2021/10/11 ISSがポリシー改定に向けたアンケート結果を公表、バーチャルオンリー総会に批判集まる

議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)10月1日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたり、機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Global Policy Survey」および今回から実施した「New Climate Survey」の調査結果を公表した(2021年8月6日のニュース「ISSがポリシー改定に向け調査開始、役員報酬におけるESG指標の設定やバーチャルオンリー総会がテーマに」、2021年8月16日のニュース「ISS、気候変動に関する“ガバナンスの重大な失敗”を判断する指針を検討」参照)。ISSは両結果を踏まえ、2022年向けポリシー案をまとめ、パブリックコメントを経て年内には確定させるものとみられる。

本稿ではまず・・・

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2021/10/11 ISSがポリシー改定に向けたアンケート結果を公表、バーチャルオンリー総会に批判集まる(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)10月1日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたり、機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Global Policy Survey」および今回から実施した「New Climate Survey」の調査結果を公表した(2021年8月6日のニュース「ISSがポリシー改定に向け調査開始、役員報酬におけるESG指標の設定やバーチャルオンリー総会がテーマに」、2021年8月16日のニュース「ISS、気候変動に関する“ガバナンスの重大な失敗”を判断する指針を検討」参照)。ISSは両結果を踏まえ、2022年向けポリシー案をまとめ、パブリックコメントを経て年内には確定させるものとみられる。

本稿ではまず「Annual Benchmark Global Policy Survey」の結果を取り上げる。本調査の開始を報じた2021年8月6日付の上記ニュースでお伝えしたとおり、今回は日本だけを対象とした「Region & Market Specific Questions」は設定されなかった。以下、すべての国・地域を対象とする「Global Questions」の回答結果について解説する。なお、本調査に対しては、159の機関投資家のほか、246の企業と4の非営利団体を内訳とする250の非投資家から回答があった。

Region & Market Specific : 地域および市場固有の

(1)役員報酬におけるESG指標の設定
役員報酬に「ESGに関連したインセンティブ指標」を設定することについて、ISSが提示した各選択肢に対する選択率は下表のとおりとなった。

選択肢 投資家 非投資家
ESG指標は効果的でなく、従来の財務指標のみを用いるべき 4% 16%
具体的かつ測定可能であれば、ESG指標の設定は有効である 52% 27%
財務的に測定できないESG指標でも、前向きな効果をもたらす 34% 46%
その他 10% 10%

投資家・企業ともESG指標をおおむね肯定的に捉えているものの、投資家は同指標が「具体的かつ測定可能」(specific and measurable)であることを求めている。「財務的に測定できない」(not financially measurable)場合、株主利益を毀損するCSR的な取り組みが推進されたり、経営者が都合の良い解釈でお手盛りを図ったりするリスクを懸念してのことだろう。投資家は、あくまで“中長期的な財務成果を引き出すための報酬制度”であることを重視していると言える。なお、設定する報酬のタイプとして、投資家の81%は短期・長期いずれでも構わないとしている。

CSR : 「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳される。企業を「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し責任ある行動を行い、社会的課題に応え、ステークホルダーとの間で信頼関係を築いていくべきという考え方。

(2)人種平等性に対する第三者監査
米国のBLM運動を契機とした、人種平等性に対する「第三者監査」を求める株主提案については、ISSの提示した各選択肢に対する選択率は下表のとおりとなった。

BLM運動 : 2020年に米国ミネソタ州で発生した黒人男性が白人警官に首を押さえつけられ死亡した事件を受け広がった人種差別に抗議する運動のこと。BLMとは「Black Lives Matter」の略で、「黒人の命も大切だ」「黒人の命を粗末にするな」などと訳されることが多い。

選択肢 投資家 非投資家
ほとんどの企業において、人種平等性に対する第三者監査は有用である 44% 18%
企業で問題が起きているか、あるいは適切な取り組みが行われているか次第である 47% 54%
人種平等性に対する第三者監査が有用な企業はほとんど存在しない 9% 28%

企業は過半数が「各社の状況による」(depends on company-specific factors)と回答し、3つ目の「ほとんど不要」との回答を含めると大部分の企業が“特殊なケース”と捉えているのに対して、投資家は半数近くが「ほとんどの企業に有用である」(most companies would benefit)と回答した。日本でもESGのうちの「S」要素として人権に対する意識が高まっていとはいえ、本件は多くの日本企業には直ちに影響は及ぼさないと考えられる。しかし、グローバルでは、問題が生じていなければ第三者監査までは不要とする企業と、現状にかかわらず常に高い問題意識を持つべきとする投資家の間に大きなギャップが存在しているという事実は、ビジネスのボーダーレス化が進む日本企業の経営陣としても認識しておく必要があろう。

(3)バーチャルオンリー株主総会
物理的な出席者を伴わないバーチャルオンリー総会における、問題のあるプラクティスとしてISSが提示した各選択肢に対しては、下表の懸念が示された(%の左の数値は順位。選択肢は上から順に投資家の選択率の高い順)。

バーチャルオンリー総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

選択肢 投資家 非投資家
企業側が質問を選別する、難しい質問を避ける 1 (91%) 5 (49%)
総会開催中にリアルタイムで質問ができず、事前質問を送信することもできない 2 (90%) 1 (80%)
質疑応答ができない、質問に対する回答がない 2 (69%)
株主提案者が総会で提案内容を説明できない 4 (85%) 4 (54%)
参加者は総会の様子を視聴することしかできない 5 (79%) 7 (36%)
株主は総会で議決権行使(または変更)ができない 6 (71%) 3 (63%)
事前に登録が必要、または登録に手間がかかる 7 (69%) 6 (42%)
総会の開催中にリアルタイムで動議ができない 8 (64%) 8 (19%)
総会開催中にリアルタイムで質問ができない 9 (61%) 8 (19%)

動議 : (日本の会社法を前提とすると)株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。

投資家の9割が懸念している事項として、企業側が質問事項を「不当に選別」(unreasonably curating)すること、事前および当日の質問ができないこと、質問しても回答が得られないことが挙げられている。特に「選別」については企業側との認識のギャップが大きい。これらの懸念を議決権への反対行使という形で示す対象として、38%の投資家が取締役会議長の選任議案、32%の投資家が取締役全員の選任議案を挙げている。日本では(2021年)8月26日にユーグレナが日本初のバーチャルオンリー総会を開催したが(2021年9月27日のニュース「取締役の任期、役員報酬限度額などとの関係は?決算期変更により事業年度が1年を超えることになった場合の留意点」参照)、今後バーチャルオンリー総会の開催を検討している企業は、投資家が問題視している上記プラクティスを可能な限り回避する必要があろう。

2021/10/08 立会時間の延伸議論決着へ 「前場引け後」の決算発表を検討する企業も

2020年10月に発生した現物売買システムの障害などを受け、東証は立会時間の延伸による取引機会の確保、大型連休中の取引機会の提供などを検討してきたが(2021年8月4日のニュース「適時開示の慣習が変わる可能性」参照)、・・・

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2021/10/08 立会時間の延伸議論決着へ 「前場引け後」の決算発表を検討する企業も(会員限定)

2020年10月に発生した現物売買システムの障害などを受け、東証は立会時間の延伸による取引機会の確保、大型連休中の取引機会の提供などを検討してきたが(2021年8月4日のニュース「適時開示の慣習が変わる可能性」参照)、立会時間の延伸については、今後「30分の延伸」を前提として準備を進め、2024年度後半からの実施を目指す方向となった。立会時間は午前中はこれまでと変わらず(9時〜11時半)、午後のみ「12時半〜15時半」となる。10月下旬に公表する予定の「現物市場の機能強化に向けたアクション・プログラム」に盛り込む。

立会時間の変更に伴う上場会社への影響として論点となっていたのが「適時開示」だ。現状、多くの上場会社が、情報の周知までの時間差により株主間に不平等が生じることを考慮し、場中での適時開示を避け、立会終了後に適時開示を行っている。こうした上場会社においては、立会時間の延伸に伴い、①開示実務や記者会見、取材、IRといった一連の対応が後ろ倒しとなる、②開示までの時間が伸びることによる情報リークやインサイダーのリスク増加、③開示時間が後ろ倒しになることによる株主やアナリスト、報道機関への影響などが生じることになる。一方、上場会社の中には、「立会時間に関わらず、開示事項の決定・発生後、速やかに適時開示を行っている」「自社の方針として14時までに開示することとしている」といったところもあり、こうした上場会社は立会時間の延伸による影響は受けない。今後は「適時開示は立会終了後」という実務が一部の上場会社で変わる可能性もあろう。これまで決算発表および説明会を立会時間終了後に実施していたある上場会社からは、「今後、立会時間終了が後ろ倒しとなる場合には、前場引け後に実施することも検討する」との意見も聞かれた。また、上場会社からは、立会時間の延伸に伴い、東証の適時開示システムであるTDnetのみならず、有価証券報告書など金融商品取引法に基づく情報が掲載される金融庁のEDINETについても提出受付時間(現行、平日の9:00~17:15)を延伸するよう求める声も上がっている。

東証は、立会時間の延伸のほかにも、大型連休中の取引機会の提供などを検討してきた。これは、2019年のゴールデンウィークが10連休となり、6営業日連続で日本の株式市場が休場となったことをきっかけに、「海外市場における価格変動リスクにも対応できない」「長期間にわたって取引機会がないということは国際的に見て問題があるのではないか」といった指摘が市場関係者からあったことを受けたもの。ただ、市場関係者の間では、「結果として問題は生じなかった」との意見が大半を占め、むしろ、参加者が限定されることによる流動性・価格形成の問題への懸念も聞かれた。また、上場会社からは「連休中であっても、不明確な情報が生じた場合には、発行会社としてその不明確情報に対してリアクションが必要になる」「適時開示には機関決定が必要であり、案件によっては社外のビジネスパートナーや弁護士とも連携する必要があることから、社内外との連携体制の整備が必要になる」などの指摘とともに、「大型連休時においても平日と同じレベルの開示水準を維持するのは相当に困難」など主に適示開示面に対する懸念の声が上がり、今回はひとまずこうした論点を整理するのみにとどまる方向だ。

2021/10/07 まさかの「監査役による不正」にどう備える?

取締役の職務の執行を監査し、「不正を暴く側」の立場にある監査役は元々コンプライアンス意識が高く、「するべきことをしていなかった」という任務懈怠による責任追及を受けるようなケースはあっても、積極的に「不正をする側」に回ることは考えにくいのが通常だ。ましてや上場会社の監査役ともなれば尚更である。

実際、上場会社の監査役が積極的に不正を行った事例は極めて少ない。しかし、全くないわけでもない。例えば東証一部上場のプレス工業では、同社の健康保険組合の理事長を兼務していた監査役が健康保険組合の金銭に手を付けた事件が2010年に発覚している(本事件の詳細はこちらを参照)。手口は領収書のない経費の不正精算であった(金額は152 百万円)。

そして、今年(2021年)に入ってから発覚したのが、・・・

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2021/10/07 まさかの「監査役による不正」にどう備える?(会員限定)

取締役の職務の執行を監査し、「不正を暴く側」の立場にある監査役は元々コンプライアンス意識が高く、「するべきことをしていなかった」という任務懈怠による責任追及を受けるようなケースはあっても、積極的に「不正をする側」に回ることは考えにくいのが通常だ。ましてや上場会社の監査役ともなれば尚更である。

実際、上場会社の監査役が積極的に不正を行った事例は極めて少ない。しかし、全くないわけでもない。例えば東証一部上場のプレス工業では、同社の健康保険組合の理事長を兼務していた監査役が健康保険組合の金銭に手を付けた事件が2010年に発覚している(本事件の詳細はこちらを参照)。手口は領収書のない経費の不正精算であった(金額は152百万円)。

そして、今年(2021年)に入ってから発覚したのが、ヘアケア製品の製造・販売を手掛けるコタ(東証一部上場)の監査役による不正だ。コタの常勤監査役(事件発覚当時の役職)は2011年6月から2021年1月の約9年半にわたり、会社の資金約5,670 千円を私的な旅費等に流用していた(事件発覚に伴うコタのリリースはこちら)。事件発覚を受け、コタでは常勤監査役から返金を受けるとともに、常勤監査役には当然ながら退職慰労金を支払わないこととなった。その結果、コタでは役員退職時の退職慰労金支払いに備えて引き当てていた役員退職慰労引当金を戻し入れることとなり、利益が約34百万円増加している。監査役の不正発覚で図らずも利益が増えるという皮肉な結果となった。

コタの有価証券報告書(2021年3月期)の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の【役員の報酬等】では、上記の特殊事情が反映されて、下記のとおり監査役(社外監査役を除く)の退職慰労金の額が△23,993千円のマイナスになっている(△23,993千円と注釈にある△28,749千円の差額については説明がないため詳細は明らかでないが、当期の役員退職慰労引当金繰入額の可能性がある)。

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コタは、2021年1月28日のリリースで、以下の再発防止策を掲げている。

(1)役員(取締役及び監査役)が支出する経費については、内部監査室の監査対象とし、従業員に対する業務監査と同じ基準で定期的に実施いたします。
(2)監査役間において情報共有及び連携を強化いたします。また、内部監査室とも同様に情報共有及び連携を強化いたします。
(3)役員の不正行為がステークホルダーや会社に与える影響及び重大性等に鑑みて、全役員を対象に再度、コンプライアンスの理解を深めるための研修を実施いたします。
(4)役員の不正行為に対しては、これまでどおり法的措置も含めて厳正に対処いたします。

そして、(4)の宣言どおり、2021年2月8日付けのリリースでは『今般の事案は当社のみならず株主の皆様の損害であり、「監査役」という不正に対して最も厳しい立場であるべき者が行ったことから、実質的には当社のみならず株主の皆様に対する重大な「背任行為」であると考えております。当社といたしましては今般の事案は当社の判断ではなく、あくまでも公の機関(警察や検察、裁判所)の「公正な判断」に委ねることが適切であるとの結論に至りました。』として、元常勤監査役を刑事告訴することを明かにしている。こうした厳しい姿勢こそ、内部統制が効きづらい役員の不正の再発を防止する策として有効であることは間違いない。

プレス工業にしろ、コタにしろ、監査役の不正の手口は「経費の不正精算」であったが、これは偶然の一致ではない。監査役にはそもそも業務執行権限がない以上、架空仕入れや在庫などを使った不正は実施し難く、一方で経費の精算は監査役を含め誰でも実施可能な社内業務であるからだ。監査役の不正経費精算を想定していなかった両社では監査役の経費精算に内部統制が及んでおらず、両社の監査役にとっては最も“やりやすい”不正となっていた。

いかに高潔そうに見える監査役であっても生身の人間である以上、不正をしないとは決して断言はできない。コタの再発防止策(1)にあるように、監査役の経費精算についても聖域化することなく内部監査の対象とすることで、監査役と内部監査室の間で良い意味での“緊張感”が生まれるという効果も期待できる。それは、監査役と内部監査室の連携のためにも有意義であると言えよう。

2021/10/06 「20分」の記載ミスで株主総会決議が取消寸前に

会社法改正により2022年度中に株主総会資料の電子提供制度がスタートする予定となっているが、株主総会資料のうち「議決権行使書面」については、引き続き「紙」で提供することが認められる(改正会社法325条の3第2項)。これは、議決権行使書面の電子提供は、議決権電子行使プラットフォームの導入が前提となるからだ。時価総額の大きい上場会社では導入が進んでいるものの、小さい会社ではむしろ導入していないところの方が多く、東証の調査によれば、2021年3月期決算の一部上場会社のうち時価総額が「100億円以上250億円未満」の会社では20.5%、「100億円未満」の会社では2.4%の導入率にとどまっている(2021年9月22日のニュース「プライム市場上場会社に求められる議決権行使を容易にするための取り組み」参照)。この議決権行使書面の・・・

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2021/10/06 「20分」の記載ミスで株主総会決議が取消寸前に(会員限定)

会社法改正により2022年度中に株主総会資料の電子提供制度がスタートする予定となっているが、株主総会資料のうち「議決権行使書面」については、引き続き「紙」で提供することが認められる(改正会社法325条の3第2項)。これは、議決権行使書面の電子提供は、議決権電子行使プラットフォームの導入が前提となるからだ。時価総額の大きい上場会社では導入が進んでいるものの、小さい会社ではむしろ導入していないところの方が多く、東証の調査によれば、2021年3月期決算の一部上場会社のうち時価総額が「100億円以上250億円未満」の会社では20.5%、「100億円未満」の会社では2.4%の導入率にとどまっている(2021年9月22日のニュース「プライム市場上場会社に求められる議決権行使を容易にするための取り組み」参照)。この議決権行使書面の行使期限がわずか「20分」早かったとして、東証一部に上場する乾汽船が定時株主総会における決議の取消しを求める訴訟を株主(投資ファンドのアルファレオホールディングス)から提起され、その判決が(2021年)4月8日に東京地裁で下されていたことが当フォーラムの取材により判明した。

会社法上、議決権行使書面の行使期限は、原則として「株主総会の日時の直前の営業時間の終了時」とされている(会社法 311条1項、同施行規則69条)。株主総会招集通知と議決権行使書面を同時に発送し、株主総会前日の営業終了時間を議決権行使書面の行使期限としている限り何ら問題は生じないが、乾汽船が犯した“ミス”が、議決権行使書面の行使期限を営業終了時間よりも「20分」早く記載してしまったことだ。

上記のとおり、議決権行使書面の行使期限は、原則として「株主総会の日時の直前の営業時間の終了時」とされているが、取締役会は議決権行使書面の行使期限をこれとは別の「特定の時」とすることもできる。そして、この「特定の時」とは、「株主総会以前の時であって、株主総会招集通知を発した日から2 週間を経過した日以後の時」に限られることとされている(会社法298条1項5号、同施行規則 63条3号ロ)。周知のとおり、株主総会招集通知は株主総会の2週間前までに発送しなければならないとされているため(会社法299条1項)、株主総会の日と株主総会招集通知の発送日との間は「14日間」空ける必要がある。しかし、「特定の時」は「株主総会招集通知を発した日から2 週間を経過した日以後の時」でなければならないため、株主総会の前日の「特定の時」を議決権行使書面の行使期限として定める場合には、「株主総会の日」と「議決権行使書面の発送日」の間を、1日多い15日間空ける必要がある。

乾汽船は2020年の定時株主総会を6月19日午前10時から開催、議決権行使書面の行使期限は定時株主総会の前日である「6月18日午後5時」と設定していたが、株主総会招集通知および議決権行使書面は6月4日に発送しており、両日の間は14日間しか空いていなかった。ここで問題となったのが乾汽船の営業時間だ。同社のホームページ等に記載された営業時間は「午前9時から午後 5時20分」とされていたため、株主から、それよりも20分早い午後5時を議決権行使書面の行使期限としたことは、(「営業時間の終了時」とされる原則とは異なる)「特定の時」を定めたものであるとの指摘を受ける羽目となった。これに対し東京地裁も、議決権行使書面の発送日と総会日との間に15日間を設けなかった2020年の定時株主総会の招集手続は議決権行使書面の行使期限に関する規定に違反するとの判断を示した。

もっとも、東京地裁は、「招集手続の瑕疵は株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり看過することはできない」としつつも、①特定の時を定めなかった場合の議決権の行使期限は、被告の営業時間の終了時である午後5時20分であって、本件の行使期限から20分間伸長されるに過ぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまでは言えないこと、②午後5時をもって営業時間の終了とすることが我が国のビジネス慣習上広く見られることに照らし、瑕疵の程度は重大でないと判断し、株主総会決議の取消請求自体は裁量で棄却している。

本裁判は株主による請求が棄却されるという結果で済んだとはいえ、議決権電子行使プラットフォームが導入できず、引き続き議決権行使書面を「紙」で提供しようという上場会社は、株主から思わぬ指摘を受けないためにも、早期発送を心掛けたいところだ。

なお、今年6月に改正されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則1-2④では、プライム市場上場会社に対し、「少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべき」としている。プライム市場への上場を予定する会社は議決権電子行使プラットフォームの導入も急ぐ必要があろう。

2021/10/05 有価証券報告書における気候変動開示の論点

金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、有価証券報告書で開示を義務付ける非財務情報について検討を重ねている(現時点で公表されている第1回会合の資料はこちら、第2回会合の資料はこちら)。主な検討事項は下表のとおりだが、その中で最優先課題とされているのが、サステナビリティに関する開示のうち「気候変動対応」に関する開示(以下、気候変動開示)だ。

主な検討事項
サステナビリティに関する開示 気候変動対応
・人的資本への投資等
ガバナンスに関する開示 ・取締役会等の活動状況等

ディスクロージャーワーキング・グループの各委員からは気候変動に関する情報を有価証券報告書で開示するにあたっていくつかの課題が早速挙がっている。その内容は以下のとおりだ。・・・

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2021/10/05 有価証券報告書における気候変動開示の論点(会員限定)

金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、有価証券報告書で開示を義務付ける非財務情報について検討を重ねている(現時点で公表されている第1回会合の資料はこちら、第2回会合の資料はこちら)。主な検討事項は下表のとおりだが、その中で最優先課題とされているのが、サステナビリティに関する開示のうち「気候変動対応」に関する開示(以下、気候変動開示)だ。

主な検討事項
サステナビリティに関する開示 気候変動対応
・人的資本への投資等
ガバナンスに関する開示 ・取締役会等の活動状況等

ディスクロージャーワーキング・グループの各委員からは気候変動に関する情報を有価証券報告書で開示するにあたっていくつかの課題が早速挙がっている。その内容は以下のとおりだ。

(1)セーフハーバー・ルール、監査の必要性
気候変動開示のルールは、現在世界共通のフォーマットとなりつつあるTCFDや、IFRS(国際会計基準)の母体であるIFRS財団が今年年末以降に設立する「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」が策定し(場合によってはTCFDを取り込み)、2022年6月に最終基準化が目指す「サステナビリティ報告基準」をベースとすることが考えられるが(2021年6月22日のニュース「サステナビリティ開示の将来像」、2021年9月28日のニュース『気候変動など非財務の「開示基準」の行方』参照)、TCFDはかなり開示内容に自由度があり(2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」参照)、また、ISSBのサステナビリティ報告基準は「ビルディングブロック・アプローチ」を指向しており、ミニマムスタンダードとして策定されたうえで、各国が独自の基準を上乗せするという建付けとなる。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

いずれにせよ、気候変動開示は有価証券報告書で行われ、任意開示ではなく法定開示と位置付けられる以上、企業には開示のルールを遵守することが求められ、遵守しなければ虚偽記載に該当し、訂正報告が求められるといった問題が生じることになる。ただ、気候変動という将来に関する不確実な情報の開示について企業が前向きに開示に取り組みやすくするためには、法的責任の問題に対する一定のセーフハーバー・ルールを整理しておく必要がある。

セーフハーバー・ルール : 予測困難な責任を回避するために企業の行動が委縮することがないよう、違法ないし違反にならない範囲を明確化すること。セーフハーバーとは「安全な港」という意味であり、セーフハーバー・ルールという言葉は、船が安全な港にいる限り海難を避けられることに由来する。

また、例えばISSBのサステナビリティ報告基準に上乗せさせる日本独自の基準が作られ、当該基準に従って情報開示が行われることになれば、情報の信頼性の確保の観点から監査の必要性についても議論が必要となろう。その場合、例えば企業が開示したCO2の排出量が適切かどうかを確認する「環境監査」が脚光を浴びることも考えられる。仮に環境監査が実施されるとすれば、監査法人においても、財務諸表監査とは完全に別のチームが動くことになるのは間違いないが、現状、世界的に見ても環境監査は任意であり、これが広がるかどうかは不透明と言える。有価証券報告書に気候変動関連の情報が記載されたとしても、会計監査人は財務諸表監査で知り得た知識をもとに通読するだけで、虚偽記載の疑いがない限り新たな監査証拠を入手する必要がないという建付けとなることも考えられる。

(2)定量情報か定性情報か
TCFDによる気候変動開示には「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの開示推奨項目があるが(2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」参照)、定量情報はほんの一部しかない。定性情報が中心となると、企業間の比較が極めて難しいという問題が生じる。一方で、比較可能性を重視し過ぎて、無理に定量情報を追求すれば、各社のリスク、事業機会や戦略といった投資判断上の重要事項とは関連性の薄い情報を開示させるということにもなりかねない。法定開示となれば、基本的には「比較可能」が高いことが望ましいが、定量情報を重視しすぎるあまり、企業側にとっても投資家をはじめとする情報利用者側にとっても意味のない開示となることは避けなければならないということだ。少なくとも投資判断上重要な情報については、比較可能性を考慮しつつ、開示事項を決めることになろう。

(3)シングルマテリアリティとダブルマテリアリティ
気候変動開示においては、その対象範囲も問題となる。企業に生じるリスクや機会といった「企業のパフォーマンスにどのような影響を与えるのか」を開示するのがシングルマテリアリティの考え方、これに加え、企業が地球環境や社会に与える影響を含めて開示するのがダブルマテリアリティの考え方である。

シングルマテリアリティとダブルマテリアリティ : マテリアリティとは「重要性」を意味するCSR用語であり、マテリアリティを開示する目的は要するに「自社にとって重要な課題は何か?」を明らかにすることにある。シングル・マテリアリティとは企業が環境や社会から「受ける」影響を示す“投資家目線”のマテリアリティであるのに対し、ダブル・マテリアリティとは、これに企業が環境や社会に「与える」影響を示す “(市民社会等を含む)マルチステークホルダー”目線のマテリアリティを統合したものを指す。

ディスクロージャーワーキング・グループは、投資の専門家が利用する有価証券報告書での開示について議論する場であるため、企業のパフォーマンスにどのような影響を与えるのか、つまりシングルマテリアリティを主眼とすることが想定されるが、一方で、欧州ではダブルマテリアリティの開示圧力が高まっており(2021年1月20日のニュース『高まる「ダブル・マテリアリティ」の開示圧力』参照)、日本はどちらの方向に進むのかを選択する必要がある。

ディスクロージャーワーキング・グループでは、有価証券報告書の項目として「サステナビリティ」という1つの枠を設けてはどうかとの意見も出ている。有価証券報告書において、TCFDまたはISSBの基準に従って気候変動開示を行うとなれば、単に、【事業等のリスク】等における一内容にはとどまらない、かなり大規模な開示になる可能性があることを企業は想定しておく必要がありそうだ。