2025/10/17 取適法下での特定運送委託に関する実務対応~パブコメ結果の解説②~(会員限定)

改正下請法の施行日(2026年1月1日)までに残された期間は2か月余りとなった。改正法では、規制内容の追加や規制対象の拡大が行われるとともに、法律名も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されている(新通称は「取適法(とりてきほう)」)。2025年10月7日のニュース『改正下請法、従業員基準への批判的な意見相次ぐ~パブコメ結果の解説①~』に続き、今回は「取適法下での特定運送委託対応」にフォーカスして、公正取引委員会(以下、公取)が2025年7月16日に示した取適法関連の公取規則の改正案に対して寄せられた意見とそれに対する公取の考え方(2025年10月1日に公表)を解説する。

取適法の重要な改正点の一つに、従来の下請法では規制対象外とされていた「運送の委託」のうち一定の要件(後述)を満たす「特定運送委託」が規制対象となったことが挙げられる。「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(以下、運用基準)によると、特定運送委託の定義は次のとおり(運用基準7ページを参照)。

特定運送委託の定義
(1)「特定運送委託」とは、「事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」をいう(法第2条第5項)。
(2)「情報成果物が記載された物品」とは、広告用ポスター、設計図等をいい、「情報成果物が記録された物品」とは、会計ソフトのCD-ROM等をいい、「情報成果物が化体された物品」とは、建築模型、ペットボトルの形のデザインの試作品等をいう。
(3)「取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)の占有下に当該取引の目的物等の物品を移動することをいい、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない。「当該相手方が指定する者」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方が当該取引の目的物等の物品を自己以外の者に受け取らせる場合の当該者をいい、例えば、取引の相手方との間で、目的物等の物品の保管を受託する者(倉庫業者)がこれに該当する。

ポイントは3つある。

1つ目のポイントが、下請法では規制対象とされていなかった「荷主から運送事業者への運送の委託」が、取適法では新たに対象に加えられたということだ。下請法では、運送事業者が下請けの運送事業者に運送を委託すること(運送業者間の委託関係)は規制対象とされてきたものの、「荷主」から運送事業者への運送の委託は規制対象外だった(下図の緑色の枠)。

出典:公取の改正ポイント説明会資料15ページより抜粋
01

2つ目のポイントは、規制対象となるのはすべての運送行為ではなく、あくまで「取引の相手方に対する運送」に限定されるということである。逆に言えば、「取引の相手方ではないところへの運送」(例えば自社工場から別の自社工場への運送)を委託しても、取適法の規制対象となる「特定運送委託」には該当しない。

3つ目のポイントは、「取引の相手方に対する運送」には「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない」と明記されたことである。この「含まれない」という文言だけを見ると、「附帯業務」を運送業者に依頼しても取適法の適用対象外と解釈してしまいそうになるが、それは間違いだ。これは、荷積みや荷下ろし、倉庫内作業といった附帯業務は「運送の役務」には該当しないものの、「運送の役務以外の役務」に分類されたうえで結局は同法の適用を受ける作りとなっているため()。したがって、例えば、特定運送委託を行う委託事業者が中小の運送受託事業者に対し、運送業務のほかに無償で附帯業務の提供を求めた場合、その行為は取適法第5条第2項第2号が禁じる「不当な経済上の利益の提供要請(労務の提供要請)」に該当することになる点、留意したい。

 「取引の相手方に対する運送」には「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない」と明記されたことで、中小の運送受託事業者にとっては、「荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務」について正当な対価を要求しやすくなる効果がある。

公取は「特定運送委託」の類型として次の4つを想定している。

特定運送委託の4つの類型
出典:公取のパンフレットより引用
類型 定義
類型5-1 事業者が業として行う販売の目的物たる物品の当該販売における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 02
類型5-2 事業者が業として請け負う製造の目的物たる物品の当該製造における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 04
類型5-3 事業者が業として請け負う修理の目的物たる物品の当該修理における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 03
類型5-4 事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、又は化体された物品の当該作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 05

取適法では、「運送も製造や修理と同じく、取引の一部であり、立場の弱い運送事業者を守る必要がある」との考え方に基づき、発荷主から元請事業者(運送業務を最初に請け負う事業者)への運送委託が規制対象とされたことに伴い、親事業者と下請事業者の間の取引に適用される義務や禁止行為が、運送委託取引にも同様に適用される。

では、取適法は、具体的に特定運送委託におけるどのような行為を違法としているのだろうか。取適法の運用基準には違反行為の代表例が記載されている。、特定運送委託に関連した違反行為の事例をまとめたのが下表だ(「2-12」などの数字は運用基準におけるインデックス)。もっとも、これらは運送業務に特徴的な違反行為の例に過ぎず、ここに記載されていない行為であっても、取適法が違反行為として定めている行為(例えば「協議に応じない一方的な代金決定」)には様々なものがある。委託者としては、下記の行為に限らず、取適法の違反行為をしないよう注意する必要がある。

運用基準における特定運送委託において想定される違反行為事例の抜粋
違反行為 特定運送委託において想定される違反行為事例
支払遅延 2-12 支払日が金融機関の休業日に当たることを理由とした支払遅延
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者とあらかじめ書面による合意(当該合意の内容を記録した電磁的記録の作成を含む。)がされていないにもかかわらず、代金の支払期日が金融機関の休業日に当たることを理由に、中小受託事業者に対し、あらかじめ定められた支払期日を超えて代金を支払っていた。
2-13 請求書が提出されないことを理由とした支払遅延
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者からの請求書の提出が遅れたことを理由に、中小受託事業者が役務を提供したにもかかわらず、あらかじめ定められた支払期日を超えて代金を支払っていた。
代金の減額 3―21 協力金等を理由とした減額
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者に対し、「協力金」等として代金の額に一定率を乗じて得た額又は一定額を代金から差し引いた。
3―22 1円以上の切捨てによる減額
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、代金の支払時に1,000円未満の端数を切り捨てて支払うことにより、代金の額を減じた。
買いたたき 5-18 代金を据え置くことによる買いたたき
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、燃料価格の高騰や労務費の上昇が明らかな状況において、中小受託事業者が燃料価格の高騰や労務費の上昇を理由に単価の引上げを求めたにもかかわらず、中小受託事業者と十分に協議をすることなく、一方的に、従来どおりに単価を据え置くことにより、通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた。
5-19 その他の買いたたき
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者と年間運送契約を結んでおり、双方に異議のない場合は自動更新されることとなっていたところ、年度末の契約の更新の直前に、人件費、燃料費等について大幅な変更がないのに、翌年度の契約書であるとして前年に比べて大幅に単価を引き下げた運送契約書を中小受託事業者に送付し、中小受託事業者と十分な協議をすることなく、一方的に通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた。
購入・利用強制 6-9 自社商品の購入強制
委託事業者は、自社の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対して、発注担当者を通じて、中小受託事業者が必要としていないにもかかわらず、自社商品の購入を要請し、当該商品を購入させた。
6-10 自社が指定する役務の利用強制
委託事業者は、自社の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、子会社が取り扱う保険への加入を度々要請し、中小受託事業者は既に別の保険に加入しているため、断りたい事情があるにもかかわらず、委託事業者の薦める保険に加入させた。
不当な経済上の利益の提供要請 7-13 従業員の派遣要請
委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を委託している中小受託事業者に対し、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会いのために従業員を派遣させた。
7-14 労務の提供要請
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、運送以外の荷下ろし等の作業をさせた。
7-15 関税・消費税の立替え要請
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、物流業務に附帯して輸入通関業務を委託するに際して、関税・消費税の納付を立て替えさせ、中小受託事業者から立替えに要した金銭の支払を求められても応じなかった。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し 8-11 取引先の都合を理由とした発注取消し
委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、運送を行うこととされていた当日の朝に、発注元からの発注が取り消されたことを理由として運送の発注を取り消したが、そのような突然の発注取消しに伴い中小受託事業者が負担した費用を支払わなかった。
8-12 自社の都合を理由とした発注内容の変更
(1)委託事業者は、自社の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者が指定された時刻に貨物の積込み場所へ到着したものの、自社の都合により中小受託事業者に対し長時間の待機をさせたにもかかわらず、その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。
(2)委託事業者は、自社の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、自社の都合により貨物の到着日時を当初の予定より遅く変更し、中小受託事業者に対し長期にわたって商品を保管させたにもかかわらず、保管について必要な費用を負担しなかった。

公取が募集したパブコメには合計364の意見が寄せられたが、そのうち特定運送委託に関する意見は97あった。つまり、4つに1つは特定運送委託に関する意見であり、それだけ特定運送委託は注目度が高い改正点であることが分かる。97のコメントとそれに対する公取の考え方のうち、主要なものをとりまとめたのが下表だ(「備考」欄は当フォーラムが作成)。特にNo.88の「考え方」は他の同様の意見でも繰り返し参照されており、必見と言える。特定運送委託に関する実務対応の参考にされたい。

(2)特定運送委託に関する意見について(コメント87から183まで)
No. 意見の概要 考え方 備考
87 特定運送委託の対象となる事業者について、以下の場合はどのように考えるべきなのか?
委託事業者が倉庫事業者に商品の保管を委託している場合に、出荷指示をした際、倉庫事業者が運送の手配も含めて出庫業務を実施している。運送事業者は、倉庫事業者の付き合いがある事業者であり、委託事業者とは直接やり取りは発生していない。但し、対価の請求に関しては、保管料、出庫料については、委託事業者に倉庫事業者が請求書を発行。指定納品先までの運送料については、運送事業者から直接、委託事業者に請求書が発行される。この場合、直接的な依頼は委託事業者から運送事業者には行われていないが、委託事業者と運送事業者の関係としては、本法の特定運送委託の対象にあたるのか?※資本金要件、従業員要件は該当しているものとする。また、倉庫業者から保管料、出庫料、運賃を委託事業者が請求されている場合は、倉庫事業者が特定運送委託の対象という認識でよいか?
御質問のケースについては、個別具体的な事案ごとに判断されることになり、一概にお答えすることはできませんが、通常、事業者が、発注者と外注取引先の間に入って取引を行う場合であっても、特定運送委託の内容に全く関与せず、事務手続の代行を行っているにすぎないような場合には、本法上の委託事業者又は中小受託事業者とはならず、本法の規模に係る要件を満たせば、発注事業者が委託事業者、受注事業者が中小受託事業者となります。 委託事業者が直接的な依頼を行っていなくても「特定運送委託」が成立するケースである。自社と直接取引のある事業者が事務手続を代行しているだけの場合、その先の運送事業者の資本金や従業員数を把握しておく必要がある。
88 運用基準1ー5特定運送委託において、特定運送とは「物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とあるが、相手方に運送するまでの拠点間の幹線輸送は、取適法の範囲となりうるか。例えば、工場で製造したものを物流センターまで運送するもので、取引の相手方にまで運送が及ばないもの。 特定運送委託における「運送の行為の一部を他の事業者に委託すること」とは、取引の相手方に対する運送のうち、その物品の数量又はその経路の一部の運送を他の事業者に委託することをいいます。自社の工場から自社の物流センターまでの運送のような自社の拠点間の運送を他の事業者に委託することは、通常、取引の相手方に対する運送とはいえず、特定運送委託に該当しません。
もっとも、特定の「取引の相手方」向けに仕分けられた販売等の目的物を当該「取引の相手方」に対して運送する際に、自社の拠点をその運送経路の一部として利用する場合には、自社の拠点間の運送であっても、取引の相手方に対する運送の「経路の一部」の運送といえるため、このような運送を他の事業者に委託することは特定運送委託に該当します。
自社の工場から自社の物流センターまでの運送は通常、「取引の相手方に対する運送」には当たらないが、工場で特定の「取引の相手方」向けに仕分けられた販売等の目的物であれば、例外的に「取引の相手方に対する運送」に当たるとの考え方が示された。したがって、汎用品とは異なり、特定の「取引の相手方」向けに製造された目的物の運送であれば、自社の工場から自社の物流センターまでの運送であっても「取引の相手方に対する運送」に当たる。
89 運用基準1ー5特定運送委託において、特定運送とは「物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とあるが、例えば、取引の相手方が社内(社内物流)である場合、その運送に係る運送委託は取適法の適用範囲となるのか。 本法の委託事業者は「法人たる事業者」を対象としており(本法第2条第8項参照)、同一法人の拠点間の運送が、当該拠点間の販売等に基づいて行われていたとしても、その販売等は同一法人の内部行為にすぎないため、特定運送委託に該当しません。 同一法人内の販売とは、いわゆる社内売上のことであり、このような内部取引に基づく社内別拠点への運送は特定運送委託に該当しないことが明示された。ただし、No.88の「考え方」では、たとえ内部取引、例えば自社の工場から自社の物流センターまでの運送であっても、工場で特定の「取引の相手方」向けに仕分けられた販売等の目的物であれば、例外的に「取引の相手方に対する運送」に当たるとの考え方が示されているので注意したい。
94 改正物流効率化法の運用において「輸送の安全を確保するために運転業務と一体的に行われる養生作業、固縛、シート掛け等については、荷役等に該当せず荷役等時間に含まれない」とされている点を踏まえ、これらの作業が「運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務」に含まれないことを明確にすべきである。 特定運送委託における「取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)の占有下に当該取引の目的物等の物品を移動することをいい、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれません(運用基準第2の1―5(3))。一方、「運送」と一体的に行われる養生作業、固縛、シート掛け等は、委託事業者から特別の指示を受けて行うものを除いて、通常は「運送」に含まれ、「運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務」には該当しないと考えられます。 「運送」と一体的に行われる「養生作業、固縛、シート掛け」は、通常は「運送」に含まれることが明示された。改正物流効率化法の運用との違いを意識する必要がある。
99 以下に列挙する各取引類型は取適法の対象となるのか、上記運用基準での明確化をお願いしたいです。
(1)同一法人の拠点間(工場から営業所など)の運送業務を中小受託事
業者に委託するケース
(2)日本企業から海外のグループ会社に物を販売・輸出する場合に、当該日本企業が日本国内の拠点から日本国内の最寄りの港までの運送業務を中小受託事業者に委託するケース
(3)日本企業が海外メーカーから物品を購入・輸入した際に、日本国内の最寄りの港から当該日本企業までの運送業務を中小受託事業者に委託するケース
自社の拠点間の運送の考え方については、No.88の御意見に対する考え方を御参照ください。また、特定運送委託の「取引の相手方」が海外法人である場合や、貨物の発送地又は到着地が国外である場合であっても、委託事業者と中小受託事業者との特定運送委託が日本国内で行われた取引であれば、本法が適用されます。加えて、事業者が、購入した物品を自己の拠点に運送する場合、通常、「取引の相手方」(本法第2条第5項)に対する運送といえず、その運送を他の事業者に委託することは特定運送委託に該当しません。 「取引の相手方」に対する運送と言えるかどうかがポイントとなる。
105 特定運送委託の類型5-1で「事業者が業として行う販売の目的物たる物品の当該販売における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。」とされていますが、例えば、中小受託事業者に対し有償支給原材料を支給する(当該有償支給原材料の所有権は、委託事業者から当該中小受託事業者に移転)際に、当該中小受託事業者の事業所に当該有償支給原材料を運送する行為を、運送会社に委託することは、特定運送委託の類型5-1に該当しますか。運用基準に明記していただきたいと思います。 事業者が業として行う販売の目的物たる物品の当該販売における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することは、特定運送委託に該当します(運用基準第2の1―5(4)の類型5-1)。
特定運送委託における「販売・・・における取引の相手方」(本法第2条第5項)に該当するか否かは、取引の実態に応じて個別に判断することになりますが、物品の製造等の発注事業者が受注事業者に対して自己に対する給付に必要な半製品、部品、付属品又は原材料を自己から購入させる場合、当該受注事業者は、通常、「販売・・・における取引の相手方」に該当すると考えられます。その場合、発注事業者が当該原材料等(有償支給原材料等)を受注事業者に対して運送する行為の全部又は一部を他の事業者に委託することは、特定運送委託に該当することとなります。
有償支給原材料の運送委託は特定運送委託に該当することが明示された。
109 特定運送委託の4つの類型が示されているが、加工外注先へ加工に使用する材料等の運送は、何れかの類型に該当するか、若しくは対象外かを明示頂きたい。
・顧客から修理を請け負い、顧客に所有権がある物品の運送は、特定運送委託が適用されるか。
・特定運送委託の対象は内貨のみであり、外貨は対象外であることを確認頂きたい。
・内貨と外貨が混在している国際一貫輸送は、外貨が委託内容の大部分を占めるため、外貨を基準とし対象外であることを確認頂きたい。
物品の製造等の発注事業者が受注事業者に対して自己に対する給付に必要な半製品、部品、付属品又は原材料を自己から購入させる場合については、No.105の御意見に対する考え方を御参照ください。
事業者が業として請け負う修理の目的物たる物品の当該修理における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することは、特定運送委託に該当します(運用基準第2の1―5(4)の類型5-3)。なお、「取引の相手方」(本法第2条第5項)に運送の対象となる物品の所有権が帰属しているか否かは、特定運送委託の該当性に影響しません。
特定運送委託の「取引の相手方」が海外法人である場合や、貨物の発送地又は到着地が国外である場合であっても、委託事業者と中小受託事業者との特定運送委託が日本国内で行われた取引であれば、本法が適用されます。
結局のところ、加工外注先へ加工に使用する材料等の運送は、有償支給部材であれば、No.105のとおり類型5-1に該当し、無償支給部材であれば「販売・・・における取引の相手方」の要件を満たさず特定運送委託には該当しないことになる(No.125を参照)。
119 運用基準案において、事例として記載されているのは全て「顧客に引き渡す場合」が前提となっているが、特定運送委託該否の判断においては「顧客に引き渡す場合」ではないことをもって、特定運送委託に該当しないという理解で問題なく、例えば自社内でのA工場からB工場への部品の移動、委託先Aから委託先Bへの中間成果物の運送などが該当しうるかを確認したい。 自社の拠点間の運送の考え方については、No.88の御意見に対する考え方を御参照ください。
特定運送委託の対象となる物品は、事業者が、①業として行う販売の目的物たる物品、②業として請け負う製造の目的物たる物品、③業として請け負う修理の目的物たる物品、又は④業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品をいいます(本法第2条第5項)。事業者が業として行う販売又は業として請け負う製造の目的物たる物品の半製品等は、それが当該販売等における取引の目的物に該当しない限り、特定運送委託の対象となる物品ではないため、その運送委託は特定運送委託に該当しません。
外注先への半製品の運送は「顧客への引き渡し」の要件を満たさず、特定運送委託に該当しないことが明示された。
124 製造メーカーが業として販売している製品を、自社工場から自社の外部倉庫に大量のロットで運送してストックし、その後、当該製品のお客様からの発注に応じて、当該外部倉庫からお客様の指定場所まで小ロットで運送する、というケースがある。自社工場から外部倉庫までの運送と、外部倉庫からお客様への運送は、それぞれ分けて運送業者に発注をしているようなときに、自社工場から外部倉庫までの運送は、特定運送委託に該当しないという理解で良いか。 自社の拠点間の運送の考え方については、No.88の御意見に対する考え方を御参照ください。 自社の工場から外部倉庫までの運送は通常、「取引の相手方に対する運送」には当たらないため、特定運送委託には該当しないことになる。
125 製造メーカーが、自社が業として販売する物品の加工を第三者に委託しており、当該加工委託に用いる原材料は、製造メーカーが加工委託先の第三者に必要分を支給している。この取引において、支給品を製造メーカーから加工委託先に運送する取引は、特定運送委託に該当するか?以下それぞれのケースにおける該否の考え方を示していただきたい。
(1)支給品が、無償支給の場合
(2)支給品が、有償支給の場合
物品の製造等の発注事業者が有償支給原材料等を受注事業者に対して運送する場合の考え方については、No.105の御意見に対する考え方を御参照下さい。
また、物品の製造等の発注事業者が無償で提供する支給品を受注事業者に対して運送する場合、通常、「販売・・・における取引の相手方」(本法第2条第5項)に対する運送に当たらず、特定運送委託に該当しないと考えます。
有償支給はNo.105のとおり特定運送委託に該当するが、無償支給は「販売・・・における取引の相手方」との要件を満たさず、特定運送委託に該当しないことが明示された。
127 運送委託先が100%の物流子会社の場合、「特定運送委託」に該当するか。 特定運送委託が親子会社間等の取引であっても本法の適用が除外されるものではありませんが、実質的に同一会社内での取引とみられる場合は、運用上問題としておりません。 傘下に物流子会社を持つメーカーは少なくない。100%の物流子会社であれば形式上は特定運送委託に該当しても、運用上は問題としない(特定運送委託と取り扱わない)ことが示された。昨今、資本関係のない同業他社と共同で物流子会社を持つケースが増えているが、この場合も「実質的に同一会社内」とみられるかどうか、今後の運用が注目される。
130 運用基準の7-13
従業員の派遣要請に関して
無償での永続的な派遣は当然NGと考えるが、委託者・受託者の双方が安全対策の合意確認のために、必要な最低限の現地立ち合いを求めることは必要な対応と考えられるが、この記載内容では全て違反事例と捉えられるのではないか。
御指摘の事例は、特定運送委託において想定される違反行為事例として、一例をお示ししたものにすぎないので、原案どおりとします。 パブコメの運用基準案の7-13には、「従業員の派遣要請」に関する違反事例として「委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を委託している中小受託事業者に対し、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会いのために従業員を派遣させた。」が掲げられており、原案どおり確定した。
131 第4の8-12(1)で「長時間の待機をさせたにもかかわらず、・・・必要な費用を負担しなかった」と記載があるが、ここでの「長時間の待機」はどの程度の時間を想定されているか。 不当な給付内容の変更(本法第5条第2項第3号)に該当するか否かは個別の事例ごとに判断することになり、一律の基準を設けることは困難であると考えております。 8-12(1)の記載とは、運用基準において示された違反例である「委託事業者は、自社の販売する商品の運送を中小受託事業者に委託しているところ、中小受託事業者が指定された時刻に貨物の積込み場所へ到着したものの、自社の都合により中小受託事業者に対し長時間の待機をさせたにもかかわらず、その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」を指す。長時間の待機について「一律の基準を設けることは困難」という公取が示した考え方に対しては、「物流の諸問題は発荷主・着荷主・運送事業者が複雑に影響し合い、サプライチェーンが連鎖しながら発生するものであり、明確な契約違反のものに限り、違反行為とみなすべきである。」といった荷主側からのコメント(No.143)も寄せられていたが、結局、原案どおり確定した。
「長時間の待機」はどの程度の時間を指すのか数的基準は明示されなかったものの、既に「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール(2時間以内ルールを達成した荷主は目標時間を1時間以内に設定しつつ更なる時間短縮に努める)」との目安が示されている。
148 不当な経済上の利益の提供要請〈特定運送委託において想定される違反行為事例〉7-13 従業員の派遣要請
自身の事業所の構内での事故防止のため、従業員を派遣することが契約の範囲に含まれる場合は、「不当な経済上の利益の提供要請」には該当しないと考えられる。したがって、事例の記載を「委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を委託している中小受託事業者に対し、委託の範囲外であるにもかかわらず、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会のために従業員を派遣させた。」と修正すべきである。
特定運送委託における「取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送」とは、事業者の特定の事業(販売等)における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)の占有下に当該取引の目的物等の物品を移動することをいい、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれないため、荷役作業や車両移動時の立会いのための労務も「運送」に含まれません。
特定運送委託をした委託事業者とその中小受託事業者との間で、中小受託事業者が委託事業者のために運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供することをあらかじめ合意していたとしても、そのような「経済上の利益」を提供することと中小受託事業者の利益との関係が明らかでない場合や、当該「経済上の利益」を提供することが中小受託事業者の直接の利益とならない場合は、「中小受託事業者の利益を不当に害」するものとして、不当な経済上の利益の提供要請に該当するため(運用基準第4の7(2))、原案どおりとします。
荷主側のコメントと思われる。「運送以外の荷下ろし等の作業が契約の範囲に含まれている」イコール「不当な経済上の利益の提供要請には該当しない」としてしまうと、力関係の弱い中小運送業者は荷下ろしを実質無償で提供させられかねないことから、原案が維持された。
150 7-15 関税・消費税の立替え要請
立替え後の支払いに応じなかったことが違反行為に該当すると考えられるが、立替えを要請する行為自体も違反行為に該当するのか、立替えに要した金銭を委託者側が適切に支払った場合は違反行為には該当しないのか、基準を明確にすべきである。
特定運送委託をした委託事業者が中小受託事業者に運送の役務以外の役務を有償で提供させる場合であっても、そのような「経済上の利益」を提供することと中小受託事業者の利益との関係が明らかでない場合や、当該「経済上の利益」を提供することが中小受託事業者の直接の利益とならない場合は、「中小受託事業者の利益を不当に害」するものとして、不当な経済上の利益の提供要請に該当するため(運用基準第4の7(2))、原案どおりとします。委託事業者が中小受託事業者に運送の役務以外の役務を提供させることについては、No.148の御意見に対する考え方も御参照ください。 通関業務も担っている運送会社は、荷主から関税・輸入消費税の立替払いを要請されることが少なくない。立て替えた分は最終的に補填されるとしても、一時的に運送会社の資金繰りに負担を強いることになる。通関業者の間では以前から不満がくすぶっており、財務省関税局が日本貿易会に対し、通関業者による関税・消費税の立替払いについて通関業者への配慮を求めるよう文書を発出するなど、行政もこの問題の解決消に取り組んできたという経緯がある。
156 委託事業者側では中小受託事業者に対し荷下ろし等を無償でさせていないが、配達先の着荷主において着荷主側の指示に基づき荷下ろし作業や荷下ろしまでの待機時間が発生していた場合、委託事業者側が取適法違反を問われることはありうるのでしょうか。荷下ろしや荷待ちは委託事業者側のみで起こるものではないため、運用基準で明記していただきたいです。 着荷主側の要請により中小受託事業者が当初の委託内容にはない荷役又は荷待ちを余儀なくされた場合であっても、取引の実態に照らして、委託事業者が経済上の利益を「提供させ」、又は給付の内容を「変更させ」たといえる場合には、本法上問題となり得ます。本法に違反しないためには、委託事業者は、中小受託事業者との間で、着荷主が中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合に中小受託事業者から提供されるべき役務があるときはその内容及びその対価を十分に協議し、あらかじめ取り決めておくことが望ましいと考えます。 中小受託事業者に無償での荷役を要請したのが着荷主であり委託事業者ではないとしても、委託事業者が取適法違反を問われる可能性があることが明示された。委託事業者は中小受託事業者との間で、着荷主が中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合の対応方針や、その内容と対価について十分に協議しておく必要がある。
161 着払いの場合の適用対象(発荷主と着荷主)について
別紙4の運用基準において出している事例では、発荷主と運送業者間の取引が対象とされているが、着払いの場合、実際の支払は着荷主が行うケースが多い。着荷主の支払い遅延等が発生した場合、発荷主と着荷主のいずれが取適法違反となるのか、責任の所在を確認したい。
特定運送委託をした委託事業者が、製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないことは、支払遅延(本法第5条第1項第2号)に該当し、たとえ中小受託事業者の了解を得ていても、また、委託事業者に違法性の意識がなくても、本法に違反することになります。そのため、特定運送委託をした委託事業者は、第三者(着荷主)が製造委託等代金を支払うことについて中小受託事業者との間であらかじめ合意していた場合であっても、支払遅延(本法第5条第1項第2号)に該当すれば本法に違反することになります。 特定運送委託をした委託事業者は、着荷主が支払いを遅延した場合であっても取適法違反を問われることが明示された。
165 今回の法改正は荷積みや荷待ち対策になるので大変ありがたいです。ただ、運用基準においては、具体的な荷待ち時間の目安が示されていった方が運用が平易かと思いますがいかがでしょうか。 不当な給付内容の変更(本法第5条第2項第3号)に該当するか否かは個別の事例ごとに判断することになり、一律の基準を設けることは困難であるため、原案どおりとします。なお、委託事業者が中小受託事業者に荷待ちをさせることについてはNo.131の御意見に対する考え方を御参照ください。 運送会社から寄せられた意見と思われる。公取は「一律の基準を設けることは困難」であることを理由に基準を明示しなかったものの、既に「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では、「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール(2時間以内ルールを達成した荷主は目標時間を1時間以内に設定しつつ更なる時間短縮に努める)」が目安として示されている。
167 8-11 取引先の都合を理由とした発注取消
【質問】事例では、当日の朝の発注取り消しとなっているが、取り消しのタイミングについて運送予定時間の何時間以内、何日以内といったガイドラインはあるか。
不当な給付内容の変更(本法第5条第2項第3号)に該当するか否かは個別の事例ごとに判断することになり、一律の基準を設けることは困難であると考えております。 「長期間の待機」(No. 131を参照)、「具体的な荷待ち時間の目安」(No.165を参照)と同様、「一律の基準を設けることは困難」との理由から、基準は明示されなかった。

取適法以外でも、物流関係の規制の強化が相次いでいる。2025年4月1日から施行された改正物流効率化法により、すべての荷主(発荷主・着荷主)、連鎖化事業者(フランチャイズチェーン本部)、物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)に対し、物流効率化のための措置を講ずる努力義務が課されている。また、2026年度以降は、一定規模以上の事業者を対象に、中長期計画の策定や定期報告の義務化が予定されている(詳細は国土交通省「物流効率化法」理解促進ポータルサイトを参照)。さらに、貨物自動車運送事業法(いわゆる「トラック法」)も改正され、運送契約の締結時には、提供する役務の内容および対価(運賃、附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)を明記した書面の交付が義務付けられるとともに、下請事業者への発注適正化に関する努力義務が新設され、一定規模以上の事業者には管理規程の整備および責任者の選任が義務付けられた。これらの規制に、2026年1月に施行される取適法が加わることで、中小運送事業者や個人事業主を含む受託側事業者との取引の透明化と公正性を確保する枠組みが整備されたことになる。


改正物流効率化法 : 2024年5月に旧「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」が改正され、名称が「物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)」に変更された。

発注者(荷主)にとって、運送会社は単なる外部委託先ではなく、サプライチェーンを共に支える戦略的パートナーである。発注者には、運送会社との関係性を「収奪」()から「共存共栄」へと転換し、持続可能な物流エコシステムの構築を志向する姿勢が今まさに問われている。

 過去には、荷主が物流事業者に対し、荷主自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会者の派遣を求め、物流事業者はこれに応じたものの荷主がその費用を支払わなかった事例や、物流業務に附帯して物流事業者に輸入通関業務を委託したうえで関税・消費税の納付を立て替えさせ、物流事業者が荷主による直接納付を求めても応じなかった事例が問題になった。

2025/10/16 新TOPIX、ボーダーライン上の上場会社の浮動株時価総額は?

周知のとおり、TOPIX(東証株価指数)は日本の株式市場全体の動向を示す代表的な株価指数であり、日経平均と並んで広く利用されている。2022年の市場再編以降、東証はTOPIX構成銘柄の見直しを二段階に分けて進めている。第一段階では、流通株式の時価総額が100億円未満の銘柄のTOPIXへの影響を段階的に縮小し(2025年1月末をもって完了)、さらに第二段階の見直しとして、流動性基準に基づく定期入替え(後述)にも着手している。

第二段階の見直しの内容は2024年6月に公表されているが、その説明資料が2025年10月版に更新された。新たなTOPIX構成銘柄の選定・見直しの基準そのものに変更はないものの、2025年8月最終営業日を基準日とした各種の試算結果が追加されている。現在のTOPIX構成銘柄である上場会社にとっては、2026年10月に予定されている初回の定期入替において自社がTOPIX構成銘柄となるか否かを現時点で確認するには有用な情報となる。・・・

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2025/10/16 新TOPIX、ボーダーライン上の上場会社の浮動株時価総額は?(会員限定)

周知のとおり、TOPIX(東証株価指数)は日本の株式市場全体の動向を示す代表的な株価指数であり、日経平均と並んで広く利用されている。2022年の市場再編以降、東証はTOPIX構成銘柄の見直しを二段階に分けて進めている。第一段階では、流通株式の時価総額が100億円未満の銘柄のTOPIXへの影響を段階的に縮小し(2025年1月末をもって完了)、さらに第二段階の見直しとして、流動性基準に基づく定期入替え(後述)にも着手している。

第二段階の見直しの内容は2024年6月に公表されているが、その説明資料が2025年10月版に更新された。新たなTOPIX構成銘柄の選定・見直しの基準そのものに変更はないものの、2025年8月最終営業日を基準日とした各種の試算結果が追加されている。現在のTOPIX構成銘柄である上場会社にとっては、2026年10月に予定されている初回の定期入替において自社がTOPIX構成銘柄となるか否かを現時点で確認するには有用な情報となる。

ここで改めて第二段階の見直しの内容を確認しておこう。第二段階の見直しでは、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の全市場を対象に、TOPIX構成銘柄の選定・定期入替えが行われる。現在のTOPIXにもスタンダード市場上場会社が100社ほど含まれているが、これは旧東証一部上場銘柄が新TOPIXへの移行措置により残留したもの。今後は市場区分に関係なく、選定基準(下表の「継続基準」および「追加基準」)を満たせばTOPIX構成銘柄に採用される。

基準の種類 年間売買代金回転率 浮動株時価総額の累積比率
継続基準 0.14以上 上位97%以内
追加基準 0.2以上 上位96%以内


年間売買代金回転率 : 定期入替基準日が属する月以前直近12か月間の月次の売買代金回転率の合計。月次の売買代金回転率は「(日次の東証の売買立会での売買代金の中央値×営業日数)÷ 月末最終営業日の浮動株時価総額」により計算される。
浮動株時価総額の累積比率 : 「整理銘柄又は特別注意銘柄でなく、年間売買代金回転率の条件を満たす銘柄群において浮動株時価総額が大きい銘柄から累積した浮動株時価総額÷当該銘柄群の浮動株時価総額」の合計

初回入替は2026年10月の最終営業日より開始され、継続基準を満たさない銘柄については、2028年7月最終営業日までの約2年間をかけて、3か月ごとに段階的にTOPIXにおけるウェイトを低減する(対象は約650社)。同時に、追加基準を満たしたスタンダード市場およびグロース市場の上場会社が、新たなTOPIX構成銘柄に選定されることになる(対象は約50社)。

2027年10月には再評価を実施することになっており、その時点で継続基準を満たした銘柄についてはウェイト低減措置が停止され、TOPIXに残る(既に低減されたウェイトで固定される)。なお、ウェイトの低減分は、第2回以降の入替えで継続基準を満たしていれば、ウェイトの再計算によって回復するものとみられる。

第2回以降の定期入替は年1回実施される(毎年10月最終営業日)。上記のとおり初回入替は約650銘柄が削減されるという大がかりなもので、TOPIX連動型ファンドにおいては連動性を保つためのリバランスを図る大規模な売買が発生する。第2回以降はリバランスの必要性が低下するため、市場への影響は抑えられるだろう。


リバランス : 投資ファンドが運用方針に沿った資産配分を維持するために、保有銘柄の構成を調整すること。TOPIXに連動するファンドは、TOPIXの構成銘柄とその比率に合わせて株式を保有しているため、TOPIXの構成銘柄が大きく変わると、ファンドもそれに合わせて、 除外される銘柄の売却、新たに採用される銘柄の購入、比率が変わった銘柄の保有量の調整、を行うことになる。この一連の売買が「リバランス」である。

今回更新された資料には、初回入替を経た次期TOPIXの各種指標(2025年8月最終営業日基準)が掲載されている(下表)。浮動株時価総額の合計と市場カバー率はほとんど変わらない一方、浮動株時価総額および1日あたり売買代金の中央値は倍以上となり、その結果、銘柄数は600銘柄もの大幅な減少となる。

指標の種類 現行TOPIX 次期TOPIX
浮動株時価総額の合計 580兆円 573兆円
市場カバー率 約97.6% 約96.5%
浮動株時価総額の中央値 約455億円 約1,014億円
1日あたり売買代金の中央値 約3.2億円 約7.6億円
銘柄数 約1,700銘柄 約1,100銘柄


浮動株時価総額 : 上場時価総額に浮動株比率を掛け合わせた値。浮動株比率とは「浮動株(各企業の上場株式のうち、実際に売買される可能性の高い株式(上場株式から固定株(有価証券報告書に記載の大株主上位10名の保有株、自己株式、政策保有株式等)を控除したもの)をいう。
市場カバー率 : プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の全銘柄の浮動株時価総額の合計に占めるTOPIX構成銘柄の浮動株時価総額の合計の割合。
1日あたり売買代金 : 25年3月から8月までの6か月間の平均

上記の通り、スタンダードおよびグロース市場から新たに約50銘柄がTOPIXに採用される。すなわち、既存のTOPIX構成銘柄から約650社がふるい落とされる。これら約650社はTOPIX連動型ファンドのリバランスに伴い、2年間にわたって継続的な売り圧力に晒されることになる。

また、東証は今回の説明資料の更新とともに、浮動株比率一覧(2025年8月29日時点)も更新している。これを基に当フォーラムがTOPIX構成銘柄の浮動株時価総額を試算したところ、TOPIXに残れるかどうかのボーダーライン上にある1051番目(上表のとおり、銘柄数が1700→1100になる見込みであり、そのうち50が新規であるため、1050番目が既存銘柄のボーダーラインと想定)の銘柄の浮動株時価総額は約280億円だった。同社の浮動株比率は45%で、時価総額は約630億円となっている。継続基準には年間売買代金回転率もあり、浮動株比率だけでTOPIXからの除外が決まるわけではないが、自社がTOPIXを外れるか否かを判断するうえでの目安にはなるだろう。

リバランスによる株価下落は経営の安定性を損なうのみならず、アクティビストが付け入る隙にもなりかねない。TOPIXを外れる可能性のある上場会社においては、経営戦略の見直しやIR活動の強化などが喫緊の課題となろう。

2025/10/15 一部原則は廃止も CGコードの大幅見直しへ来週から議論再開

2021年6月以来5年ぶりとなるコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論が再開する。

2023年4月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 意見書(6)」では、コードの改訂時期について「必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく・・・適時に検討することが適切」とされたことから、2015年の制定以降、2018年、2021年と3年ごとに行われてきた改訂はしばらく行われないとみられていた。ところが、2025年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」の「4.企業価値の向上・コーポレートガバナンス」、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」(以下、アクション・プログラム2025)では、一転して見直しを行うことが明記されたのは既報のとおり。

今回のコーポレートガバナンス・コード改訂に関するニュース
・2025年6月11日「CGコード改訂の方向性
・2025年6月13日「同床異夢の中でスタートしたCGコードの改訂作業
・2025年7月3日「CG改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025、「案」からの変更点とその背景
・2025年8月19日「2025年秋の展望 同時並行で見直される「会社と株主」との関係

これまでコーポレートガバナンス・コードの改訂は「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で議論されてきたが、今後は「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、CGコードに関する有識者会議)という新たに設立した別の会議体で議論され、その第1回会合は2025年10月21日(火)に開催されることが決まった。21日開催としたのは、・・・

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2025/10/15 一部原則は廃止も CGコードの大幅見直しへ来週から議論再開(会員限定)

2021年6月以来5年ぶりとなるコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論が再開する。

2023年4月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 意見書(6)」では、コードの改訂時期について「必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく・・・適時に検討することが適切」とされたことから、2015年の制定以降、2018年、2021年と3年ごとに行われてきた改訂はしばらく行われないとみられていた。ところが、2025年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」の「4.企業価値の向上・コーポレートガバナンス」、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」(以下、アクション・プログラム2025)では、一転して見直しを行うことが明記されたのは既報のとおり。

今回のコーポレートガバナンス・コード改訂に関するニュース
・2025年6月11日「CGコード改訂の方向性
・2025年6月13日「同床異夢の中でスタートしたCGコードの改訂作業
・2025年7月3日「CG改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025、「案」からの変更点とその背景
・2025年8月19日「2025年秋の展望 同時並行で見直される「会社と株主」との関係

これまでコーポレートガバナンス・コードの改訂は「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で議論されてきたが、今後は「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、CGコードに関する有識者会議)という新たに設立した別の会議体で議論され、その第1回会合は2025年10月21日(火)に開催されることが決まった。21日開催としたのは、海外の投資家や資産運用会社などとのコミュニケーションの強化を目的に金融庁が主催するイベント「Japan Weeks 2025」のコア・ウィーク(イベントが最も集中して開催される期間)が10月20日から始まることを踏まえ、新政権が海外の機関投資家に対し「ガバナンス改革を継続していく」とのメッセージを打ち出す絶好のタイミングと見たからだろう。その意味では、連立政権からの公明党の離脱による現在の政局は政府にとって大いなる誤算だったものと思われる。

当フォーラムの取材によると、CGコードに関する有識者会議のメンバーは14名となる。アクション・プログラム2025を策定したフォローアップ会議の20名からメンバー数を3割絞ることで、「1人1回ずつ発言すれば終わりの発表会」と揶揄することもあったフォローアップ会議と異なり、ディスカッションが可能な人数になったと言える。

フォローアップ会議の座長は長らく神田秀樹東京大学名誉教授が務めてきたが、本年(2025年)のスチュワードシップ・コード改訂を前に昨年設けられた「スチュワードシップ・コードに関する有識者会議」(メンバー16名)では、神田教授の後継者と言われる神作裕之学習院大学法学部教授が座長がとなった。CGコードに関する有識者会議のメンバーにも神作教授が含まれるが、座長は翁百合 日本総合研究所シニアフェローが務める模様だ。従来の枠組みにとらわれない会議の運営が期待される。

今回のCGコード改訂で検討すべき論点としてアクション・プログラム2025は、①コードのスリム化/プリンシプル化、②経営資源の配分先には多様な投資があることの重要性、現状の資源配分の適切さの検証(例えば現預金の有効活用についての検証・説明責任の明確化)、③有価証券報告書の定時総会前開示、④取締役会事務局の機能強化、の4つを挙げている。第1回会合では、キックオフとしてこれら4つの論点全般について各メンバーからコメントを求めるとともに、コードのスリム化/プリンシプル化については、より突っ込んだ議論が行われるという。

コードのスリム化/プリンシプル化という論点は、元々は経済界からの「コーポレートガバナンス・コードの形式化、細則化が進んでいる」との批判を踏まえたもの。これに加え、日本のCGコードのモデルとなった英国CGコードの2024年改訂が、企業の報告負担を最小限に抑えつつガバナンスの質を向上させることを狙いとして実施されたことを受け、今般のコード改訂の柱の一つとして設定された。

「プリンシプル化」の考え方を示すものとして、2015年のCGコード制定時の「コーポレートガバナンス・コード原案」に付されていた「序文」を評価する声は多い(序文は2015年6月1日版 CGコードの「資料編」に掲載)。関西経済連合会は、2023年9月に公表した「コーポレートガバナンスに関する提言~マルチステークホルダー経営に支えられた新しい資本主義の実現に向けて」において、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨を説いた序文を追記すべきと提言している(6ページ参照)。今回の改訂で下記のような序文が改めて設けられるかは一つの焦点となる。

本コード(原案)は、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現することができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用している。「プリンシプルベース・アプローチ」は、(中略)その意義は、一見、抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)について、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断することにある。

一方、「スリム化」に向けては、経団連などは原則や補充原則などの“半減”を視野に、企業の意見を集めている模様。その背景には、今や「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象とすべきなのか疑問に思われる原則の存在がある。例えば以下の原則だ。

【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

この原則は、コーポレートガバナンスにおいて現在でも重要な考え方を示してはいるものの、上場会社からは「もはやコンプライするかどうかを問われる段階は過ぎている」との指摘がある。サステナビリティを巡る課題を具体的に例示した補充原則2-3①と併せ、CGコードが上場会社に求める姿勢などを一般論として示す部分に記載すれば足り、「原則」の形で残してコンプライ・オア・エクスプレインを改めて問う必要はないとの意見も聞かれる。

CGコードに関する有識者会議では、このような各原則の見直しに加え、章立てなども整理・見直ししたうえで、上記で示した4つの論点について検討を進め、来年・2026年6月版の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に成果を盛り込むべく、コードの見直しを進める方針だ。当フォーラムでは CGコードに関する有識者会議における検討内容をフォローし、お伝えしていく。

2025/10/14 買収アクティビズムの台頭

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

日本では“同意なき買収ブーム”が到来する一方で、世界的な潮流となっているのが、アクティビストとプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)がタッグを組む「買収アクティビズム(takeover activism)」だ。


プライベート・エクイティ・ファンド : 機関投資家や富裕層などの投資家から集めた資金を用いて、上場会社を買収して非公開化したり、非上場会社に投資したりするファンドである。経営に深く関与して企業価値を高め、数年後に株式売却や再上場で利益を得ることを目的とする。

買収アクティビズムとは、・・・

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2025/10/14 買収アクティビズムの台頭(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

日本では“同意なき買収ブーム”が到来する一方で、世界的な潮流となっているのが、アクティビストとプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)がタッグを組む「買収アクティビズム(takeover activism)」だ。


プライベート・エクイティ・ファンド : 機関投資家や富裕層などの投資家から集めた資金を用いて、上場会社を買収して非公開化したり、非上場会社に投資したりするファンドである。経営に深く関与して企業価値を高め、数年後に株式売却や再上場で利益を得ることを目的とする。

買収アクティビズムとは、アクティビスト・ヘッジファンドが投資する会社の株主総会で自らの推薦する取締役を選任するなどした後、PEファンドへの株式売却を通じて会社を非公開化する一連の活動をいう。例えば、医療用製品メーカーのホギメディカル(東証プライム)が2025年6月20日に開催した定時株主総会では、取締役3人の選任を求める株主提案の一部が可決され、同日付でアクティビストとして知られるヘッジファンドのダルトン・インベストメンツで最高投資責任者(CIO)を務めるジェームズ・ローゼンワルド氏が社外取締役に就任することとなった。同社は「今後は当社取締役会を構成する3人の独立社外取締役(監査等委員)と異なる立場から、当社の経営監督の一層の強化に尽力してもらえることを期待している」と表明したが、その僅か3か月後の9月18日、「非公開化」がリークされた。同社は「現時点で決定した事実はない」と否定したものの(同社のリリースはこちら)、実現の可能性は否定できない。

M&A研究所(Institute of Mergers, Acquisitions, and Alliances:スイスに本部を置く非営利のグローバルなシンクタンク)によると、米国における敵対的(同意なき)TOBの件数は1980年代末に急減し、1990年代半ばに一時的な回復を見せたものの、その後はほぼ一貫して減少傾向にある。

<米国における同意なきTOBの件数>
出所:Institute for Mergers, Acquisitions and Alliances
https://imaa-institute.org/mergers-and-acquisitions-statistics/
786791

一方、PEファンドによる友好的な買収の活発化が敵対的TOBの減少を補う形で、上場会社の非上場化を加速させている。また、下表のとおり、近年、アクティビスト・ヘッジファンドによる上場会社に対するキャンペーンは膨大な数に上っている。


キャンペーン : 企業の経営やガバナンスに影響を与えることを目的として行われるもので、例えば、配当の増加、取締役の選任・解任、企業戦略の変更等を求める「株主提案」、企業の経営陣に対して経営改善やガバナンスの強化を求める「公開書簡の送付」、新聞、テレビ、SNS等のメディアを通じて企業の問題点を公表し、世論を喚起することで企業に圧力をかける「メディアキャンペーン」、企業の経営陣との「直接対話」などがある。

<アクティビスト・ヘッジファンド1社あたりのキャンペーン数>
出所:Brav, A., Jiang, W. & Li, R. (2021), ‘Governance by persuasion: Hedge fund activism and market-based shareholder influence’.
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「買収アクティビズム」の収益性は非常に高く、今やPEファンドとアクティビスト・ヘッジファンドの関係は「共生関係(symbiosis)」あるいは「収斂関係(convergence)」と呼ばれるまでに深化している。

そもそもPEファンドとアクティビスト・ヘッジファンドがタッグを組むようになった背景には、「フリーライダー問題(free-riding)」と「情報の非対称性(asymmetric information)」がある。フリーライダー問題とは、買収者が会社の支配権を取得しようとする際に、他の株主は何もせずにその成果(株価上昇など)だけを享受するという“タダ乗り”構造が買収者側の投資インセンティブを下げてしまう問題をいう。一方、情報の非対称性とは、買収する側(ここではPEファンド)が会社の内部事情を知らないため、正確な企業価値を判断することが難しい状況を指す。そこで、まずアクティビスト・ヘッジファンドが買収対象会社の株式の一定比率を保有し、場合によっては買収対象会社に取締役を送り込むことで、買収対象会社の内部情報を入手する。次に、内部情報を分析したうえでPEファンドに売却する。これによりPEファンドは、いきなり同意なき買収を仕掛けた場合に比べて、少数株主の比率を下げる(タダ乗りを減らす)とともに、買収対象会社の企業価値に関する情報の非対称性を緩和することができる。

日本では同意なき買収への抵抗感がいまだ根強いが、今後は「買収アクティビズム」が日本でも急増する可能性がある。取締役会は、買収アクティビズムの台頭を現実的な脅威として認識し、ガバナンス体制の強化を含めた備えを講じる必要がある。

2025/10/10 「実質株主」を巡る改訂SSコードと現行法の矛盾

既報のとおり、2025年6月26日に確定した日本版スチュワードシップ・コード(第三次改訂版)では、原則4に新たな指針として「4-2」が追加され、実質株主の保有株式数を「説明すべき」とされたほか、投資先企業からの求めがあった場合の「対応方針」も公表すべきとされたところだ(2025年2月18日付ニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)。


実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。

ただ、この新たな指針が機能するかどうかについては懐疑的な見方も多い。株主サイドからは、「“実質株主名簿”に当たるプラットフォームを誰かが用意しないと実際には機能しない」「何段階さかのぼればよいのかなど実質株主の定義自体も難しい。コードに書いたからといって実務が動くものではなく、結局は法整備が必要」との声が聞こえて来る。こうした中、実質株主の開示を強く求める改訂スチュワードシップ・コードと現行法の矛盾を露呈することとなったのが、・・・

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2025/10/10 「実質株主」を巡る改訂SSコードと現行法の矛盾(会員限定)

既報のとおり、2025年6月26日に確定した日本版スチュワードシップ・コード(第三次改訂版)では、原則4に新たな指針として「4-2」が追加され、実質株主の保有株式数を「説明すべき」とされたほか、投資先企業からの求めがあった場合の「対応方針」も公表すべきとされたところだ(2025年2月18日付ニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)。


実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。

ただ、この新たな指針が機能するかどうかについては懐疑的な見方も多い。株主サイドからは、「“実質株主名簿”に当たるプラットフォームを誰かが用意しないと実際には機能しない」「何段階さかのぼればよいのかなど実質株主の定義自体も難しい。コードに書いたからといって実務が動くものではなく、結局は法整備が必要」との声が聞こえて来る。こうした中、実質株主の開示を強く求める改訂スチュワードシップ・コードと現行法の矛盾を露呈することとなったのが、東芝による有価証券報告書等の虚偽記載を巡る事件だ。

この事件は、海外機関投資家らが東芝に対し、有価証券報告書等に虚偽記載があったため「カストディアン名義」で取得した東芝株式の株価が下落して損害を被ったと主張して損害賠償を請求したもの。海外機関投資家らはまさに実質株主(非名義株主)に当たる。金融商品取引法は「有価証券報告書等に虚偽記載があった場合、その有価証券を取得した者は発行者に対して損害賠償を請求できる」としており(金商法21条の2第1項)、実質的に東芝株式を保有していた海外機関投資家らの損害賠償請求は認められて当然のようにも見えるが、裁判所の判断は違った。2023年12月21日の東京地裁判決、そしてその控訴審である2025年8月6日の東京高裁判決ともに、金融商品取引法上は「名義株主」が東芝株式を「取得した者」に当たるとの解釈を示したうえで、非名義株主(実質株主)は「取得した者」には当たらないため、東芝に対して損害賠償請求することは認められないと判断した。当フォーラムが入手した高裁判決によると、海外機関投資家らは「東芝株式のいわゆる実質株主として自己決定権を侵害されたから、東芝に対する損害賠償請求権を取得する」旨、「実質株主」という言葉を使って主張したが認められなかった。


カストディアン : 投資家の代わりに有価証券の保管・管理などの業務を行う金融機関

今回のスチュワードシップ・コード改訂による実質株主の開示強化は、意思決定者と直接対話できないという企業側の課題に基づいているが、東芝判決は、実質株主を明らかにしてその立場を安定させる法制度が株主にとっても必要であることを示したと言える。金融商品取引法上の「取得した者」の定義が変わらない限り、実質株主には損害賠償請求権がないという東芝判決と同様の判決が繰り返されることになるだろう。

一方、会社法おいては「実質株主確認制度」の創設に向けた検討が進んでおり、既に条文案も示されている(2025年9月5日のニュース「実質株主確認制度、アクティビスト等の議決権行使制限に現実味」参照)。当フォーラムの取材によると、そもそも今回のスチュワードシップ・コードの改訂による実質株主の開示強化は、法務省が会社法の改正に取り組むうえでの“条件”とされていたが、コード改訂が実現した以上、会社法の改正は確実に実現することになろう。そのうえで、「取得した者」の定義の見直しなど、金融商品取引法との関係も整理されることになりそうだ。

2025/10/09 株式譲渡契約上の義務と善管注意義務

企業の売却において売却価格や買収後の事業展開に大きな影響を与える重要な要素が、不動産の利用に関する制約だ。特に商業施設のように不動産が事業の中核を担っている場合には、その制約が売却の成否や条件を左右することになる。この制約を巡り、取締役の善管注意義務違反の有無が問われたのが、・・・

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