するCSR的な取り組みが推進されたり、経営者が都合の良い解釈でお手盛りを図ったりするリスクを懸念してのことだろう。投資家は、あくまで“中長期的な財務成果を引き出すための報酬制度”であることを重視していると言える。なお、設定する報酬のタイプとして、投資家の81%は短期・長期いずれでも構わないとしている。
CSR : 「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳される。企業を「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し責任ある行動を行い、社会的課題に応え、ステークホルダーとの間で信頼関係を築いていくべきという考え方。
(2)人種平等性に対する第三者監査
米国のBLM運動を契機とした、人種平等性に対する「第三者監査」を求める株主提案については、ISSの提示した各選択肢に対する選択率は下表のとおりとなった。
BLM運動 : 2020年に米国ミネソタ州で発生した黒人男性が白人警官に首を押さえつけられ死亡した事件を受け広がった人種差別に抗議する運動のこと。BLMとは「Black Lives Matter」の略で、「黒人の命も大切だ」「黒人の命を粗末にするな」などと訳されることが多い。
| 選択肢 |
投資家 |
非投資家 |
| ほとんどの企業において、人種平等性に対する第三者監査は有用である |
44% |
18% |
| 企業で問題が起きているか、あるいは適切な取り組みが行われているか次第である |
47% |
54% |
| 人種平等性に対する第三者監査が有用な企業はほとんど存在しない |
9% |
28% |
企業は過半数が「各社の状況による」(depends on company-specific factors)と回答し、3つ目の「ほとんど不要」との回答を含めると大部分の企業が“特殊なケース”と捉えているのに対して、投資家は半数近くが「ほとんどの企業に有用である」(most companies would benefit)と回答した。日本でもESGのうちの「S」要素として人権に対する意識が高まっていとはいえ、本件は多くの日本企業には直ちに影響は及ぼさないと考えられる。しかし、グローバルでは、問題が生じていなければ第三者監査までは不要とする企業と、現状にかかわらず常に高い問題意識を持つべきとする投資家の間に大きなギャップが存在しているという事実は、ビジネスのボーダーレス化が進む日本企業の経営陣としても認識しておく必要があろう。
(3)バーチャルオンリー株主総会
物理的な出席者を伴わないバーチャルオンリー総会における、問題のあるプラクティスとしてISSが提示した各選択肢に対しては、下表の懸念が示された(%の左の数値は順位。選択肢は上から順に投資家の選択率の高い順)。
バーチャルオンリー総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
| 選択肢 |
投資家 |
非投資家 |
| 企業側が質問を選別する、難しい質問を避ける |
1 (91%) |
5 (49%) |
| 総会開催中にリアルタイムで質問ができず、事前質問を送信することもできない |
2 (90%) |
1 (80%) |
| 質疑応答ができない、質問に対する回答がない |
2 (69%) |
| 株主提案者が総会で提案内容を説明できない |
4 (85%) |
4 (54%) |
| 参加者は総会の様子を視聴することしかできない |
5 (79%) |
7 (36%) |
| 株主は総会で議決権行使(または変更)ができない |
6 (71%) |
3 (63%) |
| 事前に登録が必要、または登録に手間がかかる |
7 (69%) |
6 (42%) |
| 総会の開催中にリアルタイムで動議ができない |
8 (64%) |
8 (19%) |
| 総会開催中にリアルタイムで質問ができない |
9 (61%) |
8 (19%) |
動議 : (日本の会社法を前提とすると)株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
投資家の9割が懸念している事項として、企業側が質問事項を「不当に選別」(unreasonably curating)すること、事前および当日の質問ができないこと、質問しても回答が得られないことが挙げられている。特に「選別」については企業側との認識のギャップが大きい。これらの懸念を議決権への反対行使という形で示す対象として、38%の投資家が取締役会議長の選任議案、32%の投資家が取締役全員の選任議案を挙げている。日本では(2021年)8月26日にユーグレナが日本初のバーチャルオンリー総会を開催したが(2021年9月27日のニュース「取締役の任期、役員報酬限度額などとの関係は?決算期変更により事業年度が1年を超えることになった場合の留意点」参照)、今後バーチャルオンリー総会の開催を検討している企業は、投資家が問題視している上記プラクティスを可能な限り回避する必要があろう。