2021/04/16 厚労省が新たな履歴書の様式例案を公表、企業に真っ先に求められる対応

周知のとおり、2020年7月にLGBT当事者を支援する団体から JIS規格を管轄する経済産業省などに履歴書様式の検討(性別欄の削除等)を求める要請が行われたことを受け、既にJIS規格から履歴書の様式例が削除されている。また、事務用品最大手のコクヨは性別の開示を希望しない求職者のニーズに対応するため、かつては氏名欄の横にあった「性別欄」のない履歴書の販売を2020年12月から開始している。

JIS規格 : JISとは(Japanese Industrial Standards)の略で、日本産業規格と訳される。日本の産業製品などについて国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することを目的としている。自由に放置しておけば、多様化・複雑化・無秩序化してしまいかねないモノやコトについて「標準化」を図ることにより、互換性の確保、品種削減を通じた量産化による生産の効率化、取引の単純化の促進などが期待される。JIS規格の対象には、自動車や電化製品、生活用品などの産業製品生産に関するものから、プログラムなどの情報処理、サービスに関するものなどがある。基本的に「規格」は任意であるが、法規などに引用された場合は強制力を持つことになる。

従来、JIS規格の履歴書の様式例の使用を推奨してきた厚生労働省は、履歴書の様式例がJIS規格から削除されたことに伴い、労働政策審議会職業安定分科会において履歴書の様式例について検討を行っていたが、2021年4月16日に開催された第163回の会合で新たな履歴書の様式例(案)を明らかにした。

様式例(案)では、性別欄自体は設けられているものの、「男・女」のいずれかを選択するのではなく任意記載となっている。そして欄外に「記載は任意です。未記載とすることも可能です。」との注記が追加されている。さらに、「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の各欄も削除されている。これらの項目は採用選考の公正性を確保するためには不要と判断した。

分科会は、本様式例には法的拘束力はなく、当該様式を使用するかどうかは各企業で判断することが可能としつつも、別の様式の応募用紙を使用する際には就職差別につながる項目を含めないよう留意が必要としている。

ここでいう“別の様式の応募用紙”の一つとして想定されるのが、・・・

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2021/04/16 厚労省が新たな履歴書の様式例案を公表、企業に真っ先に求められる対応(会員限定)

周知のとおり、2020年7月にLGBT当事者を支援する団体から JIS規格を管轄する経済産業省などに履歴書様式の検討(性別欄の削除等)を求める要請が行われたことを受け、既にJIS規格から履歴書の様式例が削除されている。また、事務用品最大手のコクヨは性別の開示を希望しない求職者のニーズに対応するため、かつては氏名欄の横にあった「性別欄」のない履歴書の販売を2020年12月から開始している。

JIS規格 : JISとは(Japanese Industrial Standards)の略で、日本産業規格と訳される。日本の産業製品などについて国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することを目的としている。自由に放置しておけば、多様化・複雑化・無秩序化してしまいかねないモノやコトについて「標準化」を図ることにより、互換性の確保、品種削減を通じた量産化による生産の効率化、取引の単純化の促進などが期待される。JIS規格の対象には、自動車や電化製品、生活用品などの産業製品生産に関するものから、プログラムなどの情報処理、サービスに関するものなどがある。基本的に「規格」は任意であるが、法規などに引用された場合は強制力を持つことになる。

従来、JIS規格の履歴書の様式例の使用を推奨してきた厚生労働省は、履歴書の様式例がJIS規格から削除されたことに伴い、労働政策審議会職業安定分科会において履歴書の様式例について検討を行っていたが、2021年4月16日に開催された第163回の会合で新たな履歴書の様式例(案)を明らかにした。

様式例(案)では、性別欄自体は設けられているものの、「男・女」のいずれかを選択するのではなく任意記載となっている。そして欄外に「記載は任意です。未記載とすることも可能です。」との注記が追加されている。さらに、「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の各欄も削除されている。これらの項目は採用選考の公正性を確保するためには不要と判断した。

分科会は、本様式例には法的拘束力はなく、当該様式を使用するかどうかは各企業で判断することが可能としつつも、別の様式の応募用紙を使用する際には就職差別につながる項目を含めないよう留意が必要としている。

ここでいう“別の様式の応募用紙”の一つとして想定されるのが、多くの企業が人材採用に活用しているウェブサイト上のエントリーページだ。上場企業や地方自治体の人材採用エントリーページの性別欄を見ると、LGBTへの配慮の跡が見えるものが増えてきた。例えばトヨタ自動車は、下記のとおり性別欄を「任意の入力項目」としたうえで、「男性」「女性」「その他」と3つの選択肢を設けている。

トヨタの採用エントリーページより抜粋
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もっとも、①LGBT当事者の中には「その他」欄を選択したりいずれも選択しなかったりすることにより何らかの不利益を被るリスクをおそれる者もいるであろうこと、②男女雇用機会均等法では、業務を行う上で特定の性別でなければならない理由(いわゆる男女雇用機会均等法における適用外職種)がない限り、採用に係る性別を理由とする差別が禁止されている(男女雇用機会均等法5条)ため、そもそも性別欄の情報は採用の判断にあたっては不要な情報のはずであることの2点を考慮すると、性別欄自体を削除するのも一案と言えよう。

男女雇用機会均等法における適用外職種 : 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務(俳優やモデルなど)や守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務などが該当する。

上場企業であっても、いまだに人材採用エントリーページで「男・女」のいずれかの選択を必須としているケースが少なくない。たった1つの入力欄だけでLGBTに対する当該企業の“感度”が判明してしまうだけに、こうした企業にあっては早急な対応が望まれるところだ。

2021/04/15 改訂CGコード解説(4) 「中長期的な持続可能性」に関する補充原則

改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日〜5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「中長期的な持続可能性」に関する補充原則について解説する。・・・

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2021/04/15 改訂CGコード解説(4) 「中長期的な持続可能性」に関する補充原則(会員限定)

改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日〜5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「中長期的な持続可能性」に関する補充原則について解説する。

改訂CGコード解説(1) 「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則
改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則
改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則

今回改訂された17原則のうち、「中長期的な持続可能性」に関するものは4原則あった。以下、順に解説する。

補充原則2-3① 持続可能性への取り組み(改訂)
現行 改訂
取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。 取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との構成・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

本改訂原則では、取締役会が検討すべき「サステナビリティを巡る課題」を具体的に例示したうえで、これらの課題への対応がリスクの減少のみならず収益拡大、企業価値向上にも資することが明記された。また、末尾が現行の「検討すべき」から「検討を深めるべき」に修正されるなど、企業経営におけるサステナビリティの重要性を一層強調する趣旨の改訂となっている。

サステナビリティを巡る課題の具体的な内容としては、①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害の5項目が例示されており、取締役会はこれらへの取り組みを検討することが求められる。ただし、例示の最後に「など」が付いていることからも分かるように、この5つが「コンプライ」の必須条件ではない。これらとは異なる自社にとっての「サステナビリティを巡る課題」も当然あり得よう。

また、取締役会での議論では、サステナビリティを巡る課題への対応がリスクの減少(マイナスのリスク)だけではなく、収益機会(プラスのリスク=オポチュニティ)という意識を持つことが求められる。例えば、課題の選定や議論の進め方がオポチュニティの追求を志向したものになっているかといったことだ。本改訂原則では「中長期的な企業価値向上の観点」が強調されているため、ここでいうサステナビリティ課題も一般論としてのサステナビリティ課題ではなく、事業特性や自社の戦略などと関連付けて検討されるべきだろう。

補充原則2-4① 多様性の確保(新設)
現行 改訂
(新設) 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

フォローアップ会議が昨年12月18日に公表した意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」では、管理職層に「ジェンダー・国際性・職歴等」の多様性を確保すべきこと、その際には中途採用人材の活用が欠かせないこと、これらの中核人材が取締役・経営陣に登用される仕組みの構築が重要であること、が提言された(同意見書3ページ参照)。したがって、今回新設された本原則への対応に際しては、単に管理職の多様性を確保するだけにとどまらず、将来の役員選任につながる後継者計画の一環であるとの意識を持つことが求められていると言えよう。

本原則では、「多様性」の具体的な内容として、①女性、②外国人、③中途採用者が示された。これらの者について管理職に占める割合などの数値目標と達成状況を「開示すべき」とされていることから、本原則はいわゆる“開示原則”に該当することになると考えられる。すなわち、上記数値目標と達成状況を「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」としてコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)に記載する必要があるということだ。ただし、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用」「中核人材の登用」いずれの後にも「等」が付されていることから、必ずしも①~③の全ての者について管理職に占める割合などの目標と現状を開示する必要はない。もっとも、ジェンダー・ダイバーシティの重要性が叫ばれる中、少なくとも①女性について「測定可能な」情報を開示していない場合、本原則を「コンプライ」しているとは言い難いだろう。

また、本原則では、上記数値目標および達成状況だけでなく、多様性確保に向けた①人材育成の方針、②社内環境整備の方針についても、その実施状況とともに「開示すべき」とされている。自社の人事制度や社員研修への取り組みなどが多様性の確保を志向したものとなっているか、また、中長期的な企業価値向上に資するものなっているかを改めて検討し、改善すべき点は改善したうえで開示することが望ましいと考えられる。

補充原則3-1③ サステナビリティの開示(新設)
現行 改訂
(新設) 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

今回新設された本原則は、前段が「開示すべき」「開示・提供すべき」、後段(プライム市場の特則)が「開示の質と量の充実を進めるべき」との表現となっており、CG報告書に「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」として記載する必要があるように読める。しかし、各文言が「開示すべき」と明確な書き方で統一されていないこと、また前段は「経営戦略の開示に当たって」と時機が限定されていることから、必ずしもCG報告書での開示が求められるとは限らないこととなる可能性がありそうだ。この点はパブリックコメントへの回答等で示されることになろう。

前段で全上場会社に開示を求めている「サステナビリティについての取り組み」は、企業価値向上に資するものとなることを意識しながら各社が独自に設定、説明すべきものである。とはいえ、その際には上記改訂補充原則2-3①がサステナビリティ課題として例示している5項目、すなわち①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害を念頭に置くことが望ましい。また、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しながら、人的資本や知的財産への投資等についても情報を提供・開示すべきとされている。いずれも中期経営計画などにおける重要な構成要素として、具体的なデータや取り組みを伴った説明が期待されよう。

さらに本原則では、プライム市場の上場会社に対し、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響を、TCFDなど気候変動に関するフレームワークなどに基づいて開示することを求めており、この開示がなければ本原則については「エクスプレイン」とすることを検討せざるを得ない。TCFDが示す開示の4要素である①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標と目標に沿った説明(TCFD開示の4要素や詳細な開示内容については、TCFDコンソーシアムが公表している「気候関連財務情報開示に関するガイダンス 2.0」の「3.ガバナンス〜」(28ページ)〜「6. 指標と目標」(56ページ〜)参照)が期待されていると言える。ただし本原則では「TCFDまたはそれと同等の枠組みに“基づく”開示」としていることから、TCFD開示そのものを実施するよう求めているわけではない(2021年4月7日のニュース「英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?」参照)。「TCFDまたはそれと同等の枠組み」としては、 SASBスタンダードIIRCフレームワークなどが考えられ、これらに準拠した開示もコンプライに値するものと考えられる。なお、現在、非財務情報に関する開示フレームワークを国際的に統一する動きが活発となっているため、いずれのフレームワークを採用するかは慎重に見極める必要がある。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
SASBスタンダード : 2011年に米国サンフランシスコを拠点に設立された非営利団体であるサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が2018年11月に公表した、財務的インパクトが大きいESG情報を主に投資家に向けて開示するためのフレームワーク。11セクター77業種別に開示項目及びKPIが設定されている(例:温室効果ガス排出量 ・労働災害事故発生割合)。
IIRCフレームワーク:財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指し、英国で設立された、規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織であるInternational Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会)が2013年に統合報告書の作成についての考え方をまとめたもの。開示対象としては投資家を念頭に置いている。日本語では「国際統合報告フレームワーク」と呼ばれる。同フレームそれ以降、日本を含む世界で統合報告が進んだ。なお、2020年2月に、フレームワークの改定を検討していることが発表された。

補充原則4-2② サステナビリティの監督(新設)
現行 改訂
(新設) 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

上述のとおり、改訂補充原則2-3①は取締役会に対し、サステナビリティ課題を「成長機会にもつながる重要な経営課題」として検討を深めることを求めており、さらに今回新設された本原則は、サステナビリティを巡る取り組みについて「基本的な方針」を策定することを求めている。これら2つの原則をつなげれば、この「基本的な方針」も、企業の成長につながるものであるべきと言える。このような観点から“サステナビリティ基本方針”と呼べるものが現状では自社に存在しないのであれば、本原則については「エクスプレイン」を検討すべきということになる。

また、上述のとおり改訂補充原則2-3①は、サステナビリティ課題として①環境、②人権、③従業員、④取引先、⑤自然災害の5項目を例示していることから、本原則における「サステナビリティ基本方針」についても、これらのテーマを考慮したものであることが望ましいだろう。ただし、上述のとおりこれら5項目は「例示」に過ぎないことから、必ずしもこれら5項目を全てカバーしている必要はなく、逆に言えばこれら5項目を全てカバーしていればよいというわけでもない。あくまでも自社の「中長期的な企業価値の向上」に資するという観点から特定したサステナビリティ課題を踏まえ、サステナビリティ基本方針を策定する必要がある。

また、本原則は、人的資本・知的財産など経営資源の配分、および事業ポートフォリオに関する戦略が、取締役会によって実効的に監督されることも求めている。取締役会による監督を実効性のあるものとするためには、基本的な方針、および経営資源の配分やポートフォリオ戦略の実施状況の評価手法が確立されていなければならない。特に後者は、今回のCGコード改訂で新設された補充原則4-2②が求める「経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行の実効的に監督」にも関係する。この「評価手法」についても議論しておく必要があろう。

2021/04/14 ワクチン効果で“コロナ後”の勤務形態の検討が本格化

我が国では今週から「まん延防止等重点措置」の対象地域に東京都や京都府が加わるなど、コロナ禍が収束する気配はまだ見えないが、いち早くワクチン接種に取り組んできた国ではその効果が徐々に現れ始めている。今年7月末までに全成人がワクチン接種を受けるという英国では感染者、死者数ともに大幅に減少しつつあり、1月5日から実施していた3度目のロックダウンの段階的な解除が進められている。

しかし、仮にこのままコロナ禍が収束したとしても、ビジネスマンがコロナ前の日常に戻ることはなさそうだ。といっても、それは決してネガティブな話ではない。4大監査法人の・・・

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2021/04/14 ワクチン効果で“コロナ後”の勤務形態の検討が本格化(会員限定)

我が国では今週から「まん延防止等重点措置」の対象地域に東京都や京都府が加わるなど、コロナ禍が収束する気配はまだ見えないが、いち早くワクチン接種に取り組んできた国ではその効果が徐々に現れ始めている。今年7月末までに全成人がワクチン接種を受けるという英国では感染者、死者数ともに大幅に減少しつつあり、1月5日から実施していた3度目のロックダウンの段階的な解除が進められている。

しかし、仮にこのままコロナ禍が収束したとしても、ビジネスマンがコロナ前の日常に戻ることはなさそうだ。といっても、それは決してネガティブな話ではない。4大監査法人の一角を占めるPwCの英国法人はコロナ後の勤務形態を早くも決定し、3月31日に会計士やコンサルタントなど約2万2,000人の従業員に伝達した。以下の3点が柱となる。

(1)週の40~60%は自社オフィスまたはクライアントの事業所で勤務、それ以外の時間は在宅勤務
(2)勤務開始時間および終了時間は従業員が自ら決定
(3)月曜日から木曜日に業務を集中させ、金曜は昼までに業務を終了

現在政府が進めるロックダウンの緩和に合わせ、段階的に導入していく。PwC英国法人によると、これらの新たな勤務形態は「ワークライフバランス」を重視する従業員の意見を反映して決定したという。

実際、日本企業、海外企業を問わず、毎日通勤してオフィスで働きたいという従業員は少ないだろう。英国の住宅金融公庫大手のネイションワイド(Nationwide)社が同社の従業員8,500人に調査を行ったところ、実に57%が「コロナ収束後も、週5日(すなわち毎日)在宅で勤務したい」と回答したのに対し、「週5日のオフィス勤務に戻りたい」との回答はわずか6%にとどまった。

このように在宅勤務へのシフトという基本的な流れはもはや止まることはないと思われる一方で、オフィス勤務の必要性も改めて認識されつつある。ネイションワイド社は自社の従業員に対する調査以外にも、英国の成人約2,200人を対象に在宅勤務等に関する調査を行っているが、それによると、約43%が「効果的な仕事をするためには、同僚との対面によるコミュニケーションが必要である」旨回答している。意外なことに、この回答は対面を伴わないSNSでのコミュニケーションに慣れ親しんだ若い世代に多く見られ、その代表格である「Z世代」と呼ばれる1990年代中盤~2010年代前半生まれの世代では約58%に上っている。

Z世代 : 2000年代に成人・社会人になったミレニアル世代の次の世代で、「ポスト・ミレニアル世代」とも呼ばれる。Z世代は子どもの頃からインターネットに囲まれて育ったため、ミレニアル世代よりもさらに情報リテラシーが高く、SNSによる情報発信にも積極的であるため、企業によるマーケティング対象として注目を集めている。ちなみに、「Z世代」と呼ばれるのは、米国で1960年~1974年生まれの世代が「X世代」と呼ばれたことに始まる(X世代の次がY世代)。

在宅勤務へのシフトとオフィス勤務の必要性の再認識という矛盾を解消する手段が両者の“混合”だ。ネイションワイドが自社の従業員に対して行った上記調査でも約36%は「在宅とオフィス勤務の混合を希望する」と回答し、新型コロナウイルス感染拡大以降に実施したテクノロジー業界で働く15万人の従業員を対象とした同社の調査でも、完全な在宅勤務と比較して、オフィス勤務と在宅の混合型の方が4~5%生産性が向上したという結果が出ている。これらを踏まえ、ネイションワイド社は3月25日、同社の1万3,000人の従業員を対象に、在宅勤務かオフィス勤務、あるいはその混合型かを選択できる制度を「恒久的に」導入する方針を明らかにしている。コロナ後は日本企業においても同社のような“混合型”が新たな働き方の形として定着することは十分に考えられよう。

そうなった場合に企業にとっての検討課題となるのが、オフィスのあり方だ。混合型を選択しオフィスを存続させた場合でも、従業員の出社時間が分散するため、現在の広さのオフィスは不要となるケースも多いだろう。ネイションワイド社も、在宅勤務かオフィス勤務、あるいはその混合型かを選択できる制度の導入に伴い、3つのオフィスを閉鎖することを決定している。また、スペインのサタンデール銀行の英国法人もロンドンやマンチェスターなど国内4か所のオフィスを閉鎖することを発表。大手銀行のHSBCやロイズ銀行もコロナ後の柔軟な働き方への移行を見据え、オフィスを大幅に縮小する意向を明らかにしている。同じ現象は日本企業においても起こる可能性が高い。

ただ、こうした勤務形態の変更やオフィス縮小に取り残されがちなのが、支店勤務の従業員だ。金融機関をはじめ、日本企業でも接客業務を伴う支店勤務の従業員はリモートワークに移行できていないケースが多い。積極的に勤務形態の見直しに取り組んでいるネイションワイド社でさえ、在宅勤務が困難な支店勤務の従業員については、「より柔軟な働き方の可能性について検討中」とするにとどまっている。また、オフィスを閉鎖した企業では、“混合型”を実施しようにも、もはやそのオフィスがないという事態も起こり得る。こうした中、ロンドンやマンチェスターなどのオフィスを廃止した上記サタンデール銀行の英国法人では、閉鎖が決まったオフィスで勤務していた5,000人の従業員については、在宅勤務と各従業員の自宅から近いオフィスへの出社を組み合わせた新しい働き方を導入するという。

混合型に加え、“職住接近”というのが新たな働き方のトレンドになっていくことも考えられよう。

2021/04/13 【失敗学第83回】カプコンの事例(会員限定)

概要

カプコン(東証一部)で社内ネットワークに対してランサムウェアを用いた不正アクセス攻撃があり、個人情報が流出した。

ランサムウェア : システムへのアクセス等を制限する不正プログラムで、システムの利用者に制限解除のための身代金を要求することを目的とする。感染ルートとしては、メールの添付ファイルを不用意にクリックしてしまったケースや、改ざんされたサイトに誤ってアクセスし、意図せずしてプログラムをダウンロードしてしまったケースなどがある。

経緯

カプコンが2021年3月1日に公表した「不正アクセスに関する調査結果のご報告【第4報】」等によると、一連の経緯は次のとおり(カプコンの事件の詳細については2020年11月18日のニュース「カプコンのランサムウェア被害対応から学ぶ自社がとるべき行動」も参照)。

2020年
11月1日:23時頃からカプコンの米国拠点および国内拠点における一部の機器がランサムウェアに感染し、各機器内のファイルが暗号化される。
11月2日:カプコンが社内システムに接続障害があること確認し、システムを遮断し被害状況の把握に着手。その後、障害の原因が、ランサムウェアの攻撃によるネットワーク上の機器に対するファイルの暗号化であることが判明し、被害を受けた端末に「Ragnar Locker」を名乗る集団からの脅迫メッセージを発見したことから、大阪府警察に通報するとともに、外部企業に復旧支援を要請する。
11月3日:カプコンが関係各国の捜査当局および個人情報保護当局を含む関係機関への連絡を開始。
11月4日:カプコンが「不正アクセスによるシステム障害発生に関するお知らせ」公表
11月12日:カプコンでは9件の個人情報および一部の企業情報の流出があったことを確認する。
11月16日:カプコンは「不正アクセスによる情報流出に関するお知らせとお詫び」をリリースする。
12月21日:カプコンは外部専門家によるシステムセキュリティに関するアドバイザリー組織として、「セキュリティ監督委員会」の発足に向けた準備会を開催する。

2021年
1月12日:カプコンは「不正アクセスによる情報流出に関するお知らせとお詫び【第3報】」をリリースする。
1月18日:カプコンで第1回セキュリティ監督委員会が開催される。
2月25日:カプコンで第2回セキュリティ監督委員会を開催される。
3月26日:カプコンで第3回セキュリティ監督委員会を開催される。
3月31日:カプコンは大手セキュリティ専門企業および大手ソフトウェア企業より調査報告書を受領する。
4月13日:カプコンが「不正アクセスに関する調査結果のご報告【第4報】」をリリースする。

内容・原因・改善策

カプコンが2021年4月13日に公表した「不正アクセスに関する調査結果のご報告【第4報】」によると、カプコンにおけるランサムウェアの攻撃の内容ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。

ランサムウェアの攻撃による個人情報の流出
内容 カプコンの北米現地法人(Capcom U.S.A., Inc.)が保有していた予備の旧型VPN(Virtual Private Network)装置がサイバー攻撃を受け、当該旧型VPN装置を経由して当該社内ネットワークへ不正侵入され、北米現地法人および国内拠点における一部の機器がランサムウェアに感染させられ、各機器内のファイルが暗号化されたうえ、一万五千人を超える個人情報が流出した。
なお、カプコンではネット販売における決済は全て外部委託により別システムとなっており、今回の攻撃の対象外であったため、クレジットカード情報の流出はなかった。また、同社のゲームをプレイするためのインターネットのシステムも別システムであり、今回の攻撃の対象外であった。
原因 旧型VPN装置の未廃棄
システムへの不正侵入当時、カプコンの北米現地法人を含めカプコングループでは既に新たなVPN装置を導入済であったが、同社所在地であるカリフォルニア州における新型コロナウイルス感染急拡大に起因するネットワーク負荷の増大に伴い、通信障害等が発生した際の緊急避難用として同現地法人においてのみ当該旧型VPN装置1台が廃棄されずにネットワーク上に残存しており、当該旧型VPN装置がネットワークへの侵入の足掛かりにされた。

一部のセキュリティ対策の未実施
カプコンでは、従来より境界型のセキュリティ対策は敷いており、さらにSOCサービスEDRといった防御策の導入にも着手していたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴いインフラ整備を優先せざるを得なかった結果、SOCサービスやEDRといった防衛策は検証中で未実施であった。

境界型 : 外部ネットワークと社内ネットワークとの境界線にファイヤーウォールなどのセキュリティ措置をすること
SOCサービス : Security Operation Centerの略。SOCサービスは、システムやネットワークを常時監視し、攻撃の検出・分析・対応などを支援する仕組みのこと
EDR : Endpoint Detection and Responseの略。ユーザが利用するパソコンやサーバなどの機器に不審な挙動を検知するソフトウェアを導入し、迅速な対応を支援する仕組みのこと

改善策 (1) 技術的対策
【実施済み】
① 大手ソフトウェア企業により、侵入の疑いのある機器全台につきクリーニングを実施。
② VPN装置全台について改めて安全性を確認(北米現地法人の前記旧型VPN装置は廃棄を実施)。
③ 外部との接続を常時監視するためのSOC(Security Operation Center)サービスを導入
④ 機器の不正な挙動およびコンピュータウイルス感染の早期検知を目的とした最新EDR(Endpoint Detection and Response)を導入。
⑤ 業務用アカウントの見直しを実施。
⑥ VPN装置および機器における、インシデント発生時の迅速な対処に向けたログの長期保存などの管理方法の更なる改善を実施。
⑦外部の専門企業およびセキュリティ監督委員会から、上記①〜⑥が現在のベストプラクティスに即しているとの回答を入手。
【対策予定】
今後も新たな脅威・攻撃の手口等が開発される可能性があり、そのような状況の進展に対応し、セキュリティ監督委員会のもと、様々な対策を継続的に実施予定。

(2) 組織的対策
【対策済】
① サイバーセキュリティ(個人情報保護等のデータ保護を含む)の強化に関する外部チェックとノウハウの早期蓄積に向け、外部専門家から最新動向に基づく提言を継続的に得ることを目的として「セキュリティ監督委員会」を発足。「セキュリティ監督委員会」は、サイバーセキュリティの専門家である大学教授2名、サイバーセキュリティおよび個人情報保護法制の専門家である弁護士1名、システム監査専門家である公認会計士1名からなる外部専門家計4名に加え、社内からは、取締役1名、セキュリティおよびネットワーク担当の技術職3名で構成される。
② 「セキュリティ監督委員会」の直下に、サイバーセキュリティに関する情報収集および防御についてのノウハウ集積、提案等を行う「セキュリティ対策室」を2020年12月に新設する。
③ 業務用アカウントの管理における、ツール導入を含む定期的な確認の仕組みを強化する。
④ 同社グループ全体のセキュリティ・個人情報管理の更なる啓発体制を構築する。
【対策予定】
PDCAサイクルに基づく更なるセキュリティ強化体制の構築および統制の実施。

<この失敗から学ぶべきこと>

カプコンでは、SOCサービスEDRといった防御策の導入にも着手していたものの、新型コロナウイルス感染拡大に伴いインフラ整備を優先せざるを得なかった結果、当該防衛策は実施には至っていませんでした。システム投資にあたっては、ついインフラ整備のように“見えやすい”システムへの投資が優先されがちですが、“見えにくい”セキュリティへの投資を後回しにしたつけが回ってしまいました。
ランサムウェアに感染すると、社内のデータがパスワード付きで暗号化されてしまい、攻撃者が身代金を要求してくるケースが多いのですが、カプコンはすぐに警察に相談し、攻撃者との交渉はしない旨の対応方針を採用し、すぐにそれを公表しました。ランサムウェアの被害を受けた場合、くれぐれも攻撃者との交渉はしないようにすべきであり、カプコンの事後的な対応を参考にしたいところです(カプコンの事後対応については2020年11月18日のニュース「カプコンのランサムウェア被害対応から学ぶ自社がとるべき行動」を参照)。

SOCサービス: Security Operation Centerの略。SOCサービスは、システムやネットワークを常時監視し、攻撃の検出・分析・対応などを支援する仕組みのこと
EDR : Endpoint Detection and Responseの略。ユーザが利用するパソコンやサーバなどの機器に不審な挙動を検知するソフトウェアを導入し、迅速な対応を支援する仕組みのこと

2021/04/12 改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則

改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日~5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関する補充原則について解説する。・・・

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2021/04/12 改訂CGコード解説(3) 「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関するに関する補充原則(会員限定)

改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日~5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「グループガバナンスのあり方」「株主総会関係」に関する補充原則について解説する。

改訂CGコード解説(1) 「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則
改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則

今回改訂された17原則のうち、「グループガバナンスのあり方」に関するものは1つ、「株主総会関係」に関するものは2つあった(いずれも補充原則)。前者は年明け最初のフォローアップ会議において議論され、後者は年末のフォローアップ会議で取り上げられたもののフォローアップ会議が12月18日に公表した意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」では言及されていない。

まず「グループガバナンスのあり方」についてフォローアップ会議では、グループ経営における取締役会の役割・機能や政策保有株式のあり方などが議論されたが、結局、上場子会社などにおける少数株主保護に関する補充原則4-8③が新設されるにとどまった。

補充原則4-8③ 上場子会社等の規律づけ(新設)
現行 改訂
(新設) 支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。

新設された補充原則4-8③のポイントとなるのが、冒頭で「上場会社」の前に置かれている「支配株主を有する」との限定だ。「支配株主」の定義は東証のウェブサイトに下記のとおり明記されている。

①親会社(財務諸表等規則第8条第3項に規定する親会社をいいます。)
②主要株主(金融商品取引法第163条第1項に規定する主要株主をいいます。)で、当該主要株主が自己の計算において所有している議決権と、次に掲げる者が所有している議決権とを合わせて、上場会社の議決権の過半数を占めているもの(①を除きます。)
・当該主要株主の近親者(二親等内の親族をいいます。)
・当該主要株主及び当該主要株主の近親者が、議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等(会社、指定法人、組合その他これらに準ずる企業体(外国におけるこれらに相当するものを含みます。)をいいます。)及び当該会社等の子会社

上記②では「親会社」以外も支配株主に該当し得ることが規定されている。したがって、上場子会社のみならず、オーナー経営者が過半数の議決権を握っている上場会社も補充原則4-8③の適用対象となり、プライム市場上場会社であれば過半数、その他の市場の上場会社であれば3分の1の独立社外取締役を選任すること、または、利益相反を審議・検討する「特別委員会」を設置することが求められる。補充原則4-8③ではこの特別委員会を「独立性を有する者で構成された」ものとしているが、当フォーラムの取材によると、特別委員会のメンバーは必ずしも社内取締役だけに限定されるわけではない。「独立社外取締役を含む」とあることからも分かるように、独立性が確保されていれば社外の有識者などが加わることも許容されるようだ。

なお、当該特別委員会が審議すべき事項として、フォローアップ会議では、例えば「グループ会社間での持株比率に変動が生じるような資本取引」「グループ内の不振企業に対する財務的な支援」などが取り上げられた。一方、通常の事業活動における親子間の取引などについては「契約の範囲内で対応すれば足りる」と整理された模様だ。

「株主総会関係」の改訂では、下記の2つの補充原則にプライム市場上場会社に対する特則が設けられた。いずれも「我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場」の上場会社にとっての必須条件とされたと言ってよい。

補充原則1-2④ 電子行使/英訳(改訂)
現行 改訂
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。 上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。

補充原則1-2④の改訂により、東証の関係会社である ICJが運営する議決権電子行使プラットフォーム(機関投資家向け電子投票システム)を利用していないプライム市場上場会社は「エクスプレイン」が避けられないことになった。逆に言えば、自社の株主における機関投資家比率が同プラットフォームを利用するメリットが感じられない程度にとどまっているのであれば、プライム市場を選択することは慎重になるべきと言えそうだ。

ICJ : 東証と米国Broadridge社の合弁会社。ICJ(インベスター・コミュニケーションズ・ジャパン)社は2004年から機関投資家向け電子投票システム「議決権電子行使プラットフォーム」の提供を開始している。

補充原則3-1② 英語での情報開示(改訂)
現行 改訂
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。 上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

改訂補充原則3-1②では、プライム市場上場会社に対し、招集通知にとどまらず幅広い開示書類について英語での開示を求めた。この「必要とされる」開示書類の選択は会社の裁量に任されているが(2021年4月7日のニュース「英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?」参照)、選択にあたって参考になるのが、12月8日フォローアップ会議に提出された資料に盛り込まれた「各開示書類の英訳の割合」を示した表だ(「株主総会に関する課題」11ページ参照)。このうち定期的に公表する法定開示媒体である、①決算短信、②事業報告、③コーポレートガバナンス報告書、④有価証券報告書、は英語での開示の対象として想定されよう。

もっとも、特に④有価証券報告書については、英訳の割合が東証1部でもわずか3.0%、全市場では1.9%と極めて低い水準にとどまっている。改訂補充原則3-1②は有価証券報告書を英語で開示することを求めているわけではないため、有価証券報告書を英訳していなくても即エクスプレインが求められるわけではない。ただ、開示一元化議論が今後「有価証券報告書」を軸に進むようであれば(開示の一元化議論については2017年9月1日のニュース「現行の有報より厚く? 事業報告と有報を“兼用”する開示書類案が浮上」参照)、その英訳に対する投資家のニーズが高まる可能性もあろう。