企業向けの各提言の背景にある投資家の問題意識と企業の取り組み
生命保険協会は2021年4月、報告書「生命保険会社の資産運用を通じた 『株式市場の活性化』と『持続可能な社会の実現』に向けた取組について」を公表しました。同協会は毎年、企業および投資家の意識や取り組みに関するアンケート調査を実施しており、2020年度は国内市場の上場企業508社、国内拠点を持つ機関投資家108社から回答を得ています。
今回の報告書では、アンケート結果を踏まえて企業向けに10、投資家向けに4、政府向けに1、合計14(重複あり)の提言を行っています。本稿では、企業向けの各提言について、背景にある投資家の問題意識と併せて解説したうえで、上場企業が各提言にどのように取り組むことが望ましいか考察します。
※なお、以下の各提言は企業向けに限定してピックアップしたものであるため、報告書中の番号付けと一致しないしない点、ご留意ください。
提言①:中長期的な株主還元拡大(配当性向30%以上)
・80%の投資家は、株主還元・配当水準に対して十分には満足しておらず、コロナ禍前後で投資家のスタンスに変化はない。
・昨年度と同程度の56%の投資家が、中⻑期的に配当性向30%以上を期待する一方、上場企業の配当性向実績は改善傾向にあるものの、未だ42%の企業は配当性向30%未満に留まる。
⇒対話を通じて投資家の期待値を把握の上、配当性向30%以上を目標に、中⻑期的に株主還元を拡大 |
配当性向 : 配当総額/当期純利益
上場企業各社の株主還元・配当の水準について「多くの企業(6割以上)が満足できる水準」と回答した投資家は、昨年度と同程度の19.8%にとどまりました(65ページQ4(1)参照)。2020年度の配当性向が30%未満の企業が42%に上った一方(5ページ参照)、この水準を望ましいとする投資家は12.4%に過ぎず(66ページQ4(4)参照)、両者の認識には大きなギャップがあります。もっとも、「水準には拘らない」と回答した投資家も32%ありました(66ページQ4(4)参照)。
以上を勘案すると、企業としてはまず、上場企業のミニマムスタンダードとして配当性向30%を意識することが必要になります。そのうえで「水準には拘らない」とする投資家や、ROEなどと併せて判断する投資家(60ページQ2(1)の選択肢K(株主資本配当率=DOE)参照)も一定数存在することを踏まえて、配当性向を柔軟に設定・運用する必要があります。「配当性向×ROE」によって算出される株主資本配当率(DOE)をベースに考えれば、配当性向が30%でもROEが5%ならばDOEは1.5%に過ぎず、欧米企業の平均的水準と言われる4〜5%には遠く及びません。一方、ROEが20%あれば配当性向は20%でもDOEは4%に達します。ROEの高さは事業に再投資する価値があることを表しており、これが低い場合は配当性向30%にこだわらず、より積極的な株主還元を行うことが望ましいでしょう。また、通常は株主総会決議を経る必要がある配当のみならず、機動的な実施が可能な自己株式取得も組み合わせた株主還元策も検討するべきでしょう。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)
株主資本配当率 : 「DOE(Dividend On Equity ratio=株主資本(純資産)配当率」は、株主資本(株主からの出資金に、これまでの事業活動によって稼ぎ出した利益を加えたもの。貸借対照表の「資本の部」の合計)に対して会社がどの程度の配当を行っているかを示す指標であり、「配当総額/期末時点の資本の部の合計」により算出される。
この算式を「当期純利益」を使って分解すると、「DOE=ROE×配当性向」となる。すなわち、会社がこの株主資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示す「ROE」に配当性向を乗じたものがDOEであることが分かる。すなわち、DOEは「会社の収益拡大」と「株主還元」の両方を考慮に入れた指標と言える。
提言②:資本コストを踏まえたROEの目標設定と水準向上
・81%の投資家は、中⻑期的に8%以上のROE水準を期待しており、コロナ禍前後で投資家のスタンスに変化はない。一方、上場企業の52%はROE8%未満に留まる。
・資本コスト(株主の要求収益率)を算出していない企業の割合は38%と昨年度から大きな変化はなく、企業が資本コストを把握していないことが引き続き投資家の期待との乖離の一因と考えられる。
⇒中⻑期的なROE向上に向けて、資本コストを算出の上、ROE目標を設定 |
中長期的に望ましいROE水準としては、投資家の約半数の48%が「10%以上」を支持しており、さらに高い水準を求める投資家も合わせると58%に達しました。一方で「8%以上10%未満」とした投資家は23%にとどまっており、このレンジのROEでは投資家の期待に応えているとは言い難いと考えられます。全上場企業の52%はROEが8%に達していないことから、期待と実績のギャップが相当に大きいことが示唆されています(6ページ参照)。
日本企業のROEが資本コストを上回っているかという設問に対しては、56%の投資家が「下回っている」と回答しています(61ページQ2(3)ページ参照)。報告書によると93%の企業が資本コストを算出(62%)もしくは把握(31%)していますが(6ページ参照)、企業が設定している資本コストが投資家の期待する資本コストと乖離していることが、上述のギャップが生じる要因の一つになっていると言えるでしょう。
2014年に経済産業省から公表された「伊藤レポート」では、海外投資家で7.2%、国内投資家で6.3%という平均資本コストを想定し、最低限「8%」を上回るROEの達成に企業はコミットすべき、と提言しています。ここで重要なのは、まず自社の資本コストを過小評価しないこと、そのうえで「十分な」プレミアムを付けたROE目標を設定することです。例えば、資本コストが5〜6%で目標ROEが8%といった設定は、相当なディフェンシブ銘柄でもない限り、説得力に欠けると言えるでしょう。
ディフェンシブ銘柄 : 景気動向に株価が左右されにくい銘柄のこと。株価の動きが小さい代わりに、安定的な配当利回りが見込める。ディフェンシブ銘柄が多い業種としては、鉄道、電力、通信、食品などが上がられる。逆に景気動向に株価が左右されやすい銘柄を景気敏感株という。
提言③:社外取締役に期待する役割・実績についての情報開示を充実
・56%の投資家は、社外取締役の機能発揮に改善の余地があると感じており、企業の認識と乖離がある。
・特に投資家は、社外取締役の役割として「経営陣の評価への関与・助言」や「不祥事の未然防止に向けた体制の監督」を企業以上に重要と考えている。
⇒社外取締役に期待する役割と実績について、開示の充実と対話等を通じた投資家への丁寧な説明 |
社外取締役に期待している役割について、企業の49%は「期待通り十分に果たされている」、48%は「一定程度果たされている」と考えており、満足度はかなり高くなっています。しかし、投資家の認識は企業とは対照的となっており、「期待通り十分に果たされている」との回答はわずか2%、「一定程度果たされている」も35%にとどまっており、過半数の56%が「不十分であり改善の余地がある」と指摘しています(6ページ参照)。この大きな乖離から想定されるのは、そもそも企業と投資家の間で「社外取締役に期待している役割」の捉え方が大きく異なっているということです。
社外取締役に期待する役割として、企業では「経営戦略、重要案件等に対する意思決定を通じた監督」(78%)と「経営執行に対する助言」(74.7%)が多くなっていますが、このうち「経営執行に対する助言」を挙げた投資家は47.1%にとどまっています。一方で、「経営戦略、重要案件等に対する意思決定を通じた監督」の64.7%に次ぐ57.8%の投資家が挙げた「経営陣の評価(選解任・報酬)への関与・助言」を選んだ企業は44.1%に過ぎませんでした(19ページ「4. 社外取締役に期待する役割(投資家・企業)」参照)。
これらの差異は、取締役会の機能に対する、企業と投資家の認識のギャップに基づくと考えられます。企業の多くは取締役会を、「業務執行の意思決定をする会議体」と捉えつつ社外取締役には執行面の助言を求めるという、「アドバイザリーボード」と認識しています。これに対し投資家は、取締役会を、「業務執行を規律付ける機関」と捉えつつ社外取締役には指名・報酬など監督面での貢献を期待するという、「モニタリングボード」として認識しています。企業においてはまず「自社の取締役会はどうあるべきか」のを議論したうえで、議論の結果を踏まえて自社の社外取締役に期待すべき機能を検討することが望ましいでしょう。
アドバイザリーボード : 社外取締役はいるものの、監督と執行が分離されておらず、純粋な監督機能を発揮していない取締役会。社内取締役により構成されるマネジメントボードと独立社外取締役中心に構成されるモニタリングボードの中間的存在と言える。
モニタリングボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会
提言④:デジタル化をはじめとする中長期的な投資戦略の情報開示・対話充実
・70%の企業は手元資金の水準について適正と認識している一方、余裕のある水準と認識している投資家は72%とコロナ禍で昨年度と比べ減少しているものの、依然として双方の認識にギャップがある。
・中⻑期的な投資・財務戦略において、企業は「設備投資」を重視する一方、投資家は「人材投資」「IT投資(デジタル化)」「研究開発投資」といった無形資産を含む投資をより重視している。
・特に企業・投資家ともに「IT投資(デジタル化)」が対前年度比約20ポイント増加し、重視する主要項目となった。
⇒手元資金の水準の妥当性や、デジタル化をはじめとする中⻑期的な投資戦略に関する情報開示・対話の充実 |
投資戦略の前提となる手元資金の水準について、企業の70%が「適正」としている一方、投資家の72%は「余裕のある水準」と回答しています(7ページ参照)。また、手元資金水準の妥当性について、十分または一定程度の説明がされていると考えている投資家は30.3%に過ぎません(62ページ Q3(1)参照)。企業としてはまず、現在の手元資金がなぜ適正な水準と言えるのか、投資家が納得する説明を尽くすことが重要です。「余裕がある」と考えるのであれば、積極的な投資戦略に活用することが求められるでしょう。
重視する投資としては、企業では「設備投資」との回答が55%と最も多かったのに対し、投資家においては20%に過ぎませんでした。一方、「人材投資」を選択した投資家は67%、企業は32%、「IT投資(デジタル化)」は同66%、40%、「研究開発投資」は同63%、37%と、逆に投資家の方が多くなっています(7ページ参照)。いずれの項目においても投資家と企業のギャップが大きくなっている背景として、既存の生産ライン増強といったハード型の投資から、企業の潜在力を高めるソフト型の投資を重視するよう、投資家の意識が変わってきていることを企業は意識しておくべきでしょう。
提言⑤:経営層による対話への関与推進
・82%の企業は対話内容を経営層で共有する仕組みがあるが、投資家は企業に対して「対話内容が経営層に届いていない」、「経営トップが対話に関与していない」と感じている。
⇒経営層による対話への関与や対話内容共有結果の投資家へのフィードバック |
報告書によると、「対話内容を経営層で共有する仕組み」の有無について82%の企業が「仕組みあり」と回答しています(8ページ参照)。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の補充原則5-1②(今回は改訂なし)が、株主との建設的な対話を促進するための方針に「(iv)対話において把握された株主の意見・懸念の経営陣幹部や取締役会に対する適切かつ効果的なフィードバックのための方策」を記載するべきとしていることも、「仕組みあり」との回答が多くなった要因と言えるでしょう。
具体的な「共有する仕組み」としては、「取締役会や経営会議でIR担当者が報告する機会を設けている」が57%、「定期的に経営陣が投資家と対話を行い、経営陣内で共有化している」が56%、「レポート形式にして定期的に経営陣へ送付している」が52%となっています(8ページ参照)。この設問への回答は「複数選択可」となっているため、いくつかの仕組みを組み合わせている企業が多いものと考えられます。
ただし、こうした企業の取り組みに対し、投資家の満足度は低くなっています。「対話に際し、企業に対して感じる課題」として、投資家の51%が「対話内容が経営層に届いていない」、40%が「経営トップが対話に関与していない」と指摘しており(8ページ参照)、経営層による対話への取り組み姿勢が問われています。CGコードの改訂補充原則5-1①は、投資家との対話に「合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むこと」を求めており、上記の補充原則5-1②(iv)と併せて、形だけのコンプライになっていないか検証が必要でしょう。
提言⑥:ESGを含む非財務情報の更なる開示
・対話に際し、投資家は企業が捉える以上に「対話の材料となる情報開示」に期待している。
・特に「気候変動」や「人権と地域社会」といった「環境(E)・社会(S)等の非財務情報」の開示充実を期待する投資家はこれまでも多かったが、更に対前年度比16ポイント増加し、投資家が最も重要視する項目となった。
⇒ESGを含む非財務情報の更なる開示 |
上記でも紹介した設問「対話に際し、企業に対して感じる課題」に対し、49.5%の投資家が「対話の材料となる情報開示」を挙げています(25ページの「17」参照)。また、「対話のきっかけや材料となるための開示充実に向けて企業に期待すること」との設問に対しては、「環境(E)・社会(S)等の非財務情報」を選んだ投資家が54%と最も多くなっています。前年度の38%から大幅に増加しており、取締役会の実効性評価(前年度:47%、今年度:51%)をも上回りました(8ページ参照)。
ESG投融資における主要テーマとしては、実に81.3%の投資家が「気候変動」を選択しました。以下、「コーポレートガバナンス」が67.2%、「ダイバーシティ」と「人権と地域社会」がともに31.3%、「健康と安全」が23.4%、「情報開示」が21.9%と続いています(77ページQ7(6)参照)。各テーマの重要性は企業ごとに異なるとはいえ、少なくとも上位2つの「気候変動」と「コーポレートガバナンス」については特に充実した開示に努めるべきでしょう。
提言⑦:反対比率が高い議案に対する説明充実
・企業が「招集通知での議案内容の説明充実」に重点的に取り組んでいることから、企業・投資家ともに約80%は個別議案の内容について一定程度説明が充実していると感じている。
・ただし、過年度に反対の多かった議案については、投資家は企業が考えている以上に「対話」や「招集通知書における説明充実」を期待している。
⇒過年度の反対比率が高い議案に対する、対話や招集通知書を通じた、議案内容の説明充実 |
株主総会の個別議案に関する説明充実に向けた取り組みとして、投資家の72%が「招集通知の議案内容の説明充実」を望み、これに対し企業の75%が「重点的に取り組んでいる」と回答しています。また、個別議案の内容の説明について「十分に説明されている」とした回答した企業は24%、投資家では3%、「一定程度されている」とした企業は57%、投資家では73%となっており(9ページ参照)、「一定程度」まで含めれば、投資家からも相応の評価を受けていると言えます。
一方で、「過年度に反対の多かった議案について、実施している取組」として、58.8%の企業が「反対理由の分析」と回答したものの、その結果を「招集通知書への説明充実」に結び付けている企業は25.2%にとどまりました。これに対し投資家は、「過年度に反対の多かった議案について、企業に期待する取組」として55.1%が「招集通知書への説明充実」を求めています(30ページ「27」参照)。この差が、上述した個別議案の内容説明についての投資家の回答の偏り(「十分に説明されている」が3%、「一定程度説明されている」が73%)につながっているのかもしれません。
また、投資家の74.5%は、「過年度に反対の多かった議案について、企業に期待する取組」として「投資家との対話」を挙げています(30ページ「27」参照)。投資家にとって議決権の反対行使は対話の一環であり、これを端緒として企業とコミュニケーションを図りたいとの意向を持っていることが少なくありません。企業としては「可決すればよい」「少しでも反対率が低ければなおよい」で終わることなく、次年度に向けて、投資家とお互いの考え方を確認する機会を持つことが望ましいでしょう。
提言⑧:ESG取組の情報開示における、統合報告書等の活用
・ESG取組の情報開示について、企業の29%は開示が十分と認識している一方、十分と認識する投資家は少ないというギャップが継続している。
・開示については、ホームページで行われる場合が多いが、投資家は引き続き「統合報告書」等による開示を求めている。
⇒ホームページに加え、統合報告書等を通じたESG情報の開示充実により、投資家とのコミュニケーションを促進 |
「ESGへの取組に関する情報開示は十分と考えるか」との設問について、「十分開示している」と回答した企業が29%あったのに対し、投資家はわずか3%にとどまりました。しかし、「一定程度開示している」との回答との合計では、企業が77%、投資家が72%となっており(以上、10ぺージ参照)、埋め難いギャップではないことが分かります。投資家の期待に企業もそれなりに応えていると言えるでしょう。
企業がESG情報を開示する媒体は「ホームページ」が78.4%と、昨年度の76%に引き続き最も多いことに加えて、統合報告書も昨年度の42%から今年度は50.6%と、半数を超えるまでに増加しています(52ページQ7(9))。統合報告書が任意開示であることを考えれば、かなり早いスピードで普及していると言えるでしょう。一方、企業がESG情報を開示する媒体として、最も多くの投資家(68.3%)が選んだのは統合報告書であり、ホームページを挙げた投資家は42.3%にとどまっています(80ページQ7(12)参照)。これらの結果を踏まえると、企業には、ESG情報開示の標準フォーマットとしての統合報告書の積極的な作成、および内容の改善が期待されます。
提言⑨:ESG取組の中期経営計画への取込
・45%の企業が新型コロナウイルスの感染拡大の影響でESG取組の重要性が増したと回答している。
・ESG取組を中期経営計画に組み込んだ企業の割合は着実に増加するも、未だ56%に留まる。
・ESG投融資については、66%の投資家は中⻑期的なリターン向上に繋がると考えており、31%の投資家はリターン向上に資するとして積極的な投資スタンスを取っている。
⇒ESG取組の中期経営計画への組み込み等、経営レベルでのコミットメント強化による中⻑期的な企業価値向上 |
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、企業は雇用維持に向けて努力したり、働き方改革を促進したりするなど、人的資本に関する取り組みを通じて、ESGのうち「S(社会)」課題に対する意識を向上させています。これに、従来から注目されてきた「E(環境)」課題である気候変動問題を加えて、企業経営における重要なテーマとして議論することが期待されています。報告書では、中期経営計画にESG要素を組み込んでいる企業は「未だ56%に留まる」としていますが、前年度が47%だったことからすると(11ページ参照)、増加しているとも評価できるでしょう。
また、報告書によると、ESG投融資を行う際のスタンスとして、「リターンを犠牲にしない範囲で投資すべき」と回答した投資家が58%と昨年度に続き最も多かったものの、昨年度の90%からは大幅なダウンとなりました。一方、昨年度は選択肢になかった「リターン向上にもつながるため、積極的に取り組むべき」との回答が31%に達しました(78ページQ7(8)参照)。企業においては、「業績向上=投資リターン拡大」につながる取り組みとしてのESG・サステナビリティ戦略の策定が望まれます。これは、今回のCGコード改訂により新設された補充原則3-1③が上場会社に対し「経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示すべきである」とするとともに、プライム市場上場会社に対して「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響」についての開示の質と量の充実を進めることを求めていることや、改訂補充原則2-3①が取締役会に対し、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応を「リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題」として認識し、中長期的な企業価値の向上の観点からこれらの課題に積極的・能動的に取り組む」ことを求めていることとも整合します。
提言⑩:気候変動が企業活動に与える影響に関する情報開示充実と、情報活用の促進
・ESG取組における主要テーマについては、企業・投資家ともに気候変動と回答した割合が増加。特に投資家においては、昨年度から大きく増加し、81%が気候変動を重視すると回答している。
・TCFD提言に基づく気候変動関連情報の開示・活用も昨年度対比で進展し、今後も拡大していくことが予想される。
⇒企業の気候変動関連情報の開示充実、投資家の情報活用による、リスク把握や投資・ビジネス機会獲得 |
ESG活動における主要テーマを問う設問に対して、最も多くの企業が挙げたのは「コーポレートガバナンス」(昨年度:75%、今年度:71%)でした。「気候変動」は2年連続で次点(昨年度:49%、今年度:55%)となっています。一方、投資家が考えるESG投融資における主要テーマは、昨年度は企業と同様に「コーポレートガバナンス」が最も多く(83%)、「気候変動」は次点(68%)でしたが、今年度は「気候変動」が81%、「コーポレートガバナンス」は67%と逆転しています(12ページ参照)。企業以上に投資家の気候変動に対する意識が高まっていることが分かります。
今回のCGコード改訂によって新設された補充原則3-1③は、プライム市場の上場会社に対し、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」の質と量の充実を求めています。「またはそれと同等の枠組み」という別の選択肢付きとはいえ、特定の開示フレームワークを名指して指定した背景には、上述のような気候変動に対する投資家における急速な意識の高まりがあったものと推察されます。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。
TCFD開示について、「既に開示している」と回答した企業は21%、「現在、開示に向けて検討中」が17%、「今後、開示に向けて検討する予定」が23%と、「予定」まで含めれば合計61%の企業がTCFD開示を受け入れています(12ページ参照)。「2022年4月以降に開催される各社の株主総会後速やかに」とされる改訂CGコードのうちプライム市場上場会社向け特則に対応したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限に向けて、今後さらにTCFD開示への取り組みが加速することが予想されます。