既報のとおり、(2021年)3月31日に開催された金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)の第26回会合に「コーポレートガバナンス・コード改訂案」(以下、CGコード改訂案)が諮られたところだが、今回改訂された17原則のうち、「中長期的な持続可能性」がともに今回の改訂のメインテーマとなったのが、「取締役会の機能発揮」だ(2021年4月1日のニュース『速報・CGコード改訂 プライム市場向け特則は「独立性の向上」と「情報開示の充実」で各3原則』参照)。今回の改訂に向け昨年秋に再開したフォローアップ会議では比較的前半に議論されたテーマであり、12月18日に公表された意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」(以下、意見書(5))で既に論点が整理されていた。以下、今回改訂された「取締役会の機能発揮」に関する原則・補充原則について解説する。
原則4-8 独立社外取締役の有効活用
| 現行 |
改訂 |
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。 |
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。
また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。 |
プライム市場の上場会社に対し、独立社外取締役の3分の1選任が実質的に義務付けられ(3分の1未満の場合はエクスプレイン)、さらに「必要と考える」会社では過半数とすべきとの内容は意見書(5)と同じであり、想定内の改訂と言える。
ただ、フォローアップ会議で独立社外取締役の過半数の選任を求める意見が相次いだことを勘案すると、ここで改めて考えておきたいのが、「過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社」とは何かという点だ。例えば以下のような観点から「必要と考える」会社かどうかを判断することが想定される。
業種・・・グローバル展開していること
規模・・・時価総額が大きいこと
事業特性・・・迅速・果断な意思決定が必要なこと
機関設計・・・指名委員会等設置会社であること
会社を取り巻く環境・・・不祥事等により、投資家から厳しい視線が注がれていること
補充原則4-10① 独立した指名・報酬委員会
| 現行 |
改訂 |
| 上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。 |
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきである。
特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。 |
本改訂補充原則は「独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合」に適用されるものであり、独立社外取締役が過半数いる監査役会設置会社または監査等委員会設置会社には適用されない。もっとも、指名委員会等設置会社では指名・報酬委員会の設置が法定されていることに鑑みると、基本的には全ての上場会社が両委員会を設置することが望ましいと言える。
今回の改訂では、カッコ書きにより指名委員会の機能の一つに「後継者計画」があることが示された。指名委員会で後継者計画について審議していない場合や、そもそも後継者計画が策定されていない場合には、本改訂補充原則についてエクスプレインすることは避け難いだろう。
また、指名・報酬委員会には「ジェンダー等の多様性やスキルの観点」が必要とされた。特に指名委員会における役員の選任議論においては、ダイバーシティの促進や(スキル・マトリックスを活用するなどして)スキルの組み合わせを意識する必要がある。
さらに、プライム市場向けの特則として、「独立社外取締役を過半数とすること」が基本、とされた。ここで注目したいのは「基本」という文言だ。「基本」という以上、仮に各委員会の構成員の過半数が独立社外取締役でなかったとしても、必ずしもエクスプレインが求められることにはならないと考えられる。例えば独立社外取締役と社内取締役が半数ずつで、委員長は独立社外取締役というケースなどはコンプライすることも許容され得るだろう。
ただし、本特則ではプライム市場上場会社に対し、①委員会構成の独立性に関する考え方、②権限・役割等、を開示することを求めている。すなわち、本特則はいわゆる開示原則(*)に該当し、コーポレートガバナンス報告書にこれらの事項を記載しなければならない。①は各委員会の過半数が独立取締役であることや、過半数には達していないものの独立性を確保できている理由など、②は指名委員会であれば後継者計画を含むこと、報酬委員会であれば報酬体系の策定に関与すること、などが記載内容として考えられる。
* 現行CGコード上は以下の11の原則が開示原則に該当する。
・原則1‒4 政策保有株式
・原則1‒7 関連当事者間の取引
・原則2‒6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
・原則3‒1 情報開示の充実
・補充原則4‒1① 経営陣に対する委任の範囲
・原則4‒9 社外取締役となる者の独立性判断基準および資質
・補充原則4‒11① 取締役会のメンバーのバランス・多様性・規模に関する考え方と取締役の選任に関する方針・手続き
・補充原則4‒11② 社外役員の兼任状況
・補充原則4‒11③ 取締役会全体の実効性についての分析・評価
・補充原則4‒14② 取締役・監査役に対するトレーニングの方針
・原則5‒1 株主との建設的な対話に関する方針
補充原則4-11 取締役会の多様性
| 現行 |
改訂 |
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法律に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。 |
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法律に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。 |
取締役会が備えるべき多様性として、現行CGコードに規定されている①ジェンダーと②国際性に加え、③職歴と④年齢が新たに追加された。このうち③職歴は、冒頭で挙げた原則4-8【独立社外取締役の有効活用】が求める割合(3分の1)の独立社外取締役を選任すれば、自然と確保できることもあろう。一方、④年齢は意識的に年齢層を分散させる必要があり、例えば全員が60歳以上であるような場合には、エクスプレインを検討するべきと考えられる。
なお、フォローアップ会議では「女性取締役の選任(1名など)を義務付けるべき」などの意見も出たが、CGコード改訂案には盛り込まれなかった。数値基準が独り歩きすることで「1名だけいればよい」といった意識が生じることを懸念したものと考えられる。ちなみに、「投資家と企業の対話ガイドライン」(現行および改訂案)は「取締役として女性が選任されているか」を「重点的に議論することが期待される事項」に挙げている(3-6)。
補充原則4-11① 取締役会の多様性の開示
| 現行 |
改訂 |
| 取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。 |
取締役会は、事業戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。 |
本改訂原則では、取締役会の構成に関する考え方を「事業戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定」して定めること、すなわち、一般論等ではなく、自社戦略に紐づく独自性の伴った方針を「取締役の有するスキル等の組み合わせ」として開示することが求められている。
具体的な開示方法として、スキル・マトリックスが挙げられているが、「スキル・マトリックスをはじめ」という表現からは、スキル・マトリックスはあくまで例示であって、スキル・マトリックス自体の開示は必須ではないとの解釈もできるが、「例えばスキル・マトリックスなど」といった緩和表現ではなく「はじめ」という強調表現が使用されていることを踏まえれば、本改訂原則をコンプライしていると言えるには、少なくともスキル・マトリックス同様の情報量を提供することが求められよう。
また、本改訂原則には、独立社外取締役に「他社での経営経験」を求める内容も含まれている。企業経営者(もしくは企業経営経験者)である独立社外取締役がいない場合には、エクスプレインを検討すべきである。なお、3月31日に開催されたフォローアップ会議における説明資料には、他社での経営経験について「CEO等の経験者に限られるという趣旨ではない」との注記がある(2ページ下部参照)。例えば副社長、CFOなど、経営トップでなくても「他社での経営経験を有する者」に該当すると考えられる。
補充原則5-1① 対話における面談者
| 現行 |
改訂 |
| 株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべきである。 |
株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役、または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである。 |
面談の対応者としての「社外取締役」について、今回の改訂によりカッコが外されたことで、より必要性が強調された形となっている。もっとも、その前後には「合理的な範囲で」および「基本とすべき」との緩和表現は現行CGコードのまま残されていることから、現状は社外取締役による面談を実施していなくても必ずしもエクスプレインとしなくてもよいと考えられる。なお、CGコード改訂案とともに明らかにされた「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂案では、面談の対応者に関する適切な取り組みとして「筆頭独立社外取締役」の設置を例示している(2021年4月2日のニュース「改訂対話ガイドラインの位置付け」参照)。
また、面談の対応者として新たに監査役が追加された点も注目される。今回の改訂には「監査の信頼性の確保」に関するものも含まれており(改訂補充原則4-3④、改訂原則4-4、改訂補充原則4-13③参照)、監査の実効性を高める観点から監査役に対する期待が高まっていることが背景にあると言えそうだ。