日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創
本年(2021年)6月の株主総会シーズンを前に、国内機関投資家の議決権行使ガイドライン(以下、ガイドライン)の改定が相次ぎました。各機関投資家の改定内容は様々ではありますが、並べてみるといくつかの共通テーマが浮かび上がってきます。本年はガイドライン改定を実施するタイミングでコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論が進展していたこともあり、取締役会の構成や多様性、サステナビリティ(ESG)といった内容に関する改定も確認されます。
本稿では、国内の主要機関投資家各社に共通して見られるガイドラインの改定内容について確認します。もちろん、企業にとってどの機関投資家が「主要」と位置付けられるのか、すなわちどの機関投資家の議決権行使判断が自社の議案の賛成率に与える影響が大きいかについては、当然のことながら企業毎に状況が異なりますが、ここでは国内最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)からの運用受託額が大きい投資家(アセットマネジメントOne、ブラックロック・ジャパン、三井住友トラスト・アセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行、りそなアセットマネジメント)と投資信託の運用額の大きい投資家(野村アセットマネジメント、大和アセットマネジメント)のガイドラインを中心に分析を行います。なお、日興アセットマネジメントも投資信託の運用額の大きい投資家に位置付けられ、本年2月にガイドラインの改定を実施していますが、文言等の変更はあったものの具体的な基準の変更は確認されなかったことから、本分析の対象外としています。
取締役会の構成に関する改定
まず、取締役会の構成に関する改定から見ていきます。下表のとおり、5つの機関投資家が本テーマについてガイドラインを改定しています。
| 機関投資家 |
ガイドライン改定内容(要旨) |
| アセマネOne |
・親会社等のいない会社に求める社外取締役の割合を、「2名以上かつ20%以上」から「2名以上かつ25%以上」に引き上げ(2022年4月以降は「1/3以上」への引き上げを検討) |
| 大和AM |
・東証一部上場企業以外に求める社外取締役の割合を1名以上から2名以上に引き上げ |
| 野村AM |
・支配株主のいない監査役設置会社に求める社外取締役の割合を、原則2名以上から1/3以上に引き上げ(2021年11月以降適用)
支配株主 : 必ずしも一律の定義はないが、東証の上場規則では、議決権の50%超を有している者や議決権の40%以上を有している者で、かつ、取締役の過半数を派遣していたり重要な財務および事業の方針の決定を支配する契約書が存在していたりする者を指す(東証 有価証券上場規程施行規則3条の2)。「支配株主」以外を「一般株主」という。ちなみに、上場会社の支配株主自体も上場しているケースが「親子上場」である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
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| ブラックロック |
・監査等委員会設置会社に求める社外取締役の割合を2名以上から1/3以上に引き上げ(2022年以降適用)
・プライム市場上場の監査役設置会社に対して、1/3以上の社外取締役選任を要求(2022年以降適用) |
| りそなAM
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・親会社・支配株主のいない監査役設置会社に求める社外取締役の割合を、「2名以上かつ20%以上」から「2名以上かつ25%以上に引き上げ(次回(2022年)の改定において「1/3以上」への引き上げを検討)
・親会社・支配株主を有する場合の基準を1/3以上から過半数に引き上げ |
本年3月に公表され、(4月7日~)5月7日までパブリックコメントに付されていたコーポレートガバナンス・コード改訂案におけるポイントの一つとして、プライム市場上場会社に対し、独立社外取締役の1/3以上の選任が実質的に義務付けられたことが挙げられます(原則4-8)。
国内機関投資家では、既に三菱UFJ信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントが、議決権行使の判断基準として、今回のガイドライン改定以前に「1/3基準」を導入していましたが、これに続いて野村アセットマネジメントやブラックロック・ジャパンも本年株主総会シーズン以降、原則として「1/3以上」の社外取締役選任を求めることとなりました。本年は「25%以上」への引上げにとどまったアセットマネジメントOneやりそなアセットマネジメントも、来年以降「1/3以上」への変更を検討していると表明しています。
一方、海外機関投資家の議決権行使判断に大きな影響力をもつ議決権行使助言会社ISSも、2022年2月より、監査役設置会社に対し「1/3基準」を適用する予定となっています(指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社に対しては既に同基準を導入済み)。したがって、来年にはほとんどの機関投資家が、企業の機関設計に関わらず1/3以上の社外取締役の選任を求めることになります。
社外役員の任期に関する改定
社外役員の任期については、下表のとおり3つの機関投資家がガイドラインを改定しています。
| 機関投資家 |
ガイドライン改定内容(要旨) |
| 野村AM |
・在任期間が12年以上の社外役員の独立性を否認 |
| ブラックロック |
・在任期間が16年以上の社外役員の独立性を否認(本改定前から、「社外役員の在任期間が著しく長期にわたる場合」には独立性を否認していたが、今回具体的な年数が明示された) |
| りそなAM |
・在任期間が12年以上の社外役員の独立性を否認
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本年6月株主総会に向けたガイドラインの改定では、上表のとおり、野村アセットマネジメント、りそなアセットマネジメントが社外役員の在任期間に関する基準を新設し、ブラックロックが独立性を否認する在任期間の明確化を図ったことが確認されました。これには、在任期間が長期に及んだ場合、企業からの独立性が薄れ、社外役員として厳しい発言などがしにくくなる恐れがあるとの懸念が背景にあります。
既に社外役員の在任期間に関する基準を設定している投資家も多く、アセットマネジメントOneと大和アセットマネジメントは「12年以上」、三菱UFJ信託銀行は「20年以上」で独立性を否認しています。機関投資家によって違いはあるものの、国内においては、「12年」が主流になりつつあると言えそうです。一方、議決権行使助言会社のISSやグラスルイスは、現状では日本企業向けポリシーにおいて在任期間に関する基準を置いていません。
ジェンダー・ダイバーシティに関する改定
ジェンダー・ダイバーシティについては、下表のとおり2つの機関投資家がガイドラインを改定しています。
| 機関投資家 |
ガイドライン改定内容(要旨) |
| 大和AM |
・TOPIX100構成企業で女性取締役/監査役が不在の場合に代表取締役の再任に反対 |
| ブラックロック |
・TOPIX100構成企業で女性取締役/監査役が不在かつ合理的な説明がなされない場合に責任のある取締役の再任に反対 |
| りそなAM |
(・今後女性役員に関する基準導入を検討)
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コーポレートガバナンス・コードの改訂議論を進めて来たフォローアップ会議では女性役員の選任義務付けを求める声もありましたが、今回の改訂での導入は見送られました。一方、国内機関投資家では、大和アセットマネジメントとブラックロック・ジャパンがTOPIX100構成企業を対象として女性役員に関する基準を導入しました。りそなアセットマネジメントは今後の導入を示唆するとどまったものの、「検討」することを明記したことからすると、近い将来、導入に踏み切ることが予想されます。
議決権行使助言会社では、グラスルイスが東証一部・二部上場会社に女性役員の選任を求めているのに対し、ISSは女性役員に関する基準を導入していません。ただし、投資家独自の基準として日本企業に対し女性取締役に関する基準(不在の場合に経営トップの選任議案に反対するなど)を置く海外機関投資家も増えてきています。来年以降、国内においてジェンダー・ダイバーシティ基準を導入する機関投資家が増える、あるいは既に導入している機関投資家が対象企業(現状は「TOPIX100構成企業」など)を拡大する(例えば「プライム市場上場企業」など)可能性もあります。また、海外機関投資家の行使判断に与える影響が大きいISSの動向も引き続き注目されるところです。
政策保有株式に関する改定
政策保有株式については、下表のとおり1つの機関投資家がガイドラインを改定しています。
| 機関投資家 |
ガイドライン改定内容(要旨) |
| 大和AM |
(・政策保有株式の自己資本に占める割合が高い場合は、資本効率の点から問題があると考えており、今後基準導入を検討) |
| 三井住友トラスト |
・ 政策保有株式を過大に保有している企業について、対話の申入れに応じない場合や、継続的な対話実施にも関わらず改善がみられない場合に取締役選任への反対を検討 |
| りそなAM |
(・資本効率や企業統治の低下を招く政策保有株式について、一定の範囲を超えて保有している企業に対しての基準導入を検討)
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議決権行使助言会社では、グラスルイスが本年(2021年)から、政策保有株式を過大に保有する企業の取締役選任議案に反対するとの基準の適用を開始しています(政策保有株式の金額が純資産の10%以上の場合、経営トップの選任議案に反対推奨)。また、ISSも来年(2022年)から、政策保有株式の金額が純資産の20%以上の場合に経営トップの選任議案に反対推奨するとの基準の適用を開始する予定となっています。
一方、政策保有株式に関する基準を置く国内機関投資家は、SOMPOアセットマネジメントや三井住友DSアセットマネジメントなど限定的であったところ、上表のとおり、三井住友トラスト・アセットマネジメントが、企業が対話の申込みに応じない場合や対話を経ても改善がみられない場合に取締役選任への反対を検討するとの基準を新設しました。さらに大和アセットマネジメントとりそなアセットマネジメントは、今後の基準導入の可能性を示唆しています。
政策保有株式に関する機関投資家の関心は高いものがあります。したがって、たとえ現在は特段の基準を設定していない機関投資家であっても、対話のテーマとなり得ることはもちろん、将来的にはガイドラインを改定する可能性がある点、注意したいところです。
ESGに関する改定
ESGについては、下表のとおり3つの機関投資家がガイドラインを改定しています。
| 機関投資家 |
ガイドライン改定内容(要旨) |
| アセマネOne |
・気候変動リスクなど情報開示を求める株主提案について株主価値向上に資すると判断される場合は原則賛成する |
| ブラックロック |
・気候変動に関連するリスクが高いと考えられる投資先企業において、情報開示等が不十分な場合、責任のある取締役の再任に反対する |
| 三井住友トラスト |
・ESGなど重大な課題を有する企業について、対話の申入れに応じない場合や、継続的な対話実施にも関わらず改善がみられない場合に取締役選任への反対を検討する
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昨今、年金基金のみならず、投資信託においてもいわゆるサステナビリティファンドに資金が流入していると言われており、ESG投資がますます進展していることが窺われます。上表とおり今回の機関投資家のガイドライン改定におけるESGに関する規定の新設も、こうした流れに沿ったものと言えるでしょう。
具体的に見ると、アセットマネジメントOneは、気候変動に関する情報開示を求める株主提案について、株主価値向上に資する場合には原則賛成するとの立場を明文化しました。もっとも、昨年みずほフィナンシャルグループに提出された気候変動に関する計画の開示を求める株主提案議案の賛成率が34%に上ったことからも分かるとおり、ESGについてガイドラインに特段の基準を設けていない機関投資家であっても、こうした株主提案に賛成することは十分にあり得るという点には留意すべきでしょう。
ブラックロック・ジャパンは、気候変動に関する情報開示等が不十分な場合には会社提案の取締役選任議案に反対するとしています。同様に三井住友トラスト・アセットマネジメントも、企業がESG課題に関する対話の申し入れに応じない場合や進捗が不十分な場合には反対行使を検討するとの基準を新設しています。
コーポレートガバナンス・コード改訂案においても、「サステナビリティの開示」に関する補充原則3-1③が新設され、サステナビリティについての取組みの開示を求めています。さらに、プライム市場上場会社については「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」が求められることとなりました。議決権行使判断において考慮される企業のESG課題としても、気候変動問題がその筆頭であると言えるでしょう。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
本年総会以降の見通し
ここまで、国内主要機関投資家の本年6月株主総会シーズンに向けたガイドライン改定において確認された共通テーマとして、①取締役会構成、②社外役員の任期、③ジェンダー・ダイバーシティ、④政策保有株式、⑤ESGを取り上げてきましたが、これらを「時間軸」で見ると、その“ステージ”には違いが見られます。
①取締役構成と②社外役員の任期については、国内機関投資家の目線としてそれぞれ「社外取締役1/3以上」、「在任期間12年程度まで」という水準に概ね収れんしつつある状況と言えそうです。
一方、③ジェンダー・ダイバーシティ、④政策保有株式については、これまで企業と機関投資家の対話におけるテーマであったものが、議決権行使ガイドラインに織り込まれはじめた段階にあると考えられます。次回のガイドライン改定では、③「女性役員不在の場合、経営トップの選任に反対する」や④「政策保有株式が純資産の〇%以上の場合、経営トップの選任に反対する」といった基準の新設が進むことも予想されます。
さらに、⑤ESGについては、企業と機関投資家との対話がまさに進行している段階にあると言えるでしょう。機関投資家の間では、広範に及ぶESG課題のうち、まずは気候変動問題が重要であるとの認識が浸透しており、対話の進展に伴って、「企業の気候変動に関する方針や情報の開示が不十分である」などを理由とした取締役選任議案への反対行使等が徐々に増加することが予想されます。
気候変動に続くテーマとしては、例えばコロナ禍において注目が高まっている「人権」などが考えられます。実際、大和アセットマネジメントは、ガイドライン改定のリリースにおいて「当社では、ビジネスと人権について、企業の人権に対する取組みや情報開示を促すことは重要なエンゲージメントのテーマであり、課題であると認識しています」と表明しています。将来的には、対話を経てもなお「重要なESG課題に対する企業の取組みが不足している」とみなされた場合などに、取締役選任議案への反対行使が増加するということが起こるかもしれません。もっとも、重要なESG課題は企業によって異なると考えられます。上場会社の経営陣は、自社のビジネスにとって重要なESG課題を整理するとともに、投資家との対話を通じて自社の取組みに対する評価や認識の齟齬がないかなどを確認することがますます重要になってくると言えるでしょう。