2021/04/10 【2021年3月の課題】独立社外取締役1/3又は過半数の選任に向けたロードマップ(会員限定)

新たな社外取締役の選任に向けたスケジュール

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)では、プライム市場上場企業に対し独立社外取締役の割合を「3分の1以上」、さらに、経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業には「過半数」とすることを求めています。この改訂原則に対応するためには、新市場への移行日である2022年4月4日以降最初に開催される定時株主総会までに社外取締役を選任すればよいものの、3月決算企業を前提にすると、選任の年度(2022年度)の直前には新任社外取締役を含む新経営体制に関するプレスリリースを出し、社外取締役候補者決定の適時開示をするのが通常です。

また、今回のCGコード改訂を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)は遅くとも今年の12月中に提出する必要がありますが、その中では、改訂CGコードが開示を求めている取締役会の「スキル・マトリックス」のどの部分を新たな社外取締役が埋めることになるのか、ある程度想定したうえで、説明(開示)することが望ましいでしょう。今年12月中に提出するCG報告書には「現在」の取締役会についてのスキル・マトリックスを提出すれば足りるとも言えますが、来年の定時株主総会で新たな社外取締役を選任することが分かっている以上、新たな社外取締役のことを考慮しながらスキル・マトリックスを作らないと、今年と来年のスキル・マトリックスが大きく異なるものとなり、自社にとってあるべき取締役会像が描けていないという印象を投資家に与えてしまいかねません。したがって、理想としては、2022年の定時株主総会で選任する社外取締役のスキルが反映されたスキル・マトリックスをイメージしながら、今年12月に開示するスキル・マトリックスも作成しておきたいところです。今年のスキル・マトリックスに反映させることまでは難しければ、今後に向けたコメントを付しておくということも考えられます。例えば、「現在のスキル・マトリックスは××××となっているが、コロナ禍の影響による経営環境の変化を踏まえ、今後は△△△△という戦略をとろうと考えているため、□□□□のスキルを有する人材を社外取締役に迎えようと考えている」といったことを記載しておくと、来年開示するスキル・マトリックスとの連続性・継続性を示すことができます。

このように考えると、新たな社外取締役候補者と就任合意に至っておくべき時期まで残された時間は多くありません。就任合意までには、新たな社外取締役に期待する役割や人材要件の定義、さらには条件交渉も必要になります。これらを考慮しつつ、選任に向けた理想的なロードマップを示したのが下図です。この図を見れば分かるとおり、2022年6月の株主総会で新たな社外取締役を選任するためには、遅くとも年内には候補者と就任合意に至っておきたいところです。

新たな社外取締役を選任するまでのロードマップ
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以下、上図のスケジュールを踏まえながら、企業に求められる具体的な対応について解説します。

まずは自社の取締役会に足りないスキル等の把握から

社外取締役候補者の選定に先立ち取り組まなければならないのが、取締役会の現状分析です。

スキル・マトリックスについて規定した改訂補充原則 4-11①では、「取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべき」とされています(赤字が改訂部分)。また、改訂CGコードでは取締役会の「多様性」の内容として、従来のジェンダー、国際性に、新たに「職歴」「年齢」を追加しています(改訂原則4-11)。企業の中には、この「多様性」をスキル・マトリックスの一項目としているところもあります。企業は、このスキル・マトリックスや多様性を念頭に置きながら、まず自社の経営戦略に照らして取締役会に必要なスキル等を特定したうえで、それを現状の取締役会が有するスキル等と比較し、何が足りないのかを把握するいわゆるギャップ分析をこの1~2か月で行う必要があります。

このギャップ分析の結果に基づき、取締役会に必要な人材の要件(スキル、専門性、資質のほか、ジェンダーや国際性などの多様性を含む)や社外取締役に期待する役割(取締役会議長、筆頭独立社外取締役、指名・報酬委員(長)、サステナビリティ委員(長)などの職責を含む)を定義し、候補となる人材をリストアップしていきます。ここでいう「取締役会に必要な人材」は社外取締役に限られません。ギャップ分析の対象はあくまで「取締役会全体」であるため、足りないスキル等を埋めるのが社内の人材であることも当然あり得ます。すなわち、新たな社外取締役の選任議論は、来年度に向けた「取締役会のあり方」に関する議論の一部であり、自社の取締役会に足りないスキル等は社内・社外双方の人材により埋めていくことになります。

スキル・マトリックスと多様性を意識した候補者の選定が必要に

3月決算企業を前提にすると、次期経営体制に関する議論は秋口から年末にかけて行うのが通常です。このため、2022年6月の定時株主総会で選任する社外取締役とは、その前(9月〜10月頃)までに就任合意に至っておくことが理想的と言えます。そこから逆算すると、就任要請や就任条件の交渉は今年6月の定時株主総会前後から始める必要があります。もちろん、打診してすぐに決まるとは限らないうえ、引き合いの多い人材は、コンタクトした時点で既に他社の社外取締役に内定しているといったことも十分あり得ます。コンタクトの時期は早いに越したことはありません。

ただ、早めにコンタクトすると言っても、適切な候補者がなかなか見つからないという企業も少なくないことでしょう。これまでは経営陣や社外取締役の知り合いなど、人づてに候補者を探してくるケースが多かったと思われます。もちろん、人づてに探して来た候補者には安心感があるうえ、スキル・能力・人間性などに関する情報も得やすいため、適任者が見つかる可能性も十分にあります(ただし、独立性が確保されていることが大前提となります)。一方で、人づてにより探して来た候補者は、どうしても紹介者(経営陣や社外取締役など)と似通ったバックグラウンドや年齢の人材が集まりやすい傾向があります。例えば経営者の周りで社外取締役候補になり得る人材というとやはり経営経験者(現役経営者を含む。以下同)が多く、実例として、本社周辺の企業の経営者や、地元の経済団体つながりの経営者ばかりが社外取締役に名を連ねているような企業も散見されます。しかし、改訂CGコードでスキル・マトリックス等の開示が求められたことにより、今後このようなケースでは取締役会におけるスキル等の偏りが顕在化し、投資家等から問題視される可能性も否定できません(ただし、スキルの広がりだけを重視することも好ましくないとの指摘もあります。この点については2021年3月17日のニュース『「スキル・マトリックス」作成の現状と留意点』参照)。また、同じく改訂CGコードが取締役会に求める「職歴」「年齢」の多様性も確保できない恐れがあります。

こうした中、最近は社外取締役の候補者探しにヘッドハンティング会社等を使う企業が増加しつつあります。できるだけ早期に候補者リストを作成するうえでは、従来の人づて方式と併用することも有益であると考えらます。

「経営経験者」の範囲を幅広く捉える傾向

上述のとおり社外取締役が同質の経営経験者ばかりになるのは問題があるとはいえ、一般的には経営経験者の社外取締役は不足しているのが現状です。改訂補充原則4-11①に「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。」との記述が入ったことによりこの傾向は益々強まることが予想され、今後は社外取締役候補としての経営経験者の“争奪戦”が激化する可能性もあります。

ただし、今回のCGコード改訂に合わせてフォローアップ会議から公表された「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(以下、改訂について)では、「独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要となる。」として経営経験者の社外取締役選任を推奨しつつ、「他社での経営経験を有する者」には「CEO等の経験者に限られるという趣旨ではない。」との注釈が付されています(2ページ参照)。この注釈が付された背景には、CEO経験者だけでは社外取締役候補者として頭数が足りないという事情があるものと考えられます。

社外取締役に就任する経営経験者というと、上場企業の元社長や現役の会長が思い浮かぶところですが、最近は(元)副社長など、社長の下のポジションの人材が社外取締役に就任するケースも見受けられます(また、副社長や専務・常務などは、退任後にグループ子会社の社長に就任するケースも多く、当該経験をもって「経営経験者」と捉えることも可能でしょう)。まだ少数派とはいえ、上記「改訂について」で「CEO等の経験者に限られない」という考え方が示されたことや、経済産業省もコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下、CGSガイドライン)の中で「社長・CEOやそれ以外の取締役等として実際に経営に携わっていた経営経験者」の社外取締役就任を推奨していることもあり(30ページ「3.3. 社外取締役の人材市場の拡充に向けて」の一つ目の〇参照)、今後は専務取締役、常務取締役等の経験者が社外取締役に就任するケースも増えることが予想されます。また、CGSガイドラインでは「現役の経営陣」が他社の社外取締役に就任することも推奨しています(31ページ「現役の経営陣等の社外取締役への就任」参照)。同ガイドラインも指摘するように、他社での社外取締役経験が自社の経営に活きることも多いと思われるうえ、後継者計画の一環としても機能し得るなど、人材を出す側にもメリットがある現役経営陣の社外取締役就任も今後増えてくる可能性があります。

社外取締役の拘束時間が大幅に増加する可能性も

社外取締役候補者の選定にあたってはスキルや能力、資質などにばかり注目しがちですが、どんなに優れた候補者であったとしても、社外取締役としての職務に十分な時間が割けなければ意味がありません。

今回のCGコード改訂で、任意の指名・報酬委員会の設置を求める補充原則4-10①に「特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。」との一文が追加されたことから、今後は社外取締役が任意の指名・報酬委員会の委員や委員長に就任するケースは益々増加することが見込まれます。また、今回のCGコード改訂ではサステナビリティに関する開示や取締役会の監督を求める原則が新設され(補充原則3-1③同4-2②)、改訂対話ガイドラインではサステナビリティへの取組みを検討・推進する仕組みとして「サステナビリティに関する委員会」(以下、サステナビリティ委員会)の設置が推奨されている(4ページ参照)ことを踏まえると、サステナビリティ委員会の委員や委員長に社外取締役が就任するケースも出てくるでしょう。さらに、改訂対話ガイドラインでは、取締役会が経営に対する監督の実効性を確保するための方策として独立社外取締役を「取締役会議長」に選任することや(改訂対話ガイドラインの3-8参照)、株主との面談の対応者として「筆頭独立社外取締役」を設置することが例示されています(同4-4-1参照)。

このように社外取締役の役割の範囲拡大が見込まれる中、社外取締役としての職務に拘束される時間も長くなることが予想されます。したがって、例えば筆頭社外取締役や取締役会議長、指名・報酬委員会委員長への就任を前提にオファーを出すのであれば、能力や資質面(例えば株主とコミュニケーションができる、議論のファシリテーションが上手く多様なコメントを引き出せるといった能力があるなど)のみならず、どれだけ自社の社外取締役としての職務に時間を確保できるかを確認し、コミットメントを得ておく必要があります。社外取締役就任後に相互の認識の違いが顕在化するといったことがないよう、企業側からも候補者に対し、期待する役割やそれに伴う拘束時間(週・月・年単位の拘束時間、拘束時間の長い時期、毎月の取締役会や諮問委員会の開催日時など)を明確に伝えておかなければなりません。特に複数の企業の社外役員を兼任している方については慎重な対応が求められます。兼任社数が多い場合、期待する役割を見直すか、オファーを見送ることも検討すべきでしょう。

社外取締役の報酬に差が生じるケースは?

社外取締役候補者の中には、社外取締役としての報酬を生活給とし、金銭面を重視する方もいれば、退任後の社会的貢献と考え、それほど金銭面にはこだわらない方もいます。いずれにせよ、社外取締役に期待される役割が年々大きくなり、それに伴い責任も重くなる中、条件交渉の際には「役割」や「責任」とのバランスを踏まえた報酬額を提示する必要があるでしょう。

社外取締役の報酬の特徴として、社内取締役と比べ、業界による差が小さいということが挙げられます。これは、社外取締役の報酬は非常勤であるがゆえに元々それほど高くないことに加え、業務執行取締役と違って、社外取締役に求められる役割(経営の監督や助言等)は業界によって大きな差が出にくいからです。ただし、会社の規模や社会的責任の大きさ、事業の複雑さなどによって一定の差は出てきます。このため、ある程度、規模や業態が似通った他社の報酬額をリサーチしたうえで自社の報酬額を決定するのが一般的となっています。取締役会の多様性を確保する観点からは他業界出身者の方が好ましいという考え方もありますので、業界の垣根を超え全産業における類似規模・利益水準の企業の報酬額をチェックしているという企業も少なくないようです。

また、社外取締役の報酬を経歴によって変えることは望ましくありません。例えば大企業の元社長だからといって他の社外取締役よりも報酬を高くする必要はありません。同等の仕事をお願いするにあたり、その合理性もないということです。近年、報酬委員会はもちろん、取締役会でも全役員の報酬テーブルを公開している企業が増えており、その場合、社外取締役同士お互いの報酬額が分かってしまうため、“説明のつかない差”をつけることは禁物です。

逆に言えば、業務に費やす時間や責任の重さが明確に違う場合には、報酬額にも差をつけるべきです。具体的には、筆頭独立社外取締役や取締役会議長を務めている、委員会の委員長を務めている、複数の委員会の委員を兼務している、委員会の中でも“重い”委員会の委員を務めている、といった場合には、こうした役割を担っていない社外取締役よりも報酬額が高くなってしかるべきです。

悩ましいのは、取締役会議長を社外取締役にした場合の報酬額です。社外取締役が取締役会議長を務めている企業はここ数年徐々に増えていますが、上述のとおり改訂対話ガイドラインで社外取締役を取締役会議長に選任することが推奨されたことにより、今後その数はより早いペースで増加する可能性があります。これまで多くの企業では取締役会議長を社長が兼務するか社長退任後の会長が務めてきましたが、会長の報酬額は社長と同等の水準とする慣行が多く見られました。他方で、例えば非業務執行である会長の報酬を1億円とすると、社外取締役が取締役会議長に就任した場合、会長と同じように1億円支払うかというと、それはあり得ないのが現実です。会長は会社に必要な経済団体における活動であったり、常時勤務して経営に対する助言を行っている一方で、社外取締役は非常勤であるといった差はありますが、いずれにせよ、主たる役割はあくまで取締役会議長だとすると、例えば会長の報酬は1億円、社外取締役は1千万円というのは合理的とは言えません。この議論にはまだ明確な回答は出ていないばかりか、「そもそも業務執行から退いた会長が1億円ももらっていてよいのか」といった別の議論に発展しつつあります。

新たに社外取締役を選任せずに「3分の1」基準を満たす方法

社外取締役候補者、特に有力候補者の争奪戦が本格化する中、新たな社外取締役の選任によっては「3分の1」あるいは「過半数」という基準を満たせない企業が出てくることも予想されます。こうした企業にとって選択肢となるのが、監査等委員会設置会社への移行、あるいは社内取締役の減員です。

周知のとおり、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する際には、現在の社外監査役を「監査等委員である社外取締役」にスライドさせることが可能であり、その結果、社外取締役の割合を高めることができます。ただ、既に監査等委員会設置会社に移行済の企業はこの手法を使うことができません。こうした企業にとって、残された選択肢は社内取締役の減員になります。

社内取締役の数を減らすための議論としてよくあるのが、各事業部門のトップをボードメンバーから外すというものです。取締役会を「経営の大きな方向性を議論する場」と位置付けた場合、各事業部門のトップは取締役会に「報告」だけしてくれれば足りるという考え方もあり得ます。そこで、取締役会はCxO(CEO、CFO、CSO、CHRO 、CTOなど)を中心に構成し、事業部門のトップは、例えばこれまでの「取締役常務執行役員」から「常務執行役員」といった肩書に変更し、ボードメンバーから外れてもらいます。また、全事業部門のトップがボードメンバーとなっている場合、これを主要事業部門に絞ることも考えられます。同様の議論として、機能系(財務、経理、人事、法務など)の部門のトップが全員ボードメンバーとなっている場合に、これを絞り込むということも考えられます。こうして社内取締役の数を減らせば、新たに社外取締役を選任しなくても、結果として「社外3分の1」あるいは「社外過半数」という基準を満たすことができます。

ここで重要なのは、こうした社内取締役の減員を、新たな社外取締役が見つからない場合の「ネガティブな選択肢」ではなく、あくまで「戦略的な選択肢」と捉えるということです。取締役会の役割を改めて考えた場合、例えば事業部門のトップが全員ボードメンバーに入っていると、どうしても自分が管掌する事業部門を守ろうというインセンティブが働きがちであるため、「事業ポートフォリオの最適化」といった取締役会にとって特に重要なテーマについての議論がしにくくなってしまいます。そこでボードメンバーを、会社全体のことを俯瞰的・横断的に見られる立場のCxOに絞り込むことで、取締役会で採り上げるべきテーマについての議論がスムーズにできるようになる可能性があります。今回改訂されたCGコードでも、「事業ポートフォリオ」という言葉が入った補充原則が2つ新設されています。具体的には、サステナビリティへの取り組みに関する方針の策定を求める補充原則4-2②では、「人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行う」ことを取締会に求めています。また、補充原則5-2①は、「上場会社は、経営戦略等の策定・公表に当たっては、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである。」としています。事業ポートフォリオの見直しや監督するにふさわしい取締役は誰かという視点で、“戦略的”に取締役のスリム化を図るという議論は、改訂CGコードの趣旨にも沿ったものと言えるでしょう。

ただし、多くの伝統的な日本企業では稼ぎ頭である事業部門が“花形”であるため、そのトップをボードメンバーから外すということは、ある意味で自社のヒエラルキーやカルチャーを壊すような話でもあります。したがって、これをすぐに実行に移せる企業は限られるかもしれません。事業部門のモチベーションを下げないよう、人事や報酬制度上の工夫も検討する必要がありそうです。

2021/04/09 “コロナ特例”で初の適用事例 監査意見不表明も上場廃止回避

コロナ禍の中、2021年3月の「新型コロナウイルス」関連の経営破綻は139件(東京商工リサーチ調べ)となり、月間の破綻数としては2020年2月以降最多となるなど、外出自粛の要請の影響がダイレクトに及ぶ飲食業や宿泊業などの業種を中心に企業の経営悪化が懸念されている。こうした中、・・・

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2021/04/09 “コロナ特例”で初の適用事例 監査意見不表明も上場廃止回避(会員限定)

コロナ禍の中、2021年3月の「新型コロナウイルス」関連の経営破綻は139件(東京商工リサーチ調べ)となり、月間の破綻数としては2020年2月以降最多となるなど、外出自粛の要請の影響がダイレクトに及ぶ飲食業や宿泊業などの業種を中心に企業の経営悪化が懸念されている。こうした中、JASDAQスタンダード市場に上場するホテル運営会社のレッド・プラネット・ジャパンは、同社の2020年12月期の会社法計算書類および有価証券報告書の連結財務諸表・単体財務諸表に対し、監査法人から「監査意見を表明しない(意見不表明)」旨の監査報告書を受領したことを公表した(意見不表明については(新用語・難解用語)意見不表明 を参照)。

レッド・プラネット・ジャパンの会計監査人である監査法人やまぶきは監査報告書において意見不表明の根拠を下記のとおり説明している。

意見不表明の根拠
継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は過年度より継続して営業損失、経常損失及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しており、また、当連結会計年度において、重要な親会社株主に帰属する当期純損失を計上していることから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しており、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。当該状況に対する対応策は当該注記に記載されているが、現時点において事業の遂行に必要な資金調達の目処が立っておらず、具体的な資金計画が提示されなかった。したがって、当監査法人は経営者が継続企業を前提として連結財務諸表を作成することの適切性に関する十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。

要するに、同社の資金調達の目途がつかなかったため、監査法人としては、経営者が継続企業を前提(「継続企業の前提」については【役員会 Good&Bad発言集】継続企業の前提 を参照)として連結財務諸表を作成することの適切性に関する十分かつ適切な監査証拠を入手することができず、監査意見を表明できないというわけだ。

上場会社で監査意見不表明となると、「上場廃止」も現実味を帯びてくるが、JASDAQ市場では、ネガティブな監査意見が出た場合に次のような上場廃止のルールを設けている。

監査報告書又は四半期レビュー報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

ポイントは表中赤字の「上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」という部分だ。これは、「監査意見不表明」が即座に上場廃止につながるわけではなく、いったん取引所の判断が加わることを意味している。同様のルールは東証一部、二部、マザーズ市場において設けられており、当時東証一部市場に上場していた東芝の粉飾決算が発覚した際にも、2017年3月期第3四半期の監査報告書において監査意見不表明(正確には「四半期連結財務諸表に対する結論の不表明」)とされたものの、東証が「上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである」とまでは認めなかったことで、上場廃止には至らなかった。

レッド・プラネット・ジャパンの場合、四半期ではなく通期の連結財務諸表に対する監査報告書が意見不表明とされたにもかかわらず現時点(2021年4月9日)で上場廃止となっていないが、これは2020年3月に設けられた新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえたJASDAQ市場の上場廃止基準の特例(コロナ特例)によるもの。コロナ特例では、新型コロナウイルス感染症の影響による「意見不表明」の場合は上場廃止の対象外とされている(東京証券取引所の「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」を参照)。ホテル運営を手掛けるレッド・プラネット・ジャパンは新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと判断されたということだろう。

「意見不表明」があったにもかかわらず、コロナ特例により上場廃止の対象外となった上場企業はレッド・プラネット・ジャパンが初のケースとなる。コロナ特例は東証一部、二部、マザーズ市場において設けられている。今後、新型コロナウイルス感染症の第5波到来が確実視される中、飲食業や宿泊業など外出自粛による影響を受け業績が悪化し、監査意見が不表明とされながらも、コロナ特例により上場廃止を免れる上場企業が一定数出てくることになりそうだ。

2021/04/08 改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則

改訂CGコード解説(1)「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日~5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則について解説する。・・・

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2021/04/08 改訂CGコード解説(2) 「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則(会員限定)

改訂CGコード解説(1)「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則に続き、今回は(2021年)3月31日に公表(4月7日~5月7日まで東証にてパブコメ募集中)コーポレートガバナンス・コード改訂案(以下、CGコード改訂案)のうち、「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」に関する原則・補充原則について解説する。

改訂CGコード解説(1) 「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則

今回改訂される17原則のうち、「資本コストを意識した経営」に関するものは1原則、「監査の信頼性の確保」に関するものは3原則あった(2021年4月1日のニュース『速報・CGコード改訂 プライム市場向け特則は「独立性の向上」と「情報開示の充実」で各3原則』参照)。いずれも主に年明け以降のフォローアップ会議で議論されたテーマである。

このうち「資本コスト」の意義を再認識すべきとの意見については、昨年度のフォローアップ会議で積極的に議論されたが、具体的に今回のCGコード改訂につながったのは、事業ポートフォリオに関する下記の本補充原則のみにとどまった。

資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。

補充原則5-2① 事業ポートフォリオの説明(新設)
現行 改訂
(新設) 上場会社は、経営戦略等の策定・公表に当たっては、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである。

現行CGコードの原則5-2は「収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直し(中略)等に関し、具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行う」ことを求めている。今回新設される補充原則5-2①では、事業ポートフォリオの①基本的な方針、および②見直し状況を示すことが求められる。

具体的には、中期経営計画の発表資料などに、事業ポートフォリオ戦略に基づいた説明が伴っていなければ、「エクスプレイン」を検討する必要があろう。上記①基本的な方針としては投資採択や事業撤退の基準や考え方、②見直しの状況としては事業の取得や売却など組織再編の方向性などが想定される。さらに、①②いずれについても「取締役会」が決定したものであることが必要とされる。

なお、フォローアップ会議では、事業別・部門別の資本コストを算出し、これに基づいた経営判断や事業運営を行うべきという意見もあった。セグメント別の資本コストやROIC(経営資産利益率)を用いたグループ管理手法を説明することも、本補充原則への対応として有効だろう。

補充原則4-3④ リスク管理(改訂)
現行 改訂
コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制適切構築、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。 内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであ、取締役会は、グループ全体を含めたこれらの体制適切構築内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。

現行の補充原則4-3④は、リスク管理体制が「個別のコンプライアンス審査」に終始すべきではない旨を強調しているが、改訂補充原則4-3④では同様の趣旨のことを「“全社的”リスク管理体制」という表現を使って言い換えたものと考えられる。全社的リスク管理体制はリスクテイク(攻め)とコンプライアンス(守り)をともに支えるとされており、いわゆる 統合的リスクマネジメント(COSO-ERM)を指しているものと言えよう。

統合的リスクマネジメント(COSO-ERM) : ERMとは「Enterprise Risk Management」の略で、「全社的リスクマネジメント」または「統合リスクマネジメント」と訳されることが多い。組織のリスクマネジメントを効率的・効果的に行うために「全社最適」を重視した組織全体のリスク管理の仕組みである。COSO(The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)とは、米国で企業不正を正すために創設された組織で、内部統制フレームワーク(COSOモデル)を作ったことで知られる。このCOSOが考案した全社的リスクマネジメントのフレームワークが「COSO-ERM」である。

また、改訂補充原則4-3④では、「取締役会の責務」として、全社的なリスク管理体制の①構築、②監督を求めている。①はグループ全体を対象としていること、②は内部監査部門を活用していることが、同原則をコンプライするためには必要となる。なお、改訂補充原則4-13③では、内部監査部門は経営トップのみならず「取締役会」にも直接報告(デュアル・レポーティング)すべきとされているが、その目的は、改訂補充原則4-3④におけるリスク管理体制の②監督にあると考えられる。

原則4-4 監査役(会)の役割・責務(改訂)
現行 改訂
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、監査役・外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。

監査役(会)の責務として新たに、「監査役」自身の選解任を適切に判断することが追加された。監査の信頼性の確保およびその実効性を高める観点から、監査役に対する期待が高まっていることが背景にあるものと考えられる。上場会社は、監査役の選解任に関する社内プロセスを確認する必要があろう。なお、会社法では「選任時」のみ監査役(会)の同意権が定められている(会社法343条第1、3項)。

補充原則4-13③ 内部監査部門の連携(改訂)
現行 改訂
上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がそれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。

昨年(2020年)4月4日に公表されたフォローアップ会議・意見書(4)「コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」(4ページ)は、内部監査部門について「CEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていない」と指摘している。この指摘を受け今回の改訂では、内部監査部門は取締役会および監査役会に直接報告すること、いわゆるデュアル・レポーティングが必要とされた。

もっとも、改訂補充原則4-13③では、デュアル・レポーティングの「仕組みを構築すること等により」との表現が使われており、この点からすると、代替的な仕組みによって内部監査部門と取締役・監査役の連携が確保されていれば「エクスプレイン」としなくてもよいと解釈できる。取締役会・監査役会に直接報告はしていなくても、例えば常勤監査役を軸とした情報連携の体制を構築することなども考えられよう。

2021/04/07 英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?

(2021年)3月31日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案(以下、改訂CGコード)の中で、企業にとって比較的コンプライの・・・

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2021/04/07 英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?(会員限定)

(2021年)3月31日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案(以下、改訂CGコード)の中で、企業にとって比較的コンプライのハードルが高いと思われるのが、補充原則3-1②(英文開示)と補充原則3-1③(気候変動開示)だ。

まず、改訂CGコードの補充原則3-1②(英文開示)では下記のとおり規定している。

※赤字が今回の改訂部分(以下同)
3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

英文開示には手間も費用もかかるだけに、ここで気になるのが「必要とされる情報」とは具体的に何を指すのかということだ。

この点、当フォーラムの取材によると、「必要とされる情報」とは、あくまで「企業が必要だと考えるもの」とのことだ。要するに、開示書類のうちどこを英文開示の対象とするかは企業の裁量に任されているということである。

次に補充原則3-1③ では、当フォーラムの予想どおり(2021年3月29日のニュース「改訂CGコード、気候変動開示関連の新たな原則創設も」参照)、「TCFD」という文言が入った点、インパクトがある。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。

3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

しかし、改訂案では「TCFD等に“基づく”開示」としていることから、TCFD開示そのものを実施するよう求めているわけではない。TCFD開示の4要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に留意して開示をすることは重要と言えるが、細目の開示まで求められているわけではないと考えてよいだろう(TCFD開示の4要素や詳細な開示内容については、TCFDコンソーシアムが公表している「気候関連財務情報開示に関するガイダンス 2.0」の「3.ガバナンス〜」(28ページ)〜「6. 指標と目標」(56ページ〜)参照)。もちろん、法定開示(有価証券報告書)に組み込む必要はなく、形式を問わず「開示」すれば足りることになる。既に環境報告書や統合報告書などを作成・開示している企業であれば、多くの場合、本改訂原則をコンプライしていることになろう。

逆に、これまで気候変動関連の開示を全くやってきていない企業が本改訂原則をコンプライすることは困難と考えられる。もっとも、TCFDに贊同している企業・団体は現時点で300を超えていることを踏まえれば(賛同企業等の一覧はこちら)、現時点ではコンプライできる状況にないとしても、コンプライに向けた道筋はエクスプレインしておくべきだろう。

2021/04/07 GW休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2021年4月29日(木)~2021年5月9日(日)のゴールデンウィーク期間中、事務局は休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

2021/04/06 サステナビリティ経営と株主還元のバランス

3月31日に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案は、サステナビリティへの取り組みの開示を求める補充原則3―1③、サステナビリティへの取り組みについて基本的な方針の策定を求める補充原則4―2②を新設するなど、“サステナビリティ経営”を促す内容となっている(2021年4月1日のニュース『速報・CGコード改訂 プライム市場向け特則は「独立性の向上」と「情報開示の充実」で各3原則』参照)。

では、投資家はどれほどサステナビリティ経営を評価しているのだろうか。・・・

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2021/04/06 サステナビリティ経営と株主還元のバランス(会員限定)

3月31日に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案は、サステナビリティへの取り組みの開示を求める補充原則3―1③、サステナビリティへの取り組みについて基本的な方針の策定を求める補充原則4―2②を新設するなど、“サステナビリティ経営”を促す内容となっている(2021年4月1日のニュース『速報・CGコード改訂 プライム市場向け特則は「独立性の向上」と「情報開示の充実」で各3原則』参照)。

では、投資家はどれほどサステナビリティ経営を評価しているのだろうか。

サステナビリティ経営で日本より先行する欧州では、サステナビリティ経営の推進者として高い評価を受けていた仏・ダノンのエマニュエル・フェイバー CEO兼取締役会議長が、業績目標の未達や株価低迷などの責任を取る形で、4月の株主総会を前に辞任に追い込まれている。

ダノンと言えば、ヨーグルトなどの乳製品や粉ミルク、evianで知られるミネラルウォーターなどを世界約120か国で販売し、55か国に10万人超の従業員を抱える世界的な大企業である。エマニュエル・フェイバー氏は同社で20年以上のキャリアを有し、2014年にはCEOに就任、2017年からは取締役会議長を兼任していた。その同氏の代名詞と言えるのがサステナビリティ経営だ。同氏は、株主のみならず、従業員、顧客、サプライヤー、地域社会など全てのステークホルダーの価値創造を目指すサステナビリティ経営を信条としてきた。フランスでは2019年の法律の改正により「Entreprise àMission(使命を果たす企業)」と呼ばれる企業の新たな法的地位を創設したが、ダノンは昨年(2020年)、同氏のリーダーシップの下、フランスの上場企業として初めて「Entreprise àMission」の地位を取得した。「Entreprise àMission」となった企業は、定款に、社会面、環境面での目標を明記したうえで、目標の達成・進捗状況を自社内に設置した委員会が毎年審査し、第三者機関の確認を受けることになる。また、同じく昨年には、英国の環境NGOであるCDPへの環境情報開示評価において、「気候変動」「森林」「水」の3項目で全てA評価を獲得した世界の6社のうちの1社にもなった。さらに、通常の1株当たり利益(EPS)にサプライチェーンを含む自社の二酸化炭素(CO2)排出量に応じたコストを加味した「二酸化炭素調整EPS」を考案し、気候変動による事業への影響を示す指標として昨年から投資家に公表している。

EPS : Earnings Per Share=当期純利益÷発行済株式数

しかし、サステナビリティ経営の象徴的存在だったエマニュエル・フェイバー氏は、上述のとおり辞任に追い込まれることとなった。結果として、サステナビリティ経営における同氏の手腕は、同氏の辞任を主導したアクティビスト(物言う株主)や機関投資家の眼中には入っていなかったと言わざるを得ない。

昨年11月にダノンの取締役会に経営改革を要求する書簡を送付し、同氏辞任のきっかけを作った英国のヘッジファンドのBluebell Capital Partners(昨年末にダノンの株式を取得し、株式保有比率は 0.05%程度に過ぎない)は、近年の同社の株価低迷や業績目標の未達を批判したほか、主力の乳製品分野における戦略的ビジョンの欠如、米食品会社の高額買収の効果が得られていないことなどを指摘。エマニュエル・フェイバー氏の退任と、これまで同氏が兼任してきたCEO と取締役会議長を分離し、ガバナンスの改善を図ることを要求した。ちなみに、ダノンの株価は昨年27%下落している。昨年はコロナ禍による飲食店の休業でミネラルウォーターの需要が激減するなどの要因はあったとはいえ、エマニュエル・フェイバー氏がCEOに就任した 2014年10月以降、同社の株価は2.7%しか増価していない。一方、競合のユニリーバは72 %増、ネスレは45%増となっていることも、同氏への批判を強めることになった。

今年に入ってからは、ダノンの第3位の株主である米国の運用会社Artisan Partners Asset Management(株式保有比 率3%)がCEOと取締役会議長の分離のほか、不採算事業の売却などを含む経営改善案を同社の取締役会に提出。さらに、米国の運用会社 Causeway Capital Partners も、同社の経営幹部に業績不振の責任を取るよう迫った。

ダノン側は、4月の株主総会を前に事態の収拾を図るべく、保有株式の売却益を原資として自社株買いを実施することや、CEOと取締役会議長を分離する方針を打ち出したが、エマニュエル・フェイバー氏がCEOのみ辞任し、取締役会議長としては残る案だったことにBluebellとArtisan Partnersが難色を示したことから、結局、同氏はダノンを完全に離れることになった。

この一件は、サステナビリティ経営、全ステークホルダー重視の経営(2021年2月22日掲載の【特集】「~株主からステークホルダー全体へ~ 世界中で台頭するコーポレートガバナンスの新たな考え方」参照)と、株主還元を両立することの難しさを浮き彫りにしたと企業や市場関係者に評されている。Bluebellがダノンに昨年送付した書簡にも、「株主還元とサステナビリティのバランスが取れていない」との指摘があった。いずれにせよ本件でハッキリしたのは、現時点では、投資家はサステナビリティ経営やESG経営を支持しつつも、それは業績や株価が伴い、株主還元ができていることが前提になる、ということだ。サステナビリティ経営・全ステークホルダー重視の経営の台頭は、企業や資本市場に、これらと株主還元のバランスという新たな論点をもたらしたと言えそうだ。