周知のとおり、2020年6月に公益通報者保護法の一部を改正する法律(以下、改正法)が成立・公布され、2022年6月1日から施行される(公益通報者保護法の改正内容の詳細については2020年6月23日のニュース「CGコードの遵守状況に影響も 改正公益通報者保護法改正のポイント」を参照)。上場会社各社では、改正法に対応するための準備に取り組んでいることと思われるが、こうしたなか消費者庁は2021年8月20日、改正法対応の拠り所となる「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下、指針)を公表している。また、指針の公表に先立ち、消費者庁は2021年4月21日に「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」(以下、検討会報告書)を公表、その後、2021年4月28日に指針(案)を公表し、5月31日までパブリックコメントを募集していた(「パブリックコメント手続において寄せられた意見等に対する回答」(以下、パブコメ結果)はこちら)。消費者庁は、改正法施行までに「指針の解説」を策定する予定だ。
以下、指針やパブコメ結果を踏まえ、改正法対応のポイントを3つの項目に分けて解説する。
(1)グループ会社全体としての内部公益通報制度を構築する場合の留意点
公益通報者保護法の改正により、常時使用する労働者の数が300人超の事業者は、「公益通報対応業務従事者」(以下、従事者)を定める義務および内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(詳細は(2)(3)で後述)が課されることになる(常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務)。これらの義務は「事業者ごと」に課されていることから、親会社だけでなく、子会社の中にも従業員が 300 人を超える会社がある場合、それぞれの会社で義務を果たす必要がある(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A」(以下、改正法Q&A)のQ2-2)。
もっとも、グループ会社全体としての内部公益通報制度を構築した上で子会社の従業員が「親会社に設置された窓口」に通報する仕組みとした場合も、「子会社が、自らの内部規程において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できる」(改正法Q&AのQ2-2)限り、改正法違反とはならない。
また、親会社の責任者が子会社や関連会社の責任者を兼ねることも出来る。この点を確認するパブコメに対し消費者庁は、「親会社の責任者が子会社や関連会社の責任者を兼務することは禁止されていませんが、子会社や関連会社において(そのことを)明確に定めることが求められます。」と回答している(パブコメ結果12ページ。括弧内は当フォーラムが追加)。グループで統一した内部公益通報制度を設ける場合には参考にしたい。
(2)従事者を定める義務(改正法11条1項)
上述のとおり、指針では、改正法11条1項に対応して、事業者に「従事者を定めること」を求めている(下表参照)。
| 改正法 |
指針 |
(事業者がとるべき措置)
第11条1項
事業者は、第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。 |
第3 従事者の定め
(改正法第11条1項関係)
1 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。
2 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。 |
(公益通報対応業務従事者の義務)
第12条
公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。 |
- |
(罰則)
第21条
第12条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、30万円以下の罰金に処する。 |
- |
従事者は、正当な理由なく「業務上知りえた事項であって通報者を特定させる内容」を漏らしてはならないとする守秘義務を課されるとともに、違反した場合には30万円以下の罰金が科せられる。従事者はこのような重い責任を負うだけに、指針では「従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない」としている(指針第3の2)。一番分かりやすいのは辞令のような文書であろう(ただし、従事者として指定したことを社内で公開することまでは求められていない)。辞令のように個別に指定する方法ではなく、内部規程等において部署・部署内のチーム・役職等の特定の属性で指定する方法でもいい(検討会報告書21ページ)。また、内部公益通報がされる前から従事者を指定しておいても、内部公益通報を受けてから指定しても構わない(検討会報告書20ページ)。
事業者の関心が最も高いのが従事者の範囲だ。刑事罰を科される可能性があることから、パブコメでもこの点について質問が相次いでいた。検討会報告書では、改正法の解釈を『内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に、「公益通報対応業務」に該当する』と説明しており(検討会報告書6ページの注12)、指針も当然ながらこの解釈を踏襲している。つまり、公益通報に関係する業務を行っていたとしても、それが「主体的」でなかったり、「重要部分」に関与していなかったりすれば、従事者には該当しないこととなる。
公益通報対応業務 : 改正公益通報者保護法第11条第1項に定める「公益通報対応業務」をいい、内部公益通報を受け、並びに当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務をいう。
分かりやすい例が、「通報の受付のみを行っている外部窓口」だ。パブコメでは、そのような外部窓口は、「通報内容は全て事業者内で内部公益通報対応について責任を負っているコンプライアンス専門部署にそのまま共有(パススルー)され、その後の通報対応は当該専門部署で行うことになっており、かつ当該専門部署が従事者として指定されている場合は「主体的」ではなく、外部窓口を従事者として指定することは不要であることを明確化すべき」とのコメントが寄せられた(パブコメ結果7ページ下から8ページ上)。これに対し消費者庁は、「御提案の内容も踏まえながら、「指針の解説」の策定作業を行ってまいりたい」と回答しており、コメントの提案を受け入れる見通しだ。仮に「通報の受付のみを行っている外部窓口」が刑事罰の課される恐れのある従事者に該当するとなれば、外部委託先の確保が難しくなる可能性がある。外部窓口の設置は内部公益通報制度の利用を促す効果があるだけに、事業者としては、「重要部分」に関与させないようにして、従事者から外すべきだろう。
逆に言えば、受付窓口であっても「重要部分」に関与するのであれば従事者に該当することになる。この点に関してパブコメでは、「リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会において公益通報者の名前が伏せられる前提で内部公益通報の事案や調査結果に係る正確な情報を共有し、対応や再発防止策について検討する出席者や役員は、従事者の範囲に含まれないと理解してよいか確認したい」との質問が寄せられていた。この質問は「報告を受けるだけであれば「主体的」ではなく「重要部分」でもないとの整理にしなければ、リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会の出席者全員が「従事者」に含まれてしまい、ひいては事業者における調査等に萎縮効果が働きかねない」という懸念に基づいている。これに対して消費者庁は、従事者に該当するかどうか明確に回答することを避け、検討会報告書の「主体的か否か」「重要部分への関与があるかどうか」という考え方(検討会報告書6ページの注12を参照)を再掲するだけにとどまっている(パブコメ結果1ページの一番下のコメント結果を参照)。一口にリスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会の構成員と言っても、「主体的か否か」「重要部分への関与があるかどうか」は各社各様だからだ。
結局のところ、「主体的か否か」「重要部分への関与があるかどうか」の判断は各社において行う必要がある。リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会といった会議体が実権をもって対応しようとすると「主体的」となり、また、対応策や再発防止策について当該会議体メンバーが適切な判断を下すためには「重要部分」についての情報開示が欠かせなくなることから、権限や情報開示の内容次第で当該会議体メンバーが「従事者」に該当する可能性が出てくることには留意が必要だ。場合によっては、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者については、必要が生じた都度従事者として定める」(検討会報告書20ページを参照)といった都度対応が求められことになろう。
公益通報者を特定させる事項 : 公益通報をした人物が誰であるか「認識」することができる事項をいう。公益通報者の氏名、社員番号等のように当該人物に固有の事項を伝達される場合が典型例であるが、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合されることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、公益通報者を特定させる事項に該当する。
以上のほかにもパブコメでは、「都度従事者の対象について、一般的なレポートラインにいる者(上長)は従事者に該当するのか」「懲戒委員会等の構成員を従事者として定める必要があるのか」などの質問が寄せられているが、消費者庁では今後取りまとめる「指針の解説」で考え方を示すとしている。
(3)公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正法11条2項)
改正法11条2項の「公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」として、指針では「部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備」「公益通報者を保護する体制の整備」「内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置」の3つを示し、下表のとおりそれぞれについて詳細を示している。
| 改正法 |
(事業者がとるべき措置)
第11条2項
事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
(公益通報対応業務従事者の義務)
第12条
公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。 |
| 指針 |
内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第11条第2項関係)
部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
(1) 内部公益通報受付窓口の設置等
内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。
(2) 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。
(3) 公益通報対応業務の実施に関する措置
内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。
(4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。
公益通報者を保護する体制の整備
(1) 不利益な取扱いの防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
(1) 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
(2) 是正措置等の通知に関する措置
書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する。
(3) 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。
(4) 内部規程の策定及び運用に関する措置
この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。 |
この中で特に注意が必要なのが、表中赤字の「範囲外共有」(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること)だ。従事者でない者まで公益通報者を特定させる事項を共有するとなれば、公益通報を行うことに委縮効果が働き、制度が機能しなくなる。このような事態を避けるため、事業者としては、従事者以外の者による共有の禁止を内部規程に明記し、徹底させる必要がある。具体的には、公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等の明確化、公益通報者を特定させる事項を共有する範囲の明確化、範囲外共有を行った従業員等に対する懲戒処分のルール化、公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育の定例化などが考えられる。
上述のとおり、パブコメでは、リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会が、通報者の名前が伏せられた状態で内部公益通報の事案や調査結果の情報を共有し、対応や再発防止策について議論した場合でも、これらの会議体の構成員が従事者にあたるのかを懸念する声が寄せられたが、こうした情報の共有が「範囲外共有」にあたるかどうかについてもコメントも寄せられていた。仮にこれが「範囲外共有」にあたるとなれば、公益通報の内容がリスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会に共有される都度、公益通報者に適切な救済・回復措置をとらなければならない(上表の公益通報者を保護する体制の整備 (1) 不利益な取扱いの防止に関する措置イ参照)ことになり、現実的でない。消費者庁は、こうした情報の共有が「範囲外共有」にあたるかどうかは指針の解説で明らかにするとしている(パブコメの37ページ下から38ページ上)。
「内部通報制度」はほぼ全ての上場会社で導入済みとなっていると思われるが、従来は公益通報者保護法の趣旨に沿って制度を構築していただけに過ぎず、実際のところ制度の細部は各社によって異なるのが実状だ。そのため、会社によっては、現行の内部通報制度のルールが改正公益通報者保護法が求める水準に達していない可能性がある。常時使用する労働者の数が300人超の上場会社では、改正公益通報者保護法の施行日までに、従来の内部通報制度を改正法が求める内容にアップデートする(指針に対応できているかという観点から内部通報制度の見直しをする)必要がある。