2021/06/30 2021年6月度チェックテスト第2問解答画面(不正解)

不正解です。
アジア・コーポレート・ガバナンス協会(The Asian Corporate Governance Association=ACGA)が隔年で実施しているCGランキングで、日本は7位(2018年版)から5位(2020年版)に上昇しました。もっとも、今回のランクアップはマレーシアとタイのスコアが伸びなかったことによる“漁夫の利”によるものとも言え、手放しで喜ぶことはできません。実際にACGAでは日本のコーポレート・ガバナンスについて「指名・報酬委員会の活動に関する開示が定型文(boilerplate)である」「取締役会の多様性に関する方針・計画が依然として不透明(unclear)」「筆頭独立社外取締役の選任は非常に稀である(extremely rare)」といったネガティブな評価をしています。日本のコーポレート・ガバナンスは決して満足のできる水準に達してはおらず、諸外国に比べるとまだまだ改革途上にあると考えたほうがよさそうです。

こちらの記事で再確認!
2021年6月3日 ACGAのCGランキング 日本は7位→5位も“漁夫の利”との声(会員限定)

2021/06/30 2021年6月度チェックテスト

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【問題1】

従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、椅子、机、空気清浄機など「在宅勤務に係る環境整備に関する物品」を従業員に支給した場合(すなわち「あげた」場合)であっても、金銭を支給したわけではないので源泉徴収は不要である。


正しい
間違い
【問題2】

ACGAは、2018年版のCGランキングで7位だった日本が2020年版では5位に上昇した理由について、「日本では指名・報酬委員会の活動に関する開示が充実している」「日本では取締役会の多様性に関する方針・計画が明瞭」「日本では筆頭独立社外取締役を選任している上場企業が大半」と説明している。


正しい
間違い
【問題3】

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①では「各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべき」とされているが、「スキル等の組み合わせ」の開示対象者は社外取締役のみとされている。


正しい
間違い
【問題4】

改正産業競争力強化法上の経過措置の適用を受けて開催するバーチャルオンリー総会で、「場所の定めのない株主総会」を開催できるようにするための定款変更はできない。


正しい
間違い
【問題5】

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで新設された補充原則4-8③には、支配株主を有する上場会社では支配株主との利益相反取引を防止するために、常設の特別委員会を設置すべきであると定められている。


正しい
間違い
【問題6】

取締役会が特定の株主に対してこれ以上株式を買増ししないよう求めたことにつき株主総会で株主としての意思を確認するための決議を行うことは可能である。


正しい
間違い
【問題7】

2021年6月の「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂により、上場会社は経済安全保障担当取締役を設置すべきである旨明記された。


正しい
間違い
【問題8】

改訂コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-8③が支配株主を有する上場会社に求める「独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会」は、構成員の半数以上が独立性を有する者であれば足りる。


正しい
間違い
【問題9】

2021年6月19日に改正産業競争力強化法が施行され、会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」に関する制度が創設されたが、当該特例は非上場会社や株主が100人未満の上場会社は利用できない。


正しい
間違い
【問題10】

金融庁の金融審議会は2021年6月25日に総会を開催し、有価証券報告書での気候変動の開示のあり方についての議論に着手する方針を固めた。


正しい
間違い

2021/06/30 2021年6月度チェックテスト第1問解答画面(正解)

正解です。
従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、椅子、机、空気清浄機など「在宅勤務に係る環境整備に関する物品」を従業員に支給した場合(すなわち「あげた」場合)には、従業員に対する「現物給与」として所得税の課税対象になり、源泉徴収が必要となります。現物給与であっても源泉徴収は必要であり、問題文の「金銭を支給したわけではないので源泉徴収は不要」は誤りです。

こちらの記事で再確認!
2021年6月2日 在宅勤務に必要な物品の従業員への支給(会員限定)

2021/06/30 2021年6月度チェックテスト第1問解答画面(不正解)

不正解です。
従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、椅子、机、空気清浄機など「在宅勤務に係る環境整備に関する物品」を従業員に支給した場合(すなわち「あげた」場合)には、従業員に対する「現物給与」として所得税の課税対象になり、源泉徴収が必要となります。現物給与であっても源泉徴収は必要であり、問題文の「金銭を支給したわけではないので源泉徴収は不要」は誤りです。

こちらの記事で再確認!
2021年6月2日 在宅勤務に必要な物品の従業員への支給(会員限定)

2021/06/29 有価証券報告書と招集通知における開示事項の差異

2021年3月決算からは「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が適用されているが(会計上の見積りの開示に関する会計基準についての解説は2019年11月13日のニュース「重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響」参照)、同会計基準に基づく株主総会招集通知(以下、招集通知)や有価証券報告書の開示事例も出揃ってきた。

会計上の見積り : 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。

下表のとおり、会計上の見積りに関する開示内容は、有価証券報告書の開示ルールである財務諸表等規則と、招集通知の開示ルールである計算書類規則とで(表現は若干異なるものの)変わることはない。しかし、有価証券報告書と招集通知では開示目的や利用者が異なるため、同じ会計基準に関する開示であっても、必ずしも内容が一致するとは限らない。招集通知は一般株主を対象とした情報開示であり、投資のプロが利用することを想定している有価証券報告書よりは簡素な開示となるのが通常だ。

会計上の見積りに関する開示の要否およびその内容は、「財務諸表利用者の理解」に資するか否かによって判断される。すなわち、招集通知であれば一般人である株主、有価証券報告書であれば投資のプロを想定し、それぞれにとって重要な事項を開示することとなる。・・・

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2021/06/29 有価証券報告書と招集通知における開示事項の差異(会員限定)

2021年3月決算からは「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が適用されているが(会計上の見積りの開示に関する会計基準についての解説は2019年11月13日のニュース「重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響」参照)、同会計基準に基づく株主総会招集通知(以下、招集通知)や有価証券報告書の開示事例も出揃ってきた。

会計上の見積り : 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。

下表のとおり、会計上の見積りに関する開示内容は、有価証券報告書の開示ルールである財務諸表等規則と、招集通知の開示ルールである計算書類規則とで(表現は若干異なるものの)変わることはない。しかし、有価証券報告書と招集通知では開示目的や利用者が異なるため、同じ会計基準に関する開示であっても、必ずしも内容が一致するとは限らない。招集通知は一般株主を対象とした情報開示であり、投資のプロが利用することを想定している有価証券報告書よりは簡素な開示となるのが通常だ。

会計上の見積りに関する開示の要否およびその内容は、「財務諸表利用者の理解」に資するか否かによって判断される。すなわち、招集通知であれば一般人である株主、有価証券報告書であれば投資のプロを想定し、それぞれにとって重要な事項を開示することとなる。

<会計上の見積りに関する開示(注記)事項>
財務諸表等規則 計算書類規則
① 重要な会計上の見積りを示す項目
② 前号に掲げる項目のそれぞれに係る当事業年度の財務諸表に計上した金額
③ 前号に掲げる金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報
①´ 会計上の見積りにより当該連結会計年度に係る連結計算書類にその額を計上した項目であって、翌連結会計年度に係る連結計算書類に重要な影響を及ぼす可能性があるもの
②´ 当該連結会計年度に係る連結計算書類の①の項目に計上した額
③´ ②´のほか、①´に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報

上表の開示事項のうち、重要な会計上の見積りを示す項目(①、①´)は、本開示のスタートラインに立つものであるがゆえ、有価証券報告書と招集通知で一致するのが通常だ。以下の雪印メグミルクの事例でも、重要な会計上の見積りを示す項目が有価証券報告書と招集通知で完全に一致している。

雪印メグミルク(2021年3月期)の重要な会計上の見積りを示す項目
  有価証券報告書 招集通知
連結
(日本基準)
1.固定資産の減損処理
2.税効果会計
3.退職給付債務の算定
1.固定資産の減損処理
2.税効果会計
3.退職給付債務の算定
個別
(日本基準)
1.固定資産の減損処理
2.税効果会計
3.退職給付債務の算定
4.関係会社株式
1.固定資産の減損処理
2.税効果会計
3.退職給付債務の算定
4.関係会社株式

これに対し、トヨタ自動車の重要な会計上の見積りを示す項目は、有価証券報告書及と招集通知で異なっていた。これは、上述のとおり、有価証券報告書と招集通知それぞれの財務諸表利用者の理解に資する情報を選択して開示したためと考えられる。

トヨタ自動車(2021年3月期)の重要な会計上の見積りを示す項目
  有価証券報告書 招集通知
連結
(IFRS)
・品質保証に係る負債
・金融事業に係る金融損失引当金
・非金融資産の減損
・退職給付に係る負債
公正価値測定
繰延税金資産の回収可能性
・品質保証に係る負債
・金融事業に係る金融損失引当金
個別
(日本基準)
1 品質保証に係る負債
2 非金融資産の減損
3 退職給付に係る負債
4 繰延税金資産の回収可能性
・品質保証に係る負債

公正価値測定 : 資産、負債または資本性商品を公正価値で測定・開示すること。IFRS第13号「公正価値測定」は、公正価値として、利用可能な場合は、同一の項目に関する活発な市場における公表価格を用いることを求めている。

つまり、トヨタ自動車は、有価証券報告書では投資のプロ向けに詳細に項目を開示したが、招集通知では一般の株主向けに最も重要と考えられる項目のみを開示したということだ。2019年12月19日のニュース『「原則主義」的な開示が急増、日本企業の対応策は?』でもお伝えしたとおり、重要な会計上の見積りの開示内容は企業自身が決定することになるが、それにはそれぞれの開示書類において何を開示するのかという意思決定も含まれる。

2022年3月期からは「収益認識に関する会計基準」の開示が求められる(収益認識会計基準についての解説は2019年12月3日のニュース「重要会計基準改正解説第二弾 収益認識注記の要否は企業の判断次第」参照)。当該会計基準で求められる開示事項は非常に多いため、有価証券報告書、招集通知それぞれにおいて何を開示するか、財務諸表利用者の視点を踏まえ、今のうちから検討しておく必要があろう。

2021/06/28 【失敗学第85回】アジャイルメディア・ネットワークの事例(会員限定)

概要

ファン・マーケティング事業等を営むアジャイルメディア・ネットワーク(マザーズ)で、CFO(取締役)が「ソフトウエア仮勘定」を用いて268百万円の資金を流用していた。

経緯

アジャイルメディア・ネットワークが2021年6月21日に公表した「第三者委員会の最終調査報告書公表及び役員報酬の減額に関するお知らせ」(以下、本調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2016年
3月29日:Aがアジャイルメディア・ネットワークの取締役に選任され、CFOに就任する(以下、本稿では取締役Aを「CFO」と称する)。
4月16日:CFOは 取締役就任直後、前職時代に自分の部下として経理業務や株式上場準備等を一緒に経験したCに声を掛け、アジャイルメディア・ネットワークの経理・財務チームのメンバーに採用する。

2018年
3月28日:アジャイルメディア・ネットワークがマザーズに上場する。
7月頃:CFOが資金流用を開始。

2021年
3月26日:有限責任監査法人トーマツがアジャイルメディア・ネットワークの会計監査人を退任し、定時株主総会であらたに「かなで監査法人」が選任される。会計監査人の交代理由は、アジャイルメディア・ネットワークが同社のグループ会社の増加などに伴う監査工数の増加を理由にトーマツより監査報酬の増額要請を受けたため。その後、かなで監査法人による2021年12月期第1四半期レビュー手続きの中でCFOによる資金流用の疑義が発覚する。
5月12日:アジャイルメディア・ネットワークは、資金流用の疑義が発覚したことを理由に2021年12月期第1四半期決算の発表を延期。
5月17日:アジャイルメディア・ネットワークの取締役会は、第三者委員会を設置。
5月31日:アジャイルメディア・ネットワークは、第三者委員会による中間報告を公表。
6月17日:CFOが取締役を辞任。同社では、CFOの辞任により、取締役の数が2名(代表取締役社長および公認会計士である社外取締役1名)となり、法令および定款に定める取締役の員数を満たさなくなるため、臨時株主総会を開催し、速やかに新たな取締役を選任する予定としている。
6月18日:アジャイルメディア・ネットワークは第三者委員会より本調査報告書を受領したことを受け、経営責任を明確にするとして、2021年7月から2021年9月までの3か月間にわたり、代表取締役社長が月額基本報酬の20%減額、社外取締役1名および常勤監査役が月額基本報酬の15%減額を実施することを公表。

内容・原因・改善策

アジャイルメディア・ネットワークが2021年6月18日に公表した「第三者委員会の最終調査報告書」によると、第三者委員会の調査により判明した事実ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。

ソフトウエア仮勘定を用いた資金流用
内容 アジャイルメディア・ネットワークのCFOは、2018年1月1日から2021年3月末日までの期間に、小口現金として管理していた資金のうち128,590,000円を流用していた。CFOは小口現金の実際在り高と帳簿残高に差額が生じることを避けるため、資金流用額をソフトウエア仮勘定に計上し、ソフトウエア開発費用の名目で架空の領収書を偽造していた。CFOは部下に指示し、F社による過去の請求書等に押印されている印影をPCでスキャンし、インターネットでダウンロードした領収書雛形に貼り付ける方法およびF社の子会社の担当者を装った印章を購入し領収書に押印する等の方法により、偽造領収書を作らせていた
また、同社CFOは、外部の実在するシステム開発会社Fを利用して、ソフトウエア開発を装ってアジャイルメディア・ネットワークからF社に送金した131,058,000円のうち、F社に協力の対価として落とした利益21,924,000円を除いた額を自身(または自身が支配する事業会社)に還流させていた。
更に、同社CFOは外部のコンサルティング会社およびコンサルタントと称するIの銀行口座を利用し、人材紹介手数料や台湾活動支援費という名目で不正に流出させ、これらの二者から自身(または自身が支配する事業会社)に還流させていた(資金流用額9,072,000円)。同社CFOにより不正に出金された被害額は合計268,720,000円に達した。
会計上、ソフトウエア仮勘定として計上された額の一部はソフトウエア勘定へ振り替えられ、減価償却、減損処理等により費用化された。
原因 ① CFOの社内の位置づけと従業員Cの存在
CFOは、アジャイルメディア・ネットワークの最高財務責任者である取締役という立場にあって、対象会社の管理部の最終決裁・承認権者である。また、組織内の権限のみならず対外的にも幅広い人脈を有しており、対象会社の株式上場にも貢献した立役者として、社内でも代表取締役と比肩して劣らないほどの絶対的な地位を有していた。管理部の部員一同、格別、CFOの行動を不審に思ったり、異議を述べたりするようなこともなかった。
また、CFOは取締役就任直後、前職時代に自分の部下として経理業務や株式上場準備等を一緒に経験したCに声を掛け、アジャイルメディア・ネットワークの経理・財務チームのメンバーとして採用した(なお、程なくしてマネージャーに昇格している)。CFOと従業員Cの間には、前職時代から培われた堅実な師弟関係とも言うべき信頼関係があり、従業員CとしてもCFOに対して、上司としての尊敬の念と、自分を前職から拾って対象会社に引き抜いてくれたという恩義を強く感じ、加えて、もしCFOに嫌われたら職を失ってしまうという不安感も相まって、CFOの指示には絶対的・盲目的に従うという気運が醸成されていた。
このような信頼関係のもと、出金・精算業務をはじめ、対象会社の業務全般に亘る相当広範な範囲で、CFOによる内部統制の無視が常態化するとともに、経理の実務的な面からも、これを巧みにカムフラージュする幇助者としての従業員Cの存在により、内部牽制が無効化し、比較的長期にわたって、本件不正行為を行うことが可能となった。
② CFOに対する牽制機能の欠如
アジャイルメディア・ネットワークにおいては、財務・会計面に関するチェックについて、前記のとおり対象会社内で絶対的な地位を有していたCFOに任せきりになっており、代表取締役を含め、対象会社の役員において、自ら積極的にCFOの行為を監督しようとする者は存在しなかった。加えて、会計監査人によるチェックについても、監査法人とのコミュニケーションのほぼすべてを、CFOとその意を受けた従業員Cが行っていた。そのため、アジャイルメディア・ネットワークでは、CFOによる監査法人に対する資料・事実の隠蔽や、監査法人からの指摘があった際の隠蔽が容易な環境が生じていた。
③ 経理担当社員のコンプライアンス意識の欠如
従業員Cは、CFOによる行為の不正を認識しながらも、自ら辻褄合わせのための提案をするなど、積極的に不正に加担していた。
従業員Dは、CFOの行為の正当性につき違和感を持ちつつも、直属の上司である従業員Cに報告しただけで、その後目立った改善がないにもかかわらず、CFO以外の役員や部長に報告・相談することなく、CFOの指示に漫然と従い続けていた。
従業員Bは、管理職の地位にあるものの、CFOの行為の正当性について疑問を抱きながらも、その指示に漫然と従い続けていた。
このように、複数の従業員が、自分の関与している行為が正しいことでないと認識しつつも、CFOの行為に自ら積極的に加担し、または漫然と指示に従っていたものであり、経理担当社員のコンプライアンス意識が欠如していた。
④ コーポレートガバナンスの内部統制上の問題
同社の経理規程によれば、金銭の支払いに際しては、出納担当者は、請求書その他取引を証する書類に基づいて取引担当部署の発行した出金伝票により、出納責任者(管理部長)の承認を得て行うものとされているが、本件事案において、CFOは、管理部長を介在させることなく、従業員Dに直接指示をして現金を自身に支払わせていた。
また、同社には内部監査部門が存在し、内部監査計画が存在するものの、実際には、当該計画に基づいた監査が十分には実行されておらず、実質的に機能していなかった。
⑤ 内部通報窓口の機能不全
内部通報制度の存在自体が、ほとんど認知されておらず、内部通報の実績もほぼ無いことから、内部通報が機能していなかった。
再発防止策 ・コンプライアンス遵守の決意表明と定期的な役職員教育
・内部統制の整備・強化
・取締役会の監督機能の強化
・監査役の監督機能の強化
・内部監査室の創設
・内部通報制度の実効化
<この失敗から学ぶべきこと>

アジャイルメディア・ネットワークの連結貸借対照表を見ますと、2019年12月31日期の総資産719百万円のうちソフトウエア仮勘定が182百万円(総資産の25%)であり、2020年12月31日期の総資産1,010百万円のうちソフトウエア仮勘定が219百万円(総資産の22%)を占めていました。そうであれば、会計監査上、ソフトウエア仮勘定は重要な勘定科目として重点的に監査すべき項目となっていたはずですが、当時の会計監査人(有限責任監査法人トーマツ)はエビデンスの偽造や経理規程に違反する出金等を見破ることができず、CFOの資金流用と流用隠しの粉飾を発見することができませんでした。ソフトウエアは目に見えない資産であり、実在性を容易に確認することが困難です。とりわけ未稼働のソフトウエアが集計される「ソフトウエア仮勘定」は、不正の温床になりやすいので留意が必要です。
今回は会計監査人の交代により不正が発覚しました。会計監査人の交代は年々増えており、交代により新たな目で監査が行われることでこういった不正が発覚することは投資家目線からすると歓迎すべきことと言えます。
それにしても、会社規模に比しこれだけ多額のソフトウエア仮勘定が積み上げられていた(CFOの資金流用額268百万円は2020年12月31日期の総資産1,010百万円の27%に相当)にもかかわらず、他の取締役や監査役が誰一人としてソフトウエア仮勘定の実在性を疑わなかったというのは理解に苦しみます。今回の不祥事にまったく気づくことがなかった代表取締役社長が3か月間の報酬につき20%減額、社外取締役(公認会計士)1名および常勤監査役が3か月間の報酬につき15%減額(他の監査役2名は減額なし)という「経営責任」はあまりに軽く、これで株主の怒りが収まるとは到底思えません。CFO退任に伴う取締役欠員補充のための臨時株主総会で経営陣に対して株主の怒りの矛先が向かうことが予想されます。

2021/06/25 【役員会 Good&Bad発言集】経済安全保障

東京証券取引所市場第一部に上場しているK社は、海外売上(とくに米国への売上)が伸びており、最近では国内売上を大きく上回るまでになりました。また、コスト削減のため、国内の工場をいくつか閉鎖し、中国の製造拠点への生産体制のシフトを強めています。K社の取締役会で、経済安全保障について話題になり、次の3人が発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「当社の売上は米国市場に相当依存していること、米中間の摩擦が激化しており中国で製造を続けることはリスクが高まっていることの2点を考慮すると、生産拠点を中国から別の国に移していくことを検討すべきです。生産拠点だけでなく、原材料も含めてサプライチェーン全体の中国依存を下げていかなければなりません。」

取締役B:「経済安全保障なんて国家レベルで考えるテーマの話であり、我々はモノづくりの会社にすぎません。そもそも政治と経済は別物です。質の高い製品をリーズナブルな値段で提供できれば米国の消費者から離反されることはないはずです。」

取締役C:「いずれにしろ2021年6月のガバナンスコード改訂で経済安全保障担当役員を設置することが求められるようになりましたので、当社でも経済安全保障担当役員を設置しなければCG報告書でエクスプレインせざるを得なくなります。」

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2021/06/25 【役員会 Good&Bad発言集】経済安全保障(会員限定)

<解説>
政治と経済は別物?

経済分野での中国の存在感が年々高まる中、米中の覇権争いが激化しています。それとともに、経済安全保障の観点から、華為技術(ファーウェイ)などの中国の政府系企業に対する米国政府による締め付けが厳しくなっています。米国では以前から「サイバーセキュリティー」の観点からファーウェイ製の通信製品の使用制限を実施していますが、トランプ政権の末期からはファーウェイへの半導体の供給を断つことにも注力しています。

米中の摩擦においては、最近では「サイバーセキュリティー」だけではなく、「人権侵害」もテーマにされるようになりました。米国は、中国の新疆ウイグル自治区における強制労働や人権侵害(イスラム教徒が多いウイグル人を拘束し“中国化”の洗脳教育、女性に対する避妊・堕胎強制など)に関与しているとして太陽電池に用いるシリコンを製造する「合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)」や綿を生産する「新疆生産建設兵団」からの輸入を禁止する措置の実施に踏み切りました。カナダや英国なども歩調をあわせています。一方、中国共産党は、「中国で商売をしたいのであれば、人権問題に口を出すな」というスタンスです。

国家レベルで対中包囲網に取り組む中、問われるのが「企業の姿勢」です。たとえば、新疆ウイグル自治区における強制労働により製造された綿を使っているとして、2021年1月に米国より輸入禁止処分を受けたのがユニクロです。同社は、使用している新疆綿は強制労働により製造された綿ではない(こちらのリリースを参照)として、その後も米国以外で新疆綿を使った製品の販売を続けています。2021年4月に当該問題につき記者から質問を受けたファーストリテイリング(ユニクロの親会社)の柳井正会長兼社長が「これは人権問題というよりも政治問題」「われわれは政治的に中立」としてコメントを控えたことは、新疆ウイグル自治区における人権侵害を追認しているに等しいとして強く批判されました。柳井正ファーストリテイリング会長兼社長の発言の前提となっている「政治と経済は別物」という考えは、グローバル企業にとってはもはや古い考えといっても過言ではありません。軍事対立がメインであった米ソ対立構造のもとでは対立構造もシンプルであり政治的に中立という日本企業の姿勢も十分に成り立つものでしたが、軍事対立だけでなく経済対立や価値観の対立(人権侵害)も加わった米中対立構造のもとでは、もはや日本企業がグローバルにおいて「中立」であり続けることには無理があると言わざるを得ません。

また、西側民主主義国家では「人権侵害」は政治を超えた普遍的な価値観への挑戦であると考えられており、「新疆ウイグル自治区における人権侵害は政治問題に過ぎない」と問題を矮小化してしまうと、「人権問題への感度が鈍い」「人権保護より商売優先」として批判を集めるにとどまらず、ESG投資が全盛を極める中で企業価値を貶めることにつながりかねません。実際に、ファーストリテイリングの株価は2021年3月2日に11万500円という上場来最高値を付けたものの、その後じりじりと下がり2021年6月25日の終値は82,710円と一時の勢いは完全に失われています。同じく新疆綿を使った製品を販売し批判を浴びた無印良品を運営する良品計画の株価も2021年3月18日に2,829円の高値を付けた後、6月21日には2,002円と2,000円を割り込む手前まで値を下げました。機関投資家が「ファーストリテイリングや良品計画が新疆ウイグル自治区の人権問題にどう対応するのか」を様子見しているものと思われます。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立している。

そういった時代の変化を見誤ると、日本企業は想定していなかったリスクにさらされることになります。たとえば、領土問題やウイグル問題などでの日中の対立が先鋭化すれば、日本企業が中国に有する工場や店舗は瞬時に中国のデモ隊の攻撃対象になりえます。逆に中国に肩入れをすることで、米国から輸入禁止の措置を受けたり、機関投資家から投資不適格と判断されたりして株価が下落する可能性もあります。中国に限らず、国家間の摩擦が激化した結果、特定国との輸出入が突然停止されたり、当該国の法律が突然変わり工場が接収されたり、現地社長が逮捕されたりといった企業価値を大きく損なうような事態が起きる可能性があります。

キリンのミャンマーでのビール事業に暗雲

注意を払うべきは米国と中国の関係、日本と中国の関係だけではありません。軍事政権や独裁国家についても特に注意を払う必要があります。そのような国で「政治と経済は別物」という理屈で軍事政権や独裁者との関係が深い企業とのビジネスを優先することは、市民への弾圧に間接的に協力している企業との烙印を押されかねないからです。実際に、キリンホールディングスは、アムネスティ・インターナショナルの報告書で、同社がミャンマーで国軍と取引関係のあるMyanma Economic Holdings Public Company Limited(MEHPCL)との合弁で作ったビール会社(Myanmar Brewery LimitedおよびMandalay Brewery Limited)からの配当が国軍の軍事目的に使用されているのではないかとの疑いをかけられていました。キリンホールディングスは、デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社を起用して調査を実施したものの当該懸念を払しょくできない(2021年1月7日のキリンホールディングスのリリース「当社ミャンマー事業に関する進捗報告」を参照)でいたところ、国軍が2021年2月1日にクーデターを起こし市民への弾圧を始めたことから、キリンが関与するミャンマーでのビール事業で儲けた資金の一部が配当を通じて市民への弾圧に使われたのではないかとして批判を浴びています。キリンホールディングスは2021年2月5日のリリースで、国軍と取引関係のあるMEHPCLとの合弁事業の提携自体は解消せざるを得ないとしていますが、その後の動きは現時点では明らかになっていません。

改訂「投資家と企業の対話ガイドライン」に経済安全保障が追加される

米中の摩擦の激化に伴い危機感を強めた自民党の一部議員が、金融庁の「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂にあたり、下記の赤字の文言を挿入させました(経緯については2021年6月11日のニュース「速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更」を参照)。

1-3. ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等の事業を取り巻く環境の変化が、経営戦略・経営計画等において適切に反映されているか。また、例えば、取締役会の下または経営陣の側に、サステナビリティに関する委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか。

上場会社に経済安全保障への対応を求めることが明記されたのは「投資家と企業の対話ガイドライン」であり、コーポレートガバナンス・コードではありません。よって、コーポレート・ガバナンス報告書でコンプライorエクスプレインの対応を迫られているわけではないのですが、だからと言って上場会社の経営者は経済安全保障を軽んじるべきではなく、「投資家と企業の対話ガイドライン」に経済安全保障の文字が盛り込まれたことを「潮目」の変化としてとらえておく必要があります。すなわち、上場会社では平時から「経済安全保障」について備えておくことがマストになったと考えるべきです。

上場会社に平時から求められる経済安全保障の内容

軍事上の安全保障は、軍事力を用いて国家の安全を確保し領土・領海・領空への侵犯を排除するというものであり、国家が「どの国と同盟を結ぶのか」「仮想敵国はどこか」「どういった軍事シナリオが想定されるか」「それに備えてどういった軍備を有するか」「軍備は自国で開発するのか、同盟国から輸入するのか」といった意思決定を行い行動に移すこととなります。これに対して、経済上の安全保障は軍事力を伴わずに国家や企業の経済的安定を実現するものであり、企業レベルでは「国家間の摩擦や企業間競争により、自社の外部環境や内部環境にどのような変化が生じるのかを探り、自社への悪影響を回避するためにどのように備えるのか」を平時から検討して行動に移すことになります。

具体的には経済安全保障担当の取締役を任命して(企業規模によっては担当スタッフも任命して)、国内外や企業内の動向についてアンテナを張ってもらい(情報収集)、自社の経済安全保障に与える影響を分析し(情報分析)、想定されるバッドシナリオを検討する(脆弱性の把握)とともに、適宜経営陣に情報を提供しながら、リスクの発生可能性とそれに対する備え(外部への依存を低減し、代替的な仕入先や製造拠点の確保等)を実施しておきます。リスクの検討にあたっては、投下した資本の額が大きかったり、当該国家が運営する国営企業との取引量が多かったりすると、つい現状維持のバイアスが働き、リスクを過小評価しがちであることから、中長期の視点でフラットに評価するよう留意しなければなりません。検討の結果、製造拠点や使用原材料の変更や代替原材料の確保が必要ということになれば、サプライチェーンの大幅な手直しは避けられません。それにより経営計画の作り変えが必要になるかもしれません。BCP(事業継続計画)の練り直しも欠かせないはずです。

BCP : BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと(中小企業BCP策定運用指針より抜粋)。

また、最先端のテクノロジーを有する企業や軍需産業に属する企業では、海外の諜報機関や産業スパイから設計図や実験データなどを盗み出され、製品や技術を模倣されるリスクにも備えなければなりません。公安調査庁が具体的な手法として掲げているのは以下のとおりです(公安調査庁のリーフレット「経済安全保障の確保に向けて」2ページより抜粋)。

<技術・データの流出>
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「データ」については、流出だけでなく、海外保管のリスクについても考慮しなければなりません。2021年3月にLINEの利用者の個人情報が中国に設置されたサーバで一部の公開コンテンツおよびユーザーから通報されたトークテキストのモニタリング業務が行われていた問題(LINEのリリースはこちら)では、データのセキュリティへの懸念から自治体を中心にLINEの利用を取りやめる動きに発展しました。LINEでは、中国のように政府が中国内にあるサーバのデータに対して容易にアクセスできるような全体主義国家に自らのデータが保管されることをよしとしない利用者への配慮が欠けていたと言わざるを得ません。まして、中国では2021年6月10日に「データ安全(セキュリティ)法」が成立し2021年9月1日から施行されます。これにより、中国内のデータに対する政府の統制がさらに強化されることになります。こういったデータを巡る国家の動きや利用者の意向が自社のビジネスモデルにどのような影響を与えるのかについても経済安全保障の確保の観点から精査しておく必要があります。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役A:「当社の売上は米国市場に相当依存していること、米中間の摩擦が激化しており中国で製造を続けることはリスクが高まっていることの2点を考慮すると、生産拠点を中国から別の国に移していくことを検討すべきです。生産拠点だけでなく、原材料も含めてサプライチェーン全体の中国依存を下げていかなければなりません。」
コメント:部品や原材料の調達を中国企業に依存していると、サプライヤーの一つが米国より禁輸措置を受けることで、連鎖的に自社の製品も禁輸措置の対象になるかもしれません。そうすると米国市場での売上は消失し、企業価値は大きく減少することになります。また自社と直接取引のある仕入先ではなく、その先の原材料調達先が禁輸措置を受けた場合にも、結局のところ連鎖的に自社の製品も禁輸措置の対象になる恐れがあります。つまり米国市場でのシェアを守りたいのであれば、サプライチェーン全体の中国依存度を下げることを検討する必要が生じます。以上よりAの発言はGoodです。

BAD発言はこちら

取締役B:「経済安全保障なんて国家レベルで考えるテーマの話であり、我々はモノづくりの会社にすぎません。そもそも政治と経済は別物です。質の高い製品をリーズナブルな値段で提供できれば米国の消費者から離反されることはないはずです。」
コメント:経済安全保障は何も国家レベルの意思決定でなければ実現できないものばかりではありません。企業レベルでも実現可能な施策は多々あるうえ、自社が生き残っていくためには企業レベルの経済安全保障確保に向け積極的な動きをしていかなければなりません。また、質の高い製品をリーズナブルな値段で提供できていたとしても、いったん米国政府に禁輸措置を取られれば米国の消費者に製品を届けることはできなくなります。Bの発言は企業レベルでの経済安全保障の視点を欠いたBad発言です。

取締役C:「いずれにしろ2021年6月のガバナンスコード改訂で経済安全保障担当役員を設置することが求められるようになりましたので、当社でも経済安全保障担当役員を設置しなければCG報告書でエクスプレインせざるを得なくなります。」
コメント:経済安全保障についてあらたに盛り込まれたのは「コーポレートガバナンス・コード」ではなく「投資家と企業の対話ガイドライン」です。「投資家と企業の対話ガイドライン」はCG報告書とは紐づいていないので、「CG報告書でエクスプレインせざるを得ない」旨の取締役Cの発言は誤りです。なお、「投資家と企業の対話ガイドライン」でも「経済安全保障担当役員の設置」まで求める記載ぶりにはなっていないことには留意が必要です。