2021/07/26 女性、中途採用者について「自主的かつ測定可能な目標」を開示しない理由

2021年6月24日のニュース「実施する“予定”の原則を「コンプライ」とすることはできるか」では、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等について「自主的かつ測定可能な目標」の開示を求める改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則2-4①(新設)について、「自主的かつ測定可能な目標」を示さない項目がある場合には、その旨およびその理由をコーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)の「中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方」欄に記載すれば、同原則を「コンプライ」としてよい旨、お伝えしたところだ(同ニュースの最終段落参照)。同ニュースでは「外国人」をとり上げ、「国内市場のみをターゲットとしているため外国人の採用は行わない」との理由を例示したが、「女性」「中途採用者」についてはどのような理由を示せば「自主的かつ測定可能な目標」を開示しなくてよいのかとの疑問が企業から聞かれる。

特に中途採用者については雇用情勢にも左右されるため、「測定可能な目標」を立てようがないとの指摘もある。果たして「中途採用は雇用情勢にも左右されるため、中途採用者の管理職への登用等について測定可能な目標を立てることは困難」という理由をCG報告書に記載した場合でも、補充原則2-4①を「コンプライ」としてよいのだろうか。

結論としては、・・・

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2021/07/26 女性、中途採用者について「自主的かつ測定可能な目標」を開示しない理由(会員限定)

2021年6月24日のニュース「実施する“予定”の原則を「コンプライ」とすることはできるか」では、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等について「自主的かつ測定可能な目標」の開示を求める改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則2-4①(新設)について、「自主的かつ測定可能な目標」を示さない項目がある場合には、その旨およびその理由をコーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)の「中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方」欄に記載すれば、同原則を「コンプライ」としてよい旨、お伝えしたところだ(同ニュースの最終段落参照)。同ニュースでは「外国人」をとり上げ、「国内市場のみをターゲットとしているため外国人の採用は行わない」との理由を例示したが、「女性」「中途採用者」についてはどのような理由を示せば「自主的かつ測定可能な目標」を開示しなくてよいのかとの疑問が企業から聞かれる。

特に中途採用者については雇用情勢にも左右されるため、「測定可能な目標」を立てようがないとの指摘もある。果たして「中途採用は雇用情勢にも左右されるため、中途採用者の管理職への登用等について測定可能な目標を立てることは困難」という理由をCG報告書に記載した場合でも、補充原則2-4①を「コンプライ」としてよいのだろうか。

結論としては、コンプライとして問題ない。「自主的かつ測定可能な目標」を開示しない理由はあくまで各企業に委ねられている。例えば「当社は新卒社員を中心に採用し、長期間かけて育成する方針であるため、中途採用者について測定可能な目標は立てていない」といった理由も考えられる。また、改訂CGコードとともに6月11日に公表された改訂「投資家と企業の対話ガイドライン」のうち、サステナビリティに関して新設された1-3には、「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」との文言がパブリックコメント後に追記されたが、「国際的な経済安全保障の観点から、人材採用は慎重に行っているため、中途採用者について測定可能な目標は立てていない」といった理由も考えられよう(2021年6月11日のニュース「速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更」の最終段落参照)。

では、「女性」についてどうだろうか。上述のとおり、「自主的かつ測定可能な目標」を開示しない理由は企業に委ねられているため、理屈の上では、CG報告書に何らかの理由を記載することで、開示を回避することもあり得る。しかし、このような選択は、CGコード原則4-11が取締役会の構成にジェンダー等の多様性を求める中、企業にとって喫緊の課題となっている女性役員候補の人材プールを作るという現在の趨勢と相反するうえ、女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保を求めるCGコード原則2-4とも完全に矛盾する。また、女性役員等の登用を求める多くの投資家から厳しい評価を受けることはもちろん、採用活動、企業イメージにもネガティブな影響を与えることは間違いない。女性については補充原則2-4①にとどまらないテーマであることを認識し、「自主的かつ測定可能な目標」の開示は必須と考えるべきだろう。

2021/07/26 【WEBセミナー】2021年6月総会の状況

概略

【WEBセミナー収録日】2021年7月21日

昨年に続きコロナ禍での開催となった2021年6月株主総会では、バーチャル株主総会を開催する企業が昨年の2.5倍以上と大幅に増加しました。こうした中、株主行動がどのように変化するのかは、今株主総会の注目ポイントの一つとなりました。また、いくつかの企業では、経営陣と大株主やアクティビストの対立が早くから話題と呼んでおり、その影響を受ける議案の行方など、何かと見どころの多い株主総会シーズンとなりました。
本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2021年6月株主総会の結果を詳細に分析していただきます。経営陣と大株主やアクティビストの対立の中で提案された会社提案議案の行方、経営トップや社外取締役選任議案への賛成率の動向、バーチャル株主総会が普及する中での議決権行使率の変化、今株主総会で目に付いた株主提案議案、“ESGアクティビズム”という言葉も生まれる中、今年も散見された気候変動に関する株主提案への賛否状況など、株主総会議案についての分析のほか、TCFD開示やスキル・マトリックスの開示など、改訂コーポレートガバナンス・コードを先取りした情報発信の状況、さらには、バーチャル株主総会の視聴率・視聴者の属性、コロナ禍における事前質問制の活用状況と回答方法、株主総会における発言内容の詳細な分析など、3月決算企業にとっては来年の株主総会に向けて、3月決算以外の企業にとっては今後開催する株主総会に向けて参考になる情報が満載のセミナーとなっています。

【講師】三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部
中川 雅博 様

セミナー資料 2021年6月総会の状況.pdf

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セミナー動画

2021年6月総会の状況(前編)

57289a

2021年6月総会の状況(後編)

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2021/07/26 WEBセミナー「2021年6月総会の状況」配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2021年7月26日(月)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講 師
2021年6月総会の状況 三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部
中川 雅博 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
昨年に続きコロナ禍での開催となった2021年6月株主総会では、バーチャル株主総会を開催する企業が昨年の2.5倍以上と大幅に増加しました。こうした中、株主行動がどのように変化するのかは、今株主総会の注目ポイントの一つとなりました。また、いくつかの企業では、経営陣と大株主やアクティビストの対立が早くから話題と呼んでおり、その影響を受ける議案の行方など、何かと見どころの多い株主総会シーズンとなりました。
本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2021年6月株主総会の結果を詳細に分析していただきます。経営陣と大株主やアクティビストの対立の中で提案された会社提案議案の行方、経営トップや社外取締役選任議案への賛成率の動向、バーチャル株主総会が普及する中での議決権行使率の変化、今株主総会で目に付いた株主提案議案、“ESGアクティビズム”という言葉も生まれる中、今年も散見された気候変動に関する株主提案への賛否状況など、株主総会議案についての分析のほか、TCFD開示やスキル・マトリックスの開示など、改訂コーポレートガバナンス・コードを先取りした情報発信の状況、さらには、バーチャル株主総会の視聴率・視聴者の属性、コロナ禍における事前質問制の活用状況と回答方法、株主総会における発言内容の詳細な分析など、3月決算企業にとっては来年の株主総会に向けて、3月決算以外の企業にとっては今後開催する株主総会に向けて参考になる情報が満載のセミナーとなっています。
講師の
ご紹介
中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人コンサルティング部に所属し、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第2部担当)も務める。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
https://govforum.jp/member/webseminar-webseminar-l/57289/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://docs.google.com/forms/d/1Lc3QCWChivK9oaMHhJd7GhfZQ2jsu1pXp47ERhOa7hE

<収録月>
2021年7月

<収録時間>
1時間21分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2021/07/26 【WEBセミナー】2021年6月総会の状況(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2021年7月26日

昨年に続きコロナ禍での開催となった2021年6月株主総会では、バーチャル株主総会を開催する企業が昨年の2.5倍以上と大幅に増加しました。こうした中、株主行動がどのように変化するのかは、今株主総会の注目ポイントの一つとなりました。また、いくつかの企業では、経営陣と大株主やアクティビストの対立が早くから話題と呼んでおり、その影響を受ける議案の行方など、何かと見どころの多い株主総会シーズンとなりました。
本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2021年6月株主総会の結果を詳細に分析していただきます。経営陣と大株主やアクティビストの対立の中で提案された会社提案議案の行方、経営トップや社外取締役選任議案への賛成率の動向、バーチャル株主総会が普及する中での議決権行使率の変化、今株主総会で目に付いた株主提案議案、“ESGアクティビズム”という言葉も生まれる中、今年も散見された気候変動に関する株主提案への賛否状況など、株主総会議案についての分析のほか、TCFD開示やスキル・マトリックスの開示など、改訂コーポレートガバナンス・コードを先取りした情報発信の状況、さらには、バーチャル株主総会の視聴率・視聴者の属性、コロナ禍における事前質問制の活用状況と回答方法、株主総会における発言内容の詳細な分析など、3月決算企業にとっては来年の株主総会に向けて、3月決算以外の企業にとっては今後開催する株主総会に向けて参考になる情報が満載のセミナーとなっています。

【講師】三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部
中川 雅博 様

セミナー資料 2021年6月総会の状況.pdf
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2021年6月総会の状況(前編)

2021年6月総会の状況(後編)

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2021/07/24 【2021年6月の課題】投資家の問題意識に対する自社の取り組み(会員限定)

企業向けの各提言の背景にある投資家の問題意識と企業の取り組み

生命保険協会は2021年4月、報告書「生命保険会社の資産運用を通じた 『株式市場の活性化』と『持続可能な社会の実現』に向けた取組について」を公表しました。同協会は毎年、企業および投資家の意識や取り組みに関するアンケート調査を実施しており、2020年度は国内市場の上場企業508社、国内拠点を持つ機関投資家108社から回答を得ています。

今回の報告書では、アンケート結果を踏まえて企業向けに10、投資家向けに4、政府向けに1、合計14(重複あり)の提言を行っています。本稿では、企業向けの各提言について、背景にある投資家の問題意識と併せて解説したうえで、上場企業が各提言にどのように取り組むことが望ましいか考察します。
※なお、以下の各提言は企業向けに限定してピックアップしたものであるため、報告書中の番号付けと一致しないしない点、ご留意ください。

提言①:中長期的な株主還元拡大(配当性向30%以上)
・80%の投資家は、株主還元・配当水準に対して十分には満足しておらず、コロナ禍前後で投資家のスタンスに変化はない。
・昨年度と同程度の56%の投資家が、中⻑期的に配当性向30%以上を期待する一方、上場企業の配当性向実績は改善傾向にあるものの、未だ42%の企業は配当性向30%未満に留まる。
⇒対話を通じて投資家の期待値を把握の上、配当性向30%以上を目標に、中⻑期的に株主還元を拡大

配当性向 : 配当総額/当期純利益

上場企業各社の株主還元・配当の水準について「多くの企業(6割以上)が満足できる水準」と回答した投資家は、昨年度と同程度の19.8%にとどまりました(65ページQ4(1)参照)。2020年度の配当性向が30%未満の企業が42%に上った一方(5ページ参照)、この水準を望ましいとする投資家は12.4%に過ぎず(66ページQ4(4)参照)、両者の認識には大きなギャップがあります。もっとも、「水準には拘らない」と回答した投資家も32%ありました(66ページQ4(4)参照)。

以上を勘案すると、企業としてはまず、上場企業のミニマムスタンダードとして配当性向30%を意識することが必要になります。そのうえで「水準には拘らない」とする投資家や、ROEなどと併せて判断する投資家(60ページQ2(1)の選択肢K(株主資本配当率=DOE)参照)も一定数存在することを踏まえて、配当性向を柔軟に設定・運用する必要があります。「配当性向×ROE」によって算出される株主資本配当率(DOE)をベースに考えれば、配当性向が30%でもROEが5%ならばDOEは1.5%に過ぎず、欧米企業の平均的水準と言われる4〜5%には遠く及びません。一方、ROEが20%あれば配当性向は20%でもDOEは4%に達します。ROEの高さは事業に再投資する価値があることを表しており、これが低い場合は配当性向30%にこだわらず、より積極的な株主還元を行うことが望ましいでしょう。また、通常は株主総会決議を経る必要がある配当のみならず、機動的な実施が可能な自己株式取得も組み合わせた株主還元策も検討するべきでしょう。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)
株主資本配当率 : 「DOE(Dividend On Equity ratio=株主資本(純資産)配当率」は、株主資本(株主からの出資金に、これまでの事業活動によって稼ぎ出した利益を加えたもの。貸借対照表の「資本の部」の合計)に対して会社がどの程度の配当を行っているかを示す指標であり、「配当総額/期末時点の資本の部の合計」により算出される。
この算式を「当期純利益」を使って分解すると、「DOE=ROE×配当性向」となる。すなわち、会社がこの株主資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示す「ROE」に配当性向を乗じたものがDOEであることが分かる。すなわち、DOEは「会社の収益拡大」と「株主還元」の両方を考慮に入れた指標と言える。

提言②:資本コストを踏まえたROEの目標設定と水準向上
・81%の投資家は、中⻑期的に8%以上のROE水準を期待しており、コロナ禍前後で投資家のスタンスに変化はない。一方、上場企業の52%はROE8%未満に留まる。
・資本コスト(株主の要求収益率)を算出していない企業の割合は38%と昨年度から大きな変化はなく、企業が資本コストを把握していないことが引き続き投資家の期待との乖離の一因と考えられる。
⇒中⻑期的なROE向上に向けて、資本コストを算出の上、ROE目標を設定

中長期的に望ましいROE水準としては、投資家の約半数の48%が「10%以上」を支持しており、さらに高い水準を求める投資家も合わせると58%に達しました。一方で「8%以上10%未満」とした投資家は23%にとどまっており、このレンジのROEでは投資家の期待に応えているとは言い難いと考えられます。全上場企業の52%はROEが8%に達していないことから、期待と実績のギャップが相当に大きいことが示唆されています(6ページ参照)。

日本企業のROEが資本コストを上回っているかという設問に対しては、56%の投資家が「下回っている」と回答しています(61ページQ2(3)ページ参照)。報告書によると93%の企業が資本コストを算出(62%)もしくは把握(31%)していますが(6ページ参照)、企業が設定している資本コストが投資家の期待する資本コストと乖離していることが、上述のギャップが生じる要因の一つになっていると言えるでしょう。

2014年に経済産業省から公表された「伊藤レポート」では、海外投資家で7.2%、国内投資家で6.3%という平均資本コストを想定し、最低限「8%」を上回るROEの達成に企業はコミットすべき、と提言しています。ここで重要なのは、まず自社の資本コストを過小評価しないこと、そのうえで「十分な」プレミアムを付けたROE目標を設定することです。例えば、資本コストが5〜6%で目標ROEが8%といった設定は、相当なディフェンシブ銘柄でもない限り、説得力に欠けると言えるでしょう。

ディフェンシブ銘柄 : 景気動向に株価が左右されにくい銘柄のこと。株価の動きが小さい代わりに、安定的な配当利回りが見込める。ディフェンシブ銘柄が多い業種としては、鉄道、電力、通信、食品などが上がられる。逆に景気動向に株価が左右されやすい銘柄を景気敏感株という。

提言③:社外取締役に期待する役割・実績についての情報開示を充実
・56%の投資家は、社外取締役の機能発揮に改善の余地があると感じており、企業の認識と乖離がある。
・特に投資家は、社外取締役の役割として「経営陣の評価への関与・助言」や「不祥事の未然防止に向けた体制の監督」を企業以上に重要と考えている。
⇒社外取締役に期待する役割と実績について、開示の充実と対話等を通じた投資家への丁寧な説明

社外取締役に期待している役割について、企業の49%は「期待通り十分に果たされている」、48%は「一定程度果たされている」と考えており、満足度はかなり高くなっています。しかし、投資家の認識は企業とは対照的となっており、「期待通り十分に果たされている」との回答はわずか2%、「一定程度果たされている」も35%にとどまっており、過半数の56%が「不十分であり改善の余地がある」と指摘しています(6ページ参照)。この大きな乖離から想定されるのは、そもそも企業と投資家の間で「社外取締役に期待している役割」の捉え方が大きく異なっているということです。

社外取締役に期待する役割として、企業では「経営戦略、重要案件等に対する意思決定を通じた監督」(78%)と「経営執行に対する助言」(74.7%)が多くなっていますが、このうち「経営執行に対する助言」を挙げた投資家は47.1%にとどまっています。一方で、「経営戦略、重要案件等に対する意思決定を通じた監督」の64.7%に次ぐ57.8%の投資家が挙げた「経営陣の評価(選解任・報酬)への関与・助言」を選んだ企業は44.1%に過ぎませんでした(19ページ「4. 社外取締役に期待する役割(投資家・企業)」参照)。

これらの差異は、取締役会の機能に対する、企業と投資家の認識のギャップに基づくと考えられます。企業の多くは取締役会を、「業務執行の意思決定をする会議体」と捉えつつ社外取締役には執行面の助言を求めるという、「アドバイザリーボード」と認識しています。これに対し投資家は、取締役会を、「業務執行を規律付ける機関」と捉えつつ社外取締役には指名・報酬など監督面での貢献を期待するという、「モニタリングボード」として認識しています。企業においてはまず「自社の取締役会はどうあるべきか」のを議論したうえで、議論の結果を踏まえて自社の社外取締役に期待すべき機能を検討することが望ましいでしょう。

アドバイザリーボード : 社外取締役はいるものの、監督と執行が分離されておらず、純粋な監督機能を発揮していない取締役会。社内取締役により構成されるマネジメントボードと独立社外取締役中心に構成されるモニタリングボードの中間的存在と言える。
モニタリングボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会

提言④:デジタル化をはじめとする中長期的な投資戦略の情報開示・対話充実
・70%の企業は手元資金の水準について適正と認識している一方、余裕のある水準と認識している投資家は72%とコロナ禍で昨年度と比べ減少しているものの、依然として双方の認識にギャップがある。
・中⻑期的な投資・財務戦略において、企業は「設備投資」を重視する一方、投資家は「人材投資」「IT投資(デジタル化)」「研究開発投資」といった無形資産を含む投資をより重視している。
・特に企業・投資家ともに「IT投資(デジタル化)」が対前年度比約20ポイント増加し、重視する主要項目となった。
⇒手元資金の水準の妥当性や、デジタル化をはじめとする中⻑期的な投資戦略に関する情報開示・対話の充実

投資戦略の前提となる手元資金の水準について、企業の70%が「適正」としている一方、投資家の72%は「余裕のある水準」と回答しています(7ページ参照)。また、手元資金水準の妥当性について、十分または一定程度の説明がされていると考えている投資家は30.3%に過ぎません(62ページ Q3(1)参照)。企業としてはまず、現在の手元資金がなぜ適正な水準と言えるのか、投資家が納得する説明を尽くすことが重要です。「余裕がある」と考えるのであれば、積極的な投資戦略に活用することが求められるでしょう。

重視する投資としては、企業では「設備投資」との回答が55%と最も多かったのに対し、投資家においては20%に過ぎませんでした。一方、「人材投資」を選択した投資家は67%、企業は32%、「IT投資(デジタル化)」は同66%、40%、「研究開発投資」は同63%、37%と、逆に投資家の方が多くなっています(7ページ参照)。いずれの項目においても投資家と企業のギャップが大きくなっている背景として、既存の生産ライン増強といったハード型の投資から、企業の潜在力を高めるソフト型の投資を重視するよう、投資家の意識が変わってきていることを企業は意識しておくべきでしょう。

提言⑤:経営層による対話への関与推進
・82%の企業は対話内容を経営層で共有する仕組みがあるが、投資家は企業に対して「対話内容が経営層に届いていない」、「経営トップが対話に関与していない」と感じている。
⇒経営層による対話への関与や対話内容共有結果の投資家へのフィードバック

報告書によると、「対話内容を経営層で共有する仕組み」の有無について82%の企業が「仕組みあり」と回答しています(8ページ参照)。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の補充原則5-1②(今回は改訂なし)が、株主との建設的な対話を促進するための方針に「(iv)対話において把握された株主の意見・懸念の経営陣幹部や取締役会に対する適切かつ効果的なフィードバックのための方策」を記載するべきとしていることも、「仕組みあり」との回答が多くなった要因と言えるでしょう。

具体的な「共有する仕組み」としては、「取締役会や経営会議でIR担当者が報告する機会を設けている」が57%、「定期的に経営陣が投資家と対話を行い、経営陣内で共有化している」が56%、「レポート形式にして定期的に経営陣へ送付している」が52%となっています(8ページ参照)。この設問への回答は「複数選択可」となっているため、いくつかの仕組みを組み合わせている企業が多いものと考えられます。

ただし、こうした企業の取り組みに対し、投資家の満足度は低くなっています。「対話に際し、企業に対して感じる課題」として、投資家の51%が「対話内容が経営層に届いていない」、40%が「経営トップが対話に関与していない」と指摘しており(8ページ参照)、経営層による対話への取り組み姿勢が問われています。CGコードの改訂補充原則5-1①は、投資家との対話に「合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むこと」を求めており、上記の補充原則5-1②(iv)と併せて、形だけのコンプライになっていないか検証が必要でしょう。

提言⑥:ESGを含む非財務情報の更なる開示
・対話に際し、投資家は企業が捉える以上に「対話の材料となる情報開示」に期待している。
・特に「気候変動」や「人権と地域社会」といった「環境(E)・社会(S)等の非財務情報」の開示充実を期待する投資家はこれまでも多かったが、更に対前年度比16ポイント増加し、投資家が最も重要視する項目となった。
⇒ESGを含む非財務情報の更なる開示

上記でも紹介した設問「対話に際し、企業に対して感じる課題」に対し、49.5%の投資家が「対話の材料となる情報開示」を挙げています(25ページの「17」参照)。また、「対話のきっかけや材料となるための開示充実に向けて企業に期待すること」との設問に対しては、「環境(E)・社会(S)等の非財務情報」を選んだ投資家が54%と最も多くなっています。前年度の38%から大幅に増加しており、取締役会の実効性評価(前年度:47%、今年度:51%)をも上回りました(8ページ参照)。

ESG投融資における主要テーマとしては、実に81.3%の投資家が「気候変動」を選択しました。以下、「コーポレートガバナンス」が67.2%、「ダイバーシティ」と「人権と地域社会」がともに31.3%、「健康と安全」が23.4%、「情報開示」が21.9%と続いています(77ページQ7(6)参照)。各テーマの重要性は企業ごとに異なるとはいえ、少なくとも上位2つの「気候変動」と「コーポレートガバナンス」については特に充実した開示に努めるべきでしょう。

提言⑦:反対比率が高い議案に対する説明充実
・企業が「招集通知での議案内容の説明充実」に重点的に取り組んでいることから、企業・投資家ともに約80%は個別議案の内容について一定程度説明が充実していると感じている。
・ただし、過年度に反対の多かった議案については、投資家は企業が考えている以上に「対話」や「招集通知書における説明充実」を期待している。
⇒過年度の反対比率が高い議案に対する、対話や招集通知書を通じた、議案内容の説明充実

株主総会の個別議案に関する説明充実に向けた取り組みとして、投資家の72%が「招集通知の議案内容の説明充実」を望み、これに対し企業の75%が「重点的に取り組んでいる」と回答しています。また、個別議案の内容の説明について「十分に説明されている」とした回答した企業は24%、投資家では3%、「一定程度されている」とした企業は57%、投資家では73%となっており(9ページ参照)、「一定程度」まで含めれば、投資家からも相応の評価を受けていると言えます。

一方で、「過年度に反対の多かった議案について、実施している取組」として、58.8%の企業が「反対理由の分析」と回答したものの、その結果を「招集通知書への説明充実」に結び付けている企業は25.2%にとどまりました。これに対し投資家は、「過年度に反対の多かった議案について、企業に期待する取組」として55.1%が「招集通知書への説明充実」を求めています(30ページ「27」参照)。この差が、上述した個別議案の内容説明についての投資家の回答の偏り(「十分に説明されている」が3%、「一定程度説明されている」が73%)につながっているのかもしれません。

また、投資家の74.5%は、「過年度に反対の多かった議案について、企業に期待する取組」として「投資家との対話」を挙げています(30ページ「27」参照)。投資家にとって議決権の反対行使は対話の一環であり、これを端緒として企業とコミュニケーションを図りたいとの意向を持っていることが少なくありません。企業としては「可決すればよい」「少しでも反対率が低ければなおよい」で終わることなく、次年度に向けて、投資家とお互いの考え方を確認する機会を持つことが望ましいでしょう。

提言⑧:ESG取組の情報開示における、統合報告書等の活用
・ESG取組の情報開示について、企業の29%は開示が十分と認識している一方、十分と認識する投資家は少ないというギャップが継続している。
・開示については、ホームページで行われる場合が多いが、投資家は引き続き「統合報告書」等による開示を求めている。
⇒ホームページに加え、統合報告書等を通じたESG情報の開示充実により、投資家とのコミュニケーションを促進

「ESGへの取組に関する情報開示は十分と考えるか」との設問について、「十分開示している」と回答した企業が29%あったのに対し、投資家はわずか3%にとどまりました。しかし、「一定程度開示している」との回答との合計では、企業が77%、投資家が72%となっており(以上、10ぺージ参照)、埋め難いギャップではないことが分かります。投資家の期待に企業もそれなりに応えていると言えるでしょう。

企業がESG情報を開示する媒体は「ホームページ」が78.4%と、昨年度の76%に引き続き最も多いことに加えて、統合報告書も昨年度の42%から今年度は50.6%と、半数を超えるまでに増加しています(52ページQ7(9))。統合報告書が任意開示であることを考えれば、かなり早いスピードで普及していると言えるでしょう。一方、企業がESG情報を開示する媒体として、最も多くの投資家(68.3%)が選んだのは統合報告書であり、ホームページを挙げた投資家は42.3%にとどまっています(80ページQ7(12)参照)。これらの結果を踏まえると、企業には、ESG情報開示の標準フォーマットとしての統合報告書の積極的な作成、および内容の改善が期待されます。

提言⑨:ESG取組の中期経営計画への取込
・45%の企業が新型コロナウイルスの感染拡大の影響でESG取組の重要性が増したと回答している。
・ESG取組を中期経営計画に組み込んだ企業の割合は着実に増加するも、未だ56%に留まる。
・ESG投融資については、66%の投資家は中⻑期的なリターン向上に繋がると考えており、31%の投資家はリターン向上に資するとして積極的な投資スタンスを取っている。
⇒ESG取組の中期経営計画への組み込み等、経営レベルでのコミットメント強化による中⻑期的な企業価値向上

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、企業は雇用維持に向けて努力したり、働き方改革を促進したりするなど、人的資本に関する取り組みを通じて、ESGのうち「S(社会)」課題に対する意識を向上させています。これに、従来から注目されてきた「E(環境)」課題である気候変動問題を加えて、企業経営における重要なテーマとして議論することが期待されています。報告書では、中期経営計画にESG要素を組み込んでいる企業は「未だ56%に留まる」としていますが、前年度が47%だったことからすると(11ページ参照)、増加しているとも評価できるでしょう。

また、報告書によると、ESG投融資を行う際のスタンスとして、「リターンを犠牲にしない範囲で投資すべき」と回答した投資家が58%と昨年度に続き最も多かったものの、昨年度の90%からは大幅なダウンとなりました。一方、昨年度は選択肢になかった「リターン向上にもつながるため、積極的に取り組むべき」との回答が31%に達しました(78ページQ7(8)参照)。企業においては、「業績向上=投資リターン拡大」につながる取り組みとしてのESG・サステナビリティ戦略の策定が望まれます。これは、今回のCGコード改訂により新設された補充原則3-1③が上場会社に対し「経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示すべきである」とするとともに、プライム市場上場会社に対して「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響」についての開示の質と量の充実を進めることを求めていることや、改訂補充原則2-3①が取締役会に対し、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応を「リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題」として認識し、中長期的な企業価値の向上の観点からこれらの課題に積極的・能動的に取り組む」ことを求めていることとも整合します。

提言⑩:気候変動が企業活動に与える影響に関する情報開示充実と、情報活用の促進
・ESG取組における主要テーマについては、企業・投資家ともに気候変動と回答した割合が増加。特に投資家においては、昨年度から大きく増加し、81%が気候変動を重視すると回答している。
・TCFD提言に基づく気候変動関連情報の開示・活用も昨年度対比で進展し、今後も拡大していくことが予想される。
⇒企業の気候変動関連情報の開示充実、投資家の情報活用による、リスク把握や投資・ビジネス機会獲得

ESG活動における主要テーマを問う設問に対して、最も多くの企業が挙げたのは「コーポレートガバナンス」(昨年度:75%、今年度:71%)でした。「気候変動」は2年連続で次点(昨年度:49%、今年度:55%)となっています。一方、投資家が考えるESG投融資における主要テーマは、昨年度は企業と同様に「コーポレートガバナンス」が最も多く(83%)、「気候変動」は次点(68%)でしたが、今年度は「気候変動」が81%、「コーポレートガバナンス」は67%と逆転しています(12ページ参照)。企業以上に投資家の気候変動に対する意識が高まっていることが分かります。

今回のCGコード改訂によって新設された補充原則3-1③は、プライム市場の上場会社に対し、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」の質と量の充実を求めています。「またはそれと同等の枠組み」という別の選択肢付きとはいえ、特定の開示フレームワークを名指して指定した背景には、上述のような気候変動に対する投資家における急速な意識の高まりがあったものと推察されます。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

TCFD開示について、「既に開示している」と回答した企業は21%、「現在、開示に向けて検討中」が17%、「今後、開示に向けて検討する予定」が23%と、「予定」まで含めれば合計61%の企業がTCFD開示を受け入れています(12ページ参照)。「2022年4月以降に開催される各社の株主総会後速やかに」とされる改訂CGコードのうちプライム市場上場会社向け特則に対応したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限に向けて、今後さらにTCFD開示への取り組みが加速することが予想されます。
 
 
 
 

2021/07/23 夏季休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2021年8月9日(月)~2021年8月13日(金)は事務局の夏季休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

なお、会員登録は夏季休業期間中もオンラインにて可能です。
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2021/07/21 その他資本剰余金による繰越損失補填、事前確認不足で総会決議が無効に

株主総会は株式会社の最高意思決定機関であるが、「最高」といっても株主総会で決議したことすべてが無条件に効力を有するわけではない。法令、定款、会計基準等に違反する内容の決議であれば、それが株主の意思だとしても効力を持たない(すなわち無効)ことになる。実際に、株主総会で決議した内容が会計基準に違反しているとして無効になったのが、アパレルの・・・

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2021/07/21 その他資本剰余金による繰越損失補填、事前確認不足で総会決議が無効に(会員限定)

株主総会は株式会社の最高意思決定機関であるが、「最高」といっても株主総会で決議したことすべてが無条件に効力を有するわけではない。法令、定款、会計基準等に違反する内容の決議であれば、それが株主の意思だとしても効力を持たない(すなわち無効)ことになる。実際に、株主総会で決議した内容が会計基準に違反しているとして無効になったのが、アパレルのタカキュー(東証第一部)だ。同社が2021年7月15日に公表した「第72回定時株主総会 第1号議案(剰余金の処分の件)無効のお知らせ」によると、同社が2021年5月21日に開催した第72回定時株主総会において原案通り承認可決された「第1号議案 剰余金の処分の件」の決議内容が、株主総会後に企業会計基準に反するものであったことが判明し、無効となっている。

無効となった議案の内容は次のとおり。

第1号議案 剰余金の処分の件
 資本構成の是正を図り、今後の資本政策の機動性を確保するため、会社法第452条の規定に基づき、その他資本剰余金の一部を繰越利益剰余金に振替えることにより、繰越損失の補填に充当いたしたいと存じます。

剰余金の処分に関する事項
 2021年2月28日現在のその他資本剰余金2,468,485,023円のうち、1,983,029,684円を、繰越利益剰余金に振替える処理をいたしたいと存じます。
 これにより、振替後のその他資本剰余金の額は、485,455,339円、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)の額は0円となります。
1.減少する剰余金の項目及びその額
  その他資本剰余金 1,983,029,684円
2.増加する剰余金の項目及びその額
  繰越利益剰余金 1,983,029,684円

その他資本剰余金 : 会社にとっての“余剰金”である剰余金は、(1)増資などの資本取引により得た金額のうち資本金に組み入れていない金額である「資本剰余金」と、(2)企業活動で得た利益のうち、株主に還元(配当、自己株式の取得)せずに社内に留保してきた金額である「利益剰余金」に分けられるが、これらの剰余金をすべて配当してしまうと、債権者保護の観点から問題があるため、会社法では、これらの剰余金のうちの一部を、それぞれ「資本準備金」「利益準備金」として積み立てることを求めている(両準備金を合わせて「法定準備金」という)。資本剰余金から資本準備金を差し引いた金額が「その他資本剰余金」、利益剰余金から利益準備金を差し引いた金額が「その他利益剰余金」であり、これらの合計額は配当が認められる「分配可能額」とされる(厳密には、さらに自己株式等の調整計算も必要になる)。
繰越利益剰余金 : 最終利益のうち配当や利益準備金・各種積立金に回されなかった余剰の累積。利益が出ている会社では通常はプラスの金額であるが、損失が続いている会社ではマイナスの金額になることもある。

なぜこの議案が無効となったのかを理解するためには、同社の株主資本の内容および動きを把握しておく必要がある。同社の2020年2月期からの株主資本の動きを整理すると次のとおり(「振替」は株主総会の決議どおりに実施した場合。「振替後」の列では期中獲得利益はゼロ、その他の資本取引はなしと仮定している)。

■株主総会の決議どおりに「その他資本剰余金」から利益剰余金に振り替えた場合
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タカキューはもともと本業で苦戦していたところ、コロナ禍でさらに業績が落ち込み、2021年2月期だけで86もの店舗を閉鎖するなど経営環境の悪化が著しかった。そこでタカキューは、まず2020年2月期の定時株主総会で資本金の無償減資を行い資本金のうち19億円を「その他資本剰余金」に振り替え、さらに2021年2月期の定時株主総会でその他資本剰余金1,983百万円を繰越利益剰余金に振り替えることで、繰越利益剰余金のマイナス(△1,983百万円)を一掃することを予定していた。

無償減資 : 対価を支払わずに資本金を減少させること。資本金が減少した分(減資差益)だけ、その他資本剰余金が増加する。

しかし、自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第61項では、その他資本剰余金による補填の対象となる利益剰余金は、「年度決算時の負の残高に限られる」とされている。これをタカキューの2021年2月期のB/Sに当てはめて考えると、タカキューの「年度決算時の(利益剰余金の)負の残高」は、利益準備金500百万円と繰越利益剰余金△1,983百万円の合計額である「△1,483百万円」となるため、下図のとおり「その他資本剰余金」から利益剰余金に振り替えることができる金額の上限は「1,483百万円」となる(すなわち、利益準備金500百万円の分は振り替えができず、同額分のマイナスの繰越利益剰余金が残ってしまう)。

■仮に会計基準が許容する限度ぎりぎりまで「その他資本剰余金」から利益剰余金に振り替えた場合
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ところが、同社は500百万円の利益準備金を減額することを失念し、1,983百万円全額をその他資本剰余金から繰越利益剰余金に振り替えようとしていた。これはその他資本剰余金の“取崩し過ぎ”に該当することから、第1号議案は無効となった。その結果、本議案によるその他資本剰余金の繰越利益剰余金への振替えは効力を生じないこととなり、同社の繰越利益剰余金△1,983百万円は一切解消されないままとなっている。

第1号議案の提案理由に記載されている「今後の資本政策の機動性」の詳細は明らかにされていないが、繰越利益剰余金のマイナス分を一掃することで、今後利益を計上して繰越利益剰余金がプラスに転じた際に繰越利益剰余金からの配当をしやすい状況にすることが狙いであったものと思われる。もちろん、繰越利益剰余金がマイナスであっても分配可能額の範囲内(分配可能額の詳細についてはケーススタディ【配当】配当をしたい の「難解な分配可能額の計算」を参照)であれば「その他資本剰余金」から配当することも可能だが、その他資本剰余金からの配当は資本の払い戻しに他ならず、会社資本の縮小を意味するため、投資家からのウケは良くない。また、純資産の“見栄え”を改善することも、今回の振替えの目的の一つであった可能性がある。実際には、その他資本剰余金を振り替える形で繰越利益剰余金のマイナス分に補填しても純資産の中で数字を動かしているに過ぎず、純資産の総額は何ら変わらないが、業績不振により累積された繰越利益剰余金のマイナスを消すことができる。

タカキューは第1号議案について、「当社会計監査人との事前協議を経て会社提案とした」との弁明を記載しており、会計監査人である有限責任監査法人トーマツの確認も十分でなかったようだ。ただ、議案自体は会計監査人の監査対象ではないうえ、会計基準との整合性の確認を怠っていたことの責めを負うべきは自社であることに変わりはない。コロナ禍で利益剰余金のマイナスが膨らんだ企業の中には、タカキューと同様、資本剰余金を利益剰余金に振り替えることを検討しているところもあろう。振替えを実行するのであれば、タカキューと同じミスを犯さないよう注意したい。

2021/07/20 “身の丈に合った市場”に移行するという選択

現在2200社弱ある東証一部上場会社の中で、2022年4月4日にスタートする新市場区分のうち「プライム市場」の上場維持基準に適合していないところは、東証が(2021年)7月9日に上場会社各社に通知した「新市場の上場維持基準への適合状況の一次判定結果」ベースで664社にも上るとされる。今後、上場会社各社は、「2021年9月1日〜12月30日」の間にどの市場を選択するかを東証に申請することになるが、新市場の上場維持基準を満たしていない企業であっても、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、「当分の間」はプライム市場上場を維持することができるとの経過措置があるため、664社のうちの相当数はプライム市場を選択することが予想される。

ただ、「当分の間」とされる経過措置の適用期間もいずれは終わりが来る。その時にスタンダード市場にやむなく移行するのであれば、最初の市場選択の段階(2021年9月1日〜12月30日)で自ら積極的にスタンダード市場を選択するという経営判断も十分にあり得る。現在の東証一部上場会社の7割超はマザーズや東証二部を経由して“緩和された上場基準”(本来は時価総額250億円必要であるところ40億円)により東証一部上場を果たしているが、特にこれらの会社の中には、プライム市場の上場維持基準を満たす目途が立たないというところもあろう。このような状況の場合、むしろ最初の市場選択のタイミグでスタンダード市場を選択する方が賢明とも言える。

というのも、・・・

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