アクティビストの活発化に伴い、株主総会における株主提案が年々目に付くようになってきた。今年も4月下旬あたりから、株主提案を受けた3月決算の上場会社の取締役会による(株主提案への)反対意見のリリースが出始めている。
その中で最も話題となっているのは、東京証券取引所ビルを所有することで知られる平和不動産に対する香港のLIM JAPAN EVENT MASTER FUNDの株主提案だ。同ファンドは「JPX(日本取引所グループ)からの天下りの禁止」を定款に盛り込むよう求めるとともに、「政策保有株式として保有するJPXの株式の全てを処分する」旨の定款変更も提案している。その理由として、「東証から天下り慣行のもと、東証ビルの賃料は低下を続け、周辺地域よりも低い」と指摘したうえで、平和不動産がJPX株式の保有目的とする「当社の旗艦ビルである東京証券取引所ビルや大阪証券取引所ビル等のテナントとして、不動産賃貸に係る取引実績があり、同社との取引関係の強化を図ることは、中長期的な事業展開上有益であると考えられる」との主張は誤っており、「JPX 株式の保有は当社(平和不動産)のメリットとなるどころか、かえって当社株主の利益が損なわれる事態となっている」ことを挙げている。
政策保有株式関連の定款変更と言えば、国内アクティビストのストラテジックキャピタルの動きも見逃せないところだ。ストラテジックキャピタルはここ数年、定款変更により政策保有株式売却や資本コストの開示を求める内容の株主提案を投資先に対して実施している。今年(2021年)、ストラテジックキャピタルが株主提案を実施している投資先は下記の5社となっている(このほか、文化シャッターに対しても株主提案を実施していたものの、株主提案の書面が会社法の定める株主提案の行使期限(株主総会開催予定日の8週間前まで)である2021年4月26日に到達しなかったため当該提案は不受理となっている)。
資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。
・極東貿易
・有沢製作所
・世紀東急工業
・淺沼組
・ワキタ
このうち極東貿易に対しては、定款に「有価証券の投資や運用」を目的として定めていないにもかかわらず純投資目的の上場株式を保有している点について、「極東貿易への株主提案(2021年)に関する特集サイト」まで設けたうえで、「株式会社極東貿易の純投資目的株式の保有は定款に違反?」と問題提起している。
極東貿易のように、純投資目的の株式を有する一方で、定款に「有価証券の投資や運用」といった目的を定めていない上場会社は少なくない。もっとも、上場会社が定款に「有価証券の投資や運用」といった目的を追加すべきかというと、そうとは言えない。政策保有株式に対する厳しい視線が注がれる中、株主総会で「有価証券の投資や運用」を定款の目的に追加するための会社提案を行うことはまさに“藪蛇”となる。実際、定款の目的に「有価証券の保有及び運用」を入れている有沢製作所は、ストラテジックキャピタルから同目的を定款から削除するよう株主提案を受けている。要するに、仮に定款に「有価証券の投資や運用」を目的として定めたとしても、結局は定款変更を迫られるだけなので意味がないということだ。
ちなみに、ストラテジックキャピタルが昨年(2020年)実施した同様の株主提案の際の賛成率(小数点未満を四捨五入)は下表のとおり。定款変更の要件である3分の2の賛成には程遠いとは言え、一定数の賛成を得たという事実をもって会社にプレッシャーをかけてくることは間違いない。資本コストの低い上場会社や政策保有株式を数多く抱えている上場会社にとってはやはり気になる存在と言えよう。
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極東貿易 |
有沢製作所 |
世紀東急工業 |
淺沼組 |
| 資本コストの開示に係る定款変更の件 |
37% |
20% |
28% |
株主提案なし |
| 政策保有株式を売却するよう求める定款変更の件 |
31% |
11% |
株主提案なし |
21% |
(2021年)5月7日までパブリックコメント手続きに付されていたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂案で、はじめてCGコードに明文化され、にわかに脚光を浴びているのが「TCFD」(気候関連財務情報開示タスクフォース。改訂案の補充原則3-1③参照)だが、TCFD関連の株主提案も散見される。昨年(2020年)、日本のNPO気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループに対して「パリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画の開示」を定款に定めるよう定款の一部変更を求める株主提案を行ったものの、否決された。賛成率は34%であり、定款変更に必要な賛成率(3分の2)の半分程度の賛成票しか集められなかったが、気候ネットワークによる調査(*)によると、機関投資家213機関・団体のうち8割を超える172機関・団体(系列会社による議決権行使結果を含む)が同株主提案に賛成していた点は注目に値する。これには、同株主提案に議決権行使助言会社大手のISSおよびグラスルイスが賛成を推奨したことも影響したものと思われる。気候ネットワークは、今年(2021年)は三菱UFJフィナンシャル・グループにTCFD関連の株主提案を実施している(気候ネットワークのリリースはこちら)。三菱UFJフィナンシャル・グループにおける株主提案の賛成率がどの程度の水準になるのか、気になるところだ。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。
* 気候ネットワークが、機関投資家の議決権行使結果について公開情報に基づき実施した調査(2020年12月末時点)
また、住友商事はオーストラリアの環境NGO MARKET FORCESからの株主提案で「石炭、石油、ガス事業関連資産の保有量、事業規模をパリ協定の目標に沿ったものにするための指標と短期、中期、長期の目標を含む事業戦略を記載した計画を決定し、年次報告書にて開示する。」との条項を定款に規定することを求められている。MARKET FORCESは、提案の理由として「他の商社が石炭関連資産(一般炭鉱及び発電所)を処分する中、当会社の石炭事業方針は現在でも、既存の炭鉱取得や発電所新設を許容している。当会社は、石油、ガス事業に関しても、パリ協定と整合するカーボンニュートラル化への道筋を示していない。」ことを挙げているが、住友商事の取締役会は「当社は本株主提案に含まれる事業戦略を記載した計画の策定や開示に既に取り組んでおり、本株主提案が求める内容を新たに定款に記載する必要はございません。なお、定款は会社の組織等に関する基本的な事項を定めるものであり、また、必要に応じて機動的に方針や計画を変更し、それを速やかに実行していく観点から、個別具体的な方針等を定めることはせず、現行定款の内容を維持したいと考えています。」として本株主提案に反対の方針を示している(住友商事のリリースはこちら)。
みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、住友商事のいずれも気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同の意を表明していることが株主提案のきっかけの一つになっており、TCFDに賛同している企業(2021年4月30日時点で386の企業・機関)も同様の株主提案を受ける可能性はゼロではない。TCFDに賛同した上場会社は、株主から定款変更を求められても「気候変動に関連する計画は策定済みで、開示も十分に行っているので定款変更の必要はない」と反駁できるようにしておきたい。