周知のとおり、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)には、プライム市場上場会社向けの内容を盛り込んだ原則が下表のとおり6つある。いずれの原則も新市場への移行後の2022年4月4日以降最初に開催される定時株主総会の終了後に遅滞なく提出するコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)で対応を図ればよいとされている。
| 補充原則1-2④ |
機関投資家が電子行使プラットフォームを利用可能とすべき |
| 補充原則3-1② |
必要とされる開示資料を英語で開示・提供すべき |
| ★補充原則3-1③ |
気候変動に係るリスクや収益機会についての情報開示を、TCFDなどの枠組みに基づいて充実させるべき |
| 原則4-8 |
独立社外取締役を少なくとも3分の1、過半数が必要と考える場合は十分な人数を選任すべき |
| 補充原則4-8③ |
支配株主を有する上場会社は取締役会の過半数を独立社外取締役とするか、独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべき |
| ★補充原則4-10① |
指名報酬委員会の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、委員会の独立性に関する考え方・権限・役割などを開示すべき |
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。
これらのうち★を付けた補充原則3-1③と補充原則4-10①はいわゆる開示原則(特定の事項の開示を求める原則)となっている。このうち補充原則4-10①の指名報酬委員会に関する開示事項は、CG報告書の「指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会の有無」欄における補足説明で、既に一定の情報を開示している上場会社が少なくない。一方、補充原則3-1③は今回の改訂で新設された原則であるため、プライム市場への移行を予定する上場会社の多くが、CG報告書、あるいは統合報告書など引用先の媒体において、いかにしてコンプライに足る記載内容とするか頭を悩ませている。
<補充原則 3-1③>
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。 |
その最大の原因となっているのが、補充原則3-1③後段のプライム市場上場会社向けの記述の中で、「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく」開示の質と量が求められているということだ。この「同等の枠組み」について東証は、パブリックコメントへの回答の中で、金融庁・フォローアップ会議の提言(4ページ下段参照)を引用する形で「今後、IFRS 財団におけるサステナビリティ開示の統一的な枠組みがTCFDの枠組みにも拠りつつ策定された場合には、これがTCFD提言と同等の枠組みに該当するものとなることが期待される」とするにとどまっている(135 ページ右下参照)。ただ、東証はCG報告書の記載要領(4ページ)において「TCFD提言の項目ごとの開示の有無や、シナリオ分析を行っている場合にはその旨を記載することが考えられます」ともしており、少なくとも現状ではTCFD以外の枠組みは考えにくいと捉えておいた方が無難ではあろう。
そうなると、一部の上場会社からは「TCFDに賛同していない、あるいはTCFDコンソーシアムの会員になっていない上場会社は補充原則3-1③をコンプライできないのか」との声も聞こえてきそうだが、本補充原則はあくまでも「開示の質と量の充実を進める」ことを求めており、賛同や入会といったアクションは一切求められていない。また、TCFDでは、いわゆる4要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示、およびこのうち「戦略」についてのシナリオ分析(2℃以下シナリオを含む様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明すること)を求めているため、これらが全て実現できていなければエクスプレインすべきなのかという疑問も生じるところだろう(TCFDのフレームワークについては2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」参照)。この点については、東証が公表している下記のFAQにおける見解を参考にしたい。
2℃以下シナリオ : 気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標とするパリ協定で合意された脱炭素社会を目指すシナリオ
| 質問 |
コーポレートガバナンス・コードの補充原則3-1③後段の「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実」の「実施」にあたっては、TCFD枠組みに基づく開示項目をすべて開示しなければいけませんか。 |
| 回答 |
気候変動が事業活動に与える影響は、各社の業種や事業特性に応じて異なるものと想定されることから、各社においてはTCFD提言の枠組みを参照しながら、自社に必要と考えられる項目から順次開示を進めることで差し支えないものと考えられます。 |
上記のとおり東証は、「TCFD提言の枠組みを参照」することに言及しつつも、実際の開示に際しては「自社に必要と考えられる項目から順次開示を進めることで差し支えない」としている。すなわち、4要素が全て揃っていなくても、また「戦略」においてシナリオ分析を欠いていても、即エクスプレインということにはならないと解釈できる。したがって、自社の企業規模や気候変動問題が業績に与える影響度から「自社に必要と考えられる開示項目」を検討すればよいだろう。具体的なイメージとしては、例えば下表のような線引きが考えられる。補充原則3-1③をコンプライするかどうか検討する際の参考にしていただきたい。
| 「コンプライ」の強度 |
TCFDフレームワークから参照する要素 |
補足 |
| 弱い
↑
↓
強い
|
「ガバナンス」のみ |
CGコードの開示である以上、最低限、取締役会と経営トップの関与を明確にすべき |
| 「ガバナンス」「リスク管理」のみ |
左記2項目はTCFDガイダンス(14ページ「2.提言の実施に向けて」の「b 情報開示の記載箇所と重要性」参照)。)が規模や影響度に関わらず開示を求めている |
| 4項目全て。ただし「戦略」におけるシナリオ分析なし |
文字通り「TCFDの枠組みに基づく開示」を充足することになる |
| 4項目全てかつ「戦略」におけるシナリオ分析あり |
TCFDフレームワークが求めている情報開示にフルに対応している |