2025/10/24 【失敗学第136回】ペプチドリームの事例(会員限定)

概要

東京大学発のペプチド創薬ベンチャーのペプチドリーム(東証プライム)において取締役副社長COO(以下、副社長)が、会社が購入した試薬を会社に無断で大学または研究機関に所属する複数の研究者に無償で供与していた(被害額は約5428万円)。また、副社長は会社に無断で副業を営んでいた。

経緯

ペプチドリームが2025年8月6日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2014年
ペプチドリームの副社長はX社の製品開発等に関するアドバイスを目的とする内容で、2014年から2024年にかけて、確認できた限りで51,044,170円を対価として受領していた。

2017年
3月:副社長が、会社資金を用いて発注した試薬を会社に無断でアカデミア(大学または研究機関)に所属する複数の研究者に無償で供与し始めた。無償供与は2025年1月まで続いた。

2025年
5月13日:ペプチドリームの取締役会は特別調査委員会を設置し、調査を委嘱した。
8月6日:ペプチドリームは「特別調査委員会の調査報告書」を公表した。なお、当初は特別調査委員会に原因の究明(内部統制上の不備の可能性を含む)および再発防止策の提言も委嘱していたが、その後当初調査対象としていた案件以外の事案が判明したことで事実関係の調査に想定以上に時間を要したこと、および原因の究明には技術的な専門性が求められるという事案の特殊性があったことを理由に、ペプチドリームの取締役会は、途中で「原因の究明(内部統制上の不備の可能性を含む)および再発防止策の提言」を特別調査委員会への委嘱事項から外している。
10月23日:ペプチドリームは「特別調査委員会による調査結果を踏まえた原因分析・再発防止策の策定について」を公表した。

内容・原因・再発防止策

ペプチドリームが2025年8月6日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」および2025年10月23日に公表した「特別調査委員会による調査結果を踏まえた原因分析・再発防止策の策定について」によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

試薬の無償供与と兼業
内容 不正① ペプチドリームの副社長が、会社がX社(試薬を販売している卸売業者)から購入した試薬を会社に無断で大学または研究機関に所属する複数の研究者に無償で供与していた(被害額は約5428万円)。
不正② ペプチドリームでは役員が兼業を行う場合には事前に会社から承認を得ることが必要とされているにもかかわらず、副社長は会社に無断で個人会社を設立し、X社の製品開発等に関するアドバイスを目的とする内容で、2014年から2024年にかけて、確認できた限りで約5104万円を対価として受領する等個人的に報酬を得ていた。
原因 特別調査委員会の調査報告書では原因分析は委嘱の範囲外とされた。そのため、以下のうち<機会>についてはペプチドリームが2025年10月23日に公表した「特別調査委員会による調査結果を踏まえた原因分析・再発防止策の策定について」に基づくものである。
<動機・正当化>
不正① 特別調査委員会による調査報告書では、副社長は「ペプチエイド等の販売促進目的・アカデミアとの関係構築目的」と主張しているが、特別調査委員会は特段の根拠を述べず、反証もせずに「そのような目的のもとに本件行為が行われたことを認めるまでの合理的な心証を形成するには至らなかった。」と結論付けている。
<機会>
(1) 試薬類の発注・管理業務のブラックボックス化
副社長の指示で発注された試薬類は、形式的には、副社長名義ではなく、別の社員名義により発注希望が提出され、毎月数千件規模で発注される他の試薬類と一緒に購買シート上にリスト化され、副社長による承認を経て発注されていた。そのため、発注者と承認者が同一とはならない等、少なくとも外形上は購買の標準プロセスから逸脱しない態様で承認手続きが行われていた。購買シートは、副社長以外の研究員からも見える形で管理されていたが、各研究員は、自身が直接に関わる研究に関する発注についての判断はできても、毎月試薬だけで数千件規模の発注が行われる中で自らが直接関与しない研究に関する発注についてその是非を判断することは容易ではなく、外形上は標準プロセスに則って副社長によって承認されていた発注の是非についてあえて疑義を呈する者はいなかった。
(2) 研究総務グループにおけるリスク管理意識・発見統制プロセスの弱さ
(3) 内部通報制度による相互監視の不全
再発防止策 (1) ITシステム導入による情報の見える化(ブラックボックス化の防止)
(2) 試薬類の発注・管理に関する組織体制の見直し・強化
(3) 定期モニタリングを通じた発見統制プロセスの強化
(4) 全役職員のコンプライアンス感度向上
(5) 内部通報制度の周知徹底と相互監視の強化
(6) 潜在的な不正行為に対する設備面からの牽制強化
(7) 取締役会・各委員会等における監督機能、検証態勢の強化(各取締役や一定の役職以上の職員等に関する兼業状況の確認強化等も含む)
<この事例から学ぶべきこと>

ペプチドリームが公表した「特別調査委員会の調査報告書」には「原因の究明(内部統制上の不備の可能性を含む)および再発防止策の提言」が記載されていませんでした。その理由について同社は、当初、特別調査委員会に対し「原因の究明(内部統制上の不備の可能性を含む)および再発防止策の提言」も委嘱していたものの、①調査の過程で当初の調査対象以外にも新たな事案が判明し、事実関係の確認に想定以上の時間を要したこと、②原因究明には高度な技術的専門性を要するという事案の特性があったことから、取締役会の判断により、調査途中で「原因の究明および再発防止策の提言」を委嘱事項から除外したと説明しています。①を理由に調査が遅れることは十分にありうる話ですが、その場合は調査期間を延長するか、「中間報告/速報版」として一旦公表し、後日「最終報告+提言」公表という二段階開示をするか、あるいは追加発覚事項を対象外にして当初委嘱された事項のみを対象とした報告書をいったん公表するのが通常であり、①を理由に調査期間の延長等はせずに「原因の究明(内部統制上の不備の可能性を含む)および再発防止策の提言」を委嘱事項から外すケースは極めて珍しいケースと言えます。また、「②原因の究明には技術的な専門性が求められるという事案の特殊性」があるのであれば、調査委員に創薬開発の専門家を加えるべきでした。その結果、原因の究明がない中途半端な特別調査委員会調査報告書となってしまったのが非常に残念と言えます。

また、副社長が「試薬を受け渡した相手は、研究方針や研究実施方法などについて決定権のある大学教授ではなく、主に研究室に所属する学生等である。学生等から実験に使用する試薬の希望を聞き、それを聞き取り又は書面で受け取った内容を当社で発注し持ち出して受け渡した。」「一般的に、製薬会社とアカデミアとの関係性は、このような試薬の授受を阿吽の呼吸で行っており、メールで記録を残すようなことはない。自身の周辺の製薬会社従業員にも聞いてみたところ、同じように阿吽の呼吸で試薬の授受を行っていたと聞いている。」と主張しているにもかかわらず、特別調査委員会は「(副社長が)研究室名や教授名等を実名で答えた一部については特定できたものの、その信ぴょう性には疑義が残り、当社の社会的信用を下落させる懸念も生じたことから、当社取締役会の意向も踏まえ、これらの持ち出し先に対する反面調査を見合わせることとした。」と実態解明に必要なはずの調査を見合わせたことが特別調査委員会の調査報告書の22ページには記載されています。また、副社長本人が不正の動機について「ペプチエイド等の販売促進目的・アカデミアとの関係構築目的」と主張しているにもかかわらず、特別調査委員会は「そのような目的のもとに本件行為が行われたことを認めるまでの合理的な心証を形成するには至らなかった。」と結論付けており、「なぜ本人が語る動機をそのまま肯定することができないか」「合理的な心証を形成できないと感じた要因は何か」を特段記載していません。ちなみに、ペプチドリームがまとめた「特別調査委員会による調査結果を踏まえた原因分析・再発防止策の策定について」でも、不正が行われた際の「機会」の分析ばかりで「動機」の分析がありませんでした。特別調査委員会による調査は、第三者委員会による調査と比較すると、一般に会社内部の関与が避けられないことから「内部調査の延長にとどまり、独立性・中立性の観点で第三者委員会に劣る場合がある」と指摘されています。今回の事案は、こうした特別調査委員会の限界を示す一例といえます。

同社は「贈収賄・汚職防止ルール」を設けて、「事業を行うすべての国と地域において、ビジネスやビジネス上の優位性を得るために、公務や正式な決定事項に不適切な影響を与えることを目的とした、賄賂(金銭や経済的利益)の申し出、約束、提供又はその要求又は受領することを禁止します。」と定めています。副社長の主張どおり、本件行為が、当社外のペプチエイド等の販売促進目的・アカデミアとの関係構築目的のためであったとしても、同社のビジネスを有利に進めるために外部から購入した試薬を、アカデミアの関係者に提供する行為は、当該ルールに抵触する行為といえます。ペプチドリームのようなアカデミアとの接点がある企業や海外事業をもち取引先が多い企業、サプライチェーン・公共調達に関わる企業などでは「贈収賄・汚職防止ルール」を制定済みであるのが一般的ですが、贈収賄・汚職はどの業種でも発生しうることから、まだ制定していない企業(企業倫理規程などに記載はあるものの単独ポリシーにしていない企業も含む)では役職員へのルール徹底の観点から「贈収賄・汚職防止ルール」の早急な制定が必要です。

副業は、本業への支障や機密情報・ノウハウの流出といった企業リスクを招くおそれがあります。そのため副業を禁止している企業は少なくありませんが、役職員にとって副業の機会や誘因は依然として存在します。そのため、リスク管理の観点からは単に禁止するだけでは不十分であり、特に取締役や一定以上の役職者については、兼業状況を定期的に確認(副業を禁止していれば副業をしていないことの確認)する仕組みを導入し、その実態を把握するなどして、リスク管理を徹底すべきです。

2025/10/23 WEBセミナー『2025年上半期のコーポレートガバナンス動向』配信開始!

2025年10月23日(木)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
2025年上半期のコーポレートガバナンス動向 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
2025年の上半期には、経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたCGガイダンス」や金融庁「CG改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」といったコーポレートガバナンス・コードの改訂議論に直結するイニチアシブが公表されました。また、有価証券報告書の総会前開示やサステナビリティ開示基準など、ディスクロージャーに関する論点についても大きな動きが見られます。このほか、スチュワードシップ・コードの改訂やアクティビストの動向など、上場会社が注目すべき様々なアクションがありました。本セミナーでは、コーポレートガバナンスに関する一連の動向をフォローアップした上で、2025年の残りの期間および2026年に向けて、上場会社に求められている取り組みについて解説します。
講師のご紹介 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)
上場会社役員ガバナンスフォーラム株式会社 代表取締役 首席研究員
慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。2017年、日本シェアホルダーサービスに入社、チーフコンサルタントに就任。コーポレートガバナンス・コード対応支援、取締役会事務局サポート、エンゲージメント支援などに従事。2025年7月より現職。
日本証券アナリスト協会検定会員。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2008年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、早稲田大学大学院非常勤講師(2017年)。財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005-2006年)、経済産業省コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013-2017年)。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版 2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著、 『Q&A コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード』(第一法規、2015年10月):共著、『株主と対話する企業〔第2版〕』(商事法務、2025年4月):共著など著書・論文多数

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
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非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/YamSwJWWzrXbbAnX6

<収録月>
2025年10月

<収録時間>
51分38秒

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2025/10/23 【WEBセミナー】2025年上半期のコーポレートガバナンス動向

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年10月23日

2025年の上半期には、経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたCGガイダンス」や金融庁「CG改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」といったコーポレートガバナンス・コードの改訂議論に直結するイニチアシブが公表されました。また、有価証券報告書の総会前開示やサステナビリティ開示基準など、ディスクロージャーに関する論点についても大きな動きが見られます。このほか、スチュワードシップ・コードの改訂やアクティビストの動向など、上場会社が注目すべき様々なアクションがありました。本セミナーでは、コーポレートガバナンスに関する一連の動向をフォローアップした上で、2025年の残りの期間および2026年に向けて、上場会社に求められている取り組みについて解説します。

講師のご紹介 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)
上場会社役員ガバナンスフォーラム株式会社 代表取締役 首席研究員
慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。2017年、日本シェアホルダーサービスに入社、チーフコンサルタントに就任。コーポレートガバナンス・コード対応支援、取締役会事務局サポート、エンゲージメント支援などに従事。2025年7月より現職。
日本証券アナリスト協会検定会員。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2008年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、早稲田大学大学院非常勤講師(2017年)。財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005-2006年)、経済産業省コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013-2017年)。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版 2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著、 『Q&A コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード』(第一法規、2015年10月):共著、『株主と対話する企業〔第2版〕』(商事法務、2025年4月):共著など著書・論文多数
セミナー資料 2025年上半期のコーポレートガバナンス動向.pdf
セミナー動画

2025年上半期のコーポレートガバナンス動向

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2025/10/23 【WEBセミナー】2025年上半期のコーポレートガバナンス動向(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年10月23日

2025年の上半期には、経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたCGガイダンス」や金融庁「CG改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」といったコーポレートガバナンス・コードの改訂議論に直結するイニチアシブが公表されました。また、有価証券報告書の総会前開示やサステナビリティ開示基準など、ディスクロージャーに関する論点についても大きな動きが見られます。このほか、スチュワードシップ・コードの改訂やアクティビストの動向など、上場会社が注目すべき様々なアクションがありました。本セミナーでは、コーポレートガバナンスに関する一連の動向をフォローアップした上で、2025年の残りの期間および2026年に向けて、上場会社に求められている取り組みについて解説します。

講師のご紹介 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)
上場会社役員ガバナンスフォーラム株式会社 代表取締役 首席研究員
慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。2017年、日本シェアホルダーサービスに入社、チーフコンサルタントに就任。コーポレートガバナンス・コード対応支援、取締役会事務局サポート、エンゲージメント支援などに従事。2025年7月より現職。
日本証券アナリスト協会検定会員。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2008年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、早稲田大学大学院非常勤講師(2017年)。財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005-2006年)、経済産業省コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013-2017年)。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版 2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著、 『Q&A コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード』(第一法規、2015年10月):共著、『株主と対話する企業〔第2版〕』(商事法務、2025年4月):共著など著書・論文多数
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2025/10/22 M&Aにおける事業計画の信頼性

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

2025年8月6日のニュース「東証のMBO開示見直しにより特別委員会が担う重責」でお伝えしたとおり、東京証券取引所は2025年7月22日に施行した「MBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場制度の見直し」に係る改正有価証券上場規程により、上場を廃止する上場会社に対し、MBOや支配株主による完全子会社化等の取引が「⼀般株主にとって公正であることに関する意⾒」を特別委員会から⼊⼿し、当該意⾒を開示することを義務付けたところ。また、特別委員会が意⾒を出す際には、「取引条件」が一般株主にとって公正かどうかを検討したうえで、「株価算定の重要な前提条件」(財務予測(将来の売上、利益、キャッシュフローなど)や株価の算定⼿法)を開示することも求めている。


特別委員会 : 企業買収の公正性の確保を目的として設置される独立した合議体。企業価値の向上と一般株主の利益保護のため、企業買収の是非や取引条件の妥当性、公正性を検討・判断する。

では、特別委員会は具体的に何を検討しなければならないだろうか。特別委員会がまず肝に銘じる必要があるのが、・・・

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2025/10/22 M&Aにおける事業計画の信頼性(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

2025年8月6日のニュース「東証のMBO開示見直しにより特別委員会が担う重責」でお伝えしたとおり、東京証券取引所は2025年7月22日に施行した「MBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場制度の見直し」に係る改正有価証券上場規程により、上場を廃止する上場会社に対し、MBOや支配株主による完全子会社化等の取引が「⼀般株主にとって公正であることに関する意⾒」を特別委員会から⼊⼿し、当該意⾒を開示することを義務付けたところ。また、特別委員会が意⾒を出す際には、「取引条件」が一般株主にとって公正かどうかを検討したうえで、「株価算定の重要な前提条件」(財務予測(将来の売上、利益、キャッシュフローなど)や株価の算定⼿法)を開示することも求めている。


特別委員会 : 企業買収の公正性の確保を目的として設置される独立した合議体。企業価値の向上と一般株主の利益保護のため、企業買収の是非や取引条件の妥当性、公正性を検討・判断する。

では、特別委員会は具体的に何を検討しなければならないだろうか。特別委員会がまず肝に銘じる必要があるのが、取締役会が株式価値や企業価値を算定する外部の専門家である第三者算定機関を選任したとしても、バリュエーション・バイアスの問題は解決しないということだ。なぜなら、第三者算定機関は株式価値算定(バリュエーション)に必要な情報のすべてを専門的見地から検証しているわけではないからである。例えば、DCF法によるバリュエーションの前提となるフリー・キャッシュフロー(FCF)予測(事業計画)は、買収対象会社や買い手の会社(株式対価の場合)の取締役会が作成したものを前提とし、予測の合理性についての独自の検証までは行われないケースが多い。たとえ第三者算定機関が検証を行うとしても、株価算定は限られた期間と予算の中で行われるため、すべての前提条件を精査するのは現実的に困難と言える。


バリュエーション・バイアス : 企業や資産の価値評価(バリュエーション)において、評価者の主観や利害関係が影響し、本来の価値から乖離した評価がなされる傾向のこと。
DCF法 : 企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業や株式の価値を算定する方法。将来性を重視した評価手法と言える。
株式対価 : 現金ではなく買い手の株式を対価とする買収のこと。この場合、買い手側の株式の価値が取引条件に大きく影響するため、DCF法などでその株式価値を算定する必要がある。

第三者算定機関の限界を踏まえると、特別委員会が果たすべき役割は大きい。なかでも特別委員会が慎重に検討する必要があるのが「事業計画」だ。中期経営計画等、通常業務の一環として策定される事業計画は、社内外の関係者による確認や共有を前提としているため、都合よく内容を操作することは難しく、一般的には恣意性がないものと考えられる。これに対しM&Aの局面で策定される事業計画は、最初から買い手の会社や買収対象会社の取締役会が希望する株式価値に合わせて内容が調整されることが珍しくない。この点、多くの大手企業や有名企業が本社を置く米国デラウェア州の裁判所では、経営陣による計画が「通常の業務の過程」で作成されたものである場合には、株式価格決定手続は一般的に「信頼できる」とする一方、以下の場合には「信頼性を欠く」と認定している。

・通常の業務過程外で作成された
・長期計画を作成したことのない経営陣によって作成された
・経営陣が自分たちの地位を守るためなど、計画を変更する動機を持って作成した
・訴訟の可能性があり、計画の中立性に影響を与え得る状況下で作成された
・実際には業績改善を裏付ける根本的な変化(例えば新製品の成功、業界の成長)がないにもかかわらず業績の劇的な好転を示唆する仮定や、投機的・恣意的な仮定を用いて作成された

また、事業計画の作成プロセスには「ボトムアップ(各事業部門が実際の業務や市場状況に基づいて詳細な数値や見通しを提示し、それを積み上げて全社的な事業計画を構築する現場主導型の計画策定手法)」と「トップダウン(経営陣が会社全体の目標や業界のトレンド、マクロ経済の見通しなどを踏まえて大枠の数値目標を設定し、それを各部門に割り振る経営陣主導型の計画策定手法)」があるところ、ボトムアップで作成された事業計画はトップダウンで作成された事業計画よりも一般的に信頼性が高いと認定している。

したがって、特別委員会は、第三者算定機関がどのような事業計画を使用しているのか、また、事業計画が「通常の業務の過程」で作成されていない場合やボトムアップで作成されていない場合には取締役会へのインタビュー等に基づき検証を行っているか、確認しなければならない。

株式対価によるM&Aでは、買い手の会社の株式価値や市場株価が買収対象会社よりも高く、買い手の会社が優位な立場にあることが多いため、買い手の会社の株式価値が過大に評価される事例が見受けられる。このような過大評価があると、M&A後に買収対象会社の株主が取得する持株比率が不当に低くなり、自社(買収対象会社)の株主に不利益をもたらす可能性がある。このような事態を避けるため、特別委員会は、第三者算定機関が“かさ上げ”された事業計画を使用していないか、慎重に確認しなければならない。

2025/10/21 【新任役員向けトレーニングプログラム】景品表示法 の更新

下記の【新任役員向けトレーニングプログラム】につき、法令等の改正や実務動向の変化に対応するため、講義内容(動画およびレジュメの双方)を更新いたしました。本動画は新任役員向けトレーニングプログラムの受講の契約をされている方のみが閲覧可能です。

概略

本講義では、食品偽装問題をきっかけに強化が図られた景品表示法が対象とする「表示」や同法違反のパターン(ステマ規制も含む)、確約手続(令和5年法改正で追加)、同法違反を犯した企業が受けるダメージ、景品表示法遵守のための心構え、さらに同法が求める管理上の措置についても解説します。

【講師】TMI総合法律事務所 鈴木 弘記 弁護士
【講義時間 13分58秒
【目次】
1 景品表示法の全体像
・規制内容
(参考)懸賞規制
(参考)総付景品規制
・罰則等
・確約手続(令和5年法改正で追加)
2 景品表示法の執行状況
3 課徴金上位10社
4 優良誤認表示及び有利誤認表示の要件
5 ステマ規制
6 「事業者の表示」に該当するか否か
7 表示の作成・検討に当たっての心構え
8 事業者が講ずべき管理上の措置の内容

講義資料 景品表示法.pdf
講義

景品表示法
景品表示

新任役員向けトレーニングプログラムの受講者は、資料名や講義画像をクリックすることで、
受講者限定コンテンツ(講義および資料)をご覧いただけます
(まだログインがお済みでない場合はログイン画面になります)。

※本トレーニングプログラムは、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員資格だけでは
ご利用できないオプションのサービスです。
上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員は、
本トレーニングプログラムを会員向けの割引価格(会員価格)でご利用できます。
上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員ではない方が、
本トレーニングプログラムのみを受講することもできます。
詳細は、下の「お申込み」ボタンを押してご確認ください。
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2025/10/20 2027年以降、グラスルイスとのエンゲージメントに変化も

議決権行使助言会社大手のグラスルイスは2025年10月15日、「グラスルイスが議決権行使実務の変革を主導する」と題するリリースを公表した(原文タイトル:Glass Lewis Leads Change in Proxy Voting Practices)。これを受け、日本の全国紙や海外メディアは、「グラスルイスが2027年に自社の議決権行使助言基準(Benchmark Policy Guidelines)を廃止し、同基準に基づく賛否推奨を取りやめる」旨の記事を配信している。しかし、グラスルイスのリリースを見る限り、必ずしも「廃止」や「取りやめ」を明言しているわけではない。以下、当フォーラムの独自取材に基づく最新情報をお伝えする。・・・

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2025/10/20 2027年以降、グラスルイスとのエンゲージメントに変化も(会員限定)

議決権行使助言会社大手のグラスルイスは2025年10月15日、「グラスルイスが議決権行使実務の変革を主導する」と題するリリースを公表した(原文タイトル:Glass Lewis Leads Change in Proxy Voting Practices)。これを受け、日本の全国紙や海外メディアは、「グラスルイスが2027年に自社の議決権行使助言基準(Benchmark Policy Guidelines)を廃止し、同基準に基づく賛否推奨を取りやめる」旨の記事を配信している。しかし、グラスルイスのリリースを見る限り、必ずしも「廃止」や「取りやめ」を明言しているわけではない。以下、当フォーラムの独自取材に基づく最新情報をお伝えする。

グラスルイスのリリースを確認すると、「議決権行使助言基準の適用方法」と「リサーチおよび行使助言の提供方法」に重要な変更を加えるとしており、助言基準および行使助言そのものを廃止するとは言っていない。あくまでも、議決権行使助言会社としてのビジネスモデルを実質的に強化(substantive enhancements to its business model)すると説明している。また、同社のリリースでは、今後2年間で実施する具体的な強化策として、以下の2点を掲げている(当フォーラムの独自取材に基づく解釈・意訳を含む)。

第一段階 クライアント(=機関投資家)が自社(=機関投資家)の議決権行使ガイドラインを策定することをサポートする ・全てのクライアントが自社の議決権行使ガイドラインを整備し、これに従って議決権行使ができるようになることを目標とする
・同ガイドラインは、自社の投資哲学やスチュワードシップに関する取り組みを反映した独自性の高いものとする
第二段階 クライアントの多様なガイドラインを反映した複数の視点から助言を行う ・グラスルイスの助言基準および行使助言に、クライアントの多様なガイドラインを反映した複数の視点を持たせる
・「複数の視点」とは、ガバナンスの原理原則に沿ったものから、経営陣側に立ったものまで、幅広いものとする

要するに、グラスルイスとしては、①まずはクライアントに独自の自社ガイドラインを作ってもらいたい、②その自社ガイドラインの策定はグラスルイスが支援する、③そのうえで、グラスルイスが幅広い複数の視点から助言をするので、自社ガイドラインに沿った助言を採用・行使して欲しい、ということだ。議決権行使はあくまでもクライアントである機関投資家が自らの責任と判断により行うものであり、グラスルイスは「助言会社としてクライアントの独自判断に資するレポートを提供する」という立ち位置となる。

リリースには「受託者責任、エンゲージメント、サステナビリティに対するアプローチの違いが地域間、特に米欧の間で生まれている」とあり、今回のリリースにはトランプ政権下における反ESG圧力が少なからず影響していることがうかがえる(反ESGの影響を受けた議決権行使助言会社の動向については、2025年2月19日のニュース「米国ISSがダイバーシティ基準の適用を停止、日本向け基準への影響は?」、2025年3月17日のニュース「グラスルイスのダイバーシティ基準、最終判断は機関投資家に委ねる方式に」参照)。今回グラスルイスが打ち出した「強化策」は、個別のテーマにとどまらず、同社のビジネスモデルを反ESGといった国際的な潮流に適合させるための大掛かりなものと言える。

「強化策」は米国のみならず、全世界の市場向けに実施される。日本の上場会社においても、2027年以降、グラスルイスとの距離感や付き合い方には変化が生じるだろう。これまでは自社に有利な賛否推奨を得ることがエンゲージメントの目的だったところ、2027年以降は「いかに自社の考え方をレポートに載せてもらえるか」が新たな目的となる。併せて、レポートの読み手、すなわち議決権行使を判断する機関投資家に対するエンゲージメントが一層重要になる。上場会社にはより精緻なエンゲージメント戦略が求められることになろう。

2025/10/17 取適法下での特定運送委託に関する実務対応~パブコメ結果の解説②~

改正下請法の施行日(2026年1月1日)までに残された期間は2か月余りとなった。改正法では、規制内容の追加や規制対象の拡大が行われるとともに、法律名も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されている(新通称は「取適法(とりてきほう)」)。2025年10月7日のニュース『改正下請法、従業員基準への批判的な意見相次ぐ~パブコメ結果の解説①~』に続き、今回は「取適法下での特定運送委託対応」にフォーカスして、公正取引委員会(以下、公取)が2025年7月16日に示した取適法関連の公取規則の改正案に対して寄せられた意見とそれに対する公取の考え方(2025年10月1日に公表)を解説する。

取適法の重要な改正点の一つに、従来の下請法では規制対象外とされていた「運送の委託」のうち一定の要件(後述)を満たす「特定運送委託」が規制対象となったことが挙げられる。「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(以下、運用基準)によると、特定運送委託の定義は次のとおり(運用基準7ページを参照)。

特定運送委託の定義
(1)「特定運送委託」とは、「事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」をいう(法第2条第5項)。
(2)「情報成果物が記載された物品」とは、広告用ポスター、設計図等をいい、「情報成果物が記録された物品」とは、会計ソフトのCD-ROM等をいい、「情報成果物が化体された物品」とは、建築模型、ペットボトルの形のデザインの試作品等をいう。
(3)「取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)の占有下に当該取引の目的物等の物品を移動することをいい、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない。「当該相手方が指定する者」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方が当該取引の目的物等の物品を自己以外の者に受け取らせる場合の当該者をいい、例えば、取引の相手方との間で、目的物等の物品の保管を受託する者(倉庫業者)がこれに該当する。

ポイントは3つある。

1つ目のポイントが、下請法では規制対象とされていなかった「荷主から運送事業者への運送の委託」が、取適法では新たに対象に加えられたということだ。下請法では、運送事業者が下請けの運送事業者に運送を委託すること(運送業者間の委託関係)は規制対象とされてきたものの、「荷主」から運送事業者への運送の委託は規制対象外だった(下図の緑色の枠)。

出典:公取の改正ポイント説明会資料15ページより抜粋
01

2つ目のポイントは、規制対象となるのはすべての運送行為ではなく、あくまで「取引の相手方に対する運送」に限定されるということである。逆に言えば、「取引の相手方ではないところへの運送」(例えば自社工場から別の自社工場への運送)を委託しても、取適法の規制対象となる「特定運送委託」には該当しない。

3つ目のポイントは、「取引の相手方に対する運送」には「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない」と明記されたことである。この「含まれない」という文言だけを見ると、「附帯業務」を運送業者に依頼しても取適法の適用対象外と解釈してしまいそうになるが、それは間違いだ。これは、荷積みや荷下ろし、倉庫内作業といった附帯業務は「運送の役務」には該当しないものの、「運送の役務以外の役務」に分類されたうえで結局は同法の適用を受ける作りとなっているため()。したがって、例えば、特定運送委託を行う委託事業者が中小の運送受託事業者に対し、運送業務のほかに無償で附帯業務の提供を求めた場合、その行為は取適法第5条第2項第2号が禁じる「不当な経済上の利益の提供要請(労務の提供要請)」に該当することになる点、留意したい。

 「取引の相手方に対する運送」には「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない」と明記されたことで、中小の運送受託事業者にとっては、「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務」について正当な対価を要求しやすくなる効果がある。

公取は「特定運送委託」の類型として次の4つを想定している。

特定運送委託の4つの類型
出典:公取のパンフレットより引用
類型 定義
類型5-1 事業者が業として行う販売の目的物たる物品の当該販売における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 02
類型5-2 事業者が業として請け負う製造の目的物たる物品の当該製造における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 04
類型5-3 事業者が業として請け負う修理の目的物たる物品の当該修理における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 03
類型5-4 事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、又は化体された物品の当該作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 05

取適法では、「運送も製造や修理と同じく、取引の一部であり、立場の弱い運送事業者を守る必要がある」との考え方に基づき、発荷主から元請事業者(運送業務を最初に請け負う事業者)への運送委託が規制対象とされたことに伴い、親事業者と下請事業者の間の取引に適用される義務や禁止行為が、運送委託取引にも同様に適用される。

では、取適法は、具体的に特定運送委託におけるどのような行為を違法としているのだろうか。取適法の運用基準には違反行為の代表例が記載されている。、特定運送委託に関連した違反行為の事例をまとめたのが下表だ(「2-12」などの数字は運用基準におけるインデックス)。もっとも、これらは運送業務に特徴的な違反行為の例に過ぎず、ここに記載されていない行為であっても、取適法が違反行為として定めている行為(例えば「協議に応じない一方的な代金決定」)には様々なものがある。委託者としては、下記の行為に限らず、取適法の違反行為をしないよう注意する必要がある。

運用基準における特定運送委託において想定される違反行為事例の抜粋
違反行為 特定運送委託において想定される違反行為事例
支払遅延 2-12 支払日が金融機関の休業日に当たることを理由とした支払遅延
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者とあらかじめ書面による合意(当該合意の内容を記録した電磁的記録の作成を含む。)がされていないにもかかわらず、代金の支払期日が金融機関の休業日に当たることを理由に、中小受託事業者に対し、あらかじめ定められた支払期日を超えて代金を支払っていた。
2-13 請求書が提出されないことを理由とした支払遅延
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者からの請求書の提出が遅れたことを理由に、中小受託事業者が役務を提供したにもかかわらず、あらかじめ定められた支払期日を超えて代金を支払っていた。
代金の減額 3―21 協力金等を理由とした減額
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者に対し、「協力金」等として代金の額に一定率を乗じて得た額又は一定額を代金から差し引いた。
3―22 1円以上の切捨てによる減額
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、代金の支払時に1,000円未満の端数を切り捨てて支払うことにより、代金の額を減じた。
買いたたき 5-18 代金を据え置くことによる買いたたき
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、燃料価格の高騰や労務費の上昇が明らかな状況において、中小受託事業者が燃料価格の高騰や労務費の上昇を理由に単価の引上げを求めたにもかかわらず、中小受託事業者と十分に協議をすることなく、一方的に、従来どおりに単価を据え置くことにより、通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた。
5-19 その他の買いたたき
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者と年間運送契約を結んでおり、双方に異議のない場合は自動更新されることとなっていたところ、年度末の契約の更新の直前に、人件費、燃料費等について大幅な変更がないのに、翌年度の契約書であるとして前年に比べて大幅に単価を引き下げた運送契約書を中小受託事業者に送付し、中小受託事業者と十分な協議をすることなく、一方的に通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた。
購入・利用強制 6-9 自社商品の購入強制
委託事業者は、自社の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対して、発注担当者を通じて、中小受託事業者が必要としていないにもかかわらず、自社商品の購入を要請し、当該商品を購入させた。
6-10 自社が指定する役務の利用強制
委託事業者は、自社の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、子会社が取り扱う保険への加入を度々要請し、中小受託事業者は既に別の保険に加入しているため、断りたい事情があるにもかかわらず、委託事業者の薦める保険に加入させた。
不当な経済上の利益の提供要請 7-13 従業員の派遣要請
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を委託している中小受託事業者に対し、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会いのために従業員を派遣させた。
7-14 労務の提供要請
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、運送以外の荷下ろし等の作業をさせた。
7-15 関税・消費税の立替え要請
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、物流業務に附帯して輸入通関業務を委託するに際して、関税・消費税の納付を立て替えさせ、中小受託事業者から立替えに要した金銭の支払を求められても応じなかった。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し 8-11 取引先の都合を理由とした発注取消し
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、運送を行うこととされていた当日の朝に、発注元からの発注が取り消されたことを理由として運送の発注を取り消したが、そのような突然の発注取消しに伴い中小受託事業者が負担した費用を支払わなかった。
8-12 自社の都合を理由とした発注内容の変更
(1)委託事業者は、自社の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者が指定された時刻に貨物の積込み場所へ到着したものの、自社の都合により中小受託事業者に対し長時間の待機をさせたにもかかわらず、その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。
(2)委託事業者は、自社の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、自社の都合により貨物の到着日時を当初の予定より遅く変更し、中小受託事業者に対し長期にわたって商品を保管させたにもかかわらず、保管について必要な費用を負担しなかった。

公取が募集したパブコメには合計364の意見が寄せられたが、そのうち特定運送委託に関する意見は97あった。つまり、4つに1つは特定運送委託に関する意見であり、それだけ特定運送委託は注目度が高い改正点であることが分かる。97のコメントとそれに対する公取の考え方のうち、主要なものをとりまとめたのが下表だ(「備考」欄は当フォーラムが作成)。特に・・・

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