改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日〜5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「中長期的な持続可能性」に関する補充原則について解説する。
改訂CGコード解説(1) 「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則
改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則
改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則
今回改訂された17原則のうち、「中長期的な持続可能性」に関するものは4原則あった。以下、順に解説する。
補充原則2-3① 持続可能性への取り組み(改訂)
| 現行 |
改訂 |
| 取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。 |
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との構成・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。 |
本改訂原則では、取締役会が検討すべき「サステナビリティを巡る課題」を具体的に例示したうえで、これらの課題への対応がリスクの減少のみならず収益拡大、企業価値向上にも資することが明記された。また、末尾が現行の「検討すべき」から「検討を深めるべき」に修正されるなど、企業経営におけるサステナビリティの重要性を一層強調する趣旨の改訂となっている。
サステナビリティを巡る課題の具体的な内容としては、①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害の5項目が例示されており、取締役会はこれらへの取り組みを検討することが求められる。ただし、例示の最後に「など」が付いていることからも分かるように、この5つが「コンプライ」の必須条件ではない。これらとは異なる自社にとっての「サステナビリティを巡る課題」も当然あり得よう。
また、取締役会での議論では、サステナビリティを巡る課題への対応がリスクの減少(マイナスのリスク)だけではなく、収益機会(プラスのリスク=オポチュニティ)という意識を持つことが求められる。例えば、課題の選定や議論の進め方がオポチュニティの追求を志向したものになっているかといったことだ。本改訂原則では「中長期的な企業価値向上の観点」が強調されているため、ここでいうサステナビリティ課題も一般論としてのサステナビリティ課題ではなく、事業特性や自社の戦略などと関連付けて検討されるべきだろう。
補充原則2-4① 多様性の確保(新設)
| 現行 |
改訂 |
| (新設) |
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。
|
フォローアップ会議が昨年12月18日に公表した意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」では、管理職層に「ジェンダー・国際性・職歴等」の多様性を確保すべきこと、その際には中途採用人材の活用が欠かせないこと、これらの中核人材が取締役・経営陣に登用される仕組みの構築が重要であること、が提言された(同意見書3ページ参照)。したがって、今回新設された本原則への対応に際しては、単に管理職の多様性を確保するだけにとどまらず、将来の役員選任につながる後継者計画の一環であるとの意識を持つことが求められていると言えよう。
本原則では、「多様性」の具体的な内容として、①女性、②外国人、③中途採用者が示された。これらの者について管理職に占める割合などの数値目標と達成状況を「開示すべき」とされていることから、本原則はいわゆる“開示原則”に該当することになると考えられる。すなわち、上記数値目標と達成状況を「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」としてコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)に記載する必要があるということだ。ただし、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用」「中核人材の登用」いずれの後にも「等」が付されていることから、必ずしも①~③の全ての者について管理職に占める割合などの目標と現状を開示する必要はない。もっとも、ジェンダー・ダイバーシティの重要性が叫ばれる中、少なくとも①女性について「測定可能な」情報を開示していない場合、本原則を「コンプライ」しているとは言い難いだろう。
また、本原則では、上記数値目標および達成状況だけでなく、多様性確保に向けた①人材育成の方針、②社内環境整備の方針についても、その実施状況とともに「開示すべき」とされている。自社の人事制度や社員研修への取り組みなどが多様性の確保を志向したものとなっているか、また、中長期的な企業価値向上に資するものなっているかを改めて検討し、改善すべき点は改善したうえで開示することが望ましいと考えられる。
補充原則3-1③ サステナビリティの開示(新設)
| 現行 |
改訂 |
| (新設) |
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
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今回新設された本原則は、前段が「開示すべき」「開示・提供すべき」、後段(プライム市場の特則)が「開示の質と量の充実を進めるべき」との表現となっており、CG報告書に「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」として記載する必要があるように読める。しかし、各文言が「開示すべき」と明確な書き方で統一されていないこと、また前段は「経営戦略の開示に当たって」と時機が限定されていることから、必ずしもCG報告書での開示が求められるとは限らないこととなる可能性がありそうだ。この点はパブリックコメントへの回答等で示されることになろう。
前段で全上場会社に開示を求めている「サステナビリティについての取り組み」は、企業価値向上に資するものとなることを意識しながら各社が独自に設定、説明すべきものである。とはいえ、その際には上記改訂補充原則2-3①がサステナビリティ課題として例示している5項目、すなわち①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害を念頭に置くことが望ましい。また、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しながら、人的資本や知的財産への投資等についても情報を提供・開示すべきとされている。いずれも中期経営計画などにおける重要な構成要素として、具体的なデータや取り組みを伴った説明が期待されよう。
さらに本原則では、プライム市場の上場会社に対し、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響を、TCFDなど気候変動に関するフレームワークなどに基づいて開示することを求めており、この開示がなければ本原則については「エクスプレイン」とすることを検討せざるを得ない。TCFDが示す開示の4要素である①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標と目標に沿った説明(TCFD開示の4要素や詳細な開示内容については、TCFDコンソーシアムが公表している「気候関連財務情報開示に関するガイダンス 2.0」の「3.ガバナンス〜」(28ページ)〜「6. 指標と目標」(56ページ〜)参照)が期待されていると言える。ただし本原則では「TCFDまたはそれと同等の枠組みに“基づく”開示」としていることから、TCFD開示そのものを実施するよう求めているわけではない(2021年4月7日のニュース「英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?」参照)。「TCFDまたはそれと同等の枠組み」としては、 SASBスタンダードやIIRCフレームワークなどが考えられ、これらに準拠した開示もコンプライに値するものと考えられる。なお、現在、非財務情報に関する開示フレームワークを国際的に統一する動きが活発となっているため、いずれのフレームワークを採用するかは慎重に見極める必要がある。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
SASBスタンダード : 2011年に米国サンフランシスコを拠点に設立された非営利団体であるサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が2018年11月に公表した、財務的インパクトが大きいESG情報を主に投資家に向けて開示するためのフレームワーク。11セクター77業種別に開示項目及びKPIが設定されている(例:温室効果ガス排出量 ・労働災害事故発生割合)。
IIRCフレームワーク:財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指し、英国で設立された、規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織であるInternational Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会)が2013年に統合報告書の作成についての考え方をまとめたもの。開示対象としては投資家を念頭に置いている。日本語では「国際統合報告フレームワーク」と呼ばれる。同フレームそれ以降、日本を含む世界で統合報告が進んだ。なお、2020年2月に、フレームワークの改定を検討していることが発表された。
補充原則4-2② サステナビリティの監督(新設)
| 現行 |
改訂 |
| (新設) |
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。
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上述のとおり、改訂補充原則2-3①は取締役会に対し、サステナビリティ課題を「成長機会にもつながる重要な経営課題」として検討を深めることを求めており、さらに今回新設された本原則は、サステナビリティを巡る取り組みについて「基本的な方針」を策定することを求めている。これら2つの原則をつなげれば、この「基本的な方針」も、企業の成長につながるものであるべきと言える。このような観点から“サステナビリティ基本方針”と呼べるものが現状では自社に存在しないのであれば、本原則については「エクスプレイン」を検討すべきということになる。
また、上述のとおり改訂補充原則2-3①は、サステナビリティ課題として①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害の5項目を例示していることから、本原則における「サステナビリティ基本方針」についても、これらのテーマを考慮したものであることが望ましいだろう。ただし、上述のとおりこれら5項目は「例示」に過ぎないことから、必ずしもこれら5項目を全てカバーしている必要はなく、逆に言えばこれら5項目を全てカバーしていればよいというわけでもない。あくまでも自社の「中長期的な企業価値の向上」に資するという観点から特定したサステナビリティ課題を踏まえ、サステナビリティ基本方針を策定する必要がある。
また、本原則は、人的資本・知的財産など経営資源の配分、および事業ポートフォリオに関する戦略が、取締役会によって実効的に監督されることも求めている。取締役会による監督を実効性のあるものとするためには、基本的な方針、および経営資源の配分やポートフォリオ戦略の実施状況の評価手法が確立されていなければならない。特に後者は、今回のCGコード改訂で新設された補充原則4-2②が求める「経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行の実効的に監督」にも関係する。この「評価手法」についても議論しておく必要があろう。