2021/07/20 “身の丈に合った市場”に移行するという選択(会員限定)

現在2200社弱ある東証一部上場会社の中で、2022年4月4日にスタートする新市場区分のうち「プライム市場」の上場維持基準に適合していないところは、東証が(2021年)7月9日に上場会社各社に通知した「新市場の上場維持基準への適合状況の一次判定結果」ベースで664社にも上るとされる。今後、上場会社各社は、「2021年9月1日〜12月30日」の間にどの市場を選択するかを東証に申請することになるが、新市場の上場維持基準を満たしていない企業であっても、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、「当分の間」はプライム市場上場を維持することができるとの経過措置があるため、664社のうちの相当数はプライム市場を選択することが予想される。

ただ、「当分の間」とされる経過措置の適用期間もいずれは終わりが来る。その時にスタンダード市場にやむなく移行するのであれば、最初の市場選択の段階(2021年9月1日〜12月30日)で自ら積極的にスタンダード市場を選択するという経営判断も十分にあり得る。現在の東証一部上場会社の7割超はマザーズや東証二部を経由して“緩和された上場基準”(本来は時価総額250億円必要であるところ40億円)により東証一部上場を果たしているが、特にこれらの会社の中には、プライム市場の上場維持基準を満たす目途が立たないというところもあろう。このような状況の場合、むしろ最初の市場選択のタイミグでスタンダード市場を選択する方が賢明とも言える。

というのも、プライム市場上場会社が経過措置適用期間中にプライム市場の上場維持基準を満たすことができず、上場廃止を回避するためにスタンダード市場に移行する場合、「新規上場基準」と同じ基準により改めて上場審査が行われるからだ。今回の市場区分の見直しでは「各市場はそれぞれ独立したものである」ということがコンセプトの一つとなっており、現在のような「各市場間の移行」に関する緩和された基準は設けられない。その結果、スタンダード市場の上場審査で落とされる(すなわち上場廃止になる)可能性もあるわけだ。

そうであれば、東証一部上場企業としては「2021年9月1日〜12月30日」の間にスタンダード市場を選択するのも一つの手であろう。この時点で選択しておけば、改めて上場審査を受けることなく確実にスタンダード市場に移行できるし、経過措置適用期間終了時に上場廃止になることを恐れる必要もない。現在の自社の身の丈に合った市場を選択することでコーポレートガバナンス・コードへの対応に必要となる負荷を軽くし(2021年7月13日のニュース「プライム市場の選択を決断するうえで必要な視点」参照)、事業の成長に全力を尽くすという発想の転換も検討の余地がありそうだ。

なお、想定しづらいレアケースとは思われるが、仮に東証一部上場企業が最初の市場選択の段階(2021年9月1日〜12月30日)でグロース市場を選択する場合には、基本的に新規上場と同じ審査(特に成長性の部分を重点的に)が行われることになる(東証資料「新市場区分の選択申請・決定」参照)。

2021/07/19 「サステナビリティを巡る課題」が例示された経緯

2021年6月11日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則2-3①では、「サステナビリティを巡る課題」として、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理、が具体的に例示されている。

改訂補充原則2-3① ※赤字が改訂による追記部分
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

これに対しサステナビリティの専門家からは、・・・

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2021/07/19 「サステナビリティを巡る課題」が例示された経緯(会員限定)

2021年6月11日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則2-3①では、「サステナビリティを巡る課題」として、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理、が具体的に例示されている。

改訂補充原則2-3① ※赤字が改訂による追記部分
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

これに対しサステナビリティの専門家からは、「サステナビリティを巡る課題は多岐に渡り、改訂CGコードで例示されたものだけにはとどまらない」との指摘が聞かれる。実際、CGコードとともに改訂された「投資家と企業の対話ガイドライン」(対話ガイドライン)には、サステナビリティに関する新設の1-3において、「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」との項目がパブリックコメント後に追加されている(2021年6月11日のニュース「速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更」、東証・金融庁「パブリックコメントの結果の概要」9ページ参照)。スタンダード市場、プライム市場への移行を予定している上場会社においては、改訂CGコードへの対応が検討され始めているが、同原則で例示された項目が「サステナビリティを巡る課題」のすべてというわけではない点、留意したいところだ。

フォローアップ会議では、「サステナビリティを巡る課題」について網羅的に検証し、一つひとつ取捨選択する作業が行われたわけではない。改訂補充原則2-3①には、あくまでフォローアップ会議のメンバーから指摘があった項目が挙げられているに過ぎない。例示の最後に「など」が付いているのにはこうした背景がある。また、この例示は、必ずしも重要性の高いものから順番に配列されているわけではないことも当フォーラムの取材により確認されている。したがって、自社にとってより重要な「サステナビリティを巡る課題」があれば、改訂CGコードに例示されていなくても検討テーマとすべきだろう。サステナビリティに関しては、新設された補充原則4-2②により「サステナビリティを巡る取組みの基本的な方針」の策定が求められている。同方針の要素として改訂補充原則2-3①に例示された項目を盛り込むことは有用ではあるが(2021年4月23日のニュース「“サステナビリティ基本方針”策定のヒント」参照)、必ずしも例示に拘泥する必要はないということだ。

ちなみに、「経済安全保障」(【役員会 Good&Bad発言集】経済安全保障 を参照)はパブリックコメントを受けて対話ガイドラインに盛り込まれたものの、フォローアップ会議では一切議論されておらず、当然フォローアップ会議のメンバーのコンセンサスも得られていない。CGコードに規定するにはフォローアップ会議における議論というプロセスを経る必要があるため、今回はCGコードに盛り込まれることはなかったが、対話ガイドラインに明記されたことを踏まえれば、次の見直しのタイミングで論点として取り上げられることは十分にあり得る。経済安全保障は投資家の関心事となっているため、自社にとって重要な課題と考える企業は「サステナビリティを巡る取組みの基本的な方針」に盛り込むことも検討すべきだろう。

2021/07/16 監査等委員会設置会社への移行で監査役を退任させるはずが逆の立場に

東京証券取引所が取りまとめた「東証上場会社 コーポレート・ ガバナンス白書」によると、東証に上場している会社のうち機関設計として「監査等委員会設置会社」を採用する会社は年々増加しており、2018年7月時点で24.7%(同白書2019の67ページより)、2020年8月時点にはついに3割を突破した(30.1%。同白書2021の79ページ参照)。

監査役会設置会社である上場会社が監査等委員会設置会社への移行を検討する理由の一つとして、監査役のうち社外性の要件を充たす者(社外監査役および「使用人の時期が10年以上前であった社内監査役」)を社外取締役に“横滑り”させ、社外取締役の数を容易に増やせるということがあるのは周知のとおり(2015年3月20日のニュース「監査等委員会設置会社への移行で監査役の処遇は?」を参照)。ただし、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に機関設計を変更する場合、会社法上、監査役は退任することとされており(会社法336条4項2号)、監査役を“横滑り”させるには、いったん退任した監査役を新たに取締役に選任する必要がある。この規定を悪用すれば、経営陣の意に沿わない任期未了の監査役を監査等委員会設置会社への移行を理由に“合法的”に退任させ、取締役に選任しないことで、ガバナンスを骨抜きにすることができる。この手法を用いて監査等委員会設置会社への移行を口実に監査役の追い出しを図ったのではないかとして話題になったのが、・・・

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2021/07/16 監査等委員会設置会社への移行で監査役を退任させるはずが逆の立場に(会員限定)

東京証券取引所が取りまとめた「東証上場会社 コーポレート・ ガバナンス白書」によると、東証に上場している会社のうち機関設計として「監査等委員会設置会社」を採用する会社は年々増加しており、2018年7月時点で24.7%(同白書2019の67ページより)、2020年8月時点にはついに3割を突破した(30.1%。同白書2021の79ページ参照)。

監査役会設置会社である上場会社が監査等委員会設置会社への移行を検討する理由の一つとして、監査役のうち社外性の要件を充たす者(社外監査役および「使用人の時期が10年以上前であった社内監査役」)を社外取締役に“横滑り”させ、社外取締役の数を容易に増やせるということがあるのは周知のとおり(2015年3月20日のニュース「監査等委員会設置会社への移行で監査役の処遇は?」を参照)。ただし、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に機関設計を変更する場合、会社法上、監査役は退任することとされており(会社法336条4項2号)、監査役を“横滑り”させるには、いったん退任した監査役を新たに取締役に選任する必要がある。この規定を悪用すれば、経営陣の意に沿わない任期未了の監査役を監査等委員会設置会社への移行を理由に“合法的”に退任させ、取締役に選任しないことで、ガバナンスを骨抜きにすることができる。この手法を用いて監査等委員会設置会社への移行を口実に監査役の追い出しを図ったのではないかとして話題になったのが、東証市場第二部に上場しているパスだ。

パスは、2020年3月期に連結で7億7千7百万円の損失を計上するなど業績不振に陥ったことから、株主のOakキャピタルが主導し、2020年6月にそれまで社長を務めていた中谷氏が平取締役に降格。新たな代表取締役社長に外部から招へいした堀主知ロバート氏(コンテンツ配信会社サイバードの創業者。以下、堀代表)が就任する事態となった。それ以降、堀代表、および堀代表と同時に取締役に就任した畑取締役・牧野取締役の3人がパスの経営権を掌握することとなる。それから約1年後、堀代表らがパスの株式を非上場会社Oceans(堀代表はOceansのオーナーであり代表取締役社長も兼務)の株式と交換することを企図し、2021年6月に開催予定のパスの株主総会に議案として上程したい旨、2021年5月24日に開催された同社の取締役会で提案した。この提案に対し、株式価値の希釈化を理由に元社長の中谷取締役のほか、伊藤社外取締役および監査役全員が反対し(下記参照)、取締役会での決議は一旦見送られた。

希釈化 : 1株当たりの価値が下がること。「希薄化」と同義。希薄化率は「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存か部主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。

株式交換への反対理由
Oceansは3 期連続で赤字を計上している債務超過の非上場会社であり、しかも堀代表はOceansのオーナーでもあることから、本株式交換が実現すれば、堀代表は、価値が不確かで流動性の低い Oceansの株式を手放し、その換わりにパスの株式(上場株式)を手にすることができる一方で、パスの既存株主は交換比率次第で株式価値の希釈化が生じる。

2021年6月7日に開催されたパスの取締役会で事態は大きく動く。上述のとおり「堀代表ら経営陣」がOceansとの株式交換の件を株主総会に提案することは一旦見送るとこととしたが、代わって、6月末開催の定時株主総会で監査等委員会設置会社に移行するための定款変更議案(「監査等委員会設置会社への移行及び定款一部変更に関するお知らせに関するお知らせ」を参照)と、株式交換に反対していた中谷取締役、伊藤社外取締役、監査役全員が退任するという人事案(「監査等委員会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」を参照)を堀代表、畑取締役および牧野取締役の3人による賛成多数(同社の取締役数は5人)で承認し、突如リリースした。一連の流れを見れば、「堀代表ら経営陣」が監査等委員会設置会社への移行を口実に、株式交換に反対する「一部の取締役および監査役全員」の追い出しを図ろうとしたと受け止められてもやむを得ないだろう。

とはいえ、ここまではパスの取締役会内で議決権総数の過半数を押さえている「堀代表ら経営陣」(計3名)の方が「一部取締役(2名)および監査役全員」よりも優位な状況でもあった。しかし、パスの第3位の株主である令和キャピタル有限責任事業組合( 以下、令和)が「一部取締役および監査役全員」側に付いたことで、一気に形勢が逆転することになる。

 2021年3月末現在、パスの3.43%の株式を有するだけでなく、新株予約権も保有。

まず令和は、監査役より内部告発があったとして、「パス株式会社第31回定期株主総会担当事務局」(以下、令和側事務局)を設置するとともに「正す会」のサイトを立ち上げ、「議決権の代理行使の勧誘に関する参考書類」(以下、令和参考書類)を公表。ただ、2021年5月24日の取締役会の時点ですでに株主提案の期限(定時株主総会の8週間前)を徒過しており、会社法に基づく事前の株主提案権の行使はできない状況であったことから、令和側の提案する議案が会社作成の招集通知に掲載されることはあり得ない。そこで令和側がひねり出したのが、総会当日に議案の修正動議(実質的動議のこと。実質的動議についてはケーススタディ「株主総会での動議提出に備えたい」の『動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類』を参照)を提出して、会社提案とは異なる役員人事を提案するというプランだ。このプランを実現させるためには一人でも多くの株主から委任状をかき集める必要があった令和側は6月14日、パスの株主に対し、「より多くの株主様のご意見をパス社の経営に反映させる」として、パスの定時株主総会の議決権行使書用紙(会社送付)を令和側事務局が作成した委任状とともに令和側事務局に送付すれば、会社提案に賛成の立場であったとしても、一律に3,000円分 のクオカードを贈呈する旨の連絡を行った(後にクオカードの金額を3,500円に引き上げ)。

動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す

もちろん「堀代表ら経営陣」も黙ってはいない。パスは6月18日に、「令和参考書類には看過できない事実無根の記載が含まれている」「令和から当社に対して株主名簿閲覧請求はなされておらず、適正・適法な手段によらずに当社株主名簿を入手した疑いがある」などの反論を公表するとともに、6月24日にはYouTubeに「パス株式会社より株主の皆様へ」と題するビデオメッセージをアップ。さらに6月26日には、パスグループ従業員持株会が、令和キャピタル有限責任事業組合は「素性、資金源、実質的な支配者も不明であり、さらにいえば経営陣の入れ替えの後の経営者候補も、経営方針も不明」であるとして、株主提案に反対する意見を表明した(リリースはこちら)。一方、令和側も株主に対して「パス株式会社代表取締役らの『令和 キャピタル有限責任事業組合による委任状勧誘に関する当社認識のご説明』について」の文書を送付するという展開となった。

株主総会が近づき両陣営の“票読み”が進む中で、敗色濃厚だった「堀代表ら経営陣」は6月28日開催のパス取締役会において、本定時株主総会における上程予定の議案(議題)のすべての取り下げを決議するという奇策に出る。これは、令和が予定していた株主総会における実質的動議はそもそも株主総会の目的事項である「議題」があってはじめて実行できるものであるところ、そもそも議題が取り下げられれば令和も動議をしようがなくなるという状況を作り出すのが狙いと思われる。

これに対し令和は6月29日、「株主総会前日に会社側提案が撤回されることには何ら正当な理由がなく、当社株主総会を軽視するものであり、当組合としては看過することができません。このような撤回を行う堀社長には、本株主総会の議長としての適性には重大な疑念があると言わざるを得ません。」として定時株主総会冒頭で議長を交代させる緊急動議(手続的動議。手続的動議についてはケーススタディ「株主総会での動議提出に備えたい」の『動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類』を参照)を行うことを予告。さらに、「組合による議長交替動議を採用しないことは違法な議事進行となります(判例)。万が一にも、堀社長が議長交替動議を採用せず、畑取締役及び牧野取締役が堀社長による違法な議事進行を放置した場合には、堀社長、畑取締役及び牧野取締役に対して善管注意義務違反に基づく役員責任を追及することも、併せてご報告いたします。」と宣言し、堀代表ら経営陣の動きを牽制していた。

パスの定時株主総会では、令和の申し立てにより裁判所から選任された検査役の立会いの下、冒頭で令和の申立てにより総会議長が堀代表から株主代表の議長に交代となり、「株主様から議案の取り下げについて同意がされなかった」として、「議案の取り下げ」をなかったことにしたうえで(すなわち、すべての議案を取り下げることなく上程することとなった。詳細はパスが2021年6月30日に公表した「代表取締役の異動および定款の変更に関するお知らせ」および2021年7月15日に公表した「調査委員会の設置中止に関するお知らせ」を参照)、当該議長より令和による議案の修正動議が提出され(これにより会社提案の議案が令和提案の議案に置き換わったことになる)、令和が提案した議案が賛成多数で可決、堀代表ら経営陣は会社を去ることになった(下表はパスが2021年7月5日に財務局へ提出した臨時報告書を当フォーラムが加工)。

検査役 : ここでいう「検査役」とは、株主総会の招集手続および決議方法を調査するために裁判所によって選任される「総会検査役」を指す。総会検査役は、会社および総株主の議決権の1%以上の議決権を有する株主が、株主総会に先立ち、裁判所に選任を申し立てることにより選任される(会社法306条1項)。株主提案や委任状勧誘が行われている株主総会では、後日、株主総会決議取消訴訟や決議不存在確認訴訟等が提起され、決議の有効性が争われることがある。総会検査役はこうした事態に備え選任される。

パスの定時株主総会における決議事項(第1号議案から第3号議案まで)の賛否比率と決議結果
57183

本件を改めて振り返ると、結局のところ、監査等委員会設置会社への移行を目的とする第1号議案が「堀代表ら経営陣」にとって“諸刃の剣”であったことが分かる。なぜなら、これにより「堀代表ら経営陣」も自動的に退任となるからだ。令和側はこれを見越し、議決権の代理行使の勧誘に関する参考書類で「第1号議案は、第2号議案および第3号議案の当該修正案が承認可決されることを条件に賛成する」よう株主に呼びかけていた。つまり、第2号議案・第3号議案の修正案が承認可決されれば、第1号議案には反対する必要がなく、むしろ第1号議案を可決することで「堀代表ら経営陣」を強制的に退任させることができるというわけだ。「堀代表ら経営陣」は否定しているが、監査等委員会設置会社制度への移行を企図した理由が、仮に令和側が勘繰るように「経営陣の意に沿わない監査役を強制的に退任させること」であったとしたら、第1号議案がまさに“ブーメラン”となって「堀代表ら経営陣」を退任させる結果になったのはあまりに皮肉な結末と言わざるを得ない。

そして、上場会社各社は、令和の逆転劇を参考にした実質的動議が今後自社の株主総会でも模倣される可能性があることに留意しなければならない。また、監査等委員会設置会社への移行を検討中の経営陣にとって、退任後の選任を予定していない取締役および監査役と事前に丁寧な議論を積み重ねておくことが、突如として反旗を翻されるような事態を避けるためにも、これまで以上に重要になると言えそうだ。

2021/07/15 日本企業は欧州型or米国型? “ポスト・コロナ”の働き方

7月14日、15日と連続で東京都のコロナ感染者数が1日当たり千人を超えるなど、足元では「第5波」の到来が懸念されているが、一方、日本より先に・・・

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2021/07/15 日本企業は欧州型or米国型? “ポスト・コロナ”の働き方(会員限定)

7月14日、15日と連続で東京都のコロナ感染者数が1日当たり千人を超えるなど、足元では「第5波」の到来が懸念されているが、一方、日本より先にワクチンが普及し、ロックダウンを解除するなど経済活動が正常化しつつある欧米では、多くの企業でコロナ後の働き方についての検討が始まっている。ここでいう「働き方」とは、コロナ下のような緊急避難的なものではなく、各社における恒久的な働き方を指す。当然ながら従業員の関心は高く、優秀な人材の採用やつなぎ止めにも影響する重要なテーマと言える。

まず、英国の大手保険会社アビバ(Aviva)が6月23日に公表した「新型コロナウイルスが人々の生活と仕事に与える影響」に関するレポートを見てみよう。1,000人を超える従業員がいる組織で働く2,000人の英国人従業員を対象とした同レポートによると、コロナ禍での在宅勤務を通じて働き方に柔軟性がもたらされた一方で、多くの従業員がワークライフ・バランスを保つことが難しくなったと感じていることが分かった。アンケート回答者のうち実に86%が「勤務時間外にメールを確認している」と回答、52%が仕事と私生活の境界が曖昧になっていると回答した。さらに、44%が私生活においても仕事から完全に離れることが難しいと感じている。一方、ワークライフ・バランスが改善したとの回答者は35%にとどまった。

とはいえ、在宅勤務自体が否定されているわけではない。回答者の69%が将来の仕事やキャリアの選択において「柔軟な働き方を重視する」と回答しており、リモートワークを制度として有していることは、優秀な人材の確保に効果的であることがうかがえる。この傾向は18〜44歳において強く、76%がそのように回答している。また、64%が「労働時間が柔軟になることで生産性が向上する」と回答した。生産性が高まる「在宅勤務/オフィス勤務」の組み合わせとしては、「3日オフィス/2日在宅」の24%、「2日オフィス/3日在宅」の23%が突出して高く両者で約半数を占め、「5日間オフィス」「5日間在宅」はそれぞれ14%、15%だった。

このように、上記レポートによれば、多くの従業員が仕事と私生活の境界線が曖昧になることを懸念しつつも、在宅勤務のメリットも感じている。これは英国人従業員を対象にした調査の結果ではあるが、国を問わず、これが従業員の一般的な感覚に近いと言えそうだ。ところが、ポスト・コロナの働き方に関し、欧州企業と米国企業ではスタンスが大きく異なることが明らかとなってきた。

英大手銀行のHSBCやスタンダードチャータードでは、オフィスの面積を減らし、都市部への通勤を避けるため、自宅に近い場所での勤務を認める。また、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルやスイスの大手銀行UBSでは、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた勤務形態である「ハイブリッド型勤務」を導入する。このうちUBSは、「役割や業務、物理的な制約が許す限り」との条件付きながらも、最大3分の2の従業員がハイブリッド型勤務を選択可能とする方針を打ち出している。残りの3分の1は、トレーダーなど当局による規制等のためにオフィス勤務を余儀なくされる者であり、事実上、こうした特定の職種に就く従業員以外のすべてにハイブリッド型勤務を認めることになる。

このように、欧州では柔軟な働き方への取り組みが加速する一方、米国ではシティグループが「週2回」を在宅勤務の上限とするハイブリッド型勤務を導入した数少ない事例となっている。ゴールドマンサックスでは従業員に対し既にニューヨーク本社オフィスへの復帰を命じており、JPモルガン・チェースでは7月6日から通常のオフィス勤務を再開した。また、モルガン・スタンレーでもCEOが積極的にオフィス復帰を呼びかけている。

日本企業においても、ワクチンの普及とともに、コロナ禍の収束を見据え自社の従業員の働き方を議論する時期に来ているが、在宅勤務を巡っては賛否両論が渦巻いており、在宅勤務の長期化とともに、生産性、従業員の士気・一体感の低下を懸念する経営者は相当に多いのも事実だ。ただ、以前のような完全オフィスワークに戻すことは、リスクマネジメントや優秀な人材の確保等の観点からもベストな選択とは言い切れないだろう。欧州と米国で対照的なアプローチがとられる中、日本では欧州寄りか、両者の中間的な途を選ぶ企業が少なくなさそうだ。

2021/07/14 プライム市場上場会社とTOPIX構成銘柄の違い

2022年4月4日にスタートする新市場区分のうち「プライム市場」に現在の東証一部上場会社のどれくらいが移行するのか、引いては最終的にどれくらいプライム市場にとどまるのか大きな関心を呼んでいる。東証は(2021年)7月9日、新市場の上場維持基準への適合状況の一次判定結果を上場会社各社に通知しているが(2021年7月13日のニュース「プライム市場の選択を決断するうえで必要な視点」参照)、上場維持基準に適合していない上場会社も、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、「当分の間」はプライム市場上場を維持することができるとの経過措置があるため、・・・

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2021/07/14 プライム市場上場会社とTOPIX構成銘柄の違い(会員限定)

2022年4月4日にスタートする新市場区分のうち「プライム市場」に現在の東証一部上場会社のどれくらいが移行するのか、引いては最終的にどれくらいプライム市場にとどまるのか大きな関心を呼んでいる。東証は(2021年)7月9日、新市場の上場維持基準への適合状況の一次判定結果を上場会社各社に通知しているが(2021年7月13日のニュース「プライム市場の選択を決断するうえで必要な視点」参照)、上場維持基準に適合していない上場会社も、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、「当分の間」はプライム市場上場を維持することができるとの経過措置があるため、東証も現時点では最終的にプライム市場上場会社の数が何社になるのかを把握できているわけではない。こうした中、東証は新市場区分の選択について各社の意向をアンケートで確認しており、そう遠くないうちにプライム市場上場社数が見えてくるだろう(なお、既にプライム市場への移行をリリースしている上場会社も現れている(2021年5月13日のニュース『流通株式時価総額基準クリアへ「意思表明」のリリース相次ぐ可能性も』参照))。

経過措置の適用を受けてプライム市場に移行する会社にとって、今回の市場改革は厳しいものと言えるが、東証は、例えば現在2200社弱ある東証一部上場会社を半分にするとか、一層のことS&P500のように500社にしてしまおうといったことを考えているわけでは決してない。むしろ、「流通株式比率()35%以上」をはじめとするプライム市場の上場維持基準を満たせない上場会社が企業価値を高め、プライム市場にとどまり続けることがベスト、というのが東証のスタンスであることは間違いない。

S&P500 : アメリカの投資情報会社スタンダード&プアーズが選定した、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ、アメリカン証券取引所に上場する代表的な500社。

 流通株式数を、移行基準日(2021年6月30日)時点で提出されている直近の株券等の分布状況表に記載された上場株式数で除して算出する。

ただ、TOPIX(現在は東証一部上場の全銘柄により構成)の構成銘柄数については、「上場会社数」とは話が違ってくる。TOPIXは金融商品としての利便性を考慮する必要があるからだ。「数が多い方が良い」ということは新市場そのものに関しては言えても、TOPIXを含む指数に関しては、数が多いということはそれだけ機関投資家にとっては運用コストが高くなるということを意味する。今回、市場区分の見直しとともにTOPIXの見直しも行われたが、両者が切り離されているのはそのためだ(東証のウェブサイト上でも両者は切り離されている。市場区分の見直しはこちら、TOPIXの見直しはこちら)。

TOPIXについては「構成銘柄数を減らす」ということが前提となっている。具体的には、東証一部上場会社のうち、7月9日に通知された流通株式時価総額の仮計算結果が100億円を下回っている会社は、次の段落で述べるようにTOPIXから段階的に除外されることになる。既に新聞報道等もされているとおり、現状の東証一部上場会社の約1/3がその対象になる。

TOPIXの構成銘柄でなくなるということは、パッシブ型の投資信託やETFの投資対象からも外されるということを意味する。たとえプライム市場に残ったとしても、株価にとってはマイナスとなる。ただし、これには“敗者復活戦”が用意されている。流通株式時価総額の仮計算結果が100億円を下回っている会社については、2022年10月末から2025年1月末まで、四半期ごとに10段階で構成比率を低減し、TOPIXから除外されることになるが、その過程で100億円を上回った場合には、再びTOPIXに採用される。

パッシブ型 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。

もっとも、流通株式時価総額が100億円を上回っていたとしても、それで安泰というわけではない。TOPIXの構成銘柄数を減らすことは、TOPIX見直しの第一ステップであり、あくまで「現在のTOPIX」を使い勝手の良いものに変えていくというプロセスに過ぎない。東証はこのプロセスの完了後、“次のステップ”として、改めて「TOPIXはどうあるべきか」ということを議論する予定となっている。議論の結果、例えばESGを考慮したESG関連の指数が望ましいというコンセンサスに至れば、現在のTOPIXをそのような指数に衣替えすることもあり得るかもしれない。また、S&P500のように銘柄数を限定した指数の方が良いとのコンセンサスに至れば、現在のTOPIXのように基準を満たしさえすれば数が際限なく増えていくような設計を見直すということもあり得る。

現在多くのメディアが「プライム市場上場企業数」を盛んに報じているが、経営陣が注力すべきは、むしろ自社の株価に継続的な影響を与えうるTOPIXに自社が選定されることと言えそうだ。裏を返せば、「次のステップ」で選定されそうなテーマ(より高い流通時価総額、ESGなど)をクリアできる会社を目指すべきということになろう。

2021/07/13 プライム市場の選択を決断するうえで必要な視点

先週金曜日(2021年7月9日)、東証は新市場の上場維持基準への適合状況の一次判定結果を上場会社各社に通知したが、これを受け、各社からは『新市場区分「プライム市場」適合のお知らせ』といったリリースが相次いでいる。今後、上場会社各社は、「2021年9月1日〜12月30日」の間にどの市場を選択するかを東証に申請することになる(新市場区分の選択手続の流れはこちら)。どの市場を選択するかにあたり、上場会社各社にとって、流通株式時価総額などとともに検討材料となるのが、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)への対応だ。下表のとおり、6月11日に施行された改訂CGコードの中には、プライム市場上場会社のみを対象とした原則があり、プライム市場を選択するかどうかを議論する際には、これらの原則に対応できるかを検討する必要がある。

<改訂CGコードのうち、プライム市場上場会社のみを対象としたもの(表中の赤字部分)>
【原則1-2.株主総会における権利行使】
場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。
補充原則1-2④
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。
【原則3-1.情報開示の充実】
上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。
(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明
補充原則3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

補充原則3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。
補充原則4-8③
支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。
【原則4-10.任意の仕組みの活用】
上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。
補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した指名委員会・報酬諮問委員会を設置することにより、指名や・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。

そして、プライム市場を選択するかどうかを決断するうえで見落としがちな視点が、・・・

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